貴族転生で俺は好きにする(予定) 作:ノープ
「やあ、セレスティア! 奇遇だね、こんなところで会うなんて」
俺は何食わぬ顔で、にこやかに片手を上げて挨拶をしてみせた。
慌てたら負け、というのが社交界の鉄則である。
動揺を表に出した瞬間に、相手に主導権を完全に握られるのだ。
「ええ、奇遇ですね、あなた様」
「う、うん」
「あなた様がどこで、誰と、何をお話しになろうと、私はもちろん何も申し上げる立場にはございません。同じクラスのご令嬢と親睦を深めることは、学園生活において大切なことでもございますし──」
ふぅ、と一拍置いて。
彼女は視線をヴァネッサの方に向けた。
正確には、ヴァネッサのまだ僅かに緩んだままの胸元の方に。
「──ただ、このような、下手をすれば人目につきかねない中庭でお胸元をはだけてお見せになるというのは、些か品がない振る舞いではありませんか? ヴァネッサ様」
「あっ」
ヴァネッサが、自分の胸元のボタンがまだ完全には留まっていないことにようやく気付いて、慌てて両手で襟元をぎゅっと閉じた。
さらば、ヴァネッサのおっぱい。
「し、失礼いたしました、セレスティア様。少々お話に夢中になっておりまして、胸元が乱れていたようですわ。気付かず、お見苦しいところを──」
ヴァネッサは咄嗟に取り繕い始めた。
流石に伯爵家の令嬢として、公爵家相手にあからさまに歯向かうわけにはいかない。
家格の差は厳然と存在するので、こういう場では下手に出るのが基本である。
「そうですか」
セレスティアの声色は表面上は静かなままだったが、含まれる温度は、はっきりと低かった。
「気付かずに胸元をはだけていらしたのですね。それは大変なことです。──ですが、ヴァネッサ様。中庭のここは確かに人目につきにくいとはいえ、絶対に誰にも見られないわけではございません。学園内には上級生もおられますし、教師の方々も巡回しておられます。万が一、あなたのその振る舞いが教師の目に触れた場合、お家の評判にも関わる事態になりかねません。伯爵家のご評判が、私はとても心配です」
「お、お気遣いありがとうございます……」
「それから、私の許嫁が、目の前ではしたなく胸をはだけたご令嬢を見せられて、あらぬ気持ちを抱いてしまわぬかそれも少々心配でございましたものですから。他意がなかったとしても、男性というものは視界に入った刺激には逆らえぬものでございますから」
「は、はい……」
「弁えていただけますと、ありがたく存じますわ」
淡々としながらも一発一発が確実にヴァネッサの胸元と矜持に突き刺さるような嫌味を、セレスティアは涼しい顔で連発してきた。
上品な言い回しなのに、内容は徹頭徹尾「お前は分を弁えろ」という威圧。
これが公爵家令嬢の本気のお小言の威力か。
俺は石のように固まっていた。
ところが──
「……」
「……?」
「……言わせておけば」
不意にヴァネッサの口調が変わった。
「……ヴァネッサ?」
俺は嫌な予感がして、思わず彼女の方を見た。
彼女の表情はさっきまでの取り繕った下手の構えではなく──いつもの強気な、本性の顔に戻っていた。
しかも瞳の奥に、ちょっとだけ怒りの色が灯っているではないか。
多分これは、セレスティアにあれだけ言われ放題で言い返せなかったストレスと、それから「元許嫁候補」として「現許嫁」に対して持っている積年の対抗心と、その両方が同時に爆発しかけている。
「前々から思っていたけれどね、セレスティア」
ヴァネッサは敬語を完全に放り捨てて、にやりと笑った。
「あんた──よくもまあ、こんなのと許嫁になったわよね?」
「……? こんなの、とは?」
こんなの言うな。
「はん、そもそもあんたには似合わないわよ、こいつは。お淑やかぶった公爵家のお嬢様には、絶対に合わない男なの」
「……どういう意味でいらっしゃいますか、それは」
「ふん、こいつ、変態なのよ? あんた、それちゃんと分かってる? あの侯爵家の嫡男なのよ? あの、王都中で噂になってる、女ばかりの使用人を集めてるスケベ家風の侯爵家の。父親も筋金入りで、息子もしっかり血を引いてるって有名な──」
「それは、もちろん承知しておりますが……」
「あんたみたいな、表向きはお淑やかそうな清楚な子にね、こいつは絶対に合わないって言ってるのよ。変態よ? 変態。底なしのスケベ。そんな男にね、上品ぶった澄まし顔のお嬢様なんて、絶対釣り合わないんだから。だってコイツは──」
そしてヴァネッサは、ふっと胸を反らして、自分の胸を見せつけるようにしながら、にやりと勝ち誇った笑みを浮かべて、こう言ってのけたのだ。
「──私のおっぱいを、見たことも、触ったことも、ある男なんだからね? しかも何より、わ、私のお腹の上に、せ、精液出したこともあるんだからっ! こ、子供の頃の話だけど、それだけ親密だったってことよ!」
「──……え?」
セレスティアの顔が、ぴしっ、と。
凍りついた。
それから彼女の顔に浮かんだのは──普段の彼女からは絶対に想像できないような、わかりやすいショックの表情だった。
「そ、そんな……あなた様……私以外、と……?」
声が、わずかに震えていた。
「い、いや、ま、まあ……メイドたちのこととかは、いつもそれとなく言ってるじゃない? 屋敷で色々やってるって……」
「そうではありません」
セレスティアは、ぎゅっと両手を胸の前で握りしめながら、伏し目がちに呟いた。
「私が申しているのは……そういうことではなくて。私と、同年代のご令嬢と、ということです……」
「あぁ……そういう……」
なるほど。
彼女としては、メイドたち──年上の使用人で、家の使用人として割り切った関係性の女性たち──と俺が遊んでいることは、ある程度は了解の範囲内だったらしい。
貴族の若様が屋敷の使用人にちょっかいを出すのは、貴族社会では割と日常茶飯事として認知されている。
けれど、自分と同じ社交界に属する、同年代の貴族令嬢と関係を持っていた、というのは別問題。
これは「自分の競合相手」と認識される対象だから、嫉妬の温度が桁違いになる。
眉を下げて、ちょっと唇を噛んでいるセレスティアは珍しい姿だ。
ところが、そんなセレスティアの様子を見て、今度はヴァネッサの方がなんだか変な顔になっていた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……」
「ん? どうしたの、ヴァネッサ?」
「いや、待って、待って。──まあ、あんたがメイドに手を出してる気はしてたけど……ちょっとおかしくない? セレスティア、あんた、今『私以外』って言ったわよね?」
「……ええ、申しました」
「『私以外』って……どういうことよ? その言い方だと、まるで、その──」
ヴァネッサが言葉を詰まらせる。
その様子を見たセレスティアは、ふと俺の顔を見て、それから少し考え込むような仕草を見せた。
が、次の瞬間。
ぱっ、と何かに気付いたような顔になり──
さっきヴァネッサに受けたショックの分も、しっかり込めるように。
彼女は、ふっと小さく微笑んで、口を開いた。
「ふふっ……申し訳ありません、ヴァネッサ様。先程のお話、実はあまり驚けないのです」
「は?」
「私は……この方と、そのようなことは、とっくの昔に済ませておりますので」
「は?」
ヴァネッサが、ぽかんと口を開けた。
「かつて、お腹の上に出されたことも、もちろん何度もございます。それから、舐めたことも、お口にお含みしたことも、お手でして差し上げたこともございます。さすがに性交まではいたしておりませんが、それ以外のあらゆる行為は私たち二人の間ではすでに通過済みでございますわね、あなた様?」
「あ、あぁ……そう、ですね……」
「は、は、はあぁっ!?」
ヴァネッサが素っ頓狂な声を上げた。
「う、嘘でしょっ!? あんたが!? あんなすまし顔のお淑やか公爵令嬢のあんたが!? オナニーなんて単語も知らなさそうなあんたが、そんなことしてるって言うの!? 信じらんない!」
「あら、ヴァネッサ様。私、そのような言葉もちゃんと存じておりますわ。それどころか、毎晩のように自分の指を使って、自宅の寝台で何度もイクほどの達人でございますもの」
「は、は、はぁああっ!?」
「この方には、座学から実践に至るまで、それはもう懇切丁寧にお手ほどきを頂戴いたしましたから。そのおかげで、今ではこの方がいらっしゃらない夜でも、自分でこの方のおちんちんを思い浮かべながら、何度も何度もお股の奥を絶頂までお導けるようになりました」
「そ、そんな……」
しかも、セレスティアはここですっと俺の方に寄り添うようにして、誇らしげに胸を反らした。
「それから、これは結構大事なことなのですが──この方は、私の、毎晩のオカズでもあるのですよ」
「お、オカズ……!?」
「ええ、オカズです。この方のお顔と、お声と、お手の感触と、おちんちんの形を、毎晩思い浮かべながら、私はひとり指で慰めておりますの。今、この瞬間も、お話ししているだけでお股の奥が疼いて、もう本気汁が止まりませんけれど」
「ほ、本気じr……っ!?」
「ふふっ、私、こう見えてもこの方の最大の理解者であり、最大の弟子で、最大の信奉者なのですわ。そんなお話、聞いていらっしゃいませんの?」
ヴァネッサは、もう完全に石になっていた。
顔は真っ青で、けれど耳までは赤くて、全身が固まったまま動かない。
「わ、私だけじゃ、なかったの……? こ、こいつの、あ、あそこの世話を……し、してたの、私だけじゃ……あ、嘘、嘘でしょ……」
今度は完全に逆転して、ヴァネッサの方が深刻なショックを受けた顔になっていた。
今この場にいる女の子二人とも、俺のこと好きすぎだろ。
……なんて、そんな状況を若干傲慢気味に俯瞰した俺だったが、目の前の状況は完全に手に負えない。
お互いに「自分こそが」のマウント合戦に突入した二人の令嬢の間に挟まれて、俺は石化レベル2の状態だ。
「……ひ、ひどいわ……」
ヴァネッサが、ぽつりと呟いた。
「私、本当はね、ワンチャンおっぱいの威力で押し切って、許嫁になってくれないかな〜なんて、密かに思ってたのに……まさかセレスティアにそこまで先を行かれてたなんて……」
「いや、それもう完全にハニートラップじゃん」
「だ、だからそれとは違うって言ってるでしょ! 私のは個人的な執着であって政治じゃないの! ショックだわ、本当に……私の初めて、結構大事に温存してたのに……」
「その言い方、なんかすごい誤解を招きそうだね」
ヴァネッサは深い溜息をついて、日傘の天井を仰いだ。
「手コキもフェラも、もう通過済みだなんて……」
彼女はなかば自暴自棄に呟きながら、ふと、明らかに余計な一言を付け加えた。
「……私の方が、絶対に上手いのに」
「ヴァネッサ様?」
セレスティアの声色が一段低くなった。
流石に今のは彼女としても聞き流せないラインだったらしい。
「……ねえ、あんた」
ヴァネッサは投げやりな顔のまま俺の方を見て、にやりと意地悪く笑った。
「もし私が手と口でしてあげるって言ったら? どうする?」
「え、本当に? してくれるの?」
「あ、あなた様、それはダメですよっ!」
セレスティアが初めて少し声を荒らげた。
「私だけのもの、でしょう? あなた様のおちんちんは私だけがお世話して差し上げるって、そう何度もお約束したではありませんか」
「ご、ごめんセレスティア。でもつい、ね? 反射的に乗っちゃって……」
「ついではありませんっ!」
セレスティアが両手を腰に当てて、珍しく強い口調で食ってかかってきた。
その様子をヴァネッサは満足げに眺めて、にやにや笑いを深める。
「……何、セレスティア。負けるのが怖いの?」
「……はい?」
「そのままの意味よ。許嫁のくせにさ、ちゃんと満足させられてるって自信あるわけ?」
なんか、変な方向に話が転がっていってる気がする。
「……それは、もちろんできているでしょう。私は毎回、誠心誠意ご奉仕させていただいておりますもの」
「あんた本人はそう言うでしょうけどね。──ねえ、あんた」
ヴァネッサは俺の方に向き直った。
「実際どうなの? 最近、セレスティアにちゃんと満足のいく射精をさせてもらってる?」
「えっ、そりゃあ、まあ……セレスティアにはいつも本当に満足のいく射精を……あれ、ちょっと待って。最近、出してもらってないな……?」
「……」
「王立学園に入る前後でバタバタしてたからさ。てかそれ以前もセレスティアと二人きりになる機会自体が全然なくて……最後に彼女の口の中に出したの、いつだったかな……」
「ほぉら! やっぱりじゃないの!」
ヴァネッサがばっと指を立てて声を上げる。
「セレスティア、あんた最近全然こいつに出させてないんでしょ? てことはね、感覚も鈍ってるはずよ。手の動きも、舌使いも、口の中の温度感も、全部錆びついてるはず。今のあんたじゃ絶対に私には敵わないわ。私の方がよっぽど気持ちよくしてあげられる自信があるもの」
「……つまり、何が言いたいのですか、ヴァネッサ様」
セレスティアが淡々と聞き返した。
とはいえその瞳の奥には、これまで見たことのない種類の鋭い光が宿り始めている。
ヴァネッサは俺の頬に指を当てて、つんつんとつつきながら堂々と宣言した。
「セレスティア、決めましょう。私とあんた、どっちがこいつを気持ちよくさせてあげられるか、はっきり白黒つけるの。フェラと手コキの腕前、勝負しましょうよ。負けた方は二度とこいつのおちんちんに口出しできない、って取り決めでね」
「な、何を勝手に……」
俺は割り込もうとしたが、声は届かなかった。
セレスティアはしばらく無言で、ヴァネッサの顔をじっと見つめていた。
そして──
「……承知いたしました」
え、マジで?
「受けて立ちましょう。──決闘ですわね、ヴァネッサ様」
決闘って言い方が無駄に堅苦しいな。
「公爵家令嬢のメンツにかけて、私が、私こそがこの方のおちんちんの最大の理解者であり、最高の奉仕者であることをしっかりと証明させていただきます。私のお口とお手で、ヴァネッサ様の何倍もの濃さで、何倍もの量で、この方を絶頂に導いて差し上げますわ」
「あら、言うじゃない」
「望むところでございますわ」
二人の令嬢の視線が空中でバチバチと火花を散らす。
俺はその間に挟まれたまま、もはや何を言っていいのか分からず、ただただ、ヴァネッサとセレスティアの制服越しの胸の膨らみを無意識に交互に眺めていることしかできないのだった。
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