※この作品はR-18です。

MEDESGAME   作:ボルメテウスさん

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招待状

 ――FINALIZATION PROCESS:START

 

 白い文字が、黒い画面の中央で明滅している。

 

 決勝戦の舞台だった廃校都市は、もうどこにもなかった。

 

 沈み切った夕日も、砕けた校舎も、東郷美森も、彼女を支えていた少年も、黒いノイズに呑まれて見えなくなった。

 

「デルタ!」

 

 俺は暗闇へ向かって手を伸ばす。

 

 指先が掴んだのは、冷たい空気だけだった。

 

「仮ボス、ここです」

 

 すぐ横から声がする。

 

 振り向くと、デルタは床もない空間に仰向けで倒れていた。

 

 魔神の外殻は消えている。破れた黒い衣服の下には、銃弾と散弾が刻んだ傷がいくつも残っていた。

 

 それでも、紫の瞳は開いている。

 

「寝てたんじゃなかったのか」

 

「声が大きいから起きたです」

 

「誰のせいだと思ってる」

 

「美森は強かったです」

 

「会話になってないぞ」

 

 膝をつき、デルタの肩へ手を回す。

 

 重みがある。

 

 幻でもデータでもない。確かにここにいる。

 

 その事実を確かめるように抱き起こすと、デルタの尻尾が俺の腕へ弱々しく巻きついた。

 

「お腹すいたです」

 

「分かった。帰ったら食べさせる」

 

「いっぱいです?」

 

「食べきれないくらいだ」

 

「約束です」

 

「ああ」

 

 返事をした瞬間、スマホが激しく震えた。

 

 俺の手の中だけではない。

 

 ライザが持つ解析用の端末も、床のない空間に漂っていた戦闘記録の文字も、一斉に白く発光する。

 

「始まる」

 

 ライザが駆け寄ってくる。

 

 彼女の頬にも、決勝戦の光がまだ残っている。鉛筆を耳に挟み、紙束を抱えたまま、俺のスマホへ顔を近づけた。

 

「最終処理か?」

 

「分からない。さっきまでと表示が違う」

 

 画面の文字が消える。

 

 代わりに、黒い染みが中央へ広がった。

 

 液体のように膨らみ、画面の縁から溢れ出す。

 

「離れて!」

 

 エリスが剣を抜く。

 

 バーゲストが前へ出て、俺とデルタを庇うように大剣を構えた。

 

 黒い染みは攻撃してこなかった。

 

 スマホからゆっくりと滑り落ち、空中で四角い形へ整っていく。

 

 紙だ。

 

 いや、封筒だった。

 

 宛名も、差出人も、切手もない。

 

 光を吸い込むような黒い封筒の中央にだけ、銀色の文字が刻まれている。

 

 ――優勝者様へ。

 

「怪しいです」

 

 デルタが俺の腕の中から顔を上げる。

 

「お前でも分かるくらい怪しいな」

 

「デルタは賢いです」

 

「今は張り合うところじゃない」

 

 封筒は俺の胸の高さで静止していた。

 

 誰も触れていないのに、黒い封蝋が淡く光っている。

 

「罠でしょうか」

 

 織姫が俺の後ろから覗き込む。

 

「罠じゃなくても、ろくなものではないでしょうねぇ」

 

 ルプスレギナが笑う。

 

 口調は軽いが、両手は自由に動かせる位置に下ろしている。

 

「放っておいたら?」

 

 ムジナが封筒を見たまま言う。

 

「どうせ向こうから次を始めるんじゃない」

 

「それもありそうだな」

 

 俺は封筒へ手を伸ばした。

 

「待って」

 

 ライザが手首を掴む。

 

 指先にはまだ鉛筆の黒い汚れが残っていた。

 

「先に調べる」

 

「触れずに分かるのか?」

 

「分からないから調べるの」

 

 ライザは封筒の周囲へ三本の細い器具を並べた。

 

 錬金術で作ったのか、金属の針に小さなガラス球がついている。三つの球体へ違う色の光が灯り、封筒の表面をなぞった。

 

「魔力反応……あり。でも、契約を動かす術式じゃない」

 

「MEDESの一部ではないのか?」

 

「似てるけど、同じじゃない」

 

 ライザは眉を寄せる。

 

「MEDESの表示って、全部が一本の太い管から流れてくるみたいだった。でも、これは横から割り込んでる」

 

「外部通信ということですか」

 

 バーゲストが訊く。

 

「たぶん。この招待状を送った相手は、最終処理を直接動かしているものとは別」

 

「管理人とシステムが、別々に存在する」

 

 俺が口にすると、ライザは僅かに頷いた。

 

「可能性はある」

 

 黒い封筒を光へ透かす。

 

 表面には何も見えない。

 

 けれど、ライザのガラス球を通すと、銀色の回路が紙の奥に浮かび上がった。

 

 複雑な線が封蝋へ集まり、中心に一つの記号を作っている。

 

 人の目にも見える。

 

 閉じた扉にも見える。

 

「仮ボス」

 

 デルタが鼻を動かした。

 

「人間の匂いがするです」

 

「封筒から?」

 

「はいです」

 

 狼耳が傾く。

 

「でも、生きてる匂いじゃないです」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「人がいた匂いです。でも、今はいないです」

 

 説明になっているようで、完全には分からない。

 

 ただ、デルタが冗談を言っていないことだけは、紫の瞳を見れば伝わった。

 

 俺は封筒へ指を掛けた。

 

 今度はライザも止めなかった。

 

 触れた瞬間、封蝋が勝手に割れた。

 

 音は小さい。

 

 けれど、誰も言葉を発していない空間では、骨が折れたように響いた。

 

 中から白い紙が滑り出す。

 

 黒い空間の中で、それだけが妙に清潔だった。

 

「読んでください」

 

 バーゲストの声に促され、紙を開く。

文字は縦でも横でもない。

 

 最初は意味のない記号に見えたが、目を向けると自然に日本語として頭へ入ってきた。

 

 ――MEDES優勝者、並びに契約体の皆様へ。

 

 ――決勝戦の勝利を、心よりお祝い申し上げます。

 

 指が止まる。

 

「心より、ねぇ」

 

 エリスが鼻で笑う。

 

「人を消しておいて、随分と丁寧じゃない」

 

 俺は続きを読む。

 

 ――皆様は、当管理者が設定した全ての試練を突破されました。

 

 ――その戦闘、判断、契約、変化は、いずれも当初の予測を上回る成果です。

 

 ライザの視線が鋭くなる。

 

 予測。

 

 成果。

 

 書かれているのは、勝者へ向けた言葉ではない。

 

 実験を終えた観察者の報告だ。

 

 紙を持つ指へ力が入る。

 

 白い紙の端が僅かに折れた。

 

「続きは?」

 

 ムジナが言う。

 

 俺は息を吐き、次の行へ目を移した。

 

 ――ゲームの開催理由をお知りになりたい場合、下記の管理領域までお越しください。

 

 ――管理人が直接、皆様の疑問に回答いたします。

 

 ――招待を受諾されない場合、最終処理は予定どおり実行されます。

 

「予定どおり?」

 

 織姫の声が揺れる。

 

「やっぱり、招待を受けなくても最終処理は止まらない」

 

 ライザがスマホを覗き込む。

 

 画面の端に新しい数字が現れていた。

 

 十。

 

 九。

 

 八。

 

 秒ではない。

 

 数字の横には、見慣れない単位が表示されている。けれど減少の間隔から、おそらく十分単位だ。

 

「制限時間です」

 

 バーゲストが剣を握り直す。

 

「考える時間まで指定するとは」

 

「罠にしては親切ですねぇ」

 

 ルプスレギナが封筒へ顔を寄せる。

 

「断ったら予定どおり何かをされる。受けたら、別の場所へ連れていかれる。どちらを選んでも、向こうの手の内です」

 

「だったら行かない方がいいんじゃない?」

 

 エリスが俺を見る。

 

「最終処理をここで止める。ライザが調べるって言ったんでしょ」

 

「調べる。でも、時間が足りない」

 

 ライザは即座に答えた。

 

 悔しさを口にする代わりに、招待状へ器具を強く押し当てる。

 

「これまで集めた記録だけじゃ、出口の位置が分からない。管理領域へ行けるなら、MEDESの中枢に近づけるかもしれない」

 

「近づけば、向こうの拘束も強くなる」

 

 バーゲストが言う。

 

「はい。全員の契約を同時に切断される可能性もあります」

 

「では、罠である可能性は高い」

 

「高いよ」

 

 ライザは顔を上げた。

 

「でも、何もしなければ最終処理が始まる」

 

 暗闇の中で、数字が一つ減った。

 

 全員の視線が俺へ向く。

 

 マスターだから。

 

 勝者だから。

 

 俺が決める立場だから。

 

 その視線が、以前なら肩へ重く積み上がっていた。

 

 けれど今は、誰も命令を待って立っているようには見えなかった。

 

 エリスは剣を抜いている。

 

 バーゲストはいつでも前へ出られる姿勢を取っている。

 

 織姫はデルタの傷へ小さな盾を重ね、治療を始めていた。

 

 ライザは既に招待状の解析を続けている。

 

 壌竜は目を閉じ、存在しない地面を探っていた。

 

 全員が、自分の意思で準備している。

 

「地はない」

 

 壌竜が低く告げた。

 

「足元に何もないのか?」

 

「何もないのではない。地として語るものがない。ここは、土も石も持たぬ器だ」

 

「人工空間?」

 

 ライザが尋ねる。

 

「そう呼ぶならば、そうだ」

 

 壌竜は暗闇へ掌を向ける。

 

「外へ続く流れは一つ。封書の先のみ」

 

「行かせたいなら、向こうにも都合があるんだろうね」

 

 ムジナが欠伸を噛み殺す。

 

「完成品を直接見たいとか」

 

 完成品。

 

 その言葉と同時に、スマホへ表示された「UNIT EVOLUTION:ACQUIRED」が頭をよぎった。

 

 魔神デルタ。

 

 俺たちが生きるために掴んだ変化を、向こうは成果と呼んだ。

 

 ゲーム中に消えていった顔が浮かぶ。

 

 バカラ。

 

 ライザの前のマスター。

 

 東郷美森の隣にいた少年。

 

 少年と美森がどうなったのか、まだ表示すらされていない。

 

 記録には残っている。

 

 けれど、その先は分からない。

 

 理由を知らずに帰れたとして。

 

 俺は、スマホを捨てて眠れるのだろうか。

 

 翌朝、何事もなかったように肉を焼けるのか。

 

 デルタが差し出した皿を見ながら、消えた人間のことを考えずに済むのか。

 

「行く」

 

 俺は招待状を折り畳んだ。

 

 エリスの眉が上がる。

 

「罠でも?」

 

「罠だろうな」

 

「即答するのね」

 

「管理人は俺たちを呼びたい。呼んだ先で何かをするつもりだ」

 

 スマホを握り直す。

 

「なら、向こうの都合があるうちに聞く」

 

「何を?」

 

「全部だ」

 

「招待状には、質問をいくつ許すとも書かれてないけど」

 

「答えるまで帰らない」

 

 エリスはしばらく俺を見た。

 

 やがて、剣を肩へ担ぐ。

 

「それでこそ、ここまで勝ってきたマスターね」

 

「褒めてるのか?」

 

「半分くらいは」

 

「残り半分は?」

 

「無謀」

 

「否定できないな」

 

「仮ボスが行くなら、デルタも行くです」

 

 織姫に治療されながら、デルタが腕を上げる。

 

 すぐに顔をしかめた。

 

「動いちゃ駄目だよ」

 

「もう治ったです」

 

「治ってないよ」

 

「戦えるです」

 

「それと治っているのは別!」

 

 織姫が珍しく声を強める。

 

 デルタの耳が伏せられた。

 

「……歩くくらいなら平気です?」

 

「私の近くにいてね」

 

「分かったです」

 

 素直に頷いたデルタを見て、エリスが小さく吹き出した。

 

「織姫の方がマスターらしいじゃない」

 

「違います!」

 

「デルタのご飯をくれるなら、ボスでもいいです」

 

「もっと違うよ!」

 

 暗闇の中へ、短い笑い声が広がる。

 

 それはすぐに消えた。

 

 けれど、スマホの数字が一つ減るまでの間だけ、この空間はMEDESのものではなかった。

 

 俺たちが自分で作った時間だった。

 

「どうやって行く?」

 

 俺がライザを見る。

 

「招待状を画面に重ねるみたい」

 

「壊れないだろうな」

 

「それを今から確かめる」

 

「時間は?」

 

「減ってる」

 

「急いでくれ」

 

「急かすと失敗するよ」

 

「頼むから成功してくれ」

 

「そのつもり」

 

 ライザは招待状をスマホの上へ重ねた。

 

 白い紙が黒い画面へ触れる。

 

 水へ沈むように、紙の端から画面の中へ吸い込まれていく。

 

 最後の一片が消えた瞬間、暗闇が縦に裂けた。

 

 光が漏れる。

 

 細い線だったものが左右へ開き、白い扉の形になる。

 

 取っ手はない。

 

 扉の中央には、招待状にあった目のような記号が刻まれていた。

 

 ――INVITATION:ACCEPTED

 

 スマホへ表示が出る。

 

 ――ROUTE TO ADMINISTRATIVE DOMAIN:OPEN

 

「開いた」

 

 織姫が呟く。

 

「罠の入り口が、ね」

 

 ムジナが立ち上がる。

 

「戻る道はありますか?」

 

 バーゲストの問いに、ライザが画面を確認する。

 

「表示されてない」

 

「入れば閉じると考えるべきです」

 

「なら、先に配置を決める」

 

 俺は全員を見た。

 

「デルタは織姫の近く。バーゲストとエリスが前衛。壌竜は空間の変化を探ってくれ。ムジナとルプスレギナは後ろを警戒。ライザは俺と一緒に招待状の経路を追う」

 

「仮ボス」

 

 デルタが不満そうに耳を立てる。

 

「デルタも前がいいです」

 

「今は駄目だ」

 

「戦えるです」

 

「帰って肉を食う約束をしただろ」

 

「しました」

 

「なら守れ」

 

 デルタは頬を膨らませる。

 

 それでも織姫の隣から動かなかった。

 

「仮ボスも約束を守るです」

 

「ああ」

 

 バーゲストが白い扉の前へ立つ。

 

 大剣の切っ先で、扉の表面へ軽く触れた。

 

 抵抗はない。

 

 光の膜が、水面のように揺れる。

 

「参ります」

 

 バーゲストが扉を抜ける。

 

 エリスが続く。

 

 数秒後、向こう側から声がした。

 

「通れるわ。今のところは何もいない」

 

 俺たちも一人ずつ扉を越えた。

 

 白い光が視界を覆う。

 

 眩しさへ目を細め、一歩踏み出す。

 

 靴底へ、初めて床の感触が返ってきた。

 

 そこは、真っ白な回廊だった。

 

 天井と床、壁の境目がない。

 

 影がなければ、自分たちが立っていることさえ分からなくなりそうな空間だ。

 

 後ろを振り返る。

 

 全員が通過した瞬間、白い扉が音もなく閉じた。

 

 中央の記号が消える。

 

 壁と見分けがつかなくなった。

 

「帰り道、消えたです」

 

 デルタが鼻を近づける。

 

「無理に開けられそう?」

 

 エリスが剣の柄へ手を置く。

 

「待って」

 

 ライザが壁へ器具を当てる。

 

「ここで壊すのは危ない。空間そのものが契約に繋がってるかもしれない」

 

「また壊せないものが増えたわね」

 

「壊さずに開けるって決めたでしょ」

 

「分かってるわよ」

 

 回廊の奥へ足を進める。

 

 足音だけが、どこまでも反響した。

 

 一歩。

 

 二歩。

 

 三歩。

 

 誰も話していないのに、音だけが人数以上に増えていく。

 

 やがて、右側の壁へ映像が現れた。

 

 突然だった。

 

 白い壁へ色が滲み、過去の戦場が映し出される。

 

 デルタが最初の敵へ飛びかかる場面。

 

 バーゲストの剣が振り下ろされる場面。

 

 ムジナの怪獣が街を覆う場面。

 

 壌竜が地面を隆起させる場面。

 

 俺たちの戦いだ。

 

「全部、残ってる」

 

 ライザが壁へ近づく。

 

 映像には音がない。

 

 俺の指示も、デルタの叫びも、銃声も消されている。

 

 戦闘だけが、標本のように切り取られていた。

 

「趣味が悪いです」

 

 バーゲストが映像へ鋭い視線を向ける。

 

「自分の戦いを見るのは好きです」

 

 デルタが身を乗り出す。

 

「デルタ、強いです」

 

「今は見なくていいよ」

 

 織姫が尻尾を掴んで引き戻す。

 

「でも、次にもっと強くなるために見るです」

 

「体が治ってから!」

 

 映像が切り替わる。

 

 敗北したマスター。

 

 契約体。

 

 消滅直前の姿。

 

 黒いノイズ。

 

 そして、空白。

 

「消えた後がない」

 

 俺は足を止めた。

 

 どの記録も同じだ。

 

 マスターが消える瞬間、映像は黒く乱れる。

 

 次に映る時には、契約体だけが勝者側へ登録されている。

 

「記録できなかったのかな」

 

 織姫が言う。

 

「違うと思う」

 

 ライザは壁へ手を伸ばさず、目だけで映像を追う。

 

「わざと隠してる」

 

「根拠は?」

 

「ノイズの形が全部同じ。通信が途切れたんじゃなくて、同じ処理で上から覆ってる」

 

「消滅ではなく、転送されている可能性は?」

 

 バーゲストが訊く。

 

「ある。でも、どこへ送ったかは表示されてない」

 

「管理人なら知っている」

 

 俺の声が、白い回廊へ長く響いた。

 

 映像が再び切り替わる。

 

 廃工場。

 

 ライザ。

 

 彼女の前のマスター。

 

 男が黒いノイズへ包まれる直前で、映像が一度止まった。

 

 ライザの足も止まる。

 

 画面の中の彼女は、消えていく男へ手を伸ばしていた。

 

 今のライザは紙束を抱えたまま、その手を見ている。

 

 鉛筆が一本、束の隙間から抜け落ちた。

 

 床へ転がる。

 

 乾いた音が白い空間を走った。

 

 俺は何も言わず、鉛筆を拾った。

 

 ライザへ差し出す。

 

 彼女はすぐには受け取らなかった。

 

 壁の映像が黒いノイズへ変わる。

 

 空白。

 

 そこまで見届けてから、鉛筆へ手を伸ばした。

 

「ありがとう」

 

「ああ」

 

「……行こう」

 

 ライザは前を向く。

 

 俺も隣を歩く。

 

 映像は背後へ流れていった。

 

 やがて壁の映像が消え、再び白一色へ戻る。

 

「仮ボス」

 

 先頭近くを歩くデルタが振り返る。

 

「匂いが近いです」

 

「人間の匂いか?」

 

「はいです」

 

 鼻を動かす。

 

「でも、やっぱり変です」

 

「生きていない?」

 

「生きてないのに、ずっといる匂いです」

 

 回廊の先に、黒い扉が見えた。

 

 白い世界の中で、そこだけが穴のように浮かんでいる。

 

 扉の上には文字があった。

 

 ――ADMINISTRATOR ROOM

 

「そのままですねぇ」

 

 ルプスレギナが笑う。

 

「管理人室。隠す気もないようです」

 

「見つけさせるための場所だからだろ」

 

 俺はスマホを確認する。

 

 最終処理の表示は一時停止していた。

 

 ――FINALIZATION PROCESS:PAUSED

 ――AWAITING ADMINISTRATOR INTERVIEW

 

 会話が終われば、再開する。

 

 管理人が答えを拒めば。

 

 俺たちが納得しなくても。

 

「開けるぞ」

 

「私が先に」

 

 バーゲストが前へ出る。

 

「いや」

 

 俺は首を横に振った。

 

「俺への招待状だ」

 

「しかし」

 

「何かあれば、頼む」

 

 バーゲストは口を閉じた。

 

 やがて一歩横へ移る。

 

「必ず、私の間合いから離れないでください」

 

「ああ」

 

 扉へ手を置く。

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