※この作品はR-18です。

ビルドファイターズ・レイヴン   作:コウサカさんちのコーヒー

31 / 61
31:アジアカップ日本予選・弐

「”表”の素人相手じゃ勝負にならんな。役者が違い過ぎる」

 順調に勝ち進んでいくスミオの戦いぶりを目の当たりにし、ファットマンは感嘆をこぼした。

 

「レイヴンの実力だけでなく、あのMkVの性能によるところも大きいわ。彼のイメージへしっかり応えてる。相当に高性能な機体よ」

 マギーは眼鏡の奥で海色の瞳をレイヴンの傍らで微笑む眼鏡娘へ注ぐ。

「あの眼鏡の子が彼のガンプラの制作を担っているビルダーかな?」

 

「随分親しいな。恋仲か」禁煙パイポをくわえたセレンがレイヴンと眼鏡娘の様子を観察し「ビルダーのカノジョをプロモデラーに弟子入りさせて成長させたい、といったところか。可愛い話だな」

 

 薄く笑うセレンをちらりと一瞥し、マギーはやれやれと小さな溜息をこぼす。

「恋人を半グレのヤクザな活動に関わらせるなんて、危ない橋を渡るわ」

「お前もその”ヤクザな活動”をしてる1人だぞ」毒づくセレン。

 

 姦しい美女2人を余所に、ファットマンは顎を撫でながら不思議そうに呟く。

「それにしても……あれだけの実力を備えたファイターとビルダーが、これまで大きな大会で結果を出してないってのはどういうこった?」

 

 セレンは微苦笑して「レイヴンとあのビルダーはまだ高校一年生だとさ。単純にこれまでは実力不足だったんだろう。中学三年間、鍛えに鍛えて満を持して、といったところだな」

 

「高校一年生?」ファットマンは目を丸くし、呆れとも感嘆とも取れる声音で呻き「末頼もしいこった」

 皮肉と慨嘆混じりのファットマンにセレンが微苦笑を大きくし、マギーは再び溜息をこぼす。

 

 ファットマンは些か真面目な顔つきになり、

「あの眼鏡の子、弟子に取るのか?」

「弟子取りなんて柄じゃないし、正味な話わずらわしいけれど……まぁ実力的にはアシスタントとして不足はないと思うわ。あとは彼女の人柄次第ね」

 マギーの前向きな回答を聞き、深い嘆息をこぼした。

「悪いオトナばかりだな」

 

「自分は例外みたいに抜かすな」

 セレンは禁煙パイポを指の間で弄びつつ、レイヴン達学生の傍にいる中年男性をチラリと窺う。

「まさかラルの教え子だったとは」

 

「ラル大尉は教え子がアングラバトルをやってること、知ってるのかしら」

「知らんだろ」

 マギーの疑問を即座に否定し、ファットマンは好悪の混じった複雑な面持ちでラルさんを窺う。

「あいつは教え子が良からぬ道へ進むことを許したりしないよ。知っていたら、レイヴンはとっくに手を引かされてるさ」

 

「逆を言えば、知ったら即座に介入してくるということだ。面倒極まりない」

 セレンは麗貌をしかめつつ、レイブンを見つめて呟く。

「アジアカップ本選出場なんてことになったら、こちらの計画が狂うんだがな」

 

「それは難しいんじゃないか? 死神やマックス相手に善戦した実力は認めるけどな。流石に現役のプロ連中の相手は厳しいだろう」

 ファットマンの見解にマギーも頷いて、

「私もトップ8くらいが限界だと思う。それ以上はちょっと厳しいわね。ただ」

 眼鏡の奥で海色の瞳を鋭く細めた。

「仮に本選出場ができなくても、現役プロを1人でも倒したなら、彼はかなり注目される。アングラで活動させるなら、身バレを防がないと可哀そうなことになるわ」

 

「そうだな。その辺も考える必要があるか。まったく手間のかかる猫だ」

 そう微苦笑するセレンはどこか楽しげだった。

 

      ○

 

 アジアカップ予選大会初日はつつがなく進み、いよいよ明日のベスト32トーナメントに進む者達を決める最終戦に入った。時計の針は既に夕刻の時間を指していた。

 

 ベスト32を懸けた戦いを前に、フミナの士気はこれ以上なく高い。

 エンジョイ勢は既に消え、相手は現役プロ、本職になりたいセミプロとアマチュアトップ層。と猛者ばかり。

 

 だからこそ、フミナは勝ちたい。

 今年の全国大会地区決勝戦で敗退したことがずっと心に棘として刺さっていた。自分が足を引っ張ったから負けた、という自責の念がフミナの心にこびりついていた。スミオもエリもフミナのせいではない、と何度も繰り返したけれど、決して拭い取れなかった。

 なればこそ、フミナは勝ちたい。猛者達を倒して自身の成長を自覚したい。強くなったと実感したい。

 

「いってきますっ!」

 フミナは聖鳳学園の面々へ元気いっぱいに告げ、バトルユニットの許へ進む。

 

 ユニットの向かい側に外国人の小グループが集まっていた。アジア人以外の面子で揃えられたそのグループは、皆『BFF』というロゴ入りのブルゾンを羽織っていて。

 その小グループの中から、美しい少女がバトルユニットへ歩み出る。

 

「! 貴女は―――」

 カジュアルフォーマルにブルゾンを羽織った、妖精のようなアングロサクソン系美少女。

 

〈先ほどは迷っていたところを助けて頂いてありがとうございました〉

 滑らかで癖のない英語で謝意を告げつつ、美しい少女は小さく一礼。次いで、深い青色の瞳でフミナを真っ直ぐ見据えた。

〈けれど勝負は勝負。BFFの名を担う1人として、貴女を倒させていただきます〉

 

「っ!!」

 華奢で可憐な美少女から強烈なプレッシャーが放たれ、フミナは思わず息を呑む。怖気を覚えた自身を叱咤するように、フミナは気を張る。

「負けないっ!」

 

 フミナはGPベースと愛機をセット。宣言する。

「ホシノ・フミナ、F90・メタルドレスッ! 準備出来ました」

 

 向かいの美少女もGPベースとガンプラをセットし、静々と告げる。

〈リリウム・ウォルコット。G・アンビエント。準備完了です〉

 

 用意されたガンプラは富野御大が手掛けたアナザーシリーズ『Gのレコンギスタ』に搭乗する主人公機G・セルフ……だが、その面影はほとんどない。

 原型は曲線が多用された丸顔に良くも悪くもガンダム系デザインの体躯だったが、GPベースに置かれたG・セルフは直線を複雑に組み合わせた厳めしい体躯に、ネームド敵機のジャスティマを思わせる悪役面だ。

 塗装は主人公機らしい白ベースのトリコロールではなく、陰鬱なスモークホワイトとマットブラックの二色。

 

 武装は右手にビームライフル。左手に実弾系ライフル。背中にファンネルミサイルポッド。それに翼の意匠のスタビライザーと自機追従型ECM。腰にビームサーベル。

 近年の主流である重武装バックパックや自律兵器(ファンネル)系を装備していなかったが、そのワイド化された胸部とガンダムには見られないブースターやスラスターの配置に、フミナは気づく。

 

 ―――部長と同じ、アーマードコア系。このガンプラ、強い……っ! 

 直感的にフミナは悟り、起動したホログラムコンソールを握って深呼吸した。

 相手はプロで、ガンプラは精強。けれどそんなこと、関係ない。

「私は……勝つ!」

 

 システムが戦いの開幕を告げた。

『バトルスタートッ!』

 

      ○

 

 白と黄色と黒のトリコロールに塗られた重装甲なF90・メタルドレスは、制作者のホシノ・フミナがコンセプトした通りに戦う。すなわち―――

 荒れ狂う銃弾の驟雨。駆け抜ける熱光線の閃光。ミサイルがもたらす鉄と炸薬の嵐。

 その全てをサブアームが保持する大盾と各部に装着した増加装甲で防ぎ、護り、耐える。

 

 苛烈な攻撃に耐えつつ、F90が両手で保持する大型レールガンをぶっ放した。

 人間の目では到底追いきれない極超音速の砲弾が、月の空を駆け抜けていく。

 

 Iフィールドだろうがラミネート装甲だろうが防げない質量弾。ヴァリアブルフェイズドシフト装甲でも防ぎきれない超強力な運動エネルギー。当たれば戦艦だろうがモビルアーマーだろうがお構いなしにぶち抜く一撃抹殺の”魔砲”だ。

 

 然して、赤い彗星が語ったがごとく。

 如何に強大な威力を誇ろうとも、当たらなければどうということはない。

 

 G・アンビエントはAC系ガンプラ特有の高速機動性を発揮し、妖精のように月の天地を踊り、フミナの射界や視界からするりするりと逃れる。

 

「! FCSがっ!」

 しかも、アンビエントの放つ近距離戦用ECMがF90・メタルドレスのロックオンを妨害する。捜索追尾能力の低下。ロックオンの遅延と精度低下。システムの助けが得られない。

 

 高機動によって射撃機会が乏しく、限られた機会は電子妨害で狙いが定まらず、放ってもかすめることすらできない。

 

 フミナの瑞々しい肌を冷たい汗が伝う。

 鳴りやまない警告音。絶えない警告表示。減少していく装甲耐久値。攻撃が当たらない焦燥。一方的に撃たれ続ける不安。敗北という恐怖。

 

 リリウム・ウォルコットと隔絶した実力差。アンビエントと圧倒的な機体性能差。二つの残酷な現実が絶望という名でフミナの心をごりごりと磨り潰し、めきめきと折っていく。

 

 否、フミナの闘志は擦り潰れない。フミナの戦意はへし折れない。

 F90・メタルドレスは被弾上等で戦うために作り上げた機体。この戦況こそ想定した事態。相手の攻撃は確かに激しい。けれど銃弾は大盾と増加装甲を抜けない程度の威力。ビームとミサイルは大盾で直撃を防いでいる限り、問題ない。

 問題はない!

 

 スミオとエリ、ラルさんやユウマの助けを得て組み上げた機体は、フミナが望んだ通りの性能を十全に発揮している。

 ならば、どうして膝を屈せよう。

 

「まだまだぁーっ!」フミナはホログラムディスプレイ上で高速機動する白黒の敵を睨み据え「FCSが効かないならっ! よぉく狙って打てばいいのよっ!!」

 ド根性な脳筋理論でぶっ放されるレールガン。

 

 されど、侮るなかれ。

 セオリーに従わぬ根性と勘と狙いの甘さが、歳若くしてプロのファイターとなるほど優秀な―――玄人のセオリーに通じたリリウム・ウォルコットの意表を突いた。

 

 極超音速の質量弾が左至近を擦過し、熱圧衝撃波によって左腕が焦げて塗膜が燃焼し、翼状のスタビライザーから翼端の羽根がもぎ取られた。

 

「!? やったっ!」フミナは自分自身でも驚き、士気を新たにする「やれる! 相手がプロでも、当たれば倒せる!」

 

 リリウムはダメージを確認し、熱損した左腕を一瞥する。

 優等生でマジメなリリウムは『素人の苦し紛れがまぐれ当たりした』とは考えない。雑魚に噛まれたと憤ったりしない。自身の操縦の甘さが原因と見做し、無意識に対戦相手の能力と機体性能を過小評価していたと反省。速やかに改める。

 

〈失礼しました。心のどこかで貴女を侮っていたようです〉

 G・アンビエントの双眸がぎらりと煌めいた。

〈これより、貴女へ本気で挑みます……っ!〉

 

 発せられるプレッシャーが爆発的に増大し、フミナは気圧されて息を呑んだ。

 

 プロが本気で殺しに来る。

 その事実にフミナは恐れと怯えを抱くと共に、自分はプロを本気にさせることが出来たという昂奮と更なる戦意の高揚を覚える。

 

 そして、アンビエントは推力を爆発的に発揮し、躍る。

 暴虐的速度で近距離円運動をしながら弾幕を繰り出す。アサルトライフルがばら撒く曳光弾の嵐は機体上部に集中し、その閃光がフミナの視界と機体のセンサー系を塞ぐ。ビームライフルの繰り出す高出力熱光線が大盾を押さえ込み、本命のファンネルミサイルが大盾やフミナの死角から襲い掛かる。

 

 上下左右に翔け躍る高速運動と苛烈かつ冷徹な攻撃に、フミナの操作が追いつかない。防御も回避も反撃も出来ない。否、行う暇すらない。死角から突き刺さるファンネルミサイルの衝撃にホログラムディスプレイが強く激しく揺らぎ、荒々しくノイズが走る。

 

 F90を爆心地に煤煙と粉塵が月面へ広がっていく。

 リリウムは攻撃の手を止めない。システムが撃破を伝えるまで、黒煙内に表示されているターゲットボックスへ弾幕を叩き込み続ける。まるで高圧放水機で砂山を削り取っていくように。

 

「強い……」スミオが思わず呟き、エリが顔を蒼くして両手で口元を覆い、ラルさんが苦しげに唸り、「フミちゃん……っ!」ユウマは両手を強く握り込む。

 

 あまりにも一方的で容赦のない猛弾幕の果て。濃密な戦塵の中でひと際大きな爆発が生じた。誰もが勝負が決したと見做す中。

 

 G・アンビエントのホログラムディスプレイ上でターゲットボックスが消失。リリウムがバトル終了宣言が下されると判断し、銃撃と機動を止めた。

 

 その刹那。

 煤煙の闇の中から、ボロボロになったF90が飛び出す。

 

 美しかった黄色×白×黒のトリコロールは見る影もない。左の大盾は失われ、増加装甲も剥げ落ち、顔貌の左半分は抉られ、左腕は肘から先がなく、右足も左足も膝の上下から先がない。

 F90は右の大盾を構え、右手にビームサーベルを握りしめ、背部ブースターを全開にぶっ飛ばし、乾坤一擲の突撃に臨む。

 

 ホシノ・フミナは雄々しく叫ぶ。その横顔のなんと美しく気高いことか。

「いっけええええええええええええええっ!!!!」

 F90が血を流すように黒煙を曳きながら翔け―――

 

 リリウムは回避せず、ビームライフルを捨てて腰からビームサーベルを抜刀。フミナの一撃を受け止め、

〈貴女の勇敢さに、リリウムは敬意を表します〉

 F90を斬った。

 

『バトル・エンド!』

 システムが戦闘終了を宣言した。

 

      ○

 

 試合後、フミナは礼を失さなかった。『ありがとうございました』と試合の礼を告げてリリウムと握手し、GPベースとガンプラを持ってバトルユニットから足早に離れていく。

 

 リリウムはそんなフミナの背に声を掛けようとするも、どこか寂しげに口を噤んでスタッフと共に会場を後にした。

 

 フミナは出迎えたスミオ達に笑顔を向け、GPベースと愛機を鞄に仕舞いこみながら、

「いやぁ負けちゃいました。やっぱりプロは凄いですよね。一発かすめた以外、全然ダメでしたもん。歳は同じくらいなのに、凄いなぁ。私も頑張った、ん、ですけ……ど……」

 

 ぽろりと涙がこぼれ。ぽろりぽろりと涙が溢れ。ぼろぼろと涙が流れていく。

 

「くや、しい……っ! あんなに頑張って準備してきたのに……っ! 先輩達にラルさんに、ユウ君にあんなに助けてもらったのに……負けちゃったぁ……っ!」

 

 悔し泣きするフミナをエリがぎゅっと抱きしめ、あやすように背中を撫でる。スミオもエリの胸元に顔を埋めて大泣きするフミナを労わるように頭を撫でる。ラルさんは温かな眼差しを注ぎ、うんうんと大きく頷く。

 

 ユウマはぎゅっと強く硬く拳を握る。ガンプラバトル部の輪へ加わり切れないことが酷く苦しく思えた。

 

 痛みにも似た感情から目を逸らすべく、ユウマはリリウム・ウォルコットが去っていった通路へ顔を向け、スミオに問う。

「アリサワ先輩なら、勝てますか?」

 

 スミオは険しい顔のユウマをちらりと一瞥し、ゆっくりと息を吐く。

「正直に言って、同じ土俵で戦ったら勝てないな。ぼくも高速機動(ハイベロシティ)戦闘(コンバット)には自信があるけど、彼女はぼくが操れる速度より一回りも二回りも速い」

「そう、ですか」口惜しそうに俯くユウマ。

 

「けどね」スミオは目を細め「戦いに絶対はない。100回戦ったら99回は負けるだろうけど、1回くらいは勝てるかもしれない。この大会で彼女と当たる試合が、その1回になるかも入れない。まぁ、なんにせよ……」

 エリにあやされるフミナを窺う。凛々しい顔立ちに獰猛な戦意を浮かべた。

「可愛い後輩を泣かされたんだ。一矢報いたいね」

 

 とはいえ。とスミオはトーナメント表へ目線を移し、獲物を見定めた狩人のように双眸を鋭くする。

「そのためにも明日のトーナメントへ勝ち進まないとな」

 

 明日のベスト32トーナメントに勝ち進むための本日最後の試合。

 アリサワ・スミオの試合が始まる。




Tips
リリウム・ウォルコット
 オリ設定。元ネタはACfaに登場したカラード・リンクスのリリウム・ウォルコット。
 本作における性格や外見は完全にオリ設定。

G・アンビエント
 オリ設定。元ネタ機体はGのレコンギスタに登場する主人公機G・セルフとACfaのリリウム機であるアンビエント。

 Gセルフとアンビエントとはあんまり似てない機体だけど、『BFFの王女』と評されるリリウムには主人公機に乗せたかった。異論は認める。

 なお、兵装はだいたいACfaと同じ。

ホシノ・フミナ
 原作ヒロイン。プロとアマチュアの実力差を味合わされた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。