エロシーンがあります?
近親が嫌な方は避けて下さい。
バイオリンを弾く手を止めて若い女が振り返る。少しきつめではあるが美しい面立ちに整った容姿、参観日に学校にでも来れば目立って目立って仕方のないこの女の名前は
「何だ。お前ら帰ってたのか」
相変わらずの水輝の口調にひきつりながら、伊吹は隣の青藍の脇腹をつついた。
「あっ、うん! えっと、クッキーを焼いたから一緒に食べようと思って!」
焦った早口で青藍が言う。すると水輝はぱっと顔をほころばせた。
「おお、気が利くじゃねえか。ちょうどなにかつまみたいなー、と思って……なんだ?」
二人は申し合わせたように水輝に駆け寄り、いいからいいからとソファに促した。背を押された水輝がおいおいと苦笑しつつもソファに座る。
黙っていれば絶世の美女、口を開けば飛び出す男言葉。年若く見える水輝という名のこの女性は紛れもなく伊吹と青藍の母親だ。ちなみに伊吹と青藍は双子の兄弟だが、二人はこの水輝と父親のそれを混ぜたような顔立ちをしている。だが浮かべる表情や性格などから伊吹はどちらかと言えば水輝に、そして青藍は父親に似ていると言われている。
「へえ……。青藍は相変わらず器用だなあ」
「何で俺じゃなくて青藍なんだよっ!」
「んなの、見りゃ判る」
クッキーをつまんでからからと笑った水輝を睨み、伊吹は膨れ面をした。いや、笑っていられるのも今の内だ。そんなことを思いながら伊吹は素早くドアにとって返し、廊下に用意しておいたワゴンを部屋に運び入れた。
「お? 茶まで淹れてくれるのか。伊吹のくせに気色悪いなあ」
「やかましい!」
青藍は緊張しきっているのか、テーブルを挟んで水輝と向かい合わせに座り、膝の上に手を揃えて微動もしない。青藍の様子をうかがいつつ、伊吹は慌ただしく茶を淹れた。
「ど、どーぞ」
「……お前なあ。もうちょっと落ち着いて淹れろよ。茶が零れてるだろが」
呆れた顔で文句を言ってから水輝がソーサーごとカップを受け取る。緊張に身を強ばらせて伊吹はそそくさと水輝の隣に腰掛けた。
「ま、ありがとな。うん、ちゃんと美味いぞ。えらいえらい」
茶を一口飲んで水輝が伊吹の頭を乱暴に撫でる。子供扱いすんな、といつものように怒鳴りかけて伊吹は慌てて自分の口を手で覆った。あと少し。あと少しの辛抱で水輝はきっと酔っぱらうに違いない。何しろさっきの茶には大量のブランデーが入っているのだ。
「どーでもいいが、おれはこの程度のアルコールじゃ酔わないぞ」
まるで伊吹の思考を読んだようなタイミングで水輝がせせら笑う。なにい、と喚いて立ち上がった伊吹を水輝が笑いながら見る。
「話したことなかったか? 昔は駄目だったんだがな。働いてるうちに慣れちまったって」
「きいてねえ!」
自分たちはすこぶるアルコールには弱い。菓子の類に入っているちょっとした洋酒にでも酔えてしまう。だからきっと水輝も同じようにアルコールには弱いだろう。そう踏んでいた伊吹は頭を抱えてしまった。
よく考えたら水輝は自分たちとは少し違うのに。頭を抱えてしゃがみ込んだ伊吹を水輝が容赦なく笑い飛ばす。
「なーに考えてるかは知らねえが、おれを嵌めたいならもっとアイディア捻ってこい」
「くそう! こうなったら実力行使!」
「お?」
がば、と立ち上がった伊吹は力任せに水輝をソファに押し倒した。男言葉で話していても水輝も女だ。伊吹も青藍ももう十五になった。力ではかなわないだろうし、押し倒して触りまくれば。
そんなことを考えていた伊吹は唐突に身体の動きを止めた。
「ほら、どうした。来いよ」
「うっ」
「に、兄さん、もう止めようよ」
泣きそうな声で青藍が言う。そちらをちらりと伺ってから伊吹は水輝に向き直った。薄化粧すら必要のない綺麗な顔が目の前にある。形のいい唇が笑いの形になっている。あと少し。ほんの少し身体を屈めるだけで簡単に水輝の唇を塞げるのだ。だが伊吹はそこで硬直してしまった。
「何だ。青藍もグルか? お前らはよくよくおれを飽きさせなくて楽しいよなあ」
「ううううう」
低い声で呻いて伊吹は唇を噛んだ。完全にバカにされている。そのことは判るのだが、どうしても水輝の唇を塞げない。だが、別に口づけしなくても水輝がめろめろになればいいのだ。伊吹は自分の考えに頷いて身を屈めた。
「お?」
耳まで真っ赤になって伊吹は水輝の首筋に吸い付いた。面白がるような声を上げた水輝が首を少し傾ける。吸いやすいようにしてくれた、ということはその気になってくれたのかと思った伊吹は、次の瞬間、全身を強ばらせた。
「うああ」
「ばーか。おれを押し倒そうなんざ百年はええよ」
耳許に聞こえる水輝の声にぞくりとしたものを感じた伊吹の身体から力が抜ける。水輝はのし掛かった伊吹の股間を片手で弄っていた。
「女の一人でもしっかりやってから来いよ……おー。元気元気」
器用に片手で伊吹の男根を服の中から引っ張り出し、水輝が笑う。
「兄さん! しっかりして!」
「うう、俺はもう駄目だ……あとは頼む。がくっ」
「やだよ!」
青藍の泣き声を聞きながら伊吹は初めての感覚に身を任せていた。口ではふざけたことも言えるのだが、身体が思うように動かない。やがて伊吹は逆に水輝に押し倒された。舌なめずりをした水輝が伊吹の男根を口に含む。その瞬間、痺れに似たものを感じて伊吹は掠れた声を上げた。
「あああ、兄さん」
情けない声を漏らして青藍が力なく首を振る。だがその青藍の足はがくがくと震えていて、この場から逃げられないらしい。横目にちらりと青藍を眺め、伊吹は口許に淡い笑みを浮かべた。
「すっげー気持ちいいぞー、青藍」
「駄目だよ! それじゃ研究にならないでしょ!?」
「さすがに限界早いなあ。もう出そうだ」
くすりと笑った水輝が舌先で伊吹の男根の先をつつく。その途端に伊吹は甘えた声を漏らして射精した。精液を喉を鳴らして飲み込んだ水輝がゆらりと立ち上がる。伊吹はあまりの快感に起きあがれなくなっていた。
「次はお前だ、青藍。覚悟しろよ」
不敵な笑みを浮かべて水輝がテーブルを乗り越える。
「うわあん! 兄さんのばかー!」
「うりゃ! 大人しくしやがれ!」
「やだあ! おかあさーん! たすけてー!」
「馬鹿野郎! 母親はおれだ!」
一回戦、敗北。
むすっとした顔をして研究日誌を書く伊吹の傍では青藍がさめざめと泣いていた。
「どうして兄さんってこう、次から次に変なこと考えつくんだよ! ああ、ぼくの貞操が」
「別にふ、ふぇ、フェラチオくらい、その、貞操がどーとかの内には入らん!」
言いながら赤くなった伊吹はふん、とそっぽを向いた。これからの計画を練るために今日は青藍が伊吹の部屋に来ているのだ。
「兄さんは汚れてるから判らないんだよ! ううっ、可哀想なぼくのおちんちん」
「よっ、汚れ!?」
「そう! 兄さんの思考は汚れてる! だって普通、研究目的に自分のお母さんを押し倒そうとか、その……ええと……」
勢いよく伊吹を罵倒していた青藍が急に言葉を濁らせる。言わんとしていた意味を察した伊吹は耳まで真っ赤になった。歳の割に、二人ともこれまで恋愛などを一つもしたことがなく、当然ながら女の子ともよろしくしたことがないのだ。
「あの、えっとだな。でもほら、お前も気になるだろ?」
セックス、という単語をどうしても口に出来ず、伊吹は話を意図的に逸らした。なにがだよ、と拗ねた顔をして青藍が呻く。
「淫魔だよ。辞書にも載ってるのに」
そう言いながら伊吹は身体をずらし、画面に辞書を表示させた。不服そうな顔をしつつも青藍が机に寄る。
淫魔。それは世にはびこる魔の俗称でもある。辞書にも載るほどの単語ではあるのだが、その実、淫魔についての説明はごく少ない。人の世界を脅かす驚異的な力を持つモノ。どんな辞書を見ても載っているのはその程度だ。
だが現実に世界中では魔を排除するための戦いが繰り広げられている。なのに魔の情報は驚くほど少ないのだ。
「確かにそうだね。ネットで検索しても引っかからないし」
手早く端末を操作した青藍が頷く。そうだろ、と呟いて伊吹は頭をかいた。だよね、と答えて青藍が難しい顔をして腕組みをする。
「情報操作はされてると思うよ。ただでさえ戦争とか起こってるみたいだしね」
「ああ。父さん辺りをつつけば情報は出そうだが、あの人は絶対に喋らないだろうしな」
急に真面目な面持ちになって伊吹は頷いた。ふと見やると困ったような顔をしている青藍と目が合う。
「……何か変だよね。お母さんに訊けばいいのに、ぼくら、いつもその話はしないようにしてるし」
「ま、訊いてもはぐらさかれそうだけどなー」
力なく答えて伊吹は行儀悪く椅子を揺すった。危ないよと苦笑して青藍が元通りに床にぺたんと座る。
「もしかして兄さん、お母さんを助けたいと思ったの?」
父親譲りの優しい笑みを浮かべて青藍が言う。一瞬、答えに窮してから伊吹は咳払いをして胸を張った。
「バカを言え。母さんはなにかあっても自分で何とかするだろ」
「またまた。実は兄さん、マザコンだもんね。……まあ、ぼくもだけど」
「違う! 断じて違うぞそれは! 俺はただ単に!」
声高に言って伊吹は勢いよく立ち上がった。無理やり上げた足を机にだん、と乗せる。
「えっちなことに興味津々なだけだ!」
「素直だけど感心出来ない」
呆れた顔で言う青藍にうるせえ、と喚いて伊吹はそっぽを向いた。