※この作品はR-18です。

ビルドファイターズ・レイヴン   作:コウサカさんちのコーヒー

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34:アジアカップ日本予選:伍

 秋晴れの午後。海辺の日差しは強いけれど、晩秋の潮風は冷たい。横浜みなとみらいのコンベンションセンターはアジアカップ日本予選の昼休憩を迎え、屋外に設けられたフードエリアは出店の放つ美味そうな匂いで満ちており、あちこちから本大会を題にした雑談が聞こえてくる。

 

 そんなコンベンションセンターへ、新たな観客が一人加わった。

 うら若き美貌をティーン向けのカジュアルなコーデとショルダーバッグで小奇麗に飾った彼女は、フナキ・サトミ。午前中の仕事が終わるや公共交通機関を乗り継いできた次第。

 

 サトミは広場の様子と手首のティーン向けブランド腕時計(撮影で関わったブランドの品。営業努力である)で時刻をチェック。

 間に合ったぁ、と安堵の息を吐く。

 

 足早にコンベンションセンターのアジアカップ日本予選の会場施設へ赴けば。

 会場施設のメインフロアは昼休み中に模様替えが行われているらしく、扉が閉ざされており、観客達は廊下やエントランスなどで待機している。

 

 エントランスに据えられた大型ディスプレイには、午前中に行われたベスト32とベスト16の試合がランダムで流されており、観客達が見物しながら試合内容や選手、ガンプラについてあれやこれやと談笑したり議論を戦わせたりしていた。

 

 手首の腕時計をもう一度確認。午後の部開始まで20分以上ある。サトミはひとまず”お花摘み”へ向かった。

 この手のイベントで女子トイレは混雑しがち。幸いというか5分ほど待つだけでトイレを済ませられた。まだ時間はある。何か軽く食べようかな、と思案。なんせ仕事場から直に来たのでお昼を食べていない。

 

 サトミがフードエリアへ向かおうとしたところで、「フナキさん?」と声を掛けられた。

 振り返れば、”推し”がいた。

 

 聖鳳学園の制服にライダー用パーカージャケットを羽織ったアリサワ・スミオを認識するや、サトミの心拍と体温がにわかに上昇する。

 

「アリサワ」

 サトミは半音上がっていそうな声で”推し”の名を口にした。

 

「観に来てたんだ」スミオは周囲をちらりと見回して「ひょっとして、1人で来た?」

「今日はね。昨日はミライと一緒に来たんだけど、今日は都合が合わなくて。私もさっき着いたとこ」

 

「そうなんだ」ささやかに驚くスミオ。「すっかりガンプラバトルのファンだね」

 素朴な反応を返すスミオに、サトミは可憐な微苦笑をこぼす。私はあんたのファンよ、”レイヴン”。

 

 内心で苦笑いをこぼしているところへ、スミオはサトミの装いを見て、さらりと言う。

「流石はモデルさん。オシャレで似合ってるね」

 

 モデルをしているサトミだ。容姿や装いを褒められることになれている。これがクラスメートや友達なら自尊心と肯定感をくすぐられて微笑むだけ。けれど、”推し”から褒められたとなると、嬉しさの度合いが跳ね上がる。頬にほんのりと朱が混じるくらいに。

 まさに『言葉は内容より誰が言ったかが大事』という一例。

 

 自身が戸惑うほどの嬉しさに若干モジモジしつつ、サトミは照れ隠しを含めて心から言祝ぎを贈る。

「そだ。アリサワ、ベスト8おめでと」

 

「ありがとう。なんとか勝ち進んだよ」

 スミオははにかみつつ、素直に祝辞を受け取る。

「控室に招待してあげたいところだけど、関係者じゃないと入れないんだ。ごめん」

 

「いいよいいよ」サトミは自身の腕時計を示して「それより時間大丈夫? そろそろ午後の部の開始予定時間だけど」

「そうだった」スミオは思い出したというように眉を上げ「じゃあ、ぼくはこれで」

「試合、頑張って!」

 サトミはかなり本気のこもった声でスミオを送りだす。

 

「頑張るよ」

 スミオは軽く握り拳を見せ、選手控室の方へ去っていった。

 

 その背を見送りながら、サトミは両手を顔に沿えて思う。

 やっば。”推し”に褒められるとチョー嬉しい……っ!

 

 推し活の楽しさを味わいつつ、サトミは会場出入り口へ並ぶことにした。

 なんとしても良い観戦場所を確保せねば!

 

      ○

 

 会場は昼休みの間に様変わりしていた。

 広々としたフロアに複数基あったバトルユニットは撤去され、代わりにステージと観戦ゾーンが儲けられ、ステージ壇上にバトルユニットが一基だけ据えられている。

 

 どうやらベスト8からは一試合ずつ順に行うらしい。ステージ背後には大型の立体スクリーンが設置され、複数のウィンドウで試合や選手の映像を流すようだ。

 

 壇上にMCの男性とアシスタントの美女が現れ、賑やかな音楽と派手な光の演出が始まった。盛り上げられる雰囲気に観客達が期待に胸を躍らせる。

 

 温まる会場の空気に合わせ、MCによる選手紹介が始まった。スクリーンに突貫で作られた映像が流れる。ベスト32と16の試合映像とさきほど急遽撮影された選手写真、登録情報の選手名とガンプラ名が表示される。

 

 8人のうち6人はプロ。中でもリリウム・ウォルコットがステージに上がるとひと際大きな歓声が上がった。

 妖精のような美貌。歳若いながら鮮烈な操縦技術。ワークス製の洗練されたガンプラ。そりゃ人気も出よう。

 

 スミオの順番が訪れ、MCに紹介される。

 8人中、唯一のアマチュア学生。頑張れよーとあちこちから声援が上がった。が、そこに優勝を期待する色はない。素人の学生がよう勝ち進んだ。感動した! でもまあ、ここまでだろうな負けるとは思うけど全力を出して頑張れや。そんな声援。

 

「アリサワ選手。一言お願いします!」

 アシスタントの美女にマイクを渡され、スミオは不慣れな手つきでマイクを握り、薄く微笑んで言った。

「プロの皆さんに冷汗を掻かせられたら、と思います」

 

 不敵な発言に『おお~』とさざめきが起きる。ありきたりな『頑張ります!』ではなく、若者らしい挑戦的な物言い。お祭り感が強まり、観客達が喜ぶ。

 

 最後にフロイトという選手が紹介された。

 長身のアスリート体形。ハンサムな顔立ち。栗色の髪。焦げ茶の瞳。マギーと同じく人種的特定が難しそうな多民族混血者はマイクを渡されると、並ぶ7人のファイターを窺い、言った。

「大会の時間が余ったら、ここに居る全員と戦わてくれないか?」

 

 会場の全員が思う。あ、こいつバトルジャンキーだ。会場の一角で神経質そうなスーツ姿の男性がピキっと青筋を浮かべていた。

 ともあれ、準々決勝開始前のミニイベントが終わり、一旦選手全員が袖に捌ける。

 

 準々決勝第三試合のスミオはステージから降りて控室へ戻る。控室ではエリ達がMkV・ナイトフォールの修理を終えていた。

 

「全体的な応急修理と装備をいくつか変更しました」

 エリはビルダーというより野戦中の整備兵みたいな顔で説明する。

 

 ベスト32とベスト16で損傷した部位の修理は、塗膜剥げをヤスリ掛けとメタリック塗料で誤魔化し、装甲の貫通孔や割れ欠けはプラフスキー粒子含有プラ板の削り粉とUV瞬間接着剤で対処。フレームの歪みはヒートガンで温めて修正、ヒビや亀裂部は真鍮製の埋め込みと瞬着で補強。

 

 パイルバンカーと背部のドーベンウルフ型バインダーはこれまでの戦闘の負荷と損傷に性能や動作を保証できないため、まずバックパックをMkV本来のもの――ビームサーベル兼ビームキャノン搭載型に変更。

 

 ただしこれも、インコムが排されて代わりにスラスター部を大型化と推力偏向化。両肩にMkVが元々装備する3発入りミサイルポッドを4基搭載。右腕のマシンガンはそのまま。左腕は本来のブースター内臓シールドではなくドラム弾倉の半自動擲弾銃(グレネードガン)。

 

 スミオは修理仕立ての戦闘機で出撃するパイロットみたいな顔で説明を真剣に聞き、エリへ微笑みかけた。

「間に合わせてくれてありがとう。全力で戦える」

 

「もっと耐久性を高く作れていたら……」

「それを言ったら、被弾したぼくが一番悪いさ」

 俯きかけたエリの肩に手を置き、スミオは凛々しい顔立ちに似合いの微苦笑を称え、自身を込めて告げる。

「エリが作った機体のおかげでここまで勝ち上がれた。ありがとう、エリ」

「スー君……」顔を上げるエリ。眼鏡の奥で二重アーモンド眼が潤んでいた。

 

 そのままキスでもしそうな空気を醸し始めた2人へ、ごほん! とフミナが咳を打つ。

「先輩達、公衆の面前です。控えてください」

 ラルさんはお尻がムズムズしており、ユウマは見慣れぬ『恋人同士の雰囲気』に当てられて赤面。

「……フミちゃん。ひょっとして先輩達は普段からこの調子なの?」

「隙あらばイチャつくわ」

 フミナは腕組みして鼻息をつき、控室内の一角にいる対戦相手――フロイトとスーツ姿の人達をちらりと窺う。

「スローネ・ツヴァイ……アルケーの方が上位機ですよね」

 

 ガンプラバトルは原作設定が絶対ではない。極論すれば、ヘボい作りの主人公機よりプロが精緻に作り上げたヤラレメカの方が、バトルでは強い。

 しかし、メカ物アニメの宿命として後発機体や作中の上位機の方が、武装やギミックの点で優れている事実は揺るがない。アルケーはスローネ・ツヴァイの上位互換機である分だけ武装やギミックは豊富だ。

 

「機体にこだわりがあるのか、ツヴァイを選ぶ理由があるのか、そこら辺は分からないけど、戦いぶりを見た限りでは相当強い」

 スミオは双眸を狩人のように鋭くし、口端を微かに上げた。

「楽しみだ」

 

 珍しく好戦的な様子に、フミナは密やかに拳を握り込む。スミオがこんな風になる相手は、全国大会の西東京予選決勝で戦ったスドウ・シュンスケのような猛者だけ。自分と戦う時のスミオはこんな表情を見せない。

 ……わたしも部長の全力を引き出せるくらい強くなりたい。

 

 と、ベスト8第一戦を終えたリリウム・ウォルコットが控室へ戻ってきた。昨日の大会初日、フミナを倒したリリウムはベスト8の戦いも勝利し、ベスト4に駒を進めていた。

 

 ……もっと強くなりたい。

 フミナが握り込んだ拳にぎゅっと力を込めたところで、運営係員がスミオを呼びに来た。

「アリサワ選手とチームの方。舞台袖に移動をお願いします」

 

「分かりました」

 スミオはGPベースとMkV・ナイトフォールを手にし、エリ達と共に控室を出てメインフロアへ赴く。

 

 戦いの場に赴く昂奮と緊張感。大きな舞台で戦う高揚感と不安。注目を浴びるプレッシャー。けれど、最も強い感情は強敵と戦う恐れと楽しみ。

 

 舞台袖に到着し、ステージ上で行われているベスト8第二戦の様子が見えた。

 レイヤード・リーグ出身のフライボーイとアップルボーイが鎬を削り合っている。同じリーグで活動しているだけあって、互いの手の内を知っているらしい。戦闘の駆け引きや読み合いが激しい。

 

 数分の熱闘激戦の末、フライボーイがアップルボーイのMSを撃墜。同リーグ出身対決を制した。舞台袖に捌けていく彼らと入れ替わるように、係員がスミオ達へ告げる。

 

「それではアリサワ選手を先頭にステージへ上がってください」

 スミオが踏み出そうとしたところで、エリはスミオの袖を引く。

「スー君、ちょっと待ってください」

 

「? なんだい?」

 スミオが素直に従って足を止めると、エリが背伸びしてノッポなカレシの頬へチュッ。

 

「御守りです」

 悪戯っぽく美貌を和らげるエリ。フミナは戦いを前にイチャつく2人へ小さく嘆息し、ラルさんがお尻のムズムズに身悶えし、ユウマは顔を朱くした。

 

「守護天使の御加護を得た気分だ」

 スミオは笑い、ステージへ上がっていく。その後ろ姿は戦意と闘志に満ちていた。

 

      ○

 

 聖鳳学園ガンプラバトル部の面々がステージに上がる傍ら、

「貴方が勝手に出場したことで本社は今カンカンです。このうえ優勝を逃しでもしたら……聞いているんですか、フロイト」

 神経質そうなアラフォー男性が苛立ちを隠さずに小言を吐くも、

 

「そうか」

 フロイトは馬耳東風の見本みたいな態度で応じる。それどころか―――

「スネイル。俺が計算したアセンよりスペックが低い。もっと完成度を高く仕上げるようビルダーの連中に言ってくれ」

 

「――――」

 しれっと注文を付けられ、スネイルと呼ばれたアラフォー男性の額にぴきっと青筋が走る。

 

「か、閣下。落ち着いてください」

「係員がステージに上がるよう言ってます。行きましょう」

 パンツスーツ姿の若い女性が恐る恐るなだめる中、スーツ姿の若い男性が平然と口を挟む。神経が太いらしい。

 

「MkVの奴か。楽しみだな」

 フロイトは遠足に出発する子供のような足取りでステージへ上がっていく。

 

 スネイルは不機嫌そうにフロイトの背を睨みつつ、大きく深呼吸して青筋をひっ込めてから、部下2人へ神経質そうな声音で告げる。

「……我々も行きますよ。メーテルリンク、ペイター。分かっていると思いますが、ステージ上での振る舞いには注意なさい」

 

「はい、閣下」

 居住まいを正して優等生のように返事する若い女性――メーテルリンク。

「なあ、メーテルリンク。私のネクタイ曲がってないか?」

 見栄えと画面映りを気にする若い男性――ペイター。

 

 スネイルは眉間に皺を刻みつつ、フロイトに続いてステージへ上がる。バトルユニットを挟んで相対する制服姿の少年を一瞥し、続いて背後にいる少年少女と中年男性を窺う。

 

 ―――あれがラル大尉。なるほど、アマチュアの子犬がプロを倒して勝ち上がってきたのは、彼の指導の賜物という訳ですか。

 スネイル自身はラルさんと面識はない。が、ガンプラバトル界隈の情報収集をする中でラルさんのことは知っていた。

 ―――彼の教え子には公式大会初出場でいきなり世界チャンプになった謎の少年レイジや、現世界ランカーのイオリ・セイも彼の教え子だとか……ガンプラ界の名伯楽。彼の教え子とあれば、油断できません。

 

 鋭い目つきをフロイトの背に向け、スネイルは思う。

 フロイトの実力は疑いようもない。扱い難い不届き者ではあるが、こと戦いにおいてフロイトは”怪物”といって良い。天才や秀才などという陳腐な表現では追いつかない。

 

 ただ……フロイトには『愉しむ』という悪癖がある。その隙を突かれて倒されるようなことになれば、またぞろ上層部の嫌みとお叱りを聞かされる。

 

 スネイルは苛立ちを堪えるようにゆっくりと深呼吸し、バトルユニットへGPベースをセットし始めたフロイトの背へ告げる。

「遊ばずに勝ちなさい、フロイト。この大会の優勝は貴方の義務であり、社の決定事項です」

 

 フロイトは肩越しにちらりとスネイルを窺い、返事もせずシステムを起動させた。操縦ブースがプラフスキー粒子の描くホログラムに包まれて見通せなくなる。

 

 そして、

『バトル・スタートッ!!』

 戦いが始まる。

 

     ○

 

 ガンプラバトルステージ『コロニー落下地域4』

 ガンダム作品において人工天体を恣意的に地球へ落下させる行為――要するに大質量軌道爆撃は度々行われており、宇宙世紀シリーズでは少なくともシドニー、北米穀倉地帯、ダブリン、ラサがコロニー落しに遭い、コズミック・イラシリーズでもコロニーの残骸を堕とす『ブレイク・ザ・ワールド』が生じ、『ガンダムX』に至っては数十基ものコロニーを地球へ透過。地球人口が1億人まで減少している。

 

『コロニー落下地域4』は『ガンダム0083』でテロリストのハゲが北米穀倉地域に落としたコロニーの落下地域が舞台だ。

 

 そこに穀倉地帯だった耕作地の面影は微塵も残っていない。

 大地に突き立った超巨大な円筒状物体は半ばで折れ砕けている。その無数のコロニー基部や内部建築物の残骸が無数に乱立し、おびただしい量の残骸が周辺大地を汚染している。それと、乱数的に生じて重複するクレーターに雨水が溜まり、重金属や化学物質などの汚染によって、水面に不気味な遊色を湛えている。

 

 ホログラムで描かれた高解像度かつ高精度な恐るべき愚行の光景。

 

 錆色の染みと埃や煤に塗れた巨大天体の北側から、蒼く塗られたガンダムスローネ・ツヴァイが汚染された大地を地形追従飛行していく。

 スローネ・ツヴァイを操るフロイトが楽しそうに告げた。

『ガンダムMkVか。戦うのは初めてだ。退屈させてくれるなよ』




Tips
粉末と瞬間接着剤。
 本当にめっちゃ固くなる。プラモ作りから施工現場までいろんなところで活用されるテクニック。

フライボーイ、アップルボーイ
 アーマードコア3~NXシリーズに登場する傭兵/アリーナ傭兵。

フロイト
 オリキャラ。元ネタはAC6に登場する企業所属AC乗り。アーキバスのAC部隊ヴェスパーのエース、フロイト。
 本作では欧州系総合企業アーキバスの子会社ヴェスパーの社員。
 外見はオリ設定。ハンサムな青年。

スネイル。
 オリキャラ。元ネタはAC6に登場する企業所属AC乗り。アーキバスのAC部隊ヴェスパーの実質的司令官、スネイル。
 本作では欧州系企業アーキバスの子会社ヴェスパーの代表。
 外見はオリ設定。神経質そうなアラフォー男性。

メーテルリンク
 オリキャラ。元ネタはAC6に登場するヴェスパーの紅一点、メーテルリンク。
 本作ではヴェスパー社の若い女性社員。
 外見描写はまだない。性格は優等生的。

ペイター。
 オリキャラ。元ネタAC6に登場するヴェスパーの若手、ペイター。
 本作ではヴェスパー社の若手社員。
 外見描写はまだない。性格は図太い。
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