※この作品はR-18です。

対魔忍世界の転生者   作:TNKエース

10 / 12
第10話

アサギ先生に七海さんと共に呼ばれた。

 

「来たわね」

 

「仕事ですので」

 

七海さんは冷静に言うと、

「任務の内容は」

 

「任務の内容はとある中国系マフィアが薬物の取引を行うのでそれを排除及び薬物の破壊。可能なら確保してほしいとのことよ」

 

アサギ先生は淡々とした口調で告げた。俺は頷きながらメモを取り始めたが、隣で七海さんが鋭く息を吐くのが聞こえた。

 

「対魔忍としての任務でしたらお断りします」

 

七海さんはキッパリと断った。

 

「ええ、それだけなら七海さんを呼びません」

 

アサギはタブレットを取り出し映像を見せる。上裸の男が歯を手でへし折りそれを投げた。投げられた歯は爆発する。

 

「⋯⋯黄櫨折。コイツもか⋯⋯」

 

「呪術廻戦の死滅回遊から出てくるキャラです」

 

俺の解説に七海さんは眉をひそめた。

 

「私が死んだ後の人間ですか」

 

と冷静に尋ねる彼に対し、俺は続けた。

 

「羂索によって蘇った死滅回遊のプレイヤーの一人です。術式は見ての通り——切り離した身体の一部を爆弾として使います。さらに恐ろしいのは反転術式にて失った肉体を再生させます」

 

アサギ先生はため息交じりに画面を見つめた。

 

「末恐ろしいわね……異世界の呪術まで出てきたとは」

 

部屋に重苦しい沈黙が流れる。そんな中、七海さんが静かに立ち上がった。

 

「分かりました。呪術師が関係するなら私は出ましょう」

 

そしてその夜。俺たちの姿は埠頭に有った。

 

今回の任務は俺と七海さんのみ。できればまりかきららを連れてきたかったが……別件とはね。仕方ないとはいえ、黄櫨相手は少しキツイかもな。

 

* * *

 

暗がりの中、黄櫨折は退屈そうに耳を弄んでいた。周囲では中国系マフィアの幹部たちが声高に話し合いをしている。彼の日本語と英語は通じるものの、彼らの訛りの強い四川弁はほとんど理解できず、正直言って腹立たしい。しかもこの彼等が用意する料理ときたら、舌を焼くような辛さだ。

 

「あの爆弾ヤロー、また文句言いやがって!」

 

部下の罵声が飛ぶ。黄櫨は苦笑いした。確かに自分も問題児だった。先週の襲撃作戦で暴走し、指定された目標以外の建物まで吹き飛ばしてしまったのは事実だ。だが——

 

「仕方ねぇだろうが……手加減なんて知らねぇんだよ」

 

黄櫨は小さく呟いた。この異世界に来てまだ二週間。突然見知らぬ森に放り込まれ、偶然出会ったチンピラどもに騙され、気づけばこんな危ない仕事をやらされていた。もう限界だ。この一仕事が終われば金だけ奪って逃げるつもりだった。少なくとも——あの忌まわしい死滅回遊よりはましだと思っていたのに。

 

その時だった。

 

ガシャァン!!

 

倉庫の窓ガラスが砕け散り、冷たい夜風が吹き込んでくる。同時に感じた感覚。これは呪力!?

 

「何者だ!」

 

中国系マフィアたちが一斉に武器を構える中、黄櫨の目の前に閃光が迸った。

 

ドォン!!!

 

爆音と共に閃光が空間を裂き、衝撃波が軽い物をを薙ぎ倒していく。他のモノが視界を焼かれている中、黄櫨だけは呪力を感知して助かっていた。

 

煙が晴れた瞬間、黄櫨は信じられないものを目にした。

 

窓枠の向こうに立っていたのは二人の男。片方はスーツ姿だが明らかに普通のサラリーマンではない。そしてもう一人——奇妙な装束に身を包み、頭にはフードのようなものを被っていた。

そして2人とも呪力を身に纏う。

 

黄櫨は驚愕に目を見開いた。この世界では珍しい—いや、「あるはずのない」存在だ。呪力を身に纏う者が二人も現れたことに思わず笑みが浮かぶ。

 

「おいおい……まさか同郷か?」

 

黄櫨は楽しげに唇を歪ませた。

 

「久しぶりに楽しめるかもしれねぇな」

 

「一つ聞きます」

 

スーツ姿の男が落ち着いた声で問いかけた。

 

「投降する気はありますか?」

 

一瞬の沈黙。そして黄櫨の顔が凶悪な笑みに変わった。

 

「無いな!」

 

バキッ!

 

黄櫨が歯を引き抜き投げつけた瞬間—

 

ドォン!!

 

凄まじい爆発が起こった。倉庫内の陳列棚が木っ端微塵になり、粉塵が舞い上がる。

 

黄櫨は嗤った。

 

「ハハッ!どうだ──」

 

だが視線を向けると粉塵の中に二つの影が揺れていた。

 

「……なるほど。あなたはただの呪術師ではありませんね」

 

スーツの男—七海が冷静に分析していた。

 

「公賀くん、ここは私に任せてください」

 

「分かりました。ご武運を」

「ご心配なく」

 

**【修司視点】**

 

倉庫の奥から咆哮が響き渡った。

 

「オオォ゙ッ!」

 

突然の襲来。漆黒の筋肉質な巨体が躍りかかり、鋭利な六角棒を振りかざしてきた。オークの変異種——羅刹オークだ。

 

「ちっ!」

 

咄嗟に赤縛の詠唱を中断し、身を翻す。風を切る音とともに六角棒が床を砕き、コンクリート片が飛び散る。俺は後方宙返りで距離を取るが—

 

「ゴギャァ!」

 

追撃の一閃が脇腹を掠める。皮膚が焼けるような痛みが走る。

 

(速い……)

 

羅刹オークは通常のオークより知性があり、何より膂力が桁違いだ。だが……

 

「百歛——」

 

体内の血液を瞬時に圧縮する。七海さんから教わった縛りの応用法だ。原作の両面宿儺の思考を参考に、弱点を逆に利用する発想を得た。

 

(縛りにより15m以上進む血液は霧散する——その代わり、初速と貫通力を強化できる!)

 

指先に集中した血液が深紅の閃光と化す。

 

「穿血!」

 

刹那——!

 

鋭い一条の光が空気を灼き裂き、羅刹オークの胸骨を直撃。衝撃で巨躯が数メートル後方へ吹き飛ぶも、そこから終わりではない。

 

「ッ!!」

 

さらに掌を上へ。縦に走る第二射がオークの腹部を縦断。内臓破裂の絶叫さえ響かないほどの瞬殺劇だった。

背後のコンクリート壁には傷一つ無し。縛りが完璧に機能している証拠だ。

 

(七海視点)

 

「良しっ!」

 

遠くで修司君の勝利を確信する声が聞こえる。どうやらオークの変異体を片付けたらしい。ならばこちらも急ぐ必要がある。

 

「逃げるなぁ〜〜!!」

 

スタングレネードの効果が切れ、マフィアたちが蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。修司君が「赤縛!」の連呼と共に血の鎖で次々と拘束していく光景を視界の端に捉えながら——私の意識は眼前の敵へと集中した。

 

黄櫨折。羂索に復活させられた死滅回遊のプレイヤー。厄介極まりない存在だ。

 

(術式頼りかと思えば接近戦も中々強い)

 

右腕から鉈を振り下ろせば左手で受け止められ、蹴り足を繰り出せば膝で迎撃される。まさに近接戦闘も心得ている。その上で距離を取れば指先が動き——

 

「ッ!」

 

予測した通りのタイミングで床に唾液が落ちる。即座に跳躍し回避すると同時に倉庫に積まれていた麻袋を盾にする。爆発の余波で袋が破裂し小麦粉が舞い散る。

 

「……時間稼ぎですね」

 

腕時計を確認。修司君が完全に制圧完了するまでの時間を計算する。まだあと三十秒はかかるか。

 

(仕方ありません)

 

スーツのボタンを外し、ネクタイを解く。縛りによる“時間外労働”が始まる合図だ。

 

右手に巻いたネクタイに呪力が宿る。このネクタイは単なる装飾物ではなく呪具。戦闘時の呪力増幅・制御補助機能を持つ。

 

「ここからは時間外労働です」

 

私の雰囲気が変わったことを察したのか、黄櫨の警戒度が一気に上がる。彼の全身から漏れる呪力密度が一段階上昇した。爆弾となる体組織の生成スピードも加速しているようだ。

 

(やはりあのネクタイも呪具か?……それにしても七三の術式が掴めねぇ)

 

内心焦りを感じながらも表情に出さない黄櫨。彼は既に七海の術式を「近接接触型」と仮定し戦略を立て直していた。

 

(よっぽど近寄らせなければ良い。あの高羽より遥かに楽じゃねえか)

 

互いの呼吸が止まるほどの静寂。

 

黄櫨はまず左手の爪を自ら剥がし投擲した。高速回転する爪が壁際の金属ドラム缶に突き刺さり爆散——視界を遮る煙幕代わりになる。

 

「甘い」

 

 

(七海視点)

 

地面を蹴る感触が足裏に伝わる——最大加速。風を切り裂く音よりも早く私の身体が動く。煙幕の奥で黄櫨の呪力が蠢くのを感じる。奴が次の攻撃準備に入っている証拠だ。

 

(反転術式が自動発動……か)

 

奴の指が震えるのを視認した。爆弾の材料を生成している最中だ。このまま接近すれば間違いなく自爆カウンターが来る——だが、

 

(爆発の予兆から爆発まで、僅か0.7秒のタイムラグがある)

 

それは戦闘中に把握したデータだ。奴が「剥がした」と認識し呪力を注入するプロセスが必要なのだ。そして——

 

(再生直後の部分は縛りの影響か……もう爆発しない)

 

最初に戦闘開始直後に切り落とした黄櫨の歯を思い出す。奴が「チッ」と舌打ちしながら再生したあの歯は、その後爆発しなかった。つまり“剥がした部分のみが爆弾化する”という自己設定的な縛りがある。

 

勝機はある。

 

近くにあるドラム缶を蹴り上げる。金属製のそれが宙を舞い、派手な音を立てて床に転がる。同時に煙幕の方向へ踏み込む——否、これは囮。真の狙いはその反対側。

 

「どこを見てる?」

 

黄櫨の嘲笑混じりの声が背後から聞こえる。予想通り。奴は目くらましに釣られていない。

 

(視覚だけでなく……呪力探知も優れているか)

 

一瞬、鉈を握る手に汗が滲む。だがここで怯むわけにはいかない。

 

「やめだやめだ」

 

黄櫨の溜息が聞こえた。まるで興醒めしたかのように首をコキコキ鳴らす音が続く。煙が徐々に薄まり——そこにあったのは意外な光景だった。

 

「……!?」

 

マフィアたちはすでにほとんどが拘束されている。倉庫の奥では修司君が最後の一人の襟首を引っ張りながら「取ったどー!」と叫んでいた。そうだ。当初の任務目的である「マフィア逮捕および薬物押収」はほとんど終了していたのだ。

 

(この状況での戦闘続行はリスクとメリットが釣り合わない——ということか)

 

黄櫨の判断は合理的と言える。私のような訓練を受けた呪術師と真正面からやり合うより、“雇われ傭兵”としてリスクを避けた。つまり——

 

(仕事の延長線上にしかない“プライド”や“快楽”という余裕はない。これが彼の本質かもしれない)

 

「あんたの名前は何だ?」

 

唐突な問い。私は一瞬躊躇ったが偽名を使う理由もない。肩の力を抜き、短く答える。

 

「七海建人です」

 

「七海建人か……その名前、覚えたぜ」

 

ニヤリと黄櫨が笑った。まるで新しい玩具を見つけた子供のような不敵な笑み。しかしその瞳の奥には冷徹な計算が垣間見える。彼は私を「要注意人物」と認識した——それでもなおこの場で決着をつけようとはせず立ち去ろうとする。

 

「待て」

 

「断る」

 

私の制止を聞き入れることもなく、黄櫨は踵を返す。

 

「次に会った時はもうちょい本気出してくれよ? ビジネスライクな感じじゃつまらねえからな」

 

背を向けたまま手をヒラヒラと振る。その動作一つ一つが挑発的でありながら妙に洗練されていた。

 

公賀くんが「おい!」と声を上げるも黄櫨は既に窓枠に足をかけていた。外からの月明かりを背に受けて影が伸びる。まるで舞台上の役者のように堂々とした退場だ。

 

「じゃあな」

 

軽い挨拶と共に彼は闇へと消えた。音もなく瓦礫の上を飛び去る後ろ姿を見送りながら——私は握っていた鉈の柄を緩める。肩の力が抜けた途端、激しい疲労感が押し寄せた。

 

「……全く」

 

(七海視点)

 

「ああ言う奴だったんですね」

 

公賀くんが意外そうな顔で、黄櫨が消えた方角を見つめていた。戦闘中に見せた狡猾さもあったが、彼の引き際があまりにスマートすぎて拍子抜けしたようだ。

 

「君でも知らない事があるんですね」

 

私の言葉に公賀くんは肩をすくめた。

「そりゃ、漫画の事ですから全部分かると言うのはないですよ」

 

そんな他愛ないやり取りをしていた矢先——海側が眩しく光った。

 

「!?」

 

振り向くと大型クルーザーがエンジンを唸らせ出港しようとしている。甲板には複数の人影が見える。あれは間違いなく脱走中のマフィア幹部だ。

 

「まだ居たのかよ!」

 

公賀くんの目つきが変わり、拳を握りしめた。

 

「七海さん!」

 

「私も行く!」

スーツの裾を翻し、我々は倉庫の隙間から海岸へと駆け出した。

 

「逃がすか!」

彼の掌が脈動し、血の鎖が蛇のごとくうねりながら伸びていく。鎖がクルーザーの船舷に絡みつくと、公賀くんは地を蹴って跳躍した。空中で一回転し船上に着地する音が響く。

 

「待ち伏せしていたか……!」

 

彼の動きは疾風迅雷のごとし。肉弾戦と対魔忍の技術が融合した技で船上の男たちを圧倒していく。金属と骨がぶつかる鈍い打撃音。発砲される銃弾を鎖で弾き返す火花。数秒間の乱闘が倉庫の陰から見える。

 

「七海さん!受け取ってください!!」

 

突如公賀くんが叫んだ。私の視線の先で、彼がひとりの少女を肩越しに抱えて大きく振りかぶったのだ。

 

(何をするつもりだ——!?)

 

次の瞬間、その少女が夜空に弧を描いて投げ降ろされた。

 

「——っ!」

 

反射的に鉈を地面に突き立て足場を作りながら、両腕を広げた。落下してきた人物を寸前でキャッチする。重みと衝撃に膝を崩しかけるも何とか堪えた。

 

「大丈夫ですか?」

 

顔を覗き込むと——私は息を飲んだ。

 

「真希さん……?」

 

似ている。いや瓜二つと言っていい。だがすぐに違うと気づく。長い睫毛、整った輪郭。眼鏡こそ無いがあの威圧感のある眼光の代わりに怯えたような瞳があった。

 

「いや、顔は似ているが別人だ」

 

そこで脳裏に浮かんだ記憶——彼女には双子の妹が居たはず。

 

「もしや……貴女は禪院真依さん?」

 

彼女はゆっくりと瞬きをしてから掠れた声を漏らした。

 

「なんで……わたしのこと……?」

 

 

降りてこない公賀くんの代わりにスマホが震えた。画面には【公賀修司】の表示。

 

『七海さん!』

 

彼の声は波の音とエンジン音をバックに響いた。

 

『クルーザーの中がやばいです。薬物が山ほどありそうです。とりあえずアサギ先生の所へ直接持っていきます。後で合流しましょう』

 

「了解しました。こちらは警察関係者に引き継いで帰還します」

 

通話を切ると、ちょうど制服姿の官憲が到着するのが見えた。公安特務課の人間だ。彼らは我々が対魔忍案件に関与していることを承知している数少ない協力者だ。

 

「現場を引き継ぎます」

 

私は簡潔に報告書の要旨を伝え、拘束したマフィアたちのリストを渡す。

 

「クルーザーからの容疑者は別行動班が移送中。詳細は後ほど提出します」

 

若い捜査官が敬礼を返す横で、私の腕の中で真衣さんが小さく震えているのに気づいた。彼女の手は無意識に私の袖を握りしめていた。

 

「怖がらなくていい。安全な場所へ案内します」

 

優しく声を掛けると彼女は俯いたまま頷いた。

 

真衣さんの顔色がおかしい。息遣いは獣のように荒く、頬は熟れた果実のように赤い。額には玉のような汗が浮かんでいる。車のエアコンを調整するが効果がない。

 

「何か飲み物を……」

 

ペットボトルのミネラルウォーターを差し出すと、彼女は震える手で受け取った。蓋を開けようとして指が滑る。ボトルがダッシュボードに落ちそうになった瞬間——

 

「止めて!」

 

真衣さんの細い指が私の腕を強く掴んだ。爪が食い込むほどの力だ。車が急停止する音と共にタイヤが悲鳴を上げる。路肩に停車した車内は異様な緊張感に包まれた。

 

「大丈夫ですか?」

 

私は心配になって彼女の顔を覗き込んだ。目の焦点が定まっていない。

 

「ごめんなさい……もう……我慢が出来ない……」

 

彼女の声は熱に浮かされたように蕩けていた。車内の温度が急に上昇したかのように錯覚する。潤んだ瞳が私を捉え——その瞬間、彼女の体が電流を浴びたように跳ねた。

 

(真衣さん!?一体ナニを!?)

 

助手席のシートベルトを外し、真衣さんの手が私のネクタイを掴む。混乱する頭の中で警告灯が点滅する。

 

「待ってくださ——」

 

魔界騎士編に続く

 




黄櫨の術式はオリジナル設定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。