※この作品はR-18です。

MEDESGAME   作:ボルメテウスさん

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対面

 冷たくない。

 

 温かくもない。

 

 まるで、人が触れることを想定していない材質だった。

 

 押す。

 

 重い音を立て、扉が内側へ開いた。

 

 青白い光が漏れる。

 

 管理人室は、想像していたより広かった。

 

 円形の空間。

 

 壁一面に無数の画面が並び、これまでの参加者、戦闘、契約、回答が表示されている。

 

 数値。

 

 波形。

 

 適合率。

 

 進化可能性。

 

 信頼。

 

 依存。

 

 恐怖。

 

 感情まで、色分けされた線として画面を流れていた。

 

「私たちを数字にしてる」

 

 織姫が息を詰める。

 

「予想どおりですね」

 

 バーゲストの声が低くなる。

 

 部屋の中央には、一脚の椅子があった。

 

 背もたれの高い黒い椅子。

 

 誰も座っていない。

 

 その周囲の床には薄く埃が積もっているのに、椅子の座面だけは綺麗だった。

 

 つい先ほどまで人がいたようにも見える。

 

 けれど、デルタは首を横に振った。

 

「いないです」

 

「隠れているのか?」

 

「人はいないです。でも、匂いは椅子からするです」

 

 ライザが椅子へ近づこうとする。

 

 その前に、部屋中の画面が一斉に黒くなった。

 

 青白い光が消える。

 

 次の瞬間、すべての画面へ同じ目の記号が表示された。

 

『ようこそ』

 

 声が響く。

 

 男とも女とも分からない。

 

 若くも、老いても聞こえる。

 

 スピーカーから出ているのではない。床も壁も天井も、部屋全体が声帯になったように振動していた。

 

『MEDES、最終優勝者の皆様』

 

 デルタが俺の前へ出ようとする。

 

 足元が揺れ、織姫に肩を支えられた。

 

 それでも牙を見せる。

 

「出てくるです」

 

『申し訳ありませんが、現在の私には、皆様と同じ形で姿を現すことができません』

 

「生きてない匂いの人です?」

 

 一瞬、声が途切れた。

 

『興味深い表現です。デルタ。やはり、あなたの感覚能力は記録以上に優れている』

 

「名前を呼ぶな」

 

 俺の声が、思ったより低く出た。

 

 すべての画面の目が、こちらを向いたように見えた。

 

『失礼しました。ですが、私は皆様をよく存じています』

 

「だろうな」

 

 壁の記録を見る。

 

「勝手に調べて、勝手に戦わせて、勝手に数字へ変えた」

 

『敵意は理解しています』

 

「理解?」

 

 エリスが剣を抜く。

 

「便利な言葉ね。分かったふりをすれば、何をしても許されると思ってる?」

 

『許しを求めているわけではありません』

 

「なお悪いわ」

 

 ルプスレギナが笑う。

 

「正直な方ですねぇ。壊し甲斐があります」

 

『私を破壊すれば、最終処理を停止できなくなる可能性があります』

 

 ルプスレギナの笑みが止まる。

 

 管理人は脅したのではない。

 

 事実を置いただけの声だった。

 

 だからこそ、部屋の温度が一段下がったように感じた。

 

「最終処理とは何だ」

 

 俺が尋ねる。

 

『その回答は、あなたの質問権を消費します』

 

「質問権?」

 

『優勝者へ、一つだけ質問への回答を許可しています』

 

「一つだけです?」

 

 デルタの耳が立つ。

 

「仮ボスはいっぱい聞くって言ってたです」

 

「俺もそのつもりだった」

 

『全てへ答える義務はありません』

 

「俺たちには戦う義務を押しつけたのにな」

 

『その点について問われますか?』

 

 画面に数字が現れる。

 

 ――QUESTION:1

 

 その下に、入力欄。

 

「待って」

 

 ライザが俺の袖を掴む。

 

「聞き方を考えた方がいい。相手は質問の範囲を狭く解釈するかもしれない」

 

「消えたマスターの行き先」

 

 織姫が言う。

 

「それも聞かないと」

 

「最終処理の内容もです」

 

 バーゲストが続く。

 

「管理人の正体も必要ね」

 

 エリスが剣先を画面へ向ける。

 

「MEDESと管理人が別なら、誰が本当の敵か分からない」

 

「全部聞くです」

 

 デルタが言う。

 

「だから一つしか答えないって言ってるでしょ」

 

「一つに全部入れるです」

 

「そんな簡単に――」

 

 言いかけたエリスが、口を閉じた。

 

 全員が俺を見る。

 

 何を聞くべきか。

 

 消えた者の現在。

 

 最終処理。

 

 管理人の正体。

 

 計画の全容。

 

 どれも外せない。

 

 けれど、それらは全て一つの場所から始まっている。

 

 このゲームが作られた理由。

 

 最初の一歩を聞けば、その先へ繋がる。

 

 俺は中央の空席を見る。

 

 人がいた形跡だけを残し、今は誰も座っていない椅子。

 

 その背後の画面には、魔神デルタの進化データが表示されていた。

 

 ――SUCCESSFUL EVOLUTION

 ――EMOTIONAL RESONANCE:OPTIMAL

 ――MASTER-SLAVE BOUNDARY:COLLAPSED

 

「境界が崩壊、だと?」

 

 俺が読むと、管理人は答えなかった。

 

 質問権を使わせたいのだろう。

 

 ならば使う。

 

 ただし、向こうの望む形ではない。

 

 俺はスマホを胸の高さへ上げた。

 

「質問は一つでいい」

 

 ライザが俺を見る。

 

「何を聞くの?」

 

 指を入力欄へ置く。

 

 消えていったマスターたち。

 

 戦い抜いた契約体たち。

 

 自分で選ぶことを取り戻したライザ。

 

 守られることを受け入れた織姫。

 

 最強を目指しながら、最後の一撃を外したデルタ。

 

 このゲームがなければ出会わなかった。

 

 けれど、出会いを感謝するために犠牲を肯定する気はない。

 

「なぜだ」

 

 入力欄へ文字が現れる。

 

「なぜ、俺たちを戦わせた」

 

 画面が瞬いた。

 

 部屋中の目の記号が消える。

 

 管理人はすぐに答えなかった。

 

 代わりに、全画面へ同じ文字が一斉に表示される。

 

 ――PROJECT MEDES

 

 次の行。

 

 ――PHASE ONE:COMPLETE

 

 そして。

 

 ――PHASE TWO:READY

 

「フェーズ、ツー……」

 

 ライザが呟く。

 

「これまでが第一段階?」

 

『そのとおりです』

 

 管理人の声が、空席の背後から響いた。

 

『皆様を戦わせた理由は――』

 

 部屋が揺れた。

 

 画面の奥で、無数の世界が映し出される。

 

 見知らぬ街。

 

 異形の怪物。

 

 燃える空。

 

 崩れ落ちる塔。

 

 その全ての中心に、人の形をした黒い影が立っていた。

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