「オェェ……」
毎朝鏡を見て、自分という存在確認をしては罪の重さに苛まれている。
私は入間さんという公的な後ろ盾とシェルターを得るためだけに彼を利用して婚約者という立場になった。
最初から観音坂先輩から離れたいからという身勝手な理由で彼に近づいて懐に入り込んだ。
こんな人間の入り込む余地など元から有りはしないのに。
、、、
「すみません、午後に休みを頂いてよろしいでしょうか。」
天国さんは二つ返事で了承してくれて、駅まで車で送ってくれた。
「助手席……乗れるようになったな。」
運転席に座る横顔を見つめた。
「はい。……ここまで面倒を見てくださって……」
言葉が続かない。
「お前は自分の道を選んでいいんだ。気兼ねするな。」
その言葉に堰を切ったように嗚咽が漏れた。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
、、、
ヨコハマに着くと、まず碧棺さんのもとに訪れた。
「記憶が戻ったのか、入間に会ったか?」
……まず、というより当の入間さんに会う勇気が出ず、土壇場で踏みとどまってしまっている。
「……まだです。」
肩にポンと手が置かれた。
「なぜ会わない。」
毒島さんが嗜めるようにこちらを見下げた。
「……もし私のことで心を痛められていたのなら申し訳なくて。……でも、何とも思われていなかったらそれはより苦しくて……散々振り回して迷惑をかけたのは私なのに……相反する感情が渦巻いていてどんな顔をして会えばいいか……」
二人の前ではどんな嘘も通用しない。
「自分勝手だな。」
正論という刃が心を割いた。
「……身勝手な女だ。いいから銃兎に会いに行け。」
、、、
「お久しぶりです……入間さん。」
入間さんは直ぐに車で駆けつけてくれた。
「元気そうで何よりです。」
そう事務的な挨拶をされると心臓が張り裂けそうなくらいに軋んだ。
「……はい、ナゴヤでお仕事させてもらっています。皆さん優しくて……親切で……」
彼の目を見られずに、助手席に座って足元をただ見つめた。
「そうですか。……婚約破棄ならいつでも受け付けていますよ。」
聞きたくなかった。
だから会いたくなかった。
この仮初めの関係が直ぐに終わってしまうことが分かっていたから。
「……はい。」
、、、
「会ったか?どうだった?」
碧棺さんに問われると張り詰めていた緊張の糸が切れて涙が溢れて止まらなかった。
「……その、私……やっぱり……」
『彼を愛している』というのは独り善がりだ。
散々利用しておいて、いざ捨てられそうになったら振り向いて欲しいだなんて。
……最低だ。
「ペンダントトップを見たか?」
毒島さんが自分のドッグタグを弄りながら問いかける。
「ペンダントトップ?確かにスーツにつかわしくないネックレスが……ネックレス?」
確か、シルバーのシンプルなネックレスに下がっていたのは……
「あれはクゼが紛失した婚約指輪だ。」
婚約指輪?
「えっ……でも……あれは排水溝に……」
あの日、観音坂先輩に奪われた指輪は増水した排水溝に投げ入れられて濁流に沈んだはず。
「銃兎は探した。」
探すって……雨水で増水して何処に流れ着いたかも分からないのに。
「……そんな、そんな素振り……」
どうしてそんな無茶なことをしたの?
なら、なぜ素っ気ない態度を取ったの?
「銃兎はお前に『自分で人生を選ばせたい』と願った。だからお前を突き放す。」
入間さんがそこまで私を想ってくれる理由は何?
「……それが愛なんじゃねえのか。」
「銃兎さん!!」
入間さんを呼び出して抱きついた。
「なんですか?」
相変わらず事務的な対応だ。
それでも構わない。
「……好きです……ずっとずっと大好きです。」
もうこの手を離さないから。
「……私もですよ。」
、、、
「銃兎さん……いっぱい愛してください。」
入間さんの新居に着くなり玄関で身体を委ね、キスを強請った。
「……はぁ、もう容赦しないからな。」
玄関の扉に背中を押し付けられて脚を彼の腰に絡めて舌を突き出した。
「キス……キスして……」
眼鏡がズレて落ちそうになるほど夢中で唇を貪っては舌を擦りあった。
「クゼ……愛してる」
カチャカチャとベルトが外されて、勃起したモノがびしょびしょに濡れた割れ目に沿ってグプグプと迫り上がってくる。
「好き……好きです……めちゃくちゃにしてください」
コンドームを使わない、野生動物のような獣のセックス。
彼は唸るように声を荒げ、首筋に歯を立てた。
乱暴に腰を打ち付けられるたびにどうしようもない快感が脳天からつま先まで駆け巡り、乳房が上下に揺れるたびに持ち上げられた太ももから愛液と精液の混ざり合った液体が滴り落ちた。
「俺の女……もう逃さない。」