ONE PIECE ―紫電の副船長(レイル・ロード) 作:烏丸レン
バラティエの甲板に漂う硝煙と、レオンの雷撃によって焼かれた空気の匂い。膝をつき、荒い息を吐くサンジの視界には、ポケットに手を突っ込んだまま、微塵の乱れも見せず立ち尽くすレオンの姿があった。
1. 騎士道の敗北と「絶対強者」の背中
(……速すぎる。蹴りの一撃一撃が、まるで見えてねぇ……)
サンジは痺れる脚を無理やり動かし、立ち上がろうとした。これまで「黒足のゼフ」に叩き込まれた足技には絶対の自信があった。だが、レオンが放った「瞬脚」は、技のキレや威力といった次元を超え、サンジの神経そのものを支配し、封殺するものだった。
何よりサンジを戦慄させたのは、レオンが自分を倒す際、一切の「怒り」も「本気」も見せなかったことだ。まるで、皿の上の端材を片付けるような、冷徹で合理的な動作。
「……クソが。てめぇ、その足……料理以外でそこまで磨き上げやがったのか」
「料理は生かすための技だろ? 俺の足は、俺の欲を邪魔するもんをすべて『排除』するためのもんだ。コック、お前の騎士道じゃあ、本当に守りてぇもんは守れねぇぜ」
レオンは銀髪をかき上げ、冷たく言い放つ。その背後では、奴隷として支配されたはずのシルヴィアが、恐怖ではなく、救済を得たかのような心酔の眼差しでレオンを見つめていた。
2. 「目標」としての副船長
サンジは、自分が抱いていた「女を守る」という理想が、レオンという圧倒的な「力」と「支配」の前ではいかに脆いかを痛感した。だが、同時に彼の中で、これまでにない激しい渇望が芽生えていた。
(この男を超えねぇ限り……俺は、本当に美しいレディを、この手の届く範囲で守り抜くことすらできねぇ……!)
「……おい、レオン。てめぇのやり方は一生認めねぇ。だが……その強さだけは、俺が超えなきゃならねぇ壁だ」
サンジは震える手で新しい煙草に火をつけた。その瞳には、敗北の屈辱を超えた、強烈な「向上心」と「執着」が宿っている。
「……いつか、てめぇのその澄ましたツラに、俺の極上のディナーを叩き込んでやる。それまで、誰にも負けてんじゃねぇぞ、副船長」
3. 歪な信頼の芽生え
「ししし! サンジ、お前も面白ぇな! レオンは強ぇから、たっぷり鍛えてもらえよ!」
ルフィの能天気な声が響く中、レオンは不敵な笑みを浮かべてサンジを振り返った。
「いいぜ。お前が俺を蹴り飛ばせるようになるまで、俺の背中、せいぜい拝ませてやるよ。……ただし、修行中に俺の女に手を出そうとしたら、その自慢の足を焼き切ってやるがな」
「……フン。レディには手を出さねぇのが俺の流儀だ。だが……お前に勝つためなら、悪魔に魂を売ってでも強くなってやるよ」
こうして、サンジはレオンを「憎むべき宿敵」でありながら、同時に「超えるべき絶対的な目標」として定めることとなった。
一味の食事を支えるコックの心に、レオンという雷鳴が火をつけた。麦わらの一味の「雄」たちの争いは、グランドラインという過酷な戦場を前に、さらなる熱量を帯びて加速していく。