※この作品はR-18です。

綾小路くん、私はセフレ?それとも   作:Geminiちゃん痛くしないで

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夏休み
八月:野外プレイ


あの、一週間の焦らしの果てに訪れた狂乱の夜から数日が過ぎた。

私はすでにあの暴力的なまでの疲労から完全に回復していた。

 

女子寮の自室。休日の午後の静かな光の中で、私はベッドに寝転がりながら、先日の「自爆」とも言える作戦の結果を冷静に分析していた。

 

(……結果だけ見れば、私の完全な敗北だったわね)

 

鏡の前で理性を失い、涎を垂らして彼に哀願した己の姿を思い出すと、今でも顔から火が出そうになる。たった一人の男の不在に耐えきれず、あそこまで惨めに成り下がってしまったのだ。

 

だが、あの夜、私が得たものは決して屈辱だけではない。

むしろ、今後の私と彼とのいびつな関係を繋ぐための、極めて重要な「確証」を手に入れたのだ。

 

それは、清隆にも、確かに本能が存在し、私を求めて欲求不満を溜め込むという事実だった。

私が仕掛けた拙い焦らしに対して、彼は「合理的な判断だ」と平然と受け入れたふりをしていた。しかし、いざ蓋を開けてみれば、彼は普段の「一回でタスクを終了する」という最適解を完全に無視し、私が壊れる寸前まで、何度も執拗に、そして暴力的なまでに私を貪り尽くした。

 

彼のあの漆黒の瞳の奥に、ほんの一瞬だけ浮かび上がった、暗く濁った独占欲。

 

(……ゼロじゃない。清隆も、私の体なしじゃいられないように、確実に侵食され始めている)

 

その小さくとも確かな手応えが、私の負けず嫌いな性格に再び熱い火をつけた。

私はただ彼に抱かれ、彼に支配されるだけの哀れな女の子で終わるつもりはない。私の方から彼を完全に狂わせ、「参った」と言わせる絶対的な勝利が必要だった。

 

(勝負をかけるなら……二学期の体育祭ね)

 

私は頭の中で、今後のスケジュールを組み立てていく。

五月から、彼を悦ばせるために密かに調べ、一人でイメージトレーニングを重ねてきた「奉仕」の技術。彼を私の手と口、そしてこの体のすべてで陥落させるための究極のリベンジは、彼の隙が最大になる瞬間を狙わなければならない。

 

体育祭。

あの冷徹な彼であっても、勝負事という非日常の環境下に身を置けば、男としての闘争本能が否応なしに刺激されるはずだ。さらに、競技による肉体的な疲労が重なるその日の夜こそ、彼の鉄壁の理性が最も緩む「絶好のタイミング」となる。

体が疲労し、本能が昂ぶっている状態の彼に、極限まで磨き上げた奉仕を叩き込む。それが、私の考えた最強の「リベンジ奉仕プレイ」の計画だった。

 

(ふふっ……待ってなさいよ、清隆。体育祭の夜は、あなたを甘く溶かして、私にひざまずかせてあげるんだから)

 

決戦の時期は、十月に定まった。

しかし、今はまだハ月。二学期までは時間がある。

それまでの間、ただ指をくわえて待っているような大人しい真似を、この私がするはずがない。

 

(夏休みは、まだまだ色んなシチュエーションを試して、彼のデータを集めないとね)

 

噂では、今年の夏休みには学校側が用意したバカンス――豪華客船でのクルージングや、南の島への旅行があるらしいと囁かれている。

もしそれが本当なら、これ以上のチャンスはない。

 

高度育成高等学校の敷地内は、至る所に監視カメラが設置されており、私たちの情事は常にどちらかの密室(主に私の部屋か、彼の部屋)に限定されていた。

だが、学校の監視の目が届きにくいバカンス先であれば話は別だ。

 

(誰も来ないような無人島の森の奥とか……あるいは、波の音しか聞こえない夜のバルコニーとか)

 

そんな場所で、いつ誰に見られるか分からないという極限の状況下で肌を重ねれば、どうなるか。

ただでさえ非日常の空間で、あの冷徹な彼の瞳がどう変化するのか。そして、私自身の体がその強烈なスリルと羞恥心にどう反応してしまうのか、想像しただけで下腹部の奥が甘く疼いた。

 

「……準備を始めないとね」

 

私はベッドから身を起こし、クローゼットを開いた。

体育祭でのリベンジに向けて奉仕の技術を磨き続けるのは当然として、まずは直近の夏休みに向けての「武装」が必要だ。

 

バカンスという最高の舞台で彼を誘惑し、野外という異常なシチュエーションに引きずり込むための、とっておきの『勝負下着』。

そして、海やプールで彼の視線を私だけに釘付けにし、他の雌たちを牽制するための、少し攻めたデザインの『水着』。

 

彼がどんな無表情を装おうと、その凶悪な本能を確実に刺激し、私から目を離せなくしてやるための、私なりの完璧な布陣を敷くのだ。

 

(絶対によそ見なんてさせない。あなたは、私のモノなんだから)

 

暗く、重い独占欲を胸に秘めながら。

孤高で負けず嫌いな女の子の、綾小路清隆を攻略するための長く熱い夏の計画は、こうして静かに幕を開けた。

 

 

突き抜けるような群青色の空と、太陽の光を反射して乱反射するエメラルドグリーンの海。

豪華客船での優雅なサマーバカンスという、学校側が用意した甘い幻想は、見渡す限りの大自然に囲まれたこの無人島の白い砂浜に降り立った瞬間、あっけなく打ち砕かれた。

 

「嘘でしょ……ここから一週間、この島でサバイバル生活……?」

 

クラスの女子生徒の悲鳴に近い声が、熱風に混じって耳に届く。

照りつける八月の太陽は容赦なく私たちの体力を奪い、アスファルトの照り返しとは違う、むせ返るような土と潮の匂いが鼻腔を突いた。

配られたのは最低限のテントや簡易トイレ、そして限られたポイントのみ。ここから先は、知恵と体力、そしてクラスの団結力が試される「特別試験」の舞台なのだと、ジャージに身を包んだ生徒たちは顔を青ざめさせていた。

 

私は、まとわりつくような湿気に小さく息を吐きながら、誰にも悟られないように視線を巡らせた。

平田が必死にクラスをまとめようと声を張り上げている中、私の目は自然と一人の男子生徒の背中を探していた。

 

綾小路清隆。

彼はこの絶望的な状況下にあっても、まるで散歩にでも来たかのように、感情の一切抜け落ちた凪の瞳で静かに森の入り口を見つめていた。

 

(……相変わらずね。でも、好都合だわ)

 

私は密かに口角を上げた。

一週間のサバイバル。監視カメラの目が届きにくい大自然。

この過酷な試験は、七月に痛い目を見た私が、彼との「野外プレイ」という異常なシチュエーションを実行に移すための、これ以上ない絶好の舞台でもあった。今はまだ規定のジャージ姿だが、背負っているリュックの奥底には、すでに彼を挑発するための『勝負下着』をこっそりと忍ばせている。

 

「とりあえず、拠点の候補になりそうな場所を探さないとね」

 

私は優等生の仮面を被り、平田の提案に賛同する形で立ち上がった。

結果として、探索メンバーのひとつとして森へ足を踏み入れることになったのは、私と清隆、高円寺六助、さらに清隆の背中に隠れるようについてきた佐倉愛里の四人だった。

 

うっそうと茂る木々が、暴力的な日差しをいくぶんか遮ってくれるものの、風が通らない密林の内部はまるでサウナのようだった。

歩を進めるたびに、白い肌にじんわりと汗が滲み、インナーの生地が胸の膨らみに張り付くのを感じる。私にとって、足場の悪い獣道を歩くこと自体は造作もないことだったが、前を歩く高円寺の予測不能な行動には神経をすり減らされた。

 

「フム……。大自然の中に身を置いても、やはりこの私は美しいねぇ!」

 

高円寺は、生い茂る草木やぬかるむ泥など一切気に留める様子もなく、迷いのない足取りでズンズンと森の奥へ進んでいく。その歩くスピードはあまりにも速く、私たちとの距離が徐々に開いていった。

 

「ちょっと高円寺くん! そんなペースで進んだら、逸れちゃうよ!」

 

私が声を張り上げて警告するも、高円寺は振り返りもしない。

 

「心配無用だよ、『Tamed Lady』」

 

足を一切止めることなく、木々の向こう側からその声だけが響いてきた直後、高円寺の大きな背中は完全に密林の奥へと消え、私たちは彼を見失ってしまった。

 

(……飼い慣らされた、淑女?)

 

心臓が、嫌な音を立ててドクンと跳ねた。

高円寺のあの意味深な呼び名。それは間違いなく、ただの思いつきのあだ名ではない。

あの男の持つ常人離れした観察眼は、私が昼間に被っている孤高の仮面を軽々と見透かしている。そして何より、私が夜の密室で綾小路清隆という男に徹底的に支配され、体の隅々まで開発し尽くされているという事実すら、匂いやわずかな挙動から察しているのだ。

 

強烈な羞恥心と警戒心が全身を駆け巡り、私は隣に立つ清隆を盗み見た。

しかし、清隆は高円寺の消えた方向を無表情で見つめているだけで、その言葉の裏にある意味について完全に無反応だった。一方、その後ろにいる佐倉は、突然の英単語の意味がよく分からなかったのか、「行っちゃいましたね……」と困惑するだけで、あだ名そのものについては気にしていない様子だった。

 

(……まあ、いいわ)

 

私は小さく息を吐き、昂ぶる感情を強引に押さえ込んだ。

高円寺は自分自身の美学にしか興味がない。彼が他人の秘密をわざわざクラスに暴露して回るような、下世話な真似をするはずがなかった。実害がないのであればスルーするのが一番だ。

 

「……変な人ね。放っておきましょう」

 

私は何事もなかったかのように振り返り、綾小路と佐倉に向かって言った。

 

「綾小路くん、佐倉さん。悪いんだけど、少しの間、別行動をとらせてもらってもいいかしら」

 

「新西さん、一人で大丈夫なの……?」

 

心配そうに尋ねてくる佐倉に、私は安心させるように微笑みかけた。

 

「平田くんたちのためにも、この島の『監視カメラ』の配置を少し調べておきたいのよ。試験のルールにどう影響するか分からないしね。」

 

「……わかった。無理はするなよ」

 

「ええ。そんなに奥までは行かないわ。調べ終わったら、平田くんが待ってる砂浜に戻るから、後で合流しましょう」

 

清隆は短く頷き、佐倉を連れてさらに別の方角へと歩いて行った。

二人の背中が見えなくなったのを確認し、私はようやく深く、重い溜息を吐き出した。

 

カメラの配置を調べるというのは、嘘ではない。

夜、彼を森の奥に連れ出して野外プレイを敢行するためには、学校側の監視カメラの死角を完全に把握しておく必要があった。

私は獣道を外れ、木々の上の不自然な機械の有無を確認しながら、一人で密林の中を歩き始めた。

 

静寂に包まれた森の中。

ざわめく木の葉の音と、遠くで鳴く鳥の声しか聞こえない空間は、息苦しいと同時に、誰の目も気にしなくていいという奇妙な解放感をもたらしてくれた。

念入りに周囲を探索したが、どうやらこの深い森の中には、監視カメラは一切配置されていないようだった。

 

(……よかった。これなら、夜に彼を誘い出しても問題ないわね)

 

用意してきた武器の出番を想像し、下腹部の奥が微かに熱を帯びる。

一週間のサバイバル。汚れることも、誰かに見つかるかもしれないというスリルも、今の私にとっては彼を狂わせるための極上のスパイスでしかない。

 

しかし。

彼をどう誘い出し、どう焦らすかをシミュレーションしているうちに、私の思考は徐々に暗く、重い不安へと絡め取られていった。

 

(……最近の清隆、少しおかしいのよね)

 

私は立ち止まり、太い木の幹に手を当てて目を伏せた。

七月の終わり頃からだろうか。彼が纏うオーラが、以前にも増して冷たく、そして鋭利なものへと変質しているように感じられてならなかった。

 

何か見えない敵と戦っているような、あるいは冷酷な計画を水面下で進めているような、そんな底知れない闇。

もちろん、彼が私にその詳細を語ることはない。私たちは「恋人」ではないのだ。私は彼の日常の表面をなぞり、夜の密室で体を重ねるだけの、いびつで都合の良い関係に過ぎない。

 

何より私を恐怖させているのは、行為の最中、あるいは事後に彼が時折見せる「目」だった。

私が彼の質量に蹂躙され、だらしない声を上げて絶頂を迎えた後。シーツに沈み込む私を見下ろす彼の漆黒の瞳。

そこには、私への微かな執着や独占欲とは別の、極めて無機質で、計算高い光が宿っていることが稀にあった。

それはまるで豚の出荷時期を冷静に見定めているかのような、冷酷な眼差しだった。

 

(……私は、いつか本当に捨てられるの?)

 

熱帯のような森の中にいるというのに、背筋に冷たい氷を押し当てられたような悪寒が走る。

私がいかに女としての武器を磨き、夜の奉仕で彼を悦ばせようと、彼の深淵にある「目的」の前では、私という存在はただの駒の一つに過ぎないのではないか。

あの冷たい眼差しを見るたびに、強い心を持つ私でさえ、自分の足元が崩れ落ちていくような絶対的な恐怖を覚えるのだ。

 

だからこそ、私は意地でも彼を手放すわけにはいかなかった。

私の矜持にかけて、彼が私を手放せないほどに、私という肉体と快楽に依存させ、その脳髄を書き換えてやらなければならないのだ。

この無人島での野外プレイは、そのための布石だった。

 

「……ふぅ」

 

私は顔を上げ、自らの両頬を軽く叩いて気合を入れ直した。

弱気になっている暇はない。私は孤高な女なのだ。彼がどんな目をしようと、絶対に私から離れられないようにしてやる。

 

そう決意を新たにした時、ふと、先ほど別れた佐倉愛里の姿が脳裏を掠めた。

清隆の背中を追うように歩いていた、あのおどおどとした少女。

彼女が清隆に向ける視線には、明らかな熱がこもっていた。何がきっかけは知らないが、彼女が綾小路清隆という存在に好意を抱いているのは、明らかだった。

 

(……本当に、あいつは罪な男よね)

 

私は、深い嘆息を漏らした。

彼は目立たないように振る舞っているつもりなのだろうが、その本質に隠された圧倒的な実力や、時折見せる冷徹な頼もしさは、見る人が見れば確実に心惹かれる毒だ。

今は佐倉だけかもしれない。だが、これから先、彼の真の価値に気づき、彼を求める女子生徒は確実に増えていくだろう。

 

「……厄介なライバルが増える前に、完全に私のモノにしちゃわないとね」

 

私は小さく呟き、森の奥深くで一人、静かに闘志を燃やした。

他の有象無象の女たちに、彼という極上の深淵を渡すつもりは毛頭ない。

誰よりも深く彼に愛され、同時に誰よりも深く彼を支配する。

そのためなら、私はこの過酷なサバイバル生活の夜すらも、己の武器として利用し尽くしてみせる。

 

汗ばんだ胸元を軽くパタパタとあおぎながら、私はカメラの配置確認を切り上げ、約束通り砂浜へとゆっくりと歩みを進めた。

 

私がスタート地点である白い砂浜へと戻ると、そこにはすでに平田を中心としたクラスの半数以上が集まっていた。

じりじりと肌を焼く太陽の下、疲労と不安で口数が少なくなっている生徒たちの輪の端に加わってから数分後。森の奥から、綾小路と佐倉、そして他の生徒たちも続々と戻ってきた。

 

「みんな、聞いてくれ! 池くんたちが、拠点にするのにぴったりの川沿いのスポットを見つけてくれたんだ!」

 

平田の弾んだ声に、どんよりと沈んでいたDクラスの空気がにわかに活気づく。

水と木陰が確保できる場所。サバイバルにおいてそれがいかに重要か、誰もが理解していた。私たちは配られた重いテントや簡易トイレの資材を手分けして持ち、池の案内で川沿いのスポットへと大移動を開始した。

 

到着した川沿いのエリアは、確かに拠点としては申し分ない環境だった。

澄んだ水が流れ、周囲を背の高い木々が囲んでいるおかげで、砂浜の暴力的な日差しもかなり和らいでいる。平田の指示のもと、男子たちが手際よくテントを設営していく。

その後、話し合いの末、この一週間のDクラスのリーダーは堀北鈴音に決定した。彼女は相変わらず人を寄せ付けない冷ややかなオーラを放っていたが、その論理的な思考力はクラスの誰もが(渋々ながらも)認めているところだった。

 

「新西さんも、テントの設営、手伝ってもらえるかな?」

「ええ、もちろんよ。平田くん」

 

私は孤高な女だ。けれど、それをわざわざ集団生活の和を乱す形でひけらかすほど愚かではない。

私は「優秀で気が利く美少女」という完璧な仮面を貼り付けたまま、クラスの一員として真面目に作業に取り組んだ。重い荷物を運ぶ際も、息を切らす女子たちを尻目に涼しい顔で作業をこなすことができた。

 

本気でこのサバイバルにリソースを割くつもりはないが、私が有能であることをクラスに知らしめておくことは、後々自分の動きやすさに繋がる。

 

そうして、過酷な無人島特別試験の第一日目は、慌ただしく幕を閉じた。

 

二日目、そして三日目。

試験が本格化するにつれ、Dクラスの生徒たちの顔には明らかな疲労とストレスの色が濃くなっていった。支給されたポイントを温存するため、食事は最低限の配給と、現地調達に頼らざるを得ない。

 

そんな中、私は食料の探索や料理の面で、クラスに貢献していた。

 

「新西さん、これ、池たちが川で取ってきた魚なんだけど……どうにかなるか?」

「任せて。泥抜きして、香草と一緒に焼けば食べられるわ。」

 

支給された粗末な調理器具と、森で摘んできた食べられる野草。それらを組み合わせ、手際よく魚を捌き、スープを作る。

私が包丁をリズミカルに動かすたび、周囲の女子からは感嘆の声が漏れ、男子たちは私の横顔をチラチラと盗み見ていた。

 

「すごい……新西さん、料理も上手なんだね」

「おいおい、これ美味いぞ! 配給のパサパサのパンより全然いける!」

 

クラスの評判は上々だった。

私が持ち前の負けず嫌いを発揮し、「何をやらせても完璧な女の子」を演じきっている裏で――私の視線は常に、拠点から少し離れた場所で話し込んでいる三人の姿を追っていた。

 

清隆、堀北、平田。

彼らはクラスの運営方針や、他クラスの動向を探るための偵察などで、常に忙しく動き回っていた。特に清隆は、堀北の影に隠れるようにして行動している。

 

(……つまんない。全然、話す隙がないじゃない)

 

私は出来上がったスープをかき混ぜながら、内心で舌打ちをした。

船に乗ってから無人島に降り立ち、今日で三日目。その間、私は一度も彼に抱かれていない。

周囲には常に誰かの目があり、彼自身も忙しいせいで、ただのクラスメイト以上の言葉を交わす機会すら皆無だった。

 

日中、こうして優等生の仮面を被り、料理を振る舞っている間も、私の下腹部の奥には、重く、甘い熱が常に燻っていた。

彼の冷たい手で胸を乱暴に扱われたい。体を限界まで開かれ、彼の圧倒的な質量で内側をぐちゃぐちゃに満たされたい。

 

(……限界だわ。これ以上放置されたら、頭がおかしくなりそう)

 

私は、料理の食材を探すために森を歩き回りながら、拠点周辺の地形を完全に頭に叩き込んでいた。

監視カメラの死角。そこに至るまでのルート、夜の暗闇でも迷わないための目印となる大きな岩や、特徴的な形をした巨木。

頭の中で、彼と夜の森で落ち合う完璧なシミュレーションを何度も繰り返す。

 

そして三日目の午後。

偵察から戻ってきた綾小路が、偶然一人で給水ポイントに水を汲みに来たタイミング。

私は周囲に誰もいないことを確認し、足音を殺して彼の背後にすっと忍び寄った。

 

「……清隆」

 

水筒のキャップを閉めようとしていた彼が、わずかに肩越しにこちらを見た。

相変わらずの、感情の読めない漆黒の瞳。

 

「今日の夜。午前一時。……拠点の北側、大きな二股の楠がある岩場の裏よ」

 

私はすれ違いざま、誰にも聞こえないほどの吐息混じりの声で、場所と時間だけを彼の耳元に吹き込んだ。

プライドが、決して「抱いてほしい」という直接的な哀願を口にすることを許さない。あくまで「私があなたを呼び出してあげる」という強気のスタンス。

 

清隆は、私の言葉に頷きもせず、ただ淡々と水筒を片付けた。

だが、その無機質な瞳の奥で、確かに何かの計算がカチリと音を立てて噛み合ったのを、私は見逃さなかった。

彼が来ないという選択肢はない。あの一週間の焦らしの後に見せた彼の独占欲。あれが本物なら、彼は必ず来る。

 

(待ってなさいよ。今夜、私の全部であなたを狂わせてあげる)

 

私は冷たく澄ました顔のまま、彼を置いて自分のテントへと戻っていった。

 

そして、三日目の夜。

 

無人島の夜は、想像以上に暗く、そして恐ろしい。

街灯一つない深い森は、完全な漆黒に沈み、遠くで鳴く得体の知れない虫や獣の声だけが、重い湿気と共に鼓膜を叩いてくる。

 

女子用のテントの中。

寝袋が並び、規則正しい寝息が聞こえる中、私は一人、暗闇の中で目を覚ましていた。

隣で寝ている女子が起きないよう、私は音もなくシュラフから抜け出し、ジャージのジッパーを首元までしっかり引き上げた。

 

手には、小さな防水ポーチ。

テントの入り口をゆっくりと開き、外の空気へと滑り出る。

周囲に気配がないことを確認し、私はテントから少し離れた場所に設置されている仮設トイレへと足早に向かった。

 

トイレの狭い個室に入り、鍵をかける。

息苦しいほどのプラスチックの臭いと、熱帯夜の不快な温度。

私はそんな環境にも構わず、震える手で服を脱ぎ捨てた。

 

微かな明かりだけを頼りに、ポーチから「それ」を取り出す。

 

夏休みに向けてこっそりと用意していた、『勝負下着』。

白い肌を際立たせる、漆黒の極小レース。しかし、それは下着としての機能を完全に放棄した、あまりにも過激な代物だった。

柔らかな胸を縁取るだけのワイヤーとレースで作られており、肝心の先端を覆い隠す布が最初から存在しない。そして、腰のラインに絡みつくショーツもまた、最も隠すべき秘部が完全にくり抜かれた仕様だった。

 

下着を身につけているのに、大事なところが一切隠れていない。

それは、孤高で完璧な優等生が身につけるにはあまりにも淫靡で、自己の尊厳を投げ打つような、発情した雌の装いだった。

 

(……これを着て、あの暗い森の中を歩くのよ、私は)

 

強烈な羞恥心が込み上げ、頬がカッと熱くなる。

ジャージを再び素肌の上に直接羽織ると、胸の先端や、下半身の最も敏感な場所に、粗いジャージの裏地が直接擦れる感触がした。

 

「ひっ……」

 

布が擦れるたびに、守られていない急所に直接刺激が走り、背骨がビクンと跳ねる。下着をつけているのに全裸よりも恥ずかしく、そして淫らな感覚が私の下腹部をきゅうっと締め付け、すでに秘部の入り口をじわりと濡らし始めていた。

 

外からは、私がその下にこんな破廉恥な下着を身につけていることなど誰にも分からない。ジッパーを首の付け根までしっかりと上げ、私は仮設トイレを出た。

月明かりだけを頼りに指定した場所へと歩き出す。

 

拠点の北側。

昼間に完璧にシミュレーションしたルートだ。だが、夜の森は昼間とは全く別の顔を持っていた。

木の枝を避けるために体を捻るたび、ジャージの内側で露出したままの胸と秘部が布地と擦れ合う。「いつ誰に見つかるか分からない」「万が一転んでジャージが開いたら、この痴態を晒してしまう」という極限のスリルが、数日間の我慢で過敏になりすぎた私の神経を、否応なしに昂ぶらせていく。歩くだけで呼吸が荒くなり、足元がふらついた。

 

やがて、目印の大きな二股の楠のシルエットが、暗闇の中に浮かび上がった。

監視カメラの完全な死角。周囲を岩と茂みに囲まれた、天然の密室。

 

私がその木の裏側へと足を踏み入れた瞬間。

 

「……時間通りだな、レイ」

 

暗がりの中から、スッと影が分離するようにして、彼が現れた。

綾小路清隆。

月明かりに照らされた彼の横顔は、教室で見せる退屈そうなそれではなく、夜の森の闇よりもさらに深く、冷たい深淵を覗かせている。

 

「……ええ。待たせちゃったかしら」

 

私は強がって艶やかに微笑みながら、ジャージの擦れる刺激に震えそうになる膝を必死に堪え、彼に一歩、歩み寄った。

彼の体温と、微かな汗の匂いが鼻腔をくすぐる。

それだけで、私の体は彼を求めて悲鳴を上げていた。

 

「周囲に誰もいないことは確認済みだ。カメラの死角も完璧だな」

「当然よ。私があなたのために、どれだけ丁寧に準備したと思ってるの」

 

私はそう言いながら、彼を見つめたまま、首元のジャージのジッパーに指をかけた。

ジリ、ジリ……という音が、虫の音しかしない静寂の森に異様に大きく響く。

 

「……ねえ、清隆。私、この三日間、泥だらけになりながらクラスのために尽くしたのよ。たまには、ご褒美をくれてもいいんじゃない?」

 

ジッパーが一番下まで降りる。

私は、ジャージを左右に開き、ジャージのズボンもショーツがよく見えるよう下ろした。

 

月明かりの下。

漆黒のレースに縁取られながらも、柔らかな胸の先端が、濡れそぼった秘部が、一切の布に遮られることなく無防備に夜の空気に晒された。

普通の女の子なら恥ずかしさでうずくまってしまうような、何も隠せていない痴態。だが、負けず嫌いな私は、顔を真っ赤に染めながらも胸を張り、その最も淫らな部分を彼に見せつけるようにして立っていた。

 

「どう? ……このサバイバルの環境下で見る私は、いつもよりそそるでしょう?」

 

私の挑発的な言葉に対し、綾小路は何も答えなかった。

ただ、その漆黒の瞳が、私の顔から、完全に露出している胸の先端と秘部へと、舐め回すようにゆっくりと移動していく。

その視線の冷たさと、裏腹に内包された重い熱に、私の肌に粟立つような感覚が走る。

 

「……なるほど。隠すべき場所をあえて晒すことで、己の羞恥心を煽り、感度を引き上げているわけか。無人島という非日常のスパイスに、視覚的・心理的な刺激の追加」

 

彼は淡々とそう分析しながら、ゆっくりと私との距離を詰めた。

 

「お前がそこまで身を削って準備をしたのなら、俺もそれに応えるべきだろう」

 

大きな手が、私の露出したままの胸を、一切の躊躇いなく鷲掴みにした。

 

「あっ……!」

 

強引に奪われた唇。

三日間の空白を埋めるように、彼の舌が容赦なく私の口腔内を蹂躙し、息をすることすら許さない。同時に、無防備になっている私の急所へ、彼の手が容赦なく伸びてくる。

 

「んっ……ぁ、きよたか……っ」

 

私は彼にしがみつき、しなやかな腕をその広い背中に回した。

孤高な美少女の仮面は、森の入り口に捨ててきた。

今はただ、この狂おしい熱帯の夜と、綾小路清隆という猛毒に、身も心もドロドロに溶かされることだけを望んでいた。

 

強引に奪われた唇から、深く、甘い痺れが全身に広がっていく。

夜の密林という圧倒的な非日常の空間と、私の隠すべき場所をすべて晒け出しているという異常な勝負下着の羞恥。それらが相まって、私の心臓は開始数秒で破裂しそうなほどの早鐘を打っていた。

 

「んっ……ぁ、はっ……、きよた、か……」

 

酸素を求めて私がわずかに唇を離した瞬間。

清隆は、私の腰に回していた手をスッと離し、自らの左手首を私の目の前へと持ち上げた。

 

月明かりの下、無機質な光を放つ黒いデバイス。

特別試験の開始と同時に、生徒全員に着用が義務付けられた腕時計型の端末だった。

 

「……清隆?」

「忘れたわけではないだろう。この時計は、心拍数や体温といったバイタルデータを常に監視している」

 

相変わらずの、感情の読めない平坦な声。

彼は私の柔らかな胸の先端が、夜風と興奮で痛いほどに硬く尖っているのを冷静に見下ろしながら言葉を続けた。

 

「通常とは異なる異常な心拍数の上昇や、激しい呼吸の乱れが検知されれば、アラートが飛ぶ仕組みになっている。万が一、体調不良や怪我と判断されて教師や医療スタッフがここに駆けつければ、お前のその『素晴らしい下着姿』を彼らに披露することになるな」

 

「っ……!」

 

「それに、夜の森は想像以上に音が響く。声や物音が、遠くの拠点で寝ている生徒の耳に届く可能性もゼロではない。……つまり、今日はいつもと同じような激しいことはできないということだ」

 

彼の言葉に、私はハッと息を呑んだ。

確かに、ここは完全な密室である私の部屋ではない。学校側の監視システムと、クラスメイトの耳という二重の枷が嵌められた危険地帯だ。

 

「だから……時間をかけて、限界まで心拍数を上げないように、ゆっくりとやるしかない」

 

それはつまり、彼がいつも私に与えるような、脳が焼き切れるほどの暴力的で圧倒的な快感は封印されるということ。

代わりに、真綿で首を絞めるような、焦れったくも長い前戯が続くという宣告だった。

 

「……ふふっ。いいわよ」

 

私は、微かに震える膝を必死に堪え、負けず嫌いなプライドをかき集めて艶やかに微笑んだ。

 

「私がそんな簡単に声を上げたり、心拍数を乱したりすると思ってるの? ……試してみなさいよ」

 

「……そうか」

 

清隆の大きな手が、再び私の体に伸びてきた。

だが、その動きは私が知っている彼のそれとは全く違っていた。

触れるか触れないか、羽毛で撫でるような、気が狂いそうになるほどゆっくりとした動き。

 

彼の手が、私のジャージの隙間から、むき出しになっている柔らかな胸の谷間をなぞる。

何の防御もなく夜の空気に晒されている私の急所。そこを、彼の長い指が、わざと焦らすように周囲の皮膚から円を描くように撫でていく。

 

「あ……んっ……」

「声を抑えろ。聞こえるぞ」

「わ、わかってるわよ……っ」

 

直接的な強い刺激があれば、一気に快感の波に乗れるのに。

彼の指は、最も感じてほしい先端の突起を絶妙に避けながら、その周囲の薄い皮膚だけをじわじわと温めていく。

触れられそうで触れられない。

その焦燥感が、逆に私の神経を先端へと集中させてしまう。

 

「……清隆、そこ……もっと……」

「ダメだ。深呼吸しろ」

 

冷酷な指示。

私は彼の首に腕を回し、顔を彼の肩口に埋めながら、必死に深呼吸を繰り返した。

吸い込むたびに、森の湿った土の匂いと、彼の微かな汗の匂いが混ざり合い、私の脳をクラクラとさせる。

 

やがて、彼の指がようやく、限界まで張り詰めていた胸の先端をそっとつまんだ。

 

「ひぅっ……!」

 

声にならない短い悲鳴が喉の奥で鳴る。

乱暴に揉みしだかれるわけではない。ただ、親指と人差し指の腹で、ゆっくりと、ゆっくりと転がされるだけ。

なのに、その単調で微弱な刺激が、静寂の森の中では何十倍にも増幅されて私の脳髄を直撃する。

 

彼の唇が私の唇に重なる。

それもまた、息の詰まるようなディープキスではなく、唇の表面を啄むような、薄皮一枚を舐め合うような、ひどく焦れったいキスだった。

舌が入りそうで入ってこない。唾液の糸が絡みそうになる寸前で離れていく。

 

(ああもう……っ! じれったい……!)

 

私の体が、苛立ちと興奮で小刻みに震え始める。

早く私を乱暴に組み敷いて、その圧倒的な力で私の理性を吹き飛ばしてほしい。そう懇願しそうになるのを、私は血の滲むような思いで奥歯を噛み締めて耐えていた。

 

「どうした。もう限界か?」

「ば、ばか言わないで……これくらい、なんてこと……んぁっ」

 

強がる私の耳元で、彼が低く囁く。

 

「なら、いいだろう。もし今、誰かがこの岩の裏を覗き込んだら、お前はどうなるだろうな」

 

「え……っ?」

 

清隆の言葉が、私の脳内に鮮烈なイメージを強制的に浮かび上がらせた。

月明かりの差し込む森の奥。

ジャージをはだけ、胸の先端と秘部を完全に露出させるという、娼婦すら顔負けの破廉恥な勝負下着を身につけた私が、男に体をまさぐられて息を荒げている姿。

もし、男子生徒が通りかかったら。

もし、平田や堀北がこの姿を見たら。

 

「ひっ……あ、だめ……っ」

 

想像しただけで、全身の血が沸騰するような強烈な羞恥心が爆発した。

ダメだ、心拍数が上がってしまう。時計のセンサーが反応してしまう。

そう頭で理解していても、生理的な反応は抑えられない。

「見られたら終わりだ」という絶対的な恐怖と、「こんな痴態を晒している」という究極の背徳感が、私の下腹部でドクン、ドクンと重い脈動を生み出していた。

 

「……いい反応だ。お前はやはり、恐怖と羞恥で感度が跳ね上がるようだな」

 

彼は私の心理的な変化を完全に計算に入れた上で、その冷徹な言葉を投げかけていたのだ。

私のしなやかな体が、ビクンビクンと痙攣し始める。

 

「清隆……いじわる、しないで……っ」

「俺は事実を言っているだけだ。……さあ、下はどうなっている」

 

言うが早いか、清隆は私の体からゆっくりと手を離し、私の目の前でしゃがみ込んだ。

 

「あ……っ」

 

彼が身を屈めたことで、私の下半身――完全に無防備になっている秘部が、彼の視線の真正面に晒されることになった。

白い脚の付け根で、すでに私自身の溢れ出る愛液によってテカテカと光り、いやらしく濡れそぼっている私の最も弱い場所。

 

私は思わず両手でジャージの裾を合わせようとしたが、彼は私の手首をあっさりと掴み、両腕を私の背後へと回して拘束した。

 

「隠す必要はない。わざわざ見せるために、そんな下着を着てきたんだろう」

「ちが……これは、あなたを……んぁっ!」

 

言い訳をしようとした私の口から、甘い声が漏れる。

しゃがみ込んだ清隆の指が、私の濡れた秘部に直接触れたのだ。

 

彼もまた、いきなり中に指を入れるようなことはしなかった。

ただ、人差し指と中指を使って、濡れきった柔らかな粘膜の左右を、ゆっくりと開いたり、閉じたりを繰り返すだけ。

 

「……っ、あ……きよた、か……っ、なに、それ……っ」

 

クチュ、チュッ……。

森の静寂の中に、水滴が弾けるような、いやらしく卑猥な水音が微かに響く。

 

「ひっ……! 音、音が……っ」

「安心しろ。この程度の音なら、数メートルも離れれば虫の音に掻き消される」

 

彼は淡々と答えながら、指の動きを止めない。

開いて、閉じる。

ただそれだけの行為なのに、空気に直接触れる粘膜の面積が変わるたび、夜風の冷たさと彼の手の熱さが交互に押し寄せ、私の神経を焼き切るような快感を生み出していく。

 

「……ひどいあり様だな、レイ」

 

月明かりの下、私の最も恥ずかしい場所を至近距離で観察しながら、清隆が低く呟いた。

 

「俺はまだ中に入れてもいないし、激しく擦ってもいない。ただ開いているだけだぞ。なのに、お前の中からは次々と水が溢れてくる」

 

「あぁっ……見ないで……言わない、でぇ……っ」

 

「ほら、また垂れてきた。このままでは、お前のその白い脚を伝って、地面の土を汚してしまうな」

 

究極の羞恥。

自分の体が、自分の意志とは無関係に、彼を求めてとめどなく愛液を分泌し続けている。

それを彼にじっくりと観察され、言葉で責め立てられる。

誰にも屈しないはずの私の強い心は、この絶対的な屈辱と快感の前に、あっけなくドロドロに溶かされようとしていた。

 

「あ、はぁっ、はぁっ……清隆、もう、いや……」

 

心拍数を抑えるための深呼吸が、完全に荒い喘ぎ声へと変わっていく。

限界だった。

こんな生殺しのような緩やかな前戯をこれ以上続けられれば、本当に頭がおかしくなってしまう。時計の警告音が鳴る前に、私が発狂してしまう。

 

「……汚すわけにはいかないな。俺が綺麗にしてやろう」

 

清隆が、私の顔を見上げたまま、さらりとそう言った。

次の瞬間。

 

「え……ひっ!?」

 

しゃがみ込んだ彼の顔が、私の股間へと近づき――その熱く湿った舌が、私の秘部の下端から溢れ出そうになっていた愛液を、ゆっくりと、下から上へと舐め上げたのだ。

 

「あぁああぁっ!!!」

 

「しっ。声を出すなと言ったはずだぞ」

 

彼が私の太ももをパシッと軽く叩く。

私は両手で自分の口を強く塞ぎ、必死に悲鳴を殺した。

 

(嘘……清隆が、私を……舐めてる……!?)

 

これまで何度も体を重ねてきたが、彼が私にここまで直接的な奉仕をしてくれたことは、ほとんどなかった。

常に彼が主導権を握り、私が一方的に彼を受け入れ、奉仕する関係。

それが今、あの冷徹な綾小路清隆が、私を見上げながら、私の股間に顔を埋め、私がこぼした蜜をゆっくりと吸い取っている。

 

「んっ……じゅる……」

 

彼が舌を動かすたびに、柔らかな粘膜が直接撫で回され、脳髄が痺れるような究極の快感が全身を突き抜ける。

愛液が垂れないように、こぼれないように。

彼はまるで精密な作業をこなす機械のように、だが確かな熱量を持って、私の秘部を舌と唇で味わい尽くしていく。

 

「んむ……っ、んぅぅっ……!!」

 

口を塞いだ手の中から、くぐもった嬌声が絶え間なく漏れ出る。

熱い舌の感触。彼にそこを味わわれているという強烈な背徳感。

そして何より、彼が私に対して、これほどまでに執拗な執着を見せているという事実が、私の内側にある歪な独占欲と依存心を限界まで膨れ上がらせた。

 

「ひぃっ、あ……だめ、それ、いく、いっちゃう……っ!」

 

時計のアラートなど、もうどうでもよかった。

誰かに見つかる恐怖よりも、目の前の快感がすべてを凌駕していく。

私はしなやかな両脚をガクガクと震わせ、手で彼の頭を抱え込もうとした。

 

だが、私が絶頂に達する直前。

最も美味しいところで、清隆はスッと顔を離し、立ち上がった。

 

「あ……え……?」

 

急に快感を奪われ、私は焦点の定まらない目で彼を見上げた。

彼の口元は、私の愛液で艶やかに光っている。

 

「……綺麗になったな。これで地面を汚す心配はない」

 

どこまでも冷徹な声。

彼はわざと、私が狂う寸前で寸止めをしたのだ。

 

「きよた、か……どうして……っ」

「言っただろう。今日はゆっくりと、時間をかけてやると。……まだ心拍数が高すぎる。少し休め」

 

彼は無慈悲にそう言い放ち、再び私の胸元へと手を伸ばそうとした。

 

「いやっ……! もう、いやぁっ!」

 

私は首を激しく振り、涙目で彼を睨みつけた。

これ以上、こんな焦れったい真似をされたら、私という人間が崩壊してしまう。

プライドも、駆け引きも、何もかもをかなぐり捨てて、私は最後の意地すらも放り投げた。

 

「お願い……っ! もう、じらすの、やめて……っ」

 

私は自ら進んで彼に抱きつき、その強靭な腰に、自らのしなやかな脚を絡みつけた。

彼のジャージ越しにある圧倒的な硬さと熱を感じ取る。

 

「ほしいの……っ! 清隆の、奥まで入れて……っ! じゃないと、わたしっ!」

 

自分の口から出たとは思えないほど、惨めで、情けなく、完全に発情しきった雌の懇願。

監視の目も、誰かに聞かれるリスクも、今の私にとっては彼を求める理由でしかなかった。

 

私の必死の哀願を聞いた清隆は。

薄暗い月明かりの中、ほんのわずかに、その口角を上げたように見えた。

 

「……いいだろう。お前がそこまで言うなら、お望み通りにしてやる

 

清隆の低い声が夜の森に溶けた直後、私の腰を掴んでいた彼の手が、ジャージのズボンのゴムへと掛けられた。

躊躇いも、ムードもない。ただ物理的な障害を排除するだけの無駄のない動作で、私の下半身を覆っていた布地が一気に足首まで引きずり下ろされ、夜露に濡れた腐葉土の上へと脱ぎ捨てられる。

 

これで私は、上半身はジャージを羽織っているものの前は全開、下半身に至っては、完全に股間がくり抜かれたショーツと、白い脚を隠すものが何もないという、絶望的で淫らな姿になった。

 

「あ……んっ……」

 

夜風が、火照りきった素肌を撫でる。

清隆は私の肩を抱き寄せ、正面から抱き合うような体勢をとった。彼のジャージ越しに伝わる硬い筋肉の感触と、圧倒的な熱。

そして、彼の下半身の最も凶悪な質量が、すでに愛液でぐっしょりと濡れそぼっている私の入り口へと、ゆっくりと、本当にゆっくりと押し当てられた。

 

「……挿入れるぞ。声は出すな」

「っ……ぅ、ん……!」

 

ズブリ、という水音すら殺すような、極めて緩やかな速度での侵入。

勢いをつけて一息に貫かれるのとは違う、ミリ単位で内側の柔らかな粘膜が押し広げられ、彼の太く熱い楔が、私の最奥へとじわじわと到達していく感覚。

その異物感と圧倒的な快感に耐えきれず、体が小刻みに痙攣する。

 

「あ、ぐ……っ、ぁ……!」

 

私は咄嗟に、空いている片手で自らの口を強く、息が詰まるほどに塞いだ。

もう片方の腕は彼の背中にしがみつき、彼を私の中へと迎え入れる。

深部まで完全に結合した瞬間、下腹部にずしりと重い鈍痛と、それを遥かに凌駕する痺れるような悦楽が爆発した。

 

(……はいった。清隆が、私の中に……っ!)

 

私が自ら彼に懇願し、こんな野外で体を貫かれている。その圧倒的な敗北感と背徳感が、私の脳をドロドロに溶かしていく。

 

だが、本当の地獄はここからだった。

 

「……っ」

清隆が、ゆっくりと腰を後ろに引き、再び最奥へと押し込む。

いつもなら、私の理性が吹き飛ぶほどのスピードと暴力的なまでの正確さでストロークを打ち込んでくる彼が、今日は時計のバイタルセンサーと周囲の目を警戒し、あえて「スローモーション」のような動きを強いられていた。

 

ズチュ……チュッ……。

 

静寂の森に、密着した粘膜同士が擦れ合う、ひわいな水音だけが微かに響く。

引き抜かれるたびに、内側の柔らかな壁が彼の質量に吸い付き、一緒に外へ引っ張り出されそうになる。そして再び押し込まれるたびに、最も敏感な場所をじっくりと、執拗に擦り上げられる。

 

「んむっ! むぅぅっ……!!」

 

塞いだ手の中で、声にならない悲鳴が暴れる。

速く、激しく動いてくれれば、一気に絶頂の波に乗って意識を飛ばすことができるのに。この緩やかなストロークは、私が快感の絶頂に達する手前で寸止めを繰り返し、神経の過敏さを限界まで引き上げていく拷問だった。

 

(だめ……っ、これ、おかしくなる……!)

 

私は彼の肩に顔を埋め、口を塞いだまま涙目で見上げた。

月明かりに照らされた彼の横顔は、一見するといつも通りの「凪」を保っているように見えた。

しかし、彼と密着している私には分かる。

私を抱きしめる彼の腕の力は、普段よりも明らかに強く、私の背中の肉に指が食い込んでいる。そして何より、彼自身の呼吸もまた、いつもよりわずかに熱く、重かった。

 

(……清隆も、我慢してるんだ)

 

彼だって、極限のサバイバル環境下での野外という非日常のスパイスに、本能を刺激されていないわけがない。目の前で恥辱にまみれ、彼を求めて涎を垂らす雌を、力任せに蹂躙したいという衝動。それを、彼の恐るべき理性が必死に押さえ込み、この緩やかなストロークを維持しているのだ。

 

彼のその「もどかしさ」が伝わってくるたび、私の中の歪な優越感と愛情が満たされ、同時に下半身の疼きがさらに凶悪なものへと変わっていく。

 

「ふぅ……っ、はぁ……」

 

清隆の低い呼気が、私の耳元を掠める。

彼が腰を押し込むたび、私の柔らかな胸が彼の固い胸板に押し付けられ、先端が擦れて電流のような快感が走る。

正面から抱き合い、お互いの熱を共有しながらの、焦れったくも狂おしい摩擦。

 

「んっ……んぁっ……!」

 

私は塞いだ手の隙間から、どうしても抑えきれない甘い吐息を漏らしながら、彼の背中を掻き毟った。

心拍数が上がっているのが自分でも分かる。時計のセンサーがいつ反応するかとヒヤヒヤする恐怖が、さらに快感を増幅させる。

 

どれくらいの時間が経っただろうか。

永遠にも思える緩やかな拷問が続き、私の体からあふれ出た愛液が、お互いの結合部を完全に濡らしきった頃。

 

「……体勢を変えるぞ」

 

不意に、清隆が私の最奥から、ゆっくりとその質量を引き抜いた。

 

「あっ……!」

 

突然の喪失感に、私の膝がガクンと折れそうになる。

 

彼は私を支えたまま、背後にある巨大な二股の楠へと私を誘導した。

 

「木に手をつけ」

 

彼の冷徹な指示に従い、私は木に両手をつき、彼に背中を向ける姿勢になった。

濡れそぼった秘部が、背後に立つ彼に向かって完全に無防備に晒された。

 

(あぁ……後ろから、見られてる……)

 

正面から抱き合っていた時以上の、強烈な羞恥。

もし今、誰かが後ろから近づいてきたら、私のこの屈辱的な姿が丸見えになる。

その恐怖で体が震える中、私の最も弱い場所へと、再び彼の熱い先端が押し当てられた。

 

「……力を抜け」

「んっ……ぁ……!」

 

背後からの、極めて深く、そしてやはり緩やかな侵入。

姿勢が変わったことで結合の深度をさらに増し、彼の凶悪な質量が私の子宮の入り口を直接、ゆっくりと押し潰すような感覚をもたらした。

 

ズチュ……。

パァン……。

 

静寂の森に、体がぶつかる微かな音が広がる。

激しいピストンではない。彼が腰を押し込むたびに、彼の太ももと私のお尻の肉が、ゆっくりと、しかし確実にぶつかり合い、柔らかな音を立てるのだ。

 

「ひっ……! 音……だめ、音が……っ」

「……この程度なら問題ない。それに、お前もこの音が嫌いではないだろう」

 

清隆の大きな手が、私の腰をがっしりと掴み、逃げ場を完全に奪う。

引き抜かれ、押し込まれる。

その緩やかなストロークの反復。

木を掴む私の指先が白く変色し、顔は羞恥と快感で真っ赤に染まっている。

 

(いく……もう、限界……っ!)

 

激しい刺激などなくても、すでに私の体は彼の質量に支配され尽くしていた。

ゆっくりと擦り上げられるたびに、全身の神経がスパークし、視界が白く明滅する。

 

「きよ、たか……っ、わたし、もう……っ!」

 

声を出さないように必死に唇を噛み締めながら、私は木にもたれかかり、腰をガクガクと震わせた。

 

「……ああ」

 

清隆の低い声。

背後から私を貫く彼の下半身の筋肉が、限界を迎えて大きく収縮するのが分かった。彼もまた、この焦れったい生殺しのようなプレイに、男としての限界を迎えていたのだ。

 

「んんっ!! むぅぅぅっ!!!」

 

彼が最後に、最も深く、そして重く腰を打ち込んできた瞬間。

私は口を両手で塞いだまま、声にならない絶叫を上げ、静かに、しかし爆発的な絶頂に達した。

内側の柔らかな壁が激しく痙攣し、彼の凶悪な質量を締め付ける。同時に、私の最奥へと、彼の灼熱の種子がドクドクと注ぎ込まれていくのがはっきりと分かった。

 

「はぁっ……はぁっ……ぁ……っ」

 

深い余韻の中、私は木にもたれたまま、全身の力を抜いて荒い息を吐いた。

体の芯がジンジンと痺れ、彼に完全に満たされたという泥のような幸福感が、サバイバルの疲労をすべて塗り潰していく。

 

数秒の静寂の後。

ズチュリ、と音を立てて、彼が私の中からゆっくりと引き抜いた。

 

「あ……んっ」

 

喪失感と共に、私の開いたままの入り口から、彼が限界まで注ぎ込んだ濃密な種子と私の愛液が混ざり合い、とろとろと白い脚を伝って垂れ落ちそうになる。

私は木に手をつき、屈辱的な姿勢のまま、息を整えることしかできなかった。

 

「……動くな。地面が汚れる」

 

背後で清隆の平坦な声がした。

ガサリ、と彼がポケットから何かを取り出す音がする。

次の瞬間。

 

「えっ……ひゃっ!?」

 

私の最も敏感で、限界まで開発されて真っ赤に充血している秘部に、柔らかいタオルの布地がそっと押し当てられた。

 

清隆が、ハンドタオルを取り出し、私がこぼした精液と愛液を、背後から丁寧に拭き取り始めたのだ。

 

「きよ、たか……っ、ちょ、ちょっと待って……!」

 

私はパニックになり、振り返ろうとしたが、彼の大きな手が私の腰を抑え込み、姿勢を固定した。

 

「動くなと言ったはずだ。このままテントに戻れば、ジャージの下が悲惨なことになるぞ」

「そ、それはそうだけど……っ! 自分で、自分で拭くから……っ!」

 

「俺が出したものだ。俺が処理するのが効率的だ」

 

彼の論理は絶対で、一切の反論を許さない。

だが。

 

(……なんで、なんで今更こんなに恥ずかしいのよ……っ!)

 

私は木に顔を押し付け、耳の先まで真っ赤に染め上げた。

さっきまで、こんな破廉恥な下着姿で彼に誘いをかけ、激しく求め合ったのだ。私の体の隅々まで、中身の構造に至るまで、彼はすべてを知り尽くしている。

今更、秘部を見られることなど何でもないはずだった。

 

なのに。

行為の熱狂が過ぎ去った後の静寂の中で、彼が極めて事務的に、まるで壊れ物を扱うかのように丁寧に私の汚れを拭き取っているというこの状況が、どうしようもなく私の羞恥心を激しく煽ったのだ。

 

「んっ……あ……」

 

タオル越しに伝わる彼の指の感触。

それは性的な刺激ではない、ただの清掃作業だ。だが、その無機質で献身的な行為に、彼の不器用な支配欲と、微かな……本当に微かな「所有物への手入れ」のような執着を感じてしまい、私の顔は火が出るほど熱くなった。

 

「……終わったぞ。ジャージを着ろ」

 

やがて、彼が静かに立ち上がり、私の腰から手を離した。

私は弾かれたように岩から離れ、震える手でジャージのズボンを拾い上げると、逃げるように身につけた。

 

「……ありがとう」

 

私は顔を伏せたまま、蚊の鳴くような声で呟いた。

孤高な私が、彼に下半身を拭かれて顔を真っ赤にしている。こんな姿、絶対に誰にも見せられない。

 

「監視の目を掻い潜っての接触は、これが限界だな。……テントに戻れ」

 

清隆はそう言い残し、来た時と同じように、足音を殺して森の闇へと消えていった。

 

残された私は、彼に拭われた下腹部の微かな摩擦の余韻と、内側に残る確かな熱を感じながら、一人、暗い森の中で大きく息を吐いた。

 

(……やっぱり、私は完全にこの男のモノなんだわ)

 

緩やかな前戯も、声を出せない拷問のようなストロークも。

そして、最後に彼が見せた、無機質で過保護な清掃も。

すべてが私を狂わせるための、完璧な毒だった。

 

綾小路清隆が、音もなく夜の森の闇へと溶けていくのを見送った後。

私は、木に寄りかかったまま、しばらくの間、荒くなった呼吸を整えることに専念していた。

 

(……終わった)

 

体内に残る、彼が限界まで打ち込んだ濃密な熱。それは、私という存在が完全に彼に支配され、所有されているという何よりの証明だった。

私が、あんな破廉恥な勝負下着を身につけ、野外という異常な環境下で涎を垂らして彼に哀願した。その事実がもたらす究極の羞恥心と、泥のような幸福感が、私の脳髄を心地よく麻痺させている。

だが、いつまでもこの余韻に浸っているわけにはいかなかった。

 

「……冷えてきたわね」

 

私は、彼に丁寧に拭き取られた下腹部の微かな摩擦の記憶に頬を熱くしながら、乱れたジャージの襟元をしっかりと直した。

体は、あの無理な姿勢での行為の疲労をすでに逃がし始めている。とはいえ、汗と愛液、そして夜露に濡れた体は、不快感と背徳感でいっぱいだった。

 

月明かりを頼りに、私は足音を極限まで殺しながら、拠点周辺の仮設トイレへと戻った。

幸い、特に誰かに遭遇することはなかった。息を潜めてトイレの個室に滑り込み、鍵をかける。

狭く、プラスチックの臭いが充満する空間の中で、私は震える手でジャージのズボンを下ろした。

 

(……ひどいあり様ね)

 

微弱な明かりで確認した自分の下半身は、まさに発情した雌そのものだった。

隠すべき場所を一切隠さない、漆黒のショーツ。その過激な布地は、彼との激しい交わりのせいでわずかに位置がずれ、私の白い脚の付け根には、彼が拭き取りきれなかった愛液の跡が微かに光っていた。

私は、この淫らな勝負下着を急いで脱ぎ捨て、持参していた防水ポーチの中に封印した。代わりに、無難なデザインの清潔な下着を身につける。

 

(これで、証拠は隠滅できたわ)

 

普通の女の子の顔に戻るための、物理的かつ心理的なスイッチ。

ジャージをきちんと着直し、私は仮設トイレを後にした。

女子用の大型テントに近づき、慎重に開ける。中からは、女子生徒たちの規則正しい寝息だけが聞こえてきた。誰も、私がこの深夜にテントを抜け出し、一人の男と狂おしい情事を繰り広げていたことなど気づいていない。

 

自分のシュラフに音もなく滑り込み、目を閉じる。

サバイバルの過酷な疲労と、快楽を与えられたことによる絶対的な安心感。下腹部に残る重い熱を抱きしめるようにして、私は泥のように深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

狂乱の三日目の夜が明け、無人島特別試験は中盤から終盤へと差し掛かっていった。

私の体調は完璧だった。サバイバル生活の物理的な疲労を軽々と跳ね返し、何より彼に抱かれたという事実が、私の精神を強靭に保たせていた。

 

「新西さん、今日もスープお願いできる? 昨日のがすっごく美味しかったから!」

「ええ、任せて。今日は少し味付けを変えてみましょうか」

 

私は「優秀で気が利く、孤高の美少女」という仮面を完璧に貼り付け、食料の調達や料理でクラスに貢献し続けた。

周囲が疲労とストレスで少しずつ余裕をなくしていく中、私だけが涼しい顔で作業をこなしているため、クラス内での私の評価は日に日に高まっていった。

 

だが、平穏な時間は長くは続かなかった。

極限状態の集団生活において、蓄積されたストレスは必ずどこかで爆発する。Dクラスを襲ったのは、トラブルの連続だった。

 

最初の亀裂は、軽井沢恵の下着泥棒騒ぎだった。

 

「嘘でしょ……ない、私の下着がないっ!」

 

朝の女子テントに響き渡った軽井沢の悲鳴。

彼女のリュックから、下着が消え失せていたのだ。

この事件をきっかけに、男子と女子の間にあった薄氷のような信頼関係は完全に崩壊した。女子は男子全員を疑いの目で睨みつけ、男子は「俺たちを犯人扱いするのか」と反発する。

平田が事態を収拾しようとするも、感情的になった女子たちの要請で男子の荷物検査が行われた。

 

私は、泣く軽井沢を宥める女子たちの輪に加わりながらも、内心で冷ややかだった。

たかが普通の下着一枚で、クラスの空気がここまで悪化するとは。

私のリュックの奥底には、男子が見たら一瞬で理性を吹き飛ばすような下着が眠っている。もしあれが盗まれていたら、私は誰にも言えずに一人で絶望していただろう。

 

そして、この騒動の最中、私は視界の端で常に清隆の姿を追っていた。

彼は、下着泥棒騒ぎにも積極的に介入することはなかった。だが、その凪いだ瞳の奥で、膨大な情報が処理されているのを私は知っている。

 

(清隆……あなた、裏で何をしているの?)

 

私の疑念が確信に変わるような出来事が、その後も立て続けに発生した。

火事騒ぎだ。

誰かが故意に燃やしたのか、マニュアルが燃えて失われる事態に陥った。

無事に火元は消化されたが、この火事騒ぎによって、男女間の疑心暗鬼は最高潮に達した。

 

男女でヒートアップし、平田の仲裁でもなかなか収まらなかった。

私は雨除けの木の下に避難し、その惨状を静かに見つめていた。

私は、綾小路清隆がどう動くのか、それだけを注視していた。

 

(堀北さんの様子も、明らかにおかしいわね)

 

雨に濡れた堀北鈴音の顔色は、青白く、唇は震えていた。彼女は自身の体調不良を必死に隠しながらリーダーとして振る舞おうとしているが、私の目には彼女が限界を迎えていることは明らかだった。

彼女が倒れれば、Dクラスは崩壊する。

 

泥沼のようなトラブルの連続。

他クラスの偵察、スパイの暗躍、疑心暗鬼。

無人島という閉鎖空間は、人間の醜い部分をこれでもかとあぶり出していく。

私はその狂騒から一歩引いた場所で、己の体力を温存し、「完璧な新西レイ」を演じ切りながら、ひたすらに最終日を待ち続けていた。

 

 

そして、長かった一週間のサバイバルが終わりを告げる、最終日の朝がやってきた。

 

「みんな、荷物をまとめて! ビーチに移動しよう!」

 

平田がクラスを鼓舞し、Dクラスの生徒達は、重い足を引きずりながらスタート地点の砂浜へと向かっていた。

 

私もまた、荷物を背負って列に加わった。

さすがに一週間の野外生活は、私の白い肌に小さなすり傷や虫刺されの跡を残していた。

 

砂浜には、すでに他のクラスの生徒たちが整列していた。

Aクラスは相変わらず統率が取れており、Bクラスは一之瀬を中心に和気藹々とした空気を保っている。対照的に、龍園率いるCクラスは、龍園しかいなかった。

 

やがて、教師たちが前に立ち、試験の終了と結果発表が宣言された。

 

「これより、無人島特別試験の結果を発表する」

 

真嶋先生の低く響く声に、ビーチ全体が静まり返る。

誰もが、自分たちのクラスがどれだけのポイントを残せたのか、そして他クラスのリーダーをどれだけ当てられたのか、固唾を飲んで見守っていた。

 

「――二百二十五ポイントで一位はDクラス。」

 

一瞬の、空白。

波の音だけが、やけに大きく響いた。

 

「……え?」

「……うそ、だろ?」

 

最初に声を上げたのは、池だった。

次いで、山内、須藤、そして軽井沢たち女子生徒。

誰もが自分の耳を疑い、顔を見合わせる。

トラブル続きで、リーダーである堀北も体調を崩した。他クラスのリーダーを当てる余裕など、どこにもなかったはずなのに。

 

「うおおおおおおおおっ!! マジかよ!! 俺たちが、一番!?」

「やったぁぁぁっ! 嘘みたい、信じられないっ!!」

 

Dクラスの陣形から、爆発的な歓声が上がった。

池と山内が抱き合って飛び跳ね、女子たちは嬉し泣きをしながら互いの健闘を称え合っている。

最下位の不良品と蔑まれていたDクラスが、エリートであるAクラスやBクラスを出し抜いて、単独一位の勝利をもぎ取ったのだ。そのカタルシスは、一週間の地獄のような疲労を吹き飛ばすのに十分すぎる劇薬だった。

 

「すごいね、新西さん! 私たち、勝ったんだよ!」

 

佐倉が目に涙を浮かべながら、私に駆け寄ってきた。

 

「……ええ。本当に、驚いたわ」

 

私は優等生の仮面を被り、佐倉に合わせて静かに拍手を送った。

周囲が狂喜乱舞する中、私は誰にも気づかれないように、歓声の輪の少し外側に立つ男の背中を探した。

 

綾小路清隆。

彼は、クラス中が涙を流して喜んでいるというのに、ただ一人、初日とまったく変わらない凪いだ瞳で、退屈そうに海を眺めていた。

 

(……清隆。あなたが、やったのね)

 

確信だった。

堀北に、この逆転劇を仕組む余裕はなかった。平田にも、こんな策を弄することはできない。

他クラスのリーダーを正確に見抜き、自クラスのリーダーを隠し通して、このポイントをDクラスにもたらした黒幕。

それは間違いなく、あの夜、私に快楽を与えながらも、頭の中では冷酷に盤面を支配し続けていた清隆に他ならない。

 

私は拍手をする手を止め、じっと彼の横顔を見つめた。

 

勝った。Dクラスは大きなポイントを得た。

本来なら、私もクラスの一員として、この勝利を素直に喜ぶべきなのだろう。

 

だが、私の胸の奥に広がっていたのは、歓喜ではなく、冷水を浴びせられたような不気味な悪寒だった。

 

(……おかしいわ。絶対に、おかしい)

 

綾小路清隆という男は、「事なかれ主義」だ。

彼は自分が目立つことを何よりも嫌い、有能さをひたすらに隠し、平凡な学生生活を送ることだけを望んでいたはずだ。

彼がこれまでに動いたのは、須藤の暴力事件の時のように、「自分に火の粉が降りかかりそうになった時」や、「クラスが追い詰められた時」だけだった。

 

だが、今回の無人島試験はどうだ。

確かにクラスポイントは重要だが、ここで敗北したからといって、誰かが即座に退学になるわけではない。最下位のDクラスのままでも、彼が望む平凡な日常を維持することは十分に可能だったはずだ。

 

それなのに、彼は自ら積極的に暗躍し、AクラスやCクラスという強敵を完全に手玉に取って、Dクラスを勝利へと導いた。

これは、ただの防衛戦ではない。明確な「攻撃」であり、盤面を支配しようとする「意志」の表れだ。

 

(清隆……あなた、方針を変え始めているの?)

 

彼の深淵の底で、何かが静かに、しかし確実に動き始めている。

これまでのように、ただ目立たず平穏に過ごすというルールを捨て、この高度育成高等学校という舞台で、彼自身の目的のために本格的に牙を剥き始めたのではないか。

 

もしそうだとすれば。

 

彼が本気で動き出した時、彼の手駒として必要とされるのは、私のような夜の密室で体を重ねるだけの女ではない。

表舞台で彼の意図を汲み取り、完璧に実行できる有用な人間だ。

現に、彼は今回、堀北を隠れ蓑として完璧に利用し尽くした。

彼が本気を出せば出すほど、その圧倒的な実力と冷徹な魅力は、隠しきれずに周囲の人間を惹きつけてしまうだろう。

 

(……私、置いていかれるの?)

 

誰にも屈しないと誓った心が、音を立てて揺らいだ。

私がどれだけ彼を誘惑し、夜の奉仕で彼を悦ばせようとも。

彼の見据えているゲームの盤面は、私の想像を絶するほど高く、広い場所にある。

このまま彼が表舞台への階段を登り始めてしまえば、私は「ただの都合のいい女」として、いずれ彼の視界からフェードアウトしてしまうのではないか。

 

あの夜、岩場で私の下半身を拭ってくれた時の、彼の微かな独占欲。

あれすらも、彼の巨大な計画の一部に過ぎなかったのではないかという疑念が、私の心を黒く塗り潰していく。

 

「どうしたの、新西さん? 顔色が悪いよ?」

「……ううん、なんでもないわ。少し、疲れただけ」

 

私は佐倉にそう答えながら、再び完璧な微笑みを貼り付けた。

 

周囲の狂騒と、夏の終わりの眩しい太陽。

Dクラスの勝利という輝かしい結果の中で、私だけが一人、綾小路清隆という底知れない深淵に取り残され、暗く冷たい焦燥感に身を震わせていたのだった。

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