戦記エロゲーの最強悪役貴族に転生したので暴虐のかぎりを尽くそうと思ったのに、なぜかヒロインたちに激重感情を抱かれるようになった 作:佐間野 隆紀
飽きるまで肌を重ね合い、互いに身を寄せ合いながらベッドの上で何度目かの小休止を取りはじめるころには、窓から差し込む日差しもすっかり陰りつつあった。
俺はもう精も根も尽き果ててぼんやりと天井を眺めるばかりだったが、そんな中、システィナがゆっくりと寝返りを打ちながらこちらに顔を向けてくる。
「わたしに、名前を与えてはいただけませんか……?」
そんなことを言い出す彼女の顔は、今や憑きものさが取れたように穏やではあったが――。
(おいおい、なんだこの展開は……)
一方で俺はというと、またしても本来のシナリオと大きく異なる展開を迎えつつあることに焦りを感じていた。
「名前だと?」
とはいえ、それを表に出すわけにもいかず、あくまでもイェルバウトの仮面を被ったまま訊き返す。
たとえシスティナがその聡明さで俺の胸の内を見透かすことができたとしても、この仮面を外すことだけはできなかった。
俺の正体を知る者が彼女だけで済んでいるうちはいい。
だが、曲がり間違って臣下の者にでも知られてしまえば、イェルバウトのカリスマと強権によって成り立っていたこの地の秩序はきっと瞬く間に崩壊してしまう。
自分自身の命運のみならずシスティナを守るという意味でも、俺は『狂君イェルバウト』として振る舞い続けなければならないのだ。
「聖騎士システィナは、今日をもってその生涯を閉じました。ここにいるのは、ラコーツ辺境伯に忠誠を誓う名もなき騎士でございます」
そんな俺の焦燥を知ってか知らずか、システィナはまっすぐに俺の目を見つめながら告げてくる。
初めて顔を合わせたときの生気のなさが信じられないほど力強いその視線に、油断しているとこちらのほうが圧倒されてしまいそうだった。
(いや、別にそこまでしてくれなくってもさ……)
そして、いよいよ俺の混乱も極致に達しようとしていた。
確かにシスティナに対して情を見せたのは事実だが、それにしたってここまでの極端な変化を引き起こすのは想定外もいいところだ。
勢いに任せて告げた「俺のものだ」という言葉だって、危険が及ばないよう手の届くところにおいておくといった程度のものでしかない。
それがまさか忠誠を誓うだのなんだのと言い出すくらいガツンとシスティナの心を掴んでしまうなんて、誰が想像しただろう。
とはいえ、ここで日和ってしまっては、それはそれでイェルバウトの仮面に傷が入りかねなかった。
そもそもこのような状況に陥ってしまった以上、今後も本来のシナリオには存在しない展開に巻き込まれる可能性は大いにある。
もはやゲーム知識だけに頼っていられる状況ではなくない。アドリブ力が試されるときがきてしまったのだ。
(考えろ……とにかくなにか、打開の道を……)
俺は必死に脳をフル回転させ、とにかくこの場をそれっぽい感じにうまく切り抜けられない方法がないか思索する。
——と、そのとき、格子窓の向こうにこの世界の夜空に浮かぶ二つの月が見えた。
青白い輝きを放つ大きな月と、それに寄り添うように浮かぶ金色の小さな月だ。
実際のゲーム上では背景イラストとして幾つかのシーンで描かれていただけで、特にシナリオ上で月に関するエピソードが言及されたことはなかったように思う。
満ち欠けしている様子もなく、どちらの月も常にまん丸だった。
この世界にそういった概念が存在しないのか、あるいは単に背景素材として使いまわしていただけなのかは分からないが――。
「ルナニア……」
ふと、そんな単語が口を突いた。
「ルナニア」
システィナが静かに反芻する。
俺はしばし黙考し、そのまま言葉を続けた。
「異邦の言葉で『月に寄り添う者』という意味だ。同時に花の名でもある。おまえのような美しい娘には相応しい名だろう」
Lune Near——我ながらなかなかに小洒落た名前ではなかろうか。
「素敵なお名前ですね……」
システィナはうっとりとした様子でそう呟いたあと、俺の視線を追うようにその顔を窓のほうへと向けた。
「あなたという大きな月に寄り添う小さな月……これからは、このルナニアがその御身を護る盾となり、ともに戦う剣となりましょう」
まるで詩でも唄うかのようにそう告げると、再びその視線を俺のほうへと戻してくる。
「イェルバウトさま、わたしのすべては、あなたのために……」
そして、そのままゆっくりと顔を寄せてきたかと思うと、まるでさも当然というような自然さでそっと唇を重ねてきた。
いや、我ながらよいアドリブができたとは思うんだけど、なんか恋愛ゲームみたいになっちゃってないか、コレ……。
第二章を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
引き続き第三章をお楽しみください。
まだお気に入りや評価をされていない方は↓↓↓からしていただけますと励みになります。