※この作品はR-18です。

綾小路くん、私はセフレ?それとも   作:Geminiちゃん痛くしないで

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八月:王様ゲーム

八月。

照りつける容赦のない太陽と、鼓膜を打つ波の音。私たち高度育成高等学校の全生徒は、ついに二週間に及ぶ『無人島サバイバル試験』の舞台となる無人島へと降り立った。

 

「……あっつい。初日からこれじゃ、先が思いやられるわね」

 

鬱蒼と生い茂る森の中を歩きながら、私は支給されたタブレット端末で現在地と指定エリアを確認した。

今回の特別試験は、指定されるエリアに時間内に到達して得られる到着順位ボーナスと、島中に散りばめられた課題をクリアして得られるポイントの合計で競い合うというものだ。

私は、いざという時にクラスのピンチを救う遊撃手として単独で参加している。他人のペースに合わせる必要がない分、自分の体力と相談しながら効率よくポイントを稼ぐことができるのが強みだった。

 

「よし、到着ボーナスゲット。……課題も無難にこなせそうね」

 

四月に清隆から課された、あの地獄のようなトレーニング。夜な夜な絶頂と筋肉の限界を彷徨ったあのトンチキな特訓は、皮肉なことに、この過酷な無人島生活において絶大な効果を発揮していた。

炎天下で重いリュックを背負って長距離を歩いても、息が上がることはない。体幹が鍛えられているため、足場の悪い山道でもバランスを崩すことなくスムーズに進むことができたのだ。

 

順調にポイントを稼ぎ、初日の夜を迎えた。

安全な場所に一人用のテントを張り、支給された簡素な携帯食料を口にして、ようやく横たわる。

 

「はぁ……疲れた。……ん?」

 

寝袋に潜り込み、ふと息をついた瞬間。私の脳裏に、ある重大な事実が頭に浮かんだ。

 

(待って。……この試験、個人の端末は一切持ち込み禁止じゃない)

 

支給されているのは、学校側が用意した専用のタブレットと腕時計端末のみ。

つまり。

島に行く前日、「島で寂しくならないように」と清隆が言い出し、私が羞恥心で死にそうになりながら演じた『新人女優のアダルトビデオ・デビュー作』の映像データなど、そもそもこの島で見る手段など存在しなかったのだ。

 

「――――あいつ!!」

 

私はテントの中でガバッと跳ね起き、顔を真っ赤にして叫びそうになるのを両手で必死に押さえた。

まんまと騙された。清隆は最初から、島で動画を見られないことなど百も承知だったのだろう。ただ単に、あの決戦前夜の感傷的な空気を利用して、私に羞恥プレイをさせたかっただけ!

 

「あの、ドSっ! 私のあの初々しいインタビューと、フェラチオと、シックスナインの時間を返せ……っ!」

 

私は一人、テントの中で枕をポカポカと殴りつけながら、ジタバタと身悶えした。

無人島での孤独を慰めるどころか、一人で無駄にハレンチな真似をしてしまったという事実が、私の体温をさらに急上昇させていた。

 

そんな羞恥の初日の夜を乗り越え、サバイバル試験は順調に五日目へと突入していた。

 

クラスの状況も悪くない。タブレットで確認できる下位グループのリストに、二年Dクラスの生徒の名前はない。みんな、それぞれのグループで必死に食らいついているようだ。これなら、私が無理に合流してポイントを分け与える必要は今のところない。

 

指定エリアへ向かう途中、私は森の開けた場所に設けられた課題の会場を通りかかった。

 

「ん? あれは……」

 

そこでは、ロープを使った綱引きの課題が行われていた。

出場者の顔ぶれを見て、私は思わず木陰に身を隠し、目を輝かせた。

 

一人は、同じクラスの異端児であり、圧倒的なポテンシャルを持つ金髪のゴリラ――高円寺六助。

そして、高円寺と対峙してロープを握っていたのは、他でもない綾小路清隆だった。

 

(おおっ! ついに怪獣大決戦ね!)

 

私はウキウキと心の中で実況席に座った。

高円寺の身体能力は間違いなく学年トップクラス。対する清隆も、本気を出せば高円寺と同等かそれ以上の力を持っているはずだ。この二人が正面から力比べをすれば、一体どうなるのか。

 

「はじめっ!」

 

教師の合図とともに、二人の間にピンッとロープが張られた。

 

高円寺は余裕の笑みを浮かべたまま、その丸太のような腕に力を込める。

対する清隆は、相変わらずの無表情。しかし、その足腰にはしっかりと力が入っているように見えた。

 

(いけっ、清隆! あの傲慢な金髪の鼻っ柱をへし折ってやりなさい!)

 

私が手に汗握って見守った、次の瞬間。

 

「……おっと」

 

一瞬均衡したかに見えたが、清隆はずるずるとロープを引きずられ、あっさりと境界線を越えてしまった。

勝負あり。高円寺の圧勝である。

 

「…………は?」

 

私は木陰で、ポカンと口を開けた。

 

「フハハハ! まだまだ腕力が足りないようだね、綾小路ボーイ!」

 

高円寺が高笑いをして去っていく中、清隆は特に悔しがる様子もなく、課題会場を後にした。

 

(……清隆、絶対手ぇ抜いたわね)

 

私は大きなため息をつき、木に寄りかかった。

よく考えれば当たり前だ。あんな目立つ場所で、清隆が高円寺と互角の力勝負などするはずがない。清隆はどこまでも平均的な生徒を演じ、無駄な目立ち方を避ける男なのだから。

 

「つまんないの。……まあ、清隆が本気出すのは、夜のベッドの上と、本当に追い詰められた時だけってことね」

 

私は少しだけ残念がりながらも、気を取り直して自身の指定エリアへと足を進めた。

 

過酷な無人島生活は、生徒たちの体力を容赦なく削り取っていった。

熱中症でリタイアする者、怪我で離脱するグループが徐々に増え始める。しかし、私は単独行動の利点を活かし、マイペースにポイントを稼ぐことで、上位グループの背中が見える位置をキープし続けていた。

 

そして、試験も大詰めを迎えた十三日目。最終日の前日。

 

私は次のエリアへ向かうため、鬱蒼とした森の中の細い獣道を歩いていた。

 

「……ん?」

 

前方から、見覚えのある足取りで歩いてくる人影があった。

清隆だ。

 

「清隆」

 

私が声をかけると、清隆も足を止め、こちらに視線を向けた。

周囲には他の生徒や教師の気配はない。私たちは自然と距離を詰め、木々の間に身を隠すようにして立ち止まった。

 

「……順調そうだな、レイ。お前のポイント推移は確認している。単独でありながら、見事な立ち回りだ」

 

「当然でしょ。あなたのあのスタミナ強化メニューに耐え抜いた私を舐めないでよね」

 

私がふんぞり返ると、清隆は微かに目を細めた。

 

「クラスの連中も、下位のペナルティ圏内には入っていない。お前が合流して救済する必要はなさそうだ」

 

「ええ。このままいけば、二年Dクラスは退学者ゼロでこの試験を乗り切れるわ」

 

一安心ね、と私が微笑みかけた時。

清隆の表情が、スッと冷たい、あの『盤面を操作する絶対者』のそれへと切り替わった。

 

「レイ。……お前に一つ、頼みがある」

 

「……何?」

 

清隆のその声のトーンの変化に、私の背筋も自然と伸びた。

 

「明日の昼頃、俺が指定するポイントに来てほしい」

 

「……何かあるの?」

 

「月城理事長代行が、いよいよ直接俺を排除しに動く可能性が高い。一年生の刺客たちを使った策はすべて潰したからな。……最終日、監視の目が最も薄くなるエリアで、大人たちが実力行使に出るはずだ」

 

私は息を呑んだ。

生徒同士のポイント争いではなく、学校の最高権力者である大人が、直接暴力で清隆を退学に追い込もうとしている。

それがどれほど異常で、危険な状況か。

 

「……分かったわ。私はそこに行って、何をすればいいの?」

 

「俺一人で月城たちを相手にするのは不可能ではないが、不測の事態に備えて保険が欲しい。お前には、周囲の警戒、あるいは……状況によっては、直接的な戦闘のサポートを頼みたい」

 

(私を、手駒として使うってことね)

 

四月の朝、清隆が言った言葉を思い出す。『俺の手に負えない事態が起きた時、遠慮なくお前を頼らせてもらう』と。

清隆は本当に、私を信頼し、自分の背中を任せようとしているのだ。

 

「……任せなさい。私の身体能力Aは、ダテじゃないわよ」

 

私は力強く頷いた。

 

「明日の昼、必ず指定のポイントに行く。だから……絶対に、無茶して怪我なんかしないでよ」

 

「ああ。分かっている」

 

短く言葉を交わし、私たちは別々の方向へと歩き出した。

明日、この無人島試験の本当のクライマックスが訪れる。私は高鳴る心臓を抑え込みながら、戦いに向けた鋭い集中力を研ぎ澄ましていった。

 

十四日目、最終日。

私はタブレットのGPS表示を頼りに、清隆から指定されたエリアへと急いでいた。

森の奥深く、海岸へと続く開けた場所。

そこに近づくにつれ、ただならぬ殺気と、肉体がぶつかり合う鈍い音が聞こえてきた。

 

(始まってる……!)

 

私は木々の間から身を乗り出し、眼前の光景に息を呑んだ。

そこでは、信じられないような死闘が繰り広げられていた。

 

一人は清隆。そして清隆と対峙しているのは、月城理事長代行。

離れた場所では、もう一つの戦いが起きていた。三年生の鬼龍院先輩が、なんと司馬教諭と激しい格闘戦を行っていたのだ。

 

「くっ……!」

 

鬼龍院の動きは素早く鋭いが、司馬の戦闘力はそれを遥かに凌駕していた。司馬の重く、正確な打撃が鬼龍院を追い詰め、彼女が防戦一方になっているのが素人目にも分かった。

 

(清隆は月城と一対一。なら、私が加勢すべきは……あっち!)

 

私はリュックを投げ捨て、森の中から勢いよく飛び出した。

 

「加勢します、鬼龍院先輩!!」

 

「……おや? 二年生の……新西か。いい度胸だが、相手が悪いぞ!」

 

私が二人の間に割って入った瞬間、司馬の無表情な顔が私に向けられた。

 

「生徒がもう一人増えたところで、結果は変わらない」

 

ヒュンッ!

空気を裂く音とともに、司馬の重い拳が私の顔面を正確に撃ち抜こうと迫る。

 

(速い……! でも、見える!)

 

私は上体をわずかに反らし、その拳を紙一重で躱した。

同時に、伸びきった司馬の手首を両手で掴み、相手の引く力を利用して自らの体を沈み込ませる。

背負い投げの要領だ。相手の力を利用する捌きなら誰にも負けない。

 

「ハァッ!!」

 

私は全身のバネを使って、司馬を投げ飛ばそうとした。

 

しかし。

 

「……ほう」

 

動かない。

司馬は、私の投げの軌道を瞬時に読み切り、重心を完全に真下へと落として固定していた。私が全力を込めても、まるで巨大な岩の塊を引っ張っているかのように、ビクともしなかったのだ。

 

(なんて重さ……!)

 

「技術は素晴らしい。だが、絶対的な力と重さが足りていないな」

 

司馬が私の腹部へと強烈な膝蹴りを放ってきた。

 

「くぅっ!」

 

私は咄嗟に両腕をクロスして防御したが、まるでダンプカーに撥ねられたような衝撃が全身を貫き、数メートル後方へと吹き飛ばされた。

 

「ゲホッ……ハァッ……!」

 

地面を転がり、私は荒い息を吐きながら立ち上がった。

両腕が痺れ、感覚がない。まともに食らっていれば、あばら骨が折られていたかもしれない。

 

「大丈夫か、新西! 無理はするな、こいつは明らかに訓練されたプロだ!」

 

鬼龍院先輩が私を庇うように前に出る。

 

「だ、大丈夫です……っ。でも、倒すのは無理。……私たちがやるべきは、清隆が月城を倒すまでの時間稼ぎです!」

 

私は再び構えを取った。

打撃の応酬では絶対に勝てない。なら、ひたすら攻撃をいなし、関節技で相手の動きを制限し、一秒でも長くこの場に司馬を釘付けにする。

私と鬼龍院は、息を合わせて司馬の猛攻に耐え続けた。

私が組み付いて動きを止めようとし、弾き飛ばされれば鬼龍院が打撃で牽制する。ギリギリの綱渡り。

 

「……そこまでです、月城理事長代行」

 

不意に。

戦場に、厳格で響き渡る大人の声が介入した。

視線を向けると、そこには真嶋先生と、私たちの担任である茶柱先生が立っていた。

 

「……チッ」

 

月城が舌打ちをし、清隆から距離を取る。

清隆は、息一つ乱すことなく、月城を完全に制圧する一歩手前まで追い詰めていた。

 

「どうやら、時間切れのようですね。……司馬先生、引き上げますよ」

 

月城がスマートに埃を払い、敗北を宣言する。

 

司馬も攻撃の手を止め、月城の隣へと無言で移動した。

教師陣が駆けつけたことで、彼らがこれ以上暴力的な手段で生徒を退学に追い込むことは不可能になったのだ。

 

「……助かりました、真嶋先生、茶柱先生」

 

清隆が静かに頭を下げる。

 

「……ハァ、ハァ……終わった……の?」

 

私はその場にへたり込み、緊張の糸が切れて全身の震えが止まらなくなっていた。

怪我はない。でも、命の危険を感じるほどの圧倒的な暴力の恐怖。

 

「よくやってくれたな、レイ。お前の時間稼ぎがなければ、司馬が俺の背後を突いていたかもしれない」

 

清隆が私のそばに歩み寄り、片膝をついて手を差し伸べてくれた。

 

「……もう。本当に、寿命が縮んだわよ」

 

私は清隆の手を掴み、ふらつく足で立ち上がった。

 

「これで、全部終わったのね」

 

「ああ。月城の企みは、ここで完全に潰えた」

 

私たちは、去っていく月城たちの背中と、それを見る教師陣を見つめながら、この過酷な無人島サバイバル試験における、裏のミッションを完遂したことを確信した。

 

翌日。

全学年の生徒が集まるスタート地点の砂浜で、無人島サバイバル試験の最終結果発表が行われた。

 

結果として、クラスからの退学者はゼロ。

私個人としても、ソロでありながら上位半分の安全圏にしっかりと食い込むポイントを稼ぎ出していた。クラスの保険としての役割を全うし、かつ自らの実力も証明できたのだ。

 

「レイちゃーん! よかったぁ、無事だったね!」

 

「みんなも、本当にお疲れ様!」

 

波瑠加たち綾小路グループのメンバーと再会し、泥だらけの顔で抱き合い、無事を喜び合う。

誰も欠けることなく生き抜くことができた。それだけで、十分すぎるほどの勝利だった。

 

「さあ、お前たち! 試験はこれで終了だ。これより、沖に停泊している豪華客船へと乗り込み、残りの夏休みを存分に満喫しろ!」

 

教師の合図とともに、歓声が青空に響き渡った。

生徒たちは次々とボートに乗り込み、巨大なクルーズ船へと引き上げられていく。

 

「……やっと、クーラーの効いた部屋で、ふかふかのベッドで寝られるのね」

 

船のデッキに立ち、遠ざかっていく無人島を見つめながら、私は心底ホッとしたように伸びをした。

 

「二週間の汚れを落とすためにも、大浴場は必須だな」

 

隣に並んだ清隆が、潮風に髪を揺らしながら言う。

 

「そうね。……あ、でも」

 

私はふと、清隆を横目で睨みつけた。

 

「私、すごく疲れてるから。船でのバカンス中は、夜のトレーニングは絶対にお断りだからね!」

 

私が釘を刺すと、清隆はほんの僅かに目を伏せ、

 

「……お前の疲労度を考慮し、メニューは軽めのものに調整しよう」

 

と、悪びれもせずに答えた。

 

「やる気満々じゃないのよ!!」

 

私の怒声が、夏の海に吸い込まれていく。

過酷な無人島生活を終え、大人たちとの死闘を潜り抜け。

それでも変わらない私たちの歪で甘い関係は、豪華客船でのバカンスへと舞台を移していくのだった。

 

二週間に及ぶ、泥と汗とサバイバルに塗れた無人島試験。

その地獄のような日々から解放された私たちを待っていたのは、大型豪華客船での一週間にわたる極上のバカンスだった。

 

「……はぁ〜、最高ね。無人島のテント生活の後だと、このふかふかのデッキチェアがまるで天国みたい」

 

私は、貸し切り状態のプライベートプールのプールサイドで、トロピカルジュースのストローを咥えながら大きく背伸びをした。

冷房の効いた船内から一歩外に出れば、夏の眩しい日差しと、どこまでも青く広がる海。しかし、無人島の容赦ない直射日光とは違い、ここには冷たいプールと、日差しを遮るパラソル、そして至れり尽くせりのサービスがある。

 

今日は、私たち『綾小路グループ』のメンバーで、プライベートプールを貸し切って遊ぶことになっていた。

啓誠と明人がプールの中で水球のパス回しをしているのを眺めていると、更衣室の方から、着替えを終えた女子二人が姿を現した。

 

「お待たせー! レイちゃん、もうくつろいでるね!」

 

「ご、ごめんなさい……着替えるの、ちょっと手間取っちゃって……っ」

 

明るい声とともに現れた波瑠加と、恥ずかしそうにタオルで体を隠している愛里。

二人がタオルを外し、その水着姿を青空の下に晒した瞬間。

 

「――――っ」

 

私は、ストローから口を離し、思わず絶句してしまった。

 

(デカい……。知ってはいたけど、やっぱりデカすぎるわよ、この二人!)

 

波瑠加の、大人びたプロポーションを惜しげもなく披露するビキニ姿。その胸元は、水着の生地が悲鳴を上げているのではないかと思うほどの、圧倒的なボリュームを誇っている。

そして、普段は地味な眼鏡と猫背で隠している愛里も。彼女の引っ込み思案な性格とは裏腹に、その胸部の戦闘力は、長谷部と双璧をなすほどの破壊力を持っていた。歩くたびに、豊満な果実がブルン、ブルンと重力に従って揺れている。

 

私は、自分の胸元へと視線を落とした。

私が今日着ているのは、黒を基調とした、少しスポーティでスタイリッシュなビキニだ。

四月のトレーニングで腹筋や体幹が極限まで引き締まり、ウエストのくびれやヒップラインの美しさには絶対の自信がある。

しかし……こと胸部の装甲に関しては、圧倒的、かつ絶望的なまでの敗北を喫していた。

 

(……い、いいのよ。胸は大きさじゃなくて『形』なんだから! 私の胸だって、清隆の大きな手にはピッタリ収まるジャストサイズだし、あいつも『この形が一番手に馴染む』って言ってたし!)

 

私は内心で負け惜しみを叫びながらも、表面上は余裕たっぷりの笑みを浮かべた。

 

「二人とも、すごく似合ってるわよ。……さ、もたもたしてないでプールに入りましょ!」

 

私はデッキチェアから立ち上がり、準備運動もそこそこに、キラキラと輝くプールの水面へと飛び込んだ。

 

「それっ! 啓誠くん、甘いよ!」

 

「うおっ! くそ、レイ、水の中でも動きが速すぎるだろ!」

 

プールの中では、男女混合のバレーが白熱していた。

私は水の中という抵抗をものともせず、持ち前の身体能力を活かしてボールを次々と相手コート(啓誠・明人ペア)へと打ち込んでいく。

 

「あははっ! レイちゃん、本気出しすぎ! きよぽん、しっかりフォローしてよー!」

 

波瑠加が笑いながら、私の隣で水を掻き分ける清隆の背中を叩く。

清隆は相変わらずの無表情で、「俺は後衛で守りに徹する」と淡々とボールを拾い続けていた。

 

「もうっ、清隆くんも少しは本気でアタックしなさいよ!」

 

私がバシャッと清隆に水をかけると、彼は軽く首を振って水を払いながら、

 

「俺が本気で打てば、啓誠の眼鏡が粉砕される可能性がある」と、本気とも冗談ともつかないことを言ってのけた。

 

「あははっ! なにそれ、怖いんだけど!」

 

みんなで大笑いしながら、ボールを追いかける。

 

無人島での張り詰めたサバイバルや、大人たちとの死闘が嘘のような、底抜けに明るく平和な時間。

私は、プールサイドで少し休憩している愛里のもとへ泳いでいき、防水ケースに入れた端末を受け取った。

 

「愛里さん、写真撮ろう! みんなの笑顔、いっぱい残しておきたいから」

 

「うんっ! 私も、レイちゃんたちの写真、いっぱい撮るね!」

 

私は愛里と並んで、プールではしゃぐみんなにカメラを向けた。

 

「波瑠加さーん、こっち向いてー! ピース!」

 

「いえーい!」

 

カシャッ。

豊かな胸を揺らしながら、満面の笑みでピースサインをする波瑠加。

ボールを顔面で受け止めてしまい、むせている啓誠と、それを笑いながら叩いている明人。

 

そして。

 

「清隆ー、こっち!」

 

私の呼びかけに、プールの中でボールを持ったまま振り返る清隆。

その顔は、一見するといつも通りの感情の読めない無表情だ。しかし、カメラのレンズ越しに、そして清隆と誰よりも深く繋がっている私にだけは、分かる。

清隆の瞳の奥が、ほんの少しだけ柔らかく細められ、この『綾小路グループ』の空気を、彼なりに心から楽しんでいるということが。

 

カシャッ。

私は、その微かな、しかし確かな清隆の素顔を、写真のデータとして永遠に切り取った。

 

(……三月の時みたいな、変態的な撮影も悪くないけど。やっぱり、こういう普通の青春の写真が一番よね)

 

私は端末を佐倉に返し、再び水しぶきの上がるプールの中へと、笑顔で飛び込んでいった。

 

豪華客船でのクルージングの楽しみは、プールや食事だけではない。

学校側が用意した、様々な船内イベントが毎日目白押しだった。

 

クルージングも中盤に差し掛かったある日。

私と清隆は、船内全域を使った『宝探しイベント』に参加していた。

船のあちこちに隠されたQRコードや暗号を解き明かし、QRコードごとに割り当てられたプライベートポイントが贈呈されるというものだ。

 

「……『三つの太陽が交わる場所、黒き巨人の足元を探れ』、か」

清隆は、手元のタブレットに表示された暗号文を見つめながら、静かに呟いた。

 

「三つの太陽って、船内にある三つのシャンデリアのことじゃないかしら。メインダイニングの天井にあるやつ」

 

私が即座に推測を口にする。

 

「黒き巨人は、そのダイニングの入り口にある黒大理石の柱のことだろうな。……行くぞ」

 

私たちのペアの動きは、スムーズで無駄がなかった。

清隆の頭脳が暗号のロジックを一瞬で解き明かし、私の直感と空間認識能力が、それを具体的な船内の場所に結びつける。

移動の際も、私たちの足取りは速く、他のペアを次々とごぼう抜きにしていった。

 

「よし、あった! 次の暗号のQRコードよ!」

 

黒大理石の柱の裏側に隠されていたシールを、私がタブレットで読み取る。

 

「解読完了だ。次は……最上階のデッキに向かう」

 

「了解。エレベーターは混んでるから、非常階段を駆け上がるわよ!」

 

私たちは、完璧に息を合わせ、広大な豪華客船の中を縦横無尽に駆け回った。

夜の密室で培われた、あの狂気的なまでの『阿吽の呼吸』。それが、このような健全なイベントでも完璧に機能していることが、なんだか少しだけ可笑しかった。

 

結果。

私たちは見事に高額の報酬が得られるQRコードに到達。二人で山分けするには十分すぎるほどのプライベートポイントを手に入れることができた。

 

「ふふっ、楽勝だったわね。これで二学期からのポイントのやり繰りも少しは楽になるわ」

 

「ああ。お前のおかげだ」

 

イベントを終え、夕暮れのデッキで潮風に吹かれながら、私たちは手に入れたポイントの額を見て静かに微笑み合った。

戦いでも、夜のベッドでも、そしてただのゲームでも。

私たち二人が完璧に噛み合った時、誰にも負けない最強のパートナーになれる。その事実を再確認できたことが、ポイント以上に私を満足させてくれた。

 

豪華客船での夢のような時間は、本当にあっという間に過ぎ去っていった。

毎日の豪勢なビュッフェ、プールでの水遊び、映画鑑賞、そして夜のデッキから見上げる満天の星空。

 

無人島での極限のサバイバルがあったからこそ、この一週間のバカンスは、これまでの人生で一番甘く、そして濃密な時間として私の心に刻み込まれた。

 

「……見えてきたわね」

 

最終日の朝。

船のデッキに立つ私の視線の先には、高くそびえ立つ人工島――私たちが日常を過ごす、高度育成高等学校の施設群がうっすらと姿を現し始めていた。

 

「帰りたくないなぁ……。ずっとこの船に乗ってたいよ」

 

隣で波瑠加が名残惜しそうに手すりに寄りかかる。

 

「でも、すごく楽しかったね。写真もいっぱい撮れたし、一生の思い出だよ」

 

愛里が、端末を大事そうに胸に抱きながら微笑んだ。

 

「ええ。最高の夏休みだったわ」

 

私も、二人に同意して頷いた。

 

やがて船は港に接岸し、私たちは重い荷物を背負って、現実の世界へと足を踏み入れた。

バスに揺られ、見慣れた学生寮へと帰還する。

 

自分の部屋のドアを開け、エアコンのスイッチを入れる。

無機質な、いつもの私の部屋。

しかし、ここには確かな安心感があった。

 

「……帰ってきた、って感じね」

 

私はリュックを床に下ろし、ベッドにそのまま大の字に倒れ込んだ。

クーラーの冷たい風が、火照った体を冷ましていく。

 

二年生の夏。

過酷なサバイバルと、大人たちの陰謀、そして豪華客船でのバカンス。

すべてを乗り越え、私たちは再び、この実力至上主義の学校の日常へと戻ってきた。

 

 

夏休みも半ばを過ぎた、八月の下旬。

無人島サバイバル試験の過酷な記憶も、豪華客船での豪遊の余韻も、ジリジリと照りつける都会のセミの鳴き声の中に溶け込みつつあった。

 

エアコンの効いた涼しい私の部屋のテーブルの上には、二つの小さな箱が置かれている。

赤と黒の、可愛らしい装飾が施された箱。

それは、五月に私たちが提案し、無人島試験が終わるまで「お預け」となっていたあの遊戯の小道具。

 

「……ついに、この箱を開ける時が来たわね」

 

私はテーブルを挟んで向かい側に座る清隆を見据え、口角を吊り上げた。

 

「毎日欠かさず一つずつお題を入れ続けた結果だ。中にはそれぞれ百個近い要求が詰まっている」

 

清隆は無表情のまま、赤い箱をコンコンと指先で叩いた。

 

「ルールのおさらいよ」

 

私は二本の細い木製の棒(くじ)を取り出した。

 

「お互いに箱から一つずつお題を引き、見せ合う。その後、この二本の棒のどちらかを引く。先端に『赤い印』がついていた方が『王様』。王様は、自分が引いたお題を相手に実行させることができる。……拒否権は、一切なし」

 

私は毎日、清隆にどんな恥ずかしい思いをさせてやろうか、どんな風に私を甘やかさせようかと、嬉々としてお題を考え続けた。

今から清隆に色々なことをさせるのが、楽しみで仕方がない。

 

「さあ、第一回戦よ。引いて」

 

私たちは同時に、箱に手を入れて紙片を一枚ずつ引いた。

そして、せーの、でテーブルの上に開く。

 

私のお題:『執事服を着て、私をお嬢様に見立てて最高の歓待をする』

清隆のお題:『バニーガールの衣装を着て、カジノのVIP客(清隆)を接待する』

 

「……バニーガール?」

 

私は目を丸くした。

 

「お前が以前着ていたバニーガールだ」

 

「またそんなお題を……。でも、執事服のあなたに傅かれるのは譲れないわ。さあ、勝負よ!」

 

私は二本のくじを両手に握り込み、清隆に差し出した。

清隆は一切の躊躇なく、右側のくじを引き抜いた。

 

その先端には――鮮やかな『赤い印』が塗られていた。

 

「…………嘘でしょ」

 

「俺が王様だ。さあ、着替えてこい、レイ」

 

清隆の冷徹な宣告に、私は最初のゲームから敗北の苦汁を舐めることとなった。

 

数分後。

私はバスルームで、バニーガール衣装に着替え、顔を真っ赤にしながら部屋へと戻ってきた。

 

「……着替えたわよ」

 

黒いエナメル質のボディスーツは、私の体の曲線をこれでもかと強調し、胸元は零れ落ちそうなほどに深く開いている。足にはタイツ、頭にはウサギの耳のヘアバンド。そしてお尻には、丸くて白い尻尾。

自分でも鏡を見て卒倒しそうになるほど、破廉恥で淫らな格好だった。

 

「素晴らしいな」

 

清隆は私の部屋のベッドの縁に深く腰掛け、足を組み、まるで本物のカジノのVIPルームにいる大富豪のような傲岸不遜な態度をとっていた。

 

「さあ、こっちへ来い。……喉が渇いたな」

 

私は真っ赤な顔で清隆のもとへ歩み寄り、膝をついた。

 

「……何をお飲みになりますか、お客様」

 

「いや。今日は少し趣向を変えよう」

 

清隆はサイドテーブルに置いてあった、デザート用のカットフルーツの皿を指差した。

 

「それを、口移しで食わせろ」

 

「っ……!」

 

いきなりの過激な要求。しかし、王様の命令は絶対だ。

私は震える手でイチゴを一つ摘み、自らの口に含んだ。そして、ベッドに座る清隆の太ももの間に身を乗り出し、彼の冷たい唇に自らの唇を重ねた。

 

「んっ……ちゅ……」

 

甘酸っぱい果汁が、二人の舌の狭間で弾ける。

私が懸命に口移しで果物を運んでいると、不意に、清隆の手が私のタイツ越しのお尻へと伸びた。

 

「あッ……!」

 

「VIPへの接待としては、少し体が硬いな。もっと密着しろ」

 

清隆は私のヒップを無遠慮に揉みしだきながら、私を強引に引き寄せた。

バニーガールのハイレグの食い込みがさらに深くなり、私の秘部が清隆の下腹部に直接擦り付けられる形になる。

 

「んんっ……お客様っ、そこは……っ」

 

「カジノで大金を落とす客に対するサービスだ。……ここも、少し邪魔だな」

 

清隆は淡々とそう言うと、私のボディスーツの胸のカップ部分に指をかけ、無慈悲に下へと引き下げた。

ポロリ、と。

タイツとウサギの耳をつけ、胸だけを完全に露出させたという、狂気的なまでに変態的なスタイルが完成してしまう。

 

「きゃっ! はずか、しいっ……見ないでぇ……っ」

 

「隠すな。俺を楽しませるのがお前の仕事だろう」

 

清隆の手が、露出した私の胸を容赦なく弄り始める。

 

「あ゛っ! ひゃあっ! だめっ、そんな風に触られたらっ……!」

 

果物を口移しする接待のロールプレイは、すでに完全に崩壊していた。

清隆は私をそのままベッドの上へと押し倒し、傲慢なVIP客としての振る舞いを捨て、絶対的な『捕食者』としての顔を露わにした。

 

「VIPルームの特別サービスは、ここからが本番だ」

 

「あ゛ッ――――!!」

 

タイツを引き裂かれて両足を開かされ、そこへ熱く硬い楔が容赦なく打ち込まれる。

 

「ひぃっ! 激しっ、きよたかっ、激しすぎるぅっ!」

 

「俺はお客様だぞ。言葉遣いに気をつけろ」

 

「あ゛あ゛っ! お、お客様っ、深いっ、奥が、壊れちゃうぅっ!!」

 

私はバニーガールの尻尾を激しく揺らしながら、清隆の暴力的なまでのピストンに為す術なく蹂躙された。

王様ゲームの第一回戦は、私が完全に主導権を奪われ、絶頂の波に何度も呑み込まれるという、圧倒的な敗北で幕を閉じた。

 

「はぁっ……はぁっ……ひどい目に遭ったわ……」

 

乱れた息を整え、シャワーを浴びてスッキリしたところで、私たちは第二回戦へと移行した。

 

お互いの箱から引いたお題は、以下の通り。

 

私のお題:『二時間、ずっと手を繋いでのんびり過ごす』

清隆のお題:『二人とも完全に裸のまま、日常の時間を過ごす』

 

「今度こそ、私が勝つわよ……!」

 

激しいセックスの後は、甘くピュアな時間を過ごしたい。私は祈るような気持ちでくじを引いた。

 

「……すまないな」

 

清隆の手には、またしても『赤い印』のついたくじが握られていた。

 

「嘘でしょおおぉぉっ! 私のくじ運、どうなってるのよ!」

 

私は絶望して頭を抱えた。

 

「確率の問題だ。二分の一を二回連続で外すことなど、珍しくもない。……さあ、脱げ」

 

結果。

エアコンの効いた昼下がりの部屋で、私たちは一糸まとわぬ全裸の状態で、ベッドの背もたれに寄りかかって座っていた。

 

「……なんか、すごく落ち着かないんだけど」

 

私は両腕で胸と股間を隠すように縮こまりながら呟いた。

 

「俺は快適だ。衣服の締め付けがない分、リラックスできる」

 

清隆は全裸であることなど全く気にしていない様子で、パソコンのモニターを操作し、映画のサブスクリプションサービスを開いた。

 

「せっかくの日常だ。映画でも見よう。少し長めのミステリー映画がいい」

 

全裸で並んで座り、真面目な映画を鑑賞する。

あまりにもシュールで、非日常的な空間だった。

最初は自分の裸を清隆に見られている(しかも肌が触れ合っている)という羞恥心で顔が真っ赤になり、映画の内容など全く頭に入ってこなかった。

 

しかし、三十分ほど経過すると、映画のストーリーが急展開を迎え、私は徐々にスクリーンの中のミステリーに引き込まれていった。

 

「……なるほど。あそこであの証拠が……」

 

私が画面に集中し、少し身を乗り出した、その時だった。

 

スッ……。

私の太ももの内側に、清隆の手が伸びてきた。

 

「ひゃっ!?」

 

「静かに。映画の重要なシーンだぞ」

 

清隆の視線は、完全にモニターの映画に向けられたままだ。清隆の顔には微塵もエロスの色はなく、真剣にミステリーの謎解きを見つめている。

 

しかし、その清隆の手は、確実に私の太ももを撫で上げ、やがて秘められた場所へと侵入してきたのだ。

 

「ちょ、きよたかっ……なに、して……っ」

 

「裸で過ごす、というお題を実行しているだけだ。映画を見ながらスキンシップを取るのも『日常』の範疇だろう?」

 

どこが日常だ!

清隆は画面から一切目を逸らさず、まるでポップコーンでもつまむような無意識の動作を装いながら、私の最も敏感な部分を指先で的確に愛撫し始めた。

 

「んんっ……あ……だめっ……映画、集中できない……っ」

 

私が抗議の声を漏らしても、清隆はどこ吹く風で指の動きを止めない。それどころか、もう片方の手が私の胸へと伸び、柔らかな膨らみを揉みしだき、先端を摘み上げてくる。

 

映画のシリアスなBGMと、私の口から漏れる甘い嬌声。

モニターの中では探偵が殺人事件の推理を披露しているというのに、私の頭の中は清隆が与える快感で徐々に白く塗りつぶされていく。

 

「あ゛っ……んぁっ……きよたかぁっ……もう、映画なんて……っ」

 

「……そうか? 犯人が分かるところだが」

 

「犯人なんてどうでもいいっ! 私をっ、早く……っ!」

 

結局、完全に火をつけられてしまった私が理性を保てるはずもなく。

私たちは映画を一時停止することすら忘れ、シリアスな音声が流れる部屋の中で、互いの全裸の体を激しく絡ませ合い、再びベッドの海へと沈んでいったのだった。

 

「……はぁ。もう、私の体力も限界よ。これが最後の一回」

 

夕刻が近づく頃。

三度目の正直を誓い、私は残された体力を振り絞って箱からお題を引いた。

もし次も清隆が勝って、さらに過酷なお題を出されたら、私の体は完全に干からびてしまう。

 

「せーの」

 

テーブルの上に、お互いが引いたお題の紙を開く。

 

私のお題:『カフェに行って、二人でのんびり読書をする』

清隆のお題:『カフェに行って、二人でのんびり読書をする』

 

「…………え?」

 

私は目を丸くして、二つの紙片を見比べた。

一言一句、全く同じ内容だったのだ。

 

「奇遇だな。お題が完全に一致するとは」

 

清隆も、少しだけ意外そうな顔をして紙片を見つめている。

 

「ど、どういう風の吹き回しよ。清隆の箱の中には、もっとエグい要求がいっぱい詰まってるはずなのに。なんでこんな、健全極まりないお題を入れたの?」

 

私が尋ねると、清隆は少しだけ視線を逸らし、小さく呟いた。

 

「……無人島サバイバル試験が終わって帰ってきた直後に、箱に入れたものだからかもしれないな」

 

「無人島試験の、後……」

 

私はハッとした。

あの過酷な二週間。肉体的な疲労はもちろん、大人たちとの死闘による精神的な疲労は、計り知れないものだったはずだ。

その極限状態から解放された直後。清隆が最も求めた『私への要求』が、体を激しく交えることでも、屈辱を与えることでもなく。

 

ただ、静かなカフェで、二人で並んで本を読むという平穏だったのだ。

 

「……そっか」

 

私は胸の奥がキュッと温かくなるのを感じた。

 

「お題が一致したなら、くじを引く必要はないわね。まだ日も高いし、少し涼しくなってきたから……出かけましょうか」

 

私たちはシャワーを浴びて身支度を整え、学生寮を出てケヤキモールの中にある静かなカフェへと向かった。

私はお気に入りのミステリー小説を、清隆は少し難しそうな哲学書を片手に、窓際の席に向かい合って座った。

 

アイスコーヒーの氷が、カランと音を立てる。

店内には静かなジャズが流れ、窓の外には夕暮れに染まりつつある夏の空が広がっている。

私たちはほとんど言葉を交わさなかった。ただ、ページをめくる音と、時折コーヒーに口をつける動作だけが繰り返される。

 

でも、ふとした瞬間に視線を上げると、必ず清隆と目が合った。

その度にお互いにほんの少しだけ口角を上げ、また本へと視線を戻す。

 

(……不思議ね)

 

昼間にベッドの上であれほど獣のように貪り合ったのに。

今はこうして、指一本触れ合っていないのに、心の底から満たされている。

清隆という安全圏の中で、ただ時間が過ぎていくのを共有しているという事実が、これ以上ないほどの贅沢に感じられた。

 

夕方になり、カフェを出る頃には、私の心の中にあったゲームでの敗北の悔しさなど、すっかり消え去っていた。

 

オレンジ色に染まった帰り道を、私たちは並んで歩いた。

影が長く伸び、夏の終わりの少し涼しい風が頬を撫でる。

 

「……今日は、ありがとう。最後のお題、すごく良かったわ」

 

私が言うと、清隆は「俺もだ。いい休息になった」と短く答えた。

 

寮に戻り、私の部屋の鍵を開ける。

カチャリ、とドアが閉まり、密室の静寂が私たちを包み込んだ。

 

靴を脱ぎ、リビングへと足を踏み入れた瞬間だった。

どちらからともなく。本当に、引力に吸い寄せられるように、私たちは振り返り、見つめ合い、そして唇を重ねた。

 

「んっ……」

 

王様ゲームの命令でも、過激なロールプレイの始まりでもない。

ただ、互いの存在を確かめ合うような、自然で、優しく、そして深いキス。

リップ音が部屋に響き、唇が離れてはまた重なる。徐々にそのキスは熱を帯び、舌が絡み合うディープなものへと変化していった。

 

「清隆……」

 

「レイ」

 

互いの名前を呼び合いながら、私たちはもどかしい手つきで互いの衣服を脱がせていった。

夕暮れの薄暗い部屋の中で、再び一糸まとわぬ姿となる。しかし、そこにあるのは昼間の『全裸の羞恥』ではなく、純粋な愛情の共有だった。

 

私たちはベッドへと倒れ込み、私は清隆の上に跨るようにして座った。

向かい合ったまま、互いの体を密着させる『対面座位』の体勢。

清隆の首に両腕を回し、彼も私の腰をしっかりと抱きしめる。

 

「……挿入れるぞ」

 

「うん……っ」

 

ゆっくりと、清隆が私の中を満たしていく。

激しいピストンはない。最も深く繋がった状態で、互いの心臓の鼓動が直接伝わってくるような、甘く、とろけるような交わり。

 

「あっ……あぁ……清隆、温かい……っ」

 

「……レイ。お前の匂いがする」

 

清隆は私の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込みながら、ゆっくりと腰を揺らした。

子宮の奥がじんわりと熱くなり、快感というよりも、魂が溶け合うような圧倒的な充足感が全身を駆け巡る。

私たちは何度もキスを交わし、愛の言葉ともつかない甘い吐息を漏らしながら、長い長い時間をかけて、その密着を楽しんだ。

 

やがて。

 

「……少し、動くぞ」

 

清隆が私の腰を抱え上げたまま、ゆっくりとベッドから立ち上がった。

私の両足が清隆の腰に絡みつき、互いの体を完全に支え合う体勢。

重力が加わることで、結合がさらに深くなり、よりダイレクトな快感が私を襲う。

 

「ああっ! ぁっ、きよたか、深いっ……!」

 

「しっかり、しがみついていろ」

 

立位のまま、清隆が力強いストロークで私を突き上げる。

部屋の壁に私の背中が押し付けられ、逃げ場のない快感が頂点へと駆け上がっていく。

 

「くるっ! いくっ! 清隆と一緒にっ、あ゛あ゛ぁぁっ!!」

 

「……ああッ!」

 

夕闇が完全に部屋を包み込むのと同時に。

私たちは互いの体を強く、痛いほどに抱きしめ合いながら、最も深い場所で熱い命の奔流を交歓し、同時に果てた。

 

「……はぁっ……はぁっ……」

 

全てが終わり、私たちは再びベッドに横たわっていた。

汗ばんだ肌が触れ合い、シーツの中で足が絡み合っている。

 

「……王様ゲーム、結局私、一回も勝てなかったわね」

 

私は清隆のがっしりとした胸板に指で円を描きながら、クスクスと笑った。

 

「来月、また再戦するか?」

 

「気が向いたらね」

 

私は軽く清隆の胸を叩き、そして、ふと真面目な顔になって彼を見上げた。

 

「……でも。バニーガール着せられたり、映画見ながら弄られたり……色々やらされたけど。でも、カフェでの時間も含めて……なんか、すごく『いい一日』だったね」

 

私が本心を伝えると、清隆は私の頭を優しく撫で、

 

「……ああ。俺も、同感だ」

 

と、珍しく素直に同意を返してくれた。

 

窓の外からは、夜の訪れを告げる秋の虫の声が、微かに聞こえ始めていた。

夏休みが終われば、いよいよ波乱の二学期がやってくる。

平穏な日々は今日で終わり、明日からはまた、血で血を洗うような頭脳戦と心理戦の日々が再開するのだ。

 

(でも、怖くないわ)

 

私は、清隆の腕の中で、静かに目を閉じた。

清隆が私を必要とし、私が彼を愛し、共に戦う限り。

どんな特別試験が待っていようと、私たちは絶対に乗り越えてみせる。

 

終わっていく夏休みの穏やかな時間への名残惜しさと、近づいてくる二学期への静かな闘志を胸に秘め、私は清隆の温もりの中で、深い、深い眠りへと落ちていった。

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