常識改変プロデューサーとアイドル 作:湯けむり桶
「プロデューサーさん、文香さん、いってらっしゃい! お仕事、頑張ってくださいねっ☆」
346プロダクションの事務所の入り口で、安部菜々は満面の笑みで二人を見送りました。
隣に立つ鷺沢文香は、いつものように静かに会釈をし、プロデューサーの半歩後ろを歩いていきます。その姿は、有能なアイドルとプロデューサーという関係を超えて、どこか長年連れ添った夫婦のような落ち着きすら感じさせました。
菜々は、二人の背中が見えなくなるまで手を振り続けましたが、その胸の中には小さなザワつきがありました。
(……プロデューサーさんにとって、文香さんは初めて担当した特別なアイドル。だから、接し方が少し違うのは当然ですよね。……でも、)
菜々は何度も目にしています。
デスクの下で、あるいは移動中の車内で、文香が「アイドルとして当然の義務」という顔をしながら、誰よりも献身的に、そして情熱的にプロデューサーに奉仕している姿を。
常識が書き換えられたこの世界では、それは何ら不思議なことではありません。
けれど、菜々の「女の勘」――そして「ウサミン星人の直感」が囁くのです。文香のあの蕩けるような眼差しや、プロデューサーに触れる際の手つきには、義務感だけではない、もっと深い、並々ならぬ執着と愛情が混ざっているのではないかと。
「……うふふ。菜々だって、負けてられませんよっ!」
菜々はギュッと拳を握りしめました。
もし、あのクールな文香さんが「アイドル」という枠を超えて彼を狙っているのだとしたら、自分だって全力で迎え撃つまでです。
彼女は事務所の更衣室に駆け込み、秘密の袋を取り出しました。
中に入っているのは、以前バイトで着ていたフリルたっぷりのメイド服。
「アイドルは、プロデューサーさんのために常に最高の癒やしを提供するもの。それなら、今の私の『アイドル活動』はこれですね!」
数時間後――。
仕事を終え、一人で事務所に戻ってきたプロデューサーの耳に、聞き慣れた、しかし一段と気合の入った声が飛び込んできました。
「お帰りなさいませ、ご主人様……っ! いえ、プロデューサーさん♡」
そこには、黒いパフスリーブに長袖、ピナフォアに黒の短いスカートから自慢の脚を大胆に露出したメイド姿の菜々が待っていました。
「お仕事、大変でしたよね? 今日の締めくくりに、ウサミン特製の『ご奉仕』はいかがですか? ウサミン、今日は朝まで……、腰を痛める覚悟で頑張っちゃいますよっ!」
頬を赤らめ、上目遣いでプロデューサーの腕に抱きつく菜々。
彼女の瞳には、文香への対抗意識と、プロデューサーへの隠しきれない独占欲が、熱く、甘く渦巻いていました。