※この作品はR-18です。

ビルドファイターズ・レイヴン   作:コウサカさんちのコーヒー

42 / 61
チョイ長め。


42:恋慕でもなく信頼でもなく

 その夜。ホシノ・フミナは腕組みして卓上の愛機を見つめていた。 

 

 白と黄色に塗り分けられたオリジナル・カスタムガンプラ『F90・メタルドレス』。

 アジアカップ日本予選大会にてリリウム・ウォルコットに敗けた。相手は同じ14歳とはいえ、一流のプロ選手で機体もプロが手掛けたガンプラ。負けても仕方ないと言える。

 

 でも、部長はあと一歩までリリウムを追い詰めた。しかもトーナメントによるダメージが蓄積した機体で得意の高速機動戦闘をせずに。

 

「私もリリーに当たるまでは想定していた通りに戦えてた」

 高い防御性能と頑健な装甲で相手の攻撃に耐えつつ、大火力のレールガンでカウンターを叩き込む。実際に機能した。コンセプトは間違ってない。

 ただし、今のままだと自分の実力不足でカウンターを当てられない相手や、装甲を上回る火力や攻撃力を持つ相手に通じない。

 どうしたら良いんだろう。

 

 もちろん解決策は分かってる。もっともっとファイターとしての実力を高めれば良い。

 でも、パンパシ日本予選までもう半月もなかった。10日かそこら特訓したくらいで実力が跳ね上がれば世話はない。

 自分自身の成長が間に合わない以上、機体性能の向上を図るしかない。けれど―――

 

「どういう風に弄れば良い?」

 相手の攻撃を避けられるよう機動性向上? そのために防御性能と装甲を削ってはコンセプトの土台が崩れる。

 

 カウンターを確実にぶち込めるよう火器管制系や索敵系の強化? でも被弾ありきの運用を想定している以上、レーダーやセンサーも破損し易い。失われること前提の装備は頼りにならない。

 

 追加武装はどうだろう。

 アジアカップ日本予選の準決勝で悲愴な敗け方をしたガンタンクR44。オーバードウェポンを叩き込むために目潰し(フラッシュミサイル)と押さえ(ヒートロッド)を用意していた。

 カウンターの一撃を命中させるために相手の動きを鈍らせる装備。

 

「私もフラッシュミサイルを積んでみる? でも積むとしたら」

 サブアーム付バックパックで大盾を稼働させる関係上、肩部装着では動きを妨げてしまう。

「でもサンダーボルトのフルアーマーガンダムはサブアーム付バックパックでビームキャノンとミサイルポッド積んでた……」

 

 フミナはスマートフォンを操作して現物の画像を確認。

「サブアームの形状と可動域を絞ることで干渉しないようにしてるんだ」

 

 だとしたら、とフミナはF90を手に取り、色んな角度からうりうりと見回す。そのうえでジャンクパーツを修めた箱から色んなミサイルポッド……箱型や円筒形、長方形型などを取り出し、両面テープを貼ってからF90にくっつけてみる。

 

「いけそう……だけどサイズが絞られちゃうな。これだとあまり弾が積めないか」

 いやそれほど弾数は要らないか。パンパシは3機1チームのバトルで、レールガンは真芯を捉えれば一撃必殺。つまり理論上は1機に1発で動きを止めて、レールガンを当てられたなら、3発で事が済む。

 

「ミッションパックも参考にしてみよ」

 フミナは再びスマートフォンを弄り、F90の拡張パーツシリーズ『AtoZ』を検索。あれこれと調べてみる。

「そっか。何も肩に限定する必要ないよね。腰の左右スカートにふくらはぎの外側でも良いんだ。それにシールドをビームシールドにすれば……や。ビームシールドはプラフスキー粒子の消耗が激しいから物理盾にしたんだった……」

 

 うーむうーむとあれこれ考えつつ、エリ流にノートへ試案を書き込んだり、ユウマと相談した内容を読み返したり。

「どーしたらいーんだぁーっ」

 

 結局、フミナは明快な答えに辿り着けず、ベッドへ飛び込んだ。

 

      ○

 

 翌日の放課後。野良試合の予定を組むべく話し合いの場が持たれた。

 といっても、出向くショップと日程を組むだけだからさほど時間は掛からない。パパッと予定が組み上がる。

 

 以後はそれぞれ機体作業。エリがMkVの修理作業を始め、フミナはエリとスミオにF90の再武装案を相談しつつ、あれこれと検討を再開。スミオはかつてフミナが『ただのロケット』と評したアリサワ・スミオ製ジェガンをリビルドしていく。

 

 ジェガン実証試験機と大層な名前を付けられたオリジナル・カスタムのジェガンは、デカいバックパック(大型ブースター)を背負い、全身にスラスターやバーニアを詰めるだけ積んでいた。推力を全開すると機体が耐えきれず爆散するという、人型ロケット弾モドキ。

 

 スミオはエリと残すべきスラスターやバーニアを相談し、浪漫を詰め込んだネタ機体をテキパキと分解していく。

「ノーマルに戻すんですか?」

「完全に元通りにはならないけどね。一度改造して、バトルで使ったガンプラは中古車と同じだ。オーバーホールしたところで新車と同じ状態には戻らない。それでもきちんとノーマルに近づけた方が再改造し易い」

 

 全身に装着したスラスターやバーニアをカッティングナイフやペンチで削ぎ落し、引っぺがし、引っこ抜いて、外していく。スラスターやバーニアを増設するために開けた穴をパテで埋め、プラ板で塞ぐ。浪漫改造でメゲた部位は機体内部にプラ棒やプラ板を貼りつけて補強。関節部は真鍮線を埋め込んだり、ポリキャップを新品へ交換したり。

 

 フミナはスミオのレストア作業を眺め、隣で作業しているエリと見比べながら思う。

 全然違う。エリ先輩は職人とか技術者みたいだけど、部長は趣味で楽しいことをしてる人って感じがする。

 

「部長はどう改造するかイメージが出来てるんですか?」

「そうだなぁ……」スミオは作業の手を止めずに「チームの中心であるホシノさんを支援できる機体にしようと思ってる」

 フミナはチームの中心と言われ、肩にずしっと錘を乗せられたような気分になり、眉と唇がモニョッと曲がる。

 

「パンパシ予選はU-19の年齢制限がある。それでも開催期間内で絞り込むために大会1回戦2回戦はアジアカップと同じで多人数バトルロワイヤルで、なおかつ試合には1人ずつ出場し、チームメンバーが全滅したら脱落というサバイバル方式だ」

 スミオはパンパシフィック・チャンピオンシップ日本予選大会の説明を語り、唇の端を悪戯っぽく上げた。

「方針としては、チームバトルが行われる3回戦か4回戦まで、ホシノさん一人で突破してもらうつもりだよ」

 

「ええっ!?」

 フミナは目を丸くした。

 

「待って待って待って、待ってください! 私がチームリーダーでチームエースで、そのうえ私一人で勝ち抜きっ!? 何でそんなに無茶振りばかりするんですかぁっ!!」

 可憐な顔貌を引きつらせて喚くフミナに、スミオは父性的微笑を湛え、告げる。

「大丈夫。ホシノさんならできるって」

 

「軽く言わないでくださいっ!」

 フミナは眉目を吊り上げて怒鳴り、MkVの修理作業を進めるエリへ泣きつく。

「エリ先輩、部長がまた私に無茶振りしてきたぁっ!」

 その様はまるで兄の横暴を長姉へ訴える妹のよう。

 

「ホシノさん」エリはぐっと握り拳を見せて「ガンバッ!」

「エリ先輩が裏切ったぁっ!!」

 悲鳴を上げて頭を抱えるフミナ。そんなフミナに向けるスミオとエリの目は心底楽しそう。

 

「もういいです! リリーに相談します!」

 フミナはスマートフォンでメッセージアプリを立ち上げて怒涛のフリック入力。

 帰ってきた返信は―――

『フミナならデキますッ! ガンバってくださいです!!』

 

「リリーッ!?」

 フミナの悲鳴が安普請の部室に響き渡った。

 

 

 コーヒーブレイク。

 

 

「レールガンを確実に命中させる方法」

 スミオはフミナの相談に思案顔を作り、

「一番手っ取り早いのはシステムのOSセッティングだな。火器管制系と捜索追尾系の調整。演算処理速度を向上させて照準アシストと偏差精度を上げる」

 マグカップへ淹れた珈琲を口に運び、言った。

「後は完全なマニュアル照準だな。自分の頭で計算して撃つ。言うまでもないだろうけど、とびきり難しい。ただ上手くやれるなら、相手にロックオン警報が出ないから回避される可能性が低くなる」

 

「……あと十日そこらの練習で出来るようになります?」

 フミナの問いかけにスミオはエリと顔を見合わせ、うん、と頷く。

「まあ、無理かな」

 

「ですよね」

 フミナは嘆息をこぼしてミルクと砂糖たっぷりの珈琲を呑んだ。

 

「チームバトルなら私のデルタプラスの電子戦サポートとスー君の直接支援で補えますけど、個人だと装備にテコ入れするしかないですね」

 エリは手元のノートのページをめくり、改造案を見せた。

「こういうAoZ系のように頭部へセンサー系装備を増設して、レールガン自体に照準補正装備を追加。後はレールガンを命中させるための小道具ですね」

 

「アジアカップでガンタンクを使ってた人みたくフラッシュミサイルを積もうかと思ってるんですけど、どうでしょう?」

「良いと思うよ。目潰しは単純かつ効果的な方法だ。煙幕も悪くないかな。人はいきなり視界を塞がれると動きを止めてしまうから。煙幕で動きを止めたところへ、照準モードを光学から熱探とかにすれば、充分ロックオンできる」

 フミナの提案にスミオは首肯を返した。

 

「後は立ち回りかな。 ガンプラバトルは操縦技術とガンプラ自体の完成度が重要だけれど、立ち回りや試合運びといった作戦要素、地形や環境を利用する戦術要素も無視できない。ステージが決定し、マップ上に何があるか、どう動くか素早く戦略を組み立てられるようになると、勝率が上がるよ」

「最近はあまりしてないですけど、以前は非公式Wikiが公開してるガンプラバトルのマップで立ち回りや作戦の試案を作ったりしてましたね」

 エリが思い出したように言うと、フミナはマグカップを口へ運ぶ手を止め、目を瞬かせる。

「マップって……物凄い数ありますよね?」

 

 ガンプラバトルのステージはガンダム作品由来のものから、オリジナルのものまで大量にある。しかも大抵の大会は公平を期すためランダムにステージを選び出す。

 

「別にマップを丸暗記することが目的じゃない。似たような環境でどう立ち回れば優位に立てるか、主導権を握るように動けるか、そういう思考をし易くなる。頭のトレーニングみたいなもんだよ」

 さらりと答えるスミオと懐かしそうなエリ。机上演習紛いのトレーニングまでしていたことにフミナは言葉がすぐに出てこない。

 

 フミナは改めて思う。部長とエリ先輩って、なんというかガンプラとバトルへ本当に凄く真っ直ぐ向き合ってる。

 ……この人達と出会えて良かった。この人達に倣えば、私もガンプラとバトルにもっともっと真っ直ぐ向き合える。

 

 フミナは密やかにたおやかな肢体を武者震いさせ、ふんすっと鼻息を荒くした。ついこの間ベッドの上でじたばたと煩悶していた娘っ子とは思えぬ士気の高さを抱き、宣言する。

「私、頑張りますっ! パンパシでチームリーダーでエースで、勝ち抜きます!」

 おお~っとスミオとエリが賛嘆を上げた。

 

      ○

 

 部活終了後、スミオはエリをマギーの許へ送り、そのまま『ケリィ・リサイクル』に赴き、セレンと合流する。

 店舗兼倉庫の駐車場にはポルシェではなく、トヨタ・ランクル70が停まっていた。

 直線で構成されたレトロな大型SUVを横目しつつ、スミオはヘルメットを抱えて倉庫内へ。

 

 暖房が焚かれた建物内は仄かに温かく、バトルユニット傍に立つセレンはコートを脱ぎ、カジュアルシックな装いで煙草を吹かしていた。

 

「来たか」

 セレンはユニット脇に置かれたサービスカートからケースを取り、中からガンプラを取り出した。

 

 陸戦型ガンダム改修機EZ8のような姿に改造された初代ガンダム。なんともややこしい。

 武装はビームライフル。シールド。頭部に4連バルカン。背中のバックパックが大型化され、右肩にビームサーベル。左肩にパージ機能付ショルダー・ガトリングガン。

 配信サイトのリミテッドシリーズ『ガンダム・レクイエム』に登場したガンダムEXに通じる装備内容。これまたややこしい。

 

 先日は白が基調のカラーリングだったのだけれど、スミオが愛用する深紅(ドゥカティレッド)に黒を差したカラーに変更されていた。

 

「お前はこっちの方が好きそうだからな。武装も複数用意してある。幾つか試してみよう」

「モデルデータと対戦か?」

 スミオはヘルメットと鞄、ライダージャケットをパイプ椅子に置く。

「そうだ」セレンは短くなった煙草を灰皿で揉み消し「昔に比べてAIの精度が向上しているからな。下手なファイターと戦うより有効だ」

 

 ガンプラバトルの元締めヤジマ商事が提供するサービスには、モデルデータと対戦するものがあり、アニメキャラクターの再現データも存在する。

 アムロ・レイ。シャア・アズナブル。カミーユ・ビダン。ジェリド・メサといった宇宙世紀系、キラ・ヤマトやアスラン・ザラを始めとするSEED系、ドモン・カッシュにヒイロ・ユイ、刹那・F・セイエイなどなどアナザーシリーズの有名どころを再現したAIが用意されていた。

 

「そうだな。最高難易度のアムロ・レイとまともに戦える程度にはなってもらうか」

「……メイジン・カワグチや世界トップレベルのランカーでもほとんど勝てないって言われてるんだけど」

 渋面を浮かべたスミオへ、セレンは薄く笑ってバトルユニットの可動準備を始める。

「あの理不尽の権化と戦えるようになれば、大抵の奴と伍して戦えるさ。始めるぞ」

 

 連邦軍の大魔王を相手にすることになり、スミオは小さく頭を振り、慨嘆をこぼした。

「機体はガンダムなのに、気分はジオン兵だ」

 

 ・・・

 

 ・・

 

 ・

 

 スミオがセレンのオペレートを受けながらガンダムシリーズ最強の男に抗っている頃。

 

 エリはマギーの工房で傷ついたMkVの修理を進めている。長い髪をうなじ辺りでお団子にまとめ、作業用エプロンをつけてバラバラに分解したMkVを、切ったり貼ったり盛ったり削ったり曲げたり伸ばしたりして直していく。

 

 マギーはほとんど口を出さない。たまにエリの手元を窺い、「そこはもう少しだけ滑らかにした方が良いわね」といったようにぽつりと作業のヒントをこぼす。その都度、エリは「わかりました」「ありがとうございます」と応じ、受け取ったヒントを自分なりに解釈して作業する。

 

 技は目で盗めという本人のやる気と知恵次第な昭和風教育でもなく、手取り足取りの有料教育風でもなく。

 

 会話は無いに等しい。マギーは仕事を黙々と進め、エリは自分の作業に集中する。

 流れる音色は作業音だけ。音楽もラジオ放送もない。時折、シャッターの向こうから自動車の走行音が届くくらいだ。しかし、エリもマギーも静けさを苦にしない。

 一人仕事に慣れているマギーにとって、エリの存在を異物だけれど、疎ましく感じない。

 その事実にマギーは内心でちょっぴり驚いている。

 

 

 プロモデラーとしての仕事にいち段落つき、マギーはエリへ声を掛けた。

「一息入れましょう」

「はい」

 エリは頷き、杖を突いて立ち上がったマギーと共にパーティションで区切られた給湯室へ。

 

「失念していたけど、夕食は?」

「ここに来る前にスー君と軽く食べてきました」

「スー君? 本当に恋人同士なのね」

 エリの回答にマギーは思わず目を瞬かせ、表情を綻ばせた。

「交際はいつから?」

 

「関わり自体は小学校3年生の頃から。付き合い始めたのは小学5年生の頃からです」

 回答内容にマギーの笑みは驚愕に変わる。

「しょ、小5……っ?! じゃあ付き合ってもう5年目ってことっ!?」

 

「そうですね。それくらいになると思います」さらっと答えるエリ。

「ち、ちなみにその、することはしてるのよね……?」及び腰でおずおずと尋ねるマギー。

 

「はい」エリは恥ずかしがる素振りも見せず「初体験は中一でしたけど、初キスは小5で小6の時にはオーラルでしてましたね。覚えたての頃はそれこそ毎日してましたけど、今は時間の都合次第ですね。多い週もあれば、全然しない週もあるって感じです」

 

「――――」

 マグノリア・カーチスさんは白目になりかけながら、思う。最近の子って怖い。

 

「マギーさんはお付き合いしてる方がいらっしゃるんですか?」

「……いない」

 消え入るような声だった。

 

 淹れられたミルク多めのコーヒーが香る。

 

 気を取り直したマギーは、どこか疲弊した顔でマグカップを口に運ぶ。

「レイヴンはパンパシを後輩のトレーニングにするつもりのようだけど、貴女はそれで良いの?」

 

「私、ファイターとしてはチームのお荷物なんです」

 エリは紙コップを手にしながら、ここで使うようにカップを用意する必要があるな、と思いつつ言葉を続けた。

「スー君と同じように小学生の頃からガンプラバトルをしてきました。自分で作ったガンプラを動かすことは楽しいですけど、それ以上にスー君のためにガンプラを作ることが楽しかった」

 

 紙コップを両手で包み、伝わる熱を掌に感じながら、エリは言葉を紡ぐ。

「スー君は私が作ったガンプラの力を、ビルダーの私が想定している以上に引き出してくれる。私自身がガンプラを操るより、ずっと楽しくさせてくれる。心の底からドキドキワクワクさせてくれるんです」

 

 単なる惚気のように聞こえるけれど、これは恋愛感情よりレースメカニックやチューナーが到る境地に近かった。

 

 自分が作った最高のマシンを委ねたい、性能を余すところなく限界まで、なんなら限界以上に引き出して、証明して欲しい。自分が作ったマシンが最高だと。

 

 ビルダーであるエリも似た境地に達している。

「はっきり言ってしまえば、私は自分が選手として全国大会へ出場することに興味も感心も熱意もありません。私はスー君に最高のガンプラを作ってあげたい。私のガンプラでスー君が最高のファイターだと証明したい。それが何より楽しくて面白いんです」

 

 眼鏡の奥で二重アーモンド眼に熱が浮かんでいた。その熱が何か、マギーにはよく分かる。かつてファイターとして狂気の一線を踏み越えた者として、マギーは眼前の少女の目に宿る熱の正体を知っている。

 

 それは恋人への愛慕や相棒への信頼の熱意ではない。

 物作りの人間が宿す狂い火だ。

 

 今、物作りとして飯を食う人間として、マギーは理解する。なるほど、この歳であのサイコゲルググやMkVを作り上げられた理由はコレか。この娘は天才じゃない。この娘に備わっているものは才能なんて可愛いげのあるものじゃない。

 

 同時にエリがなぜ自分の許へ『修行』を申し出たのかも理解する。

 言葉通り自分の成長を図るためという動機は事実だろう。だが、それだけではない。

 

 二重アーモンド眼の奥で燃える狂い火。その火にくべられている薪はレイヴンへの恋慕と熱情と執着、そして、レイヴンのガンプラを手掛けることになったマギーへのどろりとした嫉妬も存在する。

 

 マギーは密やかにゆっくりと深呼吸し、腹に力こめて綻びそうになる口元を抑える。

 ―――”代償行為”のつもりだったけれど、思いのほか楽しめるかもしれないわね。

 

 マグカップで口元を隠しつつ珈琲を嗜み、マギーはエリに尋ねる。

「自分がファイターとしてお荷物だから、後輩を鍛えて戦力にすることに賛成なのは分かった。なら、貴女がその後輩にガンプラを作ってあげたらどう? 後輩本人が作るものより貴女の機体の方が戦力になるはずよ」

 

「それも考えたことがありますけど、ホシノさんは、あ、後輩の子は自分で作ることに意義を見出しているので。だから制作の助言や手伝いはしても作ってあげることはしません」

 紙コップの珈琲を味わい、エリは太縁眼鏡の奥で双眸を細めて微笑む。

「ホシノさんは出来る子ですから。きっと今回のパンパシで大きく成長してくれますよ」

 

 マギーは先のアジアカップで見かけたホシノなる少女を脳裏に浮かべ、思う。

 この子とレイヴンに”期待”されるなんて、きっついだろうなぁ。




Tips

ホシノ・フミナ
 原作メインヒロイン。本作ではサブヒロイン。えっちぃ目に遭うかは作者も分からない。
 作中では先輩達から無茶振りされている中学二年生。

マギー
 オリキャラ。元ネタはACVDのオペレーター兼……のマギー。
 本作では元ガンプラファイターで、現在はプロのモデラー兼造形師。ファイター時代に無茶をし過ぎた結果、左足が不自由になる障害を負った。
 ガンプラバトルに燻ぶった感情を抱いている模様。
 現役高校生(アリサワ・スミオとシノダ・エリ)の交際内容を聞き、戦慄した。

シノダ・エリ
 原作のネームドモブ。本作ではメインヒロイン。性格は完全にオリ設定状態。ファンの人はごめんなさい。
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