ビルドファイターズ・レイヴン 作:コウサカさんちのコーヒー
アジアカップ本選参加を賭し、32名のファイターが勝敗を競うトーナメント。
オープン大会の常として、勝ち抜いた面子のほとんどがプロかセミプロ。アマチュアは一握り。
そして、プロは概ね3種類。
世界選手権などの公式大会を主戦場とするランカー。キング・オブ・リンクスやレイヤード・リーグなど非公式系リーグなどのプロ選手。タワーズ・オブ・ミグラントなど公式非公式の国内リーグで活動するプロ選手。
そんなガンプラバトルを生業にしている者達へ挑むは、プロ選手として活動しているけれど、一本で食っていけず他の仕事しながら活動しているセミプロ。様々な動機を持つアマチュアのトップ層だ。
ガンプラバトル界隈の上澄み達がアジアカップ本選出場枠を懸け、激戦を繰り広げる。
欧州の歴史的町並みの中で。アジアの荘厳な摩天楼で。北アメリカの乾いた荒野で。北アフリカの焼けた砂漠で。南米の巨大な密林で。北極の酷寒な雪原で。
無数の残骸が漂う戦場宙域で。膨大な隕石の浮かぶアステロイドベルトの中で。砕かれたコロニーの中で。小惑星要塞の内外で。地球を見上げる月の上で。天地も遮蔽物も何もない完全な宇宙空間で。
手塩を掛けて作り上げられたガンプラと心血を注いで作られたガンプラが激突する。
ファンネルのオールレンジ攻撃を浴びて砕かれる主人公機。ビームサーベルで真っ二つに両断されるネームドキャラ専用機。大怪獣のような大型モビルアーマーが爆散する。改造に改造を重ねられたフルカスタムの量産機が悲愴に撃墜される。心血を注いで作り上げられたオリジナル機体が無惨に撃破される。
勝負の世界は残酷だ。どれだけ情熱と時間と金を注いでも、どれほど努力を重ねて鍛錬と研鑽を積み上げても、どんな思いや決意や覚悟を抱いていても、勝利は約束されない。努力が報われると誰も保証してくれない。
拳を握りしめて雄叫びを上げる勝者。歯を食いしばって悔しさを堪える敗者。
聖鳳学園ガンプラバトル部の面々が見守るプラフスキー粒子が描く山野の戦場でも、勝者と敗者が決しようとしている。
深紅のガンダムMkVとSDガンダムの千成大将軍。
片や無名の高校生。片やベテランで知られるプロファイター。
片や模型誌企画出身の機体。片や少年誌漫画発の機体。
ド派手なシャチホコ頭に金メッキ仕様のSDガンダム・BB戦士が山岳地帯を所狭しと暴れまくる。
『くらえ
MkVからビーム砲の直撃を食らって強化パーツを失い、千成大将軍から千成将軍にグレードダウン。
『な、何のこれしきィッ! まだ千成鳳凰が壊されただけだっ!』『くらえっ!
ナイトフォールからマイクロミサイルの弾幕を浴び、千成将軍は全ての外装パーツを失い、ザクレロ頭のハゲチビが千成瓢箪を飾る長棒を構えた。
『まぁだまだーっ! 軽装モードが残っているっ!!』『アバーっ!!』『もはやこれまで……死なば諸共ッ! 貴様も道連れにしてくれるっ! うぉおおおおおおおおおおお千成ボンバーッ!!』『バンジャーイッ!!』
どっかーん。
玉砕自爆攻撃で木っ端微塵に吹き飛ぶ千成大将軍。
そして爆炎に焼き払われ、ハゲ山と化した山肌。そのてっぺんに犬神家のスケキヨ君みたく逆さ立ちで突き刺さるMkV。勝者の姿か、これが。
『バトルエンドッ!』
ともあれ。アリサワ・スミオ。ベスト16進出。
・・・
・・
・
全国大会出場経験もない高校一年生のアマチュア選手が、ガチンコ(?)で戦ってプロを倒した。
その結末に会場内は驚嘆と感嘆に満ちる。にわかに注目が集まり、プロを破った高校生『アリサワ・スミオ』の名前が検索される。
しかし、当人はそれどころではない。
バトルダメージが軽度に反映される『B』モードとはいえ、試合終盤に食らった玉砕特攻はMkV・ナイトフォールを損傷させていた。
スミオは傍迷惑な対戦相手へ挨拶と握手を済ませるや、速やかに選手控室へ戻る。損傷したMkVをビルダーのエリに委ねた。
「エリ、頼む」
直せるか? とスミオは問わない。エリを完全に信頼しているから問う必要などない。エリが直せないならそれまでのことだ。
「予備部品を用意済みですから大丈夫。すぐに取り掛かります」
エリはスポルディングバッグから工具セットとパーツケースを取り出し、損傷したMkV・ナイトフォールの修理と整備を始める。
「次の試合まではそれなりに時間がある。焦らずにやろう」
「はい。こういう時こそ落ち着いて、ですね」
ラルさんの心配りにエリは強く頷き、テキパキと、けれど丁寧に作業を進めていく。
「エリ先輩! 私も手伝います! 何をすれば良いですか!」フミナが元気いっぱいに協力を申し出る。
「僕も、出来ることがあれば」と本日も同道しているコウサカ・ユウマも続いた。
「では、外した装甲の被害部をヤスリがけして均してください。壊れたアンテナは予備パーツがあるので交換するだけで大丈夫です。塗装はタッチペンの銀で良いです。実戦で塗膜が剥げたリアリズム処理にしましょう」
「はいっ!」「分かりました」
エリの指示を受けたフミナとユウマは早速、紙ヤスリで被害部を馴らしていく。エリ自身は被害の大きいバインダーの修理と複雑な機構のパイルバンカーをチェック。
スミオは眼鏡美女と元気美少女と天才少年が作業する卓の空き椅子に座り、火照った体を冷ますように制服の詰襟上衣を脱いだ。
「まさか玉砕自爆とは……酷い目に遭った」
「勝てないから道連れにって……40過ぎた大人のやることかな」
ユウマが作業しながら渋面を作る。悪あがきにしても酷い、とフミナも同意。
「まぁ君らの意見は重々分かる」
ラルさんはスミオへスポーツ飲料のペットボトルを渡しつつ、続けた。
「彼はベテランのプロだ。”人気商売”として敗北の際にエンターテイメントを狙ったのだろう。まあ、褒められた振舞いではないがね」
「恐ろしい相手でしたよ。試合内容ほど楽じゃなかったです」
スミオは喉をうねらせて500ミリペットボトルを一気に干す。
試合映像では、MkV・ナイトフォールはその高機動性を活かして主導権を手放すことなく、コミカルな振る舞いの千成大将軍を下したように見える。
その実、千成大将軍の動きやタクティクスは老獪で狡猾、隙あらば必殺の一撃が織り込まれていた。特にあの『千剣アタック』。マイクロミサイルの全弾投射で防いだが、弾数が不足していれば、MkVは切り刻まれていただろう。
道化染みた振舞いで油断を誘い、気を緩めたところをバクッと襲うその戦いぶり。まるで千成大将軍のモチーフになった豊臣秀吉その人のようだ。
神経が疲労した戦いを振り返り、スミオは大きく息を吐いた。ラルさんへ言った。
「今回は組み合わせと相性で上手く立ちまわれましたが、次はこうはいかないですね」
「うむ」ラルさんは大きく頷いて「次の相手からはスミオ君をアマチュアや高校生と侮ることはない。油断なく攻めてくるだろうな」
ラルさんはトーナメント表を確認して「次の相手はガンダム・アスタロトかケルディムガンダムだな」
アスタロトは『鉄血のオルフェンズ』の外伝機体。ケルディムは『機動戦士ガンダムOO』の主役機の一つ。
「ラミネート装甲機とトランザム機ですか」スミオが渋面を作り「個人的にはトランザム機が嫌だな」
『機動戦士ガンダムOO』の主要機に搭載されている太陽炉というジェネレーターは、トランザムと呼ばれる制限型パワーアップモードを持つ。
このトランザム・システムはガンプラバトルでも再現されており、機体蓄積のプラフスキー粒子を大量消費するかたちで超性能を発揮する。
何者が相手であろうとも一瞬で滅殺し得る便利なシステム。その反面、扱いを誤れば確実な自滅を招く。
むろん、この手の大会で上位へ進出するファイターは、トランザムの扱いに慣れている。自滅は期待できない。
「試合データを確認しておこう。いくらかでも手の内を知っておいて損はない」
ラルさんの提案に従い、スミオがスマートフォンを取り出して対戦相手の試合情報を調べ始めた。
○
フナキ・サトミはカメラに目線を向け、ポーズを取りつつ、内心で焦れていた。
アジアカップ日本予選の二日目、この日の午前中はモデルのお仕事で現地に行けないからだ。
休憩時間に入るや、サトミは自分のスマホで動画配信サイトを開き、アジアカップ日本予選のライブ配信チェック。動画配信の方はベスト8までランダム配信。”推し”の試合内容は放送されていなかった。
美貌が損なわれそうな顔で舌打ちしつつ、事務所貸与のスマホでSNSを開いてアジアカップ日本予選絡みの書き込みやコメントをチェック。なんせ現場から実況書き込みしている奴がいくらでもいる(会場の写真、動画の撮影は厳禁らしい)。
―――良かった。勝ち進んでる!
アリサワ・スミオはSDガンダムとかいうディフォルメキットを扱うベテランと戦い、バカ試合の末にベスト16に勝ち進んだようだ。次の対戦相手も決まったようで、ガンダム・アスタロトとかいう機体を操る国内プロと戦うらしい。
―――見たい~~~~~~っ!
絶対面白いに決まってる。あのナイトフォールと名付けられた機体が戦場を躍動する様が見たい。”レイヴン”の戦いざまが見たい。レイヴンの戦いを見て心を焼くような昂奮を味わいたい。勝敗を見届けたい。結末が勝利でも敗北でも、彼の戦いを味わいたい。
ファン心理の欲求が飢餓感にも似た衝動を生んでいた。
しかし、仕事を投げ出すわけにはいかない。このお仕事で稼いだお金が観戦のためのチケット代や交通費になるのだから。
―――勝って、アリサワ。勝って、レイヴン!
サトミは祈る。お仕事は午前中いっぱいで終わる。ベスト8はお昼休みを挟んだ午後からになる。移動時間を考慮すれば、ぎりぎり間に合うはず。
―――私が観戦するために、勝ってっ!
実に自己中心的かつ自己都合的な、真摯なる願いであった。
そんな純粋なのか邪なのか評価に別れる願いが届いたのか―――
ア・バオア・クーの地表面で繰り広げられる、鉄と炸薬と熱光線の殴り合い。プラスチック製玩具を用いた詮無い遊戯は、然れども、この地球上で最もプリミティブな闘争に他ならない。
『鉄血のオルフェンズ』外伝登場機体ガンダム・アスタロトの改造機と、ガンダムMkV・ナイトフォールが文字通り身を削り合い、戦意と闘志をぶつけ合う。
プラフスキー粒子が描く宇宙に刻まれるスラスター光の幾何模様。曳光弾が躍り、熱光線が駆け、爆炎の花が咲く。
左右非対称な雄々しいガンダムの動きは凄まじく、銃撃は精密にして狡猾。白兵攻撃は苛烈にして巧妙。ナイトフォールは着実に損害を被り、損傷が増えていく。
エリは自身の手掛けた深紅の機体が肉を斬られ、骨を削がれるように傷ついていく様に、思わず手を握り込む。が、その目を決して背けない。フミナが声援を送り、ユウマとラルさんは固唾を飲んで見守る。
アスタロトが巨大な左腕―――打撃兵器サブナックルを振るったその時、ナイトフォールは姿勢制御用スラスターを焚き、軽業師のようにバク転。同時に新体操選手のように身を捻りこむ。機体各部から血のように流れる煤煙が渦を巻く。
MkV・ナイトフォールがバク転途中の逆さま状態から、同じく傷だらけのアスタロトにチャージパイルを叩き込んだ。豪快に爆ぜる指向性炸薬。アスタロトの大きな左腕がぶち抜かれ、機体がごっそりと抉られる。
アスタロトは致命的な損傷を被りながらも即死を免れた。が、腰部の深刻な損傷によって姿勢の立て直しが追いつかない。
その間隙を逃すことなく、ナイトフォールはアスタロトへ追撃のブーストキック。アニメ的演出により破壊音が宇宙空間に轟き、多量の火花と破片が飛散する。大質量の激突衝撃に大破していたアスタロトの左腕がもげ飛び、上半身を支える腰部フレームがついに破断。
身動きの取れぬアスタロトへ、ナイトフォールはトドメにマイクロミサイルの残弾とバインダーのビーム砲による近距離砲撃をぶちかます。
パイルバンカーからの追撃コンボを完璧に浴び、ガンダム・アスタロトが爆散した。
『バトル・エンドッ!』
システムの告げる戦闘終了宣言。ブースのシステムが落ちる。ホログラムのディスプレイやコンソールが消失する中、スミオは勝利を味わうより、疲労を吐き出すように深呼吸した。
プロとの戦いは消耗が激しい。終始緊迫感が続く戦いに身体中汗だく。喉はからから。絶え間なくコンソールを操作していた指と手首の腱が痛む。酷使した脳ミソがくたびれ、”栄養”を欲している。
スミオは対戦相手と試合後の挨拶を済ませ、GPベースと傷ついた愛機を抱えてブースを離れてエリ達と合流した。
「勝てたよ」消耗しきった弱々しい笑顔で、言葉少なに勝利を告げる。
「お疲れさまでした、スー君」エリはスミオを労う。
「凄いですよ、部長! ベスト8入りですよ!」フミナも昂奮気味。
「おみごとでした」とユウマも称賛する。
「次は昼休み後だ。スミオ君はしっかり休息を取り、エリ君達はガンプラを出来る限りメンテする。それぞれがやるべきことをやろう」
ラルさんの言葉にスミオは疲れ顔で頷き、エリ達は力強く頷いた。
会場を後にする聖鳳学園の一行を遠目に見送り、セレン・ヘイズはスミオの勝利に仏頂面を浮かべる。
「あの程度の奴にあれほど手傷を負うとはな。まだまだ甘い」
「プロに勝ったことを褒めてやれよ。なあ、マギー」
ファットマンが隣に顔を向けると、マギーは会場の一角で行われている試合をじっと見つめていた。
「? どうした?」
ファットマンとセレンがマギーが見つめている試合へ目線を向けた。
楽しそうに機体を操り、バトルを行う青年。ジャケットにパンツ。高品質だけれどベーシックカジュアルな装い。
青年の操る機体は蒼く塗られたガンダムスローネ・ツヴァイ。ただしその姿は些か原作と異なる。胸部の拡張とスラスター類の増強はアーマドコア系改造。象徴的なGNバスターソードはなく、右手に高威力の実弾ライフル、右肩のバスターソードの懸架ポイントに拡散バズーカ、左腕のビームガンはビームブレードに変更。特徴的武器である遠隔操作兵器ファングはそのままだが、長いバインダーは短縮化されているようだ。
その蒼いスローネ・ツヴァイを駆る青年の操縦技術は非常に高かった。オーバードブーストとクイックブーストを多用した高負荷な三次元機動を難なくこなし、戦いの主導権を握ったまま放さない。一方で相手の実力を測るように、わざと戦いを引き延ばしている印象も受ける。
「かなりの腕前だが……勝負に楽しみを持ち込むタイプのようだな」
セレンは評を語りつつ、バトル中の青年だけでなく周囲の様子も観察する。と。
バトル中の青年の後ろ。壁際には神経質そうなアラフォー男性。明らかに不機嫌なその男性に困っている若い女性と意外と図太そうな若者。三人ともパリッとしたビジネススーツ姿だ。特に神経質そうな男性の着衣は高級品で、手首にはロレックスだ。
どこかの企業チームを思わせるが、セレンに見覚えはなかった。出場選手の名前を確認してみる。
「ファイター名はフロイト。機体名はガンダムスローネ・ロックスミス。アーキバス・コーポレーション所属……アーキバス? 聞いたこと無いな」
「アーキバス。たしか東南アジアやアフリカを草刈り場にしている欧州系の総合企業だったかな。ガンプラバトルどころか玩具や遊戯と無縁のお堅い企業だよ。あの兄さんが個人で参加してるのか、会社として
ファットマンがメモ帳の内容を読み上げるような顔で語り、セレンは前髪で隠していない左眉を上げて訝る。
「相変わらず妙なことに詳しいな」
「新聞を読んでるからな」と笑いながら嘯くファットマン。
マギーはフロイトなる青年の操縦と蒼いスローネの戦いぶりに、ぽつり。
「彼、本気を出したら相当強いわ」
ファットマンがトーナメント表へ目を向けて「あいつがこの試合に勝てば、次はレイヴンと当たるな」
「私の猫が勝つに決まっている……と言いたいところだが、マギーのいう通り、あの小僧は本気で戦えばかなり”やる”ようだ」
セレンはパイポを指の間で踊らせ、唇の端を曲げた。
「面白い戦いが見られそうだな」
Tips
千成大将軍
SDガンダムBB戦士のキット改造機。
コミックボンボンの『超戦士ガンダム野郎』で登場したオリジナルガンプラが、読者人気からキット化されたもの。ベース機はF91。
本作では40を過ぎたベテランのプロファイターが操った。
キャラ立ちさせるほどでもないので、名前と外見描写は省いた。
ガンダム・アスタロト
『鉄血のオルフェンズ』の外伝作品『月鋼』に登場したガンダムフレーム機体。左右非対称のデザインが特徴。キット化とゲーム登場がされている。
ガンダムスローネ・ツヴァイ。
『ガンダムOO』に登場したネームドガンダム機体。疑似太陽炉で稼働しているため、トランザムは発動しない。遠隔操作兵器ファングはファンネルと違い、大気圏内(1G環境下)でも使用可能。
フロイト
詳しい説明は次回に。