# 序章 鉄の鳥籠、歓迎の晩餐
ドッキング・クランプの咬合音が、艦橋の床越しに足元へ伝わってきた。
金属と金属が、互いの牙を食い込ませる鈍い音。それは、試作強襲機動特装艦アークエンジェルが、宇宙要塞アルテミスの母艦ドックに完全に固定された合図だった。
「寄港完了。補給作業、開始します」
オペレーターの声に、マリュー・ラミアス少佐は艦長席から静かに立ち上がった。
二十四歳の身体が、わずかに軋む音を立てる気がした。身長一六八センチ、艦長用に一度仕立て直した制服は、それでも彼女のGカップの胸には窮屈で、肩のラインから鳩尾までを薄く締め付けている。立ち上がった瞬間、豊かな二つの膨らみがその重みを思い出すように、ブラウスの内側でほんの僅か揺れた。タイトスカートの下、むっちりとした太ももが、ストッキング越しに互いを擦り合う。細いウエストとの落差が、歩き出すごとに砂時計のシルエットを描く――戦闘艦の艦橋には、明らかに不似合いな女の体だった。
艦橋の巨大なメインディスプレイの向こうに、光の盾――オーメン・シールドの蒼白い膜が浮かんでいる。そのさらに向こうに広がる群青の闇を、彼女は二十四歳の瞳で見つめた。
「二週間の停泊か……」
無意識の呟きだった。窓硝子に映る自分の顔は、若さの中にどこか疲弊を滲ませている。ヘリオポリス崩壊からひと月。昼夜を問わぬ戦闘と判断の連続が、栗色の長い髪の艶を、ごく僅かに曇らせていた。
「艦長」
背後から、固い声。副長のナタル・バジルール少佐だった。規律の人らしく、報告の姿勢に一片の乱れもない。
「補給班からの報告です。ミサイル弾薬、推進剤、水、食料、すべて予定通り補充可能。ただ、アルテミス司令部より、艦長に『歓迎の晩餐』を用意したとの連絡が入っております」
「ガルシア中将から?」
「はい。午後十八時、司令官公邸にて」
晩餐――その単語が、マリューの神経のどこかを、ごく浅くひっかいた。
戦時下の辺境要塞で、わざわざ外来艦の艦長を歓待する必要は、厳密には存在しない。補給書類に判を押せば足りる話だ。
「承諾の返事を出して。クルーの命をこの要塞の防壁に預けている以上、司令官の好意は無視できません」
ナタルは一歩、距離を詰めた。紫紺の瞳に、普段は見せない感情の気配が滲んでいる。
「艦長。ご無礼を承知で申し上げます。ガルシア中将の評判を、私は、良くは聞きません」
「噂話でしょう?」
「ええ。噂話です」
ナタルは、あえてその言葉を認めた。それでも彼女の声からは、譲る気配が剥がれない。
マリューは、ほんの少しだけ微笑んだ。副長の気遣いに、胸の奥が温かくなる。しかし、艦長の仮面は崩さなかった。
「私たちは今、この要塞の防御に命を預けています。次のZAFT襲撃が来れば、アークエンジェルは単艦では持ちません。司令官の不興を買うわけにはいかない」
「しかし、せめて副長として同行を」
「大丈夫」
マリューはナタルの肩に、そっと手を置いた。艦長の手。しかしその指は、戦う女のそれではなく、二十四歳の、ごく普通の女のそれだった。
「クルーを守るためなら、私はこの身一つで十分です」
それが、この夜、マリュー・ラミアスが自らの意思で発した、最後の誓いだった。
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格納庫区画の照明は、冷たい白光だった。
艦橋から格納庫まで、垂直シャフトを一つ降り、通路を二つ曲がる。制服の踵が通路の金属床を叩くたび、小さな音が規則正しく反響した。一歩ごとに、Gカップの胸が制服の内側で控えめに上下する。軍用ブラに固定されていてもなお抑えきれない、豊かな肉の重量感。鎖に通した銀の指輪が、胸の谷間の深いところで、彼女の歩調に合わせて短く揺れ続けていた。
メビウス・ゼロの銀色の機体が、整備クレーンの影で翼を折り畳み、深海の魚のように眠っている。その足元に、ムウ・ラ・フラガ少佐はいた。
「よう、艦長殿」
金髪の戦闘機乗りが振り返る。整備服の袖口を肘まで巻き上げ、指先にはオイルの黒い染み。その表情は、いつもの飄々とした少年のようだった。
「ムウ。本当に、今夜発つの?」
「命令なんでな。メビウス隊の編隊長代理。三日で戻るさ」
彼女は頷いた。頷きながら、右手が、吸い寄せられるように制服のブラウスの胸元へ流れた。
ブラウスの内側、細い銀の鎖に通された指輪が、Gカップの乳房の谷間で、静かに横たわっている。豊かな胸の重みに押されて、鎖が肌に薄く食い込む感触。布越しでも、そこに指輪があることが自分には分かった。呼吸に合わせて、銀の環が、僅かに揺れていた。
ムウが、彼女の仕草に気づいて、片眉を上げた。
「……ちゃんと、着けててくれてるんだな」
「任務中は、指に嵌められないから」
「分かってる。戦闘中に『指輪見ろ』って敵機に見せびらかす艦長殿なんて、シャレにならんからな」
マリューは微苦笑した。ムウは、いつもこうして空気を柔らかくする。二人きりでしか交わせないこの軽口だけが、艦長の仮面を剥いて、二十四歳の女を一瞬だけ呼び戻してくれる。
「ムウ」
「ん?」
「……気を付けて」
ムウは、頷いた。頷きながら、硬い指の腹を、マリューの頬にそっと添えた。オイルと火薬の残り香がする、乾いた、それでも温かい手だった。
「君を待っている、ラミアス少佐」
いつもの軽口を剥ぎ取った、素の声。エンデュミオンの鷹と呼ばれる男の、たった一つの弱点がそこにあった。
「必ず戻る。だから、君も――待っててくれ」
マリューは、頷くことしかできなかった。
胸の谷間で、銀の指輪が、彼女の鼓動を拾って、静かに熱を帯びた。
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司令官公邸の晩餐室は、焦茶の木材で重厚に囲まれていた。
卓上には、アルテミス内部の水耕施設で育てられた野菜のサラダ、希少な鴨肉のロースト、そして二十年物の赤ワイン。戦時下の辺境要塞とは思えない、過剰なほどの豪奢さ。
マリューは指示された席に、慎ましく腰を下ろした。
椅子に浅く腰掛ける瞬間、タイトスカートの裾が、むっちりとした太腿の上で僅かに張り詰める。両膝を丁寧に揃え、組んだ両手を膝の上に置く。艦長としての作法。しかし、その作法の下で、ブラウスの胸元は、座る動作の反動で豊かな双丘を一度大きく持ち上げ、そして再び布の内側へ沈んだ。制服の第二ボタンが、乳房の膨らみを支えるように、布地をきつく引き絞っている。
卓の向こうに、ジェラード・ガルシア中将が座っている。
初めて間近で見るガルシアは、五十代特有の中年肥満を、中将用の白い礼服に押し込めていた。白髪交じりの短髪、太い眉、そして――濁った灰色の瞳。
その瞳が、マリューの全身を、ゆっくりと舐めた。
頭から始まり、首筋を辿り、制服のブラウスが包む胸元で、明らかに止まった。そのまま数秒。視線は、触らない代わりに、皮膚の上を這う。マリューは、ブラウスの内側でうなじが粟立つのを感じた。
制服の詰襟が、急に息苦しく感じられた。心拍が、平時より確実に早い。軍用ブラの硬い布地に押さえ込まれたGカップの先端――触れられてもいないのに、寒さとも違う、皮膚の内側から滲む熱で、桜色の突起がほんの僅か硬くなっていく感覚があった。白磁の太腿が、スカートの下で、知らぬ間に閉じようとする。二十四歳の身体は、彼女の理性よりも早く、獣に見られていることを察していた。
「ラミアス少佐」
ガルシアの声は、見かけに反して、低く落ち着いていた。医師のような、あるいは神父のような、不思議な穏やかさ。
「若くして艦長職を拝命されたと伺っています。ヘリオポリスでの決断、見事でした」
「……ありがとうございます、中将」
「今夜は軍事の話はなしだ。ただの歓迎の席です。気楽になさってくれ」
彼はワイングラスを傾け、口に含んだ。その間も、マリューの胸元からは視線を外さない。
Gカップの乳房は、軍の制服を内側から押し上げていた。アークエンジェル艦内勤務用に一度仕立て直しているはずの制服でさえ、第二ボタンのあたりで布地が僅かに突っ張り、ボタンの隙間から白磁の肌がほんのひと筋覗く。ガルシアの視線は、その一点に張りついた。ワイングラス越しに、屈折した光の中で、その視線はゆっくりと舌のように動いた。
マリューは、制服の襟元に、無意識に手をやった。
その動きを見た瞬間、ガルシアの口元に、愉悦の笑みが、ほんの僅かに浮かんだ。
食事は、穏やかに進んだ。ガルシアはアルテミスの防衛設備、オーメン・シールドの原理、過去のZAFT撃退戦の武勇譚を語った。マリューは礼儀正しく応じたが、彼女の全身は、目の前の男から漂う不可視の違和感に、常に警戒の網を張っていた。
食後のコーヒーが給仕された。ガルシアが、椅子の背に体を預けた。
「ところで、ラミアス少佐」
「はい」
「食後、少しお時間をいただけるかな」
「……と、申しますと?」
「機密の相談がある。アークエンジェルと当要塞の、今後の共同作戦についてだ。書面に残せぬ類の話なのでね」
司令官からの申し出を、階級下の艦長が拒む理由はなかった。通常の公務だ。ナタルへ定期連絡さえ入れれば、問題はない。自分にそう言い聞かせるマリューの胸の谷間で、指輪が、小さく熱を発した。
「……承知しました。場所は」
「私の司令官室で。廊下の突き当たりです」
ガルシアは、ゆっくりと立ち上がった。そして、付け加えるように、低く言った。
「ああ、そうそう――お一人で来てもらいたい。副官の立ち会いは、不要だ。話の性質上」
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司令官公邸奥の廊下は、照明が僅かに絞られていた。
ガルシアはマリューを先に歩かせ、自身は半歩後ろを歩いた。
背中に、粘つく視線がまとわりつく。
項の後れ毛、肩甲骨のラインの凹み、絞られたウエストから一気に広がる腰のカーブ、タイトスカートを内側から押し上げる桃のような尻の膨らみ、歩くたびに微かに擦れ合う太腿の内側――見られている場所を、マリューは背中の皮膚で一つひとつ数えることができた。
踵が鳴るたび、豊かな胸が制服のブラウスの中で上下に揺れ、ガルシアの視線が、その揺れに正確に追随しているのも、振り向かずとも分かった。
頬が、熱い。戦闘ブリーフィングでも上気しない、自分の白磁の頬に、内側から朱が刷かれている感覚。ブラウスの下で、薄く汗が滲みはじめていた。制服の布地が、うっすらと湿った背中に貼り付く。軍用ブラの内側で、硬くなったままの乳首が、歩くたびに布地を擦り、その微かな摩擦が、太腿の付け根まで鈍い疼きを運んでくる。豊満な尻が制服のタイトスカートの内側で一歩ごとに形を変え、そのたびにガルシアの喉が鳴るのが、背後の空気越しに伝わってきた。
見られている、ではない。値踏みされている――自分は、すでに捕食者の舌の上にいる。身体だけが、真実を先に知っていた。
彼女は、通信端末を握った。
「副長、マリューよ。ガルシア中将と機密協議のため、これより司令官室に入ります。二十二時までに連絡がない場合、通常警戒態勢に切り替えを」
『……了解、艦長』
ナタルの声は、緊張を孕んでいた。彼女は明らかに、何かを察していた。察していたが、艦長を止める権限は、副長にはない。
通信を切ったマリューの前に、厚い鉄扉が現れた。
司令官室。アルテミス司令官の私室を兼ねた、要塞中枢の最奥。
ガルシアが、電子ロックの認証パネルに掌をかざす。扉は、油圧の重い音を立てて、内側へ開いた。
マリューは、一瞬、足を止めた。
扉の向こうに広がる空間は、執務室というより、個人邸の奥の間に近かった。重厚な木目の壁、厚いカーペット、暖色の間接照明。そして――部屋の奥には、不釣り合いに大きなベッドが、鎮座していた。
「……中将?」
「入りなさい、ラミアス少佐。私は、書類仕事のあとはここで休むのでね」
マリューは、再び襟元に手をやった。胸の谷間で、銀の指輪が、今度ははっきりと熱を帯びていた。遠く、耳の奥で、ムウの声が響いた。
――君を待っている、ラミアス少佐。
クルーを守るため。この要塞と揉めるわけにはいかない。ガルシアは軍の正式な中将。常識を外れたことは、するはずがない。
マリューは、自分に言い聞かせるように、一歩、部屋の中へ踏み出した。
踵が厚いカーペットに沈み込む。その一歩で、スカートの内側で太腿が擦れ、Gカップの乳房が、歩みに合わせて豊かに揺れた。ブラウスの胸元を締め付ける布地が、乳房の重みに引かれて、第二ボタンのあたりで再び白磁の肌をほんのひと筋、覗かせた。
部屋の空気は、シガーの残り香と、どこか獣じみた雄の体臭で、重く澱んでいた。その濃厚な匂いが、肺に吸い込まれた瞬間――マリューの豊満な身体の芯が、艦長の理性を飛び越えて、か細く、しかし確かに、一度だけ疼いた。
背後で、鉄扉が、ゆっくりと閉じた。
電子ロックが稼働する、硬質な金属音。
カチ、という乾いたクリック音。
それきり――音は、止んだ。
胸の谷間で、銀の指輪が、熱を持ったまま、静かに揺れていた。