※この作品はR-18です。

夫婦がふたたび出会ったら〜原初の魔王はお嫁さんしか愛せない〜   作:癖でぶん殴りに行く人

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【 まえがき 】

■愛が重すぎる(元)魔王様と転生者で転性者でもあるお嫁さんの結婚生活のお話

少しでもお楽しみいただければ幸いです

2026.04.24/金


1話

「んぇっ? 魔王、様……?」

 

 ダンジョンの隠し部屋だろう場所に逃げ込んだはいいが、そこは異様であった。オレたちパーティーが全員入ってもまだまだ余裕のある広さがあるのだが、大きなものが浮かんでいたのだ。両端が尖った大きな宝石だろうか、暗めの濃い紅の中にも波紋のように広がるのは黒く長い髪。水晶のような形をしたなにかに閉じ込められている人は――。

 

 

   ◆

 

 

「えーっと、ここはどこですかね?」

 

 見知らぬ天井に首を傾げつつも記憶を手繰り寄せる。

 

 ご丁寧に勇者と名乗る男が午後のティータイム中の魔王様の元にやってきて先制攻撃を仕掛けたものだから、気がついたオレが魔王様を庇って血濡れになり、ブチギレた魔王様が勇者に攻撃を仕返して勇者は呆気なく死に、女神様が現れたところまでは覚えてる。それからどうなった?

 

 魔王様は泣きながら壊れたように笑っていたような気がするんだけど、大丈夫か?

 

 あの人、ちょっと独占欲が強いから、オレがいなくなったら暴走するんじゃないか? いやでも、国のトップだし、領民のことを考えれば暴走はしない……よな? 本気を出せば魔族領のすべてと隣接する森とその先の辺境伯領を巻き込んで消えることになるし。い、一応嫁だといっても、オレのためだけに危ないことはしないよな? ……しないと思いたい……!

 

 そもそもの話、オレが嫁になったのだって、成り行きだからな。魔王城の中庭に空から突っ込んだところを保護された延長線だよ。死ぬかと思ったわ! 魔王様に抱き止められなかったら実際に死んでたと思う! 女神様も人使いが荒いんだよ! 空に放り出すなんてな! しかもエルフの女の子になってたし! おっぱいは大きめだけど、自分で揉んでもな〜んにも楽しくないんだよ!

 

 女神様が言うには『闇落ちを止めたい』ということらしいんだが、誰が闇落ちするのか解らないんだから止めようがなくないか? というか闇落ちってなんだよ? 語感からなんとなくは解るが、そこまで専門用語を知ってるわけではないんだけど? こちらは中学高校と朝の読書時間のためにちょっとラノベを読んだだけの凡人なんだからな!? オレはなぁ、ラノベより漫画や推しの動画を見る派なんだよ! 202✕年の大学生を舐めんな! オレの推しはVTuberである猫慈(ねこじ)音子(ねこ)ちゃんである! 白銀の髪を持つネコミミネコしっぽの眠たげなメイドさんだっ! 音子ちゃんは白銀だけど、光の加減で七色にも見える不思議な色合いをしている。赤と金のオッドアイで巨乳なのも好きです! お布施(投げ銭)は少ないですが、配信は必ず拝見しておりますです!

 

 って、オレのことはいいんだよ。好きなものを語る時間じゃないんだから。魔王様のことに戻ろう。

 

 なぜか出会ったその日に嫁という名の永久就職に収まってしまったわけだが、魔王様にはちゃんと似合う人がいると解ってるし、オレがいなくなっても再婚して幸せになってるか! オレが心配する必要なんてないよな! モテる男は格が違うんだよ、格がさあ! うん、魔王様は大丈夫だな!

 

 それよりも、だ!

 

 ここは一体どこなんだろうね? ベッドに寝かされていたようなんだが、部屋には他に誰もいない。どこかの家の一室なんだろうけど、普段使いはされていない気がする。勘だけど。こう、なんというか、空気が違うんだよね。ここは来客対応の部屋なんですかね?

 

 起き上がりつつも辺りを見渡してそう結論を出した時、ドアが開いたような音が響いた。立て付けが悪いのか、大きく聞こえてきたな。

 

「――お嬢様!」

「あら、どうし――。ああ、目が覚めたのですね」

 

 一瞬見えたメイドっぽい人が下がったかと思えば、お嬢様と呼ばれた女の子が顔を出す。

 

「こんにちは〜」

 

 軽く頭を下げると、女の子はさらに近づいてきて、ベッドの縁へと腰を下ろした。座ったことによって、身長が同じくらいになる。いや、女の子の方が少ーし高いのか? 部屋着であろう厚めの生地のワンピース姿だが、溢れ出る気品は失われておらず、清楚感がビシバシ全面に出ていた。この子は確かにお嬢様だ。どうやら彼女は金色の髪を髪紐かなにかで後ろでひとつに纏めているようだった。青い瞳ごとこちらを向くと口を開く。

 

「あなたは街道に近い森の入り口に倒れていました。より正確に言えば、私たちが採取を終えて帰ろうと森の入り口に戻った時に急に眩い光が現れたのです。光が収まった後、あなたが倒れていたのですよ」

「そうなんですね」

 

 お嬢様の声は柔らかいのだが、まだ少し緊張感があった。見ず知らずの人間だからな、緊張するのは解るよ。初っ端からフレンドリーにはなれないって。

 

 お嬢様の話を聞くに、どうやら最終的には魔王城からどこかへと飛ばされたらしい。血塗れの上に死にかけていたから完全なるホラーじゃん! 怖っ! 汚れとかは大丈夫なのかと慌てて手や服を見るが綺麗なもので、頑張って落としてくれたことが窺える。服は着ていたドレスそのままだったけど、汚れ落ちがしやすい生地だとメイドが言っていたからそういうことなんだろうな。まあ、どちらかといえば、回復薬の効果なんだろうけど。品質は不明だが、お手数おかけしてすみません!

 

「あなたはエルフのようですが、おそらくはあなたを逃がすために転移陣を発動させてあの場所に来たのでしょう。事件か事故に巻き込まれたのでしょうか?」

「う〜ん、事件といえば事件ですし、事故といえば事故かもしれないですねえ」

 

 手繰り寄せた記憶を掻い摘んで話すと女の子は眉を顰めた。なにを言っているのかという呆れた顔をされたのも見ているぞ。

 

 勇者が来て一方的に攻撃をされ、魔王様を庇って血濡れになり、気がついたらここにいたことを話しただけなんだが、なにか気に触るようなことを言ってしまったんだろうか?

 

 ちなみに、話すときは丁寧な話し方をするように自分自身に魔術をかけてゴリ押ししてますよ〜。一人称もわたしにしてるし。怪しまれると面倒だからな。魔王様とその腹心の前ではちょっと言葉遣いが乱れることもあるけど。あとひとりでいるときとか考えるときは一人称オレが顔を出すね。いいだろ、頭の中は覗けないんだし。性別が変わろうがオレはオレなんだよ。

 

 オレ自身の魔力量はそこまでではないのだが、自分に魔術をかける分にはコストは少なく済むのでゴリ押しも可能なんですよ。寝ると消えるから朝にかけ直す手間はあるけど。今回の場合はなぜだか解らないが、ゴリ押ししたままであった。手間が省けていいけどね。って、またか! オレのことよりもいまはお嬢様のことだろ!

 

 窺うようにお嬢様を見遣ると、お嬢様の方は小さな溜息を吐いてから、「よろしいですか」とまた話し始めた。言い聞かせるようにゆっくりと。

 

「いまの時世では、公に【勇者】と名乗る者はおりませんよ。自称勇者は数多くいますが、歴代の勇者のように圧倒的な力を持っているわけではありません。新たな勇者が生まれなくなったからです。そもそも、『勇者と魔王は敵対関係にあるわけではない』ということも、全世界に向けて女神様より説明されておりました。しかし、事件を起こした勇者がいたのですよ。件の勇者が魔王城に侵入し、魔王――原初の魔王に牙を向いたのはいまより583年前に起きた出来事になります。教科書に記されたことにはなりますが、愛する人を失った魔王はこの世界を壊そうとした罪により、女神様によって封印されました」

「ちょっ、まっ、え? 583年!? 583年とは何年です!? どういうことですか!?」

「583年は583年ですよ」

「いやそうなんですけどぉ! ま、魔王様が封印されたというのは……? あと原初の魔王とはどういった意味ですかね?」

 

 わけが解らないことになっていて混乱する。理解が追いつかない。勇者の襲撃があったのはついさっきだというのに、583年も未来になっているなんてどういうことなんだよ。なんで魔王様は封印されてるわけ!?

 

「封印は封印です。この世のどこかに原初の魔王を封じた魔石が存在するようですね。これも教科書に記されたことになります。【原初の魔王】については、彼の魔王・アティルスが魔王の始まりと言われているからですね」

「うぇぇ〜、500年も経っているだなんて……、わたしはどうすればいいんですかぁ」

 

 お嬢様の話し方からして嘘を言っているようには見えないんだよな。見えないから混乱しかないわけだ。死にかけて目が覚めたら未来なんて信じられん。摩訶不思議現象が起きたことにより、いまなら浦島太郎の気持ちが解るような気さえしてくるぞ。きっと彼もこうやって困惑したんだろう。

 

 女神様はオレになにをさせたいんだ? 3度目があるということはなにかさせたいんだろうけど、魔王様がいないんならすることがなくないか? 魔王様以外の人の闇落ちを阻止すればいいの? 正解が解らないぞこれは。

 

 うぁ〜! と唸りながら頭を掻き毟る。583年なんて世界が変わりすぎてるだろうしさあ、適応できるのか不安しかないよ〜! 魔王様と夫婦だった時間は7年と2週間と2日ほどだったが、オレは魔王様に甘やかされてきたので、この先ちゃんと生きていけるのか解らないのが怖い。

 

 身分証がない人間を雇うところなんて、怪しさ満載のところしかないのは現代日本も異世界も変わらないんだよぉ。異世界ならみんな大好き探索者として登録したらいいだけなんだけど、現代日本だと身分証がなければすぐに詰むんだよな。浮浪者として生きるしかなくなるよ。

 

「魔王様を見つけるまでは探索者として過ごすしかないですねぇ……」

 

 いくらエルフの見た目であっても、生活魔術に毛が生えたものしか使えないのがキツすぎるぞ。魔王様と離れてしまったから、自分自身でなんとかして生きていくしかないんだが、不安で不安で胃が痛くなってきたわ! 小さな火を熾したり、お猪口サイズのコップに水を満たすのがやっとだったり、埃を集めるのに微風を出したり、服ごとついた汚れを落とせるだけの、浄化にも満たないエセ浄化と、ゴミを捨てるためのそんなに深くもない穴を掘ったりすることしか出来ないから、本当になんとかしなければならない。魔力量が多くないのが一番悲しいが、増やす手段がないから笑えないよな。

 

 練習しても攻撃魔術は習得できなかったんだよなあ! 剣と魔法の世界に生まれ変わったならさあ、広範囲魔法で敵を殲滅するのに憧れるだろぉ!? この世界は魔法ではなく魔術と呼ぶようなんだが、バンバン魔術を使って活躍したいだろ! 目立ちすぎるのはよくないものも呼ぶから、目立ちすぎないように生きていきたいだろ! 女神様も人を転生させるのならチートぐらい付けてくださいよ! いまの状況では最悪、躯を売ることも考えないといけないんですよ!?

 

「あのぉ、わたしはこんな見た目ですけど、魔術は生活魔術しかまともに使えないポンコツなんです。ですが、ひとりでは不安なのでパーティーを組みませんか?」

 

 攻撃魔術が使えないのは致命的すぎるが、ひとりで生きていくのは難しいのは明らかだ。誰がと一緒にいられるのなら、絶対にそちらの方がいいに決まってる。採取とか言っていたから、おそらく彼女たちも探索者だろうし。

 

「私たちとパーティーですか?」

「はい。ダメですか?」

 

 目を瞬かせるお嬢様がなんだが可愛くて笑みを溢しそうになるが、ここは笑っていい場面ではない。なんとか耐えてお嬢様を見ると、お嬢様は「そうですね」とオレの肩へと手を添えた。

 

「まずはお名前をお願いします」

「あっ、そうですよね! わたしの名前はミルティと言います」

「ミルティ……。原初の魔王の寵姫の名前ですね……。銀の髪と金の瞳を持ったエルフのミルティ。ということは、あなたは本当にミルティなんですね?」

「本人を証明するものは探索者カードしか持ってないですね〜。あと寵姫なんですね。嫁ではなくて」

「教科書では寵姫となっておりますね。絵本でもそうですよ。恋愛小説の方ではハーレムの一員です。本当かどうかは解りませんが、片時も離さなかったと伝えられています」

「違いますよぉ! ちょーっと抱きしめられる回数が多かっただけであって、そんな片時も離さないなんてあり得ないですから! 仕事ができないでしょうが!」

 

 お嬢様がきっぱりはっきりと言うが、ハーレムものは恋愛小説でいいのか? 区分間違ってない? オレは読まないんだけどさ、一応言っておかないと。いやそれよりも! 誰だよ、片時も離さないとか書き始めた奴は! 妄想を書き殴るなっつの! オレはぎゅうぎゅうに抱きしめられていただけだぞ! 身長差が辛くて辛くて泣きたくなっただけだってば! どうしてオレの身長は伸びないんだよ!

 

 オレの大きな訂正に対してあらとお嬢様は口元に手を添えたが、バカップルみたいなことはしてませんから〜! 本当だから!

 

 お嬢様の目が少し怪しく光ったので、「パーティーのことを話し合いましょうよ!」と話を変える。無理やり変えなければ、お嬢様にいろいろ聞かれたかもしれないし。嫌だよ、夜の生活を聞かれるのは。羞恥で死ぬ!

 

「パーティーに関しては少し待ってください」

「はい、解りました」

「ネルヴァ、少し話し合いましょう」

「承知しました」

 

 ネルヴァと呼んだメイドを連れて、お嬢様は離れていく。部屋から出ていってしまったが、ドアは完全には閉まってない。ドア向こうで話し合っているんだろうな。

 

 メイドは獣人だった。嫌がられるだろうが、触り心地の良さそうな毛を撫でまくりたいな〜。この世界の獣人はというとですね、獣の比率が少なく、ミミとしっぽ付きの人間である。毛深さの違いはあるが、例外なんぞない。そして獣人には熊・狐・猫・犬・狼の種がいる。犬と狼は似たように見えるが、本人たちが言うには違いがあるらしいね。メイドは薄茶の猫ちゃんだ。獣人種の中には獣の姿になれる者もいるようだが、家族やよほど仲が良い人の前以外ではしないから見られることは稀らしい。魔王様は魔王様で変身魔術で猫の姿になれるが、なったらなったでめちゃくちゃ甘えてくるんだよなあ。膝の上は魔王にゃんこ専用になるし。

 

 あ〜、オレの従魔は元気かな。朝の散歩の時間に中庭をめちゃくちゃ走り回っていた反動か、ティータイムの時間になる前に寝てしまったから部屋に置いてきてたんだけど、泣いてないかな……。いやでも、置いてきてよかったよ。惨事に巻き込むことはなかったから。

 

 手持ち無沙汰になってしまったので壁に躯を預けていると、話が纏まったらしくお嬢様たちはこちらへ戻ってきた。

 

「私たちもふたりでは大変なので、パーティー加入は喜んで迎え入れたいと思います。攻撃魔術に関してはスクロールもありますから、いまはまだそんなに気にすることではありません」

「ありがとうございます! あと、どうやら時空を超えたらしく、この時代の常識がなにも解らないので教えていただけると嬉しいです!」

「それもそうですね。私はリカーナ。こちらのメイドはネルヴァです。これからよろしくお願いしますね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 ここが魔族領と真反対に位置する辺境の孤児院だということ、リカーナお嬢様は本当にお嬢様のようで、先妻の子だとして疎まれ、家を追い出されて孤児院に厄介になっていることを知る。メイドのネルヴァはお嬢様に助けられたことで忠誠を誓っていると言う。そしてこの孤児院はカツカツだということも知ってしまったよぉ! やめて、孤児院の運営が危ないなんて胃が痛くなるだけだから!

 

 探索者となって、封印された魔王様を探すことが第1目標だ。孤児院に寄付をするのは少し待っていてください。




【 あとがき 】

魔王様は割とすぐに見つかるのよ〜

2026.04.24/金
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