常識改変プロデューサーとアイドル 作:湯けむり桶
五月の連休、世間がゴールデンウィークの喧騒と行楽の喜びに沸き立つ中、今日の事務所の中は外の賑わいが嘘のように静まり返っていた。青く晴れ渡った空には心地よい風が吹き抜け、街中には楽しげな家族連れや恋人たちの姿が溢れているだろう。
しかし、所属するアイドルたちはそれぞれの営業や全国各地のイベント、あるいは地方局の特番収録へと元気よく出払い、残された俺は溜まりに溜まっていた煩雑なデスクワークを一つずつ片付けるべく、一人パソコンの無機質な画面と向き合っていた。
カチャカチャという乾いたタイピング音だけが、高い天井に虚しく響く室内。午後の柔らかな日差しがブラインドの隙間から差し込み、宙を舞う微細な埃のダンスを黄金色に照らし出している。視界の端で進行度を示すバーが右へ動くのを眺めながら、ようやく一区切りつき、凝り固まった身体をほぐすように背もたれに大きく体重を預けた、その時だった。
「プロデューサーさん、お疲れ様です。ちょうど良いタイミングで一段落したようですね」
聞き慣れた、いついかなる時も安心感を与えてくれる柔らかな声と共に、デスクの隅に湯気を立てる芳醇な香りのコーヒーが静かに置かれた。
「ああ、ありがとう、ちひろさん。本当に助かるよ、ちょうど喉が渇いていたんだ」
俺は感謝を伝えながら、意識をリフレッシュさせようとカップを手に取り、何気なく労いの言葉をかけようと彼女の方を向いた。
「…………ッッ!!?」
次の瞬間、口に含んだばかりの熱いコーヒーを、危うく盛大に吹き出しそうになった。自制心を総動員してなんとか飲み込んだものの、気管に入りかけた刺激に激しくむせ返ってしまう。視界に飛び込んできた光景があまりにも現実離れしていたからだ。
「あらあら、大丈夫ですか? そんなに慌てて飲まなくても、お代わりはたっぷり用意してありますから」
心配そうに駆け寄り、俺の背中を優しくさすってくれる千川ちひろ。だが、俺が心の中で「大丈夫ですか」と問いかけたいのは、目の前にいる彼女のあまりにも常軌を逸した格好の方だった。
いつもの清潔感あふれる、プロフェッショナルな事務服はどこへ消えたのか。今、彼女がその身に纏っていたのは、事務所の照明を反射し眩い光沢を放つ黄金のビキニ一点張りだった。
長年の事務作業やアイドルたちのサポートで鍛えられたその肢体は、驚くほど豊満でありながら無駄がなく、露出した白い肌が黄金の生地との鮮烈なコントラストで浮き彫りになっている。ビキニの紐は彼女の豊かな曲線を強調し、動くたびに黄金の布地が肌を滑る様子は、見る者の理性を容易に奪うほどの破壊力を持っていた。
「ち、ちひろさん。大丈夫ですかと言いたいのは俺の方ですよ。その、なんというか……その格好、一体どうしたんですか? まさか、これが新しい制服だなんて言いませんよね?」
「ふふっ、これですか? せっかくの『黄金週間』ですから、私もアシスタントである前に一人の女の子として、少しだけ浮かれて金ビキニになってみたんです。この事務所のシックな事務机の色や、夕日の光とも意外にマッチしていて、私個人としてはとても落ち着くんですよ? それに、プロデューサーさんの疲れを癒やすには、これくらい華やかな方がいいかな、なんて」
事もなげに、金色のビキニに包まれた胸を揺らしながら、まるでお気に入りのスカーフでも選んだかのような口調で微笑む彼女。一瞬、俺の持つ常識改変の能力が、疲労のあまり無意識に暴走して「事務服=金ビキニ」という定義に書き換えてしまったのかと疑った。しかし、すぐに思い直す。この人は、時折こういう大胆なコスプレや、常識の枠を超えた悪戯を主に自分の趣味や企画のノリ、あるいは特別なキャンペーンのために楽しむ、非常に茶目っ気のある女性だった。
「そうですか……。いや、驚きましたが、驚くほどよく似合っています。ちひろさんなら、今からでもアイドルとしてステージのセンターに立てるんじゃないですか? むしろ、今すぐデビュー会見を開くべきかもしれません」
「うふふ、プロデューサーさんにお褒めいただけるなんて光栄です。でも私は、こうしてあなたを特等席で支え、二人きりの時間を共有できる今の仕事が、何よりもお気に入りなんです」
冗談を交わしながら、コーヒーの香りに落ち着きを取り戻して彼女を観察していると、ふと、その柔らかな微笑みの奥に隠された微かな「陰り」に気づいた。透き通るような白い肌の目の下に、微かに浮き出たクマ。連休中、全アイドルの過密なスケジュール調整、予期せぬトラブルへの即応、山のような書類の手配や外部との折衝。お疲れなのは、プロデューサーである俺以上に、すべてのバックアップを完璧に、そして平然とこなしてきた彼女の方だったのだ。
俺は椅子から立ち上がり、彼女の華奢な肩にそっと手を置いた。
「ちひろさん。本当にお疲れなのは、むしろあなたの方だ。ずっと無理をさせてしまいましたね。……少し、俺が癒やしてあげますよ。これはプロデューサーとしての、ささやかなお礼です。」
俺は密かに能力を発動させた。指先から温かな黄金の光が伝わるように、疲労除去の概念を彼女の身体へと丁寧に流し込んでいく。蓄積された肉体的な重み、精神的な摩耗、そして細胞の隅々に淀んでいたすべての疲れが瞬時に溶け去り、彼女の身体が爆発的な活力を取り戻していくのが手に取るようにわかった。
「あ……っ。不思議な感覚です……。なんだか、急に身体が羽のように軽くなって……。全身に、今まで感じたことがないような元気が、熱い力が湧いてくるみたいです。視界も、こんなに明るくなるなんて……」
ちひろさんの顔色がみるみるうちに鮮やかになり、瞳に宿る熱量と輝きが劇的に増していく。しかし、その劇的な回復は、単なる健康的な元気だけをもたらしたわけではなかったようだ。肉体的な疲労という抑制が完全に外れた彼女の心には、普段は事務机の引き出しの奥に隠しているはずの、俺に対する独占欲と情熱が濁流のように溢れ出していた。
彼女はおもむろに、俺の右手をその小さな、だが驚くほど力強い手でぎゅっと握りしめた。その掌の熱さが、彼女の覚醒を物語っている。
「プロデューサーさん。ちょうど案件も一段落つきましたし……アイドルたちがそれぞれの仕事から帰ってくるまで、まだ数時間はたっぷり時間がありますね。ええ、十分に、余裕がありますね。」
「ちひろさん……?何だか、急に雰囲気が変わりましたね。その、目が座っているというか……」
「今だけは、鬼事務員とプロデューサーという公的な関係はお休みです。誰もいないこの場所で、私だけのプロデューサーさんになってくださいね。これは、私から自分自身への、最高のご褒美なんです。いつも頑張っている自分を、甘やかしてあげたいんです」
いつになく積極的な、そして一度狙った獲物は決して逃さないという狩人のような、妖艶で強い意志を込めた微笑み。ちひろさんはそのまま、抗う隙も与えない足取りで俺の手を引き、有無を言わさぬ強引さで仮眠室へと連れ込んだ。彼女の歩みに合わせ、黄金のビキニがしなやかに揺れ、背徳的な香りが廊下に漂う。
バタン、と重厚なドアが閉まり、カチリと鍵が掛けられる音が静かな室内に無機質に響く。
黄金のビキニに身を包んだ「最強の事務員」は、俺をベッドへと押し倒すと、蓄積されていたすべての独占欲と、疲労除去によって溢れ出した情熱のすべてを搾り取るべく、熱い吐息と共に覆い被さってきた。
「ふふ、覚悟してくださいね? 私のスタミナは、今、MAXなんですから。癒してくれると言うお言葉に甘えて、事務作業のように、隅々まで丁寧に、徹底的に……プロデューサーさんを使い込んであげます。大丈夫です、ドリンクならいくらでもおねだりしてください♪」
静寂に包まれた事務所の奥で、二人だけの、文字通り黄金色に輝く濃厚で甘美な密会が、今幕を開けた。