ビルドファイターズ・レイヴン 作:コウサカさんちのコーヒー
誤字報告の御礼が停滞していました。申し訳ない。6月~今話までに誤字報告をしてくださった皆さんへ御礼申し上げます。
MinouTaRouさん、逸壬護狼さん、aryuさん、たきょさん、無限の残業さん、誤字報告ありがとうございました。
ダニエル・ナカソネは持つ者。与えられた者。掴める者だった。
裕福で社会的地位のある家に生まれ、望むものは常に与えられてきた。
幼い頃から周囲より出来が良く、少し学ぶだけで大抵のことが人並み以上に上手くこなせた。少し勉強しただけで学校の上位に入り、少し鍛えたり練習したりするだけで誰よりも上達し、喧嘩すればまず負けない。もちろんその道の天才やガチ勢に成績や勝負で敗れることはあったけれど、それでもダニエルがアッパークラスであることは変わらない。
『家族が誇らしく思う息子で兄弟』『周囲が一目置いている青年』『恋人が自慢するカレシ』。有色人種やアジア系を差別する連中ですら、ダニエルを避けて歩く。
そんなダニエルがスポーツや楽器、レジャーなどではなくガンプラバトルに手を出した理由は、この世界においてガンプラバトルは惑星的人気だから。
世界的人気の遊びで上位ランクに入って名と顔を売り、自己肯定感と承認欲求を満たし、名誉欲と自己顕示欲を充たすために。
同時に裕福で社会的地位のある家に生まれ、政治的・社交的空気を吸って育った若者として、ダニエルはガンプラバトルが備える『社会的価値』を理解していた。
かつての車や楽器、スポーツが社会階層を越えたつながりを生んだように、ガンプラはあらゆる
ダニエルはエゴを満たせつつ、将来性の見込めるガンプラバトルという玩具遊びへ手を出したわけだ。
そして、ダニエルはこれまで通り、成功した。
親のコネで有名なガンプラバトルのクラブに入門し、自身の上質な能力と実家の豊富な資金力で実績を重ね、目論見通りに名と顔を広めてきた。このパンパシフィック・チャンピオンシップでいよいよ世界の舞台へ出ていくつもりだ。ガンダム発祥地の日本で本選出場枠を勝ち取れば、世間の注目度も高いから。
ダニエルは持つ者。与えられた者。掴める者。
ダニエルは自他共に認める勝つ側の人間。
そんなダニエル・ナカソネは今、敗北の際へ追い詰められていた。
〇
赤黒のジェガンが増設したスラスターとブースターを焚き、炎と煙が充たす街区の中を縦横無尽に機動し、右手の大型ビームライフルを打ち、背中に担いだミサイルを放つ。
コロニーに潜んだ狙撃者は強力なレールガンで砲撃を重ね、極超音速の砲弾が幾度も殴りつけてくる。
高高度に潜む電子戦機はこちらの索敵系や火器管制系を阻害し続けている。
聖鳳学園チームは近・中距離、遠距離、支援の連携を保ちながら、ヤスリで削るように巨神ディバステイターガンダムを襲い続けていた。
「えぇい、鬱陶しい……っ!!」
苛立たしげに吐き捨てるダニエル。
状況は芳しくない。ダニエルが率いるサウスアメリカン・モデラーズクラブ・ユースは、チームメイトのパブロとアルベールは敵の掌の上で踊らされ、倒された。パブロに至ってはその責任をダニエルへ転嫁する始末だ。
一方、聖鳳学園は一機も落とされていない。タイムアップすれば、ダニエルは数的優勢により判定負けを喫してしまう。ディバステイターガンダム自体はまるでダメージを負っていないというのに。
この大会で優勝し、世界の舞台へ出る計画が危機に瀕している。
それも、日本チャンプのガンプラ学園チームではなく、聖鳳学園などという聞いたこともない木っ端チームによって。
―――路傍の石ころ共が。
ダニエルはホログラムコンソールの光球型コントローラーを鷲掴みし、白い歯を剥き出しにして唸る。
十代後半ともなれば、どんな人間も『負ける』体験をそれなりに味わっている。
学校の試験やスポーツの試合。パーティで自分より能力的や家格が格下のくせに、華のある人間や耳目を集める人間を目の当たりにする。家族と共に赴く社交の場で、より『上位』の存在がいることを否応なく理解させられる。SNSや動画サイトで自分より劣っているカスが、何百万何千万の人々からもてはやされ、金や物を貢がれる様を見せられる。
ダニエルは受け入れてきた。
そういう敗北を、些細なことだと流してきた。そういうこともあると許容してきた。仕方ないことだと甘受してきた。所詮は『ウケ』を狙う乞食のやることとを笑い飛ばしてきた。
だが、このバトルで敗北することは、とても受け入れられない。
なぜなら、この戦場でダニエルが一番強いのだから。
最強の機体を操り、ほぼ無傷。なのに数的不利というだけで敗れる? 役立たずのチームメイトが撃破されたせいで、太平洋を越えて日本くんだりまで来て、鼠のようにちょろちょろ這い回る奴らにタイムアップで判定負け?
「……ふざけるな」
ダニエルの噛みしめた歯の隙間から怒気が漏れ、
「俺の道から出て行け……っ! 石ころ共っ!!」
プラフスキー粒子が描く廃墟都市は、巨大な炉と化した。
巨神ディバステイターガンダムが発狂したかのように両手の十指ビーム砲を撃ちまくり、両肩の巨大ミサイルポッドからコンテナミサイルを発射し、巨大なブースターから大量の排気炎をぶちまけ、胸部のハイメガ粒子砲をぶっ放す。
廃ビルや廃屋が超高熱粒子に焼かれて融解し、蒸散爆発する。鉄と炸薬に砕かれた建築物や都市インフラが新たな瓦礫の山を築き、燃え盛る街に煤煙と粉塵を加える。巨大ブースターから放射される莫大な排気炎が通りを焼き払い、アスファルトや街灯の支柱を溶かし、遺棄車両を燃焼させる。ハイメガ粒子砲が一瞬で複数の街区を火の海に沈めながら、巨大なコロニーの残骸を穿ち、削り、砕く。
コロニーのそびえる廃墟都市ダブリンは瞬く間に煉獄と化した。
しかし、巨神の暴虐は都市を蹂躙することは出来ても、脅威を排除出来ていない。
赤黒ジェガンは煤煙に塗れ、都市を焼く熱気に機体を焦がしながらも、巨神の猛火力の中からビームライフルでディバステイターガンダムのセンサー群の集中する顔貌や構造的弱点である関節部を狙い撃ち、ミサイルで耳目を潰しに掛かる。
度重なるビーム弾幕やハイメガ粒子砲の砲撃で噴煙を立ち昇らせるコロニー。そこに潜み籠るF90は煤煙と粉塵に塗れつつも、レールガンの狙撃で巨神を削ぎ続けている。
何より、がむしゃらに撃ちまくる巨神の間隙を、天空の目が逃さなかった。
投下される1トン級のサーモバリック弾。
小型戦術核と誤認されるほどの閃光と爆発が完全に巨神を呑み込んだ。街の火災を掻き消すほどの衝撃波。連続する激烈な爆轟圧力は振動となって分厚い装甲内へ伝播し、峻烈な電磁波は金属に溶けるや高電流・高電圧に化けてあらゆる電子装備へ襲い掛かる。
「ぐぅうううううっ!」
集中力が高すぎてバトルへ自意識が過剰投影されているゆえに、ダニエルの口から思わず呻きが漏れる。操縦ブース内に描かれた全てのディスプレイが砂嵐と走査線の歪みでマトモに見られない。がなり立てる警報。喧しい警告表示。システムが自己診断と再起動を声高に要求している。
ダニエルの両手がコントローラー上で踊る。セーフティモードを強制解除。自己診断の物理的解除。制御系と操縦系、光学系を最優先で復帰させ、その他は後回しか、切り捨てる。砂嵐が薄れて視界が復活し、
「な」
メインディスプレイいっぱいに映る赤黒ジェガンが、パイルバンカーを振りかぶっていた。
ずがん!!
ディバステイターガンダムの顔面に轟音と衝撃が走った。
瞬間、メインディスプレイの左半面がブラックアウトする。ダメージ表示と警告表示がマルチファンクションディスプレイを埋めつくし、警報がメンヘラ女のように叫び散らす。
いまだ健在のメインディスプレイ右半面内で、パイルを打ち込んで顔面に取りついたジェガンがビームライフルの銃口を右目に押し付け、閃光と共に右半面のメインディスプレイもブラックアウトした。サブカメラの荒く頼りない映像に切り替わる。
ダニエルは一瞬、唖然とした後、眉目を限界まで吊り上げた。
「お、お、おのれ……
両手の指が素早く動き、巨神が背負う二基の巨大ミサイルポッドがハッチを開いた。
〇
煤煙と粉塵がもうもうと立ち昇るコロニー残骸の中腹。モビルスーツがぎりぎり通れないサイズの破孔部の奥。真っ黒に汚れたF90・メタルドレスが崩れかけた内殻にシールド用サブアームを引っかけ、大型レールガンを両腕で構えている。
真っ黒クロスケになったF90を操るフミナは光学系を最大望遠モードにし、メインディプレイに表示させた拡大画面で、”それ”を見ていた。
赤黒ジェガンが左腕のパイルバンカーを巨神の顔面に突き立てて取りつき、ビームライフルの銃口をアイバイザーに押しつけて撃ちまくっていた。さしもの巨神もアイバイザーに装甲はなく、ビームは巨神の目から頭部内に到り、頭部内に収められた各種電子装備を焼き潰し、吹き飛ばしている。
「えっぐ」
あまりにも荒々しくあまりにも野蛮な光景に、フミナは思わずこぼす。然して、このモンスターハント的映像に会場が沸いているようだ。外部音が届き難いホログラムコンソール展開中の操縦ブース内まで歓声が聞こえてくる。
と。
「ホントに部長の言う通りになった……」
――ぼくが奴に取りついたら、ホシノさんは照準をミサイルポッドに重ねておけ。奴は必ずコンテナミサイルの発射を試みる。そこを狙うんだ。
フミナはこの”作戦”前にスミオが告げた内容を思い返しつつ、レールガンの照準を修正。開かれた右のミサイルポッドの発射口へ狙いを定め、光球型コントローラーの発射スイッチを押し込む。
「撃ちます!」
通信に吹き込むと同時に灰被りのF90がレールガンを発射した。
プラズマをまとった砲弾が極超音速で廃墟の中を駆け抜け、右のミサイルポッドを直撃した。発射口からポッド内部へ真徹した砲弾はマイクロミサイルを満載したコンテナを一基完全に破壊し、爆発させる。ミサイルコンテナの爆轟圧力は頑丈なポッド内に荒れ狂い、隔壁を吹き飛ばして他のミサイルコンテナを圧潰させ、内部に収められた大量のマイクロミサイルを誘爆させ――――巨大ミサイルポッドがド派手に吹き飛んだ。
花火工場の爆発事故の映像を思わせる大爆発。炸裂を免れたマイクロミサイルが暴発してあちこちへ飛んでいく。
背中で大爆発が起きたにも関わらず、巨神はまったく損壊しない。驚異的頑健さ。巨神の頭部が盾となったスミオのジェガンも吹き飛ばない。そして、右隣で大爆発が起きても左のミサイルポッドは問題なくミサイルコンテナ2基を煤煙に覆われた空へ発射。
赤黒ジェガンが巨神の顔面に取りついたまま、打ち上げられたコンテナへビームライフルを撃つ。熱光線が直撃して大爆発を起こすコンテナは1基だけ。残る1基のコンテナが鳳仙花が種をまくように大量のマイクロミサイルを放散。
ミサイルの大群が巨神と巨神に取りついた赤黒ジェガンに向かって降り注ぐ。
巨神自身は重装甲でダメージを受けないからこそ出来る一手。スミオがミサイルから逃れるために退避するなら良し。ミサイル弾幕で始末できれば上出来、それでなくても密接状態が解消されれば、両手のビーム砲で仕留めやすくなる。ヤケクソの策じゃない。しっかりリスクコントロールと展開を考えている。
「あのデカブツのファイター、機体頼りってわけじゃないんだ」
フミナは試合前にシツレーなことを宣ってきた日系南米人の青年を思い浮かべつつ、小さく鼻を鳴らした。
「でも、その程度じゃ部長を倒せないよ」
ミサイルの驟雨が迫る中、赤黒ジェガンは退避する素振りすらみせず両肩のミサイルをマイクロミサイルの大群へ向け、発射。
蜂の群れに数個の石ころを投げつけるような数量差。しかし、この場合、問題は数じゃない。群れの密度だ。
ジェガンの放った数発のミサイルは降り注ぐ大量のマイクロミサイルが交錯した瞬間、起爆。その爆発は周辺のマイクロミサイルを呑み込み、誘爆の連鎖を引き起こした。
巨神とジェガンの頭上で大量の火球が生じる。
ミサイルの大量投射は見た目が派手だが、ミサイル同士の共食いを起こし易い。誘爆を逃れたミサイルも熱や破片を浴びて損傷を被ったり、誘導能力が低下したりしてしまう。
外れたマイクロミサイルが周囲に降り注いで爆発。巨神は策が外れたことに苛立ち、その巨躯を大きく揺さぶり、ジェガンを振るい落そうとする。
そこへ、フミナは通信に告げた。
「エリ先輩。出番です!」
『了解。爆弾投下まで5秒』
通信にエリのしっとりした声が流れた。
都市の上空を暗雲のように覆い尽くす煤煙が裂かれ、前進翼の戦闘機―――航空機化されたデルタプラス・UBEoSがマッハ3の超音速で急降下。抱えていた全ての2000ポンド爆弾を巨神へ叩きつけるように投下した。
マッハ3の慣性を与えられた3発の1トン級爆弾が、オーバードブーストを炊いて離脱した赤黒ジェガンと入れ替わるように、顔貌をめちゃくちゃにされたディバステイターガンダムへ着弾。
落雷染みた轟音が廃墟都市につんざき、大爆炎が暴れ狂う。何かが殉爆したらしい二次爆発が発生。更なる大火球が街区を蹂躙する。
「エリ先輩、ドンピシャです!!」
フミナは勝利を確信する。エリも急降下爆撃から水平飛行へ立て直してから高高度へ戻らず、雲下に留まる。赤黒ジェガンが無言で廃ビルの屋上に立ち、爆炎を見守る。
だが、バトル終了宣言が流れない。
フミナ達が『まさか』と訝った刹那。
もうもうと立ち昇る爆煙を掻き分けるように、巨神が姿を表す。
見る影もなく潰されたガンダム面。背負われていた巨大ミサイルポッドは二基とも失われ、左腕は肘から先が無くなっていた。胸部上方が大きく抉れるようにへこんでいる。
それでも、巨神は確かに動いている。全身から煙を昇らせ、あちこちから火花を散らし、関節部や駆動系が金属の不快な摩擦音や異常作動音を街中に響かせて。まるで悲鳴をあげるかのように。あるいは―――怒りを絶叫しているように。
フミナは驚愕に目を見開き、エリの驚嘆が通信機から流れた。
「ウソでしょっ!?」
『そんな……っ!?』
『2人とも退避しろ!!』
フミナ達へスミオが警告を飛ばすも、巨神が右手を持ち上げてビーム砲を発射し、
『しま―――』
「エリ先輩っ!!」『エリッ!』
大出力ビームに捉えられたエリのデルタプラスが空中で跳ねあがり、燃え盛りながら延焼する市街地へ堕ちていく。
「まずいっ!」
フミナは即座にその場から退避。煤煙と瓦礫の迷宮状態のコロニー内を鼠のように機動する。
なぜなら、巨神がコロニーへ向けて胸部のハイメガ粒子砲を展開したから。
砲撃が来た。それも通常の一撃ではない。長照射だ。極太の超高熱光線がそびえ立つコロニーの中腹を横薙ぎに走る。
「――――まさか」
コロニー内を駆けるフミナは轟く破壊の音色を聞き、真っ赤に焼けた内殻片や瓦礫を浴びて、可憐な細面を引きつらせた。
懸念は即座に現実と化した。
ハイメガ粒子砲による大規模な溶断がコロニー残骸内に大規模崩落を引き起こす。
フミナは悲鳴すら上げられずコロニー内殻や内部都市の莫大な瓦礫の大雪崩に飲まれ、F90は降り注ぐ数億トンの瓦礫と建材によって圧潰した。
「……」
スミオは油断を突かれた形とはいえ、瞬く間にエリとフミナが倒された事実に眉間へ皺を刻み、デルタプラスの墜落現場から立ち昇る黒煙と大崩落を起こしたコロニーを一瞥し、巨神へ向き直った。
『路傍の石ころ風情が……っ! 随分とナメた真似をしてくれたな……っ!』
巨神のファイターが怒気を込めて吐き捨て、右手のビーム砲を構えた。
『貴様は絶対に潰すっ!!』
放たれる5条のビーム砲。赤黒ジェガンはクイックブーストを発して砲火を振り切る。
スミオは機体を操りながら空になったミサイルポッド、残弾わずかなビームライフルを投棄。パイルバンカーのグリップを握り直す。
ちらりと大きく損壊したコロニーを一瞥し、巨神へ向かって躍動した。
〇
「どう転ぶか分からなくなったぞ」
スクリーンで繰り広げられる激戦を見つめながら、スガ・アキラが面白そうに呟く。
「純粋な力勝負ならジェガンに勝ち目はないと思いますけど」
キジマ・シアが自身の所感を言えば、兄のウィルフリッドが首を横に振る。
「そうとも言い切れない。あの超大型機のダメージは見た目より深刻だ。特にあの胸部のダメージは大きい。おそらくジェガンのパイルバンカーかビームサーベルでも貫ける」
「デカブツのファイターもそこは分かってる。駆け引きの話になるな」
アドウ・サガが強面に冷笑を浮かべる。ここから見ものだと言いたげに。
赤黒のジェガンはビーム砲の弾幕をクイックブーストと乱数機動で掻い潜り、距離を詰めていく。障害物だらけの市街を素早く、滑らかに躍動する。
「……やはり上手いな。障害物だらけの中をあの速度で機動しながら、相手の視界と射線を切れる遮蔽物を選んでコースを取っている」
「その程度の腕はあるだろうよ」
スガとアドウが分析するような目でスクリーンを見つめる中、赤黒ジェガンはビームサーベルを右手に抜刀。オーバードブーストを使って一気に距離を詰める。
ビーム砲では仕留められないと踏んだのか、巨神が胸部のハイメガ粒子砲を短充填で拡散発射。
まるで刈り払われるように倒壊、破壊、崩壊していく廃墟や瓦礫の山。避けきれず粒子が当たったジェガンの右手首が融解。しかし、ジェガンは動きを止めず、左腕のパイルバンカーを振るう。
発射残渣の高熱粒子を漂わせるハイメガ粒子砲の砲口へ、パイルが叩き込まれ、指向性爆薬の追い打ちが加えられた。
爆発し、大量の黒煙を噴出させるハイメガ粒子砲。同時に発射残渣の高熱粒子によって完全損壊するパイルバンカー。
「損傷部を狙わずハイメガ粒子砲を狙った……どうして? 狙いを誤ったの?」
兄の見解と違う動きをした事実に戸惑い、シアは隣のウィルフリッドを窺う。と、兄は青い目を鋭くし、食い入るようにスクリーンの赤黒ジェガンを凝視していた。
と、赤黒ジェガンがヘッドバルカンを短く点射しつつ、後退していく。
『ははははっ! もはや打つ手なしという訳だ。無様だなっ! 良いぞっ! 残り時間いっぱい
巨神のファイターが勝ち誇るように笑い、巨神は嬲るように右手のビーム砲を撃ちながら赤黒ジェガンを追って傲然と歩み始めた。
赤黒ジェガンはヘッドバルカンを撃ちながら後退を続け、ビーム砲撃による爆煙や粉塵に紛れて逆襲のブーストキックを叩き込み、なんと右手5指のうち2指を潰す。
巨神のファイターが激昂する。放送禁止用語スレスレのスパニッシュ・スラングを喚き、鈍重な巨躯でジェガンを追い回す。
『侮辱されてたまるか……お前のような石ころ如きにっ!!』
相当、頭に血が昇っているらしい。3指のビーム砲を絶え間なく放ちながらジェガンを執拗に追跡し、徐々にコロニー残骸の麓へ近づいていく。
シアがぽつりと呟いた。
「……超大型機をコロニーへ誘導してる?」
アドウはハッとして、強面を険しくする。
「狙いは……デカブツがF90を仕留めたようにコロニーを崩壊させて、大量の瓦礫で潰す気か? だが……上手くいくか? 元はデカブツが仕掛けた手だぞ」
「やっこさん、かなり頭に血が昇ってる。引っ掛かる可能性は小さくないでしょ」
アドウとスガがやり取りを余所に、追う者と追われる者は黒煙と粉塵を吐き続けるコロニー残骸の麓へ到る。誰もがクライマックスを予感する。
ジェガンがブースターを焚いてコロニー外殻を昇っていき、巨神がその背に向かってビーム砲を打ち込み続ける。コロニーの外壁で爆炎が幾度も咲き、熱光線に砕かれた外壁や外殻の欠片がバラバラと降り注ぐ。
『俺をコロニーの残骸に巻き込んで潰そうってっ!? 甘いんだよっ!』
巨神はコロニー残骸が倒れても巻き込まれない位置に留まり、ビーム砲を放ち続ける。ひと際大きな瓦礫片が剥落していくが、巨神には届かない。
『そんな子供騙しの浅知恵が通じるわけねぇんだよっ!!』
怒号を放つ巨神。装甲表面は塗膜が焼け焦げ、関節部や駆動系から異音が発せられている。全壊した顔貌や失われた左腕から黒煙が昇り、火花が散っている。冷却が追いついていないのか、三本指がビーム砲撃を繰り出し続ける右腕から蒸気が吐き出されている。
空を覆い尽くす黒煙と戦塵。破壊と延焼で煉獄と化した廃墟都市、その中心にそびえるコロニーの残骸もまた大きく損壊し、まるで工場煙突のように多量の煤煙を吐き出し続けている。そんなコロニーの外壁に立ち、赤黒ジェガンはヘッドバルカンで巨神を撃ち続ける。無駄だ。ただの一発とて通じない。砕けた弾が火花を散らして跳ねる。
『いい加減、くたばれっ!!』
巨神のファイターが叫び、ビーム砲撃がジェガンを外れてコロニー外壁を深々と焼き貫く。
直後、コロニーが鳴動を始めた。地獄の底から響いてくるような恐ろしげな音色。
その音色は度重なる砲撃により、コロニー外壁と外殻の剥離と崩落を意味した。
コロニーの外壁が土砂崩れのように、コロニーの外殻が土石流のように、コロニーの瓦礫と建材と金属資材が津波のように、麓へ向かって怒涛の勢いで雪崩打つ。
――自分のところまでは達しない。
そう見做した巨神のファイターは口元を大きく歪め吊り上げ――
自身の傍に戦艦並みの外壁片が落下してきて、ぴきりと固まった。
コロニー崩壊の規模が巨神のファイターの想定よりはるかに大きい。
当然だ。ガンプラバトルの環境物理演算は現実世界並みに高度かつ洗練されている。コロニー残骸は度重なる砲撃による破壊と損傷、試合時間いっぱい続いた内部延焼により、その剛体劣化は促進されていた。それらの要素がしっかり組み込まれて計算され、プラフスキー粒子によって再現される。
加えて、ディバステイターガンダムは頭部損壊――センサー群の破壊により観測情報の精度が大幅に落ちていた。
つまりは―――ダニエル・ナカソネは安全距離の読み違えた。
赤黒ジェガンが言った。まるで無駄働きさせられたとでも言いたげに。
『お前を潰すのに武器は要らなかったな』
『――――――――――――っ』
鈍重なディバステイターガンダムにもはや逃れるすべはなく。
ダニエル・ナカソネはただただ降り注ぐ莫大な残骸と押し寄せる瓦礫の大津波がその巨体を呑み込み、分厚い装甲を削り剥がし、その巨大な四肢を壊し千切り、体躯を磨り潰していく様を見続けるしかなかった。
そして、
『バトルエンド』
システムによって巨神の死と戦いの終わりが告げられた。
Tips
ディバステイターガンダム
オリ設定。元ネタはACVDに登場する超巨大特殊機体タイプD・No5。
この機体はAC1、ACNXに登場した超大型特殊機体デヴァステイターのセルフオマージュらしい。
ゲームの仕様上、体力数値を越えるダメージを受ければ、どこを攻撃していても撃破可能。動画サイトでオーバードウェポン・マスブレードで向こう脛を引っぱたくと爆発四散する映像が見られる。
ちなみにAC1、ACNXのデヴァステイターはプレイヤー達から完全に見掛け倒しのザコと認識されていた。不憫。
ダニエル・ナカソネ。
オリキャラ。元ネタは特になし。名前はペルー出身の芸術家を組み合わせたもの。
甘やかされて育ったエゴイスト。ただし、家族の社交の関係で相応の振舞いを躾けられており、裕福な家庭の子弟らしく打算的な物の見方も備えている。
おまけ。
当バトルはとある安彦作品をオマージュしました。作者の拙い文章では分からない可能性が大。