人に何かをしてもらったのなら、自分も何かを返さねばならない。
それが愛する人なら尚更で、貰ったものより少し大きい対価を返したいのも人情だろう。
あ゙ー、おなかがおもい。あたまがふわふわする。
事後というのはどうしても賢者タイムというか、妙に頭が冴えてしまって少し怠い。
情交が終わり、一人淡々と明日の朝食の仕込みをする彼を見ていると、どうにも手持ち無沙汰で申し訳ない気持ちが湧いてくる。
彼は私の怠惰を対して気にしていないが、それがむしろ辛いというか....働けって?それはそう。
出来るならば、そうしたいのだが。どうにも一人で外に出ようとすると、身体が凍って足を動かせなくなる。
未だにトラウマというか、恐怖が抜けない。女性に変わりたての頃にあった出来事の幾つかが鎖となって外界を拒絶する。
うーん、プログラミングやデザインとかインドア系の仕事を学ぼうかしら。男だった時代、モデルだのキャストだのとして稼いだ金は口座に結構残っているのだが、これに頼り切りというのも良くない。大学生としてはかなり多い額だが、彼と私の生活をずっと支えられるレベルでは流石にない。
まあ、ちょっとずつ。ちょっとずつでいいのだ。彼と一緒に外出するうち、色々とマシになっていくだろう。それから考えていけばいい。
......
けどやっぱりちょっと申し訳ない。今の僕が、彼に何をしてあげられるのだろうか。
お金で買ってあげられるものは喜ばないだろうなぁ。物欲ほぼ無いし。
家事も、最近はやれるだけしている。割合で言えばまだちょっと彼の方が大きいだろうが。一番現実的なのはこれかな?
うん、エッチか。やっぱり男の子にはエロが一番いいと思うんだよな。彼も最近ちょっと積極的(誘ったら三分の一くらいの確率)だし。
そうと決まれば話は早い。彼のスマホを性癖チェック!パスワードは後ろから見て履修済みだ。倫理はエロの前に敗れるのだ、はっはっは。
えーと。L◯NE。SMS。ブラウザ。パズルゲームのアプリ。........以上。以上?!?!?!
いやまて。ブラウザの履歴から.....『コーヒー 染み』....私が一昨日こぼしたあれだな....『洋菓子店 深夜営業』...昨日テレビで一緒に見てたあれだな....『子供 成人までの金額』....あっやばい不意打ちを喰らった。ぐおおお。
彼はそういう男だ。見た目のイカツさを除いて完璧な男だ。なんなら最近イケメンに見えてきた。恋は盲目というか幻覚だと思う。
検索履歴をいくら遡っても私の為か家事に関するものしか出てこない。無敵か?
もうちょっとエッチなコンテンツとかさぁ!男なら見ておけよぉ!
ソファの上で一人悶えていると、気が付くと彼が傍にいた。相変わらず家事が早いな。
「....何をしている?」
「君の性癖を、迅速に、僕に、教えろ!!!」
「無い」
「無いってなんやねん」
「スマホ返せ」
「あい」
冗談か?と思ったが、彼は僕をバカにする為以外にジョークを使った所を見たことがない。
と、言うことは本当に....本当に性癖が無い?えっ嘘ぉ。
ふむ。試してみるか。
「ねえねえ、手ぇ出して」
「ん」
「はいずぼーっと」
とりあえず胸で挟んでみる。我ながらご立派な胸部装甲をしているので手首の先くらいまで埋まる。彼の表情は何一つ変わらない。
うーむ。性癖というか性欲というか。もうちょっと美少女の乳に興奮してくれないだろうか。
彼は怪訝そうな顔をしたまま動きもしない。
「はーいこっち向いてね~」
「....」
今度はハグ。胸を押し付けて上目遣い。多分この世の九割九分九厘の男性がこれをされれば堕ちると思う。まあ彼以外にする予定は無いが。
不思議そうな顔をしながら、僕の頭を撫でてくる。うーん。
彼の首に噛みついたり、ちゅーしたり、とりあえず雑に接触を繰り返す。明日から休日だから夜の時間はいくらでも伸びる。
無反応&無反応。二時間前まで僕に腰打ち付けてた男とは思えない。
まあいつもと同じ事をしてるだけっちゃだけなんだけど。にしてもなあ。
悩む。悩む。もう少し頻度を増やすために悩む。悩み続ける。するとちょっといい案が降りてくるもんだ。
そうだ。無いって事は作ればいいじゃん。
彼のスマホで某同人サイトに僕のアカウントでログイン。そして片っ端から良さげな作品を買ってダウンロードしていく。お金あって良かった~。
「....何してんだお前」
「君に欲情してもらうための下ごしらえ」
自分の膝の上に乗る女にコレ言わせるのみっともねえからな、本当に!!!抱け!!!
私のスマホの検索履歴、最近どんどんと酷くなってきた。『夫婦 セックスレス 解消』とか『マムシ酒 効く』だとか。そのせいで出てくる広告も出会い系モドキばっかりだし。
呆れたように溜息を吐くが、止めようとはしてこない。最近どんどんと僕に甘くなってきている気がする。それは嬉しいんだけどなぁ。放任とも言うかも。こうなると嬉しくない。構い倒せ。
「一緒に観ようよ。これ僕のおすすめね」
「....寝ていいか?」
「だめー。今夜は寝かさないぞ☆」
まずは....普通にギャルとオタクくんのやつで行こう。スタンダードが一番!!!!
-------------------------------
なんだかんだで彼も、男の子だったという事なのだろう。
作品を読み進めるごとに、色んなものを見る度に身じろぎの回数が増えた。僕の体は気付いたら彼の腕に固定されて、どう足掻いても動かなくなってる。
さわ、さわ、太ももの辺りを優しくゆっくりまさぐる彼の手がくすぐったくて、気持ちがいい。
このまま事に及んでしまうのも、ぜーんぜん悪くは無いだろう。けどどうせなら、もっと求められる感じでシたい。
凄い目で見つめてくる彼に、ゆっくりゆっくり、焦らすようにボディタッチを重ねる。
気分が良い。けどこのまま放っておいたら凄い酷い責められ方をして死んじゃいそうだ。
彼の前で、スマホの新しいタブを開く。開くのは大手通販サイト。
幾つかの衣装を、むしろなるべくぺらぺらの質が悪そうなものを選んで、カートに放り込む。後ろから、彼がごくっと唾を飲み込む音が聞こえた。
ふふふ。贅沢なシチュエーションだろう。感謝してほしいね。
可愛い可愛いエッチな女の子が、媚びるような事しか考えていない服を目の前で買っていくんだ。我ながら良い煽りだと思う。
決済画面で表示されるのは、明日の夕方という絶妙な時間。
「あした、あしたにはとどくんだよね」
「......」
「きょうはもうおやすみ、しよ?」
わざと舌ったらずな言い方で。彼の体をまさぐりながら宣告する。
股の間に硬い感触が伝わる。今までなら喜んで開始していただろうけど、ちょっと我慢。
心苦しいが、彼にも今までの私の気持ちを体験してもらうということでちょっとだけ溜飲が下がる。ざまーみろ。おあずけってこんな気持ちじゃい。
明日が楽しみで、楽しみで仕方がない。
じゃあ、おやすみなさい。頑張れ明日の私の腰。