※この作品はR-18です。

悪癖   作:ummt

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Otohime's Heart

 

「花嫁になれ。」

 

 医者が真顔で喧嘩を売ってくるとは。

 彼は妻帯者だ。

 つい先日、挙式に出席したばかりでこの煽り。

 本気で怒らせたいらしいな。

 ……。

 

。。。

「わざわざご足労いただき、ありがとうございました。」

 

 医者の奥さんは色白で儚げな人だった。

 ウェディングドレスを纏って現れた時には、「しらゆき姫……」と呟いてしまうほど、美しく見えた。

 

 彼は得意げに彼女に私を紹介した。

「私と永遠に離れることのできない、もう一人の女性だ。」

 ……。

 いくら奥さんの嫉妬心を煽るにしても、一線を超えている。

 私が訂正しようと口を開こうとすると奥さんに手を引かれて式場の廊下に出た。

 ……ああ、「この泥棒猫!」とか「クソビッチ!」という展開になる。

「すみません。あの人が迷惑……かけてますよね。」

 驚いて顔を見ると奥さんは苦笑いを浮かべていた。

「経緯は獅子神さんから伺っています。あの人があなたの命を助けて、あの人以外が治療できないようにした。そして私の関心を引くために当て馬に使われている。……ですよね?」

 ……。

 聡い女性だ。

 医者が目をつけるだけのことはある。

「あの人、距離感おかしいので。すみません。」

 そうはにかんだ。

「いえ……不快ではないですか?私に彼がベタベタと……その。」

 奥さんは顔を伏せた。

「不快……です。でも、あの人なりの私への歪んだ愛情表現で、それにあなたは巻き込まれているだけ。ということを頭では理解しています。それと同時に……嫌だな……と思ってしまいます。」

 ……。

 誠実な人だ。

 この女性なら医者に相応しい。

 

 ……私は、何様のつもりなんだろうか。

 医者とはただの……患者と医者。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 

「よかった。泥棒猫!とぶたれるかと思って焦ってしまいました。」

 そう頭をかいて笑ってみせた。

 奥さんは私の頬をムニムニと揉んだ。

「本当にムニムニ……真経津さんが言っていた通りですね。」

 ……。

「あはは、ムニムニ……。」

 奥さんは医者が呼びに来るまで私の頬をもみ続けた。

。。。

 

「既にウェディングドレスは発注してある。」

 虚偽だ。

 ウェディングドレスには採寸が必要。

「採寸は既にメンテナンスの際に行っている。」

 ……。

 


 

「あの……あなたはシスターですか?」

 

 天堂の教会にある一室でウェディングドレスを着るためにコルセットをシスター服を着た女性に巻いて貰っている。

 コルセットは大分苦しいが、そういうものか。

「私はシスターであり、シスターではありません。」

 ……。

 彼女は過去に大きなトラウマを持っているのだろう。

 虚ろな目、薄い感情、緊張感のない声。

 天堂が匿っている、もとい保護をしている……。

 ……。

 

「出来たぞ。」

 そう叶、天堂、医者、獅子神にウェディングドレス姿を見せる。

「馬子にも衣裳とはこのことか。」

 医者はフッと鼻で笑った。

「おーキレイだ。」

 獅子神は当たり障りのない言葉を選んだ。

「これで『フランケンシュタインの花嫁』が完成したな。」

 叶は珍しくスーツを着ている。

 当然だ。彼が主役なのだから。

 

「永遠に愛を誓いますか?」

 天堂がステンドグラスに差し込んだ光に包まれながら仰々しく伺いを立てた。

「ああ、誓う。」

 医者……。

「……私……その……私には……す……す」

 唇に手を当てて困惑のポーズをする。

「誓いのキスを。」

 医者は流れるように

 ……。

 

「その結婚、待て!!その人はオレの大切な人だ!!」

 

 叶が扉を蹴飛ばして走り寄ってくる。

「待ってた?マイハニー……オレが連れ去ってあげる。」

 叶は流れるように

 ……。

 ひょいと私をお姫様抱っこして医者を睨みつけた。

「ハニーはオレがいただく!!」

 そして耳元で小声で囁いた。

「肩に腕回して、嬉しそうにして、頬にキスして。」

 注文の多い男だ。

 頬にキスして歓喜の涙を流すと叶はそのまま教会の外に出た。

「愛してる、マイダーリン。」

 歯が浮くセリフを言って吐きそうだが、仕方がない。

 

「敬一くん、撮れた?」

 叶はスマホを確認している。

「同接一万超えた!!ボロを使うと数字伸びるな。」

 私が、ではなく「私に嫉妬した女ファン」による伸びで、略奪愛ごっこのような男女の話は盛り上がるからだ。

「結婚目的略取罪、結婚目的誘拐罪、叶、知っているか?」

 問いに返答はなく、無心でコメント削除をしている。

 ……。

 


 

「遅れてごめんなさい。」

 

 獅子神の彼女が駆けつけてくれた。

 わざわざこんな悪趣味な遊びのために来なくても……。

 律儀な人だ。

「フランケンシュタインの花嫁ですね、素敵……。」

 ……。

 配慮……心配りができる女性だ。

 獅子神の目つきが柔らかくなっている。

 この女性なら……。

 

 まただ。また勘違いをしている。

 私は獅子神とはただの友……知人だ。

 彼のことを何も知らない。

 

「遅れた、もしかしてもう終わった?」

 

 医者の兄が姪っ子と甥っ子を連れてきたようだ。

 見世物んじゃ……見世物小屋だ。

「すごい……」

 ガ……学童の視線が痛い。

 学童達とは一度会ったが、「本物のフランケンシュタイン博士の作った化け物」と対峙して、こちらをただ見つめていたな。

 すごい「化け物」だよな「恐ろしい」よな「醜い」な。

「すごいカッコいい!!フランケンシュタインの花嫁だ!!すごい!!一緒に写真撮って!!」

 学童達に抱きつかれている。

「すまない、一緒に写真いいかな?」

 そう医者の兄がスマホを構えると医者がピースして割り込んできた。

「礼二叔父さんいけないんだ!浮気だ!!」

「ボロちゃんをいじめるな!!」

 学童達は医者をポコポコと叩いた。

「浮気ではない、彼女と私はフランケンシュタイン博士と花嫁の関係だ。私の妻は別にいる。」

 ……。

「ボロさん、私とも写真を撮っていただけますか?」

 場の流れを変えるため、獅子神の彼女が割って入ってくれた。

「もちろんです。」

 

 写真を撮り終えると、シスターに頼んでドレスを脱がしてもらった。

 私は肩に穴が空いたせいで重心が不安定で、元々身体が固いのも相まって背中にファスナーがあるタイプの服を一人で身に纏うことができない。

 着替え終わるとドレスを梱包して紙袋にいれた。

 結局、叶は「報酬としてくれてやる」と言ったが、無理やりな形で買い取った。

 施しなど、必要ない。

 

 そのタイミングを見計らったかのように天堂が扉を開けた。

「なあ天堂、お前人を殺してるのか?」

 微動だにしない。まるで蝋人形のようだ。

 この建屋には錆びついた血の臭い、臓物の臭い、漂白剤と溶解剤の臭い、消臭剤の臭いが染みついている。

「どうしてそう思われたのでしょうか。」

 ……。

 天堂の掌を掴んでみると、関節と皮膚に厚みがあり、綺麗に整えているが、漁師のような「力仕事」をする手をしていた。

「叶と天堂が二人きりでいるとき、私が近づくと話題を変えるのはなぜだ?」

 微笑むばかりで返答がない。

 天堂は彼らといる時はテンションが高いのに、私といる時は……よそよそしい。

 

 部外者だから、当たり前だが。

 


 

 私は理解してしまった。

 

 「友達」「友人」彼らはそう私を呼ぶ。

 しかし彼らは、私を友人と思っていない。

 口当たりのいい言葉を使っているだけ。

 

 人間だとも思っていない。

 「フランケンシュタイン博士の生成物」

 リビングデッド、ゾンビ、生きる屍。

 ただの愛玩動物、ペット、おもちゃ、遊び道具だ。

 

 私は秘密を共有されない部外者。

 ただの顔見知り。余所者。

 何も知らない。

 教える必要がないからだ。

 

 対等になった、そう思い込みたかった。

 同じ土俵に立てていると、信じたかった。

 私は……マヌケだ、大馬鹿者だ。

 愚かで傲慢、哀れで醜悪な……化け物。

 再確認した。私に価値はない。

 

 それと同時にドス黒い感情が芽生えたのを自覚した。 

 「惜しんで欲しい」「弔って欲しい」「嘆いて欲しい」

 彼らの記憶に残りたい。

 

「土屋田、私だ。ボロだ。ハーフライフ戦を組め。組まないなら御手洗を呼び出して担当を代わらせる。」

 


 

「ご来場の皆様!!お待たせいたしました!!ここからは本日の審査役、私、蛇谷絵美里がお相手させて頂きます!!」

 

 巨乳の美女が紹介を始めた。

 行員は美人が多くて目の保養になる。

 

「大人の人生相談室の元良又太郎さんと朧気のボロ大先生によるハーフライフ対決です!!」

 相手の作業服を着た男性は頭をかいた。

「俺のことは住む世界が違う住人だから覚えなくていいぞ。」

 

「それでは、今回のゲーム『乙姫のこころ』についてご紹介いたします!!」

 

__本日のゲームは現代の浦島太郎こと、相手に貢ぎ物を贈り合う簡単なゲーム『乙姫のこころ』。

 

 皆さま、涼しいですかね?

 それもそのはず、プレイヤーにはプールの上に設置された鉄骨を渡り、透明なガラスパイプの中へ一人ずつ格納されるのです。

 その足元にはキラキラと輝く水面。

 そしてガラスパイプ下のぎりぎりを亀型のメカトロニクスちゃんが往復移動します。

 かわいいですね。

 亀ちゃんはガラス床下のゴムパッキンからプレイヤーが選択した箱つまり「貢ぎ物の玉手箱」を運搬する役目を持っています。

 

 先攻後攻を毎ターン毎に変えてゲームは行います。

 

 初めにプレイヤーは7Pを乙姫から受け取ってください。

 乙姫は優しいですから。

 

【先攻】

 先攻プレイヤーは、そのターンに使用する 「玉手箱」を選択します。

 「玉手箱」は小箱と大箱の2種類のうちいずれかを選択してください。

 小箱は密閉度が高く中身の揺れも読みやすいかもしれません。

 小箱3P以上の「貢ぎ物」を運べます。

 大箱は空間が大きく、重さ・挙動の読み取りが難しくなります。

 大箱は1P以上の「貢ぎ物」を運べます。

 

 先攻は「玉手箱」だけを選び、中身を選べません。

 また「箱を開けるか開けないか」を選ぶことができます。

 開けなければ加点も減点もありません。

 

【後攻】

 後攻はテーブル下で、専用の業務用手袋にて必ず四種類の貢ぎ物のうちいずれかの「器」を「玉手箱」へ投入します。

 

 貢ぎ物は「器」に入っておりますので、器ごと「玉手箱」にお入れください

・肉=1P 煙がたちこめます

・魚=3P 霧がたちこめます

・こころ=5P 香がたちこめます

・嘘=-1P 虚がたちこめます

 

 こころは ハート型ガラス瓶に香しいリキッドでお届けします。

 

 たちこめますでは分からない?

 はい!!これが中身になります。

 

・肉 → スモークチップの煙で視界を失います

・魚 → ドライアイス由来の二酸化炭素で酸欠に

・こころ → 愛の香りで吐き気を催すかもしれません

・嘘 → ただただ苦しみが増すばかりです

 

【先攻後攻】

 後攻は「玉手箱」の種類を選べず、先攻の指定した「玉手箱」にこれらの貢ぎ物の「器」を必ず投入することになります。

 

 大箱は構造上揺れが強く、無理に振れば破損する可能性がありますので、お取り扱いにはご注意ください。

 尚、「玉手箱」を破壊したプレイヤーにはガラス内に水を入れますので溺死していただきます。

 

 亀さんは箱を背に乗せられたら発進します。

 亀は中身の重さと動きに忠実です。

 揺れを見逃さないように先攻の方は「箱を開けるか開けないか」判断してくださいませ。

 ただし大箱ほど揺れは複雑になり、読み違いは致命的な選択を招きます。

 

 「玉手箱」は先攻が「開けるか開けないか」を選択し終わると亀が回収して中央ライン内の龍宮城に戻ります。

 このときに「玉手箱」がないと乙姫は癇癪を起こして両者に水責めを行います。

 

【乙姫の気まぐれ】

 

 乙姫は 3ターンに一度「こころだけ」を望む性質を持ち、

そのターンに他の素材が場にある場合、点数は減点されます。

 乙姫は厳しい方です。

 気まぐれが発動するターンは、開封しない場合は『場に存在しない』として-7点を減点いたします。

 

 んー、先攻が不利に見えますね。

 

 ゲームの勝利値は 49P。

 49Pを超えると水による死を迎えていただきます。

 

 膠着状態が2ターン連続したら、お二人とも水死体になっていただきます。

 

 しかし点を狙えば狙うほど煙・二酸化炭素・蒸気の蓄積が増し、3ターン目の換気まで体力が持たない危険が増加します。

 

【ターン構成】

 

1. 先攻が箱の大きさを決めます

2. 後攻が中身(肉・魚・こころ・嘘)を投入します

3. 先攻が箱を受け取り、亀の揺れから中身を推理、箱を開けるか開けないかを選択します

4. 先攻は点数獲得します

5. 3ターン目終了後、換気が入ります

 

 また、亀さんが沈んだり「玉手箱」が全壊した場合、ガラスを隔てる中央ラインより亀さんまたは「玉手箱」があるプレイヤーのガラスに水を注入させていただきます。

 

 亀さんは浦島太郎を運んだ過労にて目が悪いため常にスポットライトで照らされています。

 労働は大変ですよね。

 

【まとめ】

 

 本ゲームは、『箱のサイズ選択、中身の選択、重さと揺れ』の知識と読み合いと身体の限界が同時に絡む、簡単なのに極めて過酷な駆け引きです。

 

 反則行為は通信、暴力、「3分以上の遅延行為」反則者には即水責めで海の藻屑になって頂きます。

 

 以上、『乙姫のこころ』ゲームを開始します。__

 


 

「やだ……いい男。」

 

 そう言って唇を舐めると相手は顔を歪めた。

「気持ち悪いババアだな、化け物が。」

 侮蔑の言葉を吐いて手で払う仕草をした。

「先攻、私が欲しいわ。」

 彼は引きつった顔で宣言した。

「じゃんけんだ。」

 そして彼が勝ち、先攻となった。

 

【1ターン目】

 

 亀は龍宮城、もといベースの中に入っているようだ。

 

「まったくもう、先攻を女に渡してくれないなんて、レディーファーストをしらないのかしら、器の小さい男ね。」

 彼の顔に青筋が立った。

「そうかい、なら大箱を選んでやるよ。」

 そう宣言するとベースの穴から亀が箱を背負って私の足元まで水面をライトアップされながら移動した。

 亀が来ると足元のゴムパッキンが開いてテーブルの下に隠れる形で大箱が渡された。

 そのテーブル下から扉が開いて四つの「器」を選ぶショーケースが現れる。

 説明通り、肉はスモークチップ耐熱容器、魚はドライアイス耐用器、こころはガラス瓶、嘘は空の鉄箱だ。

 

「……いけそうかも。」

 

元良(いけそうだな……?大きい箱に「複数の貢ぎ物」が入るか確認する策か……確かにルールには「複数混入の禁止」はない。魚だろうが肉だろうが入れれば入れるほど「中毒死」は近づくんだ、馬鹿め。)

 

 私は専用の業務用手袋を使ってショーケースを開けて「器」を取り出すと、「玉手箱」に入れて亀にセッティングした。

 すると亀はパッキンから下がり、水面を泳いで相手のガラスまでライトアップされながら移動した。

 

「俺は『開く』……肉か……くっさい煙をどうも。」

 相手は「箱を開く」を選んだ。

 選ばれた場合、器が開く。

 つまり「後攻が箱詰め中に器が開くことはない」だが「ガラス瓶のこころは瓶であるため開いている」のだ。

 

 亀はスポットライトを背に浴びて「玉手箱」を運んで龍宮城へ戻った。

 二人は水責めになっていない。

 「器」は返却された。

 

元良(大箱は揺れが顕著に分かる、俺は目がいいからな。おまけに水上メカトロニクスは不安定ときたもんだ。)

 

「先攻後攻を交代します。」

 


 

【2ターン目】

 

「先攻は私ね?小さい箱を選ぶわ。」

 

元良(なるほど、こころがそんなに欲しいか、くれてやる。)

 

 彼はテーブルの下に潜って亀から渡された大箱に「器」を入れている。 

 

元良(……業務用手袋が分厚くてガラス瓶を落としそうになるのを見越してるな?分かるんだよ。このガラス瓶の臭い……鼻にツンとくる……毒ガス系か?ハッカ?ハーブ?分からないが嗅いだことはある臭いだ……除光液?……乙姫だから「気分が悪くなる香……か。」)

 

 亀がスポットライトを浴びながら渡ってくる。

 大箱と比較して小箱は揺れが少ない。

 揺れはするが、亀にセッティングされている「玉手箱」は水面から波立った水がかかることはなく、安定している。

 

 メカトロニクスでもかなり高性能だな。

 水上移動。潜水はおそらくはできないだろう。

 「亀が沈んだり」つまり、亀は浮力部分を超え一定以上沈んだら内部に水が入って破壊される。

 

 龍宮城は中央に聳えて天井から立っていて、洞穴のように亀はその穴をくぐり抜けた。

 

 亀はこちらのガラスの足元に潜り、ゴムパッキンが開いて大箱が置かれた。

「私は『開く』……こころ?ゲェェェェ……」

 マニュキアの除光剤?……ではないことは分かる。

 これは厳しいな。

 

「大丈夫かババア、オレの心配りだ。」

 

 開封が済むと箱は閉じられ、亀の背に乗ったまま龍宮城へと引き返した。

 

元良(あの調子なら「こころ」を連打すれば50Pオーバーで死ぬ前にババアは意識を失う。)

 

「先攻後攻を交代します。」

 

【3ターン目】

 

元良(小箱ならば貢ぎ物は限定される、大箱なら肉も入る、あの女が肉を選んだのは「視界を奪い酸欠にする」ことを狙ってのことだろう。一度確認するか。もし肉と魚でガラス割りを狙うにしてもガラス割りしても勝利にはならない。)

 

「先攻は俺だ。大箱を選ぶ。」

 

 ありがたい。

 亀が運んできた大箱に肉とこころを詰め込んで返す。

 やはり大箱は揺れるな。

 

元良(揺れのパターンが一ターン目と異なる、肉かプラスか。)

 

 戸惑っているな。

 

元良(若干亀の動きが重い……。まさか『乙姫の気まぐれ』にこころを渡したのか? もし嘘も足すなら-8点以上になる。ここで開封して確認すべきか、スルーして-8点を避けるべきか……。)

 

「俺は『開く』……こころと……また肉か。酸欠狙いか?こころをくれるとは親切だな、ババア。」

 

「3ターン目です!!『乙姫の気まぐれ』により元良さんは-1P、ボロさんは-7P。トータルで元良さん15P、ボロさん7Pです!!先攻後攻を交代します。」

 

 換気が入った。

 長期戦になったら死ぬな。

 

【4ターン目】

 

「先攻は私ね?小箱をくださいな。」

 

元良(ババアは特点狙いをするしかねえ、小箱なら3P以上は確実だ。さっきの反応で分かった。大箱より小箱の方が気密性が高い、つまり開けたときにダメージが霧散せずダイレクトにかかる。)

 

 亀がスポットライトを浴びてこちらにくる。

 揺れ方からして……こころにプラスだ。

 

「私は『開く』……こころに嘘?オゲェェェェ」

 

 彼は満足そうにしているのが龍宮城で見えなくともガラスの反射から見て取れた。

 

「大丈夫か?死ぬなよババア」

 

「こころに嘘なんて、ケツの穴が小さい男ね。もうイヤ!」

 

「先攻後攻を交代します。」

 

【5ターン目】

 

元良(ババアはこころを打てない、「器」を選択して個別のショーケースから手にした瞬間にゲロを吐いてバレるからだ、結局は魚か肉を送り続けて「オーバー」狙いをするしかない)

 

「俺は大箱を選ぶ。」

 

 亀がこちらにくる。

 軋みがあるが、あと十数ターンは持つだろう。

 肉を詰めて返した。

 

元良(亀は水面ギリギリを亀が動いている。水面の波紋や光の反射がガラスパイプに映り込むから分かり易い。肉やこころと組み合わせの場合、普通なら視覚的なノイズになり、亀の微細な挙動……つまり箱の中身の更に器の中身固形か液体かが見えなくなる。俺以外ならな。)

 

「ババア、また肉か?開ける前から分かるぜ。」

 

元良(モーターの振動、スロットル音、波紋の変化、俺には全てわかる。)

 

 得意げに手を広げている。

 

「え……わかるの?なんで……。」

 狼狽えてみせた。

「俺は『開く』また肉か、煙で前が見えなくて苦しいよー……次のターンまではな。」

 

「先攻後攻を交代します。」

 


 

【6ターン目】

 

「どうしよう……私は小箱が欲しいの……。」

 

元良(開くか開かないかを選べる、ババアは肉ばかりよこす。つまり、49点をオーバーしそうになった場合、亀の動きから判断して贈り物を拒否して粘ればいい。その前にババアはゲロを吐いて死ぬ。)

 

 亀がこちらにくる。ゆっくりとしたスピードだ。

 こころプラスで間違いない。

 

「私は『開く』こころに肉に魚?オゲェェェェゲェェェェ」

 

 二酸化炭素と煙と……。

 こころのアセトンで死ぬ。

 

「6ターン目です!!『乙姫の気まぐれ』により元良さんは-7P、ボロさんは-4P。トータルで元良さん9P、ボロさん3Pです!!先攻後攻を交代します。」

 

 換気が入った。

 このゲームは、『49P』に『ならない』。

 その前にどう相手を『削る』かだ。

 

【7ターン目】

 

「俺は大箱を選ぶぜ、ババア、よかったな。」

 

 ああ、ありがとよ。

 彼はこころを箱に詰めるときに吸い込んだアセトンで酩酊していて判断能力が著しく低下している。

 こころと肉を詰めて送った。

 

「俺は『開ける』中身はこころに肉……か。煙と……異臭……こころじゃねえ焦げ臭い、なんで箱が燃えて」

 

 簡単なことだ。彼は私にこころ、すなわちアセトンを運び続けて『間接的に自身のガラスパイプにガスを滞留させた』のだから。

 足元には水面、プール。つまり水がある=湿度が保たれる。

 アセトンや二酸化炭素は空気より重い。

 水面付近、つまり足元に高濃度の毒ガスが溜まり続けた。

 

「司会の説明にあったろう?小箱は密閉度が高く中身の揺れも読みやすい反面、詰め込みによる細工は困難。大箱は空間が大きく、複数の中身を仕込まれたり、液体の偏流が揺れとして露骨に出るため、重さ・挙動の読み取りが難しくなります。……と。」

 

 彼は燃える大箱を前に何もできないでいる。

 アセトンを呼吸によって摂取し、急性中毒を起こして思考能力がなくなって「読み合い」どころか「自分が誰か」すら分からなくなっているだろう。

 私はアセトンと気づいて鼻を覆ったが、除光液、ペンキ臭と誤解したな。

 

「俺は……ドライアイスで昇華した二酸化炭素による内圧の上昇の熱衝撃破壊でババアを殺……あれ?ババア?なんで燃えてんの?」

 

 大箱+スモーク+アセトン+反射光による「爆縮・発火」である。 

 肉すなわちスモークチップは、毎ターン煙を維持するために燻されていた。

 つまり火種、熱源だ。

 アセトンは、極めて引火点が低い-20℃の可燃性ガス。

 

 大箱は酸素を多く含み、水面とガラスの反射光……集光、更に「亀へのスポットライト」による温度上昇が加われば、箱の中は即席の燃焼炉になる。 

 

 運営がわざわざガラス瓶や耐熱皿を用意したのは、「そうしないと箱が壊れるから」だ。

 ドライアイスを直接置けば、樹脂やゴムを脆化させて割ってしまう。

 スモークチップを直接置けば、発泡スチロールや木を焦がしてしまう。

 アセトンを直接置けば、プラスチックや塗装を溶かしてしまう。

 

 業務用手袋のせいで「器」がアセトンにより表面が少しヌルついている、あるいは熱で木材が炭化して脆くなっていると気づかない。

 

「本来ならば、箱をに触れた瞬間に「熱い冷たい」といった温度変化を感じ取れまただろう。ただ、今回用意され着用を義務化された業務用の分厚い手袋のせいでそれが遮断された。これは「器」を滑らせて破壊させやすくするためと「今、箱がどれだけ過酷な温度変化に晒されているか」の目眩ましと気付くべきだった。」 

 

 正常な判断能力ならば亀のメカトロニクスの出力限界から逆算して 「大箱なのに小箱と同じように運べる=大箱は軽い素材、例えば発泡スチロールや薄い木材でできている」と推察出来たはずだ。

 

 亀……メカトロニクスのモーター出力には限界がある。つまり、「運搬できる総重量」が決まっている。

 あえて『小箱と大箱』に分けた理由には必ず必然性がある。

 

 小箱は体積が小さい。「金属」や「厚手の硬質プラスチック」のような、重いが丈夫で密閉性の高い素材により熱に強く、燃えにくいとする。

 大箱はそのままだと重すぎる。亀が運べる重さに収めるには、「発泡スチロール」や「バルサ材」のような、スカスカで軽い素材を使わざるを得ない。つまり熱に弱く、燃えやすい。

 

 なぜプールなのか、なぜスポットライトを使うかを考えよ。

 

「つまり、箱は見かけは同じだが「材質が異なり、大箱は軽く、小さい箱は重い」大箱が発泡スチロールや木製など軽い材質なのは見て分かる。なぜ貢ぎ物は「器」に入る?箱に直接入れればいい、つまり、箱に直接入れれば「箱が破壊される」からだ。」

 

 彼は燃えたあと、水責めによりゴムパッキンからプールに排出された。

 

「アセトンは水によく溶ける。気化した成分が水に溶け込んで、足元のプール自体が有毒な溶剤プールになっているだろう。以上。」

 


 

。。。

「なあ、ボロってなんの仕事してたんだ?」

 獅子神の食器洗いを手伝いながら雑談を振られた。

「工場……パートタイマーだ。」

 唇が動いた。

 『だから馬鹿なんだな』

 そう、

「え……それで、これ?」

 『それで、これ?』の意図に一瞬判断が遅れた。

「ああ……。」

 皿洗いを終えるとまた尋ねられた。

「機械とか直せんのか?」

 ……。

「私は錆び手……手に油分が多く触れたものを腐食させてしまう。メカニックとしては致命的だ、だから機械には触れることを許されなかった。無能だ。」

 言い終わる前に掌を握られる。

「湿ってて温かいよな。お前の手。」

 ……。 

「だからダメだった。役立たずで無価値の証明だ。」

 ……。

 なぜハグをされている?

「どうした?」

 顔が見えない。

「なんとなく。」

 なんとなく?

「ボクもぎゅーする。」

 真経津お前、お前なあ。

 ……医者、医者が加わるのは珍しいな。

「どうしたどうした、逆押し競饅頭か?」

 天堂はこちらを見てほくそ笑む。

「お、逆ハーレムだな!!」

 叶により動画が撮影され投稿された後、無事炎上した。

 

 フランケンシュタインの花嫁。

 そう視聴者からも呼ばれるようになった。

。。。

 

「おいボロ、大丈夫か?」

 

 うたた寝をしていたようだ。

 最近の出来事が昔々の懐かしい思い出に思える。

 

「次のハーフライフ戦か?」

 

 土屋田は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「ボロ、お前は死ぬな。」

 

「約束はできない。善処する。」

 

 

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