貴族転生で俺は好きにする(予定) 作:ノープ
なぜか俺は、剣術もやらされている。
貴族にとって剣術は護身の嗜みだとか、由緒正しい伝統文化だとか、そういうご大層な理由が建前としては存在しているらしい。
だが、その割に最近の貴族連中が実際に剣を振るっているところなど、お茶会のお喋りでも社交界の催しでもついぞ見かけたことがない。みんな金か権謀術数で殴り合っている。
とはいえ、剣術なんてものは出来たらカッコイイと思う。
いや、訂正しよう。剣術そのものよりも、『剣術の時間が最高に素晴らしいから』だ。
なぜなら──
「シルヴィア先生! 今日もよろしくお願いします!」
「ああ。本日もしっかりと励むように」
訓練場に響く、凛とした涼やかな声。
目の前に立っているのは、あの岩をも一刀のもとに切り刻むと噂される剣聖──その剣聖の弟子として鍛錬を積んだ、現役バリバリの剣士なのである。
ちなみに剣聖というのは、この国どころか大陸全土に名前が轟くほどの普通の有名人だ。
割と歳を食った好々爺然としたおじいちゃんで、見た目は全然強そうに見えないのだが、実際に振るうと鋼鉄の塊だろうがミスリル合金だろうが豆腐みたいに切り裂いてしまう。
一度本物を見せてもらった時は本気で目を疑った。
剣と魔法のある世界とはいえ、あれは流石に物理法則を踏み外している意味不明すぎる技術である。
その剣聖の弟子だったというから、目の前の彼女もまた相当な実力者ということだ。
漆黒のサラサラの髪を高い位置で一つに結い上げた、凛々しいポニーテール。
涼やかな切れ長の瞳に、すっと通った鼻筋。
背筋がピンと伸びた立ち姿は、剣士としての年季を一目で感じさせる。
重要なのは、目の前に立つシルヴィアが、とてつもない『イイ女』であるということだ。
服の上からでも分かる、しなやかで引き締まった肉体。
日々の鍛錬で鍛え上げられた手足はすらりと長く、けれども女性らしい曲線は失われていない。
無駄な脂肪を削ぎ落とした分だけ、胸とお尻のボリュームが際立って見えるくらいだ。
控えめに言って、相当な美人である。
「ねえシルヴィア! 今日の鍛錬が終わったら、また先生の膝の上でご飯食べていい?」
俺が無邪気な笑顔で見上げると、シルヴィアは形の良い眉をひそめ、ふぅ、と深く息を吐いた。
「……どうせまた私の胸を頭で受け止めて寛ぎたいだけだろう、お前は」
「うん!」
「……そこは誤魔化すところだ。直球で肯定するな。……やれやれ」
シルヴィアは呆れたように木刀の切先で軽く俺の額をつついてきた。
力は入っておらず、ぽふっ、と当てるだけ。
「この侯爵家は代々、極めて好色な血筋で有名だと噂には聞いていたが……まさか、こんな幼い子供にまでその業の深い血が色濃く受け継がれているとはな。……まあ、それを十分承知の上で、破格の給金に釣られてここの剣術指南役を引き受けたのは私自身だ。今更、家風がどうのと文句を言える立場ではない。お前のスケベに付き合うのも、含めて仕事ということだろう」
そう、彼女が言う通り、実のところ我が侯爵家は──割とスケベな家系として、貴族界隈では知る人ぞ知る存在らしい。
屋敷を見回せば、その実態は一目瞭然。
執事や下働きの男も最低限は居るものの、雇い入れている使用人の女性比率は明らかに異常で、しかも全員が全員、街を歩けば確実に振り返られる美人揃いとくる。
元シスターのアイリーンとクレアを引き抜いてきた経緯も含め、要するに我が父──侯爵閣下が、そういう趣味の持ち主なのである。
そして父曰く、これは「歴代の当主が代々受け継いできた由緒正しき家風」なのだとか。
本当かよ。
まあ、お陰で俺はこうして毎日、最高の眼福と肉感に囲まれて健やかに育てて貰えているわけで、ご先祖様には足を向けて寝られない。
「高いお給料払ってるんだから、俺のワガママ聞いてくれてもいいでしょ? 先生のおっぱい、硬すぎず柔らかすぎずで、頭乗せるのにすっごく丁度いいんだよね!」
「……っ。訓練前からなんというセクハラ発言を……ええい、とにかく今は剣に集中しろ!」
準備運動を終え、まずは木刀で基本的な型の確認と素振りから始める。
シルヴィアの手本は無駄がなく、流れるような太刀筋には美しさすら感じる。
そうして適度に身体が温まり、汗が滲んできたところで、いよいよちょっとした実戦形式の打ち合いだ。
「えいやぁ──!」
俺は気合一閃、踏み込みざまに正面から袈裟懸けに振り下ろした。
カァンッ──!
乾いた音と共に、俺の木刀はあっさりと弾き返される。
「悪くない気迫だ。しかし、足元がお留守だぞ」
そのまま手首を柔らかく返され、いとも容易く力が外へと逃がされる。
「打ち込みの初速も、子供にしてはなかなかのものだ。しかし、踏み込みの足が浅い。それから腰の捻りが甘いから、剣に体重が乗っていない。腕だけで振っているぞ」
「うぐっ……!」
弾き返された反動でぐらついた体勢を立て直しながら、俺はすぐさま二撃目に繋ぐ。
今度は逆袈裟、続けて突き、横薙ぎ──と、あえて型を外したリズムで連続して打ち込んでいく。
素人なりに、変則的な攻めの方が当たるんじゃないかと考えての工夫だ。
カンッ! ガキィッ! カァンッ!
全部、防がれる。
型通りに打ち込んでも、変則的に崩しても、フェイントを混ぜても、シルヴィアの木刀は最小限の動きで俺の打ち込みをことごとく弾き、いなし、受け流していく。
打ち込んだ瞬間にはもう次の防御位置に剣先が回っているような、そんな現実離れした反応速度。
毎度のことながら、これは人間の反射神経的に物理可能なのかと俺は本気で思う。
前世の記憶では確か剣道や剣術なんかでも、達人同士でもチャンバラ漫画みたいに何回も連続で打ち合うなんてことは滅多に無いと聞いたことがある。
一発の攻防で勝負が付く方が普通なのだと。
まあ、じいちゃんが岩や金属をスパスパ切るようなファンタジー世界だし、今更物理法則にツッコミを入れるだけ野暮か。
それに、俺の攻撃を躱すたび、シルヴィアの引き締まった太ももが躍動し、訓練着から零れんばかりの巨乳がブルン、バインッと暴力的に揺れ動くのだ。
正直、目のやり場に困るというか、わざと大振りをしてその肉感的な揺れをずっと鑑賞していたくなってしまう。
そんなスケベな邪念が剣先に伝わったのか。
「──隙だらけだ」
「あいたっ!?」
気がつけば、俺の手から木刀はあっけなく弾き飛ばされ、シルヴィアの木刀の切先が俺の額をパシッと軽く叩いていた。
ペタンと尻餅をついた俺を見下ろし、シルヴィアはふっと口角を上げる。
「ふっ。これで終わりだ。──今のわずな時間の打ち合いで、私はお前を、何十回殺させたことかな?」
「ひ、ひどいよ……いててて」
俺は脳天を両手で押さえながら、よろよろとその場にしゃがみ込んだ。
一発の打ち込みは軽くても、稽古中の真剣勝負風の演出ではしっかり「今のは死んでる」と教えてくれるのが、シルヴィアの稽古スタイルである。
「何を言う。痛みは何よりの教師だ。打たれる痛みと、打たれる恐怖というものは、剣を握る者にとってはしっかりと身体に刻み込んでおいた方がいい。痛みを知らぬ者は、いざ本物の刃を前にした時に、足が竦んで動けなくなるからな」
シルヴィアは木刀を肩に担ぐようにして、稽古場を見下ろすように立った。
「──それに、だ」
ふと、シルヴィアの口調が少しだけ柔らかくなる。
「痛みを恐れず、打たれてもまた立ち上がって剣を握る男というのは、私個人の感想だが、なかなか魅力的に映るものだぞ。剣士であろうが貴族であろうが、男としての芯の強さというのは、結局そういうところに表れるからな」
「そうなの? シルヴィアも、そういう男の人、好き?」
「……まあ。嫌いではないな」
おお、これは聞き出しておいて損はない情報だ。
俺は脳天の痛みも忘れて、すくっと立ち上がり、木刀をぎゅっと握り直した。
「本当!? じゃあ俺、シルヴィアに好きになってもらうためにもっと剣術がんばろーっと!」
「現金なやつめ……まったく、口だけは達者なやつだ」
それからもしばらく木刀を交え、適度に汗を流したところで本日の稽古は終了となり、俺たちは稽古場の脇の中庭に移った。
手入れの行き届いた芝生の上に、白い鋳鉄のテーブルと椅子のセットが置かれている。
あれだ、貴族たちが社交シーズンの庭園で日傘を立ててアフタヌーンティーをする時に使う、あのお洒落な野外調度品である。
クリーム色の日傘の影がテーブルにくっきりと落ち、その下にはメイドが事前に用意してくれた茶器とお菓子がきちんと並んでいた。
そして約束通り、その椅子に腰掛けたシルヴィアの、引き締まった太ももの上にちょこんと座っていた。
すぐ後ろから、稽古直後でほのかに上気した彼女の体温が伝わってくる。
服の生地越しでも、汗ばんだ肌のしっとりとした熱気がじんわりと染み入るように届く。
首から後頭部にかけて、たゆん、と存在感を主張するシルヴィアの胸の感触。
アイリーンほどの規格外の質量ではないけれど、引き締まった身体に対してはアンバランスなくらいにふくよかで、しっかりと張りのある弾力。
最高である。
稽古で疲れ切った身体に、これ以上ない極上のクッションだ。
「ほら、あーん」
「あーん……んー、このクッキーすっごい美味しいねえ! バターたっぷりでサクサク!」
シルヴィアは絞ったレモンの香りが残る指先で、小さなクッキーをひとつ摘んで俺の口元に運んでくれる。
彼女の指が俺の口の前まで丁寧に運ばれてくるその所作だけでも妙に色っぽい。
剣を握る指が、こうしてお菓子を運ぶ時にはちょっと不器用で優しいというギャップが堪らない。
下半身に血が上りそうになる。
「やれやれ……私も一つ食うか。……ん、美味い。だが、訓練の直後はもっと身体作りを意識した食事の方が望ましいぞ。良質な肉、卵、乳製品。そしてしっかりとした水分の補給。バターと砂糖の塊ばかり食べていては、せっかく動かして消耗した筋肉が育たん」
「まあまあ、稽古後のおやつくらい大目に見てよ! それに、シルヴィアがあーんしてくれるクッキーは特別美味しいんだから!」
「……ふん。口の上手い」
俺は会話の合間にも、後頭部をシルヴィアの胸にぐりぐりと押し付け、その柔らかな感触をたっぷりと堪能する。
意図的に位置を調整して、首の後ろにちょうど胸の谷間が当たるようにし、「うーん、いい感触ですね〜」と惚けた感想を漏らしながら。
「あ、こら! っ……全く、女の胸をなんだと思っている。汗でベタベタだろうに……これでは、これまで私に熱烈に告白してきた男どもが可哀想になってくるな」
「やっぱり、シルヴィアってすっごくモテるんだね」
「ああ。──正直に言うが、しつこいほどに、な。剣聖の元での修行を終えて街に戻った頃から、それはもう毎日のように。騎士団からのスカウト、商家の跡取りからの婚約申し込み、名のある冒険者からの果たし合いを兼ねた口説き文句、果ては既婚の貴族の不躾な誘いまで……まともに相手をしていたら、剣を握る時間が無くなってしまうほどだ」
シルヴィアは肩をすくめてみせた。
本人にとっては心底面倒くさい話なのだろう。
けれど、それだけ求められても、彼女は誰のものにもなっていない。
「へえー! そんなたくさんの男の人が憧れてるシルヴィアのおっぱいを、今こうして俺だけが独占して、汗の匂い嗅ぎながら頭ぐりぐりできてるの、最高だなぁ! 俺、シルヴィアのこの硬すぎないエロいおっぱい、大好き!」
「あ、あぁ……」
シルヴィアは呆れ果てたようにため息をついたが、俺の頭を押し退けることはせず、逆に少しだけ体を引き寄せてくれた。
「私としては、お前の将来の方が心配になるぞ。そんな調子で、本物の貴族令嬢相手にも『おっぱい好き』などと言ってみろ、即座に頬を張られて婚約破棄の上、家に苦情の手紙が殺到するからな」
「なんかそれ、他のメイドにもよく言われるんだよねー」
「ふっ、当たり前だ。お前の周りの女が皆、同じ感想に至っているということは、それが客観的事実ということだ。これほどの好色ぶり、歴史に名を残すレベルのスケベ侯爵になる未来しか見えん」
シルヴィアは笑いながら、俺の頭をぽんぽんと優しく撫でた。
剣ダコのある指先が、髪の中で軽くじゃれるように動く。
そんな風に、稽古後の穏やかなひと時が流れていく。
日傘の下、紅茶の湯気と焼き菓子の甘い香りに包まれて、俺はシルヴィアの膝の上で、首の後ろに当たる胸の感触をめいっぱい堪能した。
──ただ。
外部から雇い入れている人に対しては、なんとなく、深いところまで手を出すのは俺自身、憚られていた。
いやまあ、アイリーンとクレアだって、実際のところは教会からの派遣という体で来てもらっている立場ではあるのだが……あの二人の場合は事情が特殊だ。
建前は派遣でも、実際は半ば強引に引き抜いて来たような形で、給金も衣食住も全て侯爵家から提供している、ほぼ専属の使用人という関係。
だが、流石に「教会からシスターを引き抜きまくって日々セクハラしている」みたいな実態がそのまま外に漏れたら、侯爵家のイメージが目も当てられないことになる。
なので二人は対外的には「我が家の正式なメイド」ということで処理されている。だからこそ屋敷内の関係性も濃密になっているわけだ。
まあ、ぶっちゃけてしまえば、ほぼ実質引き抜きである。
翻ってシルヴィアは、剣聖の弟子として独立した一人の剣士であり、剣術指南役として通いで来てもらっている──あくまで対等な雇用契約の相手。
屋敷の使用人ではなく、家の外側に確固たる立場と評判を持っている人だ。
だから、シルヴィアに関しては、あくまで首の後ろで胸の感触を楽しむ程度に留めておく、というのが暗黙のルールになっている。
これは俺なりの分別である。
ちなみに、以前一度だけ、油断したシルヴィアの胸を後ろから両手でガッツリと揉もうとしたことがあったのだが──木刀の柄頭で脳天を一発、見事にゴチンとやられて、その日は一日中タンコブが疼いた。
以来、シルヴィアの胸は「触れる」のではなく「感じる」もの、という運用に落ち着いている。
「ほら、これも食うか? 今度はジャムの乗っているやつだぞ」
「うん、食べる! あーん!」
日傘の影の中、俺はシルヴィアの差し出すスコーンを大きく口を開けて頬張りながら、首の後ろの極上のクッションを心ゆくまで堪能するのだった。