僕が先に好きだった幼馴染は、天才のリズムなしでは生きられない牝に書き換えられた。 作:123
焼肉店の喧騒を背に、夜の街へと足を踏み出した俺の身体は、まるで自分の意志を持たない精巧な自動人形のようだった。
夏の入り口特有の、湿度をたっぷりと含んだ生温かい夜風が、アスファルトに蓄積された熱を孕んで俺の頬を撫でていく。
先ほど、大勢の部員たちの前で決定的な「敗北」と「排除」を宣告され、俺の存在意義は完全に消滅したはずだった。
俺と結衣が積み重ねてきた幼馴染という歴史は、あの天才の男がもたらした圧倒的な結果と暴力的な快楽の前に、たった数ヶ月で無価値な塵と化した。
もはや、俺が彼女の人生に介入する余地など1ミクロンも残されていない。頭では、骨の髄までその論理を理解している。
だというのに。
俺の足は、泥のように重い身体を引きずりながら、狂気に突き動かされるようにして、闇に溶けた二人の背中を追跡していた。
引き返せと、本能が警告のサイレンを鳴らし続けている。
これから向かう先にあるのは、俺の精神を完全に解体し、二度と修復不可能なほどに破壊し尽くす、正真正銘の地獄だ。
だが、俺の足は止まらなかった。
自分が愛した純潔な少女が、どのようにして一人の男の完全な所有物――発情した牝へと堕ちていくのか。その「最終形態」をこの網膜に焼き付けなければ、俺の行き場を失った矮小な感情は、成仏することすら許されないのだと、呪いのように思い込んでいた。
二人の影は、人気のない夜の道を、学校の方角へと向かって歩いていた。
結衣は、男の太い腕に完全に体重を預け、足取りもおぼつかない様子ですり寄っている。
街灯の光が途切れる暗がりに入るたび、彼女が男の首筋に顔を埋め、獣のように熱い吐息を絡ませているのが、離れた距離からでも痛いほどに伝わってきた。
やがて二人は、夜の静寂に包まれた学校の敷地内へと、裏門から侵入した。
俺もまた、息を殺し、足音を消して、亡霊のようにその後を追う。
グラウンドの奥、プレハブ建ての部室棟の裏側。
そこは、街灯の光も届かない、深い闇が澱む死角だった。
昼間は部員たちが談笑し、用具を洗う水道の蛇口があるだけの無機質なコンクリートの空間が、今は底知れぬ狂気と淫靡な気配を孕んだ、密室の祭壇へと変貌していた。
俺は、少し離れた体育用具室の陰に身を潜め、冷たいトタンの壁に背中を預けながら、その暗がりを凝視した。
「……はあっ、はあっ……」
静寂の闇を切り裂いたのは、結衣の荒々しく、そしてひどく切実な喘ぎ声だった。
俺の目は、暗闇に慣れるにつれて、そこでおこなわれている異常な光景の解像度を徐々に上げていく。
結衣が、自ら男の胸ぐらを掴むようにして抱きつき、貪るように激しく唇を求めていた。
肩甲骨のあたりで無造作に結ばれた艶やかな黒髪のポニーテールが、彼女の激しい動きに合わせて狂ったように乱れ舞っている。
過酷なトレーニングで鍛え上げられた、無駄な脂肪が一切ない引き締まった四肢。太陽の光を吸い込んだ健康的な褐色の肌。
俺が誰よりも美しく、気高く、純潔であると信じていた誇り高きアスリートの肉体が今、自らの意志で男の身体に絡みつき、発情した獣のように彼を求めているのだ。
「待てよ。こんなところで、焦んな」
男は、自分にすがりつく結衣の肩を押し返し、わざと焦らすように冷たく言い放った。
その瞬間。
結衣は、糸が切れたようにコンクリートの地面に両膝をつき、男の腰にすがりついて泣き崩れたのだ。
「いやだ……待てない、もう限界なの……っ!」
結衣の声は、恐怖や悲しみによるものではなかった。
「お願い、早く……! あなたの動きのリズムが体から抜けると、苦しくて、怖くて、立っていられないの……! 早く私を満たして、頭の中を空っぽにしてよ……ッ!」
俺は、その涙ながらの懇願を聞き、内臓が裏返るような戦慄を覚えた。
それは、単なる若さゆえの性欲の暴走ではない。
今日の県大会で、彼女はあの天才の男によって強制的に「次元の違う世界」へと引き上げられ、大会新記録という圧倒的な結果を出してしまった。
凡人であった彼女が、突然、神の領域の景色を見てしまったのだ。
その極限のプレッシャーと、身の丈に合わない才能の奔流に、彼女の元々の自我は完全に耐えきれなくなっている。
だからこそ彼女は、自分をその高みへ連れて行った「原因」である男の、圧倒的な才能と暴力的な支配による麻酔を求めているのだ。
男に完全に支配され、犯され、思考をドロドロに溶かされることでしか、彼女はもはや自我を――「アスリートとしての自分」を保つことができない。
これは、狂気に満ちた、しかし彼女にとっては絶対的に正しい「生存本能としての完全な依存」の露呈だった。
「俺の才能なしじゃ、もう一秒も生きられない体になったか」
男は、足元で泣き叫ぶ結衣を見下ろし、同年代とは思えない冷酷で、底冷えのするような絶対者の声で言った。
そして彼は、結衣の艶やかな黒髪の束を無造作に掴み、無理やり彼女の顔を上へと向けさせた。
「ああっ……」
結衣の口から、痛みを快楽に変換したような甘い声が漏れる。
「誰のモノか、ちゃんと言ってみろ」
男の命令。
結衣は、髪を掴まれて苦しい体勢であるにもかかわらず、その顔には、究極の安堵と悦びが浮かんでいた。
彼女は、焦点の合わない、熱で蕩けきった瞳で男を見つめ返し、恍惚とした笑みを浮かべた。
「はい……私は、あなたのモノです……」
そして、俺の長年の幼馴染は、俺の耳を疑うような、おぞましい言葉を、嬉々として紡ぎ出した。
「あなたの才能に犯されるための……あなたのための、肉便器です……」
ドクン、と。
俺の心臓が、破裂するような音を立てた。
真面目で、ストイックで、潔癖だった彼女の口から、そんな最低で、品性のかけらもない言葉が飛び出したのだ。
いや、飛び出したのではない。
あの男が、夜の密室での徹底的な調教を通じて、彼女の脳の奥深くまでその概念を刷り込み、自らそう名乗るように完全に書き換えてしまったのだ。
彼女は、自らの尊厳を完全に放棄し、一人の男の「性欲と才能の処理装置」に成り下がることを、自らの最大の存在価値として受け入れてしまった。
俺が長年かけて彼女に向けてきた「対等で優しい愛情」。
それが、いかに無力で、ひどく退屈で、彼女の深淵を満たす機能を持たない「偽物」であったかを、俺は完全に理解させられた。
彼女が直面している「絶対的な才能への飢え」と「死の恐怖に等しいプレッシャー」。
それを受け止め、暴力的な快楽によって上書きしてやることができるのは、同じ土俵に立ち、彼女を圧倒できる「絶対的な雄」だけなのだ。
俺の優しさなど、彼女にとっては、何の役にも立たない綺麗事のゴミに過ぎなかった。
「よく言えたな。なら、お前の望み通り、ここでお前の中を俺の才能でぐちゃぐちゃにしてやるよ」
男はそう言うと、結衣の身体を乱暴に引き起こし、そのまま背後の冷たいコンクリートの壁へと力強く押し付けた。
「あっ……はあっ……!」
結衣の学校指定のジャージが、無惨に引き剥がされていく。
褐色の健康的な肌が、夜の闇の中で生々しく露出する。
俺が息を殺して見ている、わずか数十メートル先。
男は、一切の躊躇いもなく、彼女の最も無防備な領域へと、己の楔を深く、容赦なく打ち込んだ。
「あぁぁっ……あぁああっ……!!」
静寂に包まれた夜の学校に、結衣の甲高く、鼓膜を劈くような絶叫が響き渡った。
それは、痛みに耐える悲鳴では断じてなかった。
自らの欠落したパーツが、圧倒的な才能の熱量によって埋め立てられ、脳髄の奥深くまで快楽の電流が突き抜けたことによる、純度100パーセントの「生存の歓喜」と「発情」の絶叫だった。
バチュッ、チュプッ、という、生々しく下品な水音が、コンクリートの壁に反響して俺の耳に届く。
男の激しい律動に合わせて、結衣の引き締まった身体が、まるで壊れた人形のように前後に大きく揺さぶられる。
「すごいっ……あなたの、奥まで……私の中に、あなたの全部が入ってくる……ッ!」
「うるせえ。もっと腰落とせ。俺のリズム、全部その体に焼き付けろ」
「はいっ、ああっ、はいぃっ! 私、もっと壊して……私を、あなたのモノにしてぇっ……!!」
結衣は、壁に押し付けられながらも、自らの引き締まった太ももを男の腰に強く絡みつかせ、迎え入れるように、狂ったように腰を擦り寄せていた。
彼女の口から垂れた涎が、月明かりに反射して銀色の糸を引く。
白目を剥き出しにし、獣のように喘ぎ狂うその顔に、俺が愛した純粋な少女の面影は、もはや塵一つ残されていなかった。
俺は、冷たいトタンの壁に背中を預けたまま、その場でズルズルと崩れ落ちた。
自分がどれほど彼女を想っていても。
自分がどれほど純粋に、無償の愛を彼女に捧げていたとしても。
彼女の深淵にある、「自己破壊的なまでの才能への渇望」を満たす機能が、俺には決定的に欠落していたのだ。
俺は、彼女をこの狂った高みへ連れて行くこともできなければ、その高みで息ができなくなった彼女を、暴力的な快楽で救済してやることもできない。
俺は初めから、この物語の舞台にすら上がっていなかったのだ。
パチンッ、パチンッ、と。
肉と肉が激しくぶつかり合う音が、暴力的なテンポで闇夜に響き続ける。
その音は、俺の尊厳を、アイデンティティを、過去の思い出を、一つ残らずハンマーで粉砕していく死刑執行のカウントダウンだった。
「ああっ……イクっ、私、あなたので……頭おかしくなるっ……!!」
結衣の身体が、弓なりに大きく反り返った。
全身の筋肉が極限まで緊張し、ビクビクと激しい痙攣を起こす。
彼女は、圧倒的な才能の注入によって絶頂に達し、自らの個という存在を完全にあの男に明け渡した。
「はあっ……ああっ……ああっ……」
男が身を引いた後も、結衣は壁にもたれかかったまま、自立することすらできず、地面に崩れ落ちてだらしなく喘ぎ続けている。
彼女の身体からは、異常な熱気と、噎せ返るようなオスの匂いが立ち上っていた。
それは、彼女が「第三者の才能と肉棒なしでは生きられない、機能不全の雌」へと完全に作り変えられた瞬間――絶対的な完成の証明だった。
俺は、暗闇の中で、両手で自分の顔を覆った。
涙は出なかった。
声も出なかった。
ただ、目蓋の裏に、今目の前で繰り広げられた、自分が愛した気丈な幼馴染が、一人の男の完全な肉便器へと成り下がり、絶頂に狂う姿が、高解像度の映像として永遠に焼き付いてしまった。
「僕が先に、好きだったのに」
俺の心の中で、かつては切実だったはずのその言葉が、ひどく色褪せて、陳腐なノイズとなって響いた。
そんな幼稚な未練など、彼らが構築した「狂気と生存戦略の完全な依存関係」の前では、一瞬の波紋すら起こせない塵芥に過ぎない。
夜風が、生ぬるく吹き抜ける。
俺の世界は、俺の認識は、ここで完全に終焉を迎えた。
コンクリートの壁の向こうで響く、事後の甘い囁き声と、結衣の蕩けたような笑い声。
俺は、自分がこの世界の誰の記憶からも消去された亡霊になったのだという事実を、絶対的な論理的帰結として受け入れ、暗闇の底で、永遠に明けることのない虚無に沈んでいった。
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