「あ"あ"……また、またやってしまった……。」
観音坂先輩が取引先の薬局から出た瞬間に鉄筋コンクリートの壁に頭をガツンと突っ込んでガンガンと叩き始めた。
「ちょ……取引先の壁を損壊したら不味いですって……。」
私の言葉も無視して頭を押し付けている。
「俺はそう……いつも……ご意向を汲み取り取れない御威光を背負ってる仰々しい神様上様の利益を図れない業者の愚かな行者……。」
また始まったな。
「ヒプノシスマイクはラップバトルでしてくださいよ。」
先輩の背中を軽く叩くとギロッと死んだ魚の目で見つめられる。
「お"お"ん……俺は麻天狼の構成員なんだよおおお……。」
なんでこの人は営業マンを続けてるんだろう。
確かに男性は中王区外のディビジョンに住んでいるけれど、特に差別的な扱いはされていないはず……。
モデルにでもなればいいのに。
「はい、シンジュク・ディビジョン、シンジュク・ディビジョン。」
ぬっと手が現れると肩を掴まれ、ブンブンと揺らされた。
「クゼさん、僕を馬鹿にしてる確かに僕は莫迦だからね……。仕方がないかあ……仕方が無いわけ無いだろおおん……んあ"あ"?」
駄目だなこれは。
そのまま後退りして営業車の前にまで先輩を引き摺って行くと、車のキーを解錠した。
「また『サボってる』って課長からドヤされますよ。」
先輩はボーッとしたあと運転席に乗り込み、私も助手席に乗り込んだ。
「ごめん……いつも……外回りに付き添わせちゃって……OJTはとっくに終わってクゼさんはジョブローテーションで別部署で勤務してる筈なのに……。」
重苦しい空気が車内に流れ、いたたまれずラジオを付けた。
『俺の彼女、マグロでマジで萎えたからピチピチの新しい女に乗り換えたから新品なんすよ!』
更に空気が悪くなった。
「……クゼさん、彼氏とか、居るの?」
このタイミングで聞くのか……。
「いえ。」
先輩はアクセルを急に踏んだのでシートベルトに胸が食い込んだ。
「クゼっていいあだ名だよね……はは、90人目の新入社員だから九零のクゼ……個人の没個性化アアア!!自我を認めろや!!何がクゼだよ!!ハゲ課長がクソボケがアアア!!」
法定速度ギリギリで帰り路を爆走し、赤信号に捕まった。
「あ、安全運転、安全運転……オエエ……。」
あまりの荒い運転に目が回ってしまう。
「あ……クゼさんエッチ……シートベルトでパイスラッシュになってる……。」
大丈夫なのか……頭。
「観音坂先輩、先ずは無事に帰社できることを念頭に置いて帰りましょう。」
「独歩!!遅えんだよ!!」
案の定、先輩は何度も頭を下げていた。
課長もそれに同調して更にヒートアップしている。
「お前が後輩の面倒を見るんだろうが!!」
紙を巻いたもので頭を叩き始めたので、それを遮るように頭を下げた。
「すみません、私が取引先の方からお茶菓子を頂いてしまって。」
課長の矛先が私に向かった。
「馬鹿野郎!!真に受けて全部ガツガツ食ってんじゃねえ!!一口頂いて帰るんだよボケ!!」
思い切り頭を叩かれる。
「申し訳ありません。以後気をつけます。」
怒りのボルテージは下がる様子がなく、更に口撃が弾丸のように降り注ぐ。
「お前……観音坂と出来てんじゃねえだろうな!?二人で乳繰り合って遅れたのか!?」
論理の飛躍が過ぎる。
「それはあり得ません。ドライブレコーダーと走行記録を見て頂ければ私と先輩が直帰したことをご理解頂けるかと。」
その発言でようやく憤怒の焔は沈静化して、自席につく事が許された。
「……クゼさん……悲しい。」
隣の席の目の下に真っ黒い隈をつけた恨みったらしい先輩と目が合った。
「いや、ちゃんと誤解は解かないと。」
自席と先輩の席の上には書類が山のように積み重なっている。
「仕事……しますか……。」
、、、
「また二人っきりで残業になっちゃったねぇ、クゼちゃん……。」
先輩が手を掴んで擦ってくる。
「観音坂先輩がセクハラで女子社員を休職させたり食い散らかしたって噂は本当だったんですね……。」
先輩のネックストラップが首に掛けられた。
「違う……クゼちゃんだけ……。僕がクゼちゃんを僕の下に付いたままにするために僕が立ち回って……僕が……僕。」
目の焦点が合っていない。
「すみません、これはれっきとしたセクシャル・ハラスメントなんですよ。」
手が腕からゆっくりと上がって顔が近づいてキス距離になったので頭突きをかました。
「世知辛いっァァァ痛いッ!!愛ッ!!アアアッ!!」
先輩が背中から倒れそうになり、ネックストラップに引っ張られて少女漫画の押し倒し、床ドンの男女逆バージョンになってしまった。
「首が締まる……首を抜きますので……先輩、動かないでくださいね。」
ゆっくりとネックストラップから首を出そうとするとガバっと抱きしめられた。
「もうヤッちゃおう!!監視カメラなんかぶっ壊せばいいんだよ!!ニャンニャンして猫可愛がりしてあげ」
先輩の口にポケットからカニパンを取り出して突っ込んだ。
「暫く黙ってて貰います。」
どうにかネックストラップから抜け出して自販機に向かう。
先輩はmックスコーヒーでいいか。
「ねー……ごめんね……悪気は無かったから……ねー……」
背後に魑魅魍魎を引き連れたような先輩の気配を感じる。
「はい、先輩はパワハラでお疲れ様なんです。」
ガコンと落ちたコーヒー缶を先輩に渡す。
「クゼちゃんは辞めないで……お願い……また新人が辞めたら……俺……どうしていいか分からない……クゼちゃんだけ……本当……信じて……」
溜息をついて自席に戻ってキーボードを叩いて資料を机から段ボールに詰めていった。
「自己責任、先輩の立ち振る舞いもたいがいですからね。」
隣の回転椅子でくるくると回っている死にかけの金魚のような先輩に声をかける。
「はぁ……僕さあ……女性から人気はあるらしいから……」
そう言って先輩は机に頭を叩きつけた。
「流石です観音坂先輩!!よっ!!色男!!女誑かし!!」
先輩はそのまま動かなくなった。
、、、
「重い……先輩、歩けますか……。」
先輩はアザラシの子供のようになってしまったので、肩を引き摺ってタクシーに詰めた。
「クゼちゃん……一緒にきて……」
タクシーの運転手さんに先輩の住所を言って扉を閉めた。
「お疲れ様でした。」
、、、
「おはよう……おはよう……クゼちゃん。」
朝、玄関のインターホンから先輩の声がした。
「先輩……あの、住所何処から入手したんですかね。」
ピンポンが何度も連打される。
「クゼちゃん開けて……開けて……。」
仕方がない。
「……もしもし、伊弉冉さんですか?そちらの観音坂さんが……」
スマホと玄関から同時に声がした。
「ごめんね、うちの独歩が……。」
休日返上コース確定……社会って……厳しいな。
「家に来るのはいかんでしょ、先輩。」
扉を開けると先輩が抱きついてきたので引き剥がす。
「一二三もいるよ……えへへ……。」
伊弉冉さんは申し訳なさそうに下を向いている。
「ごめん……。」
ホストである彼なら今の時間帯は寝ている筈だろうに。
「こちらこそ女性が苦手な方に来ていただいて申し訳なく。」
頭を深々と下げた。
「クゼちゃんの部屋着、jェラピケじゃないんだ、女子はみんなjェラピケだと思った、でもラフでエッチだね。」
先輩は私の髪の匂いを嗅いでいる。
「ごめん……。」
また伊弉冉さんが頭を下げた。
「いえいえ、伊弉冉さんはお気になさらず。」
「わあ……クゼちゃんのベッド、クゼちゃんの匂いがする……エッチ……エッチしちゃおっか、もうさ、先輩後輩とかどうでもいいよね、男女関係男女関係。男女男男女男女……フウッフウッ!!」
先輩は私のベッドに潜り込んでゴソゴソしている。
「ごめん……。本当にごめん……。」
なんだか、本当に申し訳なくなってきた。
「いえいえ、朝ごはん食べていきますか?」
伊弉冉さんはニヘラッと笑った。
「僕がクゼちゃんを食べちゃうぞーがおー。」
何故かエプロンを持参していたようで、伊弉冉さんが台所に立った。
「僕が作るよ。冷蔵庫開けていい?」
準備がいいな。想定内か。
「はい、もちろん。」
食器を用意していると先輩が纏わりついてきた。
「クゼちゃん……チューしよ……ね、チュー。」
お米も丁度人数分炊けてある。
「そうだ、卵があるからオムライス作ろうか。独歩はオムライス好きだから。」
へー……。
「いいですね、オムライス。」
手際も良さそうで安心する。
「キレイに作るぞー。」
「おー。」
「チュ……」
「ごめん、独歩が迷惑かけて。」
伊弉冉さんはよく付き合いきれるな。
「いえいえ、慣れましたのでお気になさらず。」
先輩はオムライスを食したあと、ソファに寝転がって荒巻スカルチノフのように寝ている。
「……独歩、寝ちゃたね。」
伊弉冉さんがベッドに腰掛けて私の手を引いた。
「そうですね。」
誘われるまま同じように腰掛ける。
「……し、しちゃう?」
耳まで赤らめてこちらを見たが、女をこます手練手管の一貫だろう。
「え?」
一応、驚いてみるか。
「う……ホストモードみたいに上手くリードできないけど……いい?」
まあいいか。
「はい。」
、、、
「一二三さんって独歩さんとは付き合い長いんですか?」
伊弉冉さんは女性が苦手と言う割に、能動的なセックスだった。
嘘も方便、隠し事もわざわざ暴く気にならない。
「そうだなー……。」
ベッドに寝転がりながら天井を見ていた。
「う……おはよ……は、……はあ?……はあああああ!?なに人の女寝取ってんだ一二三ぃ!!なんでNTRのRTAになってんの!?」
先輩の金切り声が聞こえる。
「BSSでしょ?独歩とクゼさんは付き合ってないんだから寝取ってないよ。なるようになっただけ。」
伊弉冉さんが胸に顔を埋めてきて擽ったい。
「お二人は幼馴染なんですか?」
顔が上がって肩に乗った。
「そう、独歩とは小学生の時からの付き合いでさ。」
先輩が掛け布団を剥いで上に乗ってきた。
面倒くさいな。
「お前ふざけんなって……一二三ぃ!!俺の……俺の……クゼちゃん……クゼちゃん……」
「へー……色々と大変そうですね。」
、、、
「俺ともセックスして……しないなら会社にホストと寝たってバラしてやるから……。」
観音坂先輩……。
「はいはい。しましょうか。」
、、、
「クゼちゃんは僕の彼女だよね?僕を愛してるよね?世界中の誰より?愛?愛しかないよね?束縛したい?したいならしていいよ。」
先輩は本当に粘着質なセックスをするな。
想像通りだ。
「あー……っす。」
スマホを取り出して何やら操作を始めた。
「えっと、GPSとか入れたり既読無視したらお仕置きエッチとかさ……色々束縛系彼女ムーブ……」
またしちめんどくさいことを……。
「……っす。」
先輩がスマホを自撮りモードにして天に掲げた。
「事後写真とろ!えへへ……ラブラブセックス事後写真……初恋人セックス……」
パショ、という腑抜けたシャッター音が鳴った。
「はい証拠写真。これ会社に突き出したら二人ともクビですね。」
先輩はそのまま私を抱き寄せて耳に念仏を唱えるように呟き始めた。
「……クゼちゃんはそんなことしない……クゼちゃんは僕の彼女……」
玄関の方からカチャリという音がした。
「何かあったら何時でも連絡してね、クゼさん。」
長居させてしまって申し訳ない。
「はい、一二三さん。」
「先生に会わせたい人がいます……診療に同席させてもいいですか?」
独歩君が診察中に何を言い出すかと思えば。
「構わないよ。」
親類、ではないだろうから職場関連の人間だろうか。
「僕にゾッコンベタ惚れで愛が重くて直ぐにセックスを強請る束縛系彼女のクゼちゃんです……。」
一二三君と一緒に診察室に入室してきたのは20代の女性だった。
「俺っちが唯一抱ける女性のクゼさんです。」
……女性恐怖症の一二三君が……抱ける?
それ以前に独歩君とセックスを……つまり二股。
「観音坂先輩の部下のクゼと申します。」
彼女は深々と頭を下げた。
「成る程……成る程……クゼさんは独歩君と交際していると……思っているのかな?」
自己紹介が『恋人』ですらなく『部下』と淡々と話したということは、相当な認知の歪みを抱えているのだろう。
「先輩がそう言い切るので……はい。」
彼女の目は放送するものがない地上波のようなノイズで覆われている。
このまま行くと壊れてしまう薄氷のようだ。
「精神的にも束縛が強いのと、認識のズレがあるね……。」
職場の先輩後輩となると、些か問題が複雑になる。
「そうなんです。クゼちゃんって束縛激しいのにツンデレなところがあるから社内恋愛も……えへへ……ドキドキのシチュエーションばっかりで……休憩室でセックスとか……社用車でセックスとか……」
独歩君の言っている事が実際に起こっているなら事態は深刻だ。
「クゼさんは困っているのかな?」
彼女はゆらゆらと体を揺らして頭を傾げた。
「えーと……うーん……」
脳内で素早く思考をまとめるのが困難になっている。
「ゆっくりでいいからね……。」
思考の雑音、抑うつ状態になっているのだろう。
「そう!ゆっくりじっくり愛を深めようクゼちゃん!!」
「独歩君と一二三君は退室してくれるかな……。」
、、、
「性的関係を強要されているね?」
神宮寺先生は真面目な顔をしてこちらを慈愛の目を向ける。
「はい。」
観音坂先輩は休みの日にまで凸撃してきてセックスを強請った。
「……被害届、出すかい?」
……え。
まさかの単語が出てきて目を丸くしてしまった。
同じシンジュク・ディビジョンの構成員なんだよね?
「いいえ。」
神宮寺先生はくるりと椅子を回して顎に手を付けながら悩む仕草をした。
「私が力になれることはあるかな。」
力……医師の力は今のところ必要無い。
「えーと、うーん……プライベートな連絡先を交換していただけますか?」
一か八かだが、聞くだけ聞いてみる。
「本当ならNoというべきなんだけど……独歩君だけでなく一二三君もお世話になっているようだから……。」
そう言うと名刺に個人的な連絡先をサラサラと書いて渡してくれた。
「助かります。」
名刺を頂戴し、自分も同じように名刺を渡した。
「独歩君と一二三君、どちらかが好き。……というわけではないみたいだね。」
流石に誤診はないか。
「はい。」
神宮寺先生は口を濁そうとしたが、溜息をついたあとポツリと呟くように尋ねた。
「性的関係になってしまったのは……」
強姦だったか否か、の確認か。
「私が『はい』と言ったからで、彼らの初めては無理やりではありませんでした。」
深い溜息が落ち、暫く無言の静寂であった。
「そうなんだね……君は先ず、仕事を休職するべきだ。適応障害の診断書を書くよ。」
引き出しから書類を取り出して筆を取ろうとするので、否定の言葉を述べた。
「いえ、その必要ありません。」
万年筆を持つ手が止まった。
「君は休むべきだよ。」
冷たさを帯びた生温かい眼差しを向けられる。
「大丈夫ですから。」
その言葉を吐くと、カタリと万年筆が机に置かれた。
「……いつでもおいで。」
「ありがとうございます。」
「三度の飯よりセックスだ……セックスしようセックス。」
クゼちゃんの首筋に舌を這わせて胸を揉んだ。
「あ……ん、先輩、人間って睡眠時間が削られて限界状態、死に近づくほど性欲が強くなるんですよ。」
柔らかいおっぱい、いい匂いがする、クゼちゃんは甘酸っぱい。
「そんなにクゼちゃんは性欲強いの?……クゼちゃんはエッチだ……」
もっと舐めたい、触りたい、身体を重ねたい。
めちゃくちゃに犯して抱き潰したい。
ズコバコにピストンしてビュルビュルと中出ししたい。
「んっ……先輩のことを言ってるんですよ。」
秘部が濡れてる、可愛い。
「いっぱいしようね……もうグショグショ、愛液塗れ……はあ……エッチ、クゼちゃんはエロいんだから……。」
、、、
「クゼちゃん……もっとしたくない?」
「……あ、もしもし神宮寺先生ですか?観音坂先輩に抑うつ状態だとして診断書書いて強制的に休ませてください。」
クゼちゃんはピロートークを中断して、寂雷先生に電話を掛け始めた。
「クゼちゃん、俺を心配してくれるんだ……。大好き……可愛い……。」
、、、
本当に1週間休暇を取らされてしまった。
、、、
「本当に申し訳ございませんでした……後輩に迫って肉体関係を……申し訳……申し訳……。」
土下座をして頭を地面に擦り付けた。
精神的に錯乱していた、後輩をオナホ代わりに使ってしまった。
「……ふあ」
クゼさんは突然糸が切れたように失神し、慌てて立ち上がって抱きかかえた。
「クゼさん!!大丈夫!?どうしよ……」
、、、
「独歩君、君は一番やってはいけないことをしてしまったね。」
独歩は自分しか見えなくなることがあるから。
「え……?」
寂雷先生の問いにもピンと来ていないようだった。
「独歩君はクゼさんのことをどう思っているのかな。」
核心の問いに、暫く沈黙した。
「彼女は……大切な……後輩です。」
空気が張り詰めた。
「……そう……ならクゼさんは今の職場から退職させよう。」
先生が書類に手をつけ始める。
「な、なんでですか!?僕はもう無理やり抱いたりしない……」
独歩は明らかに動揺して頭を抱えた。
「だからだよ。」
静かな答えが重く響いた。
「え?」
当事者意識が……足りないんだ。
「理由を考えてみようか。」
独歩は狼狽えて目が揺れている。
「とりあえずクゼさんは休職させるからね。」
その診断に独歩は立ち上がって金切り声を上げた。
「なんでですか!?僕はクゼさんを大切に……」
「独歩、もし逆だったら?」
このままでは、互いに不幸になる。
「逆?逆ってなんだよ……。」
耳を塞ぐようにしゃがんで顔を引っかき始めた。
「クゼさんが毎日セックスを求めてきて独歩を恋人だとしていたのに、ある日突然『あなたはただの先輩です、何とも思っていません』って言ってきたら、さ。」
独歩は氷のように固まったあと、跳び上がって奇声を上げた。
「……あ、ああ……あああああ」
頭を壁に何度もぶつけて爪で自分自身を傷つけた。
「……休職中にクゼさんに連絡したら駄目だよ。」
、、、
「クゼさん……開けて……開けて……謝る……開けて……僕が悪かったから僕がいけないんだ僕みたいな人間がクゼさんをクゼさんクゼさん話を聞いてお願いしますお願いします」
先輩が玄関の扉の前に立っている。
「……はい。」
開けてはいけない。
そう、神宮寺先生は言った。
でも……。
「クゼさん……僕の彼女……クゼちゃん……大好き……もう離さないから……愛してる。」
扉を空けた瞬間、固い抱擁をされる。
「……はい。」
ガバっと肩を離されると涙を貯めた真っ赤に泣き腫らした瞳と目が合った。
「ひっ、一二三とセックスしないで……お願い……」
……そう言われても、流れでしてしまうんだよな。
「……うーんと」
再び固い抱擁をされ、首筋に鼻が当たる。
「一二三とされたら僕は……僕は……俺は耐えられないよ……」
背中に回された手が下に降りてくる。
「……先輩」
そしてスカートを捲り上げられ、尻を撫でられる。
「好き、僕だけのクゼちゃん……ねえ、寂雷先生の連絡先……消して。」
布地の上をなぞったものが下に潜り込み、直に肌に指が触れている。
「えーと……」
手がゆっくりと前に移動して、上下に動いた。
「着信拒否して……一二三も着信拒否して……僕だけでいいでしょ、仕事もプライベートも……ね……」
指が秘部を擦っている。
「あっ……観音坂先輩……」
立っていられなくなり、先輩に抱きついてしまう。
「恋人同士なんだから独歩くんって呼んで……」
そのまま玄関の床に押し付けられる。
「独歩くん……」
「好き……好き……ずっと一緒だよ……」
言われたとおりに連絡先を消した。
ただ、別名で神宮寺先生を「稲妻さん」、一二三さんを「四五六さん」で再登録した。
、、、
「四五六さんってジゴロ……一二三じゃないよね。」
セックスの最中にスマホを盗られた。
「まさか、私のあだ名の九零と同じです。別の会社に勤めてる子ですよ。」
先輩は顔を引き攣らせて通話ボタンを押した。
「稲妻さんに電話してもいい?」
確認の前に電話しているけど。
「はい、構いません。」
正常位のままでスマホを握った。
「もしもし……俺、クゼの彼氏だけど……あんた誰。」
受話器越しにボイスチェンジャーで低い女性声になった寂雷先生が調子を合わせた。
「あら、噂のクゼちゃんの彼?どうかしました?」
その声を聞くと先輩はふっと笑みを浮かべた。
「あっ……間違えました、すみません。」
通話を切るとスマホをサイドテーブルに置いてピストン運動を再開した。
「うん……クゼちゃんは僕に夢中……セックスしようセックス」
、、、
「クゼさん、お疲れ様。」
ラブホテルのベッドで待っていると程なくしてクゼさんが現れた。
「いえいえ。」
彼女を抱き寄せて服を脱がせる。
「独歩にバレてないかな。」
下着に手を掛けてホックを外す。
「GPSで追跡されているのでスマホを近くの本屋に隠し置いてきました。」
耳たぶを甘噛すると甘い声を漏らした。
「流石だなー……見習いたい。」
ヘソの当たりをなぞるとビクビクと身体を震わせた。
「んっ……ホストに見習われるとは恐縮です。」
そのまま太ももの内側を撫でると、もう滴っている。
「独歩もいい彼女捕まえたな。」
うなじに歯を立てた。
「あっ……い……嫌味ですね。」
跡がつかない位の強さで。
「嫌味じゃないよ。」
、、、
「なんでクゼさんは大丈夫なのかな。」
一二三さんはベッドに寝転がって私の手を握った。
「伊弉冉さんを男性として性的に見てないからではないですか?」
彼は不敵な笑みを浮かべる。
「ひどいなぁ、さっきまで散々抱いてたのに。」
顎を指で撫でられる。
「情がないから、というべきでした。」
指が顎から唇に移動して輪郭をなぞった。
「えー、僕、クゼさんのこと好きだよ?」
言葉の綾だ。
「女としてではないですよね。」
肩に手が乗って抱き寄せられる。
「そうだなー……いうなれば戦友?」
鎖骨に顔を埋められて擽ったい。
「ふっ……確かに、戦友ですね。そういった意味では私も伊弉冉さんのことが好きです。」
生温かい舌が身体中を這い回る。
「やったー、両想いだ。」
「世界で一番軽い両想いですね。」
、、、
「クゼちゃん……本が好きなんだなぁ……。」
、、、
「クゼちゃん……好き……好き、俺を感じて……」
恋人繋ぎをしながら夢中で腰を振った。
「はいっ……一二三さ……独歩くんっ」
……は
「え、今、一二三っていった?」
まさか、また一二三と浮気してるのか……このアマ。
「ひいっ、ふうっ……みぃ独歩くん」
「……スマホ出して。」
、、、
「四五六さーん!?おい!?お前人の女に手を出すな一二三!!ボケが!!」
「お使いの電話番号は現在電波が届かない場所にいらっしゃるか」
一二三さんはアナウンスの真似をしている。
「ふざけるなよ一二三ぃああああ!!」
先輩は奇声を上げて血管を浮かせてキレている。
「独歩くん。」
声をかけると物凄い形相で睨まれた。
「なんだよクソビッチ!!」
涙が自然と頬を伝った。
「う……うう……」
自分でも驚いてしまう。
「あ……泣かないで……でもクゼちゃんが一二三と寝るから……」
女の武器、涙がこんなに簡単に出てしまうなんて。
「私だけだったんだ……独歩くんといると……気持ちが落ち着くの……」
ペラペラと思ってもいない言葉が口から溢れる。
「違う……僕もだよ……クゼちゃん……俺も愛してる」
、、、
「という感じです。」
神宮寺先生は頭を悩ませているようだ。
「君も……治療が長引くね……」