※この作品はR-18です。

悪癖   作:ummt

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The Tiny Frog Prince

 

「ボロ、次のハーフライフ戦は……お前の友達だ。」

 

 土屋田が暗い顔をして視線を落とした。 

 そうしょげた顔をするな。

 友達……私に友達など。

 いない。

 

 あのくだらない結婚式ごっこのあと、友人と名のる者たちから着信が何件かあったが、無視をした。

 風化して忘れ去られるか、憎しみ……侮蔑として記憶に刻まれるか。

 もはや、どちらでもいい。

 関係ない。

 

 ただ、天堂とは連絡を取っていた。

 神は公平だからな。

 

「すまない、またシスターにウェディングドレスを着付けてもらいたい。」

 天堂は二つ返事で建屋に招いた。

 

「式を挙げるのですか?」

 そんなわけ無いだろ、それくらいお前なら……。

 興味がなくて当然か。

「いや、冠婚葬祭にはあたるが、式ではない。」

 シスターにコルセットを締め上げられて失神しそうになる。

「『メンテナンスを怠るとは言語道断だ』と、彼は言っていましたが。」

 彼?はて、誰のことやら。

 

 治りかかった傷が痛んでいる。

 これくらい、他の医者でも治せる。

 治せないなら、そのままでいい。

 私はズタボロの負け犬ボロ、ボロカスのボロ。

 いや、朧気のボロ大先生だ。

 

 会場の扉を開ける。

 歓声が響く。

 私が、私のために。

 

「おおっと!ボロ大先生はウェディングドレス!?会場間違えてますよ!!」

 

「ごきげんよう、粘着質な観測者のボロちゃん。ワルモノの登場だ。……って、なんでオレが買ってやったウェディングドレス着てんだよ。ガチ恋勢だったのか?」

 

 叶…叶黎明……。

 なるほどな、ドクロマークのカラコン、そうか。

「もしかして晨くんか礼二くんだと思った?ユイくんには『友達と伝えろ』って言ったんだけど。まだ世界にいたんだな。」

 

 死に場所は決めている。

 

「本日の試合は友人……お二人は友人ですかね?叶黎明氏とボロ氏の友人対決になります!さて、両者コンニチワの挨拶を済ませて最高の……マアマアのコンディションで勝負に挑ます!!」

 


 

「今回の司会は蔵木が務めさせていただきます!!……ふう。」

 

__本日のゲームはカエルの王子様と一寸法師のハイブリッド、相手の心臓を潰す、自分の心臓を解放するという単純明快な『一寸のカエル王子』です。

 

 プレイヤーはガラスパイプの内部、椅子に拘束された状態を『馬車の中のカエルと姫』とし、童話になぞらえて参加していただきます。

 その椅子の背後には、あなたに忠誠を尽くす二人の『鉄のハインリヒ』が見守り控えております。

 

 ハインリヒの胸部には、左右三本ずつ合わせて六本の『鉄の轍(わだち)』が備わっています。

 これらはあなたの『心臓』を象徴する『ハートのバルーン』を守る役割を持ちます。

 

 勝敗は単純明快です。

 

・六本の鉄の轍がすべて「開くとき」

 ハートの解放、勝利です。 

・六本の鉄の轍がハートへ「刺さるとき」

 ハートは粉砕、敗北です。

 

 状態は常に、プレイヤー同士の選択によって変動します。

 

【カエル王子(先攻)】

 各ターンで以下の三つの行動から一つを選び、「池のほとり」にセットします。

 

『金の手毬』

 鉄の轍を一本開きます。

 

『打ち出の小槌』

 次の自分か相手の選択が発動するとき、『見たくない』以外の選んだ効果が二倍になります。

 ただし次のあなたのカエルターンでは再選択できません。

 さらに二ターン後には失効します。

 

『針』

 鉄の轍を一本「閉じる」。

 ハートに近づく危険な効果です。

 

【姫(後攻)】

 姫は以下の三つから一つを選びます。

 

『相手(カエル)』

 相手側の轍に、セットされた効果を適用します。

 

『自分(姫)』

 自分側の轍に適用します。

 

『見たくない』

 拒否。拒絶。

 空気は冷えます。

 『針』では相手に冷気を。

 『金の手毬』では自分に冷気を。

 『打ち出の小槌』では双方のガラスパイプに冷気が満ちていき、酸素が奪われます。

 死を大きく引き寄せる危険な選択です。

 

【パターン】

 

 カエルが『金の手毬』を選び姫が「自分」を選んだ場合 

→ 姫側の鐵の轍が一本、開きます。

 

 次のターン、先攻後攻交代したカエルが

『針』を選び、姫が再び「自分」を選んだ場合

→ 姫側の轍は逆方向へ一本閉じます。

 

【まとめ】

 

 守るか刺すか。受けれるか、拒むか。

 

 ハインリヒの忠誠心はどちらに傾むくのか。

 聞こえるのは勝利の歓声か、破滅の音か。

 

 反則行為は通信、暴力、「3分以上の遅延行為」反則者には冷気で氷像になって頂きます。

 

 以上、『一寸のカエル王子』ゲームを開始します。__

 


 

「カエルの王子様と一寸法師か。カエルの王子様は『処女喪失のメタファー』だって知ってるか?」

 

 叶のドクロマークのカラコンと目が合う。

「ああ、一部の地方では『金の手毬』は男性器とされ、カエルに夜這いを迫られた姫は『約束を守り』または『拒否して』カエルを王子様にする。つまり、処女を捧げたと解釈をする。その程度なら私も知っている。」

 フードを深く被り直して、テーブルに肘をついて語りかけた。

「まるでお前とオレみたいだな。残念だ、今日がお前とお別れの会になるなんて。」

 ……。

 怒るな、キレるな、平静を保て、叶は煽る、煽り屋だ。

 

。。。

「部屋……取ってあるって言ったよな。」

 

 旅館の客室前で叶に詰め寄る。

「だから2部屋取っただろうが。」

 スマイルマークのカラコンと目が合う。

 普通は「男女別に部屋を取った」「6人いるから四人部屋を3部屋取った」と思うだろうが。

「寝る時はボクと叶さんとボロさん組、獅子神さん村雨さん天堂さん組で別れよう?」

 ……。

 仕方がない。

 

 旅館とはいえ、温泉に化け物が浸かるわけにはいかない。

「ボロ、露天風呂らしいぞ。」

 露天風呂か……。

 この身体では、他の客に

「女将に確認を取った。術痕が残っていても傷が染みる状態やタトゥーでなければいいそうだ。」

 医者……。

 

 他の客が入る前に入ってしまうか。

「ひとっ風呂浴びてくる。」

 ……とはいったものの入浴客はおり、気味悪がられた。

 早めに身体を洗って退散しよう。

 

「なにあれ……病気?」

「しっ……言ったら訴えられるわよ。」

 

 別に正直な感想をいちいち訴えたりしない。

 なんとなく露天風呂に出てみた。浸からないが。

 まだ太陽は沈んでいない。

 いや、太陽はいずれ沈む。

 

「おー……湯上がり美人だな。髪、まだ濡れてる。」

 獅子神にタオルでワシャワシャと頭を撫でられる。

「髪留め……髪留めは?」

 髪留め?髪ゴムならあるが。

 叶は天堂に何か囁いて旅館から出ていった。

「なんだ?」

 しばらく卓球をしている医者と獅子神、マッサージ機で蕩けている真経津、美容パックを堂々と自室であるかのようにしている天堂を見ていた。

「あった……。」

 叶が息を切らして走り寄ってきて、首を

 絞められ 

「髪留めがなきゃ髪をあげられないだろ、浴衣はうなじを見せないと。」

 ……。

 ただそれだけのために観光地の土産屋に戻り走ったのか?

 なぜ?

 うなじをみるため?浴衣だから?

 ……。

「似合ってるね。」

 真経津がニコッと微笑んだ。

「……あ、あり、ありがとう。叶……。あの、代金」

 声が震える、落ち着け、落ち着け、落ち着け

 頭をペシッと叩かれた。

「オレからのプレゼントだ。ありがたく受け取れよ。」

 プレゼント……?

 なぜ?

 ……。

。。。

 

「お前が先攻後攻決めていい。せっかく入国審査に合格したのに、ボロちゃんはやっぱり馬鹿だな。オレを魅せてみろ。」

 

【1ターン目】

 

 そうかい。ならば先攻だ。

「私が先攻、カエルだ。」

 叶は必ずこちらをプレッシャーで潰そうとする。

 平静を保て、私はハーフライフで1勝した。

「カエルか。『ボロは不細工過ぎて万が一にも可能性はない』って敬一くんが言ってたな。確かにブスだもんなお前。」

 ……。

 私に容姿煽りは効かない。

 

 『針』をセットした。

 


 

 「カエルは池のほとりにセットしましたね?では姫!選択を!」

 どう出る、叶。

「オレは姫。『見たくない』だ。『針』か、ボロちゃん冷えちゃうな。冷えは女の天敵だろ?もう見捨てていいか?」

 ……。

 潰す。 

 

「先攻後攻交代してください。」

 

【2ターン目】

 

「オレはカエル。もう池のほとりにセットした。選べよ姫ちゃん。見窄らしいボロ雑巾は見たくない。」

 

 ……。 

「私が姫。『見たくない』だ。……『打ち出の小槌』……はっ、叶も冷えるな。」

 ……確信した。

 この冷気は、ドライアイスではない。

 

「村雨くんが『ババアの裸を見ることほど堪えるものはない』ってさ。」

 そうかよ、そうだろうよ。

 

。。。

「ボロ、浴衣の下って裸?」

 

 なんともまあ……。

 ババ抜きの最中に言うセリフではない。

「AVの見過ぎだ。下着は着けている。といってもお前が想像するような華美なレースのものではない。私は背に腕を回せないから上から着るスポーツタイプのものだ。」

 そう説明すると叶は手持ちのトランプを伏せて私に近寄り浴衣をはだけさせ

 ……。

「……何してんだテメエ。ブチ殺すぞ。」

 しまった、素で話してしまった。

「礼二くん、ボロのバストサイズは?」

「ああ、バスト」

「医者、ブチ殺すぞ。」

 叶は私の下着を吟味して「無いな」と言って再びトランプを持って何事もなかったかのようにババ抜きを再開した。

「礼二くん、あとで正確なサイズ教えて。ボロに可愛い下着を着せてやろ?」

 ……。

 キレるな、怒るな、落ち着け、落ち着

 落ち着いていられるか。

「人様に……異性に下着をつけてもらう馬鹿が何処にいる。」

「目の前。」

 私がおかしいのか?

 皆平然とババ抜きを続けている。

 冗談、冗談か。

 舐められたものだ。

 

 結局ババ抜きでは私が負けた。

 

「この下着は?いや透けすぎかよ。」

 ワイワイとスマホでランジェリーショップ……いや、あれはアダルトサイトだな。

 彼らは下着で盛り上がっていたので「先に寝る、おやすみ」とだけいって私の組の客室に戻った。

 既に敷布団は3枚敷いてあった。

 この場合、女男男や男男女より男女男の方がいいだろう。

 真ん中の敷布団に潜って朝を待った。

 布団にはいると、全ての情報が遮断されていく気がする。

 

 どうしてここにいるんだろう。

 私はなぜ、彼らと。

 彼らは友人、友人は今まで出来たことがない。

 私が馬鹿で不細工だからだ。

 人の気持ちを上手く汲めず、空気を読めないからだ。

 吐き癖は幼少期から、天気によってすぐに吐いた。

 歯は溶けた。

 それを指摘されると歯を食いしばった。

 歯はボロボロになった。

 ブス、気持ち悪いと、近づきたくないと。

 叩かれた。蹴られた。物を隠された。

 祖父母からも父母からも、出来損ないの片輪だと。

 暗算が遅いのは病気。頭が弱い。

 それを否定したくて取り続けた国家資格など価値はない。

 女が技術屋になれるわけがない。

 女は出しゃばるな。女のくせに。

 要領悪いな。成績がいい?女に用はない。

 馬鹿だと、のろまだと、私は、価値の無い人間だ。

 生きる資格がない。

 女になりたくなかった。

 苦しい。

。。。

 

「先攻後攻交代してください。」

 

【3ターン目】

 

「私がカエルだ。もう池のほとりにセットした。」

 叶は口角を上げている。

 お前は油断した。

 茹でカエルになるのはお前だ、叶。

 


 

「オレが姫『相手』……『針』な。ボロちゃん痛いか?愛したものに傷つけられるのは辛いな?『打ち出の小槌』で二本刺すから。」

 

 痛くも痒くもない。

 この肋骨……『鉄の轍』は全て刺さらない。

 

「先攻後攻交代してください。」    

 

【4ターン目】

 

「オレはカエル。池のほとりにセットした。お前はここに何しに来たんだ?コスプレ披露か?」

 

。。。

 目が覚めた。

 布団のなかで誰が上に乗っている。

 真経津……では

「ボロ、セックスしよ。」

 叶……コイツ。

 タッパがデカい、つまり覆いかぶされては……。

 身動きが取れない場合は、こうする。

「痛ってえな。」

 馬鹿が。私のガタガタの歯を見てるだろうが。

 人よりも鋭い、血が滲んでいる。

 あ、首筋を噛んだから浴衣に血をつけてしまった。

「オレさ、そういう反抗的な女を組み敷くの好きだから。」

 よし、そういう時はこうする。

「たす」

 口を塞がれた。両手も塞がれた。

 舌を噛むか。いや、反抗になるか。

 次のチャンスは口が離れたときだ。

「叶、お前女なら誰でもいいんだな。」

 叶はこちらを見ている。

 カラコンだから表情が分かりづらい。

 というより、近くで見るとカラコンキレイだな。

「好きって言ってほしい?」

 なるほど。

「叶、前に電話したとき「助けて」って女の声がしたとき「お気に入りとのSMプレイ」って言ったよな?あれ、嘘だろ。」

 叶は笑った。

「お前は知っててスルーしたんだろ。」

 そうだな、そうだ。

「ああ、卑怯だからな。自分の身かわいさにスルーした。」

 友人が人を殺したり嬲るような人間だと思いたくなかった。

 友人……?

「ボロ、「自分には価値がない」って言うなら抱かれろよ、価値ないんだろ?」

 そうきたか。

「価値のないゴミを抱いて得られるものは?」

 間があったあと、首筋を噛まれた。

「痛い痛い痛い!!」

 こうなったら抱きついて動きを止める他あるまい。

「お前、自己卑下するくせに自分の価値を守ろうとしてること、自分で分からないか?自分が嫌い?違うな、自分大好きの肥大した自尊心の塊。」

 ……。

「テメエ、いい加減にしろよ。」

 叶の首を手で掴んだ。

「力弱いな、殺す気もないくせに。図星つかれたから焦ったか、か弱い女の子の『ボロちゃん』」

 ……。

 殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺すころ

「……おい、ボロ、大丈夫か?意識あるか?おい」

。。。

 

「私が姫。『自分』に『金の手毬』か……開いたな。」 

 

「カエルの王子様の姫みたいに、あの夜に黙ってオレに抱かれればよかったんだ。そうすれば女としての自己肯定感が少しは上がったろ?カワイイボロちゃん。」

 そう口元でVサインを作り舌を出した。

 見え透いた挑発に乗るほど愚かではない。

 冷静になれ、落ち着け、煽りをいなせ。

 

「先攻後攻交代してください。」  

 

【5ターン目】

 

「私はカエル。池のほとりにセットした。」

 


 

「オレが姫だ『自分』に……『金の手毬』か。どうもボロちゃん。ユミピコが『うっとおしい目障りなヤツが消えてくれて清々した』ってさ。」  

 

 そうかい。

 轍が二本締まっているが、轍などいくら刺さっても構わない。

 

「先攻後攻交代してください。」  

 

【6ターン目】

 

「オレはカエル。もう池のほとりにセットした。やっぱり期待したオレが損するのか。」  

 私はがやることは、時期を待つだけ。

 

「お前、『構ってちゃん』の自覚ある?みんなに心配されたかった?晨くん『メンヘラオバサンが居なくて清々した』ってさ。」

 そうだろうよ。

 

。。。   

 

「意識が戻ったか。」

 

 目が覚めると医者がパタパタとうちわを扇いでいた。  

「医者……。叶は?」

 目が回っている。

 まさか、殺してないよな。

「『ボロを殺害してしまった』と大慌てで狼狽える様は見ものだった。」

 生きていたか……。

 よかった。

「そうか……で、今何処にいる?」

 今、何時だ?分からない、何も。

「カラオケだ。」

 ……。

 人が死ぬ気で……はあ。

「医者、お前もカラオケに行け。お前の手はうちわを扇ぐためにあるのではない。メスとカラオケマイクを握るためにある。」

 そう仰向けの状態で力なくうちわをもぎ取った。

「私が携帯しているのはスカルペルナイフだ。」

 知らん。

 

 医者が客室から出ていくのを見守った。

 

「やってらんねえ……情けねえ……カスだ、ゴミだ。おまけに女だ。死にたい。」

「懺悔しなさい。」

 天堂……いたのか。

「死にたいです。」

「なぜ。」

「価値がないから。」

「なぜ。」

「……はぁ……。天堂……私、皆に『興味をなくされる』『友達扱いされなくなる』ことがめちゃくちゃ怖いんだ。馬鹿だよな。元々無いものを失うことに怯えている。」

 天堂は何も言わなかった。

「天堂、カラオケ行かないのか?歌上手そうだが。」

「あなたを担いでくるようにと言われています。」

 荷物持ちか。

。。。

 

「オレが姫。『自分』に『金の手毬』か、ハートを開いてくれたなボロちゃん。泣きわめけよ。『好きなモノが手に入らない』『振り向いてくれない』って。」

 

 ……。

 叶のハインリヒの『鉄の轍』が開く動きを見て確信は深まった。 

「今からでも抱いてやろうか?慰めて欲しいんだろ?大切だって囁いて欲しいんだろ?お前だけを見ている、愛していると言って欲しいんだろ?お前は特別だって言われたいんだろ?自意識過剰なババアだから。」 

 ああ、そうだな。

 私はお前たちと対等になりたい。

 私を記憶の片隅に置け。

 置かせてやる、居座ってやる。

 絶対に、私の名をお前たちの記憶に刻ませる。

 

「先攻後攻交代してください。」  

 

【7ターン目】

 

「私がカエル。池のほとりにセットした。」

 

 叶、お前は凍傷で死ぬ。

 

 鉄の轍は薄く足された「液体ヘリウム」が充満するごとに劣化して機能不全になる。

 つまり、心不全。

 ハートのバルーンが何でできているかは知らんが、ヘリウムガスを使っている、または水素は……ないだろう。

 冷え方が違う。

 

 人間は、ある一定以上の低温になると感覚が麻痺する。

 まだ達していないが、いずれは「-79°Cのドライアイス」と「-269℃の液体ヘリウム」の体感的な区別がつかなくなる。

 寒さも痛みも感じなくなる。

 

 極低温で低温脆性によりガラスのように脆くなった鉄の轍……もとい爪が、駆動の衝撃に耐えられない。

 必ずバネや油圧の力が働き粉砕する。

 

 その勢いで、鉄の破片が散弾となり至近距離のハートの心臓を打ち破る。  

 バルーンがゴムなら弾性を失いガラスのように砕け散る。

 ハート……心臓は脆いものだ。

 

「お前、全然これっぽっちも『オレ達のこと見てなかった』んだな。」

 

 ……。

 ふざけるな。

 私がどれだけ

「お前たちを羨望していたか……。」

 寒い。

 寒いな。

「自分に都合の良いオレたちを見ていただけだろ。」

 ……。

「『可哀想な私を守ってくれる騎士達』だから、『自分が騎士になりたい』お前は」

「黙れ!!」

 勢い余って立ち上がっ……。

 立ち……。

 『鉄の轍』だけでなく『拘束具』も劣化し……。

 

「ボロちゃん、泣いて頼め。『愛してくれ』ってな。」

 

「ルールに『椅子に拘束された状態で参加していただきます。』とありましたよね?逃げ出したカエル王子は追放です。冷気をどうぞ。」

 ……。

「は?」

 

 冷気が流れ込んできて、ガラスパイプが破裂した。

 

「ボロちゃん、次会った時は昇天させてやるよ。」

 

 

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