変態一級魔法使い 作:性癖を開示する魔法
原作では一次試験後に次の試験までの
あとはゼーリエさん視点から、ヴィクサーの魔法について解析させています。
数々の波乱に見舞われた一次試験。
終了した頃には参加者の多くは疲労困憊で、生存者はゆうに当初の三分の一以下という結果に終わった。
その中で所定の数、種類を集めたものはより少なく……二級魔法使い2名、三級魔法使い2名、五級魔法使い1名の計5名が突破。
余りにも壮絶だった七日間に、試験に落ちたことよりも生き残った感慨を噛み締める者が殆どであった。
「これにて一次試験は終了とする! お疲れ様でしたッ!!」
試験官の一言で全員が解散する。
まばらに帰り着く中、ヴィクサーは背後から近寄る気配を察知して振り返った。
「やあ。受かったのか」
眠たげな目で、良くそれで揃ったなと言外に感心するゼンゼ。落ちるつもりで三個だけ運任せに残していたヴィクサーも、この結果には皮肉気に肩を竦める。
「ああ、女神様が贔屓してくれたんだろ」
「そうかな。信仰心があるようには見えないが」
「いいや、女神様も女の子なんだ。面の良い男には微笑んでくれるに決まってる……現に俺は受かった」
「自分で言うのか。ここに敬虔な僧侶が居なくて良かったな」
ゼンゼは呆れた様子で眉を寄せた。
ただ彼の台詞を特に否定することもなかった。
今のゼンゼは、ヴィクサーと戦った際に徽章を三つ取り返されてから撤退に成功した……という内容に記憶を改変されている。
残りの四日の間にも会話を交わした経験が散りばめられており……連続性のない記憶の繋がりだというのに違和感を抱けない、という催眠状態に陥っていた。
よってヴィクサーに対して抱く印象は、面の良い凄腕魔法使いと言ったところか。
試験中ではヴィクサー以外との関わりの記憶が曖昧なせいか、唯一接点を持てた彼へと、らしくもなく積極的に話し掛けてみた訳だ。
理由は他にもある。
「この変な呪いは外してくれないのか」
「いや、それくらい自分でやれよ」
肩を並べて──ヴィクサーの方が歩幅が大きいため……遠慮しない彼に追随しながら下腹部に手を当てる。
肌の上には、逃げる間際にヴィクサーから付けられた──と思い込んでいる──淫紋があった。
効果は分からない。ただ、不思議とコレがあることを意識してしまい……とくん、とくんと鼓動が高まるだけだ。
外せるなら取って欲しいと擦り寄ってみるも、ヴィクサーは素気無く拒否する。
「ソイツはな? やろうと思えば三流魔法使いの解呪魔法でも解ける代物だ」
「む……」
「わざわざ俺に頼む必要もねーってことよ」
大体、競争相手に塩を送る奴がいるか? それか教会行け。と……最もなことを言いつつ、肩を切って歩み去ろうとする背中。
じゃあなと後ろ向きにヒラヒラ手を振る。
袖にされ、遠ざかっていく背を見て、何故か──胸が締め付けられるような気がした。
ゼンゼも立ち去ろうとすると、石のように脚が重く、動かない。
気付けば……人混みに紛れてヴィクサーの後を追っており、段々と人気のない北側の区画まで来てしまった。
彼が角を曲がったところで足を早めて──とん、と人にぶつかる。
不意に倒れそうになった背中を支えられ、奇しくも抱かれたような形になった。
「と、すまない──ぁ」
「ん~~?」
ゼンゼを支えていたのはヴィクサーだった。至近距離で彼と顔を見合せ……高鳴る鼓動が太ももまで響き、全身が熱くなる。
色んな言い訳が頭の中に浮かぶ。
しかし、ヴィクサーから鋭い視線を向けられると泡のように消えていく。
彼の瞳の奥で揺らぐ赤い影は、まるでゼンゼを縛って離さないかのようだ。
舐め回すような目線に、思わず肩を抱いて縮こまってしまう。
「なんだ、お前もこの辺に住んでるのか?」
「っ、ゼンゼでいいっ……少し寄るところが、あった、だけ……だ」
咄嗟の理由も自信なさげに言葉が萎む。疑われているだろうか、なんで後を付けるような真似をしてしまったのか、と情けない想いで息が苦しくなる。
「そうか、ゼンゼ。ここらは人が少ないが変なやつも多い。気を付けろよ」
「……っ、ああ」
「まあ俺はここに移住したばかりだから。ゼンゼの方が詳しいのか……?」
「いや、そうでもなぃ」
幸いヴィクサーは気にした様子は無く、ゼンゼは安堵した。
しかし……背中を支えていた手が離れ、「じゃ、俺ん家そこだから」と離れようとするヴィクサーのコートを反射的に握ってしまう。
「……今度はどうした?」
訝しげに首を傾げるヴィクサーを前に、流石に頭が冷える。そんなの自分が聞きたい! とゼンゼは内心で叫んでいた。
「──っ、家は一人なのか?」
なのに、出てくる言葉は全く関係の無いもので。
「……まあ、
「ぃや、その……呪いを、ヴィクサーの家で外して貰えないか」
最初の建前や一度断られたことすら忘れ、乞うようにヴィクサーへ言ってしまった。
忙しなく両手の指を絡めながら。
ゼンゼの目は自然と……ヴィクサーの開いたコートから覗く、銀色の装飾に釘付けになっていた。
その手がティアラに伸ばされそうになったところで、
「おいおい冗談だろ? 自分が何言ってるか分かってんのか?」
するりと躱され、手は空を切る。
「なにって……」
「未婚の女が、男の家に、たった一人で? 出会って間もない相手と二人きりになる気か?」
「あっ」
暫し、無言。
「ったく、名家のお嬢様ってのはみんな
ヴィクサーと壁の間にゼンゼは挟まれた。
隙間が無くなるほどに距離を詰められ、壁に手を当てられて喉が鳴る。
「ぁ──なにを」
赤くなった耳元へ口が寄せられ、吹き付けるように囁き声で流し込まれる……。
「──家の中で犯されて、孕むぞ?」
一瞬だけティアラがゼンゼの頬を掠めた。
ドクンッ────!
一秒も満たない間に再び想起、忘却される光景。
しかし、その一秒の間にゼンゼの身体は奉仕奴隷に躾けられた四日間を追体験する。
か細い腰をがっしりと掴まれ、杭打つように激しく抽送される肉棒。背後から抱かれながら、敏感な乳首を弄られて肩を震わせている
自慢の栗色の髪を操って男の肉茎を擦りながら──亀頭ヘ口付けし、ちうちうと小さな舌で刺激しながら啜る。
寝転んだ彼の上。改めて長すぎる剛直に慄きながらも、割れ目に迎え入れようと腰を落とす瞬間。
全て呑み込み切った時の、弦のように仰け反る身体。こひゅ──とだらしなく開いた口、垂れる唾液。
鏡の前で花嫁衣装を着せられた
──ぷしっ
「はぁうっ──んぁああっ!?」
胎の奥がそれだけで果て、痙攣する脚が身体を支えきれずにゼンゼはストンと腰の力が抜けた。
何が起きたのか分からないと言った様子で目の奥が収縮する。一瞬前に囁かれた言葉も記憶の彼方に消える。
「おっ、と。大丈夫か?」
幸い、ヴィクサーに両脇を抱えてもらったお陰でゼンゼが土に汚れる心配はなかった。
いや、そんなことより!
「様子がおかしいな?
「そんな呼び方……私は子供じゃない」
羞恥心を鉄面皮の裏に抑え、気丈に振る舞って立ち上がった。
「あぁ、そうだった。
──じゃあ、充分
子宮が痙攣する。言われてもいない言葉が脳内で再生される。
「──ッ、帰る」
こちらの気など知らないように
(身体がおかしい、それに……私、どうかしてる)
前のめりに歩きつつも─今一度だけ、後ろを振り返り。
(ヴィクサーは、ここに住んでいるのか)
遠目に見える平屋の建物をしっかりと覚え込んだ。
⬛︎
オイサーストにある北部支部。
アーチ状の窓を背後に、豪奢なアームチェアの上で胡座を掻く少女。
鮮やかな金髪、少女然とした小柄な身体。しかし、エルフ特有の長い耳と……傲岸不遜、不敵な表情が、ただの少女では無いことを示す。
大魔族クラスのヴィクサーの魔力でさえ比較にならない、千年以上の年月で膨れ上がった大魔力。
神話を生きたと謳われし大魔法使い、ゼーリエがそこに居た。
ゼーリエは片手間に魔導書を開きながらも、頭の隅で常に一次試験の内容を置いている。
ゼーリエは数多ある魔法のうち、千里眼のような魔法で試験を観察していたのだ。
普段はわざわざ見ることはしない。
しかし、今回は違った。
切っ掛けは、ヴィクサーが最初に大陸魔法協会の北部支部を訪れた時。
受付のエリアで急速に魔力の隠蔽・解放を繰り返す奇特な存在をゼーリエの魔力探知が捉えた。
(蝋燭の火を吹き消すように明滅させていた魔力の操作。0から100の急制動の繰り返し……言うのは簡単だが、それを実行出来るものがこの世に何人いることか)
事実、膨大な魔力を抱えるゼーリエはおろか、弟子の中にも魔法抜きの純粋技量でそれを成せる者はいない。
制限する、隠す、それは出来ても短い間に繰り返すとなれば途方もない難易度になる。
余りにも限定的で使いところの少ない技術だから……あの若さで極まった人間など、初めて目にした。
実際あの時のヴィクサーは、
気配を消してみたり光に対してトンネル効果が出来ないか細胞を操ったり、と。
覗いたものが、逆に覗かれるという感覚。ノールックで遠視を悟られたことに彼女の頬が吊り上がる。
直感が告げた──あの人間からは面白いものが見られるという、予感が。
実際、一次試験ではその片鱗を大いに見ることが出来た。
(しかし真正の馬鹿だなあれは)
多少、いや、かなり余計なものまで見せつけられたが……ゼーリエはエルフなので、人同士の営みからは──正直勘弁してくれと思いながら──目を逸らして魔法の解析だけを進めた。
非効率の塊である触手の魔法は兎も角、
ゼーリエをして不死身とイメージさせた脅威の再生魔法に、距離の概念を無視した魔力供給。
極め付けはあの精神魔法。
精神構造を無視する干渉能力は……恐らく現代の精神防御すら気付かせずに透過する。
アレを基準として魔法体系を更新しなければ……今の人間では抗えまい。
人類の中には、稀に己の中の
ゼーリエはヴィクサーをその類いの魔法使い──それも最も原始的な魔法使いの域に近いと断定した。
彼女の記憶にもない魔法も多く使っていた。恐らくは、オリジナル。
魔法への論理を厭わず、己の解釈で望んだ魔法を体現する者。但し倫理観など……魔法を悪用している疑惑があるため、人格面での矯正がいるかもしれない。
使っていない魔法も、恐らくは本人の趣向で選別しているだけか。
磨き上げる価値のある原石に、期待が膨らんでいるのを自覚した。
だから、レルネンへ話した時も──
「……危険、ですか。ゼーリエ様」
「そうか、お前の
老婆心で己の弟子に忠告は与えた。
カラクリを剥がさない限り、不死身の相手との戦いはワンサイドゲームになる。
死からの再生。魔法の中には幾多もの死を回避する手段が実在したが、どれも完全では無い。
あのような直接的な再生魔法は今まで存在すらなかった。
勿論、指折りの実力者であるレルネンが本気を出せば……魔力の続く限りヴィクサーを殺せるだろう。
あの男は一般防御魔法を使っていない。それは魔法戦に置いて大きな不利だ。
不死に制限があるならばいずれ死ぬ。
しかしヴィクサーの本気をまだ見ていない。
「必ず何方かが死ぬぞ」
これは戦争などではない。あくまで見極めるための試験に過ぎない。
ゼーリエは才ある者が無為に死ぬことを良しとはしない。
大事な弟子とその候補だ。ただでさえ短い命なのだから、二人とも死ななければそれでよい。
そう。
レルネンの瞳に燃える意志を見るまでは、そう思っていた。
「ほう……臆病な坊やのままだと思っていたがな」
「…………いえ、私は」
レルネンが最初の一級魔法使いになってからこの歳まで。勝機の見えない戦いは堅実に切り抜け、生き残ってきた。
この先もそうしていくのだと。
しかし、何がレルネンの琴線に触れたのか──彼らしからぬ意図が、垣間見える。
(そうか、そのつもりなのか)
人というものはある日突然変わりゆく。
それこそ悠久の時を生きるエルフにとっては瞬きの間に。
一人の弟子の変化を感じ取ったゼーリエは……微かに笑みを浮かべた。
「ふ……好きにしろ」
紹介する魔法がない!?
ヴィクサーのとんでも具合を見てしまったレルネンさん、覚悟完了する。
次回、ヴィクサー死す