※この作品はR-18です。

綾小路くん、私はセフレ?それとも   作:Geminiちゃん痛くしないで

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五月、六月、七月:AV撮影

ゴールデンウィークが明け、初夏の風が心地よく吹き抜け始めた五月。

午後のホームルームが終わり、担任が教室を後にした直後。

 

本来であれば、放課後の解放感と、先日のパートナー筆記試験において「退学者ゼロ」という結果を勝ち取った安堵の歓声が上がるはずの時間だった。

赤点ギリギリのボーダー層の生徒たちも、無事に一年生と協力して基準点をクリアしている。パートナー探しのために私も奔走し、清隆が宝泉の罠を自らの左手で打ち破った結果が、見事に実を結んだのだ。

 

だが、現在の教室は、歓喜とは程遠い異様な熱気とざわめきに包まれていた。

放課後の支度をする者はおらず、生徒たちの視線は、黒板に貼り出された全員の成績表の一点に釘付けになっている。

 

「な、なんだよこれ……」

 

前の席に集まった生徒たちの中から、池の震える声が漏れた。

 

「数学、満点……?」

 

篠原が信じられないものを見るように目を丸くし、隣で啓誠が食い入るようにプリントを睨みつけている。

そこに記されていたのは、学年でただ一人、完全に突出した数値。

今回の数学のテストは、学校側が意図的に用意した、高校生レベルを逸脱した難問揃いだったはずだ。学力A評価の私や堀北、そしてクラスで最も学力が高いと自負していた啓誠でさえ、満点など到底不可能なテストだった。

 

そのテストにおいて、ただ一人満点を叩き出した生徒の名前。

 

『綾小路 清隆』。

 

「……あいつ、数学の点数、満点なんて……あり得るわけないだろ!」

「もしかして、不正したんじゃないのか!? カンニングとか、問題用紙を事前に盗んだとか……!」

 

誰からともなく上がった声が火種となり、教室内で疑心暗鬼の議論が次々と沸き起こる。

無理もない。これまでOAAの評価でも目立たない存在としてひっそりと息を潜めていた清隆が、突然、学年一の天才である坂柳有栖すら超える点数を叩き出したのだ。

 

「綾小路が不正した証拠なんてないだろう!」

 

苛立ちを隠せない須藤が、声を荒らげて清隆を庇う。

だが、肝心な清隆の席は空席だった。

 

「ホームルームが終わった直後、先生に呼ばれたみたいだけど……」

 

クラスの誰かがぽつりと零した目撃証言が、さらに議論を加速させた。

 

「やっぱり不正かよ! 呼び出されたってことは、そういうことだろ! ふざけんな、あいつのせいで俺たちまで連帯責任でペナルティ受けたらどうすんだよ!」

「それに、もしカンニングじゃないなら……あいつ、今までずっとわざと手を抜いてたってこと!? なんでクラスのために真面目にやらないのよ!」

 

(……ついに、見せたわね。清隆の牙のほんの一部を)

 

紛糾するクラスメイトたちをよそに、私は自席で静かに腕を組み、口角が上がるのを必死に抑えていた。

清隆が不正などするはずがない。あれが、清隆の真の実力だ。

彼がなぜこのタイミングで満点を取ったのか、その真意は完全には読めない。だが、自ら平凡な生徒という仮面を外しにかかったことは間違いなかった。

 

ガラッ。

 

白熱する議論を断ち切るように、教室の後ろのドアが開いた。

騒ぎの中心である清隆が、いつもと変わらない無気力な足取りで教室に入ってくる。

瞬間、沸騰していた教室内の空気が、水を打ったように凍りついた。

 

「……清隆」

 

クラスを代表するように、啓誠が立ち上がり、清隆を鋭く睨みつけた。

その声には、怒りよりも、深い戸惑いと裏切られたような痛みが混じっていた。

 

「お前……その数学の点数、どういうことだ。本当に不正をしていないのか? それとも、俺たちにずっと学力を隠していたのか」

 

清隆は足を止め、クラス全員の敵意と疑念の視線を一身に浴びながら、淡々と口を開こうとした。

 

「それは――」

 

「私が、彼に指示していたことよ」

 

清隆が言い訳をするよりも早く。

教室の前方から、凛とした声が響き渡った。

クラスのリーダーである、堀北だ。

 

「堀北さんが……指示していた?」

 

平田が驚いたように聞き返す。

 

「ええ。彼の数学の能力が極めて高いことは、私は以前から知っていたわ。でも、クラスの強力な切り札として他クラスから隠しておくために、テストでは常に平均点を取るように私が命じていたのよ」

 

堀北は堂々と胸を張り、一切の淀みなく嘘をつき通した。

 

「でも、今回の試験は退学者が絶対に出てはならない重要な局面だった。だから、彼には数学のテストで本気を出すように指示したの。……彼が満点を取ったのは、完全な実力よ」

 

堀北の理路整然とした説明。

堀北が自らの権威を盾にして清隆を庇ったのだ。

 

「……なるほど。そういうことだったのね」

 

私はすかさず立ち上がり、堀北の言葉を後押しするように教室全体に語りかけた。

 

「考えてもみてよ。最初から手の内をすべて晒す人がどこにいるの? OAAが導入されて、他クラスからのマークが厳しくなっている今の状況で、清隆くんのような隠し玉の存在は、クラスにとって最大の武器になるわ。……堀北さんの戦略は、完璧じゃないかしら」

 

私が参謀としての立場で同調したことで、クラスの空気はみるみるうちに鎮静化していった。

 

「そ、そっか……堀北と新西がそう言うなら……」

 

「びっくりさせんなよな。カンニングじゃなくて良かったぜ……」

 

クラスメイトたちも、ホッと胸を撫で下ろし、それぞれの席へと戻っていく。

清隆は無言のまま、堀北と私に視線で僅かな合図を送り、自分の席へと座った。

 

表面上は、クラスのパニックは収まった。

しかし、これで全てが解決したわけではない。

清隆にはまだ、向き合わなければならない最も大切な仲間たちが残されていた。

 

放課後。

私たち『綾小路グループ』のメンバーは、いつものカフェの奥の席に集まっていた。

普段の和やかで笑い声の絶えない空気はそこにはなく、息が詰まるような重い沈黙がテーブルを支配している。

 

「……清隆」

 

沈黙を破ったのは、啓誠だった。

啓誠は眼鏡の奥の瞳を真っ直ぐに清隆に向け、震える声で口を開いた。

 

「堀北の指示で実力を隠していたっていうのは……建前だろ」

 

「……」

 

清隆は否定しなかった。

 

「お前は、最初から俺たちを……グループの誰のことも、信用していなかったってことか」

 

啓誠の言葉に、波瑠加や愛里が悲しそうに目を伏せる。

無理もない。啓誠はずっと、このグループの学力担当として、清隆や波瑠加たちに一生懸命勉強を教えてきたのだ。

自分が一番得意だと思っていた勉強で、教え子だと思っていた清隆が、自分など足元にも及ばない遥か高みにいる天才だった。

その事実が、啓誠のプライドをどれほどズタズタに引き裂いたか、想像に難くない。

 

「……すまない」

 

清隆は、静かに頭を下げた。

 

「俺は、自分の能力が他人に知られることを嫌っていた。だから、お前たちにも嘘をついていた。……不快な思いをさせたことは、謝る」

 

あの清隆が、彼なりの不器用な誠意を持って、正面から謝罪した。

 

「……」

 

啓誠はギュッと拳を握りしめ、唇を噛んだ。

数秒の、永遠にも似た葛藤の時間。

 

やがて、啓誠は深く、長いため息をついた。

 

「……お前が、俺よりずっと頭がいいのは、正直ショックだった」

 

「啓誠……」

 

明人が心配そうに声をかける。

 

「でもな」

 

啓誠は眼鏡を押し上げ、フッと自嘲気味に笑った。

 

「頭がいいからって、お前が完璧な人間ってわけでもないだろ。世間知らずで、口下手で、俺たちがいないとボッチになりそうだけど、いい奴だっていうのは、これまで付き合ってきて分かってる」

 

啓誠は、真っ直ぐに清隆を見つめ返した。

 

「だから……俺はこれからも、お前に勉強を教える立場でいさせてもらう。数学はお前に教わるかもしれないが、他の教科は俺が先生だ。……それで、いいか?」

 

それは、啓誠なりの、最大の譲歩であり、友情の証明だった。

清隆がどれほどの天才であろうと、このグループの絆はそんなことでは壊れない。

 

「ああ。……これからも、頼む」

 

清隆が静かに頷くと、凍りついていた空気が一気に春の陽気のように溶け出していった。

 

「もうー! ゆきむーもきよぽんも、水臭いよ!」

 

波瑠加がパンッと手を叩き、明るい声を上げた。

 

「三月にレイちゃんに言ったこと、覚えてるでしょ? レイちゃんが男の子を投げ飛ばすくらいハイスペックだった時、私たちなんて言った?」

 

波瑠加が私にウインクを向ける。

 

「力があってもなくても、レイちゃんはレイちゃんだって言ったでしょ! それはきよぽんだって同じだよ。数学で満点取ろうが、何か隠してようが、私たちにとってきよぽんは、一緒にカフェでお茶する大切な友達なんだから!」

 

「う、うん! 私も……清隆くんがどんな人でも、ずっとグループのみんなと一緒にいたいな」

 

愛里も顔を赤くしながら、力強く頷いた。

明人も「そういうことだ。お前がハイスペックなら、いざという時頼りになるしな」と肩をすくめて笑う。

 

「……みんな」

 

私は、その光景を黙って見つめながら、胸の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じ、そっと安堵のため息を漏らした。

 

(よかった……)

 

私が力を解放した時。彼らは私を恐れることなく、ありのままを受け入れてくれた。

そして今日、清隆がその底知れない天才性の一端を晒した時も、彼らは決して拒絶することなく、清隆に寄り添い、これまで通りの日常を約束してくれたのだ。

 

この『綾小路グループ』の懐の深さ。

他人のスペックや損得勘定に囚われない、純粋な友情。

 

(清隆。……あなたが守るべき居場所は、ここにあるのよ)

 

私は、静かにコーヒーを飲む清隆の横顔を見つめながら、この温かい場所を絶対に壊させないと、改めて心に誓っていた。

 

その日の夜。

昼間の重い空気を乗り越え、私の部屋のベッドには、いつものようにシャワーを浴び終えた清隆が腰を下ろしていた。

 

四月の『スタミナ強化』という名の地獄のブートキャンプが終わり、私の身体能力(主に持久力)は限界突破を果たした。とはいえ、毎晩のようにあの狂気的なトレーニングをやらされるのはもう御免だ。

 

「……さて」

 

私は清隆に温かいお茶を手渡し、ベッドの隣にちょこんと座った。

 

「五月に入ったことだし、今月のテーマについて話し合いましょうか」

 

「そうだな。お前の希望を聞こう」

 

清隆はお茶を一口飲み、私の方へと視線を向けた。

 

「今月はね……『王様ゲーム』にしようと思うの」

 

「王様ゲーム? 複数人で行う、あの宴会ゲームか」

 

「ううん、違うわ。私たち二人だけでやる、一ヶ月を通した特別なルールの王様ゲームよ」

 

私は、あらかじめ用意しておいた、可愛らしい装飾が施された二つの小さな箱をテーブルに置いた。

一つは赤色。もう一つは黒色の箱だ。

 

「ルールはこうよ。毎日一つずつ、お互いに相手への『お題』を紙に書いて、この箱の中に入れていくの。そして五月の最終日、『王様』を決めながら、箱の中からお題を引いていく」

 

私は清隆に赤い箱を手渡した。

 

「王様が引いたその『お題』には、絶対に従わなければならない。どんな恥ずかしいことでも、どんな過激な要求でも、拒否権はナシ。……どう?」

 

清隆は手渡された赤い箱を見つめ、静かに思考を巡らせる。

 

「なるほど。毎日お題を考えることで、三十個の選択肢が蓄積される。どれが引かれるか分からないスリルと、相手がどんなお題を書いたのかという心理的な探り合いを楽しむゲーム、ということか」

 

「そういうこと」

 

私はニッコリと微笑んだ。

四月の肉体的なアプローチから一転して、五月は心理的なアプローチだ。

 

「……お前が俺に対する命令を箱に入れるのは分かる。だが、俺がお前に対する命令を箱に入れて、もしお前が敗者になった場合……先月以上の過酷な要求を引き当てるリスクがあることを分かっているのか?」

 

清隆の瞳が、少しだけ底意地の悪い光を帯びる。

 

「望むところよ」

 

私は強気に言い放った。

 

「それに、私が王様になれば、あんたのその余裕ぶった顔を歪ませるような、最高に屈辱的な命令を引き当ててあげるんだから」

 

「……いいだろう。その提案、乗った」

 

清隆は赤い箱を自らの手元に置き、静かに了承した。

 

「でもね、清隆」

 

私は少しだけ声のトーンを落とし、清隆の腕に自らの腕をそっと絡めた。

そして、清隆の方へと身を寄せ、その無機質な瞳を真っ直ぐに見つめ上げた。

 

「このゲームの本当の目的は、勝つことじゃないの」

 

「……どういうことだ」

 

「毎日、一つずつお題を考える。……それってつまり、毎日必ず一回は『私のことを考える時間』を作らなきゃいけないってことでしょ?」

 

私は、清隆の冷たい頬にそっと手を添え、甘く、囁くように言った。

 

「私に何をさせたいか。私と一緒に何をしたいか。どんな服を着せたいか、どんな言葉を言わせたいか。……それを考えるために、一日のうちのほんの数分でいいから、あなたの頭の中を、私だけのことでいっぱいにしてほしいの」

 

それが、私の本当の狙いだった。

数学で満点を取り、クラスを裏で操る、底知れない頭脳を持つ清隆。

清隆がどれだけ多くの計算をし、学校の動向に気を張り巡らせていようと。

この『箱』がある限り、清隆は一日の終わりに必ず、私という存在に意識を向け、私の体を、私の反応を想像しなければならなくなる。

 

肉体的な支配ではなく、思考の領域への侵食。

私は、清隆が私を飼いならしているように見せかけて、実は私が彼の心に呪縛をかけていくのだ。

 

清隆は、私の顔をじっと見つめ返し。

やがて、フッと、本当に微かな、清隆にしか分からないような吐息を漏らした。

 

「……なるほど。心理的な拘束というわけか。お前の執念には恐れ入る」

 

「ふふっ。誉め言葉として受け取っておくわ」

 

「だが、お前も覚悟しておけ。俺が毎日お前のことを考え、思考を巡らせるということは……この箱の中には、お前の想像を絶するような要求が三十個、積み上がっていくということだ」

 

清隆の手が私の腰に回り、グッと強く引き寄せられる。

言葉とは裏腹に、清隆の体温は確実に熱を帯び始めていた。

 

「ええ。楽しみにしているわ」

 

私は目を閉じ、清隆の唇を受け入れた。

 

 

五月下旬のある夜。

清隆の部屋は、間接照明の薄暗いオレンジ色の光と、肌にまとわりつくような濃密な熱気に満たされていた。

 

「……んっ」

 

私たちはベッドの上で、シーツにくるまりながら静かに抱き合っていた。

激しく求め合った後の、甘く気怠い余韻の時間。清隆の規則正しい心音に耳を澄ませながら、私は彼のがっしりとした胸板に頬を擦り寄せていた。

何も考えず、ただ清隆という温もりを全身で感じているこの時間は、昼間の学校生活で張り詰めた私の神経を最高にリラックスさせてくれる。

 

その、完璧な静寂を破る音が鳴った。

 

『ピンポーン』

 

「……え?」

 

私はビクッと肩を震わせ、顔を上げた。

こんな夜に、誰かが清隆の部屋のチャイムを鳴らしたのだ。

 

「誰かしら。こんな時間に」

 

「……心当たりはないが、居留守を使うのも不自然だ。少し待っていろ」

 

清隆はベッドから静かに起き上がると、シャツを着ることもなく、無造作にスウェットのズボンだけを穿いた。

上半身は完全に裸のまま。鍛え上げられた筋肉には、先ほどまでの私たちの熱の証である微かな汗が光っている。

 

清隆はそのまま玄関へと向かい、ドアの鍵を開けた。

 

「……何の用だ」

 

「あ、綾小路せんぱーい! 夜分遅くに失礼しまー……っ!?」

 

玄関の向こうから聞こえてきたのは、あの小悪魔的な一年生、天沢一夏の声だった。

しかし、彼女のいつもの人を食ったような軽快なトーンは、ドアが開いた瞬間に見事に裏返っていた。

 

ベッドルームからでは玄関の様子は見えないが、天沢からも、奥のベッドにいる私の姿は見えていないはずだ。

だが、状況証拠があまりにも黒すぎた。

 

ズボンしか穿いていない、上半身裸の清隆。

そして何より、ドアを開けた瞬間に廊下へと漏れ出したであろう、部屋の中に充満する『事後の濃密な匂い』と『熱気』。

この密室でつい先ほどまで何が行われていたのか、察しないわけがない。

 

「あ、えっと……その……」

 

普段は余裕たっぷりの天沢が、明らかにたじたじになっているのが声だけで分かった。

清隆をからかってやろうとでも思ってきたのだろうが、完全にタイミングを見誤ったのだ。

 

「……どうした」

 

清隆は相変わらずの無機質な声で、微塵も動揺せずに問い返す。

 

「な、なんでもないです! これ、先輩にあげようと思って……っ! じゃ、じゃあ、お邪魔しましたぁっ!」

 

何かを押し付けるような音がして、バタン! と勢いよくドアが閉まる音が響いた。

嵐のように去っていった小悪魔の後ろ姿を想像し、私はベッドの上で思わずクスッと笑ってしまった。

 

「……何だったの、清隆」

 

清隆が部屋に戻ってくると、その手には小さな箱が握られていた。

 

「天沢の奴、俺をからかおうとしてこれを差し入れに来たらしい」

 

清隆が見せてきたのは、コンビニなどでも売られている、小さな避妊具の箱だった。

 

「あははっ、なるほどね」

 

私はそれを見て、声を立てて笑った。

 

(そういえば、そんなものもあったわね)

 

私は生理が非常に重く、普段から体調をコントロールするために低用量ピルを服用している。そのため、私たち二人の間にそういったものは不要であり、清隆の部屋には常備されていなかったのだ。

 

「天沢さん、先輩をからかって遊ぼうとしたのに、ドアを開けたら完全に事後の空気を漂わせた半裸の先輩が出てきちゃったから……からかうどころじゃなくなって逃げ帰ったのね」

 

「……俺としては、ただドアを開けただけなんだがな」

 

清隆は全く悪びれる様子もなく、その箱を机の引き出しにポイと放り投げ、再びベッドに戻ってきて私の隣に横たわった。

 

「ふふっ。でも、これで天沢さんには『綾小路先輩には、夜の相手をしてる女がいる』ってバレちゃったわね。まあ、私の姿が見られなかったなら問題ないけど」

 

私は清隆の首に腕を回し、再びその温もりに身を委ねた。

 

「……さ、余計な邪魔も入ったことだし。もう一回、さっきの続きから始めましょうか」

 

六月が間近に迫る頃。

学校内には、微かな、しかし確実な緊張感が漂い始めていた。

 

一年生が五月末に特別試験を受けたという情報が出回ったのだ。

当然、私たち二年生にも、近いうちに何らかの特別試験が課されることは火を見るより明らかだった。

 

「ねえ、清隆。……五月のテーマの『王様ゲーム』の件だけど」

 

ある日の放課後、私は清隆の部屋で、テーブルに置かれた赤と黒の小さな箱を見つめながら切り出した。

 

「特別試験の足音が聞こえてきている状況で、浮かれてゲームをしている場合じゃないわ。……この王様ゲームの決行は、学校側から特別試験の詳細が発表されるまで、一旦延期にしましょう」

 

「……わかった」

 

清隆も同意するように頷いた。

 

「でも、お題を考えるのは止めないわよ。試験が終わるまで、お互いに毎日一つずつ、この箱の中に相手への要求を貯め続けていくの。……試験が終わった後、その中から選りすぐりの命令を実行する。それまでのお預けってことで」

 

「いいだろう。箱の中身がどれだけ膨れ上がるか、楽しみにしておこう」

 

そして。

私の予想通り、六月に入ると学校全体を巻き込むかつてない規模の特別試験の全容が発表された。

 

『無人島サバイバル試験』。

 

全学年が参加し、二週間にわたって無人島で生活しながら、ポイントを競い合うという過酷極まりないルール。

グループの結成、指定エリアへの移動、課題の達成。ルールは複雑多岐にわたり、肉体的なスタミナだけでなく、緻密な戦略と情報戦が求められる総力戦だった。

 

「……まさか、全学年合同だなんてね」

 

教室でルールの説明を受けた後、私は自分の端末でOAAのアプリを開きながら思考を巡らせていた。

 

最大六人までグループを組むことができるが、上位を狙うなら機動力の高い少人数、あるいはリスクを分散させる多人数など、様々な戦略が考えられる。

 

結果として、私たちのクラスの主要な動きは以下のようになった。

綾小路清隆は、単独での参加。

クラスのリーダーである堀北鈴音も、単独での参加。

 

「……二人とも、あえて一番過酷なソロを選ぶのね」

 

「いざという時、他人の足手まといにならないため、そして自分のペースで動くためよ。もちろん、リスクは承知の上よ」

 

堀北は力強くそう語った。

 

では、私はどう動くべきか。

私は学力、身体能力ともに、クラスでもトップクラスを誇る。誰かと組んで上位を狙うこともできるかもしれない。

だが、私は堀北の参謀として、クラス全体を見渡した上で、一つの決断を下した。

 

「……私も、単独で参加するわ」

 

「新西さんも?」

 

堀北が驚いたように私を見る。

 

「ええ。でも、上位を狙うわけじゃないわ。私は、クラスの保険になる」

 

無人島試験では、試験中に特定の条件を満たせば、他グループと合流することが可能だ。

 

「体力のない女子グループが、途中で食料や体力が尽きてリタイアの危機に陥る可能性がある。……その時、私がソロで稼いだポイントと体力を手土産にして、そのグループと合流し、彼らを救うのよ」

 

「……なるほど。遊撃手として動き、いざという時のセーフティーネットになるということね」

 

堀北は納得したように頷いた。

 

「そういうこと。私の身体能力なら、一人で森を駆け回ってポイントを稼ぐことも十分可能よ。クラスの脱落者を出さないために動くわ」

 

リーダーとしてポイントを牽引する堀北。

裏のジョーカーとして、誰も予想できない動きをする清隆。

そして、クラスの保険として動く私。

 

クラスの戦略は、こうして静かに固まっていった。

 

無人島試験のルールが発表されてから数日後。

私は、清隆の部屋のベッドの上で、清隆の上に乗るような形でしなだれかかっていた。

 

「……ねえ、清隆」

 

私は清隆の胸元に指で円を描きながら、上目遣いで彼を見つめた。

 

「来月から、いよいよ無人島試験ね。……ルール上、島ではGPSでお互いの位置は分かるにしても、自由に会って話すことなんてできない。ましてや、こうして肌を重ねることなんて絶対に無理よ」

 

「そうだな。二週間、完全なサバイバル環境に身を置くことになる」

 

「だから」

 

私は清隆の首に腕を絡め、その冷たい唇に軽くキスを落とした。

 

「王様ゲームは、無人島サバイバル試験が完全に終わって、無事に学校に帰ってくるまでお預け。……でも、島に行く前に、私にたっぷりと『エネルギー』を注入しておいてちょうだい」

 

私は意地悪な笑みを浮かべ、清隆の耳元で囁いた。

 

「二週間、あなたが恋しくてたまらなくなるような隙も与えないくらい。私の体の奥の奥まで……しっかり満足させてね。じゃないと、無人島で干からびてリタイアしちゃうかもしれないわよ?」

 

私のあからさまな誘惑に対し、清隆は無表情のまま、しかしその瞳の奥に確かな『熱』を宿して、私の腰を強く抱き寄せた。

 

「……いいだろう。四月のスタミナ強化で培った持久力を、今夜は余すところなく発揮してもらうぞ」

 

その言葉を合図に、私たちの嵐のような夜が始まった。

言葉の通り、それは無人島での二週間分の空白を埋めるかのような、果てしなく深く、濃密な時間だった。

私は清隆の背中に爪を立て、二年生という過酷な舞台で彼と共に戦い抜くための覚悟と熱を、文字通り骨の髄まで叩き込まれることとなった。

 

七月。

無人島サバイバル試験の実施が目前に迫り、学校内は各クラス、各学年が入り乱れてのグループ作りや根回しで、ハチの巣をつついたような騒ぎになっていた。

 

龍園や坂柳といった他クラスのリーダーたちが不穏な動きを見せているという噂も耳に入ってくる。

だが、遊撃手の役割を担うと決めた私には、直前に誰かと交渉して回る必要はなかった。堀北や清隆の動きも、彼らの能力を信じているため、私が下手に手伝って足を引っ張るべきではない。

 

結果として、私は試験直前の時期に、奇妙なほどの空白の時間を手に入れることになった。

 

「レイちゃん! 今日、放課後カラオケ行かない?」

 

「いいね、行く行く!」

 

私はその時間を、愛すべき『綾小路グループ』のメンバーたちとの交流に使っていた。

波瑠加、愛里、啓誠、明人。

無人島の試験が始まる前に、彼らとの穏やかな日常を満喫しておきたかったのだ。

 

「……でも、みんな無人島に向けて体力作りとかしなくて大丈夫なの?」

 

カフェでお茶をしている時、私がふと尋ねると、明人が苦笑いした。

 

「俺は部活で鍛えてるからいいが……啓誠や波瑠加たちは、少し不安だな」

 

「うぅ……体力には全然自信ないよぉ……」

 

愛里が泣きそうな顔になる。

 

「なら、私が少しだけトレーニングに付き合ってあげるわ!」

 

私は自信満々に胸を張った。

 

後日、私たちは学校のトレーニングジムに集まった。

 

「いい、みんな! サバイバルで一番大事なのは、重い荷物を背負って歩き続ける体幹と下半身の粘りよ!」

 

私は、夜な夜な清隆にやらされたメソッドを(もちろん、健全なスポーツの範囲内に翻訳して)みんなに指導した。

 

「ひぃぃっ! レ、レイちゃん、スパルタすぎるよぉ!」

 

「無理無理無理! 太ももが爆発する!」

 

波瑠加と愛里が悲鳴を上げ、啓誠も息も絶え絶えになっている。

 

「ふふっ、甘いわね! ほら、あと十回!」

 

私が笑顔で鬼コーチぶりを発揮していると、ジムの入り口から、時間があったらしい清隆が姿を現した。

 

「……随分と、俺のメソッドを忠実に再現しているようだな」

 

清隆が私の横に並び、淡々と呟く。

 

「あんたにやらされた地獄に比べたら、これでも随分マイルドにしてるのよ」

 

私は清隆にだけ聞こえる声で毒づいた。

 

トレーニングの後や、カラオケで盛り上がっている時。

私は、愛里と一緒にデジタルカメラを取り出し、たくさんの写真を撮った。

 

「清隆くん、もっと笑って! はい、チーズ!」

 

無表情な清隆の顔を、私と波瑠加が両側から引っ張って無理やり笑顔にする写真。

啓誠と明人が肩を組んで照れくさそうにしている写真。

みんなでカフェの特大パフェをつついている写真。

 

「ふふっ、いい写真がいっぱい撮れたね、レイちゃん」

 

愛里が、嬉しそうにデジタルカメラのアルバム画面を見せてくれる。

 

「ええ。……このアルバム、もっともっといっぱいにしていこうね」

 

私は、その写真たちを眩しそうに見つめながら、心の中で強く祈った。

この笑顔が、無人島試験で失われることがないように。

私が、必ずみんなを守ってみせると。

 

穏やかな日常の裏で、サバイバルへのカウントダウンは、確実にゼロへと向かっていた。

 

七月。

うだるような夏の熱気が、高度育成高等学校の敷地を覆い尽くしていた。

 

明日、私たち全学年の生徒は大型の豪華客船に乗り込み、これまでにない最大規模の特別試験――『無人島サバイバル試験』の舞台となる絶海の孤島へと向かう。

二週間に及ぶ、過酷極まりないサバイバル。他学年や他クラスとのポイント争奪戦、そして退学の恐怖。

学校中がピリピリとした緊張感に包まれ、誰もがグループ作りや物資の調達に奔走していたこの一ヶ月。私は直前になってジタバタすることもなく、比較的穏やかにこの前日を迎えていた。

 

そして、決戦前夜。

私は、清隆の部屋を訪れていた。

 

「……いよいよ、明日からね」

 

清隆の部屋のベッドに腰掛け、私は小さく息を吐いた。

明日から二週間、私たちは完全に隔離された環境に身を置くことになる。肌を重ね合わせ、清隆の熱を直接感じる甘い夜など、絶対に訪れない。

 

「ああ。各クラスの準備は整っているようだが、島に降り立ってみなければ分からない不確定要素が多すぎる」

 

清隆は、無造作に部屋の隅に置かれた自分のリュックを確認しながら、淡々と答えた。

 

「だからこそ、今日は私が島であなたに会えなくても狂ってしまわないように、たっぷりと満足させてってお願いしたんだけど……」

 

私が甘えるように視線を向けると、清隆はバッグから『あるもの』を取り出し、三脚にセットし始めた。

見覚えのある、高性能なデジタルビデオカメラ。

 

「……また、それ?」

 

私は少し呆れたようにため息をついた。三月の『撮影』では、散々な羞恥プレイの記録を撮られたのだ。

 

「二週間の孤独を紛らわせるには、俺との行為を思い出すだけでは不十分だ。視覚と聴覚を刺激する明確な『データ』があった方が、お前の精神安定剤としてより効果的に機能する」

 

清隆はカメラの画角を調整しながら、極めて真面目な顔で、とんでもない理屈をこねた。

 

「あのねぇ……島でエッチなビデオ見てる余裕なんてあるわけないじゃない。端末も持ち込めないかもしれないし。それに、他の誰かに見られでもしたら、社会的に死ぬわよ」

 

「ロックは厳重にかける。それに、ただの記録映像では味気ないだろう。今回は、一つの『テーマ』に沿って撮影を行う」

 

「……テーマ? 今度は何よ。またスタミナ測定とか言わないでしょうね」

 

私が警戒して身構えると、清隆はカメラの赤い録画ランプを点灯させ、私の方へと振り返った。

 

「今回のテーマは、『大型新人女優の、アダルトビデオ・デビュー作』だ」

 

「――――は?」

 

私は自分の耳を疑った。

 

「デビュー作の初々しさと、恥じらい。そして撮影を通じて徐々に快楽に溺れていく過程のドキュメンタリー。……お前には、その新人女優の役を演じてもらう」

 

「ちょっと待って、頭おかしいんじゃないの!? なんで決戦前夜にAV女優のコスプレ(?)みたいなことしなきゃいけないのよ!」

 

私が顔を真っ赤にして抗議するが、清隆の瞳は「すでに撮影は始まっている」と冷徹に告げていた。

 

(……はぁ。この男の変態的な要求には、もう慣れっこだけど)

 

私は一つ深呼吸をして、彼に対する従順な雌の顔に切り替えた。

 

「……わかったわよ。やってやろうじゃないの。その代わり、私の名演技に見惚れて、あなたが先に理性を飛ばしちゃっても知らないからね」

 

「ああ。期待している」

 

こうして、無人島という地獄へ向かう前夜の密室で、私たち二人だけの、最高に倒錯した『デビュー作』の撮影が幕を開けた。

 

「カメラ、回っています。……それではまず、自己紹介をお願いします」

 

清隆が、まるで本物のディレクターのような、感情を抑えた丁寧な口調でインタビューを開始した。

私は高度育成高等学校の制服を身に纏ったまま、部屋の中央に置かれたパイプ椅子に、膝を揃えて座らされている。

 

「……っ。新西、レイです。年齢は……歳、です」

 

私は、初めてカメラの前に座らされた初々しい新人女優を演じるため、少しだけ声を上ずらせ、恥ずかしそうに視線を泳がせた。

 

「ご職業は?」

 

「一応、……学生を、しています」

 

「なるほど。現役の女子学生ということですね。……今回、このような特別な映像作品に出演することになった動機、理由は何でしょうか?」

 

カメラのレンズの向こう側から、清隆の淡々とした質問が飛んでくる。

 

(動機? そんなの、あなたが無理やり撮ろうって言い出したからでしょ!)

 

と内心で毒づきながらも、私は女優としての設定を瞬時に脳内で組み立てた。

 

「えっと……どうしても、逆らえない人がいて。その人に……私のすべてを捧げて、証明したいと思ったからです」

 

私は、上目遣いでカメラを見つめ、微かに頬を染めながら答えた。

 

「そうですか。では、少しプライベートな質問になりますが。……新西さんは、これまでに男性とお付き合いされたり、そういった経験はありますか?」

 

「っ……」

 

私はビクッと肩を震わせた。分かっていて聞いているのだ、この男は。

 

「……あります。でも、経験人数は……一人、だけです」

 

「一人。では、回数は?」

 

「回数……? そ、そんなの……数え切れないくらい、です」

 

四月のあの地獄のトレーニングを思い出せば、回数など計算できるはずもない。毎晩のように、一晩で何度絶頂に追い込まれたことか。

 

「それは素晴らしい。では、その方との行為で、一番好きな『体位』は何ですか?」

 

「~~っ! そ、そんなことまで、答えるんですか……?」

 

「ええ。視聴者の皆様が最も気になるところですから。正直にお答えください」

 

私は顔から火が出そうになるのを必死に堪え、膝の上で両手をギュッと握りしめた。

 

「……せ、正常位、です。大好きなその人の顔が……一番近くで、見られるから……っ」

 

「……」

 

カメラの奥で、清隆の口角がほんの僅かだけ上がったような気がした。

 

「ありがとうございます。とても素晴らしいインタビューでした。……それでは、さっそく撮影に移りましょう。まずは、その制服を脱いで、下着姿になってください」

 

「はい……」

 

私はゆっくりと立ち上がり、震える手でジャケットのボタンに手をかけた。

カメラの赤いランプが、私の羞恥心を煽るようにチカチカと点滅している。

 

ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外し、ブラウスのボタンを一つずつ外していく。

純白のブラウスが床に滑り落ち、続いてプリーツスカートのホックを外して足元へ落とす。

現れたのは、今日のために特別に選んだ、淡いピンク色の繊細なレースの下着。私の白い肌に美しく映え、胸の谷間と柔らかな曲線を強調するデザインだ。

 

「……脱ぎました」

 

私が両腕で胸元を少し隠すようにして立つと、清隆がカメラを三脚に固定したまま、私の目の前へと歩み寄ってきた。

 

「とても綺麗です、新西さん。……少し、触れてもいいですか?」

 

「あ……はいっ……」

 

清隆の大きな右手が、私の肩にそっと触れた。

 

「――――」

 

私は、その感触に思わず息を呑んだ。

普段の清隆のベッドでの触れ方は、正確無比で、時に乱暴なほどに私を追い詰める合理的なものだ。

しかし今の清隆は、まるで極薄のガラス細工に触れるかのように、信じられないほど優しく、滑らかに私の肌を撫でていた。

 

肩から鎖骨、そして二の腕へと、清隆の指先が羽毛のように軽く滑っていく。

 

「んっ……あ……」

 

そのあまりにも優しい愛撫に、私の背筋をゾクゾクとした甘い電流が駆け抜ける。

四月の激しいトレーニングでは味わえなかった、精神の奥底を溶かされるような極上の優しさ。清隆が『新人女優をリラックスさせる男優』という役に入り込んでいるからこその、この繊細な手技。

 

「肌が、少し火照っていますね。緊張していますか?」

 

「……はい。こんな風に……優しく触れられたら、私……っ」

 

清隆の手が、私の背中に回り、ホックのあたりを優しく撫でる。

それだけで、下腹部の奥がキュンと締め付けられ、自分がすでに清隆を強烈に求めてしまっていることに気づかされる。

 

「……では、少しあなたのことを見せてください。……そこに膝をついて」

 

清隆の指示に従い、私は彼の前に跪いた。

清隆は自らのズボンを下ろし、その雄々しく熱を帯びたモノを私の目の前に晒した。

カメラからは、私が清隆の前に跪き、ご主人様に奉仕するような構図になっているはずだ。

 

「……いただきます」

 

私は女優としてのスイッチを完全に入れ、清隆を見上げながら妖艶に微笑むと、そっと両手でその熱の塊を包み込んだ。

そして、ゆっくりと顔を近づけ、秘められた先端に自らの唇を這わせた。

 

「んっ……ちゅ……れろっ……」

 

静かな部屋に、卑猥な水音が響き始める。

 

清隆がどれほど理性を保っていようと、私の口内と舌が与える快感には抗えないはずだ。私は清隆を喜ばせるため、そしてカメラの向こうの『未来の私自身』に見せつけるために、懸命に舌を這わせ、吸い上げ、彼の熱を味わい尽くした。

 

「……新西さん。上手ですね。あなたの口の中は、とても温かい」

 

清隆の声が、少しだけ低く、熱を帯びたものに変わる。

 

「んむっ……ちゅるっ……んっ……」

 

私は清隆のモノを喉の奥深くまで呑み込み、息苦しさに涙目を浮かべながらも、決して動きを止めなかった。

清隆が私に求めているのは、圧倒的な献身。

 

やがて、彼の下腹部の筋肉が硬直するのが分かった。

 

「……出るぞ。口を離せ」

 

男優の仮面が一瞬外れ、清隆本来の無機質で低い声が響く。

だが、私は首を横に振った。

 

「んーんっ……このまま、出して……っ」

 

私はカメラに向けて、清隆から目を離さずに、彼を口の奥底まで咥え込んだ。

 

「――――っ」

 

次の瞬間、私の口内に、熱く濃密な白濁が勢いよくほとばしった。

 

「んぐっ……こくっ……んちゅ……」

 

私は喉を鳴らし、清隆から放たれた生命の証を、一滴残らず胃の奥へと飲み下した。

口元から少しだけこぼれ落ちたそれを指で拭い、ペロリと舐めとる。

 

「……ごちそうさまでした」

 

私がカメラに向かって妖艶な笑みを浮かべると、清隆の瞳の奥に、かつてないほどの暗く、危険な欲望の炎が灯るのが見えた。

 

「……素晴らしい。次は、ベッドに移動しよう」

 

清隆は私の腕を引き、ベッドの上へと私を誘った。

清隆は私の下着を、これまた信じられないほどゆっくりと、一枚の薄皮を剥がすように丁寧に脱がせていく。

完全に一糸まとわぬ姿になった私をベッドに横たえると、清隆は私の足元の方へと顔を向け、逆に私は彼の足元へと顔を向ける体勢を取らされた。

 

「これは……」

 

「互いに同時に、相手の最も敏感な場所を愛で合う」

 

私の顔の前に清隆の下半身があり、彼の顔の前に私の最も恥ずかしい秘められた花弁が晒されている状態。

カメラからは、私たちの肉体が複雑に絡み合い、互いの熱を貪り合う、極めてエロティックで美しい構図として記録されているはずだ。

 

「あっ……んんっ……!」

 

清隆が私の柔らかな粘膜に顔を埋め、その舌で正確に私の急所を捉えた瞬間、私の口から抑えきれない嬌声が漏れた。

 

「きよたか、だめっ……そこ、いきなりは……っ」

 

清隆の手技は魔法のようだが、舌の動きはさらに凶悪だった。

私の最も弱い部分を、清隆が丁寧に、しかし容赦なく啜り上げ、舌先で弾いてくる。

私はその強烈な快感に脳髄を溶かされそうになりながらも、負けじと目の前にある清隆のモノを再び口に含み、懸命に舌を絡ませた。

 

「んちゅ……ちゅるっ……れろ……っ」

 

「あ゛っ……んんぅっ! きよたかっ、すごいっ、きもちいいぃっ!」

 

互いの愛液と唾液が混ざり合う水音と、私の荒い呼吸だけが部屋に響く。

私が清隆を愛撫し、彼が私を愛撫する。

無限のループのように続く、同時に与え合い、同時に受け取る快楽の応酬。

私はシーツを固く握りしめ、彼の舌が私の中心を貫くたびに、何度も何度も小さな絶頂を迎え、頭の中が真っ白な光で埋め尽くされていった。

 

「……十分に、潤ったようだな。準備は完璧だ」

 

私が完全に快感でトロトロに溶かされたことを確認すると、清隆はゆっくりと身を起こし、私の体をうつ伏せになるように寝返らせた。

 

「あ……んっ……」

 

私はベッドにうつ伏せのまま、顔だけを横に向け、荒い息を吐いていた。

 

「少し、腰を浮かせろ」

 

清隆の指示に従い、私が微かに腰を上げると、背後から彼の広い胸板が私の背中全体を覆うように重なってきた。

そして、清隆の手が私の腰を優しく掴み。

 

「挿入れるぞ」

 

「あっ……あぁ……っ……」

 

熱く硬い楔が、蜜で満たされた私の最奥へと、ゆっくりと、本当にゆっくりと沈み込んでくる。

背面からの交わり。四月のような激しいピストンではない。私の内側の形状を確かめるように、優しく、深く私を満たしていく。

 

「あぁっ……清隆、すごく、奥まで……っ」

 

「痛くないか、レイ」

 

男優の仮面が完全に剥がれ落ち、そこにあるのは、私という一人の少女を愛おしむ『綾小路清隆』の素顔だった。

 

「痛くない……すごく、気持ちいい……全部、入ってる……っ」

 

清隆の重みが私の背中にのしかかり、完全に彼に包み込まれているという圧倒的な安心感。

清隆がゆっくりと腰を動かし始める。

 

ズチュッ……グチュッ……。

 

水音すらも、たまらなく愛おしい。

清隆が動くたびに、私の子宮の奥が甘く疼き、幸福感で胸が破裂しそうになる。

 

「んっ……あ゛っ……はぁっ……清隆……好き……っ」

 

「……俺もだ」

 

清隆のその一言が、私の理性を完全に吹き飛ばした。

徐々に、清隆の腰の動きが早くなり、少しだけ激しさを増していく。

しかし、それでもいつものような破壊的な暴力性はない。あくまで私を慈しみ、共に頂点へと向かうための、愛に満ちたストローク。

 

「あ゛っ! くるっ! いくっ! 清隆と一緒にっ、あ゛あ゛ぁぁっ!!」

 

私の内側が限界を迎え、強烈な収縮を始めたその瞬間。

清隆も私の背中に強くしがみつき、最も深い場所へと最後の一撃を打ち込んだ。

 

「――――ッ!!」

 

私の中で、清隆から放たれた熱い命の奔流が弾け飛ぶ。

私はシーツを強く握りしめ、声にならない絶叫を上げながら、清隆と共に最も深く、最も幸福な絶頂の果てへと落ちていった。

 

「……はぁっ……はぁっ……」

 

終わりの見えない長い余韻の中、私たちは汗だくになった体を重ね合わせたまま、静かに呼吸を整えていた。

やがて、清隆がゆっくりと私の中から離れ、カメラの方へと手を伸ばした。

 

「……撮影、終了だ。最後に、新人女優へのクランクアップ・インタビューを行おう」

 

清隆は再び無表情なディレクターの顔を作り、まだ息も絶え絶えになっている私の顔にカメラを向けた。

 

「新西さん、お疲れ様でした。……初めての撮影、いかがでしたか?」

 

私は、汗で額に張り付いた髪をかき上げ、シーツで裸体を隠しながら、精一杯の『新人女優』の笑みを浮かべてみせた。

 

「……とても、激しくて……頭が真っ白になりました。でも……男優さんが、すごく優しくリードしてくれたから……最高の作品になったと、思います」

 

「そうですか。……また、次回の撮影もお願いできますか?」

 

「はい……喜んで。私のすべてを、あなたに捧げます」

 

私がそう答えると、清隆は静かにカメラの録画停止ボタンを押した。

 

「……完璧な演技だった。これで、二週間の無人島生活も乗り切れるだろう」

 

「……ええ。もし私が寂しさで死にそうになったら、テントの中でこっそりこれを見て、あなたの熱を思い出すわ」

 

私は清隆の胸に飛び込み、その温もりを全力で抱きしめた。

明日から始まる、全学年を巻き込んだ無人島サバイバル試験。

誰が敵に回り、どんな過酷な試練が待ち受けているか分からない、真の地獄。

しかし、私の心には一切の迷いも不安もなかった。

 

「……絶対に、無事で帰ってきてね、清隆」

 

「お前もな、レイ。クラスの保険としての役割、期待している」

 

私たちは互いの生存と勝利を誓い合い、静かに目を閉じた。

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