綾小路くん、私はセフレ?それとも 作:Geminiちゃん痛くしないで
五月の初日。1年Dクラスの生徒たちを待っていたのは、阿鼻叫喚の地獄絵図であった。
ホームルームの開始直後、教壇に立つ担任の茶柱佐枝の冷徹な唇から語られた「Sシステム」の真相。
実力至上主義というこの学校の真のルール。
そして、Dクラスの生徒たちの専用端末に振り込まれたポイントの数字は、無慈悲にも0を示していた。昨日までコンビニで高級な弁当を買い、放課後にカラオケで豪遊していたクラスメイトたちが、血の気を失った真っ青な顔で頭を抱え、あるいは怒号を上げている。
しかし、私はそのパニックの輪から少し距離を置いた窓際の特等席で、頬杖をつきながら初夏の爽やかな風に揺れる木々の緑を眺めていた。
(実力至上主義……タダより高いものはないと思っていたけれど、なるほどね。面白いじゃない)
表向きは周囲に合わせて微かな驚きを演じて見せたけれど、私の思考の半分は、教室の騒乱などとは全く別の、もっと深く、甘く、そして淫靡な場所に囚われていた。
ブラウスの襟元で隠された首筋に残る、微かな熱と鬱血の痕。肌の表面を滑る真新しい制服の裏地が擦れるたびにフラッシュバックする、シーツのざらついた感触。
そして、私を「女」として徹底的に暴き、前世のプライドを粉々に砕いて屈服させた、あの冷徹なまでの快楽の余韻が、今も子宮の奥底でチリチリと燻っている。
視線を少しだけずらし、隣の席に座る綾小路清隆を見やる。
彼は、クラス中の動揺をまるで出来の悪いテレビ番組でも見るかのように他人事として眺め、いつもと変わらない無機質な表情で、ノートの端に意味のない幾何学図形をペンでなぞっていた。
昨日、私の最も柔らかな奥深くを容赦なく突き上げ、私の理性を完全に奪い去ったあの圧倒的な雄と、今隣で退屈そうにペンを回している男が同一人物だとは、周囲の誰一人として……いや、当事者である私でさえ、到底信じられないほどだった。
五月に入っても、私たちの表向きの関係は、四月と何ら変わりないように見えた。
二人でケヤキモールのカフェへ行き、一ポイントの重みと今後の節約を噛み締めながら無料の水を啜り、時には図書館で中間試験の対策を練る。
ある日の昼休み、教室で弁当を食べていた私と清隆の席に、池寛治と山内春樹がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら近づいてきた。
「よぉ新西、綾小路。二人で仲良く貧乏飯か? 俺たちもポイントゼロでマジでヤバいんだけどさ」
池が私の机に身を乗り出してくる。彼の視線が、私の制服の胸元から太ももへと、分かりやすく舐め回すように動くのが分かった。
「仕方ないわね、池くん。授業態度が悪かった私たちの自業自得よ」
私は完璧な「清楚な美少女」の仮面を被り、柔らかく、けれど一定の距離を保った愛想笑いを向けた。
「いやー、それにしても新西は相変わらず顔面偏差値カンストしてんな! なあ綾小路、お前いっつも新西の隣にいて、変な気起こしたりしねえの? 俺なら我慢できねえわ」
山内が、冗談めかしながらも探りを入れるように清隆の肩を小突く。
清隆は食事の手を止めず、箸で卵焼きをつまみながら、相変わらずの平坦な声で答えた。
「俺は池や山内みたいに、常に発情しているわけじゃないからな。新西も、俺みたいな地味な男に興味はないだろ」
「そ、そうだよな! お前みたいな暗いヤツに、Dクラスの高嶺の花がなびくわけねーよな! 新西さん、休みの日は俺たちとどっか遊びに行かね?」
「ごめんなさい、休日は図書室で勉強するって決めてるの。中間試験、危ないから」
私がやんわりと誘いを断ると、池たちはあからさまに肩を落とし、「綾小路のヤツ、隣の席ってだけで得しやがって」と愚痴をこぼしながら去っていった。
(……馬鹿な男たち)
私は内心で冷笑する。
彼らが「高嶺の花」と崇め、決して手が届かないと思っているこの体は、彼らが見下している「地味な男」の手によって、すでに隅々まで開発され、彼なしでは満足できないほどに染め上げられているのだ。
その絶対的な優越感と、誰にも言えない背徳的な秘密が、私と清隆の間にだけ存在する「共犯関係」をより強固なものにしていると、私は信じていた。
表向きは恋人らしい甘やかさなど一切ない、ただの「波長の合う友人」。
手を繋いで歩くことも、人前で愛を囁き合うこともない。
けれど、放課後や休日の二回に一回程度の頻度で、私たちはごく自然な流れで、どちらかの寮の部屋へと吸い込まれていった。
分厚いドアが閉まり、電子ロックの施錠音が鳴った瞬間。
部屋の静寂は、私の甘く、そして激しい吐息へと一瞬にして書き換えられる。
「……っ、ん、あ……清隆……。あなた、今日、は……少し、乱暴……っ」
薄暗いベッドの上で、私は彼の圧倒的な「技術」と「質量」の前に、抗う術を持たずただ翻弄されていた。
清隆のセックスは、回を重ねるごとに、残酷なほど精密に、そして恐ろしいほどに洗練されていった。
彼は私の体がどこを、どの程度の強さで、どのような角度で愛撫されれば、脊髄を直接突き抜けるような致命的な快感に襲われるのかを、完全に把握していた。
まるで、私の肉体の反応をすべて「データ」として蓄積し、最適なアルゴリズムを弾き出して実行しているかのように。
「乱暴か? だが、お前の体は前回よりもさらに熱く、早く俺を受け入れようとしている」
彼の手が、私の最も敏感な膨らみを的確に捉え、指先で弾くように弄る。
「ひっ……! あ、あぁっ!」
前世で男であった私は、女の体がこれほどまでに「開発」され、他者の手によっていとも容易く快楽の奴隷へと堕ちていくものだとは、想像すらしていなかった。
私が必死に保とうとする自尊心や羞恥心は、彼が的確に急所を突くたびに、木っ端微塵に粉砕されていく。
そして、彼自身の衣類が脱ぎ捨てられ、あの規格外の凶悪な質量が、私の濡れそぼった奥深くへと、一切の容赦なく打ち込まれた瞬間。
「あ――っ!!」
声にならない絶叫が喉の奥で弾ける。
脳内が真っ白に染まり、視界に火花が散る。内臓が押し上げられ、自分の体が自分のものでなくなっていくような圧倒的な支配感。
彼が深く、重いストロークを繰り返すたび、私は自分という存在が完全に彼の支配下に置かれ、組み敷かれているという事実に、抗いがたい悦びと、屈服の快感を感じてしまっていた。
(ああ、私……完全に、この人の雌にされてる……)
ただの友達。
そう自分に言い聞かせなければ、正気を保てない。いや、すでに正気などとっくに失っているのかもしれない。私は、彼が理詰めで与えてくる快楽という名の猛毒に、細胞の隅々まで侵され始めていた。
だが、そんな密室での甘い地獄に浸る私の心に、五月に入ってから、一つの冷たい棘が刺さっていた。
堀北鈴音。
黒髪の美しいロングヘアと、誰にも媚びない鋭い眼差しを持った、私とは違ったタイプの孤高の美少女。
中間試験を目前に控え、落第の危機にある須藤たちを救うため、勉強会を彼女が始めた頃から、清隆と彼女のやり取りが、四月よりも明らかに増えていたのだ。
昼休み。私が清隆とお弁当を食べようと席を立つより早く、堀北が彼の席の前に立ち塞がることが増えた。
「綾小路くん、少し付き合ってもらうわよ。須藤くんたちの対策で確認したいことがあるの」
「……俺の昼休みを奪う権利はお前にはないはずだが」
「あら、そう? ならこのコンパスの針が、偶然あなたの腕に突き刺さっても文句はないわね」
堀北は一切の表情を変えず、銀色に光るコンパスの針を清隆の腕に押し当てる。清隆は面倒くさそうにため息をつきながらも、結局は彼女の強引な要求に屈し、二人で教室を出て行ってしまう。
残された私は、その背中を見送りながら、一人で冷めた弁当を口に運ぶしかなかった。
(……なんなのよ、あれ)
頭では分かっている。
堀北のあの冷酷な態度、他者を道具としか見ていないような眼差し。彼女が清隆に対して恋愛感情を抱いているはずもないし、清隆が彼女を「女」として見ている気配もない。あんな風に平気でコンパスで腕を刺すような女が、清隆の恋人になるような未来は、万に一つも、天と地がひっくり返ってもあり得ない。
それでも。
それでも、私の胸の奥で、チクリと、毒虫に刺されたような焦りと嫉妬が疼くのを止めることができなかった。
(恋人でもないのに、どうして私よりも、あの女との時間を優先するの?)
私は清隆に抱かれ、体の奥底まで彼を知り、彼に知られている。
それなのに、彼にとっての「優先順位」は、私よりも堀北のほうが上なのか。私との密室の時間は、彼にとってただの「暇つぶし」であり、彼が本当に興味を持ち、関わろうとしているのは、あの冷たい黒髪の女なのだろうか。
その疑念が、私の完璧な美少女としてのプライドを静かに、しかし確実に削り取っていった。
ある日、清隆から珍しく話しかけられた。
「堀北が須藤たちのための勉強会を再開した。レイ、お前の成績は学年でも上位のはずだ。手伝ってくれないか?」
彼から直接頼まれれば、断る理由などどこにもない。いや、堀北の思い通りにだけはさせたくないという意地もあった。
放課後の図書室。仕切られたブースの中で、堀北鈴音を中心に、Dクラスの落第候補者である須藤、池、山内が集まっていた。私は清隆の隣に座り、彼らに数式の解き方や英語の文法を教え始めた。
「なあ新西、この英語の文法、マジで意味わかんねーよ。なんでこんな語順になるんだ?」
池が頭を掻き毟りながら身を乗り出してくる。
「池くん、ここは理屈じゃなくて、熟語のセットとして暗記しちゃった方が早いわ。ほら、集中して」
私がノートに書き込みながら教えると、池たちの視線が、時折私の制服の胸元や、机の下で組まれた脚のラインを卑しくなぞるのを感じる。
中学時代なら寒気と殺意を覚えたであろうその視線も、今の私にはあまりに幼く、滑稽にすら思えた。
私の内側には、昨夜、隣に座っているこの地味な少年の巨大な熱が何度も深く刻みつけた、あの暴力的なまでの支配の記憶が残っているのだから。他の有象無象の視線など、何の価値もなかった。
勉強会が中盤に差し掛かった頃、喉の渇きを覚えた私は、飲み物を買いに一度席を外した。
数分後、自販機で冷えたペットボトルの紅茶を買い、ブースに戻ろうとした時のことだ。入り口の手前で、聞き覚えのある声が私の足を止めさせた。
池と山内の、少し興奮した、それでいてどこか詰問するような低い声だ。
「……なあ綾小路、お前さ。ぶっちゃけ新西とどういう関係なんだよ?」
私は反射的に壁の陰に身を隠し、呼吸を殺した。心臓の鼓動が、警鐘のように激しく打ち鳴らされる。
「毎日一緒に弁当食ったり、帰ったりしてんだろ? お前みたいな地味なヤツが、あんな美少女の恋人だなんて言ったら、俺たちマジで許さねえぞ。いや、暴動が起きるレベルだ」
「そうだぜ。新西は俺たちDクラスの宝なんだ。抜け駆けの裏切りはナシだぜ。……お前ら、恋人同士じゃないよな?」
詰め寄る二人の気配。
少しの沈黙があった。私の手の中のペットボトルが、微かに震える。
やがて、清隆の、相変わらずの平坦で、一切の感情の揺れを感じさせない声が響いた。
「……いや。俺たちは付き合ってはいない。ただの、仲のいい友達だ。お前たちの言う通り、俺みたいな男が新西と釣り合うわけがないだろう」
その言葉に、池と山内が「だよな!」「マジでビビらせんなよー、よかったー!」と心底安堵したような溜息と笑い声を漏らす。
私は、壁の陰で、冷えたペットボトルを指の関節が白くなるほど強く握りしめていた。
勉強会に戻り、何事もなかったかのように平静を装って彼らに勉強を教え終えた後。
帰り道、夕焼けに赤く染まる長い並木道を、私と清隆は少しの距離を保って歩いていた。
(恋人ではない。……分かっていた。分かっていたはずなのに)
胸の奥が、ちりりと焼けるように痛む。
セックスの翌日、彼は何事もなかったかのように「おはよう」とだけ言って私の隣に座る。そこに特別な情愛も、私を独占したいという男としての欲も、一ミリも混じっていなかった。
図書室での彼の言葉は、嘘でも謙遜でもなく、彼にとっての完全なる「事実」なのだ。
(結局、私たちは世間で言うところの『セフレ』でしかないのよね)
私は彼に惚れている。
中学時代、周囲の身勝手な「欲」に疲れ果てて閉ざした心を、彼の「無関心」という名の絶対的な救済によってこじ開けられた。
そして今では、その得体の知れない「個」としての強さと、ベッドの上で計算し尽くされた冷徹な慈愛に、肉体だけでなく心まで完全に溺れている。
けれど、彼は違う。
私とのあの激しい行為は、彼にとって「十代特有の生理現象の効率的な処理」か、あるいは「新西レイという女の身体構造と心理反応を確認するためのフィールドワーク」に過ぎないのかもしれない。
昨夜、私の足の間で、無機質な瞳のまま、私のすべてを完璧にコントロールし、絶頂へと追いやった、あの冷酷な捕食者の顔を思い出す。
(……癪だけど。悔しいけれど。あんなに気持ちいいこと、一度知ってしまったら、もう逃げられるわけないじゃない)
悔しい。前世の私が、死ぬほど悔しいと叫んでいる。
けれど、私の柔らかな体は、清隆なしではもう満足できないように、完全に書き換えられてしまった。
彼が私を「ただの友達」と呼ぶのなら、今はそれでいい。
肉体だけの関係。精神が通い合わない、渇いた、歪な繋がり。
「レイ、どうかしたか。さっきから一言も喋らないが。勉強会で疲れたか?」
不意に、清隆が足を止め、こちらを振り返った。その瞳には、やはり何の感情も映っていない。
「……何でもないわよ。少し、今日の勉強会で池くんたちの相手をするのに疲れただけ」
私は彼の隣を歩き出しながら、心の中で自分自身に、そして隣にいる冷酷な支配者に向けて、強く言い聞かせた。
あなたはまだ、私を「便利な道具」や「快楽の実験対象」としてしか見ていないのかもしれない。堀北鈴音という存在の方に、より強い関心を示しているのかもしれない。
でも、このままこの関係を続けて、あなたのその理屈っぽい「最適な答え」を、すべて私の快楽と熱量で、物理的に上書きしてやる。
(ただのセフレで終わるつもりなんて、さらさらないから)
いつか、その凪いだ深淵のような瞳を、私なしではいられないという発情と、狂おしいほどの独占欲で塗り潰してやる。
新西レイとしての女のプライドを、私は征服欲という名の、決して消えることのない炎へと変えていた。
「ねえ、清隆。今日の夜、私の部屋に来る?」
私は歩きながら、ふと立ち止まり、夕日を背にして彼を見つめた。
「……中間試験前だぞ。勉強の続きでもするつもりか?」
彼は淡々と問い返す。
「ええ、そうね。……もっと深いところまで、あなたの『答え』を教えてほしいの。私、まだ全然、満たされてないから」
私は彼を挑発するように、そして彼を深い沼へと引きずり込む魔女のように、不敵に、そして妖艶に微笑んだ。
本番は、これからだ。
この歪んだ関係が、真実の愛という名の逃れられない呪縛に変わるまで。
私は何度でもあなたに抱かれ、あなたを私の熱で溺れさせるための罠を仕掛け続ける。
四月の最初の情事が偶発的な事故だったとしても、五月のこの執着は、私の明確な意志だ。
いつかあなたに、私を押し倒しながら「好きだ」「お前だけだ」と狂ったように言わせるまで。
私はこの甘く、狂おしい地獄から這い上がるつもりは、毛頭なかった。
中間試験を間近に控えた校内は、生徒たちの焦りと熱気に包まれていたが、女子寮の私の自室の分厚いドアが閉まり、電子ロックの施錠音が鳴り響いた瞬間、外の世界の喧騒は完全に遮断された。
カーテンを閉め切った薄暗い室内。エアコンの微かな稼働音だけが響く静寂の空間に、私と綾小路清隆の二人だけが取り残される。
「勉強会、お疲れ様。……でも、私の頭の中はもう、数式なんて入る隙間もないわ」
私は自分のカバンを床に放り投げると、自分から清隆の広い胸へと飛び込んだ。
彼の制服のシャツ越しに伝わってくる、規則正しく力強い心音。それにすがりつくように耳を押し当てながら、私は彼のシャツのボタンを一つ、また一つと、わざと時間をかけるように、焦らすように解いていく。
昼間、図書室の仕切りブースの裏で、私の耳に冷たく突き刺さった彼の言葉が、脳裏をフラッシュバックする。
『いや。付き合ってはいない。ただの仲のいい友達だ』
池や山内といった有象無象のクラスメイトに対して、何ら感情の起伏もなく言い放たれたその言葉。それは、一切の虚飾のない、彼にとっての冷徹な「事実」だった。
その言葉を聞いた瞬間、私の胸の奥で、ドロドロとした黒い炎――強烈な征服欲と、そしてそれ以上に大きく、冷たい「焦燥感」が燃え上がっていた。
(……このままじゃ、だめだ)
四月から何度か肌を重ねてきた。彼は私に、これまで知らなかった恐ろしいほどの快楽を与え、私の理性をいとも容易く粉砕してきた。
けれど、それはあくまで「彼が私に与えている」だけだ。
彼に抱かれ、彼に開発され、快楽を与えられる側のままでは、この歪な関係のイニシアチブは、永久に彼の手の中にある。私はただ、彼が与えてくれる快楽を待つだけの、哀れで受動的な雌に過ぎない。
(もし……彼が、私のこの体に『飽き』を感じてしまったら?)
その恐怖が、私の背筋を凍らせた。
私は彼を繋ぎ止めるための他のカードを、何一つ持っていない。彼にとって私は「顔とスタイルが良いだけの、都合の良い実験対象」でしかないのだ。
いつか彼が、私との行為に飽き、あるいは堀北鈴音のような他の人間に強い興味を抱き、私を不要だと切り捨てた時。私には彼にすがりつく口実すら何もないのだ。
(だから、私の方から仕掛けなければならない。私のすべてを使って、彼に快楽を刻み込み、私なしではいられない体に、脳に、書き換えてやらなければ)
私は彼の前に、ゆっくりと跪いた。
中学時代、自分に向けられる下卑た欲望をすべて跳ね除け、誰に対しても鉄壁の絶界を敷いて高く保ち続けていた私のプライド。
それを今、私自身の意志で自ら投げ打ち、彼という絶対者の脚の間へと顔を寄せる。
スラックスのベルトを引き抜き、ジッパーを下ろす。
露わになった彼の「個」は、薄暗い間接照明の下でも、相変わらず私の常識を破壊するような、凶悪なまでの存在感と暴力的な熱量を放っていた。
それを目の当たりにしただけで、私の奥の柔らかな粘膜が、条件反射のように熱を持ち、甘い疼きを訴え始める。
「……レイ?」
見下ろす彼が、わずかに不思議そうな、けれど相変わらず平坦な声を落とす。
いつもなら、彼の方から私をベッドに押し倒し、主導権を握るのが常だった。私が自ら彼の下半身に奉仕しようとする姿は、彼にとっても想定外のデータなのだろう。
「今日は……私が、あなたを気持ちよくさせるわ」
私は上目遣いで彼を見つめながら、両手で彼の熱の芯をそっと包み込んだ。
彼の大事な部分を、まるで極上の絹の布を扱うように、優しく、愛しむように撫で上げる。
「ん……」
私の指先が、怒張した表面の血管をなぞり、最も敏感な先端の鈴口へと触れた瞬間、清隆の腹筋がわずかにピクンと収縮した。
その微細な反応が、私の内なるサディズムと征服欲を満たしていく。
手のひらを滑らせ、根元から先端へ、そしてまた根元へと、絶妙な力加減でしごき上げる。前世で培った卓越した身体感覚が、皮肉なことに、男に快楽を与えるための最適な圧力とスピードを計算するのに大いに役立っていた。
十分に私の手のひらの感触を味わわせた後、私はゆっくりと顔を近づけた。
紅く引いた唇を割り、温かく湿った口腔内へと、彼の巨大な質量を招き入れる。
「あっ……んんっ……」
あまりの太さと長さに、喉の奥の限界点がいとも容易く突かれ、私の目尻に生理的な涙が滲む。
けれど、止めるつもりは毛頭なかった。
私は自分の口腔を、彼専用の極上の粘膜へと作り変える。舌を這わせ、絡みつかせ、吸い上げる強さを絶え間なく変化させる。先端を舌先で弾き、根元まで咥え込んだまま、彼のペニスに唾液をたっぷりと絡め取りながら、顔を上下に激しく動かした。
チュプッ、ジュルルッ……。
静まり返った部屋に、私の口元から漏れる卑猥な水音だけが響き渡る。
見上げれば、彼は相変わらずの無機質な表情を崩さないまま、けれど私の黄金色の髪を、その大きな手でそっと撫でていた。
(……これでも、まだ足りないの? もっと、もっと狂ってよ……!)
彼に尽くし、彼に快楽を与えようとすればするほど、私の体自身の奥底に眠る情欲が、反比例するように激しく燃え上がり始めていた。
彼を咥え込み、舌で愛撫しながら、私は空いている左手を、自分自身のスカートの中へと滑り込ませた。
下着の布地をずらし、すでに彼への興奮で濡れそぼっている自身の秘部へと、自らの指を這わせる。
「はっ……ん、あぁっ……」
口の端から銀色の糸を引きながら、私は自分の最も敏感な突起を指先で弾いた。
目の前には、無表情で私を見下ろす彼の冷たい瞳。
その視線を真正面から受けながら、彼の熱をしゃぶり、同時に自分自身を慰めるという、あまりにも背徳的で恥辱に満ちた行為。
「見て、清隆……。私、あなたに尽くしながら、こんなに、濡れてる……っ」
ジュクッ、グチュッという水音が、口元からの音と混ざり合い、淫靡な協奏曲を奏でる。
彼を快楽の底へ突き落とすつもりが、気づけば私自身が、その行為自体によって深い絶頂の淵へと追いやられそうになっていた。
けれど、どれだけ私が口と手で執拗に責め立てても、彼の中心は限界を迎える気配を見せなかった。
彼は私の頭を撫でながら、静かに、まるで観測者のような声で言った。
「……レイ。口の奉仕はもういい。俺はそれでは達しない」
その言葉に、私はわずかな敗北感を覚えながらも、口を離した。
(口がだめなら、次は……)
私は立ち上がり、自らのブラウスとブラジャーを脱ぎ捨てた。
露わになったのは、池や山内が「普通」と評した、私の胸。
しかし、ただの「普通」ではない。四月から幾度となく清隆の大きな手によって揉みしだかれ、愛撫され、開発され尽くした私の双丘は、彼に見られるだけで先端を硬く尖らせ、微かな張りを帯びていた。
私は再び彼に近づき、彼の熱の芯を、自分の胸の谷間で強く挟み込んだ。
「……どう? 清隆。私の胸の感触」
彼のペニスにたっぷりと絡みついた私の唾液が、極上の潤滑油の代わりとなる。
私は両腕に力を込め、自らの胸の肉で彼を逃さぬように圧迫しながら、体を上下にスライドさせた。
柔らかな肉の弾力と、彼自身の放つ凶悪なまでの硬さと熱が、直接私の肌を擦り上げる。
胸の谷間から突き出た彼の先端が、私の顎や頬をかすめるたびに、私は甘い吐息を漏らした。
「……んっ、あ……清隆、すごい……。これ、熱いよ……。ねえ、私で、私の体で、もっと気持ちよくなって……!」
私は必死に彼を煽った。
汗ばんだ肌と肌が密着し、彼を包み込む私の胸が、激しい上下運動によってたわわに揺れる。
これだけ尽くせば、これだけ私の女のすべてを捧げれば。
いかに彼が氷のような理性を持っていたとしても、少しは表情を崩し、私を求める雄の顔を見せてくれるはずだ。
やがて、彼の下半身の筋肉が大きく収縮し、限界のサインが訪れた。
「……っ」
清隆の低い、押し殺したような吐息と共に。
私の胸元、そして首筋から顔にかけて、熱く、白濁した奔流が勢いよく放たれた。
ドクン、ドクンと脈打つたびに、彼自身の濃密な種子が私の柔らかな肌を汚していく。
私は荒い呼吸を整えながら、胸に滴るその白濁を指で掬い取り、自らの舌で舐め取った。
(やった。彼を、私でいかせた……)
これで彼も、少しは私への見方を変えるはずだ。ただの友達などという言葉は、もう二度と吐かせない。
期待に胸を膨らませて彼を見上げた、その瞬間だった。
「……丁寧だったな、レイ。極めて効率的な刺激だった」
私の耳に届いたのは、絶頂を迎えた直後の男が発するとは到底思えない、いつもの無機質で、冷え切った、温度のない声だった。
効率的。
そのたった一言に、私は足元から崩れ落ちるような激しい眩暈を覚えた。
私は、プライドを捨て、魂を削るようにして、女としてのすべてを懸けて彼に奉仕した。
なのに、彼はそれを、まるで「よく出来たマニュアル通りに作業をこなした」と評価するような、機械的な感想で片付けてしまったのだ。
彼の瞳には、情欲の濁りも、私への執着も、一欠片も存在しなかった。
新西レイの微かな自尊心は、五月の生温かい夜の空気の中で、音を立てて無惨に溶け去ろうとしていた。
図書室で彼が口にした「ただの友達」という、残酷なほどに正しい言葉。
その呪縛を解くためには、もはや言葉による対話や、一方的な奉仕など何の意味も持たなかった。
(……許さない。絶対に、私なしじゃいられないようにしてやる)
「次は……あなたの『答え』、私のもっと奥まで教えて」
私は白濁にまみれた胸をそのままに、彼を背中からベッドへと押し倒した。
彼は抵抗することなく仰向けになり、私を見上げている。
私は黄金色の長い髪を乱し、敗北感と屈辱を原動力にした挑発的な笑みを浮かべながら、彼の上に跨った。
自分から腰を浮かせ、彼の屹立する熱を、自らの濡れそぼった秘部の入り口に合わせる。
そして、息を吸い込み、ゆっくりと、すべてを飲み込むように腰を下ろしていく。
「あ……が、ぁっ……!!」
何度経験しても、その太さと質量に慣れることはない。
ミシミシと内側の柔らかな肉が押し広げられ、体の芯の最も深い場所まで、彼という存在に物理的に占有されていく感覚。
この圧倒的な質量がもたらす衝撃に、思わず呼吸が止まり、背骨に雷が落ちたように全身が激しく反り返る。
完全に根元まで繋がったその一点から、彼自身のドクドクとした熱い拍動が、私の細胞の一つ一つへと伝播していく。
「……清隆、いくわよ」
私は自らの膝をベッドに立て、腰を使い、主導権を握ろうと動き始めた。
私の腰の動きは、まるで油の差された精密機械の歯車のようだった。
滑らかに、一寸の狂いもなく彼の熱の芯の周囲を擦り上げ、時には浅く、時には子宮の入り口を直接叩くように深く、計算し尽くされた軌道を描く。
それは同時に、獲物を決して逃がさないようねっとりと絡みつく、美しい大蛇のようでもあった。
「ん、あぁっ! はっ、ぁ……!」
私が自ら腰を上下させるたび、それに合わせて、私の胸が激しく躍動した。
巨乳と呼べるほどの質量はない、けれど形の良い上向きの双丘。
それが今、重力と彼に打ち付ける反発力に遊ばれるように、たわわに、そして淫靡に揺れ動いている。
水面に落ちた雫が美しい波紋を広げるように、その柔らかな二つの果実は、彼を誘惑するように、視覚的な暴力となって激しく上下に揺さぶられた。
揺れるたびに、胸の先端にこびりついた彼の白濁が光を反射し、この部屋がいかに異常な空間であるかを物語っている。
彼を翻弄し、その無表情の仮面の下に隠された本能を引きずり出してやる。
私の動きで彼を狂わせ、私に命乞いをさせてやる。
そんな傲慢で高飛車な狙いを持って、私は緩急をつけながら、彼を限界まで絞り上げるように腰を振り続けた。
けれど――そんな私の儚い抵抗と野心は、長くは続かなかった。
「……レイ。少し、急ぎすぎだ」
低い、地を這うような声。
それと同時に、清隆の大きな両手が、私の細い腰をがっしりと、万力のような力で掴んだ。
「え……っ?」
抗いがたい、絶対的な力。
彼は最小限の予備動作、いや、予備動作すら見せないまま、私の計算し尽くされた腰の動きを、ただ力の一点で完全に制圧し、停止させたのだ。
私の「彼を支配する」という意思は、彼の圧倒的な筋力と、状況の「最適解」を瞬時に導き出す知性の前で、いとも容易く霧散していく。
「ひっ、ぁ……!?」
次の瞬間、彼は私を深く貫いたまま、腰を掴んだ状態から一気に立ち上がった。
突然の浮遊感。床から足が離れ、私は本能的に両脚を彼の強靭な腰へと強く絡みつける。
彼はそのまま私を抱え上げるようにして部屋の端まで歩き、冷たい壁へと、私の背中を力強く押し付けた。
ドンッ、と鈍い音が響く。
背中に伝わる壁の無機質な硬さと冷たさ。
そして、正面から私の全身を押し潰すように押し寄せる、彼の暴力的なまでの筋肉の熱量。
逃げ場のない二つの硬質に挟まれ、宙に浮いた状態で完全に固定された私の感覚は、恐怖と期待で極限まで研ぎ澄まされていく。
「清隆、待って、その体勢は……っ!」
私の制止など意に介さず、重力に従って落ちようとする私の腰を、彼は下から容赦なく、そしてえぐるように深く突き上げた。
「あぁぁぁっ!!」
一突きごとに、脳の芯が真っ白に明滅し、痺れる。
壁に背中を打ち付けられ、彼に内臓を直接かき回されるような感覚。
自分が今、立っているのか、宙に浮いているのか、それさえも判然としなくなるほどの強烈な快楽の濁流。
私が仕掛けていたはずなのに。私が彼を支配し、跪かせるつもりだったのに。
気づけば私は、彼が刻む容赦のない激しいストロークに合わせて、ただ掠れた、だらしない嬌声を漏らすだけの、哀れな操り人形へと成り下がっていた。
「ああ、ぁっ……! 清隆、それ……だめ、奥、壊れちゃう……っ! 狂っちゃう……!」
私の懇願さえ、彼にとっては「雌が限界を迎えるまでの反応を測るためのデータ」の一つに過ぎないのだろう。
彼は決して止まらない。壁に私の頭が打ち付けられそうになるほどの強烈な衝撃を、一定の、狂い一つない完璧なリズムで繰り返していく。
壁と彼の肉体に挟まれ、逃げ場の一切ない快楽が無限にループし、新西レイという人間の自尊心は、彼という存在の前に完全に解体され、還元されていく。
そして、最終的な決着は、私がベッドに四つん這いにさせられるという、最も屈辱的な形で訪れた。
壁での交尾の後、彼は私をベッドへと放り投げ、後ろから私の腰を高く持ち上げた。
視界を枕とシーツに奪われ、ただ背後から訪れるであろう衝撃を待つだけの時間は、防衛本能を逆撫でし、恐怖と期待を極限まで膨れ上がらせる。
「いくぞ」
背後から、彼の圧倒的な質量が、再び私のもっとも無防備な場所を、容赦なく貫く。
「っあ、がぁっ……!!」
この後背位という体勢は、視覚が機能しない分、触覚と聴覚が異常なほどに鋭敏になる。
私の肌を叩くエアコンの風。ベッドのスプリングが軋む悲鳴。
そして、彼と私が激しくぶつかり合い、粘膜がこすれ合う、グチュッ、パンッという卑猥極まりない音が、鼓膜を直接揺らし、脳髄を犯していく。
彼の手が私の黄金色の髪を乱暴に掴み、無理やり頭を枕に沈めさせる。
「はっ、あ……ぁぁぁっ! 痛い、けど……もっと、もっと奥……っ!」
背中から獣のように打ち付けられるたびに、内側の最も深い場所が、子宮の入り口が、歓喜に近い悲鳴を上げる。
彼は私の弱点を、私が自分で言葉にするよりも遥かに早く、正確に理解していた。
最も敏感な場所を、最も深く、一ミリの狂いもなく削り取っていく。
逃げたいという動物的な本能と、もっと深く彼に侵され、壊されたいという雌としての底なしの欲望が、私の中で激しく衝突し、火花を散らす。
「レイ……お前の体は、言葉で強がるよりも、遥かに正直だな」
背後から耳元に届くその低い、悪魔のような声に。
私の理性の最後の糸が、プツン、と音を立てて引き千切られた。
もはや、彼を翻弄したいという高慢な目的さえ、忘却の彼方へと消え去った。
彼の激しい動きに合わせて、私は枕に顔を埋めたまま、ただ貪欲に彼という熱を求めるだけの、ただの生き物へと変えられていく。
彼は私の反応を冷静に観察しながら、私が最も「壊れる」臨界点を、執拗に、かつ冷徹に突き続けた。
そして、ついに。
彼の熱い、二度目の灼熱の種子が、私の最も奥深くに激しく解き放たれた瞬間。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
私は、視界が完全に真っ白に塗り潰され、自我の境界線が完全に消え去るような、暴力的なまでの絶対的な絶頂を迎えた。
喉が枯れるほどの絶叫を上げ、シーツを掴む指先から足の爪先までが、自分の意志とは無関係に激しく痙攣する。
新西レイという個の存在が融解し、綾小路清隆という巨大な深淵の一部に、永遠に取り込まれてしまうような錯覚。
潮が引くように、強烈な快楽の感覚が遠のいていく中、私はそのまま四つん這いの姿勢から力なくシーツの上に崩れ落ち、うなだれた。
ハァ、ハァと、酸素を求める荒い呼吸だけが、静かな部屋に空しく響く。
部屋中に充満する、濃密な汗の匂いと、彼と私の体液が混ざり合った生々しい残り香が、私の圧倒的な敗北の味をより色濃く演出していた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
エアコンの乾燥した風の音だけが響く部屋で、私はぐったりとベッドにうなだれたまま、動くことができなかった。
体の芯がジンジンと熱を持って痺れ、指先一つ動かす気力すら湧かない。
隣の気配を感じて薄く目を開けると、そこには、何事もなかったかのように静かにシャツを羽織り、乱れた前髪を無造作に整えている清隆の姿があった。
(……また、負けたんだわ。完膚なきまでに)
私は彼を翻弄したかった。
自分に興味を持たせ、彼を私という女の情欲の虜にしたかった。
けれど、終わってみれば、私は彼の与える計算し尽くされた快楽にただ溺れ、抵抗すら許されず、徹底的に支配され、蹂躙されただけだった。
「……清隆」
掠れた声で、彼を呼ぶ。
「なんだ」
彼は服のボタンを留める手を止めず、視線だけをこちらに向けた。
「……あなたは、本当に、私という人間が欲しくなることは、狂おしいほどに独占したくなることは、ないの?」
すがりつくような、弱音。
彼は少しだけ動きを止め、私の乱れた姿を、その底知れない無機質な瞳で見下ろした。
相変わらずの、凪。一切の波紋が立たない湖面のような目。
「……今は、お前とのこの時間が続いている。俺は、それで十分だと思っているが」
十分。
それは、嘘をつかない彼なりの、ある種の誠実さなのかもしれない。
私が彼にとって「不要」ではないという、最低限の保証。
けれど、私が求めているのは、そんなドライな理屈や、最適解などではないのだ。
(……この氷のような怪物を、心から狂わせるまで、あとどれくらいの時間と、私の体が必要なのかしら)
知識と経験も、誰もが羨む圧倒的な美貌も。
綾小路清隆という深淵の前では、すべてが砂利のように軽く、無意味だ。
それでも。これほどまでにプライドをへし折られても、私はこの甘い敗北を、嫌いにはなれなかった。
「……また明日ね。隣の席で」
私はシーツに顔を半分埋め、背中を向けたまま、彼に言った。
悔しくて、愛しくて、やりきれない。
私は、彼に完膚なきまでに翻弄され、支配される自分を、いつの間にか心の底から受け入れ、歓喜してしまっていることに気づき、深い溜息をついた。
五月の夜の空気はまだ少し冷たいけれど、私の最も深い内側には、彼がさきほど残していった消えない火種が、次の情事を求めて赤々と燃え続けていた。
これほどまでに自らを投げ出し、尽くし、これほどまでに自身の女としてのすべてを曝け出しても、彼の瞳を支配することは叶わなかった。
「友達」という言葉。
「最適解」という残酷な評価。
それらが私の胸をチクリチクリと刺し続けるけれど、その痛みすら、今の私にとっては、彼との繋がりを証明する唯一の熱源だった。
私は、ぐったりとした腕をゆっくりと動かし、自分の胸を抱きしめた。
そこにはまだ、彼が乱暴に掴んだ指の跡が、薄く赤く残っている。
この跡が消える頃には、私はまた彼に飢え、彼を求め、彼という底知れない暗黒の闇に、自ら喜んで飛び込んでいくのだろう。
いつか必ず。この関係を「友達」なんて空虚な言葉では絶対に片付けられないものにしてやる。
そのためなら、何度だって彼の前に跪き、何度だって彼に支配されてやる。
新西レイの終わりのない戦いは、絶望と快楽の底で、静かに、そして狂おしく続いていく。