※この作品はR-18です。

ビルドファイターズ・レイヴン   作:コウサカさんちのコーヒー

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7:ファイターとビルダー

 バトルフィールド上で描かれる熾烈な一騎打ち。

「すごい」

 

 感嘆を漏らしたのは誰だっただろう。

 瞬きを惜しんで戦いを注視するラルさん。壮絶な死闘に呼吸を忘れるカオルコ。

 

 ヨミとメグタは素直に戦闘を受け止められない。

 脳裏に全国大会一回戦の敗北が過り、苦痛と苦悩が生じていた。もしも、あの時、あの場で、自分達がもっと健闘できたなら。自分達がもっと上手くやれたなら。自分達にもっと実力があってスドウの負担を減らせてやれていたなら。我梅学院にああも一方的な敗北を喫することなど無かったのではないか。そんな自罰的意識が2人の顔を苦しげに歪める。

 

 それは聖鳳学園のフミナとエリも同じこと。

 自分達にもっと力があったなら全国大会に行けたのではないか、という自責の念が込み上がり、2人の美貌が辛そうに歪む。

 

 一方で、エリは歓びも覚えていた。自分の作り上げたガンプラが限界まで性能を発揮し、完璧に操られる様にビルダーとして歓びを禁じ得ない。自分の愛する男を改めて惚れ直す。

 

 フミナも一人のファイターとして食い入るようにジ・Oとシナンジュの動きを見つめ、そこから少しでも何かを学び取り、自身の血肉にしようとしていた。いつか自分もあのレベルに至ると固く決意して。

 

 周囲の感情や気持ちが届かぬ戦場の中で、シナンジュが動く。

 ロケットバズーカをライフルに装着。砲身が伸張して高速榴弾を発射する。

 ソロモンの地表に大きな爆発が生じた。大気圏内ならキノコ雲が生じるだろうが、宇宙空間ではただただ放射状に広がっていく。

 

 衝撃波から逃れるため、紅いジ・Oの巨体が宙へ跳び上がった。背面の大型ブースターを吹かし、サブアームでバックパックから実弾マシンガンを左腕へマウント。マシンガンの素早い点射で牽制しながら肉薄を図る。

 

「ロケットバズーカと撃ち合っては不利と判断したか」ラルさんが口ひげを弄りながら「戦況が動くな」

 

 バズーカの近接信管が宙に巨大な火球をいくつも咲かせ、ビームライフルの光線とマシンガンの曳光弾が幾条も漆黒の空間へ光跡を重ねる。

 紅い重モビルスーツがその巨体から想像もつかないほどの機動力で相対距離を詰めていく。紫の高機動型モビルスーツは乱数旋回を繰り返し、距離の短縮を受け入れる。

 

 白兵戦へ移行するだろう兆し。高まる緊迫感に観戦者達はごくりと生唾を呑み――

 紫のシナンジュが先を取った。ロケットバズーカを捨て、サーベルを抜いて斬りこむ。紅いジ・Oは両手の火器を捨て両手に抜刀。否、両肩のサブアームも抜刀。否、否、否! 股間の隠しアームからさらに2刀を抜く。合わせて6刀。

 紅きジ・Oは阿修羅の如く6本のビームサーベルを以って、シナンジュを迎え撃つ。

 

「ば、ばっかじゃないのっ!?」

 過剰なまでの有様にヨミが吃驚と罵倒が混じった大声を発し、フミナがジトッとした目をエリへ向けた。

「ひょっとして、前に見た部長のアスラ・ジャジャって、エリ先輩の影響を受けてるんじゃ……」

 エリはてへぺろポーズを返した。

 

 騎士のような紫のモビルスーツが一刀を構えて駆け、六刀を握る異形と化した紅いモビルスーツが立ち向かう。

 交錯する両機の光跡。

 振るわれる一刀の一撃。繰り出される六刀の斬撃。ビームサーベルが激突する衝撃と閃光。

 

 ジ・Oが間断なく繰り出すサーベルの嵐をシナンジュがサーベルでいなし、盾で防ぎ、機動でかわす。凄まじいまでの集中力と精緻な操縦。スドウ・シュンスケが全国大会に出場した実力は紛れもなく本物である証左。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 スドウは叫び、シナンジュが猛る。

 

 シナンジュは斬る。盾を断たれながらジ・Oの右肩のサブアームを。

 

 シナンジュは斬る。右肩口を削がれながらジ・Oの右隠しアームを。

 

 シナンジュは斬る。左脛から先を切り落とされながらジ・Oの左腕を。

 

 シナンジュは斬る。左ブースターを壊されながらジ・Oの左肩サブアームを。

 

 シナンジュは斬る。右胸部を裂かれながらジ・Oの左隠しアームを。

 

 シナンジュは紅い体躯目掛け、サーベルを振るい、

 

 刺された。

 

 ジ・Oの残る最後の腕。右手のビームサーベルがシナンジュの胸部コクピットを貫き、抉っていた。

 

「……一手、間に合わなかった。いや、これはお前の詰め通りか、アリサワ」

 スドウが大きく息を吐くと共にシナンジュが爆散し、戦闘終了通告が下された。

『バトル・エンド』

 

      ○

 

 夕暮れの迫る校門。

 帰路に着く宮里学院と聖オデッサ女子学園の面々を、聖鳳学園の面々とラルさんが見送る。

 

 スドウはスミオへ問うた。

「アリサワ。お前はガンプラを自作していないんだったな?」

「ええ」スミオは頷いて「ぼくはファイター専門。ビルドは完全にエリへ任せています」

 

 少しの逡巡の後、スドウは自分の信条を確認するように、言葉を編んだ。

「……俺は、ガンプラバトルは自分で作ったガンプラで臨んでこそ、だと思っている」

「その考えは間違ってないと思います。自ら作り、操る。ガンプラバトルの原点でしょう」

 スミオはスドウの信条を肯定する。でも、と言葉を続けた。

「ぼくはファイターとビルダーが力を合わせて臨むスタイルも間違ってないと思っています。なんせ我が校の偉大な先達はファイターとビルダーのコンビで世界選手権を優勝したんですから」

 

「そう、だな。その通りだ」

 スドウは自分へ言い聞かせるように呟いて小さく頷いてから、

「今日は良い経験が出来た。感謝する」

「こちらこそ。来ていただけて本当によかった。ありがとうございます」

「君のガンプラは強かったよ、シノダ嬢。見事な仕事だった」

「ありがとうございます」

 スミオとエリの2人と握手を交わし、帰っていく。

 

 その傍らで、カオルコとフミナが別れの挨拶をしていた。

「楽しい一日だったわ。呼んでくれたこと、お礼を言っておくわね、フミナさん」

「お礼を言う態度じゃないわよ、ギャン子」

 高飛車に告げるカオルコへ渋面を返すフミナ。

 

「またどこかのバトル会場で会いましょう。ま、勝つのは私だけど!」

「今度はわたしが勝つわよ!」

「返り討ちしてあげるわ」

 高笑いを上げながら去っていくギャン子。取り巻き2人が手を振りながら続く。そんな2人へフミナとエリが手を振り返す。

 

 招待した面々を見送り終え、スミオはエリとフミナ、ラルさんへ言った。

「お疲れさまでした」

「お疲れ様」「お疲れさまでした!」「皆、今日は頑張ったな」

 三人の答えを聞き、スミオは続ける。

「それじゃ、俺達も打ち上げに行こうか」

 

 ・・・

 

 ・・

 

 ・

 

 聖鳳学園ガンプラバトル部が和気藹々と打ち上げへ赴く中、帰路に着いた宮里学園のスドウは一つの決意を固めていた。

 ――俺は勝ちたい。再び全国の舞台に立ち、今年味わった屈辱を晴らしたい。そして、優勝したい。日本一の景色が見たい。

 今日、アリサワと戦って確信した。俺のファイターとしての実力は決して劣るものではない。問題は俺のビルダーとしての実力だ。

 もしも、俺がビルダーとして成長を果たせないのなら――

 信条を曲げることも、厭わない。

 

 宮里学園のエースが決意を固めていた頃。同じく帰宅中の聖オデッサ女子学園の三人娘は先ほど見たエース対決に盛り上がっていた。

「聖鳳学園と宮里学園のエース対決、本当に凄かったですね、カオルコ様!」

「高校生のイケメン対決、本当にワクテカでしたね、カオルコ様!」

「マヒルさん、ケイコさん。そう楽しんでばかりもいられないわ。全国を、日本一を目指すならあの2人を倒さなくてはならないのよ!」

 高飛車で自信過剰なところはあるけれど、カオルコは冷静に現実を認識していた。

 

 来年の全日本選手権で全国の舞台に立つためには、まず地区予選であの2人を倒さねばならない。そのためには――強くならならければ。ファイターとしてもビルダーとしても、もっと強く!

 

 握り拳でカオルコは決意を口にする。

「私達ももっともっと強くなるのよっ!」

「はい、カオルコ様!」

「がんばります、カオルコ様!!」

 素直なマヒルとケイコは敬愛するリーダーへ即座に『応!』と答えた。

 

 夏は終わり。文化祭も終わり。

 けれど、ガンプラの青春は終わらず。

 

     ○

 

 学校近くの商店街。そのお好み焼き屋。

 鉄板の上でジュウジュウと焼かれるお好み焼きと広島風とモダン焼き。ソースの焦げる匂いが香ばしく、ふらふらと踊る鰹節が愛おしい。

 

 モリモリ食べるスミオ。上品に食すエリ。健啖を発揮するフミナ。元気に食する若人達にニコニコ顔のラルさん。

 フミナはモダン焼きを平らげる合間合間にスミオへ操縦技術についてあれこれ尋ね、エリに制作技術をあれやこれやと聞く。

 

「フミナ君は本当に熱心だなぁ」ラルさんが相好を崩して笑う。

「さっきのバトルを見たら、やる気が湧き上がって止まらないんです!」

 ふんすっ! 鼻息荒く答えるフミナ。

 

「確かに先ほどのバトルは素晴らしかった」ラルさんはうんうんと頷き「しかし……スドウ君は何やら悩んでいた様子だったな」

 

「多分ですが……」

 スミオは魚介たっぷりのお好み焼きをジンジャエールで胃袋へ流し込み、言った。

「自分の信念信条と現実の問題にどう折り合うか、悩んでいたんでしょう」

「? 信念信条と現実の問題?」何やら難しい言葉に中二のフミナが怪訝顔を作る。

 

「ガンプラバトルに臨む人達の多くは『自分で作って、自分で操る』を旨としていて、それが普通のガンプラバトルのやり方だと思っている」

 スミオが小首を傾げるフミナへ説くように言葉を編む。

「まあ、そうですね」フミナは頷いて「でも、国際大会やプロの試合ではファイターとビルダーの完全分業制も多いです」

 

「ええ。世界選手権で優勝した聖鳳学園のOBであるイオリ・セイさんとレイジさんも、ファイターとビルダーの分業体制でした」

 エリが広島風お好み焼きを切り分けながら言った。

「個人で全てを賄うことは簡単ではありません。けれど分業制が必ずしも優っているとも言えません。まず互いの信頼が最低条件です。ファイターはビルダーを信じてガンプラ作りを任せ、ビルダーはファイターを信じて作ったガンプラを委ねる。そこに信頼が無ければ、必ず破綻が起きます。敗北すれば原因と責任を押し付け合い、勝利すれば栄光と利得を奪い合う。そんな未来しかありません」

 

 ラルさんはノンアルビールを味わい、接ぎ穂を語る。

「エリ君の言う通りだ。だから、分業制が上手くいっている者達はだいたい決まった例だよ。確固たる信頼関係が確立された仲、たとえば親子兄弟、親友、恋人。完全に役割分担と責任範囲を決めたビジネスライクな関係。あとは師弟関係みたいな例もあるな」

 

「なるほど」フミナは食べる手を止めて考え込み「じゃあ……宮里学園のスドウさんが悩んでたのは、自分のガンプラ作りを他人に委ねるか、もっと突っ込んで言えば、信頼して制作を任せられるビルダーを見つけられるか、ということですね」

 

「多分ね」

 スミオはお好み焼きを突きながら難しい顔を作る。

「加えて言えば、スドウさんはファイターしてもビルダーしても全国クラスだ。相当の実力者じゃないとスドウさんが満足するガンプラを作れないだろう。うちの学校なら……エリか、コンテストで優勝したプラモ部の一年生かな」

 

「エリ先輩やユウくん並のビルダーですか。簡単には見つからなそう」

「見つかっても手を組めるかどうかは別ですし、ハードルは高いでしょうね」

 前途多難そうなスドウ・シュンスケの武運を祈りつつ、面々は食事を進め、デザートで打ち上げの〆に入る。

 

 熱々のお好み焼きを食べた後の冷たく甘いアイスクリームは格別だった。

 

「……全国大会を決めたチームのエースですら、自分の実力が足りないと思うんですね」

 バニラアイスを味わいつつ、フミナがしみじみと言った。

 

「彼は全国大会という『上』のステージで敗北した」ラルさんは食後のアイスコーヒーを嗜みながら「ガンプラ作りを自分より優れた者に委ねるという決断は、彼が『上』のステージを知り、敗北と向き合って出した答えなのだろう」

 

「背中を押したのはスー君みたいでしたけどね」エリが微苦笑を湛えた。

「どうかな。決断のきっかけに利用された気がしないでもない」

 スミオはチョコアイスを口に運び、鼻息をついてラルさんの言葉を反芻する。

「敗北と向き合う、か。確かに重要だ。敗北ほど学習意欲と士気を刺激する体験はない。でも、負けたくはないんだよなぁ」

 

「ですね。わたしも負けたくないです」

 うんうんと頷くフミナ。エリも静かに同意する。

 

「なら、努力を続けるしかないな。勝利する者達は皆、努力する者達だ。才能の有無優劣、多寡は確かにあるだろう。けれど、努力せずに勝ち続けられた者を、私は知らない」

 ラルさんが告げた薫陶に、少年少女達は素直に頷いた。

 

     ○

 

「スー君。“あっち”のガンプラは大丈夫ですか?」

 打ち上げが終わり、フミナとラルさんと別れた後。シノダ宅の前で、エリが言った。

 

「今のところは問題ない。エリの作ったサイコゲルググは最高だ。公式大会で使えないのが申し訳ないくらいだよ」

 スミオはエリから受け取ったジェットヘルをリアシートに固定しながら答え、少し考えてから続けた。

「ただ、かなり目いっぱい扱っているから、俺の把握してないところにも負荷が掛かっているかもしれない。そろそろ総点検を頼めるかい?」

 

「もちろん」エリは眼鏡の奥で目を柔和に細めて快諾し「預かって作業したいですけど、良いですか?」

「よろしく頼むよ、エリ。それじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい、スー君」

 

 スミオはバイクにまたがり、エリとキスをしてからヘルメットを被り直して、発進。

 そう遠くない自宅に――向かわずそのまま少しドライブに赴く。

 

 高速に乗って首都高へ。日曜の夜だ。外回りではなく内回りを流す。世界有数の大都市内を走る高速道路は独特の雰囲気がある。灯りを落とした高層ビル。灯りを絶やさない高層ビル。燦燦と輝くネオン。絶え間なく走る様々な自動車。

 

 眠らない街東京。今や陳腐化した表現は、然してこれ以上ないほどこの街を表している。

 街灯。車のヘッドライト。高速道路を挟むビルの明かり。直列四気筒エンジンの奏でる駆動音。ヨシムラ菅が歌う排気音。ヘルメット内に伝わる風切り音。夏終わりの温かい走行風。

 

 何も考えずただただバイクを走らせることに集中し、頭にある様々なことをスピードで削り落とす。

 家族のこと。生活のこと。金のこと。ガンプラバトルのこと。賭博試合のこと。エリのこと。フミナのこと。サイコゲルググのこと。自分の将来のこと。何もかも全部削ぎ落されるまで、ただただバイクを走らせる。

 

 頭の中がすっきりさっぱりするまで首都高内回りを走り続けた後、用賀パーキングエリアに入って自販機の缶コーヒーを啜る。

 チープな香りと苦みを味わいながら、スミオはぼんやりと夜のパーキングエリアと月を眺め、快い孤独感に浸る。

 

 不意にスマートフォンから『機動戦士Zガンダム』のBGM『モビルスーツ戦闘』が奏でられる。

 新着メッセージは1件。

 

 発信者は『オールマインド』




Tips

イオリ・セイ、レイジ
 原作『ビルドファイターズ』の主人公コンビ。作中時間の6年前に世界選手権で優勝した。

首都高
 入場料金で好きなだけ走り回れるため、アンポンタンな連中が絶えない。
 外回りの方がガチ勢が多いとかなんとか。

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