変態一級魔法使い 作:性癖を開示する魔法
おまけを入れたせいで一話に収まらず、泣く泣く分断。
今回はふんわり叡智でお届け。
ヴィクサーくんが木になっていた時にちょろっと話していた内容を付けました。
──はじめはただ、怖かった。
ゼンゼが一級魔法使いとなって数週間が経った頃、不意にゼーリエから知らされた真実。
「お前は
「──え?」
信じられない、と思った。
あの馴れ馴れしくてやや粗暴ながら、変なところで律儀で優しい男が?
かつては夢の中で何度も交わる寸前を体験し……なし崩しに現実でも距離が近付いて来ている。
それが記憶を弄られている?
共にした任務では文字通り身体を張って戦ってくれた。
ゼンゼに対して守るのは苦手といいながら自分自身を盾にするのはやめて欲しい、心臓に悪いので。なのに悪い気分じゃなかったのは何故だろうか。
あまり宜しくないお店に入り浸るし、最近任務をサボろうとするしと普段はだらしない。
しかしいざ鉄火場となれば真面目になる。
妙に気が利く所もあったりした。
正直人が見ている前で他の女に粉を掛けたり、獲物を見るような目で見ているところは好かない。
やめろと思うしずっとやめさせようとしている。
しかし稀に真剣な表情をしているところは……好き…かも、しれない。
と、ゼンゼは一級魔法使いとなってまだ短い間だが、ヴィクサーをクセはあるが心強い味方だと思っている。
それにはっきりと言葉にするのが恥ずかしくて言えていないが……夢で見る程には情を抱いている。
最近はこっそり呪い解除を手伝ってもらい、あられもない姿まで晒してしまっていよいよ貞操が危ないと自覚してきた頃だ。
あの──絶対に抵抗できなかった状態でよく手を出してこなかったものだと思う。
逆にゼンゼの方が身体に残された疼きで悶々としてしまい、暫く素っ気ない態度になってしまったほど。
(改めて羅列してみると最悪な男だな……)
考えたら呪いを付けてきたのもヴィクサーだ。しかも彼自身では完全に解除出来ないという、無責任なオマケ付きで。
普段の素行も宜しいとは思えない。
一級魔法使いとして最低限の品性を保たせる為にいつも自分が苦労させられている気がする。
なのに功罪が入り乱れているせいで憎めないという……本当にこちらの情緒を乱してくる男だった。
だからだろう。現実感が抱けなかった故に、ゼーリエから本当に知る覚悟があるかと問われても、迷わず頷いたのは。
そしてゼンゼは本当の第一次試験の己の末路を知った。
記憶は戻らないが、彼女から齎された真実を目にして──
──取り敢えずヴィクサーは死ぬべきだと思った。
試験の場だからセーフ? そんな巫山戯た話であやふやにはさせない。
させてなるものか。
人の身体を弄び、乙女の貞操を一方的に奪い、しまいには記憶を消して無かったかのように振る舞う。
邪悪そのものではないか。
(──女の敵だあいつはっ)
共有された視界に映っていたゼンゼはまるで別人のようだった。
悪趣味にも花嫁の姿で犯され、なのに悦び男を受け入れた。
目を背けるような激しい行為に進んで身を委ね、自分の魔法すら淫らな奉仕に利用される。
最後には玩具のように扱われながら虚ろな笑みで蕩けていた。
これでは夫と妻の初夜というより主人に身も心も捧げる奴隷だ……ゼンゼが夢想する姿とは大きくかけ離れている。
なのに、なのにっ──
ゼンゼは確かに怒っていた。
彼に対して芽生えていた情は冷たく冷えている。
……胎の奥からじわじわと上り詰めてくる感覚には気が付かないふりをして。
奪われていた尊厳に対する怒りは、彼女の矜持を一時忘れさせるほどには強烈だった。
憤怒のままゼンゼはヴィクサーを呼び出し、人気のない場所で一度殺した。
鋭く束ねた毛先で、胸を貫き心臓を抉る。
赤い血の池が路地裏を彩り、彼は口元から血を吐いて膝を着いた。
だが、
「お゛ぉい何してくれてんの!?」
ヴィクサーは怒りも恐怖も抱かずに、ただ困ったように立ち上がる、蘇る。
その態度は普段と何ら変わらない。殺されかけたという自覚すら抱いていない……いや、抱く必要がない。
ゼンゼがヴィクサーへの殺意を抱いた時、ゼーリエが諌めなかった理由が分かった。
この程度では危害を加えたことにもならないのだと。
ヴィクサーが本心から何とも思っていないのが伝わってくる。肉体の損傷を厭わぬ狂気的な精神力。
改めて認識した無法さに、喉が震える。
仮に自身の持ちうる殺傷方法を全て並べても、この男は同じように振る舞うだろうと。
自分が相対して初めて理解した。
そんな相手に、今私は何をした?
「──ぅに、人間か……?」
「ごめん、声が小さくてよく聞こえない」
何気ない素振りで復活し、いつも通りのテンションで文句を言ってくるヴィクサーの姿に──ゼンゼは怖くなった。
「……っ!」
対面しているだけでとても恐ろしくなって……怒りも忘れ、この場から逃げ出してしまうほどには。
「っておい?」
ヴィクサーは追って来なかった。
振り返って見た自分の行いと、恐れに感情をかき乱されながら……ゼンゼは気が付けば自室で寝転んでいた。
どうやって帰ってきたか思い出せない。
体が鉛のように重く、何もする気になれない。
「……ぁ、そうだ、髪を」
しかしヴィクサーの身体を貫いた事を思い出し、血糊がこびり付く前にせめて手入れをと思い至る。
だが、穿ったはずの毛先には血痕のひとつも付いていなかった。
代わりに魔法が掛けられた跡が色濃く残されている。その魔法をゼンゼは知っている。
ヴィクサーが愛用している魔法のひとつだ。
あらゆる
何時間も手入れをしたように綺麗なままだ。
(あの時に……)
毛布に顔をうずめる。
わざわざ逃げ出した自分に掛けたのかと、何の意図があって……いや、分かっている。
雑なようで確かな優しさもあるいつもの姿。
甘く意地悪に溶かしてくる夢の中の姿。
寝床で執拗にゼンゼを貪り、奴隷に躾ける人でなしの姿。
傷付けて初めて理解した狂人の姿。
「ぅ……ぁっ──」
ゼンゼは頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。アレは酷いやつだ。あんなの人間にやる事じゃない。だけど自分は、一時の怒りに任せて殺そうとした。
死なないというのは言い訳にならない。
普通の人間なら死ぬようなことを躊躇いなくやったのだ。
殺すなんて野蛮な行為は忌避するのに。
ましてや同僚で、少し前までは共に居て悪くないとまで考えていたというのに。
平和主義者と謳いながら──このざまだ。
あの時の怒りは本物だが、せめて言葉で問い詰めるのが先だったと後悔が消えない。
そんな自分に、弁明もなく逃げ出した相手にヴィクサーは何をしたのか?
仮にも殺しに来たのに、反撃もせずゼンゼの身体からさりげなく返り血を払うまでしている。
「なんで……」
掠れた声が、暗い部屋に消える。
苦しげに胸を押さえて蹲る。
怒りが鎮火する代わりに、罪悪感が膨れ上がった。
考える度に胸の奥が痛み、罪の意識で吐き気すら催すのに──下腹部が熱く滾っている。
白い肌を侵す紋様が、妖しげに光っている。
(ぁ───)
何故か頭の中はヴィクサーに犯されていた自分の姿で埋め尽くされていた。
歪められた思考回路が桃色の末路へと強引に配線を繋げた。
残された
ゼンゼは毛布の中で強く太腿を擦り合わせた。
頭では忘れているはずなのに、改めて目にした光景が消えてくれない。
ずっと物足りないと寂しげに啼く胎の奥へ、希う男のカタチを自覚させてしまった。
身体が欲しがっている。ほしい、はやく、はやく……
このままでは、駄目だ。
再びゼンゼが気が付いた時には、ふらふらと都市の北側へと足を運んでいた。
まるで夢遊病患者のような無意識の行動。
一度見た覚えのある場所──ヴィクサーの根城に繋がる道へと進んでいる。
行先にいるのは恐ろしい強姦魔であると知っているはずなのに、そこへ向かうことを止められない。
夢か現実か、いつしか言われたような気がする言葉が脳裏を過ぎる。
『孕むまで犯されるかも──』
「ぅあっ……」
扉の前に着く。
どろりと暗い悦びが秘裂から零れた。
怒っているのか、謝りたいのか、それとも……もはや自分自身でも何がしたくてこうしているのか分からないまま、戸を強く叩く。
家主は直ぐに姿を現した。
赤い眼に捉えられるとまた胎の奥が熱くなって、視界が更に蕩けていく。
「ゼンゼ、またか……今度はどうしたよ」
「一次試験」
ゼンゼはそれだけを言って、ぽふんとヴィクサーに身を寄せ、胸元へ頭を預けた。
「あ────っと?」
少しだけ空気が凍ったような気がしたが、熱に浮かされたように朦朧としたゼンゼを見てヴィクサーは何かしらの魔法を使おうとした手を止めた。
代わりに彼女の背中へと手を回す。
僅かに周囲を見渡したあと、ぬるりとゼンゼの身を家の中へと引きずり込み、扉を閉ざした。
ガチャリと重々しい錠前の閉じる音。
複数の結界を走らせる魔力の迸り。
微かに肩を震わせるも、特にゼンゼからの抵抗はない。
いつ、どうやって知ったのかとヴィクサーは聞かない。
逆にいきなり殺された理由が判明したことですっきりとした。
そしてゼンゼが自宅に来たのは思わぬ僥倖。
「ヴィクサー、私はもう全部知ってる」
甘い吐息を絶え間なく漏らしながら、ゼンゼは突きつけるように言った。
発情し切った肢体を添え膳を食らえと言わんばかりに彼の身体へ擦り付け、ズボンの下にある段々と硬さを増していくソレに指を這わせた。
「だから、だか……ら……?」
思考が、停止した。
問い質す為に来たと言うのに、男を誘う仕草しか出来ない淫らな矛盾。
ふと上目遣いでヴィクサーの表情を見れば──
「……これは仕方ないよなァ」
不可抗力とか、正当防衛だとか……漸く
声ははっきりと聞こえているのに、ゼンゼの中でそれらに対する反応が生まれてこない。
言葉が、出ない。
「じゃあ行こうか。ゼンゼ
「ぁ……はい」
ヴィクサーの声に従順となり、淫褥の闇に呑まれていく。
止まらない。もう自分の意思で身体が自由にならない。
後戻り出来ない巣へ絡み取られる寸前、ゼンゼの髪に何かが掛けられる。
「うん、ゼンゼちゃんには良く似合ってるよ」
脳髄の奥でナニカが弾ける。
ゼンゼは……蕩けた。
すとん、と完全に自我の働きが抜け落ちた身体。但し外界からの情報を受け取る意識だけはある。
虚ろな眼差しのまま、裸体で。
寝床の上で膝立ちになった彼女はヴィクサーに全身をまさぐられながら、荒い呼気を繰り返す。
頭には、似合うと褒められた
「あ♡ んぁっ……ぅう♡♡」
「
考えることも許されず、喘ぐことしか出来ない。
久しく舞い戻ってきた記憶に沈められ、ゼンゼは剥き出しとなった情欲に操られるままその時を待っている。
欠けた記憶を埋められた、
「そっちは随分とご無沙汰だろうから……今日は優しくしてやるよ」
閨の中で小さな影がより大きな影に覆われる。
後は宣言通り、優しく溶かされたゼンゼは朝になるまで解放されなかった。
消え掛けていた怒り、渦巻いていた罪悪感も、そして恐怖すら。等しく濁流のような快楽に押し流されて、ゼンゼは何度も頭の中を真っ白に染められてしまう。
起きた時には自我も取り戻していた。
中途半端に記憶を戻された結果で。
人格を変容させるレベルの
ヴィクサーは手の中で装飾具を弄びながら、ゼンゼへと問うた。
──記憶を
その後のやり取りをゼンゼは覚えていない。
ただ、この日を皮切りにゼンゼのヴィクサーに対する態度はより強気になり、怒りを顕にすることも珍しくなくなった。
ヴィクサーの任務からゼンゼ以外の女の影は完全に消えたし、受付嬢に色気を出そうとする度にやり過ぎなくらいに掣肘される彼の姿が物笑いの種になる。
仲が悪いのか? と他の魔法使いに聞かれた時、ゼンゼははっきりとヴィクサーが嫌いだと答えた。
それでも未だに任務を共にする機会は多く、支部の中でも二人で付き添っている姿は少なくない頻度で目撃されている。
ゼンゼは、いつしか銀色の髪飾りを愛用するようになった。
⬛︎
午後、穏やかな喧騒に包まれる都市の街道。
歩幅を合わせながらヴィクサーはゼンゼと歩いていた。
整然とした街並みや、敷物の上にガラクタのようなモノが並ぶ物珍しい風景に、彼は度々視線を吸われる。
所謂歓楽街などには頻繁に通っていた男だが……表街道にはあまり足を向けていなかったのか、まるで観光客のような雰囲気だった。
「で? 何を買うんだよ」
そういや何処行くかも知らねぇなと。
ふと気になったヴィクサーは今更ゼンゼへ尋ねる。
「高い買い物をするから覚悟しろ」
「……はいはい」
しかしゼンゼからはつんとあしらわれる。
ろくな回答が返ってこない事に彼は肩を竦めた。
出る前に
──まぁ、このままでもいいか。
そして直ぐに思考放棄した。
態度に棘があるのはいつもの事であるしと。
ヴィクサーは知る由もないが、二人は骨董品店を巡っていた。
統一王朝時代の歴史ある品々に造詣が深い彼女にとって、この市場はある意味宝の山だった。
但し偽の鑑定品も多く混じっており、本当に価値ある品を手に入れるならば格の高い店へ行く必要がある。
普段から雑に扱われている腹いせに、ゼンゼは嘘偽りなく
このいい加減な相棒を連れて。
やがて二人は静かな佇まいの店へ足を運んだ。
「おぉ、雰囲気あるな」
古風の造りに目を奪われるヴィクサーを他所に、ゼンゼは動く。
展示されている売り物を手に取っては、容赦なく購入していく。
ヴィクサーの目には何となく良さげな美術品や、趣のありそうな遺物としか分からないモノたち。
それら全ての最低価格がライヒ金貨1枚以上でなければ、ヴィクサーも微笑ましく見れたのだが。
忙しなく商品を取り揃えたゼンゼは、後ろでぼんやりと立っていたヴィクサーへ指差す。
「全部この人が買います」
ライヒ金貨数十枚分の会計……。
「しゃ、洒落にならんだろそれは……」
金持ちって怖い。
自身も成金であるヴィクサー。しかし生まれから格差のあるゼンゼとの金銭感覚の隔絶を見せつけられ、流石に肝が冷える。
いや、ゼンゼとてここまでの散財は普通しない。
しかしヴィクサーが金を持っていることは知っていたので、罰を噛み締めろとばかりに自分の趣味を優先したのである。
「まあ、しょうがねえか」
とほほと財布を軽くする。
自分一人なら英雄アピールで値引きを狙うが、流石に女を連れてそれをやるのはダサい。
或いはこの店主が気付いてくれるかと横目で見るも、無駄である。
七崩賢を倒した男も、この店では英雄割引なんてものはなかったようだった。
というか普通に払えてしまった事実に買わせたはずのゼンゼも少し引いている。
「え、怖い」
「それ払わせた奴が言う?」
ただ、ゼンゼの機嫌はこのやり取りで大分マシにはなっていた。
欲しかったモノが大量に手に入り、鼻歌でも歌いそうな程に。
代わりにヴィクサーのストレスはマッハで急上昇する。今なら魔王でも殺せそうだ……
馬鹿でかい荷物は当然の如く彼が持つ。
最近作った持ち運び用の魔法により、手乗りサイズまで収めた。
本来の用途とは異なるが、楽をしたい一心でヴィクサーは魔法の解釈を広げる。
早く帰りたい。
「また新しい魔法か?」
「ああ、便利だろ」
少しだけ目を丸くしたゼンゼ。
そして予定の変更を伝えられる。
荷物がまだ持てるなら、折角だし服も買いたいと。
それを聞いたヴィクサーは愕然とした。
あれだけ払って終わりじゃねえのかよと。
「……俺は選択を誤ったのか?」
「何してる? 早く行こう」
「金持ちのお嬢様ってこええ……」
終わりじゃないらしい。
珍しく逆らう気が起きずに店を後にする。
ゼンゼに連れられた先、更に綺麗な街並みとなった通りでヴィクサーだけなら一生縁がないような豪奢な服飾店へと来た。
足音を吸い込むほどに厚い絨毯、クリスタルのように輝くシャンデリア。並べられた衣服はどれも質からして別格。
常々ゼンゼは服の趣味がいいとは思ったが、こんな所で買っていたとはヴィクサーも知らなかった。
恐らく一見さんはお断りの類で、そっと腕を引かれながら静かに店内を進む。
ヴィクサーのコートも安物ではないが、方向性からして明らかに場違いだ。
彼は黙ってついていく。
「ここで待っていてくれ」
やがてゼンゼは手に取った衣類を持って女性店員と別室に消えた。
試着をするらしい。
ヴィクサーは察した。
まさかこれはあれか? 感想を求められて正解を答えられなければ終わらない、地獄の時間が始まるのか?
思わず天を仰ぐ。
──俺にそんなもん求めるなよ……。
日は沈まず、まだ夕方までは遠い。
どうやら本腰を入れて付き合わないといけないようだぞと──ヴィクサーは己に喝を入れた。
珍しく淫紋が働いた……!
変に忘れていた物を見てしまったせいでスイッチの入ったゼンゼちゃん。ヴィクサーくんに食われました。
彼の中では一回殺されたので正当防衛、セーフだそう。
次回は埋め合わせデート回の続きと叡智な夜をお届けします。