※この作品はR-18です。

ビルドファイターズ・レイヴン   作:コウサカさんちのコーヒー

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今回はエッッもないのに、文字数多め。ごめんよ。


10:彼女の名は

 青白のスズキ製スーパースポーツが直列4気筒エンジンを奏で、ヨシムラ菅を歌わせる。

 向かった先は夕暮れの新宿歌舞伎町。ネオンとLEDの輝きに満ちた色欲の街。その一角でアンダーグラウンドなガンプラバトルが密やかに催される。

 

 会場からワンブロック離れた裏通りにバイクを駐車し、スミオはビルの陰でフードを目深に被り、顔をフェイスマスクで覆い隠す。鉄板入りの安全靴で薄汚れた道路をごつごつと叩くように歩き、ソープランドの隣にある雑居ビルへ入る。

 階段前で煙草を吹かす遣り手婆みたいな老女へQRコードを表示したスマホを見せ、老女がコードリーダーで読み取り、スミオを階段へ通す。

 

 階段を上れば、フロアの入り口でガタイの良い黒服達が待ち構え、金属探知機でチェック。

「安全靴と……鍵、防犯スプレーか」

「スプレーはクマ除けの方が良いぜ。防犯用はソフトすぎる」

 右の黒服が探知機で反応したブツを確認し、左の黒服が助言を寄越す。

 

 フロア内に入れば、先頃に訪れた池袋の時と同じく、胡乱な連中とガラの悪い連中が多い。スミオのように身バレを防ぐため顔を隠した連中も多い。

 それと、女性もそれなりに居た。風俗店へ出勤前に参加しているのか、キャバクラや何かの同伴か。そこは分からないが。

 受付係はジャージ姿のあんちゃんで首元から覗く刺青はタトゥーではなく、ガチの和彫り。おそらく本職だろう。

 

「登録番号、識別名の確認完了です。ようこそ、レイヴン」

 QRコードで確認を終え、あんちゃんはスミオへスマホを返す。

「ドリンクとツマミはご自由にどうぞ」

 スミオは目礼を返し、フロア奥のステージへ近づく。

 

 ステージでは既にバトルが繰り広げられていた。ファイターはいずれも若いイケメン達だが、異様に白熱している。

「連中は皆、ホストだ。売掛金を賭けて戦っている」

 訝るスミオの隣から艶気たっぷりのハスキーボイスが届く。

 

 目線を向ければ、欧亜混血女性がいた。カジュアルシックな装いの長身美女。豊満な胸元を大きく開くフレアブラウスの隙間から覗く肌は日本人よりもずっと白い。長い赤毛で、アシンメトリーな前髪が右目を隠すように流されている。年の頃はアラサーくらいだろうか。ハイソなオトナのオンナ。

 

「バトルの質は低いが、戦ってる連中は必死だから見世物としては面白い」

 鮮やかな紅が引かれた唇を薄く曲げ、欧亜混血の長身美女は手にしていたグラスを口へ運ぶ。

 勝敗が決し、勝ったホストがガッツポーズをして雄叫びを上げ、負けたホストが絶望のあまり崩れ落ち、泣き出した。

 賭けに勝った客が歓声を上げ、負けた客が罵声を飛ばす。

 

「まさしく悲喜こもごもだな」

 赤毛女性は紺色の左目をスミオへ向けた。評価査定するような眼差し。

「お前、ランカーだな? 識別名は?」

 

「レイヴン」

 スミオは端的に答えた。

「デビュー以来、負け無しで噂になっている奴か。腕前を見物させてもらうとしよう」

 赤毛の欧亜混血女性は左目を細め、薄く笑ってその場から離れて行く。

 

 何やら不穏なものを覚えつつ、スミオはしばらく壁の花に化けて時間を潰す。

 ホストやキャバ嬢達が売掛金解消の歓声と借金増加の悲鳴を上げる数試合の後、ようやく出番が来る。

 

 スミオはステージに上がり、三角バックからGPベースとガンプラを取り出し、バトルユニットにセット。係員が参加費と賭金を確認している間に、対戦相手を窺う。

 

 相手は女性。化粧が濃い、というか厚塗りで年齢は測れず。スウェットで包まれたデカい胸。デカい尻。そしてデカい腹。インナーを緑に染めたウェーブ髪をサイドポニーにしていた。

 背脂チャッチャ系女性の手元、GPベースに置かれたガンプラは女性同様にワイドサイズな汎用重モビルスーツ。

 

 ギラギラの銀×紫ラメカラーに金モールのディランザだ。

 機動戦士ガンダム・水星の魔女に登場した主役の一人グエル・ジェタークが駆った専用機のように、頭部に御立派なブレードアンテナとキャバ嬢の盛り髪みたいな飾りが据えられ、右肩のポイントにはミサイルポッド。左肩には増加バックパックと連動させたビームカノン。両腕にフルアーマーガンダムのようなシールド付きビームカノンを装着。当然、盾はラメと金モールでギンギラギンに彩られている。

 なんとも派手に傾いた仕様だ。しかし、出来栄えは良い。手練れと見て良いだろう。

 

 こちらのサイコゲルググVer1.5はエリによる改修後のシステム調整が済んでない。なかなかタフな試合になりそうだ。

「バトル・スタンバイ!」

 蝶ネクタイを締めた男性司会が声を張り、ユニットのバトルシステムが起動。プラフスキー粒子が煌めきながら立ち昇り、操縦ブースにホログラムコンソールとディスプレイが浮かび上がり、ユニット上にステージが描写され始めた。

 

 フードの奥でスミオの凛々しい双眸が険しく細められる。

 ――月面ステージか。

 

 月面は宇宙ステージに分類されるが、現実同様に低重力が設定されているため、機動や運動に独特なクセが生じる。

 巨大なブースターとウェポンキャリアを担ぐサイコゲルググにこの月面の“クセ”がどう影響するか。システムチューニングが未設定なため、読み切れない。

 

「うふふふ」

 と、ユニットの向かい側からジャバザハットみたいな笑い声が届く。

「それが噂のサイコゲルググ? かっこイーじゃあん」

 肉付きが良すぎる女性ファイターがグロスを塗った唇の両端を大きく釣り上げる。何も答えないスミオを気にせず、挑発的に告げた。

「でもまぁ……アタシのディランザ・ハッスルダンスの方がつぇーけどねぇ!!」

 

 いよいよ司会の蝶ネクタイが巻き舌で号令を下す。

「バトゥ・ストゥア―――トォウッ!!」

 戦いの火ぶたが切られた。

 

      ○

 

 ガンプラバトル・ステージ『月面5』。

 プラフスキー粒子がユニット上に描きだす月の世界。荒涼とした白い大地。高低差の大きな起伏。頭上には漆黒の星海が広がり、真っ青な地球が浮かび、太陽が煌々と輝く。

 

 OVA『機動戦士ガンダム0083』に登場した月面都市フォン・ブラウンの郊外。

 原作でコウ・ウラキとケリィ・レズナーが銃火を交えた月面を、ド派手なディランザがもうもうと砂塵を巻き上げながらホバー走行していく。

 

 重装甲で重武装で大柄な機体にも関わらず、その動きは素早く、乱れが一切ない。暴走族の下品なバイクみたいなナリをしているが、このディランザが優れた技術で制作され、巧みな技術で操られている証拠。

 

 ホログラムコンソールの光球を左右両手に握り、太ましい女性ファイターはアイメイク盛り盛りの双眸でホロディスプレイを睨み据える。

「こっちは見えてンだろ、カラス小僧。どっからどーくる……?」

 

 バトル準備中のわずかな時間。スミオがディランザを観察したように、女性もまたスミオのサイコゲルググを観察していた。

 背中に大型の大推力ブースターと重武装のウェポンキャリア、それにこのステージ環境。十中八九、空中機動戦を仕掛けてくるだろう。

 

 女性ファイターが索敵系を睨んでいた矢先、星々が輝く月の宙(そら)に一条の光跡が走った。索敵系が熱源反応を捕捉。システムが描いた流れ星ではない。あれは、“敵”だ。

 

「見(め)っけたぁっ!! いっくぞオラーっ!!」

 猛々しく気炎を吐き、女性ファイターは背面と脚部のブースターを全開。盛り髪みたいな頭飾りをなびかせながら、ド派手なディランザを豪快に疾駆させる。

 

 上空を翔けるサイコゲルググは的を絞らせないよう不規則な蛇行を繰り返し、月面を激走するディランザへ距離を詰めていく。

 捕捉距離から戦闘距離に移行するわずかな間。否応なしに高まる緊張感。神経を刺激する緊迫感。不安と昂奮がない混ぜになった独特のスリル。女性ファイターが犬歯を剥くように薄く笑う。

 

 刹那。

 光跡を曳く小さな影がパッと閃光を発し、ディランザが反射的に横ッ飛びした直後。熱光線がディランザの傍を駆け抜け、月の表面を爆ぜさせる。

 

「!?」女性ファイターはアイメイク盛り盛りの双眸をぎょっと見開く。

 ロックオン警報は無かった。つまり、今の射撃は完全なマニュアル照準。弾道誤差と時間偏差を計算して撃ってきた。

「戦闘開始の挨拶ってか!? アゲてくれンじゃねーのっ!」

 

 メインディスプレイに映る小さな影が徐々に色を帯び、やがて姿の輪郭が見えてくる。

 豊満な女性ファイターが前のめりになり、サイドポニーと巨乳を大きく揺らす。

「ハッスルタイムだッ! 三擦り半でイかせてやんよ、カラス小僧ッ!!」

 

 ふくよかに過ぎる女性ファイターは荒々しく吠え、深紅の影をロックオン距離に捉えた瞬間、両腕と左肩のビームカノンをぶっ放す。ガンダムシリーズの特徴的な甲高いビーム射撃音が操縦ブース内に轟く。宇宙軍艦すら轟沈せしめるビームカノンの斉射。

 小さな影は月面から放たれた3条の熱光線をバレルロールで鮮やかに回避し、背面ブースターを煌々と噴射。索敵系の捕捉距離が吹っ飛ぶように減っていく。

 

 宙を翔けるサイコゲルググと地を駆けるディランザが完全に交戦距離へ到達。

 同時に両機は即座に正面戦闘へ移行する。

 

 深紅のゲルググが速度と機動力の優位性に物を言わせ、側背へ周りこむべく円を描くように運動すれば。ディランザはゲルググを常に正面へ捉えるように運動を繰り返し、速度の不利を覆す。

 互いに相手の裏を掻くべく右へ左へ躍動し、相手の意表を突くべく前進や後退、上昇と効果を重ね、一瞬たりとも立ち止まらない。

 

 両機のメインブースターが猛然と叫び続け、スラスターが吠え続け、バーニアが鳴き続ける。速度計の数字が狂ったように乱高下し続ける。時速100キロ台から超音速域まで一秒と掛からず加速したかと思えば、亜音速域から時速数十キロ域まで瞬く間に減速させる。

 

 実機なら機体が分解しかねない超高負担運動。しかし、卓越した製作技術で作られたガンプラのサイコゲルググとディランザはその負担に耐えながら走り、駆け、躍り、翔ける。

 

 実機ならパイロットが命を失いかねない超高負荷機動。だが、実際に搭乗していないファイターの2人は、殺人的速度でガンプラを操りながら相手を倒すべく攻撃を繰り出していく。

 

 紅いゲルググがロングライフルと機関銃を連射し、銀×紫ラメカラーのディランザがビームキャノンを撃つ。双方共にコンマ数秒の交錯時を逃さずビームサーベルで切り結ぶ。

 

 スミオも女性ファイターも瞬きや呼吸を忘れそうなほどの集中力を発揮し、動体視力と反射神経、反応速度と思考速度を限界まで酷使する。肌に汗が滲み、肌着に濡れ染みが広がる。

 

 ディランザの大出力ビームキャノンが擦過し、ゲルググの機体表面を焼き焦がし、装甲表面を歪ませ、剝離した塗膜がはらはらと散る。

 ゲルググの弾幕斉射が周辺の地面ごとディランザへ降り注ぎ、美しいラメカラーや金モールが削ぎ落す。千切られた頭飾りの毛がはらはらと散る。

 

「ぶんぶんぶんぶん飛び回りゃあがってクソジャリめっ! そんなに踊りてェなら」

 愛機を傷つけられ、女性ファイターは怒号を上げてフルブーストで後退上昇。押し切られたのではない。戦略的後退だ。目的は――

 ホログラムコンソールを握る太い指が踊り、肉厚な手が走る。火器管制系に表示されるメッセージ。シーカー・オープン。ロックオン・アフター・ローンチ。

 

「踊ってみせろ、オラァッ!!」

 右肩のミサイルポッド、全弾斉射。

 

 8発の対MS汎用ミサイルがディランザの捜索追尾データを受け取り、紅いゲルググを画像捕捉。獲物に向かって食らいつくように襲い掛かる。

 そこへオマケの駄賃とばかりに、ディランザが両手と左肩のビームカノンの斉射を繰り出す。

 

 ロボットアニメファンはミサイル弾幕の映像美を演出家の名前から『板野サーカス』と呼ぶが、ユニット上でまさしく『板野サーカス』が披露された。

 

 8発のミサイルとビームカノンの弾幕射に追われ、深紅のゲルググは幾何模様を描くように激しい回避運動をした後、月面へ向かって暴力的速度で急降下。さらに地面の隆起部を縫うように駆け抜けていく。

 

 数発のミサイルがゲルググを追いきれず地面に接触して起爆。その爆発に巻き込まれてさらに数発のミサイルが爆発。無機質な月面に輝く爆炎。吹き飛ぶ大地。低重力の地表から高々と巻き上がる白い土砂。それでもなお、残ったミサイルの群れが血に飢えたピラニアのように追い続ける。

 

 ゲルググは、バックパックのサブアームを動かしてウェポンキャリアのザクマシンガンをマウント。背後から迫るミサイルへ近接防御弾幕を展開。ミサイルを撃墜していく。さらに両手のロングライフルと機関銃でディランザへ牽制射撃の御返し。

 

 目まぐるしい高速機動戦闘。激烈な火力戦。鮮烈な『板野サーカス』。観客達が派手派手しい戦いに歓声を上げ、バトルに理解や造詣が深い者達も感嘆をこぼす。

 

「そこは素直に死んどけよ! 可愛げがねーぞ、カラス小僧!!」

 女性ファイターは悪態を吐きながらも、戦闘の昂奮に笑っていた。

 汗で厚化粧が崩れ出していたけれど。

 

      ○

 

 エリ。エリエリエリ、エリ!

 

 フードとスカルのフェイスマスクで目元以外を覆ったスミオは、ド派手なディランザを相手にサイコゲルググをぶん回し続けながら、エリの改修によって変化した性能差分や特性、癖などに悪戦苦闘していた。

 

 話が違うぞ、エリ! 機体の出力も増加ブースターの推力も話し合った以上に強烈じゃないか……っ! それに、索敵系捕捉力と戦闘演算処理速度がやたら高いぞ! データ更新が速すぎてこっちの把握が追いつかない! 流石はエリだ! 良い仕事をする!

 

 口の中で愚痴なのか称賛のか分からない繰り言を吐きつつ、スミオはホログラムのコンソールを絶え間なく操作する。

 冷汗が止まらない。改修した機体の調整相手は池袋のチンピラ崩れ程度の相手が望ましかった。この族車紛いなディランザは強い。何より、あのビームカノンを真芯に食らえば、一発でお陀仏だ。危険すぎる。

 

 カチン! と左手の機関銃が弾切れを起こし、パージ。

 直後、ビームカノンが直撃して蒸散爆発した。アクションフィギュア用のM240B汎用機関銃を元に作った一点物がパァだ。ミサイル斉射の迎撃に使ったザクマシンガン二丁も既に弾切れで捨てている。残りの武装はバズーカ2門と短距離ミサイル6発。それとロングライフルに左腕のビームサーベル。

 

 コンソールの光球上で左右全ての指が踊り続け、手首が動き続け、肘肩が働く。指も手首も肘も肩も疲労で攣(つ)りそうだった。瞬きする暇もない目が乾きで痛む。

 戦闘開始から時間は”まだ”5分と経ってない。だが、”もう”5分の真正面から殴り合っている。

 

 集中力が軋む。思考力が痺れる。溺れているような息苦しさに肺が熱い。

 ――仕切り直しだ。

 

 スミオは地表すれすれまで急降下し、旋回して隆起の陰へ飛び込み、相手の視線を切ったまま離脱を図る。

 追跡はない。どうやらディランザを駆る太ましい女性ファイターもコーヒーブレイクを受け入れたらしい。撃ちまくっていたビームカノンの冷却が必要なのかもしれない。

 

 大きく深呼吸を繰り返し、疲れた脳ミソへ矢継ぎ早に酸素を送り込む。瞬きを繰り返し、乾いた両目を濡らす。くたびれた両腕から一度力を抜き、軽く振って強張りを解く。

 

 スミオはマスクの中でゆっくりと息を整え、双眸を鋭く細めた。

 ロングライフルをサブアームに預け、両肩にバズーカを担ぎ持つ。

 今度こそ、あのディランザを、狩る。

 

      ○

 

 赤毛紺眼の美女はステージ傍で直接バトルユニットの描くバトルではなく、フロアのテーブルに着いて大型モニターの映像で観戦していた。

 桜の香りがする煙草を燻らせ、時折ノンアルのサワーを口へ運ぶ。

 

 紅いゲルググと銀×紫ラメカラーのディランザが戦場でわずかな仕切り直しの間を挟み、再び銃火を交える。いわば後半戦の始まり。

 

 ゲルググは宙を躍り、ディランザのビームカノンをかわしながら両肩に担いだジャイアントバズーカのつるべ打ちを開始。命中の有無を無視した掃射は空爆そのもの。

 月の白い荒野が爆炎に耕され、大量の白い土砂と粉塵が低重力も手伝って高々と広々と巻き上げられていく。

 

 派手な光景に観客が喝采を上げる中、バトルを知る者達はゲルググの前半と打って変わった粗暴な戦い方に疑念を抱く。

 絨毯爆撃さながらのバズーカの連射は確かに派手だが、ディランザには一発も直撃していない。爆炎と破片を浴びても、機体や武器に損傷を負っていない。ただただ月面に粉塵が広がり、霧に満ちたようになっただけだ。

 

 目くらましか? 赤毛の美女は煙草の灰を灰皿へ落として左目を細めた。

 

 しかし、ガンプラといえど人型機動兵器(モビルスーツ)同様に索敵系が再現されている。ディランザの目は光学系だけではない。熱探にレーダー、粒子観測など様々な索敵系を備えている。土砂の粉塵だけでは欺瞞にならない。

 

 ゲルググが素早くバズーカの弾倉を交換した。そして、再度の連射。

 と、同時に背部のウェポンキャリアに搭載されていた6発の短距離ミサイルも斉射。立ち込める粉塵の中にミサイルの小群を突入させる。

 

 バズーカの爆炎と立ち昇る粉塵に紛れ、6発のミサイルが炸裂して峻烈な電磁波を放った。

 

「ほぅ」

 観客達のどよめきに紛れ、赤毛の美女は前髪で隠していない左目を細めた。

「ミサイルを出し惜しんでいたのはそういう訳か。面白いな」

 

 ディランザは濃密な粉塵で光学系の視界が塞がれ、索敵系センサーの感度を上げていただろう。そこへEMPだ。電磁波対策(サージプロテクト)があってもセンサー系のダメージは避けられまい。

 

『はぁっ!? てめっ、カラス小僧っ!! 小賢しい真似しゃあがって!!』

 実際、細かい傷だらけのディランザは、立ち眩みでも起こしたように動きを鈍らせている。

 

 深紅のゲルググが即座に両肩のバズーカを捨て、最大速度で濃霧染みた白土の粉塵内へ飛び込んだ。左腕の固定ビームサーベルを発振。熱光の刃に触れた粉塵がバチバチと爆ぜる。

 

 経験則か直感か。ディランザは自分が致命的状況にあることを察したのだろう。両手と左肩のビームカノン、胸部固定兵装のビームバルカンを乱射しながら、ランダム機動を始める。

 だが、

 

「詰みだ」

 紺眼の美女が呟いた直後。

 紅いゲルググがディランザの左側背から高速強襲。シールド付ビームカノンごとディランザの左腕を切り落とし、返す刃でド派手なアンテナブレードを切り飛ばし、ブースター加速による前蹴りでディランザの体勢を崩して反撃を防ぎ、右手で背のウェポンキャリアに預けていたロングライフルを受け取って、銃口をディランザの胸部へぴたり。

 

『や……やれんのかコラァ!! テメェにアタシをやれんのかよぉおおおっ!!』

 太っちょな女子ファイターの無茶苦茶な怒号を掻き消すように、

 

 ずどん。

 

 コクピットを撃ち抜かれたディランザが仰向けに倒れこみ、

『バトル・エンド』

 戦闘終了宣言が告げられた。

 

        ○

 

 恰幅の良い女性ファイターがどすんどすんと苛立たしげな足音を奏でながら、ステージを去っていく。池袋で戦ったチンピラのように噛みついてこず敗北を容れる辺り、彼女は戦うことと勝ち負けに慣れているのだろう。崩れた化粧と憤怒で怪獣みたいな顔だったけれども。

 

 スミオは賭けの配当を受け取り、アングラなガンプラバトル会場をさっさと後にする。ビルの管理人窓口で特殊景品を換金。現金を三角バッグに詰めて表に出た。

 歌舞伎町は既に夜を迎えていた。人目を避け、足早にバイクを停めた駐車場へ向かう。

 

 駐車場の傍、路肩にとめられた桜銀色のポルシェ911。ドアに腰を預けるように立つ赤毛紺眼の長身美女。

「良い試合だった」

 アシンメトリーな前髪で右目を隠した美女は紙巻き煙草を口にくわえ、オイルライターで火を点す。ロンソン型ライターには桜と美女の横顔がモチーフのエンブレムが刻まれていた。

 桜の香りがする紫煙を燻らせ、美女はスミオへ薄く笑う。

「決着の付け方が些か強引だったがな」

 

 スミオは何も答えない。ただ警戒する。失うものが大きい身バレだけは、絶対に防がなくてはならない。

 

「警戒心が強いのは良いことだ。慎重な奴ほど長生きできる」

 片目を隠す赤毛美女はスミオの様子に微笑んで煙草を味わい、唇をわずかにすぼめて秋の夜へ紫煙を吐く。

 

 美女はまだ長い煙草を足元に落とし、踏み消すと共にジャケットのポケットから一枚のカードを取り出し、スミオへ向けて差し出した。

 スミオは警戒しきった猫のような態度と手つきでカードを受け取る。名刺のようだ。

 

 記述内容は二つだけ。

 連絡アドレスと名前。

 

 セレン・ヘイズ。

 

「もっと稼ぎたいなら、連絡を寄越せ。手を貸してやる」

 セレンという名の赤毛紺眼美女はポルシェに乗り込み、伝統の対向エンジンを奏でるように走り去っていった。

 

 残されたスミオは大きく息を吐き、再び名刺に目線を落とす。

「……なんなんだ、いったい」




Tips
 ディランザ・ハッスルダンス
 機動戦士ガンダム:水星の魔女に登場した量産型モビルスーツ『ディランザ』の本作オリジナルカスタム。
 コンセプトは単純明快。重装甲で突っ走り、大火力でぶん殴る。
 名前はセクキャバのセクシーダンスとハッスルタイムを合わせた造語。

 太ましい女性ファイター。
 オリキャラ。元ヤンで元キャバ嬢。
 仕事のストレスから太ってしまい、指名が取れなくなって退職したという過去がある。職探しが上手くいかず、ガンプラバトルの賭け試合で生計を立てるようになった。
 この後も、都内のアングラなバトルで食い扶持を稼ぐ模様。

 セレン・ヘイズ。
 元ネタはアーマードコアファンなら知らぬ者はいないだろう女性キャラ。
 本作では……物語の進展を待たれたい。

 なお、アーマードコアは人物ビジュアルを一切露出させないため、本作の容貌はオリ設定。
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