※この作品はR-18です。

貴族転生で俺は好きにする(予定)   作:ノープ

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レーナ

「ねーお願いお願いお願ーい! 一緒にお風呂入ろうよー!」

 

 朝食を終えて午前中──

 俺が腰にしがみついて駄々をこねている相手は、メイド長のアイリス……ではなく、また別のメイドだ。

 名をレーナという。

 顔立ちはめちゃくちゃ整っていて、黙って立っていれば十分に美人の部類だ。

 

 ただ、目付きが鋭くて常に不機嫌そうに見える。

 いわゆるツリ目系のクール美人。

 切れ長の瞳がこちらを見据える度に、怒られているような気分になる。

 

「……坊っちゃま。お風呂とは夜にお入りになるものかと存じますが」

 

「今入りたい気分なんだもん」

 

「……それと、スカートの中に手を入れてショーツを弄るのはおやめください。Tバックのように食い込ませようとなさるのも困ります。喘ぎ声を上げさせたい魂胆が透けて見えております」

 

「えー、別に減るもんじゃないし良くない?」

 

 俺がそう言うと、レーナは露骨に嫌そうな顔をした。

 眉間にしわが寄って、口元がへの字に曲がる。

 隠す気がまるで無い。

 この反応が見たくてやっている節もある。

 

 レーナは元々もう少し取り繕っていた。

 仮にも侯爵家の嫡男に対して不快感を顔に出すなど、メイドとしてはあるまじき事だからだ。

 しかし、どれだけ露骨な顔をしても俺が怒らないと学習してからは、表情の遠慮がめっきり無くなった。 

 

 馬鹿正直な女である。

 嫌いじゃないしお陰でレーナがどれだけ辟易しているか、いちいち顔を見れば分かるようになった。

 

「それでも、です。そもそも私にもまだまだ仕事が残っております。坊っちゃまのお風呂に悠長にお付き合いしている暇は──」

 

「そう言わずにさー、頼むよー! またちんちん洗ってよ!」

 

「──っ、お声が大きくございます」

 

 レーナが慌てて辺りを見回す。

 他のメイドや使用人に聞かれたら体裁が悪いのは主人ではなく、こいつの方なのだ。

 

「あまり大きなお声で……聞かれたらどうなさるおつもりですか」

 

「別にいいじゃん、みんな知ってるし」

 

「知りません。私だけの恥でございます」

 

 声を潜めて怒気を滲ませるレーナ。

 

「どうせまた洗うと称してお風呂場で何度も私の手に射精なさるおつもりでしょう。私の手は、坊っちゃまの精液をこき捨てるためのものではございません」

 

「そんなぁ……」

 

「そんなぁ、ではございません。前回は三度、前々回は四度でございましたよ。どれだけ若いお身体でも限度というものがございましょう」

 

 数えてたのかよ、こいつ。

 淡々と言うけれど、毎回しっかり記録されていたのは何気に恥ずかしい。

 

「ねぇレーナ、お願いだって……ね?」

 

「……そのように上目遣いをされても駄目なものは駄目で……あ、こら、メイド服の中に手を入れてお腹を揉むのは──うっ、伸ばさないでください……っ」

 

「むにむに」

 

「うっ……摘まれて……!」

 

「なんか肉付き良くなったよね、レーナ」

 

「〜〜〜ッ……!」

 

 レーナの目元がほんの少し赤くなる。

 こいつ、気が強いくせに身体のことを言われるのは弱いのだ。

 

「……このお屋敷でのお食事のおかげでございましょう。しかし坊っちゃま、女性にそのようなことを軽々しくおっしゃってはいけません」

 

「褒めてるんだけど」

 

「褒め言葉として受け取れる女性は少数派でございます。坊っちゃま、あまりそのようなことをおっしゃってはいけません。それと──メイド長も、一人の女性なのですよ」

 

 脇腹の肉を摘みながら聞いていたが、突然の発言に俺は指を止める。

 

「え? 何の話?」

 

「ですから、メイド長も一人の女性ということです。毎朝のようにあのように手で……扱いて差し上げていらっしゃるのでしょう? メイド長も一応は独身の女性ですし、そう毎日業務として性処理を命じられてはいずれ支障をきたします」

 

 レーナは俺の手をそっと引き剥がしながら、いつもより低い声で言った。

 なるほど、こいつなりにアイリスのことを心配しているらしい。

 上下関係は絶対だが、メイド同士の仲は意外と悪くないのかもしれない。

 

 ……うん、俺は反省した。

 メイド長にも負担があるのだ。

 これからは配慮しよう。

 

「それは大丈夫! 最近は一度に二回しか射精しないって決めてるんだ!」

 

「……左様でございますか」

 

 レーナの返事が、二テンポほど遅れた。

 数秒の沈黙の後、ため息とも相槌ともつかない音を小さく漏らす。

 

「……畏まりました。本日の昼風呂、お付き合いさせていただきます」

 

「え、マジで?」

 

「はい。このままでございますと、いずれこのお屋敷のメイド全員が坊っちゃまの性処理を当番制で割り当てられるかと存じますので。被害を最小限に留めるべく、私が先んじて当番を買って出た次第でございます」

 

 被害って言うな。

 

「ただし、お風呂でございますので──」

 

 レーナが釘を刺す。

 

「洗うのはお身体だけ。手淫などなさせないでくださいませ。玉袋を揉みながらカリを責めるなど、風呂でするようなことではございません。水に濡れたペニスを扱かせられるだけで既に十分な陵辱でございますから、それ以上のご所望はなさらないでください」

 

「えー、玉揉みって気持ちいいじゃん」

 

「存じておりません。本日はシャワーと湯船、そして身体洗いに留めます。風呂場でイジるのはご自身でなさってください」

 

「分かった、分かったよ。レーナが手で洗ってくれるだけでいい」

 

「……そのお言葉が本当ならば幸いでございますが」

 

 明らかに信じていない。

 過去の俺の所業が物語っている。

 

「では、湯の準備を整えて参りますので、少々お待ちくださいませ」

 

「ありがと、レーナ」

 

「……坊っちゃま」

 

「ん?」

 

「先ほど、お腹のお肉が柔らかくなったというお話、あまり他の方の前ではなさらないでくださいませ」

 

「分かったよ……あ、でも待ってレーナ。チューしたい」

 

 部屋を出かけたレーナの足がぴたりと止まった。

 振り返った顔には、本日何度目かの嫌そうな表情が浮かんでいる。

 もはやお馴染みの顔だ。

 

「……接吻、ですか」

 

「うん」

 

「そういうものは好き合った者同士がするものなのですよ、坊っちゃま。主従の間でいたすものではございません。ましてや、唐突な思いつきで要求するような、安っぽい口付けなど」

 

「レーナのこと好きだし」

 

「…………」

 

 レーナは数秒ほど天を仰いだ。

 何か神に祈っていたのかもしれない。

 

「……分かりました。一度だけ、でございますよ。これもメイドのリップサービス業務と割り切ります」

 

 そう言ってレーナはその場にしゃがみ込み、俺と目線を合わせた。

 なんとなくほっぺたを差し出す角度だったので──俺は待たずに自分から唇にいった。

 

「んむぅっ!?」

 

 レーナの目が見開かれる。

 頬で済ませるつもりだったのだろう。

 残念、こちらは最初から口狙いだ。

 

「ぼ、坊っちゃ……んむっ……ちゅ……っ」

 

 抗議しようとした口を塞ぐように吸い付く。

 

「……んちゅる……ちゅ……っん……舌をっ……お出しにならないで……んむぅ……ちゅるる……」

 

 舌を出すなと言いつつ、押し返しはしない。

 レーナの手が俺の肩に添えられているが、突き飛ばす力は込められていなかった。

 形だけの抵抗。

 このパターンは知っている。

 

 まあそもそも主を突き飛ばせるはずもないが。

 

「……ん……ちゅっ……んぷ……」

 

 たぶん五分くらい続けていた。

 途中からレーナの方も諦めたのか、ほんの僅かだが舌先が応えるようになっていた。

 本人は絶対に認めないだろうが。

 

「ぷはぁ……っ」

 

 唇が離れると、レーナは乱れた呼吸を整えるように顔を背けた。

 唇の端に唾液の糸が光っている。

 

「はぁ……はぁ……坊っちゃまの性欲も、いい加減ほどほどになさってください……接吻ひとつにどれほどの時間を掛けるおつもりですか……」

 

「ごめんごめん、レーナが可愛くてつい」

 

「可愛いで済む話では……」

 

「あ、そうだ。ほら、お礼」

 

 俺は懐から金貨を一枚取り出して、レーナの手のひらに乗せた。

 チップのようなものだ。

 

「なっ……」

 

 レーナの目が金貨に釘付けになった。

 一瞬だけ、本当に一瞬だけ、瞳が輝いたのを俺は見逃さなかった。

 

「恐れ多いです、坊っちゃま。さすがにそれは……接吻程度でこのような大金をいただくわけには」

 

「まあまあ受け取ってよ。お給料の結構な分くらいはあるでしょ」

 

「だからこそ、でございます。これではまるで──」

 

「まるで?」

 

「……接吻で金を稼ぐ商売の女のようでございます」

 

「違うよ、レーナの唇が美味しかったからそのお礼」

 

「余計にたちが悪いです……」

 

 文句を言いつつも、レーナの指は金貨をしっかりと握り込んでいる。

 突き返す気はないらしい。

 

「……そこまでおっしゃるのでしたら、ありがたく頂戴いたします。では、湯の準備をして参り──」

 

「あ、あとさ」

 

「……まだ何か」

 

「後でおっぱい見せてよ」

 

「…………」

 

 レーナの足が三度目の停止を迎えた。

 本日の最多記録である。

 

「今朝アイリスにも見せてもらったんだけど、レーナのも見たいなって。レーナのおっぱい、服の上からでも分かるくらいデカくてエロいし、乳輪と乳首の大きさがさ、すっごい好みなんだよね」

 

「なぜ乳輪の大きさまでご存知なのですか」

 

「前に洗ってもらった時チラッと見えた。ちょっと大きめで色もすごく綺麗だった」

 

「……見えておりましたか」

 

 レーナの表情が複雑に歪んだ。

 怒りと羞恥と、それから──ほんの微かに、褒められた事への戸惑いが入り混じったような顔だ。

 

「坊っちゃま。私の胸は業務用の道具ではございませんし、朝食のデザートでもございません。見たいから見せろというのは些か──」

 

「金貨もう一枚出すかも」

 

「…………」

 

 沈黙。

 レーナの視線が、一瞬だけ俺の懐に向かっていた。

 

「……一考しておきましょう。お風呂の際にお見せするかどうかは、その時の状況と私の気分次第でございます。ただし、仮にお見せしたとして──触れるのはお手を洗ってからに限ります。乳首を摘まむのも禁止でございます。舐めるなどもっての外です。それから、見ている間にご自身のモノをお扱きになるのもおやめいただきたい。以前メイド長の胸を眺めながら射精なさったと聞いておりますので、先に申し上げておきます」

 

「……めっちゃ条件多いね」

 

「当然です。女性の乳房というのはそれだけ尊い場所なのでございます」

 

 禁止事項を並べ立てるということは、つまり見せること自体はほぼ了承しているわけだ。

 拒否するなら「お断りします」の一言で済む。

 条件交渉に入っている時点でレーナの負けである。

 

「では、湯の準備をして参ります」

 

 レーナは金貨をエプロンのポケットに仕舞い、足早に部屋を出ていった。

 とはいえ──廊下に出た瞬間、手のひらの上で金貨をもう一度確認して、口元がほんの少しだけ緩んだのも、俺は見逃さなかった。

 

 まあ、金が嫌いな人間はいない。

 メイドの給料で考えれば臨時ボーナスみたいなものだろう。

 「やったー!!」とまでは言わないが、「マジか嬉しい」くらいの顔はしていた。

 

 それでいい。

 嫌がって、渋って、文句を言って、それでも最後にはちょっとだけ嬉しそうにする。

 レーナのそういうところが、俺は結構好きだったりする。

 

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