ONE PIECE ―紫電の副船長(レイル・ロード) 作:烏丸レン
バラティエの戦いが一段落し、クリーク一味が霧の中に消えた後。壊れかけた甲板の上で、サンジは燃えさしのような煙草を吐き捨て、レオンの前に立った。
その眼には、先ほど厨房で見せつけられた「蹂躙」への嫌悪と、それ以上に、一味の副船長を名乗る男の底知れない実力に対する「雄」としての意地が宿っていた。
「……おい、副船長。てめぇのやり方は反吐が出るが、その実力だけは認めざるを得ねぇ。……だが、俺の大事な厨房を汚した落とし前はつけてもらうぜ」
サンジが低く構える。レオンは銀髪をかき上げ、傍らで陶酔した表情を浮かべるシルヴィアの腰を軽く叩いて下がらせた。
「いいぜ、コック。お前の得意な『足』で相手してやるよ。俺は一歩も動かねぇし、手も使わねぇ。……それで十分だろ?」
「……舐めるなッ!!」
1. 嵐の蹴撃、静止する銀髪
サンジの身体がしなり、弾丸のような速度でレオンの側頭部へと鋭い蹴りが放たれた。
「首肉(コリエ)ッ!!」
強烈な一撃。だが、レオンは首をわずかに傾けただけで、その風圧さえも楽しむように回避する。サンジは着地と同時に回転を加え、続けざまに連撃を叩き込んだ。
「肩肉(コートレット)! 胸肉(ポワトリーヌ)! 腿肉(ジゴ)ッ!!」
怒涛の足技。一流の料理人が振るう包丁のように正確で、かつ重戦車のような重みがある。しかし、レオンはポケットに手を突っ込んだまま、最小限の膝の屈伸だけで、すべての蹴りの軌道をミリ単位でかわし続けていた。
「どうした、コック。料理の仕込みにしちゃあ、腰が入ってねぇぞ」
「クソが……っ! だったらこれならどうだ!!」
サンジが逆立ちの体勢から独楽のように回転し、全方位への連続蹴り「羊肉(ムートン)ショット」を繰り出す。
2. 「瞬足」の蹂躙
「……終わりだ」
レオンの瞳が、青白い静電気を帯びて冷酷に光る。
サンジの足がレオンの鼻先に迫った瞬間、レオンの右足が下から跳ね上がった。
「瞬脚(しゅんきゃく)」
ドォォォォン!! と、爆発音のような衝撃波が甲板を揺らす。
サンジの目には、レオンの足が動いた瞬間さえ見えなかった。気づいた時には、自分の放った蹴りの軌道を完全に上書きする形で、レオンの足の甲がサンジの鳩尾に深く食い込んでいた。
「が、はっ……!?」
サンジの巨体が真上に跳ね飛ばされる。だが、レオンは追撃の手を緩めない。宙に浮いたサンジの懐へ、一瞬で踏み込む。
「バリバリの実……『雷塵(らいじん)』」
レオンの足先から、超高圧の振動電流が放たれる。
バチィィッ!! と青白い火花が散り、サンジの神経系に直接「敗北」のショックを叩き込んだ。サンジは全身を痙攣させ、甲板に膝から崩れ落ちた。
「……足技の極意ってやつを、その身体に刻んでおけ。お前がレディを守りてぇんなら、俺の速度(領域)まで上がってこい」
3. 勝者の果実と、敗者の誓い
「はぁ、はぁ……っ。クソ野郎が……化け物かよ……」
荒い息をつくサンジ。その視線の先で、レオンは勝利の余韻に浸ることもなく、待機していたシルヴィアを再び抱き寄せた。
「……見たか、シルヴィア。俺の足はお前を抱くためだけにあるんじゃねぇ。敵を文字通り『粉砕』するためにもある」
「はい……レオン様。あの美しい足捌き……私は、一生あなたについて行きます……っ」
シルヴィアはサンジの目の前で、レオンの足元に跪き、勝利した主人のブーツに恭しく口づけを落とした。サンジは、自分がどれほど足掻いても届かない「絶対的な強さ」と、それを当然のように支配するレオンのカリスマ性に、屈辱と共に強烈な憧れを抱かざるを得なかった。
「……おい、ルフィ。俺も行く。このクソ副船長の背中を、いつか蹴り飛ばしてやるためにな」
「ししし! 決まりだ! 飯炊きも仲間だぞ!」
ルフィの笑い声が響く中、レオンはタバコをくゆらせ、水平線の先を見つめる。
「……フッ、いい面構えになったな。さあ、次はナミの故郷を蹂躙しに行くぜ」
最強のコックを加え、レオンの艦隊は「愛」と「支配」の航跡を描きながら、いよいよアーロンパークへと舵を切った。