※この作品はR-18です。

悪癖   作:ummt

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前日譚
悪性


 

 私が通う病院の長い廊下でよくすれ違う不機嫌なそうな医者。

 といっても病院ですれ違う医者は皆不機嫌そうなのだが。

 その医者自身とは面識が無かったが、主治医のおじさんは私を患者と言うより世間話をする相手だと思っているようで、よく話を零した。

 

「聞いてよー、治験に参加した患者さん達の中で完走してくれたの君だけだよ?君一人。本当に困ってさ。」

「はは……そうなんですね。」

 患者に他の患者の愚痴を零すのは倫理的に問題ではないだろうか。

「最後の切開検査するんだけど都合いつ合う?えーと、希望日は18日なんだけど。」

「18日で構いません。」

 白紙に近い手帳を眺めて、淡々と答える。

「えーっと、オペは……と、村雨君を入れたいな。あれ、村雨君18日休みだっけ?」

 尋ねられた看護師が慌てて内線電話を掛け、何度も受話器越しに頭を下げた。

「村雨先生も18日でいいそうです。」

「そっかー良かったー。村雨君のみ込みが早いからさ。あ、そう言えば村雨君がね、彼女できたみたいでさー。連れなくてー。おじさんにも優しくしてよっ!てさあ!というか君のTシャツダッサイなぁ!」

 バンバンと肩を叩かれる。……痛い。

 みかねた看護師さんが止めに入ってくれた。

「先生、ダサいは失礼ですよ……。」

 ……叩く方はいいんだ。

 

 夏だから、Tシャツくらい着たっていい。

 と思うのは自分の立場がわかっていない証拠。

 10代ではないのだから、年相応の服を着ろという遠回しな助言。

 分かっている。それくらい、分かっている。

 

 いつも私は医者以外の店員や見知らぬ人からタメ口を聞かれて舐められる。

 その原因が自分自身にあることくらい。

 

 そして18日。

 私は嫌がらせのようにTシャツを着てきたものの、直ぐ病院用の検査着に着替えさせられてベッドに寝かされ、事前の投薬のための針が血管に刺された。

「本当に血管が出にくい方ですね。いつも大変しょう。」

 ごめんなさい。

「点滴が終わったらベッドごと手術室に移動しますから。」

 点滴の雫がポツ……ポツと落ちるのを待った。

 

 遅い。時間が止まったように感じる。

 終わらないんじゃないか。

 もう、いいんじゃないか。

 

「ごめんなさい。先生がまだ外来対応終わらなくて、手術室には行っていましょうね。」

 看護師が来たのは点滴が全て落ちてから30分以上経った後だった。

 そのままガラガラとベッドごと移動させられ、段差に当たるたびに衝撃がくる。

 手術室……といっても切開検査用の狭く真っ暗な部屋に運ばれ、黒いモニターと機械のランプだけが灯っている。

 ……まるで、霊安室みたい。

「先生が来たらはじめますから、待っていてくださいね。何かあったらナースコールで呼んでください。」

「あの、いつ頃……。」

 顔を上げると、看護師の姿は無かった。

 

 電気くらいつけて行って欲しかったな。

 

 夏だというのに、冷たく暗い部屋。

 もう、いいかな。

 

 まぶたを閉じようとすると、コツコツという革靴の音がした。

 案外早く来てくれた。

 まぶたを開くと、不機嫌そうな医者がベッドの横に立っていた。

「まだしばらく時間がかかります。私は今回担当する村雨、と申します。」

 業務連絡と言う名の挨拶を受ける。

「あ……よろしくお願いします。」

 また冷たい冷気が立ち込める。

 電気……つけてほしい。

 

 その後、不機嫌そうな医者……村雨先生はベッドの横に立ったまま何も話さず、何もしなかった。

 担当医として時間を割り振られているだけで、持ち場を離れるわけにもいかず、かといって治験の切開検査なのだからカルテを読む必要もなく、患者の手前別作業をするというわけにもいかないのだろう。

「先生。」

 村雨先生は静かに目線を合わせた。

「なんでしょうか。」

 眼鏡にモニターの光が反射して目元が見えない。

「私、子宮の機能障害で毎月1週間嘔吐して激痛で失神するほど苦しんでいるのに、どの先生も子宮を切除してくれないんです。どうしてですか。」

 村雨先生の唇が一瞬躊躇って、ゆっくりと説き伏せるように話をする。

「女性は出産……」

「そうですよね、わかってます。だから子宮は取れない。取ったらいけないとされているんですよね。わかってます。それが原因で休みが多いからと勤め先から厄介者扱いにされても子宮だけは取れない。すみません、もういいです。手術前でせん妄しました。」

 手術前後に患者がせん妄で支離滅裂なことを話す場合があるのでご自身とご家族は注意して下さいと、検査着を着る前にチラシを渡された。

 せん妄だ、だから今日くらいは言っていい。

 私も他人に言っていい。

「……もし手術前に心配事がありましたら」

「私は……子宮を取りたいんです……なのに投薬注射にあげく治験までして何も改善しない……もういっそのこと死にたいんですよ。」

 村雨先生は押し黙った。

 無理もない。

 先生は産婦人科医では無いだろうし、生理が重く生活の質が悪化しているという医者の力では手のうちようのない事象のクレームを入れられる筋合いはないからだ。

「……死ぬというのは、医者の前では言わないで頂きたい。」

 ヒステリックになった患者を諭す。それが医者。

 医者の鏡。

 もう、もういいや。

 


 

 気づくと、検査は終わっていて病室に戻っていた。

「もう退院できますので、着替えてお待ち下さい。」

 看護師は血管に刺さった針を抜くとそそくさと立ち去った。

 忙しいんだ。みんな。

 

 検査着を脱いでTシャツを着ようと頭を突っ込むと、ジャララッというカーテンを開く音がした。

「術後、痛みはありますか?」

 村雨先生の声だった。

「え……痛みはありませんけど……。」 

 着替え中にカーテンを開かれてTシャツから頭を出さないまま会話をしてしまう。

「そうですか……。術後2日間は風呂には浸からずにシャワーを浴びてください。」

 この状態でも説明を続けるとは、おじさん先生よりも厄介な先生かもしれない。

 頭を出すと、不機嫌そうな村雨先生の顔があった。

「何かありましたら、こちらの連絡先の方へ。」

 術後説明のパンフレットにある病院の電話番号欄が塗りつぶされて、代わりにメールアドレスが上に記載されていた。

「……あの、これ。」

 目線を上げると、村雨先生は居なかった。

 

 帰り支度を整えて、精算窓口で処理を終わらせた後の長い廊下はまた始まる地獄への入り口に続くようで、足取りが重くなる。

「サメの人。」

 明日からまた仕事か、社会人だから仕方がないけど。

「Tシャツの人。」

 家に帰ったらまずご飯を炊こう。

「サメのTシャツの人。」

 そうだ、キュウリの漬物がそろそろいい具合に味が染みたはずだからそれをおかずにして食べよう。

「そこのサメTシャツの人。」

 キュウリだけじゃ……何か惣菜を買って帰ろうかな。

「あなた、わざと私を無視をしているのか?」

 急に肩を掴まれて驚いて振り返ると眉間にしわを寄せた村雨先生がいた。

「あ、はい?」

「はい?ではなく……。」

 何か忘れものしたかな。そう思ってカバンをあさる。

 するとズイッと間合いを詰められて、耳元で囁かれた。

「メールアドレスに連絡しなさい。」

「はい?特に連絡することはないので、ありがとうございました。」

 頭を下げて立ち去ろうとすると腕をつかまれる。

「……20時に職員用の駐車場に来なさい。」

「嫌です。」

 もううんざりだ。

 という顔を村雨先生もして、深いため息をついてその場を離れた。

 

 そして20時、職員用の駐車場にわざわざバスを乗り継いで来たものの、誰もいない。

 そろそろバスの便も無くなる時間帯。

 帰ろう。

「マヌケ。」

 振り返ると村雨先生が居た。

「なんでしょうか。すみません。そんなに失礼な口の利き方しました?……しましたね、すみませんでした。……いや、勝手に相手が不快に感じた内容を推察して謝罪するほど失礼なものもないか、はい、失礼ですね。すみません。……ん?患者にマヌケって言いました?」

「あなたはネジが飛んでいるらしい。車に乗りなさい。」

 ピピっという車のロックが解錠された音と共に、助手席を案内される。

 それをスルーして後部座席に乗った。

「……なぜ助手席に乗らない。」

「社会人的な配慮です。」

 村雨先生は眉間に指を当てて深くため息をついた。

「……あなたは、本当に子宮摘出を望んでいるのか?」

「はい。」

 その返事を聞くと、車が発進した。

「あなたは、将来性子どもを持ち家庭を築くプランが無くなることを理解しているのか?」

「しつこいですね。マヌケに恋人が出来ると思いますか?あ、質問を質問で返してしまった。私にはもう失うものが何も無いんです。いつ死んでも構わない。なら死ぬまでは楽に生きたい、これは過ぎた望みですか?あ、また質問してしまった。」

 村雨先生は無言のままオーディオボタンを押し、ラジオが車内に流れ始める。

『いやーうちの彼女束縛が酷くてーでも体の相性は抜群だか』

 直ぐにクラッシックに切り替わり、ヴィバルディが流れる。

「夏だ。……夏が好きです。」

 


 

 車は立派な車庫を持つ邸宅に収まった。

「降りろ。」

 シートベルトを外して降りようとすると、村雨先生が手を差し伸べてくれる。

 紳士な人なんだ、それでいて大胆で危険思想を持っている。

 その手を無視して自力で降りた。

 

 多分、良くないことに巻き込まれる。

 

 医者が患者を車に乗せてどこかに運ぶことなど、あり得ないからだ。

 

 村雨先生はスタスタと歩き始め、それについていく。

 人身売買とか、映画でしか見たことがなかったけれど、本当にあるんだな。

 ボーっと考え事をしているとドカッと村雨先生にぶつかってしまう。

「マヌケ、前を見て歩け。玄関に上る前に誓約書に署名しろ。」

 手渡された誓約書には手術中及び術後に死亡した際の事決めや裁判に関する一連の事項が記載されていた。

 

 村雨先生は子宮摘出……してくれる?

 

 私はクリップボードを受け取ると間髪入れずに署名した。

 

「全文を読んだのか?」

「はい。ありがとうございます。……ありがとうございます……。」

 思わず泣いてしまった。

 こんな奇跡が起きるなんて……思っていなかったから。

 

 リビングに上がると、村雨先生はそのままソファに腰掛けた。

「あの……手術は?」

「切開検査したばかりだろう。」

 それは、そうなんだが。

 ……な、なぜ今私はここにいる?

「……ハンバーグ。」

 意味が分からないが、ハンバーグは食べ物のハンバーグの事で間違いないだろう。

 ハンバーグ?

「お好きなんですか?」

「今日はハンバーグの気分だ。」

 ……まさか、ハンバーグを作れと言われているのか?

「冷蔵庫……開けていいんですか?」

「開けずにどうハンバーグを作るんだ、マヌケめ。」

 仕方がなく冷蔵庫を開ける卵パックとハムしかない。

「ひき肉が無いのにどうやってハンバーグを作れば良いんですかね。」

 

 村雨先生は深いため息をついた後、スマホを操作し始めた。

 出前でも取るんだろう。

「村雨先生って自炊しないんですか?」

 という割にキッチンには新しめの調理道具が一式揃っているし、調味料も完備されている。

 私の質問は質問で返された。

「バレンタインデーのお返しにホワイトデーにAには100本の薔薇、Bには1,500円のクッキーを渡す時、渡した者はAとBどちらに好意を持っているか。」

 なんの話?トンチ?

「はぁ……100本の薔薇は100%の愛、クッキーはあなたとは友人のままでという意味があるので、薔薇を渡したAに好意がある。」

 そう言うと先生の眉間にシワが寄った。

「……んな事知ったこっちゃない。他人がどれくらい他人に好意を持っているかなんて……立場と関係による話を外野が憶測など。私ならエディブルフラワーなので薔薇の調理方法とドライフラワー化の方法をメモに付けて、ついでにクッキーも贈ります。ハッピーセット方式です。」

 村雨先生は何を言っているんだコイツ。という顔をしてこちらを見た。

「いささか常識を知らないようだ……薔薇を調理……。」

 

 しばらく経つと、玄関がガチャリと開いた音とドカドカとう男性たちの足音が聞こえた。

 

「女物の靴がある!?」

 金髪のがっしりした男性は私を見るなり驚きの声を上げた。

「女!?」

 その後ろからパーカーを着た大男が珍獣でも見るかのような顔をしてこちらを見た。

「患者だ、定期的な手術をする契約をした。」

 そう、手術を……定期的に?

 慌ててカバンにしまった誓約書をみると、それを示す一文が載っていた。

「なんだ、異常者じゃん。」

 大男はよく見ると悪趣味なカラコンをつけていて、フードをかぶり直しながらケラケラ嗤う。

「彼女に薔薇は贈ったか?」

 神父のコスプレをした眼帯の男が茶化すと、不機嫌そうに目をそらした。

「薔薇?嫌味か……患者に贈るわけがない。」

「なんか大変そう、彼女さんお名前は?」

 パンを頬張りながらゆるいパーマの男性に問われて私は名前を伝え、彼らも簡単に名前を言った。

 

 彼らはマトモではない。

 

 そう本能的に悟った。

 殺害は……今のところ可能性は低いだろう。

 誓約書が虚偽でも、村雨先生の運転する車で運ばれたのは事実で、殺害したら身元が割れる。

 強姦……無いな。

 リンチ……一番可能性が高い。

 手術用に使える範囲でサンドバッグにされる……使い道としてはそんなところか。

 もう、どうでもいいや。

 

「まったく……夜に飯作れなんて呼び出すんじゃねーよ。」

 

 え……家事代行の人?

 

「礼二くん、この女とセックスするの?」

「はぁ……」

 

 友人?

 距離感が近い。

 

「彼女さん、馴れ初め教えて?」

「あの、今日手術してもらっただけですけど。」

 ゆるいパーマの……真経津さんに腕を引かれてソファに座らされる。左隣には真経津さんと村雨先生、右隣には悪趣味な……黎明さんと、天堂さんが腰掛けた。

「出会って直ぐ自宅に連れ込むんだ。それにノコノコついて来るとか股ゆるめ?」

 ストレートな侮辱をされて振り返って答える。

「出会って間もない人に暴言とか、頭ゆるめ?」

 その瞬間、肩をガシッと掴まれて瞳を覗き込まれる。

 体中の産毛が逆立ち、脂汗が出る。

 

 ……死ぬ。

「彼女ちゃん、頭沸いてるねー。」

 死を悟った瞬間、黎明はケロッとした顔で私の頭をトントンと叩いた。

 

 踏み外したら死ぬ。

 そう直感した。

 


 

 その後は私の存在を忘れたかのようにヤイヤイと会話がなされて、獅子神さんの夕飯が出来たという合図で皆が騒ぎ始めた。

 

 ……バスの便が無くなる。

 

「すみません、今日はありがとうございました。また次に手術していただける際にはよろしくお願いします。」

 頭を下げてソファから立ち上がろうとすると両腕を真経津さんと黎明に掴まれて押し戻される。

「どうして帰ろうとするの?彼女さんもお腹空いてるよね?」

「空気読めよ。」

 確かに空腹で、目の前に運ばれた食事に手を伸ばしたい。

 でも、帰れなくなったら困る。

「明日仕事なので、すみません。」

 右腕を強く引かれて、黎明の膝に背中がつきそうになるのをギリギリで踏ん張る。

「だから?」

 蛇に睨まれた蛙のように、動けなくなる。

 不気味なカラコンが笑みを浮かべていているが、目が笑っていない。

 ……明日、術後の痛みがあると言って休むしかなさそうだ。

 

「食事……頂いてから帰ります。」

 そう答えると腕を離されて、黎明の膝に背中がついてしまう。慌てて起き上がろうとすると、切開の傷口が痛んで起き上がれない。

「痛っ……。」

「術後は安静にしろ。」

 なら家に帰してほしい。

 黎明は私の胴体に皿と腕を置いて食事を始めた。

 ……テーブル扱い?

「あの、わた」

 歯向かおうとする口にハンバーグが刺さったフォークを捩じ込まれる。

 美味しい。いや、今は味わう場合ではない。

 彼らに舐められたら、明日には死んでいる。

「わた」

 黎明はタイミングよく口にハンバーグを運び、そして私も食べてしまう。

「ハンバーグ、口に合うか?」

「はい、美味し」

 また黎明に捩じ込まれて、噎せてしまった。

「カッ……ゴホッくっ……」

 仰向けになったままなので上手く吐き出せず、苦しい。

「苦しい?」

 見下げる顔は、明らかに人を痛めつける行為に手慣れている者の表情をしていた。

「首?」

 ゴツゴツとした指が首筋に触れた。

 ……絞められる。

 

「……その辺にしておけ。彼女は術後から時間があまり経っていない。……あなたはシャワーを浴びて寝ていろ。2階の奥の部屋のベッドだ。」

 村雨先生に助け舟を出されて、左隣にいた真経津さんが腕を引っ張って起こしてくれた。

「痛い?大丈夫?」

 ……言葉では気遣いを見せるが、この場にいる全員が私に配慮や同情など向けていないことがひしひしと伝わる。

 

「あの……シャワーを借りるにしても、着替えとか……無いので。」

 帰りたい。今直ぐに。

「ああ、なら黎明のパーカーを着たらどうだ?パジャマだとブカブカだろ。」

 ……なんで黎明のパーカーやパジャマが村雨先生の部屋にあるの?同居してるの?

「下着、無いんで……。」

 流石に、コンビニに買いに行かせてくれるだろう。

 逃げよう。

「下着?寝るだけだし無くていいじゃん。」

「なんか彼シャツみたいだね。」

「なら礼二くんのシャツきせる?」

 

 どうやら退路は断たれたみたいだ。

 


 

 シャワーを浴びてシャワー室の扉を開けると獅子神さんが無表情で立っていて、どうやらコンビニで下着を買ってきてくれたようだった。

 ……裸を見られているが、特に反応が無いので、こちらもそれについて触れないでおく。

「ありがとうございます。わざわざ夜に使いっ走りさせてしまって申し訳ありませんでした。」

 

 頭を下げると創傷に痛みが走った。

「痛いっ……。」

 傷口に目をやると、獅子神さんの指が傷口の周りを往復していた。

 恐る恐る見上げると、慈悲でも労りでもない感情を伴っている。まるで深手を負った獲物が弱る様を遠くから見届ける獣のような冷酷さを放つ姿は、先ほど挨拶をした人間とは別人のように思えた。

「痛いです。ひゃ……やめてください。」

 思わず声が上擦った。

 その後しばらく指の腹で周りをなぞられた後、頭にタオルを被せられてワシャワシャと撫でられる。

「風邪、引かないように気をつけろよ。」

 挨拶をした獅子神さんがそこにいた。

 

 獅子神さんがランドリールームから出ていった後、裸のまま床にへたり込んでしまった。

 

 あれだけ「いつ死んでも構わない」と思っていたのに、死にたくない。

 怖い。帰りたい。彼らが怖い。

 

 獅子神さんが買ってきてくれた下着はちょうど良くて、用意されていた黎明のパーカーに袖を通す。

 男物でもワンピースのようにはならず、しゃがんだら下着が見えてしまう丈。

「後でレシート貰って……代金払わないと。」

 やるべき事を口に出すと、思わず涙が溢れ出た。

 惨めだ。会って間もない人から施しを受けている。

 

 涙が落ち着いたころ、ゆっくりランドリールームの扉を開ける。

 リビングではワイワイとまだはしゃぐ声が聞こえる。

 ……今は彼らに会いたくない。

 会ったら、尊厳が無くなると分かっていたから。

 

 そっと扉を閉めて階段へ方向転換すると突然視界をふさがれた。

 死角に隠れていたのか。

 まさか、抱きしめられてる?誰に?

「彼パーカーだとオレに彼女がいるみたい。」

 最悪だ。

 考えうるパターンで一番最悪な人間だ。

「パーカーをお借りしてすみません。洗濯して返しますから……。」

 洗濯……洗濯!?私の着替えた服、まさか洗濯機に入ってるんじゃ……。

 焦って身体を引き剥がそうとしても、腰と背中に回された腕はびくともしない。

「彼女ちゃん。」

 腰にあった手が下に降りていき尻を触られた。

「ひっ……あったばかりのブスにセクハラとか頭ゆ……」

 言い終える前にギュッと尻肉を握られて身体が跳ねる。

「礼二くんの女を寝取るの、案外面白いかも。」

 手つきが次第にゆっくりと撫で回す動きに変わった。

「ち、違う、村雨先生とは会ったばかり、本当に会ったばかりだから違う。」

 ゴツゴツとした指はパーカーの下に滑り込んできて、薄いショーツの上からヘリを撫でるように這い回る。

「……その歳で処女とかないよな。」

 どうしたらいい?YesとNo、どちらを選んだらより長く生きながらえる事が出来る?

 返事を聞かぬまま背中にあった手も尻に移動して揉みしだかれる。

「ひゃめ……止めて、止めて。」

 怖い。

 でも、黎明に「お願い」をして聞き入れられる可能性は限りなく0に近い。

 だとしたら……。

「反応が処女っぽい。」

「あ、あ、あー……ね。処女ビッチってやつ。私、黎明みたいなイケメンがタイプなんだ。ふ……ぶっちゃけ村雨先生より黎明の方が……。さ、うん。」

 相手が抵抗する様に興奮するタイプなら、相手がビッチだと知ったら萎えるはず。

 

 予想通り尻を撫でる手が止まった。

 ゆっくりと手が離されて黎明の胸板に押し付けられていた顔をようやく上げることができた。

 黎明の顔は……。

「んー!んっんん」

 また視界が真っ暗になり唇が塞がれる。

 ジタバタと手で払いのけようとすると、ぬるりととしたものが口内に入ってきた。

 ……これ、舌?

「やめりぇ……りゅ……りぇ……め」

 熱い舌が私の舌を絡め取ろうと這い回り、息ができない。

「いき……くりゅ……おぇ……」

 ジュルルッと涎を吸われて思わず股を閉じてしまう。

 最悪だ、無理やりされたキスで濡れてしまった。

「キス初めて?オレのペースに合わせて鼻で息して。」

 再び唇を唇で喰まれてクチュ……という聞きたくない音がする。

 

 自分は若くなくオマケにブスだ。強姦は無い。

 そう思っていたが、辱めの可能性を忘れていた。 

 このままでは玩具にされる。

 

「痛ってえ……。」

 黎明の唇からは血が滲んでいた。

 

「わ、私は、私は寝るように言われてるから!村雨先生に安静にしなさいって言われてるから!寝るから!!」

 黎明の顔色を見ること無く、走って階段を駆け上り奥の部屋に入って鍵を閉めた。

 

 私は明日を迎えられないかもしれない。

 


 

 扉の前で座ったままの状態で一夜を過ごしたらしく、カーテンの隙間から朝日が漏れ射していた。

 

 あの場から、私は生き延びれたんだ……。

 

「傷は痛むか?」

 背中に扉がドンッと当たる。

「おい、まさか扉の前で立てこもるつもりか?」

 慌てて立ち上がり扉を開ける。

「い、いえ。おはようございます。村雨先生。昨晩は夕食をご一緒させていただき、うれしく……。」

 そこまで言って言葉に詰まってしまう。

 

 村雨先生は子宮摘出という希望をくれた。

 それと同時に命の危機に瀕する状況にもなっている。

 

「ベッドに座れ。患部を観よう。」

 腰に手を当てられて、昨晩を思い出して飛び跳ねてしまう。

「ひっ……だ、大丈夫です。仕事があるので帰ります。」

 村雨先生は私の意見など更々聞く気はないようで、無理やり腕を引いてベッドに座らされる。

「職場には休むと連絡しておいた。今どき緊急で休む連絡を入れて事情を聴かずにクビだと叫ぶ上司の下で働くとは。ずいぶんなマヌケだな。」

 連絡……え?カバン……カバンは何処!?シャワー浴びる前は……リビングのソファに……ああ。

「マヌケマヌケって、マヌケっていう方がマヌケ……。……本当に連絡したんですか?冗談ですよね?」

 村雨先生は首をかしげて何を言っている?というようなジェスチャーをした。

 ……本当に連絡したのか。

「服を捲れ。」

「嫌です。」

 信じられない。

 プライバシーの侵害で、医者が患者のプライベートを……。いや職場。そもそもなんで医者が患者の……。

「……傷口が開いている。」

 考えをまとめている最中にパーカーが捲られて傷口とショーツが丸出しにされている。

 おもんばかる……という言葉を知らないらしい。

「どうしよう……血でパーカー汚れちゃったかも。借り物なのに……。」

 その言葉に先生の眉間にまたしわが寄った。

「……術後に男とまぐわおうとするからだ。」

 村雨先生は微かな怒りを宿した瞳でこちらを見る。

「……本当に失礼な人。」

 黎明を誘ったビッチだと言いたいのだろう。確かにそう捉えられるニュアンスの……。

「失礼です。」

 でも、そう振る舞った。

「失礼ですよ。」

 涙がとめどなく溢れる。

 

 私は馬鹿だ。

 自ら死んでいいとしながらも、生きるために媚を売った。

 『知り合ったばかりの男にノコノコついていく、頭と股がゆるい女』

 それ以外の何者でもない。

「……失礼でした。ごめんなさい……。」

 悔し涙がパーカーを幾度となく濡らした。

 

「……怖い思いをさせて、申し訳ない。」

 村雨先生は戸惑いの表情を浮かべてて、それがなんだか可笑しくて笑ってしまう。

「村雨先生も困ることあるんですね。……って、出会って二日目で……何を言ってるんだか。」

 そう言うと不思議そうな顔をして、傷口の周りを指で撫でる。

「痛……村雨先生。」

「あなたはやはりマヌケだな。出会ってから二年以上経つだろう。」

 ……な、なんの話?

「出会ってから二年?院内で見かけることはありましたけど、会話したのは昨日が初めてですよ。村雨先生、大丈夫ですか?」

 つい本心が口をついてしまう。

「あなたは電車内で倒れた女性に対して別車両から駆け寄り、救護のために周囲の人間に指示を出した。他の人間は顔色を窺い誰一人動かなかったあの場で、あなただけは違った。結果、あなたは女性の命を救った。」

 ……確かにそれは実際にあった出来事だ。

 ドンッという音がして目をやると、女性が窓にぶつかり頭から倒れた。

 周囲に人が複数居たが、皆女性を避けて空間が空いていた。

 だから私が動いただけ。

「え……その場に居たんですが?居たなら先生が救護するべきでしょ。」

 先生の唇がふと笑みを零したように見えた。

 

 


 

 村雨先生は質問に答えずに、傷口から下に指を這わせる。

「あ……ちょ、村雨先生……。」

 滑らかな指は腰からゆっくりと鼠径部に迫ってくる。

「や、やめて……やめてください。」

 指が離れたと安堵する間もなく、指は太ももをツーッと撫でた。

「やあっ……やめて。」

「それは本心か?それとも男女の駆け引きか?」

 咄嗟に先生の右手首を掴んで太ももから引き剥がす。

「だ、だから、……やめ」

 その瞬間、胸に違和感が走った。

 村雨先生の左手がパーカーの中に入り込んでブラジャーの上から乳首をなぞられたのだと分かった瞬間、顔から火が出るように熱くなる。

「や……やだ……」

 左手で容赦なく乳首をグニッと握られて股をキツくしめてしまう。

 最悪、最悪だ、また濡れてしまった。

「濡れたな。……布から愛液が染み出ている。」

 ぴと……ぴとと指の腹で濡れたショーツの染み具合を確かめられる度に感じてしまう。

「先生……やめて」

「もっと欲しいか?」

 爪でカリカリとショーツの布をひっかかれ、乳首をキュウっとつねられると全身に電気が走ったかのような衝撃が走り、ベッドに仰向けで倒れてしまった。

「嫌です……いや、私、ビッチじゃないから……違う、違います。セックスは恋人同士でしないといけないからっ……。」

 半泣きで命乞いのように村雨先生に助けを求めるが、私に跨って見下げる彼が聞き入れてくれるとは思えない。

「なら、恋人同士になればいい。」

 何を言って……。

「うぅ……ちゅは……せんせ……わたひ」

 ディープキスをされている。

 昨晩の黎明ゆっくりとしたキスとは違う……貪るような激しいキス。

「わた……子ども……ちゅくりぇ……ちゅりぇにゃ……ない」

 グチュグチュという下品な音を聞くたびに頭がおかしくなりそうになる。

 キスに気を取られていると、指が布越しではなく肌に直接触れているのに気づくのが遅れた。

「やら……やめ……せんせ」

 村雨先生のしなやかな指が割れ目をなぞって乳首をこねくり回す。

「いや……せんせ……あっああ」

 感じたことの無い快感が四肢を駆け巡る。

 村雨先生の指が膣の中に入ってくる。

「ああああっああ」

「そう締め付けるな。」

 ようやく長いキスから開放されたと気を緩める暇もなく、首筋をキツく吸い上げられる。

「先生ぇっ、ビッチじゃないからっ、子ども産めないからっ、恋人じゃないからっ」

 とにかく彼を引き剥がしたくて思いつくままに否定の言葉を連ねる。

「こんなに感じているのに恋人ではないと?子どもを持たない男女を非難するのか?……私はあなたを愛している。」

 先生の舌が鎖骨や耳の輪郭を這う度に膣が指を締め付けてしまう。

「違うっ誤解っ、せんせぇは誤解して」

 私の言葉を遮るように、カリカリと乳首の先端を引っ掻かれる。

「あひっ……せん……あっああん」

「あなたは、私を愛しているか?」

 そんなことを言われても、私にとっては会って二日目の人……。

「愛してませんっ……やめて……先生」

 村雨先生は眼鏡を外すと、ベッドの脇に置いた。

「そうか。ならば、愛し合う他ないな。」

 

 村雨先生は子どもが親に甘えるように何度も乳房を揉み、乳首を吸い上げたり舌で転がして愛撫した。

「ああん……だめなのに……せんせ」

 私はベッドのシーツを掴んで快楽から逃れようと身を捩ることしかできない。

「二本に増やす。」

 言葉の意味を理解す間もなく、膣内が指で開かれて掻き回されるたびに嬌声が漏れ出てしまう。

「あん……や……やなの、せんせえ」

 膣壁を擦られるたびに思考力が削られていく。

「快楽だけ感じていればいい。」

 また舌を絡め取られて更に酸欠になる。

 グポッグポッという膣から発する音が羞恥心をくすぐり全身が火照りを増した。

 再び膣が指によって開かれてた時、硬いモノが入口に当たった。

「え……や、や、やだ、やめ、それだけは」

 それは、ブチブチと壁を擦りながら上がってくる。

 この感覚、婦人科で検査を受ける時に感じたものとにている。

 あれは冷たい棒だったが、これは熱くて……。

「や、やだぁ……村雨先生、村雨先生っ」

「痛むか?なるべく傷つかないようにする。」

 あまりの鈍痛に先生にしがみついて、背中に爪を立てた。

「いたい……いたいいたい……やだやだ……やだぁっ」

 彼は止まってくれなかった。

 

「ああああああっあっあっあっあっ」

 パチュパチュとピストンされるたびに鈍痛が走り、快感とは真逆の苦痛が襲った。

「痛いか……もう少しで全部入る。馴染めば痛みより快楽が上回るから心配するな。」

 先生は嘘つきだ。

 パンッパンと激しく腰を打ち付けて、快楽に溺れているのは先生の方だ。

「あっいっいいっいたいっあっあっ」

 私が痛いと言うたびに、村雨先生はディープキスで思考力を奪った。

「きらいっうそつき……せんせ……きらい、だいきらい」

「そうか、なら最後の仕上げだ。」

 先生は私の太ももを持ち上げるとバチュッと突き上げた。

「中に出す。」

 だ……え?

「あああ……」

 子宮内に熱いものが注がれた感覚があった。

「子宮は要らないのだろう?なら、私がどう使おうと構わないな。」

 


 

 気づいたら夕方になっていた。

 

 村雨先生は合鍵を渡して銀行に用事があると行って出かけていった。

 リビングには獅子神さんと真経津さん、天堂さんと……黎明がいた。

 四人ともこちらに目をやると、何事もなかったかのようにゲームを始めた。

「飯、用意してある。」

 獅子神さんが目線を上げて、また元に戻した。

「……すみません。ありがとうございます。」

 冷蔵庫にはピラフが入っていた。

 それを温めることはせず、冷たいまま食べた。

 

 村雨先生とセックスしたこと、みんな気づいている。

 出会って間もない人に体を許した、ゆるい女だと。

 もしかしたら、喘ぎ声も聞かれていたかもしれない。

 そう思うと死にたくなった。

 

「ごちそうさまでした。美味しかったです。私は帰ります。ありがとうございました。」

 ソファの下にあったカバンを持って頭を下げると、獅子神さんは右手を軽く上げ、真経津さんはバイバイと手を振ってくれた。

 天堂さんはよく分からない表情でこちらを見て、黎明は振り向きもしなかった。

 

 玄関を出ると、表札が『村雨』となっていて、村雨先生の自宅だと分かった。

 監禁用や死体損壊用のダミーハウスではないことに驚き、GPSから自宅からかなり距離がある場所だとも分かり、肩を落とした。

 バス……あるかな。

 

 後日、村雨先生から「薔薇の料理を作れ」という趣旨のメールが入った。

 まさか本当に作れと言われるとは思っていなかったし、また自宅に呼ばれるとは思っておらず、困惑した。

 子宮摘出するから、セフレ……はけ口要員なんだろうか。

 

 あの日から結果的に私は職を失うことになり、職探しをしていたので時間はいくらでもあった。

 メールで日程を合わせて、村雨先生の自宅まで足を運んだ。

 

 インターホンを鳴らすと「開いている」とだけ言われ、ドアを開けると玄関から村雨先生がソファに座り読書をしている姿が見えた。

 私は持参したエプロンと身につけて準備に入る。

「先生、キッチン使ってもいいですか?」

 先生はこちらを見ると、要領を得ない者を見る目をした。

「恋人なのだから、いちいち許諾を得る必要はない。」

 先生の基準ではセフレを恋人と言うのか。

 きっと医学生時代にもたくさん遊んだんだろう。

 薔薇とサラダ用の材料を取り出してサラダを作り、ダイニングテーブルに盛り付けた。

「薔薇のサラダです。」

 先生はソファからダイニングの椅子に座り直すとサラダを食べ始め、程なく箸を止めた。

「想像以上に不味いな。」

「エディブルフラワーは美味しいものではなく、あくまで食べられる花なので。」

 村雨先生は不満げに私を見るとため息をついた。

「作り置きしておけ。後で黎明達に食わせる。」

 罰ゲームか。

「その後、夕飯を作れ。」

 目を点にした。

 家政夫なら獅子神さんという上位互換が居るのに。

「はぁ……材料買ってきます。」

 玄関に向かうと村雨先生に腕をつかまれた。

「車を出す、下手なものを買われても困るからな。」

 そう言って村雨先生はジャケットを羽織り、一緒に買い物に行くことになった。

 

「いい加減、助手席に乗ったらどうだ。」

「……社会人的な配慮です。」

 

 先生はオーディオをつけた。

 ヴィバルディの夏が流れ出す。

 

「私、夏……嫌いなんです。」

 

 村雨先生は何も言わず、何もしなかった。

 


 

「奥の部屋を使え。」

 

 買い出しの後、そう言われたが断った。

 セフレとして飼い殺されたくないし、彼らと会いたくないからだ。

 

 夕飯を作り終えた後、村雨先生に車を出してもらい送ってもらった。

 そして、何故か引っ越し業者が部屋から去っていった。

「は……?部屋……私の……部屋。」

 先生は呆然と立ち尽くす私の手から部屋の鍵を奪い去り、ポストに入れた。

「あなたの部屋は既にあるだろう。」

 

 村雨先生は状況が飲み込めないままの私を助手席に無理やり詰め込み、車を走らせる。

「婚姻届を書くのはあなたのタイミングで構わない。財産は残すつもりだが、まだ確定は出来ない。色々と厄介な事が」

 気分が悪い。吐きそうだ。

「大丈夫か?酔いやすいのなら先に言え。」

 不安で頭がいっぱいになる。

 

 村雨先生は私を手術してくれる。

 村雨先生は黎明達と私を引き合わせた。

 村雨先生は私とセックスした。

 村雨先生は私に料理を作らせる。

 村雨先生は私を恋人だという。

 村雨先生は私に婚姻届を書けと言った。

 村雨先生は私から部屋を取り上げた。

 

 車のエンジンが止まった。

「大丈夫か?」

 助手席の扉から手を差し伸べられる。

 

 私は手を避けるようにしてフラフラと歩き始めると、引っ越し業者が立ち去るのが見えた。

「荷物が少なかったようだ。開封は落ち着いたらやれ。」

 思わずトイレに駆け込んで嘔吐してしまう。

「……彼女さん、大丈夫?背中、さする?」

 真経津さんは涙と吐瀉物でぐちゃぐちゃになった顔を心配そうな表情を浮かべて覗き込む。

「荷解きはある程度しておいたから、安心しろ。」

 獅子神さんが白い歯を見せながら笑顔を向ける。

「神が荷物を運んだのだから、感謝しなさい。」

 神?

「彼女ちゃん、玉の輿じゃん」 

 黎明はパーカーを深く被って顔が見えない。

 怖い。怖い怖い怖い怖い。

 

「心配するな。あなたは私の妻になるだけだ。」

 


 

「彼女さんはは村雨先生のこと好きじゃないの?」

 

 真経津さんと二人っきりの時に尋ねられて、返答に困った。

 村雨先生は出勤の他に、黎明たちと出かけたり、一人で銀行に行く事が多く家に不在なことが多かった。

 私は求職中で家で履歴書を書いたり資格の勉強をしていたが、何故か必ず一人。彼らがいた。

 

「好きか嫌いかで聞かれたら嫌い。」

 そう言うと、真経津さんは興味津々といった顔を向ける。

「ボクのことは好き?」

 答えを間違ったら危ないな。

「好きな方です。好きではなく、好きな方です。」

「ならハグしていい?ぎゅー」

 おそらくは交際関係があるにも関わらず、不貞を働くかどうか、ちょっかいを出して試して遊んでいるのだろう。

「はい、ぎゅー。終わり。」

 真経津さんは腕で押すと引き剥がすのが容易なので、何もしてこない天堂さんと、どう転ぶかわからない獅子神さん、……寝取りプレイをしたい黎明に比べて扱いが楽でいい。

「そのTシャツ、変なの。恐竜だね。」

「トリケラトプスは最強です。」

 くだらない問答をすると、真経津さんは直ぐに飽きてソファに寝そべった。

 

「彼女さんがいいなら、エッチする?」

 驚いて振り返ろうとすると腰を掴まれてソファに座らされる。

「しません。終わ」

 真経津さんはバックハグの状態で太ももの内側をなぞり、耳打ちした。

「みんなには内緒……ね?」

 咄嗟に立ち上がろうとすると、太ももを掴まれていたため、テーブルに前のめりになる。

「……バック?」

 真経津さんの手が太ももを撫で、腰が抜けて動けない。

「止めてください止めてください止めてください。」 

 壊れたレコードのように命乞いをする。

「村雨先生のこと、好きじゃないんでしょ?ボクは好きな方なんでしょ?」

 ……好きと言わせるゲームなのか?

「それとセックスとは別問題です。」

 どうにか、関心を逸らせないと。

 真経津さんは太ももから腰に手を置く場所を変えた。

「なんで?好きならエッチできるよね?」

 考えないと、生き延びるために。

「私は……村雨先生の恋人です。不貞に当たります。他の人とセックスはできません。」

 

 返答が無い。

 ……成功した。

「なんだ、理由はそれだけ?ならエッチしようよ。」

 腰に置かれた手がズリッとスラックスをずらす。

 

 誰か誰か……どうしたら、どうしたらいい。

 

「何をしている。」

 

 見上げると、天堂さんと黎明が居た。

 

「え?エッチ。」

 終わった……何もかも。

「咎人ごっこは他所でやれ。神はハンバーグが食べたい。」

 終わってないのか?

「寝取りならオレもしたい。3Pは?」

 もう駄目だ。おしまいだ。

 

「ハンバーグが優先だろうが!!」

 

 鶴の……神の一声で、ハンバーグを作る流れになり、命をつなぎとめられた。

 

 ハンバーグを作り終える頃に村雨先生が帰宅した。

 

「おかえりなさい、お仕事お疲れ様。」

 真経津さんはさっきまでの悪心など元からなかったかのように振る舞った。

「礼二くんのハンバーグだけ大きくない?」

 黎明は馬鹿馬鹿しい話題を持ち出す。

「明らかに多いのでは?贔屓するのか?平等を知らないとは……神は許さない。」

 もう……。

「神さま……愚かな羊をお許しください。」

 私は手を組んで、祈った。

 


 

 そして、ようやく手術の日が訪れた。

 

 私は着替えを済ませて手術台に座った。

「ありがとうございます。村雨先生。」

 そう言って麻酔がかかるのを待った。

「全てプラン通りだ。」

 ……プラン?

 

 目が覚めると腹部に激しい痛みが走った。

「痛っつぅ……。」

「内臓に癒着がおびただしいほどあり、まずはそれを取り除いた。次に、チョコレート嚢腫と筋腫も摘出した。」

 村雨先生は後処理をしながら簡潔に結果を話してくれた。

「ありがとうございます……子宮は?」

「……それは次回の手術で行う。一度の手術では負担が大きいからな。」

 その言葉に安心すると、麻酔のせいかまた寝てしまった。

 

 再び目を覚ますと村雨先生の姿がない。

 ゆっくりと身体を起こすと激痛が走った。

「痛っ痛いな、流石に……。」

 村雨先生ははソファで仮眠をしていたらしく、声をかけてきた。

「3日間は絶対安静だ、部屋に運ぶ。」

 そうお姫様抱っこをするポーズをして、止めた。

「……天堂と獅子神を呼んで運ばせる。」

「大丈夫……です。自力で充分ですから。」

 痛みを堪えながらゆっくりと一歩ずつ歩みを進めようとすると、村雨先生はひょいとお姫様抱っこをして黙ってベッドまで運んだ。

「案外運べるものだな。」

 その言葉を聞き終わる前に気絶してしまった。

 

 再び目を覚ますと村雨先生がベッドの隣で寝ていた。

「先生……村雨先生……。」

 先生はしばらく寝たままだったが、しばらくすると気づいた様子で気怠げな声を出した。

「どうした?痛むか?」

 今までで聞いたことのない優しい声色だった。

「風邪引きますから、自室で寝てください。」

 村雨先生は私の手を擦った。

「一緒に居る。」

 それからしばらく村雨先生はつきそってくれた。

 

 後の日々は獅子神さんと天堂さんがペアでトイレまでの介助をしてくれて、自分の身体は自分でタオルで拭いた。

 介助が必要無くなると、彼らが来ることは無くなった。

「安静に。」

 という判断らしく、それに従う彼らに変な薄気味悪さを感じてしまう自分が情けなかくなる。

 ここまで赤の他人に甲斐甲斐しく親切にしてくれる人達を、全て邪な目で見るのは……駄目だ。

 


 

 痛みが取れて求職活動を再開出来ると判断された日、先生が休みを取った。

「もう痛みはないな?」

「はい、ありがとうございます。村雨先生のおかげで」

 話そうとする唇を先生の舌が這い回る。

「あっ……の、先生、ちょ……」

 ブラウスの上から胸を揉みしだかれてスカートの中を指が縦横無尽に撫で回す。

「……先生、待ってください。」

 いきなりグイッとショーツを下げられて割れ目をクチュクチュと指で弄ばれる。 

「待ってください?……もう待ちくたびれた、の間違いでは?」

 村雨先生は見たこともない意地悪そうな笑みを浮かべた。

「……あの、私今から面接に……」

「期待しているだろう?その期待に応えよう。」

 先生は私の話を聞く耳は持たす、ブラウスのボタンを外しながら耳穴を舐めた。

「あっ……だめっ、やだ」

 ブラウスをはだけさせ、ブラジャーをずらして乳首をピンと弾いた。

「ダメではないだろう?こんなにも乳首が勃起している。私に犯されることを期待している証拠だ。」

 先生は片方の乳首を歯で過ごしながら、指でももう片方の乳首をクニクニといじり始めた。

「あっ……先生っ……」

「私の愛撫で……イけ。」

 湿度をまとった低い声に絶頂してしまった。

「あなたの一挙手一投足……全てが愛おしい。」

 割れ目を指先でなぞり、愛液を掬った。

「……そこダメ……い、イく……」

 先生は容赦なく膣に指を入れてかき混ぜ始めた。

「あんぁあっイく……イくう……」

 漏れす声を止められない。

「いい声だ、もっと鳴け」

 先生は私をソファに押し倒して舌先を乳首から鼠径部、そして太ももに移動させて最終的に腟内に舌を入れて吸い上げた。

「あああんイクッ……」

 私は潮吹きしてガクガクと腰を浮かせてしまう。

「もう準備万端なようだ。」

 そういうとスカートの中に勃起したモノを挿いれていく。

「ああんっ村雨先生ぇ……」

 思わず大きな声を出してしまった。

「二人きりのときは、礼二さんと呼べ。」

 首筋に歯を立てながら激しく腰を動かし始めた。

 パンッパンッパチュパチュという卑猥な水音が部屋に響いた。

「あっあっあっめんせちゅ……めんせちゅが……」

 何も考えられないくらい感じていた。

「面接?そんなもの行く必要はない。」

「でも……ああん……あひっ……めんせ……とおったかりゃ……やくし……じかんああっ」

 村雨先生は私の腰を掴んでよがる私を押さえつけた。

「断りの連絡はしてある。」

 え……?なんで村雨先生が連絡先知って……受かったら報告しようと……。

「なっなんれっなんれ……あっあっ激しっ……まっれ……」 

「考える必要はない。快楽だけを感じろ。私に愛される悦びだけを求めろ。」

 そういうとさらにピストンの動きを速めた。

「ああんっだめっもうイッてますイっイて……ああっ」

 子宮の最奥に射精された。

「はぁはぁ……熱……あつい……めんせ……面接」

「まだ終わりじゃない。へばるな。」

 再び容赦ない抽挿が始まる。

「あんっもう無理です……先生っ」

「無理なものか。礼二さんもっと愛してというべきだ。」

「あっあっあんっ……イッてるのっもう許してください礼二さん……ああっ」

 何度絶頂したかわからないほど何度もイカされ続けた。

「愛のあるセックスは素晴らしいな。」

 もう意識を手放しかけていた。

 それを許さないとばかりに村雨先生はバチュンと勢いをつけて子宮口を突き上げた。

「あああっ」

「誰が気絶していいと言った?」

「あっ……ごめんなしゃ……先生ごめんなしゃい」

「礼二さんだろう?」

「礼二さんごめんなさ……さい、ごめんなさい」

 先生に乳首をキツく吸い上げられて、また失神しそうになる。

「ああん……乳首吸っちゃあや、やら」

「満足したか?」

「はい……しましたからぁ……」

「私は満足していないが」

 先生は脱力している私を四つん這いにして後ろから突き上げた。

「あああん、深いっ……すごい……」

「この体位もいいな。」

 腕を掴まれて容赦なく腰を打ち付けられる。

「出すぞ。」

 子宮口にグリッと押し当ててられ、射精される。

「まだだ。」

 太ももを持ち上げて腰をゆっくりと動かず。

「ああっ……これダメっ……ゆっくりされるのきもちい……」

「……私が好きか?」

「しゅき……礼二しゃんしゅきぃ……」

 ガクガクと膝が笑うくらい何度も絶頂した。

「愛している、好きだ……。」

 また精液を子宮に叩き込まれると、村雨先生は太ももを開いて秘部を舐め回し始めた。

「ああんイったばっかりだからあっおかしくなりゅ」

「ここがいいのか?ならここを重点的に責めよう。」

 舌先を尖らせて陰核をつついた。

「ああんそれダメぇ……もう許してください……」

 舌での愛撫を期待していた私の両足を大きく広げていきなり挿入した。

「おっ奥うっ……」 

 不意打ちの衝撃に目の奥で花火が光った。

「子宮まで届いてるな?わかるか?私に犯されていると認識しているか?」

 先生は何度も何度も子宮口を突いた。

「ああっ……イクッイっちゃうっ……」

 私は盛大に潮を吹いて絶頂を迎えると、先生も中出しして絶頂したようだった。

 先生は私の中からモノを引き抜くと優しく頭を撫でてくれる。

「あなたは私の恋人……妻……嫁、分かるな?」

「はい……。」

 ぐったりしながら答えた。

 何か大切なことを見落としている気がして、胸騒ぎがする。

 村雨先生は何度もおでこと頬にキスをして、私を抱きしめた。

 


 

 数カ月ぶりに彼らが来客した。

 旅行に行くらしい。

 

「行ってらしゃい。」

 

 そう玄関で手を振ると、彼らは言葉の意味を理解していないような素振りを見せた。

「彼女ちゃんと礼二くんは二人きりの相部屋だから、安心してよ。」

 ……旅行に私もいくと、聞いていないが。

 

 私の着替えは現地で買う……らしい。  

 

 旅行用のバスで、初めて天堂さんと二人きり……相席した。

 天堂さんは変に構ったりちょっかいを出してくるタイプでは無いので安心する。 

「……う……なんだか……気持ち悪い……酔っちゃいました。」

 窓から見える風景を見て、落ち着こう。

 

 ボーっと景色を眺めていると、天堂さんが私のおへその当たりに手を置いた。

「神は、祝福します。」  

 

 私は全てを理解した。

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