「わかば先生、今日も残業ですか?」
突然背後に立たれるだけでも怖いのに、顎が肩に乗らない絶妙なラインで呟かれて心臓が跳ね上がる。
「ひいっ!……眞鍋先生!!ざ、残業です。」
振り向いたら唇が当たる距離。
ただ、真っ直ぐ前を向いて返答をする。
「そこまで驚かれると、流石に僕も傷つきます。……お手伝い、しましょうか?わかば先生は仕事を過度に割り振られている節がありますから。」
……わかば先生とは、本名ではない。
若葉マークの初心者……新米教師という立場からつけられたあだ名だ。
このあだ名が敬称ではなく蔑称のニュアンスの方が近いことには、薄々気づいてる。
それでも子ども達から「わかば先生!」と呼ばれると、あだ名なんてただの固有名詞に過ぎないと思い知らされ、そのまま受け入れている。
「ご心配ありがとうございます。私の担当範囲なので大丈夫です。」
眞鍋先生がスッと横に立った。
「いつでも隣にいますから、頼ってくださいね。わかば先生は人に頼るという手段を学ばないと。」
口元は微笑んでいるが、目元は全く見えない。
……いわゆる、メカクレというヘアスタイルのせいで、感情を読み解く事が全くできないのだ。
その方が子ども達にプレッシャーを与えないのか、子ども達からは信頼されている。
……子ども達からは。
仕事を粗方終えると、眞鍋先生は先に帰宅したようで姿が無かった。
いつもなら「お先に失礼します」と挨拶をされるのに。
職員室を消灯すると、真っ暗になった廊下の窓ガラスに自分の姿が映る。
「わかばとはいえ……だいぶ……。もう女子って歳じゃないな。」
目元に隈が出来ている。
コンシーラーで隠さないと、子ども達に「しなびた先生」とガッカリされてしまう。
……ふと、眞鍋先生のように前髪を下ろしたら世界がどう見えるのか気になって、髪留めを外して後ろで結わえていた髪を下ろし、前に垂らしてみた。
何も見えない。
「ふふっ……一体どうやって見てるんだろ。」
「心の眼ですよ。」
背後にヌッと眞鍋先生が現れた。
「ギャアアア!!ひっ……ひいっひいいっ」
驚き過ぎて、心臓がバクバク言って止まりそうになる。
腰が抜けて倒れそうになるのを、眞鍋先生の腕が止めてくれようとする。
その腕からこぼれ落ちるように尻もちをついた。
「お化けでもみたような反応ですね。わかば先生、貞子ごっこはご自宅でしてください。万が一児童が見かけたら腰を抜かします。」
それは、それはそうなんだけど。
「はっ……ふっ眞鍋先生、い、いつも背後から出てこないでください……ひっ……」
「過呼吸になってます。過呼吸の対処法、ご存じですよね。」
大きく息を吸って、吐いて、繰り返す。
「はぁぁ……すぅ……はぁぁ……はあ。」
「よく出来ました。」
そう言って頭を撫でられる。
「おっと、セクハラしてしまいました。すみません。」
眞鍋先生に頭を撫でられるのは当たり前のようになっているのに、わざわざ毎回謝る。
よく分からない人だ。
教師だから品行方正にするなら、二人きりの場面でも控えるべきで、むしろ二人きりだからこそ誤解を招く行動は止めるのか大人として……。
「いえ……半人前と見做されている証として受け止めていますから。」
気丈に振る舞って立ち上がろうとすると、またよろめいてしまい抱きかかえられる。
「わかば先生、必要なら車で送って行きましょうか。」
首を横に振る。
「い、いえ……保護者の方にあらぬ誤解をされますから。私は大丈夫です。」
とは言ったものの、しばらく動けずにへたり込んでしまい、眞鍋先生が背中を擦ってくれる。
「なら、玄関まで一緒に行きましょう。」
結局、眞鍋先生の肩を借りて玄関まで歩くことになった。
「わかば先生……どうして僕を頼らないんですか?他の教師は皆僕を頼るのに、気兼ねしてます?」
言葉に詰まる。
私は……眞鍋先生を頼りたくない。
私が初めて眞鍋先生の指導を見たのは赴任して間もなくだった。
穏やかで温厚そうに見えた。
ただ、本質は違った。
眞鍋先生を頼るということは……最終手段。
いや、手段として選んではいけない。
私だけは手段を取らない人間でいなければ。
「わかば先生、父兄の方がいらっしゃってます。ご指名なので対応、お願いしますね。」
そう他の教員に言われるがまま、応接室に向かう。
クレームに間違いない。
応接室の扉を開けるなり中年男性の怒鳴り声が響いた。
あまりの声の大きさに慌てて扉を閉めた。
怒鳴り声は子ども達に悪影響を及ぼす、聞かせては駄目だ。
「あんたか!わかば先生ってのは……最近の教師は生徒に難癖をつけるのか!?」
難癖……?どの子の話だろう。
「うちの娘に『化粧は大人になってからでいい』と言ったそうじゃないか!!あのなぁ、最近のマセたJSはガキでもめかし込むんだよ!!」
あの子か。
学校内でブランド物のコスメを他の子達に見せびらかして『高いコスメを使ってないとかガキじゃん』と話していたから、注意をしたんだ。
「すみません。ただ、若いうちは……化粧よりもっと別の……」
「若さに対する僻みか!!……あんた、男を知らないからそんな若さは悪だ化粧は悪だという発想になるんじゃないか?ああ?欲求不満かあ?」
突然矛先を向けられて、しどろもどろになりかける。
「決してそのような理由ではありません。……その前に、校内でJSと言う単語を使うのだけは、止めていただけませんか?」
JS……女子小学生を示す、援助交際を目的とした場で使われる単語を、学び舎で発言して欲しくない。
「はあ?何をわけの分からないことを!!苦情を申告した親に対して命令!?無礼にも程がある!!謝罪しろ!!」
男性は唾が顔にかかる距離まで迫ってくる。
「化粧を悪と捉えるニュアンスは避けるべきでした。申し訳ありません。」
頭を垂れて深々と誠心誠意謝罪した。
……つもりが、余計に燃料になったらしく、怒鳴り声がドンドン大きくなる。
「誠意が伝わらない!!土下座しろ!!教師なら謝罪の仕方を見せてみろ!!」
それはハラスメント……。
「申し訳ございませんでした。」
私が土下座をすると、気が済んだようで男性は落ち着きを取り戻した。
「なに、分かればいいんだ。わかば先生にも子どもの痛みが分かってもらえればそれでいいんです。」
私は、床のホコリをみていた。
「先生がブライドを捨て、誠心誠意謝罪をする。これでおしまい。教育委員会にはいいますけど。ははは。」
私は、誇りなど……。
「わかば先生。」
いつものように背後に眞鍋先生が立った。
「……眞鍋先生、なんでしょうか。」
気分が落ち込んでいるからか、比較的冷静に受け答えができた。
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫です。問題ありません。」
……一言余計だった。問題ない、というのは問題がある前提の応対。
「………そうですか。」
眞鍋先生は珍しくあっさりと引き下がった。
その対応に少しばかりの寂しさを覚えてしまった。
情けない。自分がいかに半人前で未熟者か思い知る。
今日は残業も無かったので、早く上がることができた。
帰ったら、反省文を書こう。
失敗も糧にするんだ。
「わかば先生、いま帰りですか?奇遇ですね。」
ギョッとして振り向くと、応対した父兄が立っていた。
「あ、先ほどはどうも……。」
なんと答えていいか分からない。
「さっきはきつい言い方をしてしまって、泣かしてしまったかなあと。わかば先生は慰めてもらう相手、いるんですか?心の隙間、穴を埋めてくれる男……いるんですか?」
父兄の手が腰に当たり、下に降りてくる。
「一人で自分を慰めてるのかな?」
典型的なセクシャルハラスメント……。
「い、いえ、あの……私は」
「何を使って自分を慰めるのかなあ?指……それとも玩具かな?」
明らかにお尻を触られている、でも大声をだしたら児童に聞かれる。
耐えるしか……。
「わかば先生。」
振り返ると眞鍋先生が佇んでいた。
「わかば先生に個人的に相談したいことがありまして、お時間よろしいですか?」
助け舟……。
「はい、大丈夫です。すみません、私はこれで失礼します。」
父兄はあからさまに嫌そうな態度を取って舌打ちした。
「チッ……教員同士で乳繰り合うとは……学び舎だぞ!!」
眞鍋先生は私の背中に手を当てて、車の助手席へと案内してくれる。
「助かりました……。……父兄の方、帰られたみたいですね。……ありがとうございました。それでは」
突然眞鍋先生の顔が近づく。
「ヒィッ……」
カチ、という音がする。
「シートベルト、締めてくださいね。」
そのままエンジンが掛けられてゆっくりと発車した。
「あ、あの!眞鍋先生!!ご、誤解を生みますから」
「僕の個人的な相談に乗ってくれるんですよね?」
表情が伺いしれない。
何を考えているの?
「はい……相談なら……」
車はずっと走りっぱなしで『国道XX線』という看板が目に入る。
「眞鍋先生……何処まで行くんですか?場所は?」
「運転中に運転手に話しかける行為は……」
いけない、事故を起こす。
でも、他県まで行く必要があるの?
辺りはどんどん暗くなり、街灯も疎らで、とうとう真っ暗闇になる。
山に埋められたり……する?
私、眞鍋先生にそこまで恨まれていたの?
しばらく経つと灯りが見えた。
その灯りは近づけば近づく程、下品なカラーで発光しているネオン管だと分かってしまう。
まさか、留まらないよね。
一縷の望みは打ち消された。
「では、降りてください。」
降りるわけにはいかない。
降りたら同意になってしまう。
「あの、私、私帰ります。相談は別の日に」
「今日でなくては駄目なんです。」
低いトーンで耳元で囁かれ、カチ……という音とシートベルトが緩むシュル……という音がやけに響いた。
「わかば先生……一生のお願いです。」
……子どもたちが使いたがる言葉『一生のお願い』を眞鍋先生の口から聞くとは思わなかった。
「……それ、何回も使うお願いですよね。……タクシー呼びます。」
ショルダーバッグからスマートフォンを取り出そうとすると、手首を掴まれて制止される。
「ここ、圏外です。」
……そうだ、部屋に入ったら土下座しよう。
誤ったら許してくれるはず。
眞鍋先生は酷い人では……。
そう思いかけて、脳裏にこびりついた眞鍋先生の指導が鮮明によみがえる。
私は助手席を降りて、眞鍋先生の後ろについて歩いた。
フロントは無人だった。人が居ないなら帰れると一瞬思いかけて、そういうシステムだと分かり絶望した。
眞鍋先生は迷わず103号室を選んで、スタスタと歩き始める。
どうしよう……本当に相談なんだよね?まさか、セックスとか……しないよね。
眞鍋先生に恋愛対象として見られていると感じたことがない。
相談……きっと、人に言えない秘密だからこの場所を選んだんだ。
校舎から遠く離れた、学校関係者の誰もが知らないような場所。
……人に言えない秘密って、何。
眞鍋先生は部屋に入ることを渋る私の腰を無理やりグイッと押した。
「眞鍋先生……相談、相談ですよね?」
「はい。」
そう一言だけ言うと、大きいベッドに腰を掛けて祈るポーズをした。
私も距離を置いて腰掛ける。
「相談……とは?」
眞鍋先生は黙ったまま。
しばらく沈黙が続いた後、まっすぐ前を向いたまま、重い口が開いた。
「自慰行為……オナニーをしてしまうんです。」
……は?
自慰行為は、普通に男女問わずすると習った。
何もおかしいことではない。
「そうですか……。生理的反応として、自然なことです。」
セクハラ目的でわざわざ此処まで来るとは思えない。
眞鍋先生はきっと潔癖症で、不安を抱えていたんだ。
性の悩みは誰にも打ち明けられないから。
「わかば先生を犯す妄想をしているんです。」
絶句した。
ただ、身の回りの女性を思い浮かべることはよくあると、そう……。
「……実際に犯罪をしているわけではないですから……」
職場の同僚……先輩教師として尊敬している人から直接聞きたくない言葉だった。
私は女性で自慰行為も……セックスもしたことがない。あまり性に関心がない方に分類される人間だ。
だから、成人男性の性欲がどれほど強いのかは分からない。
「……わかば先生、見損ないましたか?」
眞鍋先生がこちらを見た。
……見ているのか?見えている?私を見て話をしている?
「いえ、眞鍋先生は立派な教師であり、尊敬できる人間です。」
そう答えるのが精一杯だった。
次の瞬間、景色が反転した。
「へ……眞鍋先生?」
眞鍋先生と初めて目があった。
前髪で隠されていた瞳をようやく見ることが出来た。
今、押し倒されているという状況さえなければ、私は……。
「眞鍋先生の瞳……綺麗ですね。」
眞鍋先生はやっぱり打ち明けられない悩みがある。
ただ、それを伝える手段を間違えただけ。
「危機管理能力が足りない。減点-18点。」
眞鍋先生は私のブラウスのボタンを外し始めた。
「や……やめ、眞鍋先生、話、本当は話があるんですよね?」
ブラウスを捲られて、タイトスカートのファスナーを下げられる。
「眞鍋先生、私、私なら受け止めますから。」
そのままスカートをずり下げられ、ストッキングを破られた。
「眞鍋先生……私」
大きな手で胸を鷲掴みにされる。
「……君はあの土砂崩れで人を救ったのだから、危機察知能力が高いと思っていたが。どうやら僕の過剰評価だったらしい。」
土砂崩れ……大学生時代に住んでいたアパートに隣接する崖が早朝3時に濁流と共に流れてきた。
私はあの日、消防に通報した後外に出て、浸水する廊下を渡って全戸のチャイムを鳴らし「避難したほうがいい」と伝えて廻り、結果として一人だけ逃げ遅れて消防士さん達から叱責を受けた。
「いつか同じような自己犠牲と正義感で、あなたは死ぬことになる。」
でも、早朝に消防に連絡しても到着まで時間がかかると……アパート管理会社も早朝で誰も……自治会なんて賃貸では、みんな入っていなかった。
私がチャイムを鳴らさなかったら、逃げ遅れて死人が出たかもしれないって、消防士さんたちだって言っていたじゃない。
「君一人だけが死んでいたかもしれないんだよ。」
「消防士さん……?眞鍋先生は消防士さんの知り合い?消防士さんたち以外、私がチャイムを押した人間だと誰も知らないはず。……あ、わかりました。危機、危機察知……わかりましたので」
「減点-15点。」
眞鍋先生はブラジャーを剥ぎ取って直接肌を揉みしだいた。
「やめて……眞鍋せん……」
唇を塞がれて、舌が入り込んでくる。
「ふっ……ふう……ま……ま」
口内を調べるように舌先で舌をつつかれるたび、太ももを閉じようと無意識に脚が動き、大きな手で膝を掴まれてそれを止められる。
「うぅ……まな……せんせ……」
膝を掴んでいた両手がゆっくりと太ももの内側を撫でながら降りてくる。
パンツをシュルリと下げられて、下半身がスースーする。
これ以上は、これ以上は駄目。
「まなべ……こたろう……せんせえ……」
眞鍋先生の口が離れた。
「……誰だって……愛した者の腕に抱かれて眠る夢を……」
そう言いかけて、眞鍋先生は押し黙った。
……眞鍋先生は、悪い人じゃない。
悪人にも善性が……。
「眞鍋先生……。」
私は自然な成り行きのように、眞鍋先生の首に手を回して胸元に押しつけた。
「眞鍋先生はたくさん頑張りました。私は先生を尊敬しています。私のような人間を導いて下さっている。先生は教師の鏡です。」
先生は何も言わず、私の背中に腕を回した。
「……きっと、疲れてるんです。……寝ましょう。寝る子は育ちますから。」
自分でも支離滅裂で上から目線、母目線の意味不明な言葉になっているのは分かった。
眞鍋先生はただ私を抱きしめて、私も眞鍋先生を抱きしめた。
そのままの姿勢で、いつの間にか眠ってしまったようだった。
「延長。」
瞼を擦ると、先生が背中を向けていた。
「眞鍋先生、おはようございます。今何時ですか?」
眞鍋先生は振り向くと、ニコッと笑みを零し、私も笑みを返した。
「わかば先生、僕は君を愛している。」
「ありがとうございます。」
男性から告白されるのは初めての経験だったので、どうしていいか分からない。
「わかば先生、セックスしましょう。」
……あ。
「眞鍋先生、あの、それはプロポーズ……?」
眞鍋先生はまた押し黙る。
「はぁ、直ぐ女は結婚したがる。セックスをする、それだけだ。」
そして下半身に顔を埋めた。
「眞鍋先……せぇっ……やっ、な、舐めちゃ……あう」
秘部を舐められている。
必死に脚を閉じようとしても手で抑えられて閉じれない。
「あっ……ひい……気持ち悪い……」
眞鍋先生の前髪が秘部をくすぐって、ピリピリとした痺れを伴って全身を駆け巡る。
「僕のこと、気味が悪いと思っていたんだね。」
違う、先生のことを気味が悪いなんて思ったこと一度もない。
「ちが……舐めるの……が……や」
訂正しようとすると、ズズッと吸われて腰がガクガクと浮いた。
「腰が浮いてる。僕に舐められる気持ちいいね?」
今度は胸にかぶりつかれて歯を立てられる。
「痛……ま……まなべせ……」
いつの間にか秘部の入口に指の腹が押し当てられてグリグリと周囲の壁をなぞるように侵入してくる。
「せんせ……せぇっ」
指で擦られるたびに脚をバタつかせて抵抗しようとしても、全く意味を成さない。
「わかば先生、コンドームの使い方……僕にレクチャーしてみようか。」
眞鍋先生はコンドームを私の唇に挟んだ。
「レクチャー無しだと、コンドーム着用無しになる。コンドーム無しでセックスしたらどうなるかな?」
全身が痺れて上手く起き上がれない。
ゆっくりと時間をかけて起き上がると、先生は膝立ちのまま待ってくれている。
……先生は、強姦しない。
震える指でパッケージをペリ……とめくってコンドームを取り出す。
……これを、……。
「あの、眞鍋先生……これを着用してください。」
「レクチャー。」
一言で返される。
コンドームを出してしまった……。
仕方がなく口に加えて、眞鍋先生のファスナーを下げるとテントを張った状態の下着が露わになる。
恐る恐る下着を下げると、勃起したグロテスクなモノが怒りを帯びているのが分かる。
これに……着用……着用して。
なんとかモノに被せることが出来た。
「眞鍋先生、これがコンドームの着用方法です。」
「コンドームを着用したら何をする?」
「セックスをします。……あ」
「そうだ。セックスをしよう。」
私はまた押し倒されて、太ももをこじ開けられる。
「眞鍋先生……責任……セックスには大人の責任が」
「いちいちセックスに重み付けするな。」
これは、性欲を解消するためのセックスで、愛とか……信頼関係の確認の行為ではないの?
「はぁ……処女は良い。狭いな。」
先生は処女だから私を選んだの?
「動く……ふっ……処女膜が破れたな。征服される気分はどうだ?」
ただ、支配欲のために私を連れ出したの?
「少し優しくすればホイホイ付いてくる。馬鹿で大変よろしい。」
全部全部、ただセックスしたかっただけ?
その後の記憶があまりない。
置いてあったコンドームを使い果たして、一緒にシャワーを浴びた。
眞鍋先生はドライヤーで私の髪を乾かす時、手ぐしで何度も髪を撫でた。
ストッキングはボロボロで、ゴミ箱に捨てた。
服を着た後、眞鍋先生は時間になるまで私の頭を撫でた。
ラブホテルから出て、助手席に座ると何度もキスをされた。
キスされている間、ずっと手を握られていた。
何度も何度もキスをされた。
眞鍋先生は長い帰路の途中、無言だった。
部屋まで送ってくれた。
眞鍋先生は何度もキスをして、ハグをした。
そして、おでこにキスをして「さようなら」と手を振った。
私は何も答えなかった。
翌日、顔を合わせる事実がただ嫌だった。
次の日、眞鍋先生が有給を取っていたことを知った。
それからしばらくして、先生と連絡がつかなくなったと周りが騒ぎ始めた。
皆、安堵の表情を浮かべて、先生が居ない時間を喜んだ。
人と連絡つかない……何かあったかもしれないのに。
一カ月が過ぎると、眞鍋先生のデスクやロッカーは『整理』された。
「あー、わかば先生、きっしょい手紙入ってましたよー。」
そう手渡されたた封筒は乱雑に破かれていて、中の手紙には「わかば先生わかば先生わかば先生わかば先生」と殴り書きされた便箋と、修学旅行のときにたまたま二人でツーショットになった写真が入っていた。
「わかば先生、ストーカーされてたんですね。」
私はストーカーとセックスをした?
部屋に帰って写真をマジマジと見る。
「眞鍋先生……。」
……あれ、どうして日時が入っているんだろう。
これ、わざわざインスタントカメラの写真を現像したものだよね。
日付……。XX.10.30……。
「た、タクシー!!来てください、場所は……」
私は急いでタクシーに乗り込んで行き先を告げる。
「お嬢さん、付き合う相手は考えな。」
運転手さんに待ってもらって、ラブホテルのスタッフルームに電話をかける。
「すみません、103号室に……忘れ物……忘れ物ありませんでしたか?」
要領の得ない質問だったが、スタッフさんが出てきて鍵を渡してくれた。
「鍵……このキーホルダーは……私書箱、私書箱だ。」
その時、ここが圏外などではないことを知った。
「……惜しかった」
「え、私書箱じゃない?」
振り返ると、スタッフさんの姿は消えていた。
運転手さんに戻るように言って、眞鍋先生の自宅近くの私書箱の鍵を開ける。
間違いない、鍵は合ってる。
中には分厚いスクラップブックが何冊か入っていて、中身は児童たちの良いところ、伸びしろ、必要な指導などが事細かに記されていた。
「やっぱり眞鍋先生は……教師だったんだ。」
私書箱から本を取り出すと、栞のデザインにバーコードが入っていることに気付き、部屋に帰って解析するとurlにリンクが飛んだ。
中身は「わかば先生は今日もえらい、満点だ」という本人にしか知りえない個人情報がストーカー規制法ギリギリの褒めの言葉で埋め尽くされた悪趣味な個人HPだった。
ソースを解析すると、隠しリンクがあり、開くと私の隠し撮り写真が大量にあった。
「気持ち悪い……あんな人のことなど忘れよう。」
そう思うように誘導されている、そう直感した。
危機察知……私は、もう騙されない。
眞鍋先生が失踪して失踪届が出されてから2ヶ月が経った頃、「眞鍋先生が事故で亡くなった」と告げられた。
児童たちへの影響は計りしれず、スクールカウンセラーが新たに配置され、私も子ども達の心のケアに明け暮れた。
「わかば先生……眞鍋先生は悪い人だから天罰を受けたって本当?」
不安につけこんで、死者を冒涜する人もいる。
「君は、眞鍋先生のことを悪い人だと思った?」
ブンブンと首を横に振る。
「それが答えだよ。みんながどう言おうと、君は自分の軸を持って。確かに悪い人はいる。自衛したり罰を与えなきゃいけない。それでも、誰かを信じることを他人の意見で曲げる必要は……」
「わかば先生?」
私はツーショット写真を縮小コピーしたものが入っているロケットペンダントを握りしめる。
「私は……優しい眞鍋先生のこと、すっと大好きだよ。」
模範
「蔵木、まさか当日招集ではないな。」
正門近くに黒い高級車を乗り付けて蔵木がスタスタと表情を変えずに歩いて来るので、なるべく児童たちの目に触れないように場所を変えるように指示をする。
「はい!当然です。明日の夜、ワンヘッド戦が行われます。」
後部座席に乗り込んでタブレットを開いて先程の失格している保護者の男の情報を確認する。
「そうか。相手は……機密だな。」
保護者の男の勤め先の住所を確認して、わかば先生に対して放った暴言を直接的な個人情報等を抜いた侮辱だけのものをトリミングして所謂音MADにしてギフトカード型のNFCに仕込んで封筒に入れ『いつもお世話になっております。』と事務的な文を認めて糊付けをした。
紛れもなく子どものいたずらだ。
ただ、コンプライアンス体制が厳しい企業のようだから面談には至るだろう。
「ワンヘッド戦に赴く前にやり残した事がある。念のために教育指導を行なっておくから、また明日の同じ時間にこの場所に迎えに来てくれないか。」
蔵木は運転席からくるりと振り向いて「はい!」と返事をした。
「では、失礼する。」
車から降りて直ぐにある裏門近くの郵便ポストに封筒を投函すると、職員室に舞い戻って教育指導の準備作業を開始した。
、、、
前提条件として、教育した児童に対する指導内容のスクラップブックは既に私書箱に仕込んであり、英数字バーコードをデザインに取り入れた栞も挟んである。
まさか英数字バーコードでURLに辿れないことはないだろう。
私書箱の複製鍵は蔵木、昼間、城之内、伊藤、白金、黒光に渡し済みであり、もし彼らが渡さずとも私書箱の主が不在になり書面による料金徴収が発生した時をトリガーとして郵便としてわかば先生に鍵が届く仕組みになっている。
そしてURLの行き着く先。
卒業アルバム用と校内新聞用に公的に取り留めた行事写真のなかから『わかば先生』が写った写真を切り抜き適当に『わかば先生の個人情報』を匂わせた個人ホームページも用意してある。
最後の仕上げに修学旅行でツーショットになった『XX.10.30』と印字されたインスタントカメラの現像写真と『わかば先生への想い』として乱雑に書き殴った便箋を封筒に入れ、封を閉じて自席の引き出しの奥に配置した。
「これで準備は終わりだ。」
窓の外を眺めると、わかば先生が例の保護者の男に絡まれていた。
「わかば先生に個人的に相談したいことがありまして、お時間よろしいですか?」
わかば先生は保護者の男に怯えていた様子で、コクコクと頷いて、すんなりと自家用車の助手席に乗り込んだ。
、、、
そのまま車を走らせると、わかば先生がようやく状況を察知したようだった。
『国道XX線』
この道沿いには人気が無く、行員の息が掛かった経営者が運営するラブホテルがある。
随分と大人しい彼女の表情をフロントミラーで確認すると緊張と怯えによって顔面蒼白になり縮こまっている。
……及第点だ。
、、、
ラブホテルに着くとなかなか降車しようとしないので、適当に声をかける。
「今日でなくては駄目なんです。」
わかば先生は震えながらスマートフォンに手をかけたため、それを手で静止する。
「わかば先生……一生のお願いです。」
そう戯言を述べると震える瞳がこちらを見上げ、真偽を見極めようと注視していた。
「ここ、圏外です。」
此処はどう見ても山奥ではなく、町中から少し外れただけの道。
携帯電話の基地局や電波塔があるのは一目瞭然。
それでも彼女は戯言を信じて車を降りた。
、、、
そもそも『103号室』は予め確保してあるが、見せかけの形式上手続きを簡単に済ませた。
その間、わかば先生は震えながらこの場から逃げようか戸惑っている様子で態度が煮え切らない。
優柔不断で判断力に欠く事は減点対象だが、及第点に至っているのはわかば先生と……だけだ。
実質的に番になるのは『わかば先生』一択という状態。
彼女は光だ。
淀み一点の曇りのない未来。
伴侶になる女は『他者から見て善を実行』していなければならない。
部屋に入ることを渋る彼女の腰を押した。
「眞鍋先生の瞳……綺麗ですね。」
怖れを隠した瞳が僕を映す。
彼女は処女だ。
未だに特定の相手を作らず『男女の仲』になる事を怖れ『貞操』を守り続けている。
「危機管理能力が足りない。減点-18点。」
多少乱暴に扱ったほうがいい。
処女喪失のインパクトを如何に衝撃的に刻み込むかが重要だ。
『案外大したことなかった』という認識になってしまえば仕込みのショックが鈍くなる。
「……君はあの土砂崩れで人を救ったのだから、危機察知能力が高いと思っていたが。どうやら僕の過剰評価だったらしい。」
第3種閲覧権で彼女の自己犠牲精神と無謀さはよく理解している。
彼女のような独善的かつ献身的なタイプは『自分が動かなければならない』『自分だけが理解している』という根拠のない自信をモチベーションに動き、信念に忠実だ。
「君一人だけが死んでいたかもしれないんだよ。」
そして『自分だけが認められた』という状況に弱い。
現に股をきつく閉じていた力が緩み、容易にこじ開けられる。
「……誰だって……愛した者の腕に抱かれて眠る夢を……」
言葉に詰まったように沈黙すると、彼女の方から腕を伸ばして身体を求めた。
「……きっと、疲れてるんです。……寝ましょう。寝る子は育ちますから。」
……合格だ。
、、、
無理やりのように何度も犯した後、わかば先生の瞳から光が消えた。
それでいい。
万が一、ワンヘッド戦で敗北したら『ストーカーに抱かれた』という認識を持ち、彼女が正しく道を歩めば『ストーカーだと思わせた悲恋の相手』であると僕を認識する。
……眞鍋瑚太郎という人間の『生き証人』となる。
仮に勝利すればアナログの物証、便箋類を焼却してホームページを隠滅して終いになる。
ホームページも特定のIPアドレスからのセッションしか受け入れないようになっているが、想定外のアクセスがあってもビーコンを埋め込んであるから追うのも容易だ。
わかば先生を部屋まで送り、口づけをして抱きしめる。
そして、おでこに口づけをして寂しげな表情を浮かべて「さようなら」と手を振った。
これでいい。
ワンヘッド戦の相手は狂犬のロボとかいう見窄らしい男で、そもそも彼は自決するつもりだったらしくあっさりと死んだ。
「蔵木、預けていた鍵を返してくれるか。」
手を差し出すとジャラ……と5本分の鍵束を掌に置いた。
「賭けをしようかと話をしていたんですが、不発です。賭けにならなかったですね。」
、、、
「おはようございます。わかば先生。」
わかば先生の肩に顎がつくギリギリの距離で囁くと、彼女が勢いよく飛び跳ねたため顎が肩についた。
「ひいっ!……眞鍋先生!!」
珍しく振り向くので、鼻と鼻が触れた。
「……職場でキスしようとするとは……大胆ですね。」
瞳の中の自分と目が合う。
濁りのない、澄んだ瞳。
この世の悪意を知らない善性。
「ど、どういうつもりなんですか?……あんなことしておいて……」
彼女の目が泳ぎ、瞼がゆっくりと下がってくる。
「……性交渉しましたし、付き合いますか?」
また瞳がこちらを捉える。
「な……な……」
顔を一旦離して様子を伺った。
告白に赤面して状況を理解しようと必死になり、結果混乱しているようだった。
「あ……すみません、僕とは遊び……でしたか。」
首を傾げて悲しんでいる仕草をすると彼女は慌てて手を何度も交差した。
「いえ!!遊びだなんて……違……」
一昨日の情事が無理やりだったかどうか、今認知を歪ませれば全て書き換えが完了する。
「僕のこと……嫌い……ですよね。あの日……気持ち悪いとおっしゃいましたし……。」
悄気た声を出して自席についた。
「そんな!私は眞鍋先生のこと尊敬しています!!」
彼女は椅子に座る僕の顔を覗き込むようにして『正しく採点されること』を今か今かと待ち望む。
「敬愛……至らない僕なんかを……ですか?」
「はい、愛しています……あっ」
「いいんですか……?男の僕が部屋に上がってしまって。」
眞鍋先生は困った様子で玄関の前で立ち止まった。
「……はい。眞鍋先生は……特別ですから。」
腕を引くと彼は靴を脱ぎ揃え、ゆっくりとダイニングに足を踏み入れた。
「これ、シュークリームです。」
彼は職員室の冷蔵庫から持ってきた白い箱をテーブルに置いた。
「職員に配る用ではなかったんですね。」
よく見ると『まなべ』という所有者の表示とうさぎのイラストが箱の側面に書いてあった。
……眞鍋先生は他の教員たちからは誤解されアンタッチャブルな存在だと認識されている。
教員たちはみな彼を都合のいいように使う、ズルい大人達だ。
面倒事や手に負えない事態を眞鍋先生に押し付けて頼っているくせに、鼻つまみ者として臭いものに蓋をするような扱いをするなんて……許せない。
確かに眞鍋先生の指導は行き過ぎている面もある。
それでも子どもたちへの愛は本物。
私は眞鍋先生の唯一の理解者でありたい。
「わかば先生と一緒に食べたくて……ウズウズしていました。」
二人でソファに腰掛けて紅茶とシュークリームを口にする。
……心を許せる人との一息が、こんなにも穏やかで胸が高鳴る至福の時になるなんて……知らなかった。
「眞鍋先生、口元にクリームがついていますよ。」
つい口元に触れるとパクっと指を喰まれた。
「ひゃっ!!」
そのまま腕を引かれて背面座位……バックハグの状態で彼の脚の間にスッポリと収まった。
「わかば先生……期待……していいですか?」
耳元な吐息が掛かって思わず脚を閉じる。
「あの……こ、心の準備が……。」
彼は食べかけのシュークリームを私の口に捩じ込み、シャツのなかにスルリと手を入れてブラジャーごと胸を揉んだ。
「あん、うう、う」
今、口を開けたらシュークリームが落ちてしまうし、優しい手つきで感じたのを隠すように脚を閉じるのに精一杯だ。
「わかば先生……乳首勃ってますけど……一昨日のセックス……そんなに良かったですか?」
直接肌に指が触れて乳首をカリカリと爪で引っ掻かれて絶頂してしまった。
「食べ物を粗末にしない。好き嫌いせずに最後まで食べましょう。」
口を大きな手で塞がれて、シュークリームを咀嚼して飲み込むまでスカートをたくしあげられ太ももを撫でられる。
「あっ……んんっんっ」
ゴクリと飲み込むとバックハグのままゴツゴツとした手がパンツの中を弄ってグチュグチュと音を立てた。
「わかば先生……オナニーしました?……びしょびしょに濡れてますね。」
脚を閉じようとしても勝手に脚が開脚しようとしてしまい、それを見計らったように乳首をきゅうっとつねられて腰をカクカクと震わせて絶頂してしまう。
「わかば、オナニーしてるところを先生に見せてくれるか?」
「はぁ……あん、眞鍋せんせ……」
後ろから抱きかかえられ、脚を開脚させられて彼の指が膣の中で出し入れの動きをするたび、眞鍋先生の吐息が首筋と耳に掛かってそれだけで快感になった。
「あう……オナニー……私……上手く出来なくて……」
オナニーは昨日……一昨日の情事のあと狂ったように何度もしてしまった。
眞鍋先生との……初めてのセックスが忘れられない。
「何を教えてほしい?してほしい?言えるか?わかば。」
彼の声が普段の優しい声色から獲物を狩るような攻撃的な荒々しい声色に変わった。
「気持ちよくなりたいです……」
その願いを叶えるように首筋に顔を埋め、乳首をつねり上げながら指を腟内で暴れさせた。
「なら先に僕を気持ちよくさせないとな。」
彼に手を離されて、くるりと向き直って対面座位になってキスを貪った。
「せんせ……眞鍋先生……」
舌と舌がこすれる度に快感が走って気持ちいい。
甘い痺れに脳が溶けそうになる。
「下、分かるな?」
対面座位で胸を押し当てながらゆっくりと下に下がり、テントが張っているズボンのファスナーを下げて勃起したものを舌先で丁寧に舐め取る。
「えらいなわかば。恋人同士になるにはどうすればいい?」
鈴口をチロチロと舐めると我慢汁が垂れてくる。
「お互いの事を知り……リスペクトすることです。」
……全部舐めたい、彼のすべてを受け止めたい。
彼の特別であり続けたい。
「……合格だ。」
僕はシュークリームが好きだ。
シュークリームはどれだけ慎重に食べようとしても、一口噛じれば中からクリームが溢れ出て、食した者の手指や口、喉元を汚す。
きれいに食べるのが難しいから、シュークリームが好きだ。
彼女の柔肌を撫で、服を剥き、歯を立てて恥じらいという名の核を壊してやると、ナカからドロドロとした情動を伴った愛液を溢れさせ、嬌声をあげる。
離れようとする指を絡めると涎が口元を汚し、再び逃げようとする指を舐めると快感に悶え、熱を帯びた指を這わせると彼女は震え、逸らそうとした視線を合わせると目を潤ませ、頬を赤らめて瞼を閉じる。
僕はきれいに食べられないから、シュークリームが好きだ。