ONE PIECE ―紫電の副船長(レイル・ロード) 作:烏丸レン
海軍基地での騒動から数日。ルフィが甲板で居眠りをし、ベルたちがレオンの身の回りの世話を焼くなか、一味の「魔獣」が動いた。
「――おい、銀髪」
酒瓶を傾けていたレオンの前に、三本の刀を携えたゾロが立つ。その眼は、飢えた狼のように鋭く据わっていた。
「昨日の戦い……あれがてめぇの全力じゃねぇことは分かってる。能力(バリバリ)抜きで、一度その剣、俺に拝ませろ」
レオンは隣に座るベルの豊かな胸元から手を離し、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
「いいぜ、三刀流。副船長として、格の違いを体に刻んでやるよ」
剣撃の火花:神速の「瞬」
甲板に緊張が走る。ゾロが三本の刀を構え、野獣のような勢いで踏み込んだ。
「鬼斬り……!!」
交差する三条の閃光。だが、レオンはその場から一歩も動かない。いや、動いたと認識できた者は誰もいなかった。
「瞬刃(しゅんじん)」
キィィィィィン! と、高い金属音が響き渡る。
ゾロの三振りの刀が、レオンの引き抜かれた黒刀「瞬」によって、一箇所で完璧に受け止められていた。ゾロの剛力を、レオンは手首の返しだけで受け流し、そのままゾロの懐へと潜り込む。
「なっ……!?」
「遅いぜ、魔獣。力に頼りすぎだ」
レオンの神速の抜刀術。能力を使わずとも、彼の剣は摩擦熱だけで陽炎を纏っている。ゾロが必死に距離を取ろうとするが、レオンは影のようにピタリと追随する。
「瞬牙(しゅんが)!」
超高速の刺突。ゾロは間一髪で刀の腹で受け止めるが、その衝撃で腕が痺れ、大きく姿勢を崩した。レオンの剣術は、ゾロの荒々しい剛剣とは対照的な、極限まで無駄を削ぎ落とした「天才」の技だった。
「これで終わりだ。……瞬炎(しゅんえん)」
レオンの刀身が、超高速の鞘走りによって真っ赤に加熱される。一閃。ゾロの視界が紅蓮の光に染まった。
気づいた時には、レオンの熱を帯びた刃がゾロの喉元にピタリと突きつけられていた。ゾロの頬には、刃の熱気でうっすらと焼け焦げたような跡が残っている。
「……俺の勝ちだ、剣士」
沈黙。やがてゾロは悔しそうに口角を上げ、刀を収めた。
「……へっ。完敗だ。能力抜きでこれかよ……化け物め」
勝利の果実と、敗北者の「教育」
「ししし! さすがレオンだ! お前、本当に強いな!」
ルフィの笑い声が響くなか、レオンは刀を鞘に戻し、待機していたベルの腰を引き寄せた。
「見たか、ベル。これが本物の剣だ」
「はい……レオン様。あんなに速い一撃、初めて拝見しました……。お体、お熱くなっておられるのでは?」
ベルは陶酔しきった表情で、レオンの火照った胸元に手を這わせる。敗北したゾロの前で、レオンは彼女の顎を強引に掬い上げ、深く、蹂躙するように唇を奪った。
「んっ……ふぁ……っ、レオン、様……っ」
ベルの膝が震え、彼女はその場に崩れ落ちる。レオンは彼女をそのまま自室へと促すように肩を抱き、ゾロに向かって肩越しに言い放った。
「強くなりたきゃ、せいぜい俺の背中を追ってきな。……ただし、俺の女にだけは手を出すなよ? 焼死したくなければな」
銀髪を風になびかせ、レオンは勝利の余韻と共に、待機する女たちを連れて奥へと消えていった。甲板には、レオンの放った圧倒的なカリスマの残滓と、さらなる高みを見せつけられたゾロの静かな闘志だけが残っていた。