※この作品はR-18です。

悪癖   作:ummt

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外来種

 

「タッ……タタリじゃ……。」

 

 地域の人達は苗箱を抱える自分を見ると顔を青白くさせて指をさしながら狼狽した後、逃げるように走り去っていった。

「流石に名誉毀損じゃねえか?」

 獅子神さんが長靴に足を通しながら生温い[[rb:黒南風 > くろはえ]]に前髪を揺らされている。

「名誉毀損は厳しいだろう。」

 村雨医師は天堂さんと共にホッカムリをして、ぎこちなく油をさす必要がある機械のような動きをしている。

「村雨先生は田んぼに入らないほうがいいんじゃないですか?」

 次のシーンの光景が目に浮かぶようだ。

 

 彼らは春の終わりになるとまた姿を現した。

「マツリさん!田んぼって気持ちいいね!」

 真経津さんが素足で土を踏んで泥まみれになっている。

「素足は怪我をしたら……知りませんよ。」

 村雨医師から『田植え体験をさせろ』といった打診がメールであったわけでも、誘い合わせて予定が決まったわけでもなく、気づけば彼らはいつの間にか家におり『田植えっていつ?』とこちらの日常に侵食している。

「マツリ!礼二くんが!」

 声の方を見ると村雨医師が顔面から泥に突っ伏している。

「助けてあげてください!死んでしまいますよ!」

 叶さんと天堂さんが村雨医師を引っ張り起こすと眉間に青筋を立てて絶叫し始めた。

「安全管理はどうなっている!!」

 動き辛い泥の中をゆっくりと歩いて近づき、手拭いで顔を拭いてやるとスン……と落ちつきを取り戻したので手を引いて畦道に誘導する。

「自分はトラクターを持ってないので手植えになると言ったじゃないですか。危ないですからネムノキの下で休んでいてください。」

 彼は泥を引き摺りながらトボトボと木の陰に座った。

 心配だな、主治医が虚弱体質だといざという時に困ってしまう。

「この山林もあなたが所有しているのか?」

 水筒の麦茶を飲みながら辺りを見回してこちらを見た。

「あ、一部はそうです。いいですよね。夜に葉が閉じる合歓の下で男女二人。ふ、あは。」

 視線に鋭さが乗った。

 そうだ、彼は命の恩人だった。

「何がおかしい。」

 なんて答えれば心証が良くなるかな。

「合歓は先駆植物なんですよ。植生が破壊された後に率先して根を張ろうとする。漁夫の利、図々しいなと思って。」

 村雨医師は目線を落としてため息をついた。

 

「それが生きるということだろう。」

 


 

「はい!田植えはですね……」

 

 田んぼに戻ると列がめちゃくちゃになった苗が半分以上植わっていた。

「マツリちゃん、神が田植えを導いておきました。」

 天堂さんが暗雲からの光芒を背にして仰々しく状況説明をしてみせる。

「ふざけんな!!オレがほとんど置いていったのをめちゃくちゃにしやがって!!」

 獅子神さんのほうを見ると確かに彼の仮置きは整列している。

「えー?だって植えるとずれちゃうから。」

 真経津さんは、真経津さんか?あの泥まみれの怪異は。

 怪異は聞く耳を持たずに苗を好き勝手に植えている。

「次は秋に稲刈りか。」

 それまでに治水やら何やらしないといけないんだけど。

「マツリちゃんも台風の時に様子を見に行ったりすんの?」

 するけど。

 他人の田んぼを破壊してしまったり水道が壊れると莫大な金がかかり、家として他者に迷惑がかかるから。

 自分の命より一家の名誉と今後の対策の方が大切。

 昔はね。

 

「時と場合によりますかね。」

 

、、、

 

「おにぎり美味いな……。」

 

 彼らは泥を水道水で洗い流すと軽食を取り始めた。

「秋には自分で作った米が食べられますから。きっと何倍も美味しいですよ。」

 麦茶を飲みながら今にも降り出しそうな黒雲を眺めているとポツリと村雨医師が零した。

「なぜ、あなたは食べない?」

 ……そんな、毒でも盛ってるみたいな。

 視線が冷たい。まだ信用されていないんだな。

「ダイエットしてるんです。」

 そう答えると真経津さんが脇腹を触った。

「ダイエットしなくても大丈夫じゃない?」

 ……どうしたものか。

 無理に口にするとあとで辛いからな。

「あんまり女性に体型の話をするなよ。」

 獅子神さんからの助け舟に乗ろう。

「そうですよ。食事、宗教、支持政党、嗜好、性癖。聞いてはいけない5Sです。」

 彼らの表情を窺う前にポツリと雨が降り出し、おでこに雨粒が当たって弾けた。

「雨足が強くなりそうだな、何処かに雨宿りできる場所はあるか?」

 自分の平屋までは距離がある。

 今この場で最も近い建屋はあそこしかない。

 

「ありますよ。ちょっとホラー映画に出てきそうな洋館チックですけど。」

 


 

「まるで教会だな。」

 

 擬洋風建築の室内は雨の音を反響しながら薄暗く光っている。

「ここは昔に異端な者を集めて改宗させる場所だったとか、所謂曰くつきの物件らしいですよ。今は空き家ですけど。」

 入り口のコンクリ部分にホースを伸ばして彼らに渡す。

「あなたが不動産を管理しているのか?」

 村雨医師が頭から水を被り唐傘のようになって恨めしそうな声を出した。

「一部ですけど。ちょうどこの家の合鍵を持っててよかった。この家のバスルーム広いらしいですよ。」

 水浸しの彼らをバスルーム前に案内して一息つこうと背を向けると獅子神さんに呼び止められた。

「……空き家なのに電気と水道、通ってんだな。」

 ……目敏いのがいるといちいち……。

「ああ、最近まで画家が別荘地にしていたんですよ。だから画家の残した作品を観るために光熱費を払ってるんです。」

 獅子神さんはそれ以上何も言わずにバスルームの中に入っていった。

 

、、、

 

「マツリさん、シャワー浴びてきなよ。」

 

 彼らから目を離していいものか。

 ちょうどバスローブが人数分あったのでそれを着せたが、彷徨かれると困る。

「いえ、自分は家に帰ってから」

「風邪をひく、浴びてこい。」

 村雨医師のじっとりとした視線に否応なしに次の行動を決定される。

「あまり燥がないでくださいね。」

 

、、、

 

「はぁ……。」

 

 彼らを懐柔するのは難しいらしい。

「いつもいつも上手くいくとは限らない。」

 湯船に映る自分の顔を見る。

「お前は誰だ。」

 水面には気弱そうな女が不安げな顔をしてこちらを見ている。

「お前は自分だ。」

 女はニコリと笑って頷いた。

 

、、、

 

「花に囲まれた裸婦の絵が多いな。」

 

 シャワーを浴びると彼らは自宅のようにワインボトルを開けている。

「そうみたいですね。まあ絵のモチーフなんて似たり寄ったりですからね。」

 ガタンと音がして目をやると天堂さんが鍵のかかった扉のドアノブを破壊して中に入っていた。

 なんで当たり前のように金属の錠前を壊しているんだ。

「……これはマツリちゃんか?」

 部屋に入るとキャンパスに描きかけの絵がイーゼルの上に乗っている。

 それは彼が好んだキュビズムではなく、リアリズムで描かれていた。

 笑みを讃え、ベッドに横たわり手招きをする裸婦の顔は。

 自分によく似ている。

「画家と……男女関係にあったのか?」

 獅子神さんから畜生を見る目が向けられた。

 自分ではない、自分は畜生ではない。

「まさか!画家とは挨拶を交わしたしたくらいですよ。特に親しかったわけではありません。」

 絵を覗き込んで下に落ちている食パンだったものを拾い上げた。

 こんなもの遺していくとは……。

「マツリ、なんで嘘をつくんだよ。」

 叶さんが頭を叩くかわりに顎を引いて顔を近づけて覗き込んでくる。

「嘘じゃないですよ。きっとモチーフとして対象が居なかったから唯一身近にいた自分を隠れて描いてたんですね。なんだかストーカーみたいで怖いです。」

 薄暗い窓辺に落雷が閃光を放った。

「……嘘は言っていないようだ。心拍数も安定している。」

 村雨医師の言葉を聞くと叶さんは手を離した。

 

「ただし、早口で捲し立てた事。及び発汗がある。あなたは嘘を嘘と認識しない技術に長けている人物だ。」

 


 

「うわ……ナチュラルサイコか。」

 

 叶さんが引いたようで、獅子神さんも腕組みをしてこちらを見ている。

「自然体の間違いですよ。確かに彼のモデルになりましたが恥ずかしくて言い出せなかっただけです。『未婚の女が男に裸を見せている』など恥でしょう?」

 オーバーリアクション気味に腕を振ると真経津さんがベッドに腰掛けて微笑んだ。

「マツリさん、どうしてぶりっこするの?」

 ……なんで窮地に追い込まれたようになってるんだ。

「だっだって、裸婦の絵ですよ!?恥ずかしいので見ないでください!!」

 そう言い捨てて立ち去ろうとすると腕を引かれた。

「神の名付けは正しかったようですね。祀り。」

 天堂さんが目を細めて室内に引き戻そうと力を込めたため、蹌踉めき寄りかかってしまう。

「ですから」

「なぜ地下に屠殺場がある。」

 ……いつの間に地下に行ったんだ。

「屠殺場?さあ……昔のことはわかりません。」

 失敗した、土地を管理していると言ってしまってある。

「昔のことは……か。最近のことなら知ってんのか?」

 参ったな。

 彼らと論戦を交わすのも、命のやり取りをするのも億劫だ。

「はい、自分は無辜の民ですから。」

 どんな顔を作ればいいか分からず真顔になってしまう。

「よく言えたものだ。」

 そこまで話して意識が混濁し始める。

「マツリちゃん?」

 抱きとめられている腕のなかで瞼が落ちそうになる。

 今は駄目だ、今は。

「診せてみろ……ホットフラッシュか。やはり……。」

 

、、、

 

「マツリちゃん。」

 

 目を開けるとステンドグラスの逆光を浴びた天堂さんがベッドに腰掛けて顔を覗いていた。

「あれ……他の人達は?」

 彼はいつの間にか着替えていたので、一度平屋に戻ったのだろう。

「マツリちゃんは元々この土地の人間ではないのですね。」

 手櫛で髪を梳かれた。

 どこまで知られているのか見当がつかない。

「土地の人間かなど誰が決めて何日間居たら認定されるんですかね。自分は数年前に土地を買った。この土地の人間です。」

 窓を見ると紅と橙と薄紫色が入り混じった空が見えた。

 もう鵺が鳴く時間帯か。

「咎人を罰していたのでしょうか。それとも快楽殺人?」

 ……はぁ、せっかく便利な闇医者を引き当てて楽に逝ける手筈が整ったと思ったのに。

 最後まで他者に生命を踏み躙られるとは。

 

「殺人に善悪の意味付けなど必要ないでしょう。」

 


 

「わぁ!!綺麗だね。楽園みたい。このエメラルドグリーンのお花は何?」

 

 真経津さんは温室を見るなり花に顔を近づけた。

「それはヒスイカズラです。この温室にあるのは有毒ですから触ってはいけません。」

 中央にあるガーデンテラスにハーブティーを運び入れて蜂蜜を垂らす。

「おい、その蜂蜜はマッドハニーではないだろうな。」

 村雨医師が怪訝そうな声を出したので舐めてみせた。

「グラヤノトキシンを含む花は摘みました。まあ……あなたがたは口にしないほうがいいでしょう。」

 ぞろぞろと皆が集まり円状になったテーブルを輪になって囲んだ。

「温室維持費に比べて平屋には金をかけてないのは他に本拠地があるからか?」

 獅子神さんはガラスのティーカップを持って浮かぶコーンフラワーを眺めた。

「平屋が家です。田畑に水道料が湯水のように上乗せされるので。……田舎って税金がかかるんですよ。」

 天堂さんが微笑みながらハーブティーに口をつけた。

「温室自体は最近作られたもの。初期の設備投資に莫大な費用がかかったはずでは?」

 土地を安価で買ったと言い訳はつくが、ガラスの温室群はそうはいかないな。

「銀行に工面していただいて、それを今返しているんです。」

 ピタッと彼らの動きが止まった。

「返してる?マツリさんって働いてるの?」

 真経津さんがわざとらしい驚き顔をして目をパチクリさせた。

「お言葉ですが、そっくりそのまま返しますよ真経津さん。」

 在宅だということを分かってるからこそ勝手に家に入ってきてるんじゃないのか。

「ボクは働いてないよ。」

 ……まさか無職に煽られていたとは。

「自分は在宅ワークでWEB関連の仕事をしているので。」

 溜息を付くと横やりが入った。

「ゲーム関連の下請け?業務用メルアドになんのやりとりも無かったしスラックやギットの履歴も無かったけど。」

 人のPCを勝手に弄るな。

「カラス銀行の特別業務部4課と聞いて心当たりはないか。」

 ……しまった。

 『異常者を見たらギャンブラーだと思え』

 という教訓をすっかり失念していた。

「特別業務部?それが何か?」

 せっかく勝ち取った権利を泡に帰すなどあってはならない。

「ふーん、マツリもギャンブラーだったのか。」

 誰がギャンブラーなんだ?

 村雨医師か?この軟弱な男が?

 天堂さんか叶さんか。

 逆に獅子神さんか?

 いや、4リンクだったら全員もあり得るか。

「ギャンブラーって、まさか違法賭博でもしているんですか?犯罪ですよ。」

 彼らは一斉にこちらを見て口を揃えた。

 

「お前に言われたくない。」

 


 

「カラス銀行の暗部かぁ……。」

 

 結局ズルズルと引きづられてカラス銀行に連れてこられてしまった。

「マツリちゃんは4リンクか?5スロットではないだろ。」

 久しぶりの賭場には見知った顔が何人か居る。

 ただ、積極的に話しかけてくることはない。

 そのために自分はやるべきことをやったのだから。

「5スロット?まさか皆さんこうして……」

「禍根(カース)、戻ったのか。」

 聞き覚えのある声に反応してしまった。

「きっちょむ!マツリと知り合い?」

 き、きっちょむ?

 恐る恐る振り返るとふてぶてしいどら猫のような男が顔の傷を中指でなぞりながら立っていた。

「お前達が連れ戻したのか。」

 伊藤吉兆、今一番会いたくない面だ。

「カス!?人のことカスって言いました!?失礼な人も居たもんだ。」

 誰か話が通じる行員は居ないか?

 辻永か渋谷か梅野……。

「おや、お久しぶりです。カースさん。」

 挟み撃ちされるように二匹目のドジョウを狙おうとする男が近づいてきた。

 宇佐美銭丸、最悪の組み合わせだ。

「その節はお世話になりました。だから来たくなかったんですよ。土地の売買契約にあたってカラス銀行に融資をしていただいたので……。」

 頭を下げて立ち去ろうとすると腕を掴まれた。

「カース。二度と敷居を跨がぬと誓いを立てたお前が此処に居るということは復帰」

「オェェェ突然ペンギンの群れに囲まれてカスカス言われたら気持ち悪くなってしまいました。」

 思い切り手を振り払おうとするとその力を使って抱き寄せられる。

「体調が悪いのか。カース、銀行のルールも変わった。来い。」

 村雨医師の方を見るとなんとも形容しがたい顔をしている。

 どうか畏怖の目を向けないで。

 向けるなら同情、共感、憐れみ、そして格下を眺める愉悦の眼差しを。

 可食可能な仔羊を捕らえたの獣の目で見てほしい。

 自分ほど善良な小市民などこの世にいないのだから。

 

「本当に気持ち悪くなってきた……。」

 

、、、

 

「カース、術後の経過はどうだ?」

 

 伊藤吉兆に応接室に連れられると鍵を閉めないままでズボンに手を入れられてシャツを捲り上げられた。

「伊藤さんはセクシャルハラスメントという概念をまだ理解していないんですか?」

 そのまま指で下腹部の傷跡をなぞられる。

「お前は不快感を感じているのか?不快でなければセクハラに該当しない。」

 昔から伊藤吉兆は何を考えているか分からないから苦手だ。

 性的欲求でも支配欲でもなく、所有欲なのか分からない情を向けてくる。

「伊藤さんは自分に惚れてるんですか?それとも子を成せないなら中出し仕放題とか思ってるんですか?いや、違うか。伊藤さんほどの地位なら女は吐いてる程いる。……恋愛か?恋してるのか?行員がギャンブラーに?馬鹿じゃないですか?」

 捲し立てても指の動きは止まらない。

 ……いい加減しつこいな。

「伊藤さん、不愉快です。」

 ようやく指が離れて顔が上がる。

「そうか。ワンヘッドの条件が変わった。端的に言えば累計となる。」 

 累計……嫌な予感がする。

「自分はハーフライフまで落ちたはず。そのためにどれだけの時間を要したか……。」

 所持金を無くせばワンヘッドから降格し、特権を使って薔薇色の隠居生活が約束された筈では。

「カース、俺の手に」

「スミマセン、彼らもギャンブラーなんですか?」

 彼のペースに巻き込まれると余計面倒な事になる。

「カース。お前の悪い癖だ。他人に関心を持て。ワンヘッドの村雨礼二、耳にしていたはずだが。」

 ワンヘッドの……村雨礼二。

 確かに聞いてはいたけど、医者でワンヘッドならスーパー医師Kみたいなムキムキマッチョだと思うだろ。

 よくあんな貧弱な身体で……ああそうか、たしか無敗だったか。

 死線を無傷で掻い潜っていたならあのなりでも不思議じゃない……な。

 駄目だ、脳内のイメージと一致しない。

 

「……自分はとんでもない貧乏籤を引いてしまったみたいですね。」

 


 

「なんだ!マツリさんもワンヘッドだったの?村雨さんとおんなじ事してる!」

 

 ということは村雨医師もワンヘッドから落ちたのか。

「闇医者と同じ行動をしていたとは……村雨先生、どうか自分を見捨てないで頂きたいです。」

 彼の手を取って弱々しく見上げると苛立ちを含んだ声が響く。

「あなたは何か勘違いをしている。私は主治医であなたは患者だ。病人を捨て置く医師が何処にいる。」

 ……本当に?

「マツリさぁ、礼二くんにだけ媚売ってるのムカつくから。わざとでもムカつく。」

 叶さんに頭を叩かれた。

 なぜ彼らは自分を友人のように扱うんだ?

 あの日の件で自分が異常者だと分かったはず。

「はぁ?はぁ……まあいいか。お腹が空きましたね。」

 トボトボとカラス銀行を後にした。

 

、、、 

 

「夕焼けが綺麗だな。」

 

 彼らとは現地で解散して、村雨医師と獅子神さんが荷物を取りに戻るため帰り路を共にする事になった。

「そうですね。気象が変わるから同じ景色は見ることはできない。」

 村雨医師は獅子神さんを一番気にかけており、獅子神さんも村雨医師に並々ならぬ敬意の念を抱いているようだ。

 つまり、獅子神さんの気分を害してはならないということ。

 命の恩人に仇を成すことになる。

「黄色い花が満開だな……コスモスって秋じゃなかったか?」

 目線を追うと川沿いにオオキンケイギクが群生していた。

「あー……コスモスではないです。駆除対象。丁度いい、野焼きするか。……もしもしポリスメン?私有地で野焼きします。了」

 ポケットからライターを取り出して松の枝を折り火をつけた。

「オイ!何も燃やすことないだろ!!」

 咎める声を無視してパチパチと燃える火を見ていた。

「川があります。外来種は焼いて種を残さないようにしないといけないから。」

 村雨医師の眼鏡は炎に反射して感情が汲めない。

「あれ見えます?黄色いフサフサのセイタカアワダチソウ。あれも嫌われもので自分以外を害する成分を出す……アレロパシーで他の植物を一掃してしまうから脅威とされていたのに今はそこまで騒がれない。……なぜか分かりますか?」

 獅子神さんが重い口を開いた。

「分からねえよ。マツリちゃんの考えてることは。」

 そろそろ水を汲まないと。

 風が吹いて灰が飛べば山火事になる。

 火は一番怖いから。

 

「自分の毒で自分を害して……自家中毒で自滅したからです。」

 

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