ビルドファイターズ・レイヴン 作:コウサカさんちのコーヒー
文化祭の翌日。聖鳳学園は振替休日でお休み。
シノダ・エリは自室の作業卓の上に、ガンプラを置いた。
深紅(ドゥカティレッド)のサイコゲルググ。
左肩にワタリガラスのエンブレムが描かれたこのガンプラは、アンダーグラウンドのガンプラバトル・ランカー“レイヴン”の現愛機。
ガンプラビルダー、シノダ・エリが丹精込めた精緻なるオリジナル・ガンプラ。
エリは長い髪を御団子にまとめて作業卓のライトを点し、ゲルググJベースのサイコゲルググを入念に検査していく。
明確な損傷はない。が、バトルのダメージを忠実に反映させるダメージモード『A』で使用されているためか、ゲルググには細かな傷や塗膜剥がれがいくつも生じていた。ビームの擦過や至近爆発に焼かれた痕。爆発物の破片や小口径弾が当たって削られたりへこんだりした痕。高荷重機動や高負荷運動で生じた歪みや軋み。
深紅のゲルググを丁寧に見分し、痕跡や状態を一つ一つ把握していく。
全痕跡を把握し終えた時、エリにはスミオがどのようにこのサイコゲルググを操縦し、戦ったのか、手に取るように分かった。
「流石はスー君」
自身の作り上げたガンプラがファイターの操縦に応え、想定した性能を完全に発揮した。その事実にエリは充足感と満足感を覚える。
次いで、両手で眼鏡の位置を修正してからゲルググの分解を始める。
背中の巨大なバックパックを外し。胴体から頭部と両手足を外し。両手足は関節部ごとに分け。胴体のスカートを外し、胸部と腰部に分け。巨大なバックパックも細かく分解する。
完全に分解されたゲルググはリアリティを出すために金属やカーボン、強化樹脂製の部品が少なくない。
外せるものは全て外して作業卓上へ丁寧に並べ終え、ふう、と一息吐く。エリは太縁眼鏡越しに全バラしたゲルググを見つめ、細面の眉間に皺を刻んだ。
関節部に摩耗や消耗が目立つ。フレームに歪みが生じている。いずれも今すぐ問題になるほどではないけれど、高負荷高負担の機動を取るサイコゲルググには見逃せないリスク要因だ。
エリはメモ帳にボールペンを走らせて作業リストをまとめ、椅子の背もたれにたおやかな体を預ける。
「関節部の交換、フレームの修正と補修、武装とブースト系の改修もしたいところですね。この際、アップデートも図ろうかしら」
棚から無地ノートを取り出して開く。エリはページをめくり、描き溜めていたガンプラのアイデアを読み返す。
「スー君は高速機動性能を重視するから、あまり重量が増えない方が良いですよね」
不意にノートをめくる手が止まった。自分の手で書いた文言とイラストが目に留まる。
「AOZ系の拡張パーツ……」
アイデアの火花が弾け、煌めきが走る。エリはまっさらなページを開き、サイコゲルググのアップデート案を書き連ねていく。
「ジェネレーター系のメカを更新してスラスターを増やして機動推力を向上……顔に増設センサーを被せて索敵精度と火器管制の大きいのを乗せて……」
何ページにも渡って走り書きを重ね、想像図や発想図もどんどん描き並べ、ひとまずのアウトプットを終えた。エリは満足げな顔で大きく息を吐く。
「うん。とりあえずはこんなところでしょう。操縦がちょっと難しくなるかもしれないですけど、スー君なら問題ないはずです」
もしもジオン軍のお偉いさんがエリの企画したアップデート案を見せられたら、きっとこう言うだろう。
こりゃモビルスーツの形をしたパイロットの処刑装置か?
しかし、ガンプラバトルのファイターはパイロットのようにGに晒されることはない。実際に乗ったら脳ミソが寄っちゃったり内臓や骨が圧潰しちゃったりウンコ漏らしちゃったりするような設計や構造でも、ファイターに影響はない。ありがたや。
ひと仕事終え、エリは休憩を取ることにした。お団子を解き、スマホを手にベッドへごろり。メッセージアプリを起こし、スミオとやり取り。
今日、スミオは朝方にエリへガンプラを届けた後、自宅でバイクの整備をしていた。
そのスミオからメッセージが返ってくる。
『作業が終わらない……(´・ω・`)』
画像はカウルが剥がされ、フロントフォークが引っこ抜かれたスズキのスーパースポーツ。フロントフォークの錆落としとオイルシール交換をしているらしい、
スミオといくらかやり取りした後、エリはスマホを置いて。
ムラッとした。
エリは小5の夏からスミオと『濃いめ』の触れ合いを始め、中学の三年間に性交渉を重ねてきた。齢16にして性の悦びを知っている。
身も蓋もない言い方をすれば、シノダ・エリは性欲が強い。であるから、小学生の時にスミオへの恋情を自覚した時、積極的に行動したのだ。
そして行動が実り、恋人同士となった今、スミオに自己肯定感と自尊心を満たされ、性欲的と恋愛的欲求を満たされる多幸感と快感を満たされ、エリはすっかり心も脳も体も焼かれている。
簡単に言えば、エリはスミオが好き好き大好き。愛してるチョー愛してる。
いつの間にか部屋着のハーフパンツと下着を膝まで降ろし、馬手でクリトリスを弄り、弓手でヴァギナへ指を二本も差し込んで性衝動を慰めていた。瞼の裏に自分を抱くスミオの姿を描き、一心不乱に自分の中へ埋めた指で淫肉を掻く。
「ぅうう……っ!」口から切ない喘ぎ声が漏れる。
父は仕事、母はパート、家には自分一人。けれど声を押し殺し、エリは蜜をしとどなく滴らせる自身の肉壺へ指を根元まで差し込み、蠢く肉壁を掻き回す。うつ伏せになって尻を浮かせ、より深い快楽を貪ろうと指の動き合わせて腰が蠢く。ぱたぱたと垂れ落ちる淫汁がシーツに濡れ染みを広げていく。
「あぅう……っ!!」
波のように押し寄せてくる快楽と悦楽。鼻息と吐息が荒くなるにつれ、自らを慰めるエリの指使いも激しくなる。
「ぃ、くぅう……っ!!」
身体の昂ぶりが限界を越え、絶頂が神経を駆け抜けてエリの身体がびくんと強張る。爪先がぎゅっと力が入り、足の指が絞られる。
ふう、ふう、とエリは切なげに息を整えながら、自分の中から濡れた指を抜く。鼻先までずり落ちた眼鏡越しに茫洋と部屋を眺めて、思う。
足りない。
自分の指じゃ全然もの足りない。スー君の逸物が欲しい。スー君の逸物で中を満たしたい。スー君の逸物で子宮を突き上げられたい。スー君に子宮へ精液を注いでほしい。膣から溢れるほど精液をいっぱい流し込んでほしい。
絶頂の残響にひくひくと蠢く媚肉と愛液を垂らす淫穴。
肉欲の火照りはまだ収まらない。色欲に駆られたまま、エリは呟く。
「……スー君と“ナマ”でしたい……」
スミオはエリをとても大事にしているため、『ぼくがきちんと男として責任を果たせないうちは、エリに負担を強いるようなことは出来ない』と言って、妊娠の危険がある“生ハメ”をまずしない。エリが“ナマ”を望んでも宥めるようにゴムの使用を納得させる。
初めて肌を重ねてから三年半経つけれど、“ナマ”でしたことは一度だけ。
今でも忘れられない。信じられないほど気持ち良かった。子宮に精液を注がれた時の快感と肉悦と恍惚。妊娠するかもという不安と畏れによるスリル。最高だった。
口に出した欲求が具体的な衝動となって込み上がってくる。スー君と生でえっちしたい……私の中にいっぱい出してほしい……
とはいえ。スミオのことだ。きっと承諾してくれない。
そこへエリの心の中の淫魔がアイデアを提示した。
「……ピルかパッチを使えば、スー君も了承してくれるかも」
忘れがちだが、“この世界”は近未来である。副作用がほとんど解消された避妊やアフター用のピルやパッチも売っている。ただコンドームと比べて、お高い。これはお財布に厳しいかもしれない。
スー君に相談してみましょうか。
可愛いカノジョから“生ハメ”の方策を相談され、スミオが驚愕するまで、あと数時間。
○
スミオはエリを心の底から信用しているし、信頼している。
仲間。親友。恋人。相棒。同志。戦友。ソウルメイト。全てを兼ねた深い関係を築き上げてきたのだから、当然である。
けれど、『急ぎで話し合いたいことがあります』と夕方に訪ねてきたエリが『ナマでエッチしたいから、ピルやパッチを使いたいのだけれど、どう思いますか?』と切り出してくるとは想像の斜め上をいっていた。
いや、ナマでしたい、と申し出ることはこれまで幾度かあった。エリは性欲が強めで欲求に対して率直だから。その度にスミオは丁寧に説明して思いとどまらせ、ゴム使用を納得させてきた。
そこへ此度、エリはピルとパッチの使用を提案してきた。冗談ではなくガチで。
「え、と……」
咄嗟に回答が出ない。
ナマが気持ち良いことはスミオも承知している。ゴム無しでエリを貪りたい欲求は常にあるし、エリとより深く強い快楽を分かち合いたい気持ちもある。けれど、責任も取れないガキの身で大切な恋人を孕ませる、なんて真似は絶対に出来ない。エリに大変な負担を強いるし、自分の母やエリの両親に合わせる顔がない。勢い任せに一度だけナマでした後、大変な後悔と反省に駆られたものだ。
そんなスミオの懊悩を知ってか知らずか、エリはスミオに自身のスマホ画面を見せて、言った。
「いろいろ調べてみたんです」
和やかな顔のエリが見せてきた画面には、副作用のない最新の避妊ピルやパッチ、もしくは生ハメ後に妊娠回避するアフターピルやパッチ。
「避妊目的だと医療控除外なのでちょっと高いんですけど、オンラインの自由診療で手に入り易いそうです。スー君はどう思います?」
「そ、それは費用的な問題についてでしょうか?」
しどろもどろに敬語で返すスミオ。動揺しまくり。
エリは保険の手続きでも進めるようにサクサクと話を進める。
「そうです。コンドームより高いですから、お金が掛かるでしょう? 費用は“あっち”のガンプラバトルで得たお金から出してほしいと思うんですが」
「アッハイ。それはもう、ぼくとエリの共同作業ですから、妥当だと思います」
「良かった。じゃあプールしているお金から出しますね。オンライン診療の予約を取らないと。お薬かパッチの受け取りは最寄りの薬局……だと知り合いとかに見られそうですね。ちょっと遠くの薬局にしましょうか。受け取りの際はスー君にバイクを出してもらって良いですか?」
「アッハイ。送迎させていただきます……」
「ひとまずはこんな感じですね。あ、ゲルググの方はまだ少し掛かりますから」
「アッハイ。よろしくお願いします……」
「今日はこれで失礼しますね。スー君、また明日」
「アッハイ。お疲れさまでした……」
エリを玄関まで見送った後、スミオはどっと疲れに襲われた。
○
朝夕の肌寒さが濃くなり、いよいよ秋の到来を感じさせる。
文化祭後の校内はどこか倦怠感が漂っていた。
スミオは高等部一年生のクラスでマッスル・ヨシダやパンクガール・ミウラと文化祭後の打ち上げに参加しなかった件で『どーして来なかった?』と聞かれたので『ぼくはバトル部の部長だからね。打ち上げで部員を労う義務があるんだよ』と答え。
そんな毒にも薬にもならぬ日課を過ごし、迎える放課後。
スミオが部の端末で生徒会に提出する文化祭の収支報告書を書き、エリが部で収蔵している模型誌や技術解説本などに目を通しながら、プリントアウトしたSF作品系メカとモビルスーツの設定画に時折鉛筆を走らせている。
高等部生二人の傍らで、中等部生のフミナはスマホでイベントスケジュールを確認し、呟いた。
「去年も思ったんですけど……夏が過ぎるとバトルの大会が一気に減りますね」
「夏休みを過ぎると、学生も社会人もまとまった時間が取りにくくなりますからね。ガンプラバトルはプロシーンが主体になりがちです」
エリが作業の手を止めて説明を返す。
日本国内ではヤジマ商事が運営する公式選手権。メーカーや出版社(ホビー誌)が主催する有力大会、配信運営会社が催すイベント的大会、ショップやクラブが開くミニ大会などが主で、多くの大会は長期休暇期間の夏に集中し、初夏や晩秋、年末年始の連休期間にいくつかあるくらい。秋冬はプロのリーグやトーナメントなど観戦系イベントが主になる。
反面、ビルダー系はコンテストがバトル大会と併設されるか、イベントが目白押しの夏からずらして開催される傾向が強い。つまり、国内のガンプラ界隈において秋冬はビルダーのシーズンというわけだ。
「エリ先輩はコンテストに応募するんですか?」
「今年はいくつか参加してみようと思っています。スー君も今年は参加するみたいですよ」
「そうなんですか?」
フミナに水を向けられ、スミオはPC画面から女子2人へ顔を向ける。
「正しくは大会用ガンプラ作りかな。秋冬は国内大会が限られるけど、アジア圏やオージーで国際大会があって、その予選が日本でも開かれるからね。だから制作はエリの完全監修だよ」
ガンプラバトルの世界的人気により、ヤジマ商事とは別口の国際大会も生まれている。
国内の秋冬がビルダーシーズンになる一方、国外ではバトル系の大会が普通に行われる。
アジア中華文化圏では春節――旧正月の大型連休に合わせて開かれるアジア・カップ、南半球で夏を迎えるオーストラリアで催されるパンパシフィック・チャンピオンシップなどは、日本でも予選が開催される冬の大型大会だ。
「アジア・カップの方はオープン大会で年齢制限無し、プロ・アマ資格問わずの個人戦。パンパシは年齢制限アリのチーム戦で、ガンプラのレギュレーションが公式と違う」
「原作で個人運用されていたモビルアーマーは大会でも個人で使用可。あとリアル系ガンプラ限定ですね。リアル系とSD系が戦う絵面は観客の受けが悪いそうで。大会はスポーツ・ビジネスですから、観客人気を無視できないんでしょう」
「SDはSDの魅力があるのになぁ」
スミオとエリがフミナへ説明し、ガンプラの熱心な愛好家であるフミナはちょっと不満げ。
「新しくガンプラを作るってことは、地区予選で使ったMk2とGディフェンサーをもう使わないんですか?」
もったいない、と言いたげなフミナへ、エリは手元から顔を上げて微苦笑を浮かべる。
「改造や改修を施すのも選択肢の一つだとは思いますけどね。この子達にこだわるよりは次に挑戦しようと思っています」
エリが作業卓に置いたプラモ雑誌や技術解説本、印刷した設定画は次のガンプラのアイデアを練るためのものらしい。
「あの、ずっと疑問に思ってたんですけど……エリ先輩ってスマホやタブレットをあまり使いませんよね。本を開いたり、わざわざプリントしたり」
デジタルとハイテクに囲まれて育つ現代っ子らしいフミナの指摘に、ガンプラとはいえエンジニアリングの端っこを齧っているエリは、先輩らしく後輩に教えを説くことにした。
「紙に印刷したものはディプレイに映るものより立体的に把握し易くなるんです。あと、思いついたことを手早く自由に書き込めます。こういうの、アイデアを具体化する際に大事なんですよ」
「そうなんだ……」向上心の高いフミナは先輩の教えを素直に受け取る。
「良い機会だから教えておこうかな。ネット記事や動画も参考になるけれど、ネット上に存在しない情報があることも、理解しておいた方が良い」
スミオは報告書書きの手を止めて卓上のホビー誌をフミナへ見せ、言葉を紡ぐ。
「これはぼく達が生まれる前に出た雑誌で、ガンプラにリアルグレードもマスターグレードも存在しなかった時代に、プロのモデラーが今でいう旧キットを徹底的に改造してリアルさを実現する企画記事が載ってる。関節の油圧系をプラパイプとプラ棒、いろんなジャンクパーツで再現したりね。こういうのは再版されないし、書籍化されることもまずない。どこかの物好きがネットにアップロードしない限り、まず目にすることが出来ない情報だよ」
「凄い……リアルグレード並みのギミックを完全に自作してる……」
雑誌を食い入るように見つめるフミナ。
スミオは向上心豊かな後輩の様子を眺め、思案顔で言った。
「そうだな……ホシノさん。エリとそのMk2とディフェンサーを使ってドッキング操作してみたら? エリのオペレートを受けながらバトルに臨めば、今とは違う学びが得られると思う。とりあえず、チュートリアルデータで試してみなよ」
「そこは部長がわたしのガンプラを使って相手をするところじゃ?」
挑戦者顔のフミナが挑発的な物言いをするも、
「ホシノさんは今まで自作のガンプラ以外、操縦したこと無かっただろう? 他人の作ったガンプラがどういうものか、体験してみると良い。それに」
スミオは自慢するように口端を上げた。
「エリがぼくのために作ったガンプラは、凄いぞ」
○
バトルシステムが目覚め、プラフスキー粒子が舞い踊り、生命なきガンプラ達が動き出す。
赤黒のガンダムMk2を軽く操り、フミナは呟く。
「私のガンプラと全然違う……っ! 反応が速いし、機体の隅々までストレスなく滑らかに動く。これが、エリ先輩が作ったガンプラ……っ!!」
『ホシノさん、そのMk2はスー君用に癖のある作りになってるの。まずはいろいろ動いて慣れてください』
頭上を飛ぶGディフェンサーからエリの声が届き、続いてスミオの声が聞こえてきた。
『チュートリアルデータを出す。まずマーカーに従って機動するマニューバチャレンジ。次は機動しながら射撃するシューティングチャレンジ。最後にモデルデータと対戦するコンバットチャレンジだ。準備が整ったら言ってくれ』
「とりあえず5分下さい! 少し慣れてからチャレンジを始めます!」
フミナはスミオに答え、赤黒のガンダムMk2を躍らせた。
Tips
シノダ・エリ
原作のネームドモブ。本作のメインヒロイン。オリ設定化状態。
”開発”済みで、日常では楚々とした地味眼鏡っ子。オリ主の前では娼姫のように淫ら。
性欲に正直。
避妊ピル、避妊パッチ。
作中世界は近未来なので、現代日本の避妊ピルやパッチより効き目抜群。副作用もない。御都合アイテム。
アジア・カップ。パンパシフィック・チャンピオンシップ。
本作のオリジナル設定。参考はバイクレースやeスポーツ。