夢を見ていた。
私は若くなく、歯もボロボロで醜い姿のままだ。
態度も悪く、可愛げがない。
ツギハギのフランケンシュタイン博士の化け物を彷彿とさせる。
仏頂面は不機嫌ハラスメントを想起させ、他者から嫌悪と侮蔑の目を向けられ、謗られる。
何より、頭が悪く馬鹿で、場の空気を読めない。
しかし、友人達は私を迎え入れてくれた。
「ボロさん、遊ぼう?」
「リクエストはハンバーグしか無いのか?」
「ゲーセンに行こう。」
「ボロさんは善き人です。」
「あなたはマヌケだ。」
案外、悪くないな人生だったかもな。
私はもう、夢を見ない。
見ることが、
夢、
「ゲ……真経津さん待ち受けをあの女にしてるんですか?不吉だから変えたほうがいいですよ。」
御手洗くんは、ボロさんの何を知っているの?
「……本当に真経津さんに対して馴れ馴れしい女だったんですね。」
どうしてそう決めつけるの?
。。。
「ボロさん、一緒に写真撮ろ?」
ボロさんに抱きつく。温かいな。
「なんでだよ。」
写真を撮りたいから。
「ハイ!ピース!」
ボロさんは仏頂面でピースした。
「笑ってよ。」
髪をワシャワシャと撫でられた。
「スマイルは有料だ。距離感を間違えると不用な誤解を生むからやめなさい。」
どうして?
。。。
「……で、話って何?」
「うわ……あの女性か。俺苦手だったんですよね。彼女、なんか偉そうじゃなかったですか?獅子神さん、こんな女よりグラビア写真にしましょうよ。」
「……あー。」
ボロがお前達に悪態をついたことなんて無かっただろうが。
。。。
「海だ……潮風だ。」
ボロは靴下を脱いで波に足をつけた。
「あんまり遠くに行くなよ。」
目を離すと、何処か遠くに逃げてしまいそうだ。
「痛、あー……ビーチグラスか。踏んでしまったようだ。」
慌ててボロの足の裏を見るとガラス片が刺さっていた。
「まったく、世話が焼ける。」
そう言って肩を貸すと、申し訳なさそうに下を向いた。
「……迷惑かけて、ごめんなさい。」
なんでオレを頼らなかった?
。。。
。。。
「ボロ、デートに行く。」
そうボロの手を取り、恋人つなぎにする。
「錆び手だからヌチョヌチョになるぞ。」
無視をしてゲーセンに入った。
「ゲー……またプリクラかよ、前にみんなで撮ったろ。」
「カップルモードがあるんだよ、ボロは馬鹿だな。」
ボロは宙を見ていた。
繋ぎ止めないと、視界からフッと居なくなりそうで、
「うわ……ポーズ指定されるのか……キツいな。」
そういいつつ肩や手を掴んでポージングさせるとそのまま動かない。
「楽しそうにしろよ。オレとデートだぞ?」
ボロはため息をついたあと笑った。
「お前が楽しそうにしろよ、叶。」
プリクラを撮った後、文字を書き込んだ。
「ボロも描きたいか?」
「別にいい。」
「ならレイメイ♡ボロにする。」
「別にいい。」
オレはどうしたらボロを止められた?
。。。
「あ!レイメイだ!写真撮ってください!」
ファンの女子高生に声をかけられた。
「え、何、レイメイの待ち受けキモっ!あのブスじゃん!」
「は?お前誰。」
。。。
「夕陽が綺麗ですね。」
彼女はパーカーの前ポケットに手を入れてカラカラとコンプレックスの歯をみせて笑った。
「お前の方がキレイだよ。なあ天堂、お前の写真撮っていいか?」
コクリと頷くと、スマホをこちらに向けて微笑んだ。
「絵になるな。」
自分自身を強く否定するのに、他者に対しては素直に肯定をする。
「では……。」
スマホを掲げて彼女に向けると、ニカッと笑った。
「私を撮っても意味ないのに。」
彼女はトテトテと走り寄ってきて写り具合を確認した。
「綺麗です。」
しばらく歩みを共にすると、彼女はポツリとこぼした。
「なあ、神っていないからいるんだよな。」
彼女はジンテーゼをよく使う。
「そうですね。」
「前に『クラゲになりたい』って言ったろ?輪廻転生は仏教だから譬え話だが、今は違うものになりたいんだ。」
河原の土手を並んで歩きながらポツリポツリと零す。
「私は『ビーバーになりたい』んだ。」
「ビーバー?」
ビーバー、げっ歯……。歯がコンプレックスだからか?
「ビーバーってさ、好き勝手にそこら中の木を切り倒して居心地のいい住処を作って森林破壊をするんだ。」
破壊衝動?
「でも、それが巡り巡って川を堰き止めるダムになり、池になって動物たちの生態系を良くするんだ。自由なのに誰かの役に立ってる。いいだろ?ビーバー。」
「ボロさんらしいですね。」
。。。
教会から出ると、出待ちの信者に腕を引かれた。
「神父様、お救いください。」
予定を確認する。
「待ち受け……夕日に潜む化け物……。神父様はホラーがお好き?」
夕日に潜む、
「善き人が好きです。」
。。。
「医者、私はもう長くないのだろう?」
彼女は検査着を脱いで白く表皮の硬さが複雑に混ざり合った肌を露出させた。一部が赤らんでいる。
「なぜそう思うのかは知らんが、私がいる限りあなたは死なない。」
そう触診すると、露骨に嫌な顔をする。
彼女は「感情を隠すことに長けている」と傲っているが、無表情ほど分かり易い指標はない。
「ところで、私は辛いものにはめっぽう強いが、甘いものはてんでダメなのだ。」
これ以上言うな。
「私は『痛み』だけを感じることができる。『快楽』など、意味を持たない。」
唇を押さえた。
「フランケンシュタイン博士と怪物。」
彼女は腕で押し返してくる。
「フランケンシュタイン・コンプレックス。私は怪物ではない。ズタボロのボロだ。ボロ大先生だ。……だから博士や友人を殺さない。ただ、跡形も無く消えるのは同じだがな。」
笑うな。あなたは、
。。。
「えーっと予定かー。次の診察は来週の金曜日が良いです。金曜日は暇なんで。」
金曜日か、混むぞ。
「予定を確認する。」
伏せていたスマートフォンを手に取る。
「ん?待ち受け……村雨先生の奥様?は写真立ての方ですよね?あ、……ネットで見たことあります!『フランケンシュタインの花嫁』でしたっけ?気味悪いですよね。ゴシックホラーがお好きなんですね!なんか分かるなあ。」
彼女を知らぬ者が彼女を語るな。
「私の永遠の人だ。」
「はい?」
「ねえ知ってる?フランケンシュタインの花嫁の噂。」
「知ってる。レイメイが悪霊退治したやつ。」
「待ち受けにすると化けて出るらしいよ。」
「え、あたしは恋愛運が上がるって。」
「違うよ、人間関係が上手くいくって。」
「死んじゃうんじゃなかった?」
「どうでもよくね?待ち受け変えよ?」
「あたしは、ネコチャン!」
「あはは、ウケる、うちゅーねこ!」
「あ、そろそろ時間じゃね?」
「もう帰らなきゃ。」
「塾が忙しいからさー。」
「ウチはバイトだよ、シフトキツい。」
「ねー、つらみ。」
「じゃあ」
『バイバイ、また遊ぼうね。』