※この作品はR-18です。

ビルドファイターズ・レイヴン   作:コウサカさんちのコーヒー

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1:プラスチックの玩具が戦う世界。

「くそっ! くそっ! くそぉおっ!!」

 

 破壊された宇宙軍艦の残骸が大量に漂う星の海。

 ガンプラバトル・ステージ『ルウム3』。

 

 初代ガンダムにおいて連邦軍がジオン軍に大敗した宇宙戦域が舞台のステージだ。撃破された連邦軍の軍艦や航宙戦闘機に、ジオン軍の艦船やモビルスーツの残骸が破壊可能オブジェクトとして漂う。

 

 夏終わりの夜、都内某繁華街の裏路地にひっそりと佇む会員制のクラブ。店内は怪しげな連中で満ちている。観客の我欲塗れの視線が集中するホールの中心にはガンプラバトル・ユニットが据えられ、6人参加のバトルロワイヤルが行われていた。

 

 いや、それは戦闘とは言えない。

 狩りだ。

 

 圧倒的な速度で宙(そら)を飛翔(かけ)る怪物が、一方的に獲物達を仕留めていく、狩りだ。

 原作主人公機やネームドキャラ機達が猛禽に襲われた小鳥のようについばまれ、砕かれ、欠片となって星海にばらまかれていく。

 

『機動戦士Vガンダム』に登場したザンスカール帝国の強力なモビルスーツ、ゴトラタンが大推力を活かして残骸の合間を縫うように飛び回り――いや、逃げ回る。が、深紅(ドゥカティレッド)の怪物は背中に搭載した大型ブースターと各部スラスターを煌々と吹かし、ゴトラタンを易々と追い詰めていく。

 

 怪物が握る馬手のロングライフルと弓手のザク・マシンガンがロックンロールを奏で、ビームと実包が吸着するようにゴトラタンへ次々と命中していく。

 宇宙空間は本来音を伝えないが、アニメ的演出により暗黒世界にビームの照射音や被弾音が響く。

 

 成すすべなく被弾で装甲を削がれ、体躯を抉られていくゴトラタン。警告表示で埋まる操縦ブース内で、ファイターが悲鳴を上げる。

「なんでっ!? こっちは乱数機動を取ってるんだぞっ?!」

 

 被弾に焦り、ゴトラタンは身を捻り込んで後方の怪物へビームライフルを乱射する。流れ弾が当たり、爆散するデブリ。しかし、紅い影にはかすりもしない。否。そもそも動きが速すぎて火器管制の照準が追いつかない。

 それどころか、反撃するために機動が鈍ったため、より被弾が激しくなった。ついにゴトラタンの両腕が弾け飛び、両肩が砕かれ、ボディが削られ、抉られ、穿たれていく。

 

「ぐぉあああああああああああああああああっ?!」

 警告表示だらけのホログラムディスプレイの正面。紅い影がブースター光を曳きながら一直線に突っ込んでくる。

 相対距離が吹っ飛ぶように失われ、紅影が急速に輪郭を形成し、姿を明らかにする。

 

 紅い怪物。その正体は。

 ゲルググJベースの改造機体に、サイコザクの巨大バックパックを装着したオリジナル・ガンプラ『サイコゲルググ』。

 それに、左肩に描かれたワタリガラスのエンブレム。

 春先頃から関東圏のアンダーグラウンドに現れるようになった怪物。

 

 深紅のゲルググが左手のザク・マシンガンを捨て、左腕のビームスポットガンに代わって装着した固定ビームサーベルを発振。殺意の光が漆黒の宇宙空間にぎらりと煌めく。

 

「クッソ……がぁっ!」

 ゴトラタンのファイターは腹を括り、叫ぶ。

「来いやぁああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 装備が失われようとも、両腕が無くとも、ゴトラタンにはまだ奥の手があった。

 頭部から生える長大な鶏冠。そこには原作『機動戦士Vガンダム』でシュラク隊の小悪魔お姉さんミリエラ・カタンを屠った頭部ビームカッターが備わっている。

 

 ファイターは刹那の狭間に策を練った。迫る紅い怪物が左腕ビームサーベルを振るうため肉薄する、その一瞬の先の先を取り、この頭部ビームカッターで仕留めるっ!

 

 爆速で減少する相対距離数値と迫りくる紅い影を睨み、ゴトラタンのファイターは機を図る。

 残り400。残り250。残り100。残り40。残り25。残り15――

 

「ここだぁっ!!」

 頭部の長大な鶏冠が大きく駆動。大出力のビームカッターが発動。全てを賭した必殺の一撃。

 

 然して、頭突き染みた斬撃はサイコゲルググを捉えられず。

 代わりにゴトラタンの首が飛び、その体躯が二分されて爆散した。

 

 サイコゲルググは眼前を漂うゴトラタンの頭から視線を切り、右手で持つロングライフルのエネルギーパックを投棄。大型バックパックのサブアームで予備のエネルギーパックを取り出して装着。

 

 紅い怪物を操るファイターは血に酔った狩人のような目つきでホログラムディスプレイを見据え、スカルのフェイスマスクの中で呟く。

「あと1匹」

 

 ・・・

 

 ・・

 

 ・

 

 とある世界の近未来。

 その世界にはプラスチックに反応し、外部から動かすことが出来る『プラフスキー粒子』が存在し、プラモデルを遠隔操作して対戦する遊戯が流行っていた。いや、競技として人気を博している。

 

 中でもロボット物は飛び抜けて人気であり、ダントツは世界一のロボットアニメ『ガンダムシリーズ』のプラモデルを用いたガンプラバトルだ。その人気は世界選手権や高額賞金の大会が開催され、プロの選手やリーグが存在するほどだった。

 

 このガンプラバトルの強さは原作の性能ではなく、ガンプラの操縦者(ファイター)の操縦技術と、ガンプラの制作者(ビルダー)の制作技術が物を言う。つまり、ガンプラバトルではファイターとビルダーの腕があれば、原作の雑魚メカで主人公機をケチョンケチョンにぶっ倒すことが出来るのだ。

 

 このため、前述した大会やリーグで活躍するプロやワークスには、ファイターとビルダーの完全分業制を採るケースも珍しくない。

 優れたビルダーはファイター達の制作依頼を受けてガンプラを作り、金を稼ぐ。

 優れたファイターは名を売りたいビルダーの依頼を受けてガンプラを操り、金を稼ぐ。

 

 ガンプラは子供達の玩具であり、大人の趣味であり、競技道具であり、ビジネスアイテムだった。

 ガンプラバトルは子供の遊戯であり、大人の娯楽であり、ハイテク競技であり、立派なスポーツビジネスだった。

 

 世界選手権や全日本選手権などのトップカテゴリはクリーンなイメージが強いけれど、優勝はもちろん大会ファイナリストに名を連ねるだけで、様々なスポンサーが集まるし、高額の案件が持ち込まれる。

 

 アンダーカテゴリの大会やコンテストもいくらでもある。有名企業が独自主催したもの。アラブの大富豪が世界各国の選手を招聘して主催するもの。有料参加でトップランカーが賞金総取りという世界最大規模のプライベート大会。

地域やショップで開かれるミニ大会やコンテストなどは、ほぼ毎月のように世界のあちこちで催されているし、大きな声では言えないけれど――

アンダーグラウンドなバトルも多い。

 

 特に賭け試合だ。

 仲間内で小銭や飯代を賭けて勝負するという可愛いものではない。会員制クラブや非公開会場で選手と客がバトルの勝敗に大枚を賭けたガチの賭博試合に、公式戦を利用して地下で行われるガンプラバトル賭博。利権などを賭した代理戦争染みた闇試合。

 ガンプラマフィア、なんて組織が存在するほど、ガンプラバトルの世界の地下は欲が濃く、闇が深い。

 

 国際ガンプラバトル公式審判員などが摘発と取り締まりに勤しんでいるけれど、とても追いつかない、というのが実情だった。

 

 そして、ガンプラ発祥の地である日本にも、その闇は存在した。

 

 ・

 

 ・・

 

 ・・・

 

 連邦軍とジオン軍の宇宙軍艦の残骸が漂う星海の戦場宙域。

 煌々と炊かれたスラスターの排気炎が漆黒の宇宙空間に複雑な光跡を描き、熱光線の光筋が走る度にデブリが蒸散爆発の花を咲かせる。曳光弾が流星のように光を曳きながら駆け、ミサイルの噴出炎が踊り、炸薬の爆炎が輝いてデブリの焼けた金属片が宇宙に舞う。

 

 改造に改造を重ねたミッドナイトブルーのトールギスⅢが、拡張した背部左右の大型ブースターを全開でカッ飛びながら、暗黒空間を疾駆する紅い怪物へ右手のメガキャノンを撃ち、頭部機銃から実包弾をばら撒き、ブースター翼に懸架した多弾頭ミサイルを放つ。

 

 しかし、当たらない。大威力のビームがかすめ、機銃の狼狽え弾が当たり、多弾頭ミサイルの子弾の爆炎が触れることはあっても、有効弾は得られず、致命傷に至らない。

 

 視界の中で殺意の光が煌めいた。

 刹那、トールギスⅢは各部スラスターを限界まで焚き、ほとんど直角に曲がってビームをかわす。瞬間移動と見紛うばかり超高速回避。あまりにも高負荷な機動にフレームや関節が軋む。

 それでも、右足に被弾。ミッドナイトブルーの装甲が削られた。

 

「くそっ! “置いて”やがったっ!」

 フルカスタムのトールギスⅢを操るファイターが焦燥のこもった怒声を放つ。ホログラムディプレイのHUDに表示される粒子残量は既に三分の一を切った。機体耐久値は半分を過ぎた。メガキャノンのエネルギー量と頭部機銃は残量警告が出ており、ミサイルは撃ち尽くした。

 

「なんなんだ、あの速さはっ! こっちだって高速機動戦仕様なんだぞっ!?」

 高機動中のトールギスがひねり込んでメガキャノンを放つ。大威力のビームが暗黒の世界に派手な光筋を描き、射線上の細かなデブリ群が蒸散爆発し、サラミス級巡洋艦の残骸に着弾。機関部と推進剤が誘爆したのか、ひと際派手な閃光と巨大な火球が生じた。

 

 刹那。焼けた大量のデブリが火花のように舞い踊る中、鋭いビーム光が走り、トールギスⅢのメガキャノンを撃ち抜いた。

 

「チィッ?!」

 咄嗟にメガキャノンをパージ。直後の爆散。爆炎に機体表面が焼け焦げ、衝撃波にトールギスⅢが大きく姿勢を崩す。ファイターの意識が姿勢制御へ振られた一瞬の間隙。

 

 サラミス級巡洋艦の外殻デブリの陰から、紅い怪物がフルブーストで襲い掛かった。左腕から伸びるビームサーベルが殺意の光をぎらつかせる。

「!!」

 ファイターは瞬時に姿勢制御を諦め、ビームサーベルを抜刀。崩れた体勢から後の先を取って熱光の斬撃を繰り出す。

 

 が、紅い怪物はスラスターとバーニアをこれでもかと吹かして超高速“右向け左回り”を行い、斬撃を紙一重で回避。もしもパイロットが搭乗していたら余りの高荷重に内臓が圧壊し、頭蓋骨の中で脳ミソが偏っただろう。それほどの無茶苦茶な旋回運動から、怪物はトールギスへ回し蹴りを叩き込む。

 

「サーベルはフェイクかっ?!」

 ファイターの悲鳴と演出的な激しい激突音が響き渡り、蹴り飛ばされた夜色のトールギスⅢは宙を漂うマゼラン級宇宙戦艦の船首残骸に叩きつけられた。トールギスⅢの動きが完全に静止したところへ、怪物が左手に大型バックパックからジャイアントバズを受け取り、右手のロングライフルと合わせて斉射を浴びせた。

 

「ぐぉおおおおおおおおおおおおっ?!」

 熱光線と大型擲弾の弾幕がトールギスⅢごと船首残骸を耕す。

 背に生える大型の左ブースターが撃ち抜かれて爆散し、爆圧衝撃に左腕が肩口から千切れ飛ぶ。右ブースターが機体から削ぎ落されて爆発。右足の脛から先が失われ、左足が腿の半ばが千切れ飛び、右腕の肘から先がもげ、胸部装甲が割れてメカニカルな中身が露出し、勇壮な顔貌の右半分が抉られ、最後にコックピットが貫かれた。

 美しかったフルカスタムのトールギスⅢは一瞬で全てが損傷し、損壊し、爆散する。

 

「お、俺のトールギス世田谷SPLが……ちっくしょおぁああぁっ!!」

 ファイターが半べそ顔で怒号を発する中、

『バトル・エンド』

 無情にも画面にバトル終了通知が表示され、ガンプラバトルが終了。プラフスキー粒子の放出が止まり、ホログラムが消える。

 

 バトル開始から終了まで12分34秒。

 観客の喜色に満ちた歓声と欲に塗れた罵声がホールを満たす。

 

 ヘクス状ユニットを組み合わせたステージに破壊し尽くされた5体のガンプラが転がり、ファイター達は茫然と操縦ブースにへたり込む。あるいは激昂してコンソールに拳を叩きつけた。

 

 ダメージレベルが最高の『A』設定である以上、バトル中のダメージは全てガンプラに反映される。ファイター達が金と時間と心血を注いで作り上げたガンプラは、プラスチックの残骸と化していた。

 

 過酷な現実を突きつけられ、5人の敗北者はただ一人の勝者へ、圧倒的な強さを以って自分達のガンプラを破壊し尽くした相手へ、目を向けた。

 

 怒り。悔しさ。恨み。恐れ。虚無。

 5人から目線を注がれる紅いサイコゲルググのファイターは、長身の青年だった。

 

 顔は窺えない。黒いパーカージャケットのフードを目深に被り、目元から首元までスカルのフェイスマスクで覆っている。アンダーグラウンドの場だ。顔を隠すこと自体は珍しくない。

 ただ、バトルを終えた覆面青年の目は酷く冷めていた。勝利を味わう様子は皆無で、そこに達成感も充足感も満足感も見られない。ただただ、冷めていた。

 

 覆面青年は5人を完全に無視し、黙々と愛機と記録媒体のGPベースをポリマー製ケースに収め、三角バッグにしまい込む。ファイター達へ言葉をかけるどころか一瞥すらせず。ガンプラを仕舞ったバッグを袈裟に背負い、踵を返して操縦ブースをさっさと出ていく。

 

 冷酷なまでの無関心を示され、敗者(ファイター)達は半分が青年の背を睨み、もう半分がただただ項垂れた。

 

 ホールを出て、スカルマスクの青年はバーカウンターに立ち寄る。

「お疲れさん」

 カウンター内に立つ安彦作品に出てきそうな悪役顔のおっさんがくわえ煙草で薄く笑い、カウンターテーブルにパチンコ店で用いられているような“特殊景品”のカード束を置いた。

「もうちょっと試合を盛り上げてくれや。賭けてる客ぁ白熱した戦いでハラハラしてェのヨ。一方的な狩りじゃ萎えちまうわ」

 

 覆面青年は何も言わずカード束を受け取り、出入り口へ向かって歩き出す。

 その背中に向け、バーテンのおっさんが声を掛けた。

「またな。“レイヴン”」

 

“レイヴン”と呼ばれた青年は振り返ることなく、会員制クラブを出ていった。

 

 都内某歓楽街。夏終わりの夜はいまだ暑気が濃く、深夜に達しても歓楽街の賑わいは静まる気配が見えない。

 喧噪も届かぬ裏通り。“レイヴン”はクラブ近くの景品交換所でカード束を現金化。数十万円になるだろう金を鞄に収めて交換所を後にし、大都会東京の夜に姿を消した。

 




Tips

ゴトラタン
 機動戦士Vガンダムに登場したモビルスーツ。ガンダム三大悪女の一角を担うカテジナ・ルースが最後に登場した愛機。
 カテジナさんを知らない人はぜひVガンダムを視聴しよう。ガンダムシリーズ全作品で最もハートフルボッコなシリーズと名高い名作である。

サイコゲルググ
 本作のオリジナルガンプラ。ベースはゲルググJにサイコザクのあれこれが移植されている。実際にサイコゲルググでググると、モデラー達の制作例が見られる。

トールギスⅢ
 新機動戦記ガンダムW:エンドレスワルツに登場したモビルスーツ。
 『火消しの風』自称するちょっとイタいイケメンの愛機。

特殊景品
 社会の建前。深く考えてはいけない。
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