※この作品はR-18です。

アルテミスの傘   作:カイト__

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第一章

# 第一章 最初の夜 ――権威の剥奪

 

## 1-1 鉄の扉の内側で

 

「立て」

 

ガルシアの最初の一言は、それだった。

 

座れ、ではない。椅子を勧める気配もない。彼は机の奥の革張りの椅子にゆったりと腰を下ろし、マリューを部屋の中央に立たせたまま、葉巻入れから一本を選び、ゆっくりと火を点けた。青みがかった煙が、暖色の間接照明の中を、絞首刑の縄目のようにひとすじ、天井へ昇っていく。

 

マリューは部屋の中央、厚いペルシア絨毯の上に、両足を揃えて立った。艦長帽は胸元に抱えている。姿勢を崩さないことが、今の彼女にできる唯一の抵抗だった。

 

鉄扉の閉じた音は、まだ耳の奥に残っていた。胸の谷間で、薄い鎖に通された銀の指輪が、小さく熱を帯びたまま、じっと動かずにいる。

 

「機密の協議、と伺いましたが」

 

努めて事務的な声を作った。しかし、自分の声が、室内の空気の濃度に吸い取られて、思ったより小さく響いたのに気づいた。部屋の空気は、シガーの煙と、濁った雄の体臭と、暖房の乾燥が混ざりあい、息をするごとに肺の奥に澱んでいく。

 

「協議だとも」

 

ガルシアは煙を吐き、頷いた。

 

「当要塞が貴艦に提供する、今後二週間分の補給。水、推進剤、MS用フェイズシフト装甲の補修材、モビルアーマー用のエネルギーパック。そして何より、アルテミス外周の『光の盾』が、貴艦の停泊中、貴艦を庇護し続ける権利――これらすべては、私の判子一つで、凍結できる」

 

彼は、シガーの灰を静かに灰皿へ落とした。

 

「艦長として、その意味は、理解できるな」

 

マリューの喉が、ごくりと、小さく動いた。

 

「――はい、中将」

 

「よろしい。だが、その前に。ラミアス少佐、貴官の身なりが気になるのだ」

 

「身なり?」

 

「軍服のボタンが、ひとつ曲がっている」

 

マリューは反射的に自分の胸元を見下ろした。豊かなGカップの双丘に圧迫された軍用ブラウスは、たしかに第二ボタンの辺りで生地が突っ張り、ボタンホールが斜めに歪んで見える。常のこと――彼女の規格外の胸は、どんな既製の制服も完璧には収まらない。艦内では誰も気にしない、ごく些細な乱れだった。

 

「……これは、仕立ての問題で」

 

「いや、歪んでいる。軍人として、あってはならない乱れだ」

 

ガルシアはゆっくりと椅子から立ち上がった。革が軋む音が、部屋の静寂をひっかいた。

 

彼はマリューの正面に、ゆっくりと歩み寄ってきた。距離が、五歩、三歩、二歩。最後の一歩で、ガルシアの腹が、マリューの胸からわずか三十センチの位置に停止した。

 

匂いが、濃くなった。シガーの紫煙に混じって、中年男特有の、甘ったるく熟した体臭。それを嗅いだ瞬間、マリューの背筋が、意思と無関係にぞわりと粟立った。

 

「失礼」

 

ガルシアの声は、低く、静かに、そして手術室の医師のように落ち着いていた。彼は右手の白い礼装用手袋を、左手で指ごとゆっくりと引き抜いた。絹のような手袋が机の上に置かれると、その下から、薬指と小指にいくつもの古傷を刻んだ、中年男の太い指が現れた。

 

手袋に覆われていない生身の指先が、マリューの軍服の第二ボタンに、ごく丁寧な触れ方で近づいた。

 

カチ。

 

乾いた音が、一つ。

 

ボタンが、外された。

 

「……っ」

 

マリューの唇から、声にならない息が漏れた。反射的に一歩下がろうとした踵が、ガルシアの机の脚に当たって止まる。逃げ場がない。退路は初めから用意されていなかったのだ。

 

「中将」

 

できるだけ低く、できるだけ冷たく、言葉を発する。

 

「何をなさるのですか」

 

「整えているだけだ、少佐」

 

カチ、カチ。

 

第三ボタン。第四ボタン。

 

ガルシアの指は、慌てない。ひとつ外しては、その下の生地の皺を丁寧に指で撫でて均す。その動作の緩慢さそのものが、マリューの神経を削っていった。早く終わってくれ、と彼女の理性は叫んでいる。しかし早く終わらせる気が、目の前の男には、もとから一片もない。

 

ブラウスの前面が、完全に開かれた。

 

白いシルクのブラジャーが、電子照明の下で、冷たく光った。軍の規格品とは別の、明らかに一段良質な下着。それが、Gカップの重量感ある膨らみを底から掬い上げ、深い谷を作っている。細い鎖がその谷の中央を縦に流れ、谷の底で、銀の環が小さく横たわっていた。

 

ガルシアの濁った灰色の瞳が、その指輪の上で、一瞬だけ止まった。

 

「誰かに、贈られたのかな」

 

「……個人的な品です」

 

「艦長職にあるご婦人に、個人的な品とは。ふむ」

 

彼は指輪に触れはしなかった。触れれば、マリューがそこで抗うことを、彼は嗅覚で察知していた。代わりに、彼の指はブラウスの肩に回り、ジャケットのように肩口から一気に剥ぎ落とした。

 

白い綿の布地が、マリューの肘まで滑り、手首の袖口で止まる。両肩が、露わになった。

 

「腕を」

 

ガルシアが、短く命じた。

 

マリューは、歯を噛み締めた。

 

クルーのために。――頭の中で唱える。

 

彼女は両腕を順に曲げ、ブラウスの袖から手首を抜いた。白い布地が、床の絨毯の上にひらりと落ちた。

 

次に、ガルシアの指はスカートのホックにかかった。

 

「――ま、待って……!」

 

そこで、初めて、マリューの声に抑えきれない動揺が混ざった。腕をクロスさせて胸を隠そうとした瞬間、ガルシアが穏やかに言った。

 

「隠すな、ラミアス少佐。貴艦のクルーは、現在の欠員を含めて約百名。そのうち、十七歳以下の非戦闘要員が、四名含まれている。――補給と要塞防衛の庇護を打ち切れば、次のZAFT襲撃で、貴艦は単艦、宇宙に取り残される。あの四名は、最初に死ぬ」

 

声は穏やかだった。それゆえに、毒が深く染みた。

 

マリューは、交差させかけた腕を、ゆっくりと体の脇に戻した。

 

ホックが外された。ファスナーの金属音が、部屋の静寂の中で異様に長く響いた。

 

タイトスカートが、彼女のむっちりとした太腿のラインを滑り、膝を越え、絨毯の上に落ちた。

 

その拍子に、胸に抱いていた艦長帽が、指の力を失ってぽとり、と絨毯の毛並みの上に墜ちた。横倒しになった黒い鍔が、アークエンジェルの金の徽章を、天井の照明に向けて晒している。それを、マリューは拾おうともしなかった。拾えば、次に、また何かを脱がされるだけだと分かっていた。

 

シルクの上下、ガーターベルト、ストッキング――軍人として許される最低限の美しい下着だけが、二十四歳の完熟した女体を、ごく薄く覆っていた。

 

ガルシアは、二歩下がった。

 

椅子に戻るのではない。マリューの全身を、距離を取って俯瞰するためだ。彼は葉巻をもう一口吸い、長い煙を吐いた。

 

「白い」

 

呟きに近い声だった。

 

「白磁だな、貴官の肌は。二十四歳で、この透明度。血統の良さだ。ナチュラルにもまだ、この程度の器は残っていたか」

 

「……」

 

マリューは返事をしなかった。返事をする場面ではないことを、彼女の本能が教えていた。

 

「下着も、取りなさい」

 

言葉は、命令の形をしていなかった。依頼の形だった。だからこそ、断ることを想定していない、という確信が、言葉の底から染み出していた。

 

マリューの手が、背中に回った。

 

自分の手で、自分の下着のホックを外す。その手つきの鈍さが、彼女の羞恥と屈辱の深さを、本人以上にガルシアに伝えた。

 

プツッ。

 

ブラジャーのホックが、弾けた。

 

重量を失った肩紐が、ひとすじずつ、腕を滑り落ちる。

 

そして――

 

ふる、ん。

 

拘束を解かれたGカップのたわわな双丘が、重力に従い、柔らかく自重を取り戻した。白いシルクのカップが体の前に落ち、絨毯にぽとりと墜ちる。

 

何ひとつ隠さずに露出された乳白の肌が、室内の冷えた空気に晒された。乳暈は大きめの円盤形、その中央で桜色の突起が、空気の冷たさに触れて、知らず僅かに芯を持ちはじめる。

 

細い鎖に通された銀の指輪が、今度は、何ひとつ遮るもののない胸の谷間に、直接――肌の熱を受けて、ひらりと横たわった。

 

マリューの頭の奥で、ムウの声が、かすかに響いた。

 

――必ず戻る。だから、君も――待っててくれ。

 

その声に、彼女は応えなかった。応えられなかった。

 

「ショーツも」

 

ガルシアの声が、遠くから聞こえた。

 

マリューの指が、シルクの縁にかかった。

 

指が、震えている。それが、この夜、彼女が最後に見つめた、自分自身の軍人の手だった。

 

ゆっくりと、腰骨の上から、白いシルクを滑らせる。整えられた淡い栗色の恥丘が、光の下に現れる。太腿の内側を、シルクがなめらかに降りていき、膝、ふくらはぎ、足首――そして絨毯の上へ。

 

全裸の、マリュー・ラミアス少佐。

 

くびれたウエスト、母体のために生まれたような豊かな骨盤、桃のように張った尻、むっちりとした太腿、そして重量感のある二つの白い膨らみ。

 

どこにも、軍服はなかった。階級章は床に落ちて、ペルシア絨毯の模様の中に沈んでいた。艦長帽は、いつの間に足元にあったのか、絨毯の上で横倒しになっていた。

 

ガルシアが、初めて笑った。

 

「完璧だ」

 

彼は煙を吐きながら、満足げに頷いた。

 

「では、少佐。歩いてもらおうか」

 

マリューの頬を、冷や汗が、一筋、耳の後ろへ流れた。

それが、軍服という最後の鎧を完全に剥がされた、二十四歳の女艦長の、最初の――敗北の汗だった。

 

---

 

## 1-2 検分、ふたつの砦

 

その、歩く、という単語の意味が、最初、マリューの耳に意味を結ばなかった。

 

全裸で立たされた二十四歳の女艦長は、部屋の中央の絨毯の上で、両腕をだらりと体の脇に下ろしたまま、相手の要求を咀嚼するのに数秒を要した。

 

「歩く、とは……」

 

「私の椅子の周りを、ゆっくり、三周だ。両手は体の脇。隠そうとするな」

 

「……」

 

「貴官の身体を、検分する必要がある。医師が患者を診るのと、同じことだ」

 

医師。その単語を、ガルシアはこの夜、繰り返し使った。マリューは後になって、この男の倒錯が、どこかで医療的な儀式の装いを必要としていることを理解する。だが、この瞬間の彼女には、相手の病理を分析する余裕はなかった。

 

彼女は、一歩、足を踏み出した。

 

絨毯の深い毛並みに、裸足の裏が沈んだ。

 

一歩、また一歩。

 

歩くたびに、重量感のあるたわわな果実が、前方へ、上下へ、豊かに踊った。支えるものを失った乳白の肉塊は、二十四歳のハリをもってしても、その重みを隠しきれない。先端の桜色の突起は、空気の摩擦だけで、じわじわと、しかし確実に、硬く尖り始めていた。胸の谷間では、鎖に繋がれた銀の環が、歩調に合わせて細かく揺れ、時折マリュー自身の丸みの下側にひたりと触れて、小さな冷たい印を残した。

 

下半身では、白く豊満な尻肉が、一歩ごとに左右交互に柔らかく揺れる。むっちりとした太腿の内側が、互いを擦り合い、かすかに湿った皮膚の音を立てた。

 

「……見事だ」

 

ガルシアはシガーの灰を慎重に灰皿に落とし、指で自分の顎をひと撫でした。

 

「ヘリオポリスの技術士官だったと聞いている。書類仕事が多かったはずだ。それでこの筋肉の締まり方、この肌の張り――ラミアス少佐、貴官、自分の身体を自分で手入れしていたな」

 

マリューは答えなかった。答えれば、さらに何かを掘り起こされる予感があった。

 

二周目に入った。

 

椅子に座ったガルシアの真横を通過したとき、彼の視線が、真横から、マリューの重たげに揺れる乳房の下側を、そして尻の丸みを、順に撫でた。何も触られていない。しかし皮膚の上を視線が物理的に這う感覚だけが、確かにそこにあった。

 

白磁の頬に、内側から薄紅が刷かれる。

 

三周目。

 

ガルシアが、ゆっくりと命じた。

 

「両手を、頭の後ろで組め」

 

マリューの足が止まった。

 

「……意味が、分かりかねます」

 

「胸を、突き出せ。医師に患部を見せる、それと同じことだ」

 

医師。

 

マリューは自分の唇の裏を噛んだ。クルー。アークエンジェル。五十八名。そして――ムウの声が、頭の奥で、かすかに鳴った。

 

彼女は、両腕を、ゆっくりと上げた。指を後頭部で組む。肘を、できるだけ真横に開く。

 

その姿勢は、重量のある二つの膨らみを、重力に逆らって、前方に最大限に突き出させた。豊かな白磁は、持ち上げられ、張り出し、その先端の桜色の突起が――空気を切り取るように、室内に向かって屹立した。銀の小さな環が、谷の底から浮き上がって、左右に大きく振れる。

 

ガルシアが、椅子から、ゆっくりと立ち上がった。

 

彼は、マリューの前まで歩み寄った。距離が、十センチ、五センチ。

 

彼の指が、持ち上げられた右の膨らみの、先端の桜色の突起に、ごく軽く――触れた。

 

「ひ……っ」

 

マリューの喉から、押し殺された、甘く短い音が漏れた。

 

唇を噛んで堪える、その仕草すら、ガルシアには読めていた。彼は親指の腹を使って、硬く尖った乳首を、ひと撫で、ふた撫でした。その間、数秒。

 

桜色の突起が、朱を帯びはじめた。

 

「反応する。結構」

 

彼は指を離した。ほんの一瞬の触診。それだけで、マリューの膝が、小さく、かくりと震えた。

 

ガルシアの指が、次に、白い膨らみの下側から腹部を、すっと滑り降りた。まるで白磁の表面の曲線を調べるように、傷を探すように、静かな検査の指だった。臍を掠め、さらに下。

 

指が、恥丘に到達した。

 

マリューの太腿が、反射で、ぎゅっと閉じた。

 

「閉じるな」

 

ガルシアの低い声。そして、もう一方の手が、マリューの細いウエストを、背中側から強く掴んだ。逃げ場のない拘束だった。

 

中指が、閉じた太腿の隙間に、下から滑り込んできた。固く閉じた秘裂に、静かに、ひとすじ、指が触れた。

 

「……」

 

そこで、マリューは、気づいた。

 

自分の花弁が、既に、わずかに、湿っていたことに。

 

ガルシアの指先は、それに気づくのが遅いはずもなかった。彼は短く鼻で笑い、親指と中指で、濡れはじめた花弁の上辺を、ごく小さな円を描いて転がした。

 

「……ぁっ」

 

また、短い、甘い音。

 

マリューは下唇を強く噛んだ。血の味が、口の中に滲んだ。

 

「軍人の身体は、正直だな、ラミアス少佐」

 

ガルシアの声に、はじめて、はっきりと愉悦が混ざった。

 

「抵抗しているのは、頭だけだ。貴官の花は――もう、俺を待っている」

 

「ち、違います……!」

 

反射的な否認。しかし、その言葉を発した瞬間、マリューは自分の声がわずかに息を含んでいることに気づいて、さらに深く唇を噛んだ。

 

ガルシアは否認を無視した。彼の中指が、秘裂の閉じた襞をかき分け、陰核の位置を探り当てた。そこをほんの一瞬、ピンポイントで刺激した。

 

「ひぅっ……!」

 

マリューの腰が、ぐらりと揺れた。頭の後ろで組んだ両手の指が、力を込められて、白く変色する。意思と無関係に、豊満な双丘がさらに突き出される形になり、硬く尖った桜色の突起が、ぷるりと震えた。

 

数分の、静かな、しかし正確な触診。

 

マリューの細い太腿の内側を、ひとすじ、透明な蜜が、ゆるゆると滑り降りた。――二十四年間、軍人として禁欲を己に課してきた完熟の女体が、皮肉にも、敵将の指先によって、生まれて初めて、自らを「女」と認めはじめた瞬間だった。

 

ガルシアが、指を抜いた。

 

濡れた中指が、彼の顔の前に持ち上げられた。彼は指先の蜜を、じっと眺めた。電子照明の下で、透明な液体が、糸を引いて揺れた。

 

「量は少ないが、匂いは濃い。完熟した女の匂いだ」

 

彼は、その指を、自分の鼻先に近づけ、ゆっくりと息を吸った。

 

「使える器だ」

 

マリューの白磁の頬に、朱が、いっそう深く差した。それは羞恥だったのか、怒りだったのか、あるいはそのどちらでもない何かだったのか、彼女自身にも分からなかった。ただ、頭の後ろで組んだ指の間から、ひとすじだけ、熱いものが、頬を伝った。

 

銀の環は、突き出された双丘の谷の底で、細かく、細かく、震え続けていた。

 

---

 

*

 

アークエンジェル、艦橋。

 

時刻は、二十一時四十五分を指していた。

 

ナタル・バジルール少佐は、副長席に背筋を伸ばして座っていた。膝の上の両手が、無意識に拳を握っては開き、握っては開いた。規律の人がこんな落ち着きのない仕草を見せることは、普段ならあり得ない。

 

「副長」

 

通信士のミキオ三等兵曹が、躊躇いがちに顔を上げた。

 

「アルテミス司令部との機密通信チャンネルが、先刻から、閉鎖されています。向こうからの一方的な遮断です」

 

「理由は」

 

「通達されておりません」

 

ナタルの背筋に、冷たいものが一筋走った。要塞の側から、艦の側へ、情報の経路を遮っている。艦長が単身あちら側へ渡ったこの夜に、それが行われている。

 

「キラ・ヤマト少尉は」

 

「学生居住区で、フレイ嬢の病室を尋ねられましたが、医務官に面会を拒絶されて、ご自室へ戻られたところです」

 

またしても、フレイ・アルスター。寄港してから一度も艦に戻らない副大臣令嬢。病棟で療養中、という説明だけが、同じ言葉で繰り返されている。

 

「ミキオ三曹」

 

ナタルは立ち上がった。

 

「艦内警戒レベルを、ひとつ上げて。クルーには悟られぬよう、静かに」

 

「了解です」

 

彼女は艦橋の窓越しに、要塞の分厚い外殻を見つめた。装甲の向こうで、司令官公邸の光は、この距離からは見えない。

 

――艦長。

 

胸の奥で、一言だけ、呟いた。

 

――大丈夫、ですか。

 

時計の針が、音もなく、二十一時四十六分に進んだ。

 

*

 

---

 

## 1-3 新しい任務

 

「ベッドへ」

 

ガルシアの声が、三たび命じた。

 

その言葉を聞いた瞬間、マリューの頭の中で、なにか小さな硝子のようなものが、割れた気がした。

 

それまでは「検分」だった。医師の振りをした男の、医療的儀式の振りだった。しかし「ベッド」という単語は、その仮面の薄皮を一気に剥ぎ取った。

 

これから起こることは――否認のしようのない、ただの陵辱だった。

 

「……」

 

マリューは動かなかった。

 

ガルシアは、苛立ちもしなかった。彼は無言で、マリューの細いウエストを掴み、絨毯の上を数歩、部屋の奥のベッドへと引きずった。抵抗しようと踏ん張った踵が、深い毛足の絨毯に絡まり、役に立たなかった。

 

白磁の女体が、ベッドの縁に押し倒された。

 

シルクのシーツの冷たさが、汗ばみかけた背中を一瞬で奪った。重量ある白い双丘が、仰向けの姿勢で左右に流れ、自分の脇の下まで押しやられながら、なおもふくよかな質量を主張した。鎖に通された銀の環は、その横流れに引きずられ、今は彼女の右肩の辺りで、ぎりぎり丸みの上に留まっていた。

 

――ヘリオポリスの病棟で、ムウがマリューの額に唇を当てた夜があった。負傷して運び込まれた彼を見舞ったら、「心配かけたな、艦長殿」と笑って、自分から彼女の頬に触れた。あのとき、この指輪は、まだ存在していなかった。ただの技術士官だった彼女の、ただの恋の記憶。

 

今、仰向けのマリューの頬に触れているのは、別の男の、骨ばった指だった。

 

ガルシアが、自らの礼装を脱ぎ始めた。

 

脱がしたのではない、自分で脱いだ。白い上着、勲章、ベルト。外された衣服が、無造作に床へ落ちる音。その一つひとつが、マリューの耳には、自分のこれまでの二十四年の時間が、剥がれて落ちる音のように響いた。

 

ガルシアの下半身には、年齢にしては暴力的な、濁った色の怒張があった。血管が幾筋も浮き、先端は濡れて光り、部屋の空気の中で、脈打つように上下している。

 

マリューは、反射的に目を逸らした。

 

「見ろ」

 

ガルシアの手が、マリューの顎を掴んだ。目を逸らすことを、許さなかった。

 

「これが、貴官を、これから本当の意味で艦長から『器』に作り変える、私の雄だ。よく見ろ。覚えておけ」

 

「……やめ、て、下さい……」

 

喉が絞られて、うまく声が出なかった。しかし言葉は、きちんと紡がれた。軍人として、最後の文法を守った台詞だった。

 

ガルシアは、答えなかった。

 

彼はベッドに上がり、両手でマリューの熟れた果実を、掴んだ。

 

「――ぅ……っ!」

 

指が、乳白のやわらかな肉に、無遠慮に沈んだ。五本の指の骨ばった節が、重量感ある双丘を内側から強く握り潰し、指の間から、濃密な肉が苦しげにむにゅりと溢れた。彼は左右同時に、両手で揉みはじめた。円を描き、掴み上げ、絞るように捻り、そしてまた押し潰す。

 

「んっ……! う、ぅっ……!」

 

マリューは、歯を食いしばって声を堪えた。しかし、あまりに豊かなその質量が、あまりに強い力で形を変えられる、その衝撃そのものが、彼女の喉の奥で声を作ってしまう。頭では拒否していても、胸の先端の桜色の突起は、乱暴な愛撫のたびに、どんどん硬く、どんどん鬱血した朱を帯びていく。

 

ガルシアの頭が、揉みしだかれた双丘に覆いかぶさった。

 

唇が、朱色に膨らんだ右の乳首を捕らえた。舌が絡みつき、吸い上げる。甘噛み。そして、歯。

 

「ひっ……!」

 

先端に歯が立てられた瞬間、マリューの背中が、ベッドの上で小さく浮いた。痛みと、その奥に走る鋭い電流のような感覚。それが何なのか、二十四歳の軍人は、まだ自分の中でうまく言語化できていなかった。

 

ガルシアが、片方から口を離した。桜色だったはずの乳首は、唾液に濡れ、噛み跡の赤をつけて、鬱血した熟れた朱の果実に変わっていた。彼は迷わず、もう一方に移った。同じ行為。同じ痕跡。

 

二つの突起が、それぞれ、他人の唾液と歯形を刻まれて、赤く腫れた。

 

「……っ、いや、……っ」

 

マリューの目尻から、熱い雫が、耳の方へ横に流れた。

 

ガルシアの頭が、さらに下降した。

 

彼は、マリューの白く豊満な太腿を、両手で力ずくに、左右へ押し広げた。二十四年間、軍人としての規律に守られてきたマリューの秘部が、暖色の照明の下に、完全に露出された。

 

薄い、整えられた栗色の下生え。その奥に、淡いピンク色の花弁。かすかな蜜で光っていた。

 

ガルシアは、何の前振りもなく、そこに、顔を埋めた。

 

「――!?」

 

声にならない悲鳴だった。

 

温かく、湿った舌が、固く閉じかけていた花弁を、下から上へ、ひと舐めした。その一回だけで、マリューの腰が、ベッドの上でびくん、と大きく跳ねた。

 

そこから、舌の執拗な攻めが始まった。

 

襞を一枚一枚なぞり、花弁の内側を丁寧に這い、そして陰核の位置を探り当てる。柔らかい小さな肉芽を、舌先でくるくると転がし、時折唇で吸い上げる。マリューの秘裂は、その舌の動きに、不随意に、次から次へと透明な蜜を滲ませた。

 

「ぁ……! や、っ……! だめ……っ!」

 

頭では、拒絶している。口では、やめて、と繰り返している。しかし、マリューの腰は、意思と無関係に、かすかに動いた。ガルシアの舌から逃げようとする動きと、その動きをもっと深い場所に誘い込もうとする動きが、同時に、混ざり合って、小さく揺れていた。

 

二十四歳の、軍人として抑圧され続けた完熟の女体が、はじめて外部の刺激に、生理的に、応えようとしていた。

 

「――軍人の身体は、本当に、正直だな」

 

ガルシアが顔を上げた。口元は、マリューの蜜で、濡れて光っていた。

 

「これで、充分だろう」

 

彼は、マリューの髪を、掴んだ。

 

まだ絶頂には、遠かった。彼女が完全に屈伏する前に、彼は次の段階に進んだ。意図的に、絶頂を与えずに。焦らし、貶め、支配するために。

 

マリューの顔が、強制的に上を向かされた。

 

濁った色の怒張が、マリューの閉じた唇に、押し当てられた。

 

「開けろ」

 

「――む、ぅっ……!」

 

首を横に振る。

 

「クルーの命。五十八名」

 

ガルシアは、囁くように、その数字を繰り返した。

 

マリューの唇が、ひらいた。

 

太く、熱く、濡れた雄の先端が、彼女の口腔へと、ゆっくり、しかし容赦なく、押し込まれた。喉の奥の生々しい感覚、鼻孔を覆う雄の匂い、口角から滲む涎。二十四歳の女艦長の口腔が、他人の器官の容器へと、強制的に作り変えられていく。

 

「ん、ぐ……! ぅ、ぐ……!」

 

ガルシアの手が、マリューの髪を掴んだまま、ゆっくりとリズムを作った。喉の奥まで押し込まれ、引き抜かれ、また押し込まれ。

 

マリューの目尻から、涙が、今度は絶えずに流れ続けた。

 

そして――ガルシアが、不意に、引き抜いた。

 

ずる、と。

 

唇から離れた雄は、マリューの涎で濡れて、ぎらついていた。彼女が空気を吸い込もうと喘いだ瞬間、ガルシアの体が、彼女の両膝の間に、再び割り込んできた。

 

マリューの太腿が、両手で大きく広げられた。

 

濡れて光る雄の先端が、舌で十分にほぐされたはずのマリューの秘裂に、あてがわれた。

 

マリューは、反射的に、首を小さく横に振った。

 

「……やめ、て下さい……、ガルシア、中将……お願いです……」

 

声が、震えていた。軍人としての最後の尊厳を振り絞った懇願。それが、この夜、彼女が「お願いです」と口にした、最初で、そして最後の一度だった。

 

ガルシアは、笑わなかった。

 

彼は、マリューの白磁の頬に、大きな手のひらをひと撫でして、低く囁いた。

 

「これが、お前の、新しい任務だ」

 

そして、腰が、進んだ。

 

ずぶ、ぐちゅ、と。

 

マリューの秘裂が、二十四年、彼女自身以外のもので貫かれることのなかった女の最奥まで、他人の雄に一気に押し広げられた。

 

「――あぁあぁぁっ――!」

 

それが、マリュー・ラミアス少佐の、軍人として最後の悲鳴だった。

 

内臓が押し上げられる感覚。内壁が灼かれるような熱。そして、最奥で、何かが「こつん」と叩かれた、逃げ場のない圧迫。

 

ガルシアの腰が、容赦なく動き始めた。

 

ぱん、ぱん、ぱん。

 

肉と肉がぶつかる乾いた打撃音。

 

母性の膨らみが、激しいピストンに合わせて、大きく、大きく、波のように上下した。その質量の揺れが、マリュー自身の顎を、時折、下から軽く突き上げた。

 

胸の谷間の銀の環は、もはや揺れるというような静かな動きではなかった。左右に激しく振り回され、時折、鎖が肌に食い込んで、小さな赤い筋を残した。ムウから贈られた誓いの印が、まさに今、他の男の律動に合わせて、恥辱の振り子のごとく揺さぶられ続けていた。

 

「……ぁっ、あ、ぁ……! だめ、だめぇ……!」

 

マリューの口から、初めて、言葉にならない声が、連続で漏れはじめた。

 

拒絶の言葉。しかし、その拒絶のリズムは――ガルシアのピストンのリズムと、揃ってしまっていた。

 

「いい締め付けだ」

 

ガルシアが、ぐ、と腰を深く入れた。

 

「子宮口まで、すぐに届く。よく作られた器だな、ラミアス少佐」

 

「……!」

 

マリューの頭の奥で、ヘリオポリスのバーの記憶が、一瞬だけ、閃いた。

 

天井の低い、琥珀色の照明。カウンターに突っ伏して寝ていた、金髪の馬鹿な戦闘機乗り。「連合のエースが、こんなとこで潰れてちゃ」と彼女が肩に手をかけた夜。目を覚ました男の、子犬のような笑い皺。あの夜、彼は指輪などまだ持っていなかった。彼女もまだ、艦長ではなかった。

 

「――」

 

その記憶は、次の一突きで、あっけなく、消えた。

 

ガルシアの動きが、最後の加速に入った。

 

「受けろ、ラミアス少佐。これが、俺の、最初の印だ」

 

一際深い一突き。最奥で、雄の根元が、彼女の子宮口に密着した。

 

どくん。

 

どくどくどく、どくり。

 

まるで、彼女の子宮そのものが、他人の心臓を一時的に移植されたような――ガルシアの雄の脈動が、マリューの体内で、彼女自身の鼓動より大きく、支配的に、打ち鳴らされた。熱い奔流が、マリュー・ラミアスの二十四年間、誰にも入れさせなかった最奥の袋へと、直接、容赦なく、注ぎ込まれた。

 

彼女は、声を、出せなかった。

 

内臓の奥が、焼けるような熱で満たされていく感覚。それが、自分の中で他人の体液に満たされる、という現実を、頭よりも身体が先に理解した。

 

ガルシアが、ゆっくりと、腰を引いた。

 

ずるり、と。

 

抜かれた雄の後に、白濁が、ひとすじ、マリューの花弁から、シルクのシーツへ糸を引いて垂れた。

 

一滴。二滴。

 

やがて、堰を切ったように、太腿の内側を、重力にしたがって流れ出した。栗の花の生々しい香りが、シガーの煙と混じりあって、部屋の空気の底に、重く沈んだ。

 

マリューの意識は、そこで、半分ほど、遠くなった。

 

目尻から、熱い雫が、絶えず流れていた。それが、屈辱の涙なのか、身体の裏切りへの悔恨の涙なのか、あるいはガルシアの術中で彼女の中に生まれた、まだ名前のない感情の涙なのか――彼女自身にも、もう分からなかった。

 

胸の谷間では、ムウから贈られた小さな環が、ようやく揺れを止め、他人の汗と、彼女自身の涙で濡れて、かすかに光っていた。

 

窓の向こう、要塞の外殻の向こうに、アークエンジェルの艦影が、無機質な光を反射して、小さく浮かんでいた。

 

あの艦の中では、今も、五十八名のクルーが、艦長の帰りを待っている。

 

マリュー・ラミアスの唇が、声にならない声で、動いた。

 

(クルーを、守るために――)

 

そう言い聞かせることしか、もう、この夜の彼女には、残されていなかった。

 

ガルシアが、ゆったりと、マリューの横に身を横たえた。彼は彼女の汗ばんだ頬をひと撫でし、ほとんど父性的とも取れる口調で、囁いた。

 

「よく耐えた、ラミアス少佐。――明日もまた、同じ時刻に、この部屋に来なさい。これから毎夜、貴官と私は、この国の守りについて議論する」

 

明日。

 

その単語が、マリューの意識の奥を、冷たく貫いた。

 

今夜は、始まりに、過ぎなかった。

 

要塞の装甲の遥か向こう、シルクのシーツの汚れを無機質な宇宙光が染める中で、アークエンジェルの艦影が、静かに、静かに、浮かび続けていた。

 

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