天は
「どうしたんだい?そんな怪訝な顔をして」
大学の同級生である彼、
大学が終わり、バイトもこなし、ヘロヘロになって帰宅するとなぜだか家族でも恋人でもない男、もしくは女が当然のように居座っている。そして飯をねだってくる。
はて、俺は何故自分より金を持っている人間を養っているのか、なんて考えるが。気が付けば手は2人分の夕食を作っていて、席に付けばこの富裕ニートは膝の上でむしゃむしゃと美味そうに食べる。
今は飯が終わり、ソファの上でくつろいでいる最中。そこで上記のセリフに戻るわけである。
「お前の事を考えていてな」
「...え?」
「どうやって追い出せばいいのかと」
「なぐるぞ」
むー、なんてわざとらしく喉を鳴らしながら、俺の頬を引っ張ってくる。相も変わらずこの男はうざったらしい。
「だいたいさぁ、僕という絶世の美少女が家に居るってのにその仏頂面はなんなのさ」
「都合の良い時だけ女を使うな」
「...キミはほんっとうに、お堅いねえ...」
「お前が緩すぎるだけだ」
「そういうところだよ」
べしべしと肩を叩きながらも、一向に俺の上から降りようとはしない。小言が煩わしいなら別室にでも行けばよいものを。
しばらくすると見ていたバラエティに飽きたのか、俺の足を枕代わりにして携帯ゲーム機で遊び始めた。気まぐれが過ぎる。
猫か何かなのか、こいつは...と思うが猫はこんなに食費が掛かりもせず文句も言わず一々風呂に入れる必要も無い。何より可愛い。動物以下の人間ってなんだよ。
「あ、失礼な事考えてる顔してる~」
「黙れ畜生道」
「思ったよりも失礼な事考えてた?!どうしてそんな呼び名になるのさ!」
「猫以下だからな、お前は」
「あ゙?!猫より可愛いぞ僕は!!」
「...風呂行くぞ、はぁ....」
動物に可愛さでしか張り合えない人間ってなんだよ、そしてそれを拾った俺はなんだよという思考が湧いてきた。考えるのを辞めよう。
問題を解決する時は、まずその始まりから思い出すのがセオリーだ。ということで、このカスと如何にして出会ったかを思い出そう。
大学の文学サークル、その新人歓迎会が切っ掛けだった。
そいつの周りには、見たことが無い程の人だかり。対して俺の前には気の優しそうな顔の男性が、ぽつんと気まずい表情で座っていたのを覚えている。
『すごいねえ、あの子....なんかキラキラしてるって、言うのかな、あはは』
『無理に喋らなくても向こう行っといていいですよ』
『あ、いや、そんな』
『慣れてるんで。気遣いだけでありがたいですよ...どうぞ』
店は貸し切り、席決めは自由だったのだが...俺はまあ、顔がアレな上体格がゴツく威圧感を与える事、人間を蜜に群がる虫モドキにするのが得意な男が通路向かいの席に座っていたのも相まって最終的に独りでちびちびと呑んでいた。(念の為言っておくがソフトドリンクだ)
時間が立つにつれ、人はぽつぽつと消えていく。異常なまでの煩さも改善され、中々に気分良く唐揚げを摘んだその時。
『やあ』
対面に、無駄に顔が良い人間が現れた。ふと周りを見渡せば、酔いつぶれた上級生とソレと俺以外の人物は見つからなかった。
『...帰れ。俺はツラの良い人間が嫌いだ』
少し驚いた顔をしたと思うと、何故か俺の隣に席を移動する。
『面白いね、キミ』
『生憎勘違いだ、これはただの失礼という』
『おもしろーい』
うむ、最悪のファーストコンタクトだ。
それからもソレは、学内で俺と遭遇する度に話しかけ、わざとらしい笑みを浮かべては隣に居た。いや外でもそうだな。
『やあ!』
『奇遇だね』
『わ、おひさ』
『疲れるねえ、けど楽しいよ』
『次で取れそうなんだよ、次で...』
『ここの定食、君にはちょっと少ないかも』
飲食店。ゲーセン。遊園地。変わり種では山。記憶を辿るどの場面でも取り巻きらしき女と男が居る。
目を疑うほど顔が良く、家柄が良く、聡明で金を持っていて人当たりが良い。なんでも短期でモデルもしているだとか。
尚且つ、ユーモアを幅広く理解し比較的下世話な話も男のみの場ならする。
まあ、そりゃ人が寄るだろう。
そして、そんなものが突然女になれば、周りはどんな反応をするのだろうか。
久々に見かけた時、ブランコに座るソレには尻と胸が付いていた。
忘れもしない深夜三時、散歩途中の近所の公園から俺の最低の日々の始まりである。
俺を見るといつもへにゃりと笑っていたはずの顔が、何にもならなかった。
怒りでも哀しみでも絶望でも、当然ながらプラスの感情でもなく。
こちらを見て、ふっと視線を逸らした。それが妙に苛ついた。
知識としては存在した。小学校理科の教科書の隅っこ、数億分の一の確率で性別がなんだのと
だがそんなことは関係のない。棒と穴の違いなんて一文字で済むのだから。
何故か、不思議と、嫌いであるはずの人間の。
ひたすらに、ソレの表情が変わらないことが癇に障る。
『おい』
『...』
『おい』
『おい』
『...』
『行くぞ』
『....?』
『来い』
手を引こうにも、身体に一切力が入らないかのように崩れ落ちるので面倒だった。しょうがなく横抱きにして道をただ歩いた。
無抵抗と言うよりか、無気力。そして一切力が入っていない人間というのは、思うより持ち運びづらいものなのだ。
『飯』
『...』
『何を喰う』
『...』
『腹は』
『...』
『答えんとぶん投げるぞ』
『...』
『人間喰わんと死ぬが』
『.......あ、げ』
『あ゙?』
『から、あげ』
『...あいよ』
冷蔵庫の中身を気にしながら帰ったのは人生で初めてだった。
ああ。やっぱり顔だ。顔が悪い。あの時の顔があんまりにも、俺に都合が悪かった。言語化なんぞできやしない。ただひたすらに虫の居所が悪くなる顔だったのだ。
家に連れ込み、飯を食わせ、しばらくしてから気が付くとあいつの顔に色が付いていた。それで満足した、のだが。
どうにも出ていかない。というか出ていくところを見たことがない。ここ3ヶ月、ただ俺に座っては飯を食って寝ている。どうしてこうなった?
不味い。問題を最初から思い出した結果、拾った俺が悪いという事になりそうだ。それはあまりにも良くない。
湯船の中、反対からぷかぷかとアホ面で手製の水鉄砲を俺に飛ばす男をじっと見つめる。
するとすぐさま口を開き、また生意気を言い始める。
「お、魅惑のナイスボディに気付いちゃった?」
「最近アホ面の悪化が激しいな」
「会話のドッジボールどころか射殺を試みるの辞めない?もお!」
水中の重力を活かして、ふわっとこちらに身を寄せて上に乗る。当然ながら、湯に比べると温度が低い肌を押し付けてくる事になる。
そのままにやにやと笑いながらこちらの首筋に甘咬みをかましてくる。うざったい。
「んふふ」
「ぬるい」
「....美少女が!!!おっぱいを押し付けてるんですけど!!!」
「俺は湯船に浸かりに来たんであってヤりに来たわけじゃねえ」
「ED!!枯れ木!!本当に男かぁっ!」
「それ言われるべきはお前だろ」
「うぎぎぎ」
適当に喋っていると、独りの時よりかは早く時間が過ぎていく。とすると、気が付けばのぼせている。
男だった時よりも身体が弱くなったとほざくやつの体を雑に拭き上げ、腕を上げさせ服を着せる。
まるで三歳児の世話を焼く母親だ。性格の腐った我が親に見られれば笑われるだろう。
母親...母親?
....うん?
「もしかして俺は甘やかしているのか...?」
「今気づいたの?!」
「いや、最初からの手癖でつい...?」
マズイ、どんどんと俺が悪いような気がしてくる。犬や猫は最初に躾をしなければ人を噛む子に育つって言うし...いや結局畜生じゃねえか!
初投稿です お手柔らかにお願いします