「オイ姉ちゃん、金出せや!!」
ただ夜道を歩いていただけなのに、あんまりだ。
「えっ!?私……ですか?」
周辺には監視カメラや街灯がない。
都市部ならまだしも、地方は殆ど防犯対策が行き届いていないから仕方がないか。
キョロキョロと周囲を見回しても虫の声しか聞こえない。
「アンタ以外に誰がいるんだよ!!」
男はあたしの鞄をもぎ取ると中を漁り始めた。
「お金ないんで勘弁してください……。」
涙を浮かべて訴えても財布からあるだけの札が抜かれてしまった。
「二万しか持ってねえのかよ……残りは身体で払えよ?」
そう言って男は草むらに腕を引いた。
強盗と強姦のダブルセットか。
「いやぁ……貞操が汚されちゃう……。」
すると男はサバイバルナイフを抜き出して首筋に沿わせた。
「死にたくなきゃ大人しくしとけ。」
プラス殺人ねトリプルセットだった。
「お得だぁ……。」
「あ?なに
男の首が私の首から放出されたカーボンの板によって貫かれてズルリとズレてボトリと落ちた。
「うわっ!?返り血すごっ!!」
慌てて腕からカーボンの板を出して血飛沫を防ごうとするも衣服が血でベッタベタになってしまった。
最悪だ、また服を買いなおさないといけない。
「ではでは……お財布の中身を拝見……。」
頭のない男の身体を弄って金目の物を探したが、サバイバルナイフとガマ口に数百円しか持ち合わせがなかったようで、身に着けているアクセサリーも純銀ではなくプラスチックだった。
「しけてんなぁ……そんなんだから強姦でしか女を抱けないんだチンカス……死ねよ、死ね……あ、死んでたわ。」
男の股間を蹴り上げて胴体を踏んでいると遠くから声が聞こえてきた。
「おーい大丈夫かー!!ヒーローが来たから心配するなー!!」
……バカじゃねえの?
『遅れてやってくるヒーロー』なんて居ないほうがマシなんだよ。
今逃げれば足はつかないかな。
「そこの女……人を殺したな!?待て!!」
ハァーとクソデカ溜息が出てしまう。
嗅覚か視力がいいヒーローか?
認識されてしまったなら仕方がない。
「違います!!正当防衛です!!」
両手を挙げて迫りくるヒーローの前に立ち塞がった。
「正当防衛で首を跳ねる一般人がどこにいる!!」
そりゃそうだ。
「ならあたしが悪いんですか?」
そう尋ねると無もしれぬヒーローは頷いた。
「当たり前だ!!人を殺害す
ヒーローの首は両手から放出されたカーボンによりハサミの要領でもぎ取られた。
「えっ!?ひどーい!!悪と断罪されるのはヴィランだけですよね!!キャハハハ!!」
「マジで最悪……血でベトベト……。」
ヒーローに近づくと無線やカメラを装備していた場合に面倒だから、逆方向にとりあえず歩いた。
背後からは別の声が聞こえてくる。
……いつもパトロールすらないのに、ヒーローが負傷したら直ぐに応援が駆けつけてくるんだな。
「待て殺人鬼!!」
だからさぁ、簡単に殺人鬼っていうけど……。
「あたしは率先して殺してねーよ!!」
振り返って応援にきていた者の首を手から放ったカーボンで貫いた。
「さつじ
闇の向こうでボトリと首が落ちる音がした。
あたしの個性は『カーボン』で、だいたい最大で畳12畳分のカーボンを身体から放出することが出来る。
これは放出というより突起として伸ばすイメージに近いけど、無理すれば切り離して飛ばすことも可能だ。
厚さは最大5cmまでで薄くするのは結構簡単。
「おい殺人鬼。」
また新しいヒーロー?
うざったいな、いい加減しつこい。
振り返ると黒髪に黒いコート、身体はパッチワークで出来ているような人形のような男が立っていた。
「だから殺人鬼じゃねーから!!」
手のひらからカーボンの板を放出するとガチンと掴まれた。
今まであたしのカーボンカッターを受け止めた奴なんていなかったのに。
「そうかよイカレ殺人鬼。」
訂正になってない!!
クソ……放出したカーボンを掴まれたとなるとバッキリと折って逃げるしかない。
ただ、あたしの体の一部だから切断は靭帯を切るほどの痛みを伴うし、栄養と休息を取るまで折ったカーボン分の出力を失う。
「手を離して……。」
人形のような男はカーボンをバキバキと曲げるように近づいてくる。
「ギャアアア痛い痛い痛い!!」
どうしよう、本当に殺される……。
「君たち!!何をしている!!か弱い女性から手を離せヴィラン!!」
横を向くと更に別の無もなきヒーローが立っていた。
「勝手に人を外見で差別すんじゃねーよ!!」
咄嗟にそいつに向かってカーボンを放出すると痛みで出力が弱りスピードが足りずによけられてしまった。
「お前もヴィランか!!報告報告!!至急応援を頼む!!ヴィランの男女が2名!!」
「人を勝手にカテゴライズするな!!」
「うわっ……なんだ……!?翼……!?」
無茶をした。
あたしは背中の骨にカーボンを巻き付けて畳1枚分を計2枚、翼のように動かすことができる。
「死ねチンカスヒーロー!!死ね!!」
そう吐き捨てて人形男の腕に手を通して飛び上がった。
「気色悪ィ翼だな……敗れたナイロン傘かよ。」
うるさいな!!
こちとら個性を綺麗に保つ技術なんか持ち合わせてないんだよ!!
拾ってやっただけありがたく思え!!
「早く来てくれ!!ヴィランが飛んでいった……逃亡した!!」
、、、
「おいイカレ殺人鬼、高度が落ちてる。」
当たり前でしょ……人を運びながら飛んだことなんて一度もないんだから。
「ハァー……ケロイドマンが重たいから……。」
すると人形男は脚を揺らし始めた。
「うわ!!落ちる!!制御不能になって墜落するから!!」
人形男はフッと笑って抱えるあたしを見上げた。
「ケロイドマンは失礼だろうが……。荼毘と呼べ。」
荼毘って……荼毘に伏すの?
だとすれば個性は凍傷や酸による酸蝕でも乾燥によるミイラ化でもない……単純な火炎放射?
「あっそ、気取った名前。……ならあたしは斬首でいい。」
そう答えると荼毘は闇の向こうを指さした。
「そうかよ。……斬首、俺の行く道は決まっている。」
あたしはただ荼毘が指し示す場所に向かって羽ばたいた。
「オーケー!!荼毘……一緒に行こうか。」