「身バレしないのか?」
腕を組んでいるボロが不安気に上目遣いをしてきた。
「ウィッグしてるし、カラコンも変えてるから問題無いだろ。」
そう答えるとふう、とため息をついて視線を戻した。
ボロは不安定だ。
精神面でも肉体的な意味でも。
肩に穴があいたからか物にぶつかったり、よく転んで怪我をした。
「そうか……ならいい。」
身バレはボロの方が『フランケンシュタインの怪物』として配信に出したからリスクがある。
その怪物の隣を歩いているのは、オレだ。
「匂わせするか?」
言い終わる前に肘鉄をしてきた。
「馬鹿なことを言うな。……都内のクレーンゲームはアームが弱くないか?ぶらぶらしててかすりもしないだろ。」
話題を反らすのが下手くそ過ぎる。
「技術があればバネが弱くても取れる。」
ボロは不満気な顔をして、何かを見つけたようで腕からするりと抜け出してゲーセンの奥に消えていった。
、、、
「勝手に行くな。」
ゲーセンのクレーンゲームコーナーの隅で財布から小銭を取り出しているボロの頭を叩くと「痛い、あれ」と筐体を指さした。
「……ダンゴムシかよ。」
確かに「ぬいぐるみを取ってやる」と言って誘い出したが、ダンゴムシのでかいぬいぐるみを取るとは流石に想像してない。
「違う、オオグソクムシだ。」
ムシならどれも同じだろ。
「……待ってろ、取るから。」
筐体のライトに照らされているボロの瞳は鏡のように反射していた。
なにもかも跳ね返す、受け付けないという固い意志。
オレを見ろ。
わざと何回か失敗してやると、だんだんと子どものようにはしゃぎ始めた。
「あ……惜しかったな……あとX-1.3cm、Z+0.4cmで脚に引っ掛ければ取れたのに……次、私がやってみてもいいか?」
ようやく眼と眼が合った。瞳にはオレが映っている。
「やってみろよ。」
場所を交代して隣でレバーを握りながら唸るボロを見ていた。
「……あ!やりい!取った!取った!みて叶!」
オレが位置を調整してやったことに気づかず、指パッチンのような動作をした後に取り出し口からダンゴムシのでかいぬいぐるみを抱えてみせた。
「お前、もしかして指パッチンが出来ない?」
ボロはバツが悪そうに目を逸らした。
「……いや、……うん。」
目の前で指パッチンをしてみせると不貞腐れたようにゲーセンの中を彷徨い始めた。
晨くんも礼二くんも知らない、オレだけが知っていること。
「お前、オレがいないとなんにも出来ないな。」
「ボロ、セックスするか?」
ダンゴムシを抱えるボロの足が止まった。
「……したくない。」
そのままラブホに連れ込んで、室内に入った瞬間に顎を掴んでキスをした。
「……キスが丁寧だな……叶、もしかして私にガチ恋してるのか?年増に欲情してるのか?」
乗ってやるか。
「勘違いするなブスババア。」
シャワールームで服を脱がすと、現れた裸体に刻まれた生々しい傷跡とキスマーク、歯形をまじまじと見た。
「ヤることヤッてんな。」
痕を指で撫でると、必死に反応しまいと神経を張り巡らせて抵抗しているのがわかって、もう一度キスをした。
「……ふ、シャワー……浴びたほうがいい。」
腕で押し返そうとするボロの手首をつかんで裸体を何度も視姦した。
今、ここでボロを無茶苦茶に抱いたら、確実にボロの精神は壊れてオレのものになる。
「……だな。」
シャワーを浴びている最中、ボロはオレに背中を向けて小刻みに震えていた。
触れる度に怯えて、立っているのが精一杯なのを必死に隠そうとしている姿は、崖っぷちに追いやられた小動物に見える。
「おー……バスローブ、初めて着るな。」
虚勢を張るボロの髪をドライヤーで乾かすと、ボロは立ち上がってテレビモニターの前に座った。
「お気にも同じようなこと言ってたな。ラブホ処女もらったから。」
リモコンを持つ手が震えてる。
「ゲーム制作者の子だろ?限定公開でもアウトだぞあれは……AVって見れないのか?見たことないから観てみたい。」
時間稼ぎが下手くそ。
それに、オレをよく見ている。
「なら見るか。」
「……強姦ものが多いのは、実際にやったら罪になるから……背徳感が強いためか……。」
生意気にレビューをし始めるボロを後背座位の体勢で抱きしめるとビクッと身体が震えた。
「叶……当たってる」
前開きのバスローブの隙間から手を入れるとギュッと脚を閉じた。
「生理現象。」
ヘソを指で円を描くように撫でるとか弱い声を漏らし始めた。
「……したくない。」
固まったボロを抱きかかえてベッドに座らせて、スマホを見せた。
「お気にとのハメ撮り。」
ボロは一瞬無表情になったあと、画面をスワイプし始めた。
「……お気にの女との事後写真を見せるとはとんでもないな。」
スマホを持つ手がカタカタと震えている。
「満足そうだろ?」
動揺しまいと必死な姿は、かえって加虐心を煽ると分からないんだろうな。
ボロは馬鹿だから。
「……お前がな。」
スマホをベッドの脇に置いて立ち上がろうとする手首を掴んだ。
「ボロ、オレのことどう思ってる?」
逃げられないと覚悟を決めたのか、ベッドに腰掛けてポツリポツリと話し始めた。
「……タッパがデカい、ガラが悪い、有名人、ギャンブラー、顔がいい……想像よりも他者に気を使うタイプ。」
軽く肩を押すとボロは人形のようにコテンと仰向けになった。
「オレとセックスしたいな?」
ボロはふう、とため息を漏らすと目を瞑った。
「……したくない。」
頬を撫でながら舌キスをすると、唇が離れた瞬間に手でガードされた。
「お前って年増好きのブス専か?」
本当にコイツ、同じハーフライフ戦を戦っているギャンブラーか?
駆け引きが下手くそ、何もかも下手くそ。
「お前が馬鹿だからセックスしてやるっていってんだよ、ブスババア。」
、、、
「これがオレが好きな体位。」
ベッドで寝そべりながらエロ本を開く。
「本当にイカれてるな。……時よ止まれ!!」
ボロはさっきまで見ていた時間停止ものの男優のセリフを宣言した。
「止まらねーから。」
腰を撫でるとビクビクと跳ねるのを必死で抑えようと唇を噛んだ。
「だよな……冷蔵庫のものって有料なのか?」
セックスなんて、減るもんでもないだろ。
愛した者が乱れる姿をみることが罪になるのか?
「あー……支払うから好きなの飲めよ。」
今、無理やり犯して警戒されるより、オレに依存させて毎晩セックスをせがむようにしよう。
「ピザ頼んでもいいか?お腹すいた。」
ボロはオレに生かされていることを分かっている。
「色気より食い気かよ。」
ボロの頭を叩いて、そのまま手を置いた。
「……ところで叶、歳は幾つだ?」
「28。」
「三十路と大して変わらないだろうが……。」
『青い炎』(Blue file)
敗者は死亡する可能性がある。ハーフライフ〜ワンヘッド相当。
ペナルティは有毒の煙。
プレイヤーは幸せの鳥を探すため鳥かご(網目の細かい鉄格子、エレベーターサイズ)に入る
卵は24cmのカプセル
石は火かき棒でアルコールランプの上で火をつけると灯した判定になり、灯れば消火してよい
カードを選択する部分だけが透明プラスチックの鉄格子なので相手の卵数を正確に判断するのは困難
【勝利条件】
・全種類の石を灯し、卵を7つ以上入手したら勝利
・卵を49個以上入手したら勝利
・ポイントが108Pになったら勝利
・プレイヤーが継続困難、または死亡したら敗北
【ゲームの流れ】
先攻後攻を決める、ターン毎に先攻後攻を入れ替える
①道順
カードが3枚(0、1、3)ある
先攻は後攻が伏せた3枚のカードから1枚選択して道順(ダイアルを回せる数)を決める
このときに3であれば0〜3まで自由に選択出来る
②方向
『黄金の鍵』を使って『ダイヤのダイアル』の方向を決定する
③場所
ダイヤルの行き先の選択肢を選ぶ
④行動
卵を入手:卵がパイプから鉄格子に運ばれる
卵を廃棄:卵が穴から1つ落ちる(回収)
石を入手:テーブルの扉から石が出現、灯す灯さないを1回選択
※灯さない石は保持したまま
その他効果
『ダイアのダイアル』
0(左)〜6(右)
0:思い出の国
1:夜の宮殿
2:森林
3:墓地
4:幸福の花園
5:花畑
6:未来の国
『黄金の鍵』
ダイアルを左(0)が右(6)方向にするか決定する
『叡智』
石で火を灯す毎に3P、石は使い切り
3種類灯す毎に+3P
全種類灯すと+5P
卵を破棄して相手の行動を選択する
【ダイアルの行き先】
以下選択肢から選ぶ
『思い出の国』
卵:卵を1つ取得、または1つ廃棄
過去:(ダークグリーンの炎:ホウ素)
望郷:(ピンクの炎:塩化カリウム)
愛情の石:(ダークピンクの炎:塩化リチウム)
『夜の宮殿』
卵:卵を1つ取得、または1つ廃棄
病の石:(レッドの炎:塩化ストロンチウム)
戦の石:(パープルの炎:リン酸アンモニウム)
不安の石:(ライトグリーンの炎:バリウム)
『森林』
卵:卵を1つ取得、または1つ廃棄
獣:相手の卵を1つ奪う
伐採:相手の石を1つ奪う
排他:次ターン相手の黄金の鍵の方向を決定する
『墓地』
卵:卵を1つ廃棄
霊の石:石を取得(ブルーの炎:ガリウム)
影の石:石を取得(ダークブルーの炎:インジウム)
骨の石:石を取得(オレンジの炎:カルシウム)
『幸福の花園』
石:1つ廃棄
贅沢の石:石を取得(グリーンの炎:銅)
過食の石:石を取得(ダークオレンジの炎:塩化リチウム)
怠惰の石:石を取得(クリアな炎:エタノール)
『花畑』
卵:卵を1つ取得
健康な体:ガスマスクを3ターン装着可能
清い空気:換気が入る
清潔な雨:シャワーが流れる
『未来の国』
卵:卵を1つ取得、または1つ廃棄
時:一つの卵を石に戻す
子供:一つの石を卵に変える
涙の石:石を取得(イエローの炎:ナトリウム)
「うさぎ……なめなめは……。」
目が覚めて下を見ると、いつの間にか真経津が布団に潜り込んで乳房を舐めていた。
「なめなめ?もっとして欲しいの?」
鍵を変えても二重窓にしても必ず不法侵入してくるな、ラフメイカーの方が鉄バットで窓ガラスを割ってくれるぶん、分かりやすくていいぞ。
「真経津……やめろ。」
そんな頼みを聞くわけがなく、先端を舌でなぶられたあとキツく吸われて絶頂してしまった。
「あん……話を聞け。」
真経津は下に下がり、割れ目を喰むように愛撫し始めた。
「びしょびしょだね。ボロさんはやっぱりエッチ。」
生理現象だ。
誰だって性器を舐められたら反射として濡れる。
「真経津、いい加減にしろ……。」
頭をどかそうとしても力が入らずに撫でるような仕草になってしまう。
「なでなで。」
撫でていない。
ダメだ、また流される……どうしたら止められる?
「ねえ、ボロさん。」
いつの間にか真経津の顔が目の前にあった。
「叶さんとエッチしたの?」
……。
叶は私とのラブホAV鑑賞会を一々報告するタイプか?
抱いて捨てた、ヤり捨てたの報告やハメ撮りを撮ったならまだしも、ただラブホに入ったことを彼らに
「ねえ、ボクは質問してるんだけど。」
……。
ただラブホに入ったという事実を馬鹿正直に伝えて納得をするのか?
「……してない。」
……。
真経津に抱きしめられ、舌を入れられて舌先をしつこく擦り合わせれる。
「んふ、ふう」
ダメだ、酸欠になったら頭が回らなくなる。
長いキスに気を取られて、秘部をなぞる指に反応が遅れた。
「……んあっ、ああっやだ」
指でバラバラと中を掻き回されて思わずしがみついてしまう。
「ボロさんは奥さんがいる村雨さんともエッチするし、叶さんともエッチをする……欲求不満なの?」
どうすればいい、医者とは「嫌だが仕方がなく、挿入がないから」、叶とは未遂だなど通用するわけがない。
「違う……あっ、まって」
膣壁を指の腹で押されて絶頂してしまい、真経津は笑って指に絡みついた愛液を指先でぴとぴととさせながら見せつけてくる。
「エッチなんだね、ボクだけじゃ我慢できないんだ。オナニーでも我慢出来ないんでしょ?」
落ち着け、考えを整理
「そんなにエッチしたいなら、ボロさんからしてよ。」
……。
それはAVで見たようにす
「して?」
……。
あのAV女優はまず
「……してくれないんだ。残念。」
……。
引いた?
「そういえばボクね、愛美ちゃんと連絡先を交換したんだ。ボクに気があるみたい。」
……。
そうか、それは
「ボロさんがしてくれないなら……してみようかな。」
……。
コイツ……。
「真経津、私と遊ぼう。」
私が下がり、真経津の乳首や腹筋を舐めた。
「くすぐったい。ボロさんは本当にボクに夢中だね。かわいい。」
さらに下がって勃起したモノを口に含んで舌で転がした。
「上手だね、えらいえらい。」
頭を撫でられ、股間に押し付けられる。
「んふ、ひもひいい?」
口の中に出されたあと、騎乗位になって腰を振った。
「……っ、真経津……気持ち、気持ちいい?」
真経津は胸を鷲掴みにしながら腰を動かしてピストン運動をしながら、いきなり腰を掴んで深く突き上げた。
「ああっ……イクゥ……」
あまりの衝撃で後ろに倒れそうになるのを腕を引っ張られて止められる。
「ボロさんばっかり気持ちよくなってるね。」
どうしたら……。
「ボクが戦った『青い炎』って覚えてる?」
いきなりギャンブルの話?誘導か?
「うっ、うん、うあっ……覚えてるっ」
動きが激しくなって頭が
「どうやって勝ったか答えて?」
だめだ、思考が
「ま、まふ、まふつがあっ……たまごを…あぅ」
またイく、やだ
「卵の中身はセルロースだったから『清潔な雨』を使って膨張させた。卵を溜め込んだ相手を窒息死させたんだよ、お馬鹿さんだね。」
イく
「カッコーの卵も個人の欲望でしかないんだよ。欲望は止まることを知らずにぶくぶくと膨らんでいく。中身の本質から目を背向けて幸福な青い鳥を見ない。本当の愛を疎かにするボロさんにはお仕置きしないといけないね。」
「ボロさん!お久しぶりです!この娘が愛美ちゃんですか?」
獅子神の彼女……こぶつさんはわざわざ古物商として海外買い付けに行った帰りに呼び出されたにも関わらず、嫌な顔一つしなかった。
「はい!夢野愛美って言います!高校2年生です!17歳!」
「私は古物商だからこぶつさんって呼ばれてるの、歳は秘密。」
今日は愛美ちゃんの服を新調するという名目で獅子神とこぶつさんが付き添い者に名乗り出てくれた。
……。
本当は愛美ちゃんの下着のサイズが合わなくなったからランジェリーショップに行く目的で私が相談を受けたのだが、私に下着に関する知識など無く……獅子神に頭を下げてこぶつさんに「服を選ぶセンスが無いから助けて欲しい」と無茶なお願いをしてしまった。
「駅にあるデパートでいいか?」
愛美ちゃんは「うん!」と元気に返事をしてみせた。
、、、
二人は直ぐに打ち解けて意気投合したようだった。
「これ本当に貰っていいんですか?……綺麗な香水瓶……。」
こぶつさんは海外買い付けの手土産にと私と愛美ちゃんに細かな装飾が施された香水瓶を贈ってくれた。
「……ありがとうございます。」
ここで「気を遣わなくても」「申し訳ない」は不適切だ。
「じゃあ買い物しますか!敬一さん。」
「ああ。」
獅子神は意図を理解して距離を置いて歩みを進めた。
……阿吽の呼吸というやつか。
いい夫婦になるな……。
「……ボロさん、今日って愛美ちゃんの下着を買いに来た……で、合ってますか?」
こぶつさんが私の腕を組んで耳打ちをした。
「はい。お察しの通りです。私には知識が無いもので……。」
彼女は私が歩行が困難な事に気付いたようで、支えながら歩いてくれた。
こぶつさんはウインクすると、愛美ちゃんを手招きしてランジェリーショップまで導いてくれた。
「かわいい!でも流石に値段が……買えないかな……。別のファミリー向けのショップの方が……。」
確かに若者が気軽に購入出来る価格帯ではない。
「心配する必要はない。私が支払おう。」
そうパーカーのポケットから財布を出そうとすると、こぶつさんに手で静止された。
「私がだすよ!そのかわり……出世払いね!利子が高くつくかもよ?」
「えー!出世払いかー……うん!頑張って返すね!ありがとうこぶつさん!」
……。
ああ、馬鹿だな。
彼らと長く居たから麻痺していたが、パーカーを着てバッグを持たずに財布を直だしする三十路のパートなど……社会底辺にいる貧乏人に他ならない。
私がいくら賭博場でウン十億稼いでいようが、それを証明することなど不可能だ。
私が付き合わせたのに、こぶつさんに貸しを作ってしまった。
後で獅子神経由で支払わないと……。
「こぶつさん、これとかどう?派手かな?」
「ちょっと攻めすぎかな。愛美ちゃんにはこっちの方が似合うよ。」
……。
まるで姉妹のように仲がいい。
……本当に私は馬鹿だ。
一瞬でも「うらやましい」と思ってしまった。
私はツギハギ化け物、場違い、異物なのに。
こぶつさんに支えてもらって、介護役までしてもらって、お荷物だ。
……消えてなくなりたい。
「ボロさんも下着買おうよ!こぶつさん、出世払いにしてあげて?」
「ダメー!ボロさんには実費を支払ってもらいます!」
腕を引かれて耳打ちされた。
「……手持ち、あります?無いようであれば……」
死にたい。
「ハンカチお揃いにしよう?……私は白鳩がいいかなー。平和と愛の象徴だし!」
愛美ちゃんが動物の刺繍が入ったハンカチを選び始めた。
「なら私は鹿!バンビちゃんね!……ボロさんはどうしますか?」
話題を振られても……私に相応しいモチーフなど……。
怪物……コウモリ、ブタ、ドブネズミ
「ボロさんって好きな動物いないの?」
……。
「ならオレが選んでやるよ。」
な……お前、彼女の前で別の女に選んでやるなど言語道断の行いで。
「かわいい、うさぎさんか!ボロさんにぴったりですね!」
……何が?
実験動物としてモルモットと同様に多用されたから?
弱き者のイメージだから?
……それともプレイボーイから連想されるようなビッチというニュアンスで?
うさぎは穴を掘り、土を被り汚れている。
私が泥に塗れた汚物だから?
「……ありがとうございます。」
、、、
「ボロさんとこぶつさんは何がいい?」
愛美ちゃんの下着や服、日用品を粗方買いそろえたあとにクレープ屋に寄ることになった。
「……私はツナマヨ。」
「私はブルーベリーチョコバナナ!」
獅子神から荷物持ちの役目を引き継いでベンチに腰掛けた。
……。
こぶつさんと二人きりだと流石に気まずい。
彼女は私のことをどう思っているんだろうか。
……見た目は化け物でも一応女であるから、やはり彼氏の周りにいる女として……不快、目障りだろう。
「あの、大丈夫ですか?……その、体の具合とか。」
想定していなかった問いかけに絶句してしまった。
「……あ、えと、体のほつれは医者に診てもらってます。体調はそこそこです。」
今の返しで適切だったか?答えを間違えていないか?
どうしたら、……不快にさせたかもしれない。
「そうじゃなくて……気を張り詰めていますよね?……もしかして村雨さんに嫌がらせされてませんか?」
……。
なぜ医者が引き合いに出た?
こぶつさんは獅子神の彼女であるから医者と接点があるのは分かる。
ただ、「医者に嫌がらせ」とピンポイントで問われたということは……。
……不貞行為が獅子神にもバレていて「ボロの奴ああ見えてビッチでさ」と話題に出されたのか?
「いえ、大丈夫です。あんな医者くらいどうってことないですよ、はは。」
……。
これで合っているか?
「ボロさんが心配で……敬一さんも『ボロはオレに気を許してない。オレそんなに頼りないかな』ってよくこぼすんですよ。」
……心配?
「……これ、私の連絡先です。なにかあったら何時でも連絡してください。……あ、店のことをしていたら直ぐに出られないかもしれませんが、必ず折り返し連絡します。」
……獅子神がこぶつさんに話をした。
つまり、私がこぶつさんと獅子神の貴重な時間を奪った。
私はいったいどこまで他者に迷惑をかければ気が済むのだろうか。
「……ありがとうございます。こぶつさん。」
、、、
「なあ医者、fォーリング・ダウンはどうだ?」
医者と二人きり。
この場で逃げ出すと「駆け引き」とされて状況が悪化する。
「どうだ?と言われてもな、自己認識と他者評価が誤った病的な男を描いた映画だ。あの男は……伏せるが深刻な病状だったのだろう、他人の心が分からないのは典型的な症例だ。」
はたして、本当にそういう設定だったのだろうか。
「私の解釈は違う。……これは『福祉の手、社会の配慮が届かなかった救えたはずの者』の映画だ。」
彼は過ち理解出来ていた。
理解出来ていたからこそ、水鉄砲を出したのだ。
「そうか?自業自得だろう。」
確かにそうだ。
環境や病状を言い訳にすれば何をしても許されるべきではなく、等しく裁かれるべきだ。
ただ、過ちを犯す前に自己責任論で片付ける前にやりようがあったはず、そう思うのは過ちを犯した当事者のエゴでしかない。
「マーチン刑事はどうみた?」
彼は見ていた。
彼を犯罪者としてではなく、一人の人間として見ていた。
「老いぼれの最後の栄光……といったところか。妻の尻に敷かれているにも関わらず、若い女性刑事だけが理解者というのもご都合主義だ。」
……。
「真実を見る眼は年齢性別に関係なく持てるということだ。」
そうであって欲しいと願うことも、世間一般では許されないのだろう。
「あなたは映画を多角的に捉えられていると証明してみせようとすることで自らを知的にみせようとしていないか?」
……。
「医者がそう捉えるならそうだろう。」
「ボロ、配信に出ろよ、お前単品で。」
きっと良くない結果になるだろう。
「目的は?」
叶は私の頭に角付きの帽子を被せて叩いた。
「女友達を配信に流したからリアコが勘違いしてる。」
リアコ……まあいるだろう。
ただ、私を見て「怪物」「ブッサ」という反応しか無かったように見えたが。
、、、
「で、歳はいくつ?」
成る程。
「三十路だ。」
コメントの流れが速くなった。
『ババアじゃんwww (┛◉Д◉)┛彡┻━┻』
『女の趣味わるいかとおもってびっくりしてた (・・;)』
『レイメイの友達ならイイよ (。・ω・。)ノ♡』
『勘違いするなよブスババア (´∩。• ᵕ •。∩`)』
『レメぴ優しい♡chu! ♡(˃͈ દ ˂͈ ༶ )』
「あはは、ババアです、どうもどうも。」
頭を下げるとまたコメントが高速で流れた。
『(。•̀ᴗ-)✧ よろ!友達さん!』
『✧◝(⁰▿⁰)◜✧ 歓迎うぇるかむ』
『普通の人でよかった (人*´∀`)。*゚+』
ババアと説明することでリアコ勢を宥めたのか。
配信者というのは大変だな。
、、、
「なあブスババア、飯食いにいこ。」
叶に引っ張られて彼の背中に顔面から突っ込んでしまった。
「痛い……あまり二人きりが多いとな……流石にファンに見つかったら叶が困るだろ、辞めておく。」
鼻を押さえながらよろめいていると胴体を担がれた。
「ブスババアのくせに自惚れるなよ、オレと恋愛に発展すると思うリアコが何人いると……」
それは、そうなんだが。
「確かに一理あるな……。」
、、、
「カップル料金で。」
甘い匂いに思わず吐き気を催し口を塞いだ。
コイツ……スイーツ食べ放題の割引をするためだけに利用したのか。
「ほら自撮りするから腕を組め。カップルとして演技しろ。笑えピースピース。」
注文が多すぎる。
ただでさえ気持ち悪くて頭が回らないのに、キャパシティオーバーだ。
、、、
最悪な1日を終えて深呼吸をする。
これでやっと帰れるな。
「頬にキスしろ。」
「ああ。」
背伸びをしても届かないので、腕を引いて頬にキスをすると叶に顎を掴まれた。
「……何……本当にしてんだよ……公衆の面前で公開レ◯プされたいのか?……そんなに無理やり犯されたいのか?」
「頭おかしいな、お前。」