ビルドファイターズ・レイヴン 作:コウサカさんちのコーヒー
西東京某所にある中高一貫校の聖鳳学園。
夏休みボケが抜けた頃。校舎裏手のプレハブ平屋に聖鳳学園模型部――が分裂して生じたガンプラバトル部の部室がある。
世界的に人気のあるガンプラとバトルだけれど、聖鳳学園ガンプラバトル部は部員が現在3名だけだった。
中等部2年生1人と高等部1年生2名。
「痛っ!」
唯一の中等部部員ホシノ・フミナが小さな悲鳴をこぼす。
部室の奥、収納棚で仕切られた作業エリア。フミナは作業テーブルでガンプラの筋彫りをしていたところ、手元が狂ってケガキ針で指先を少し切ってしまった。
「ホシノさん、大丈夫ですか?」
一緒に作業していた高等部部員の一人、シノダ・エリが慌ててフミナの手元を覗き、
「大変! すぐに手当てしないと!」
フミナの指先からぷくりと血が滲む様に急いで立ち上がり、部室を区切る収納棚へ駆け寄る。
「大丈夫ですよ。絆創膏でも貼れば十分ですって」
フミナがティッシュペーパーで指先の血を拭いながら苦笑いを返すも、
「だめです。ちゃんと手当てしないと!」
救急箱を手にして戻り、エリはてきぱきとフミナの血が滲む指先を消毒液で洗い、綿棒で化膿予防軟膏を塗って、デカい大判絆創膏を取り出す。指先どころか指一本完全に覆えそう。
「エリ先輩、それは大きすぎません?」
「あ。うっかりしていました」
お茶目にてへぺろポーズを返し、エリは小振りな絆創膏をフミナの指先に巻く。
「これで良いでしょう」
「ありがとうございます、エリ先輩」
礼儀正しくお礼を返すフミナに『どういたしまして』と微笑み、エリは医療具を救急箱に片付けながら、柔らかな面持ちで続けた。
「お茶にしましょうか」
作業エリアにはガンプラ制作用に高周波洗浄機や電子レンジなんかも備えていて、当然ながら電気ケトルもあった。
お湯が沸くまでの待ち時間。エリが部員用マグカップやインスタントのカフェラテ粉を用意していく。チクチクする指先の疼痛を弄びつつ、フミナがエリのたおやかな背へ言った。
「部長、遅いですね」
「そうですね。手続きが長引いてるのかな」
もう一人の高等部生の部長はガンプラバトル部で使用しているバトルシステム用プラフスキー粒子の補充手続きのため、教員室と生徒会へ赴いていた。
プラフスキー粒子の生産と供給を独占していた旧PPSE社は現ヤジマ商事の傘下に収まり、部で使用しているユニットにプラフスキー粒子を補充するためには、学校を通じてヤジマ商事に依頼することになる。その費用は部費で賄われるから学校だけでなく、生徒会にも報告義務がある。
お湯が沸き、2人のマグカップに淹れられたカフェラテの湯気が甘く薫る。インスタントだけれど香りは悪くない。
2人の少女はガンプラの部品と工具が並ぶ作業台で、静かに甘いカフェラテを味わう。換気に開けられた窓から、グラウンドや体育館などから運動部員達の掛け声、音楽室から零れてくる楽器の音色が注ぐ。
絵になる光景だった。
なにせホシノ・フミナは見目麗しい。
勝気なくりくり眼が印象的な細面。明るい栗色の長髪をシュシュでポニーテールにまとめて。半袖シャツの夏季用制服が包む肢体は中学二年生とは思えぬ発育振り。短めなスカートにスパッツを組み合わせた姿は体育会系を思わせる。明朗快活で華やかな美少女だ。
シノダ・エリはフミナに比べたら、地味だ。
化粧っけは皆無。中肉中背を包む制服も着崩したりせず、スカート丈だって膝上丈。眼鏡も野暮ったい太縁眼鏡。焦げ茶色の長髪も前髪が姫カットで毛先は三つ編みおさげ。イマドキの女子高生とは思えぬ垢抜けなさ。
けれど、そうした表面的な要素に惑わされなければ、“気づく”。
髪は艶やかでさらさら。肌はきめ細やか。野暮ったい眼鏡で隠されているけれど、双眸は色っぽい二重のアーモンド眼。垢抜けない着こなしの制服に隠された体つきも、男受けする育ち具合。
そう、シノダ・エリはちょっとイケてない男子達が夢見る『地味で目立たないけど、実は美少女』な眼鏡っ娘なのだ。
もっとも、エリの左手薬指にはペアリングが。男子達よ残念でした。
そんな二人が放課後スクールライフの音色をBGMに甘いカフェラテを味わう中、
「何か、考え事でもしてたんですか?」
エリから不意に問われ、フミナはすぐに答えられなかった。
指先を怪我した理由は集中を欠いていたから。でも、その理由は一言では言えない。
一緒にガンプラバトルをやろうと約束した年下幼馴染のコウサカ・ユウマが、ガンプラバトル部ではなくプラモデル部へ入り、しかも自分を避けて取り付く島もないこと。
夏の間、いろいろなオープン大会やガンプラバトル・イベントに参加したけれど、良い結果を出せなかったこと。
もっと優れたガンプラを作りたいのに、上手くいかないこと。
――と思春期らしく、フミナはいろいろと悩みを抱えており、気がそぞろになって作業の手元が狂ってしまったのだ。
「……エリ先輩。わたし」
言葉が続かない。勝ち気で明朗闊達で言いたいことをきっちり言う性質のフミナが、珍しく言いよどむ。エリは何も言わず静かにフミナを待つ。
悩み多き心情を吐露すべきかフミナが迷っているところへ、がらり。と部室の引き戸出入口が開く音。
「こんちはー」
どこか疲れた声音の挨拶と共に長身の青年が姿を見せる。
清潔感のあるショートの黒髪に凛々しい顔立ち。アスリート体型の長身。なのだけれど凛々しい顔立ちに覇気はなく、どこか猫背気味。なんかくたびれた社畜みたい。
ガンプラバトル部の部長アリサワ・スミオは棚に鞄を置き、至極自然にエリの隣に腰かけた。そして、エリを抱き寄せてその髪に顔を埋める。エリも当然のように抱擁を受け入れた。
「疲れたよ、エリぃ……」
「お疲れ様です、スー君」
抱き合う2人の左手薬指には揃いのペアリング。
つまり、そういう関係。
目の前でイチャつき始める先輩2人に、悩みを打ち明けかけていた気分を台無しにされ、フミナはげんなり。
「後輩の前でイチャつかないで下さい」
冷えっ冷えの声であった。
「すいませんでした」「ごめんなさい」
二個下の後輩にガチトーンで叱られ、身を放す部長と副部長。
フミナは気を取り直し、スミオに尋ねた。
「手続きに時間が掛かったみたいですけど、何かあったんですか?」
「手続き自体はテキパキ済んだ。ただ……生徒会でミヤガさんと出くわしちゃって」
一年先輩のプラモデル部部長ミヤガ・ダイキの名前が出てくると、フミナとエリは『あぁ』と納得した。
かつて世界選手権優勝者を排出した聖鳳学園模型部はこの数年で部員達が方向性の違いがから、プラモデル部とガンプラバトル部に分裂。当然ながら両者は不仲で、特に現プラモデル部のミヤガ・ダイキは部長に就任して以来、ガンプラバトル部と部長のスミオを目の敵にしており、昨年度末に催された今年度部活動会議(別名:部費争奪戦)ではガンプラバトル部の部費申請にあの手この手の反対案を重ねてきた。
この日も、スミオが手続き申請に生徒会へ赴いたところ、ミヤガ部長で出くわして噛みつかれてしまったのだ。
スミオはエリが淹れてくれたインスタントコーヒーを口に運び、ホッと一息。で、気づく。
「ホシノさん、その指どうしたの?」
「ちょっと作業中に手元が狂って……エリ先輩に手当てしてもらったから大丈夫です」
「そっか。大事じゃなくて良かった。ガンプラ作りは溶剤とかいろいろ使うからね。小さな傷でもきちんと対処した方が良い」
フミナの説明に頷き、スミオは隣のエリへサムズアップ。奥ゆかしく微笑むエリはハッとするほど美しい。
この人達、隙あらばイチャつこうとするのよね。フミナはジト目で2人を窺い、甘いカフェラテを味わう。
ふぅ、と息を吐いてカップを置き、フミナは言った。
「部長。後でバトルしてもらっていいですか?」
スミオをまっすぐ見据えながら。
「本気で」
元気娘の何やら真剣な様子にスミオは片眉を上げ、ちらりとエリを窺う。
エリが小さな首肯を返した。スミオは何やらあるのだと察して小さく頷く。
「良いよ。ただし、こっちはぼくが作ったガンプラだ」
部長の回答にどこか不満げになるフミナ。
というのも、スミオはビルダーのエリが組み上げたガンプラを操るファイターだ。自身の作ったガンプラはバトルの練習でしか使わない。つまり、スミオは本気で相手をしないと言っているに等しい。
素直な反応を返すフミナに、スミオは苦笑いをこぼす。
「そりゃエリにはまるで及ばないけども。ぼくもそれなりに作れるんだけどなぁ」
「部長、自分のガンプラとエリ先輩が作ったガンプラを使う時じゃ、真剣さや本気度が全然違うじゃないですか」
フミナの指摘にエリがどこか嬉しそうに微笑み、からかうように言った。
「あと、スー君はロマンに走りがちですよね」
エリの発言に『我が意を得たり』とフミナがスミオへ噛みつく。
「ロマンというよりネタですよ、ネタッ! あのガンタンクとかっ! あのジェガンとかっ! あのボールとかっ!!」
ガンタンク・ライデン:機体よりデカい折り畳み式の大砲を一門搭載。両腕は固定ミサイルポッドに変更。頭部は単なるレドーム。複合装甲化+チョバムアーマー装備。ガンタンクの面影がまったくない。フミナ曰く『ただの戦車』。
ジェガン実証試験機:出力機関相当のデカいバックパックを背中に担ぎ、身体中にスラスターやバーニアをとにかく詰めるだけ詰め込み、システム上でどれほど発揮されるか実証実験するために作られた。なお、システム上では最大出力で自壊自爆した。フミナ曰く『ただの爆弾』。
ゼノ・ボール:SFホラー映画『エイリアン』のクリーチャー、ゼノモーフの頭を取っ払い、代わりに球体型モビルポッドのボールをくっつけたイロモノの極み、曰くモビル・モンスター。フミナ曰く『こんなの大会に出したらガノタに殺されますよ』。
「ネタに走ってるのに、妙に出来が良くて笑えないものばっかりっ!」
「酷い言われようだ」眉を大きく下げるスミオ。
「でも事実ですね」くすくすと喉を鳴らすエリ。
「エリまで……酷いなぁ」
スミオは慨嘆しながら腰を上げて収納棚の下に赴き、引き出しの中から自身の組み立てたガンプラを一つ取り出す。
ガンダムファンであるフミナは、スミオが手に取ったガンプラの素性を即座に把握した。
「Rジャジャ、ですか?」
『機動戦士ZZガンダム』に登場する白兵戦重視型モビルスーツ、Rジャジャ。
原作より渋みの強い紅色に塗られ、背中のバックパックが大型化。ミサイルポッドとバリアブルシールドを持つ両肩が巨大な肩アーマーに換装されている。武装は右手にヒートソード。左手にグフカスタムのガトリングガン付シールド。
「うん。アスラ・ジャジャと名付けた機体だ」
卓上に置きながらガンプラの名前を告げるスミオ。
フミナはまじまじとアスラ・ジャジャなるガンプラを見つめる。部長が作ったにしては普通ね……いえ、何かある。ネタに走りがちな部長が作ったんだから絶対に何かある。
不審物を見るような目つきで観察するフミナへ、スミオは真面目な顔で言った。
「ダメージモードは『B』設定で行く。迂闊にダメージを食らうとガンプラが壊れるぞ。集中して臨め」
凛々しい顔立ちに相応しい“鋭さ”を露わにしたスミオに、フミナは思わず居住まいを正し、真剣な顔で頷いた。
「はいっ!」
ファイターの顔になった二人の傍ら、エリはワイシャツ姿のスミオの襟元から覗く鎖骨を見て、萌えていた。
○
赤錆色のぼこぼことした起伏の多い地勢。そこかしこに小山のように巨大な岩塊が目立つ。平野部には市街地や農耕地が設けられている。住民こそいないけれど、細密に映し出される町並みは確かに人の住まう清濁が感じられた。
ガンプラバトル・ステージ『火星2』。
『機動戦士ガンダム・鉄血のオルフェンズ』の舞台をモデルにしたフィールドだ。
「ホシノ・フミナ。パーフェクト・ダガー、出ますっ!!」
黄色を基調にした機体を白で彩ったガンプラが、赤錆色の荒野へ躍り出る。
フミナが操るモビルスーツは『機動戦士ガンダムSEED』に登場した地球連合軍量産型MS『105ダガー』。作中ではストライカーパックシステムという換装システムを用いることで様々な運用を可能にした高性能機。
ガンプラにおいても、原作設定を反映した構造から拡張性が高く改造の余地が広い。
フミナが制作した『パーフェクト・ダガー』はそうした拡張性を活かし、多目的汎用性――いわゆる万能性を重視した構成が取られている。
脱着可能な追加装甲。脚部や肩部に追加したスラスター。翼付き大型化バックパックはビームカノンとミサイルポッド、右腕にはジャイアントバズーカ。左腕のシールド。
フルアーマーガンダムに代表される、あれもこれもの欲張り仕様。
『久し振りに扱う機体だ。少し準備運動に付き合って貰おうか』
ユニットを挟んだ向かいからスミオの声が届く。先ほどまでと人が変わったように冷淡な響き。
――来る! フミナは直感した刹那。
スミオの冷たい声と共にフミナの操縦ブースにロックオン警報が鳴った。
「上ッ?!」
頭上を見上げた先。燦燦と輝く太陽の中から紅い影が襲ってきていた。カッと陽光とは違う暴力の閃光が煌めき、ガトリングガンの掃射が降り注ぐ。
フミナはパーフェクト・ダガーのスラスターを吹かし、降り注ぐ弾幕から緊急回避。弾幕に耕される大地。弾丸に削がれる岩塊。跳ね回る曳光弾。巻き上がる赤錆色の粉塵。飛散する土砂。狼狽え弾が装甲を叩き、撥ねた飛礫が装備に当たる。
肩や脚のスラスターを焚き、フミナはジグザグに飛んでアスラ・ジャジャの掃射をかわしながら、巨大な岩塊の陰に回りこんでガトリングガンの射線を切る。
岩塊を飛び越えて反撃するか、岩塊の反対側へ飛び出して反撃するか。いや、裏を掻く。
パーフェクト・ダガーが粉塵を巻き上げながら180度ターンを決め、岩塊の陰から飛び出す。
同時に落下中のアスラ・ジャジャを捕捉。ビームカノンを速射。
深紅の白兵戦モビルスーツはサイドスラスターを放射し、ほとんど直角に曲がって大出力ビームを避ける。
「! 速い……っ!!」
アスラ・ジャジャは猛禽が襲い掛かるように、地上のフミナへ突っ込んでいく。
「そう来るなら!」
フミナの黄色い重装モビルスーツが素早く蛇行後退しながら、迫る深紅のモビルスーツへ火力を叩き込む。いわゆる引き撃ち戦術。
ビームカノン。ジャイアントバズーカ。ミサイルポッドから複数発のミサイルを時間差発射。
赤錆色の荒野に爆炎の花がいくつも咲き乱れる。
が、アスラ・ジャジャには当たらない。爆風を浴びて煤や土砂に汚れ、飛散した破片や飛礫に機体表面を傷つけられはしても、損傷は一つも生じない。機体の高機動性と高運動性、そしてファイターの操縦技術により、フミナの放った弾幕を全て掻い潜る。
「くっ!!」
――やっぱり、部長は上手い!
HUDに表示される相対距離が着実に削られている。向こうの方が速い。このままでは相手の得意とする白兵戦に引きずり込まれてしまう。
フミナは決断する。
パーフェクト・ダガーは身を翻し、荒野から市街地へ向かってフルブースト。
市街地は建築物で視界と射線が遮られる。でも、豊富な障害物で回避運動の余地が少ない。隘路に誘いこんでアスラ・ジャジャの機動力を殺せば、今度こそ着実に命中弾を稼げるはず。こちらも相応のリスクを背負うけれど――勇敢なフミナは勝つためのリスクを恐れない。
追ってくるアスラ・ジャジャがガトリングガンの射撃を繰り返してくる。フミナは銃撃をかわし、高層建築物が並ぶ集合住宅地の辺りへ飛び込んで隠れた。
素早くHUDの情報を確認。機体耐久値と粒子量は十分。ジャイアントバズの残弾は半分。ミサイルは斉射一回分。
作戦がハマれば、仕留めきれるはず。
策を練ったところで、アスラ・ジャジャがひときわ大きな高層マンションの屋上に降り立つ。煌々と点る単眼を蠢かせ、こちらを探しているようだ。
フミナは深呼吸し、ホログラムディスプレイを真っ直ぐ見据える。
「勝負っ!!」
パーフェクト・ダガーが集合住宅から飛び出し、残ったミサイルを全弾斉射した。
○
どかんどかんと市街地内で爆ぜるミサイル。ビームカノンに貫かれて倒壊する集合住宅。バズーカの砲弾で爆ぜて崩落する雑居ビル。ガトリングガンに耕される路面。飛散した建材の瓦礫片や割れた窓ガラスが降り注ぎ、巻き上がった大量の粉塵が通りを満たしている。
駆動するモビルスーツが激突して傾ぐ建物。踏み潰される信号機や道路標識。スラスターが炊かれる度、粉塵と瓦礫片が巻き上げられる。
エリは激戦が繰り広げられるユニット上の映像から目線を放し、野暮ったい太縁眼鏡の奥で二重のアーモンド眼を操縦ブースの2人へ向けた。
後輩のホシノ・フミナは闘志と戦意の熱を込めてコンソールを操っている。その様はまさしく“戦う者”そのもの。ガンプラバトルを本気で愛し、全力で臨んでいる。
一方、アリサワ・スミオはどこまでも冷静冷徹にコンソールを操っている。冷たく鋭い目つきでディスプレイを見据えている様は、ファイターというより狩人のようだった。
――ホシノさん、本当に上手になりましたね。スー君を本気にさせてます。
でも。とエリは思う。
まだまだですね。スー君に全力を出させるほどじゃありません。
エリは目線を再びユニット上で描かれる戦場に移す。
黄色いダガーが倒壊したビルに足を取られ、わずかに動きが鈍った。
『あっ!?』
フミナの短い悲鳴が上がり、その間隙を逃さずアスラ・ジャジャが白兵距離に飛び込む。
赤熱色を宿したヒートソードが振るわれる。フミナの駆るパーフェクト・ダガーが咄嗟に残弾の少ないバズーカを投げつけて斬撃を妨げる。
『良い判断だ』
バズーカを犠牲に一手分の猶予を得て、パーフェクト・ダガーが体勢を立て直し、盾を構えながらフルブーストの体当たり。
アスラ・ジャジャを背中から大型マンションの壁面に叩きつけ、そのまま粒子量を費やす大推力と盾でアスラ・ジャジャを押さえ込み、右手でビームサーベルを抜き、
『とったっ!!』
勝利を確信した雄叫びと共にサーベルを突き刺そうとした刹那。
『それはどうかな』
スミオがホログラムコンソールを素早く操作した直後、アスラ・ジャジャの巨大な肩アーマーから折りたたまれていたクローアームが生える。
『隠しアームっ!?』
吃驚を上げるフミナ。
黄色いダガーがクローアームに殴り飛ばされ、破壊されたビームキャノンの砲身が宙を飛び、重装甲の体躯が建物を壊しながら倒れ込む。
『ふはははっ! 驚いたかね、お嬢さんっ!! これぞ我がアスラ・ジャジャの真の姿だッ!!』
演技がかった高笑いと物言いを始めるスミオ。
あ、変なスイッチ入っちゃった。エリはシリアスな闘争の雰囲気が“シリアル”な空気に変わったことを察した。
「その隠しアームがクローじゃなくてビームサーベルだったら、今の不意打ちでホシノさんを倒せてましたね」
『クローアームはロマンだから……』
エリの指摘(ツッコミ)が聞こえ、スミオが思わず釈明。
『やっぱりネタ機体だったじゃないですかっ!』
フミナが愛機を立ち上がらせながらの苦情申し立て。
『ネタかどうかは……その身で知るが良いっ!!』
完全に悪役のセリフと共にガトリングガンをパージ。四つ腕と化したアスラ・ジャジャがパーフェクト・ダガーへ躍りかかった。
右手のヒートソードが振るわれ。左のクローが横薙ぎし。右のクローが袈裟に振り下ろされ。左手のシールドバッシュ。右手のヒートソードの刺突。右クローのフック。左クローのストレート。左手のシールドタックル。
戦塵立ち込める市街地に激突音が幾度も幾度も轟き響く。
間断なく繰り出される斬撃と打撃に、パーフェクト・ダガーの盾が瞬く間に削がれ、へこみ。増加装甲が削られ、抉られ、剥がされ。剥き出しのアンテナを折られ、バックパックのウィングをもがれ。
『くっ!! ネタ機のくせにぃっ!!』
『ネタではない、ロマンだっ!!』
フミナがなんとか反撃のビームサーベルを振るうも、アスラ・ジャジャは左手のシールドでなんなくフミナの斬撃を防ぎ、左右クローの双打を打ち込んでダガーを殴り飛ばした。黄色い巨人が集合住宅地の道路をずざざざーっと滑っていく。
『きゃあああっ!!』
思わず悲鳴を上げるフミナ。
『ふははははははっ!! ご理解いただけたかな、お嬢さんっ! 腕が多ければ実際ツヨイッ!!』
高笑いするスミオを見て、エリはくすくすと笑う。スー君、なんだかよく分からないテンションになってますね。
スミオは威嚇するカニのようにクローアームを目一杯広げ、背のスラスターベイを煌々と焚き始める。
『これでフィナーレだッ!!』
○
『バトル・エンド』
戦闘終了が通知され、バトルシステムが終了する。
ホシノ・フミナは可憐な顔立ちを真っ赤に染め、ぷるぷると身を震わせていた。
「こんなのって無いですよ……っ!」
ヘキサ型ユニットの上には、大の字にひっくり返ったアスラ・ジャジャ。なんか死んだカニみたい。その傍らにはパーフェクト・ダガーが肩を落とすように立っている。
ダガーはシールドと増加装甲を失い、身軽になっていた。ダガー本体と付近に散乱する装甲とシールドはクローに引っ掻かれた傷痕だらけだ。
「白熱した良い勝負だったじゃないか」
「そうですねっ! 部長が隠しアームをビルに引っ掛けてひっくり返るまではっ!!」
しれっと嘯く部長へ怒声を浴びせるポニテ美少女。
無理もない。
アスラ・ジャジャは隠しアームを伸ばしながらフルブーストで突撃したところ、その隠しアームがフィールドのビルに引っ掛かって激しく転倒。
フミナは自爆したマヌケ野郎を一刺しして勝利したのだ。納得できるか、こんなもん。
「アームを伸ばした状態のサイズ感を失念してたんだよ……」
バツが悪そうに後頭部を掻く部長のアリサワ・スミオ。
「公式大会であの負け方したら、語り草になってたでしょうね」
くすくすと微苦笑する副部長のシノダ・エリ。次いで、部長を睨み続けるフミナと目を逸らしているスミオへ、言った。
「2人とも、凄く楽しそうだったよ」
「確かに楽しかったですけど……だからこそ、こんな終わり方は不本意です! 不完全燃焼ですっ!」
フミナが遺憾の意を表する。
「悪かったって……」
ついに謝罪するスミオ。ちらりと壁の時計を一瞥して。
「ガンプラの修理と感想戦……はもう下校時間か。今日はここまでだな」
そういうことになった。
tips
作中時間
原作開始の一年前。
アリサワ・スミオ
オリ主。高校一年生。ガンプラバトル部部長。
シノダ・エリ
原作ではプラモデル部所属で、同部部長ミヤガ・ダイキに恋してた眼鏡っ子。眼鏡を取ると物凄く美人。新機動戦記ガンダムWのレディ・アン並みに見た目の雰囲気が変わる。
本作のメインヒロイン。理由は作者が眼鏡っ子好きだから。
ホシノ・フミナ
原作ではメインヒロイン。原作開始時は中三だったけれど、本作では二年生スタート。
なお、二次創作イラストでは非常にエッッな絵が多い。
パーフェクト・ダガー
フミナのオリジナルガンプラ。説明は作中通り。
アスラ・ジャジャ
スミオのオリジナルガンプラ。元ネタはFSSのアシュラテンプル。