※この作品はR-18です。

MEDESGAME   作:ボルメテウスさん

53 / 89
次の予感

最初に見えたのは、人の輪郭ではなく、紋章だった。盾の形をした外枠。中央に縦へ伸びる剣。左右へ広がる翼のような飾り。名前は出ない。顔も出ない。けれど、そこには明らかに騎士を思わせる意匠があった。

 

 次いで、一瞬だけシルエットが浮かぶ。

 

 鎧。長い得物。重い外套。顔は見えないが、立ち姿だけで分かる堅さがある。こちらを見ているわけではないのに、画面越しに剣先を向けられたような圧があった。

 

「……これは」

 

 バーゲストの声が変わった。

 

 さっきまでの警戒とは違う。騎士として、あるいは戦士として、見過ごせない何かを感じ取った声だった。彼女の視線は画面に固定され、わずかに顎が上がる。

 

「鎧? 剣? 騎士っぽいね」

 

 ムジナが呟く。いつもの軽さはあるが、茶化す声ではなかった。

 

「名前は出ない。シルエットだけだ」

 

「盾と剣の紋章……騎士系統の契約体でしょう」

 

 バーゲストが言い切る。ルプスレギナはその横顔を見て、楽しそうに微笑んだ。

 

「あらぁ、次は騎士様同士の戦いですかぁ?」

 

「まだ決まったわけじゃない」

 

「でも、ご主人様もそう思ってますよねぇ?」

 

 否定はできなかった。MEDESは偶然に見せているわけではない。デルタの一回戦に探索と狩りを当てたように、次はバーゲストへ何かをぶつけようとしている。契約体の性質を読んで、適した試合を組んでいるのだとしたら、これはもう単なるトーナメントではない。

 

 画面の表示が切り替わる。

 

 ――SECOND MATCH : ROLE MATCH

 

「ロールマッチ……?」

 

 続けて、新しい文字が浮かぶ。

 

 ――MATCH ATTRIBUTE : KNIGHT

 ――RECOMMENDED UNIT : BARGHEST

 

 おすすめ、という表現が気持ち悪かった。選べるように見せている。けれど実際には、こちらを誘導している。バーゲストを出せ、と言っているのとほとんど変わらない。

 

「おすすめって言い方、嫌だな」

 

 ムジナが顔をしかめる。

 

「推奨と表示しながら、実質的には誘導だ」

 

 壌竜の声は低い。

 

「MEDESは契約体の役割を見て、試合を組んでいる。次はバーゲストを試す盤面ということだろう」

 

 デルタが不満そうに耳を動かした。

 

「デルタも戦えるです」

 

「分かってる。でも、今回はバーゲストに向けて組まれてる」

 

「むぅ……」

 

 デルタは露骨に不満そうだったが、さすがにさっきの試合を終えたばかりで、すぐ自分が出るとは言い出さなかった。ルプスレギナがそこへ口を挟む。

 

「うふふー。ご主人様、大変ですねぇ。勝てば勝つほど、みんなの出番を考えなきゃいけないんですから」

 

「楽しそうに言うな」

 

「楽しいですよぉ。だって、どんどん賑やかになりますから」

 

「お前みたいなのが増えるなら嫌です」

 

「デルタさん、ひどいですぅ」

 

 デルタとルプスレギナのやり取りがまた始まりそうになる。その前に、バーゲストが一歩前へ出た。夜道に響いた靴音は小さいが、不思議と全員の会話を止めた。

 

「構いません」

 

 バーゲストは画面の騎士の紋章を見つめたまま、静かに言う。

 

「騎士を名乗る相手なら、私が受けます」

 

「バーゲスト」

 

「マスター、これは挑戦です。相手がどのような者であれ、騎士という形を掲げているなら、私が退く理由はありません」

 

 その声には、普段の落ち着きとは違う芯があった。怒りではない。高揚でもない。自分が名乗るもの、自分が背負うものを試される場が来たと理解した者の声だった。

 

 俺はスマホの画面を閉じる。

 

「……本当に最悪な大会だな」

 

 勝ったと思えば、新しい契約体が増える。帰れると思えば、次の相手の影が映る。次は誰を出すかまで、運営がこちらの性質を読んで誘導してくる。自分で選んでいるように見えて、その実、選ばされている。

 

 夜道の先には、街の灯りがある。けれど、その明かりが日常へ戻る道には見えなかった。

 

 バーゲストは静かに歩き出す。デルタはまだルプスレギナを睨み、ルプスレギナは面白がるように笑っている。ムジナは小さく肩をすくめ、壌竜は何も言わずに俺の隣へ並んだ。

 

 二回戦はまだ始まっていない。

 

 だが、騎士のマークはもう俺たちの前に置かれている。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。