綾小路くん、私はセフレ?それとも 作:Geminiちゃん痛くしないで
木々の葉が赤や黄色に色づき始め、吐く息がわずかに白さを帯びてきた十一月。
高度育成高等学校の制服も冬服へと完全に移行し、季節は確かな足音を立てて深まりつつあった。
先月の体育祭が残した余波は、Dクラスの中に、そして私と清隆の周囲に、目に見えないが確かな『変化』をもたらしていた。
「お、おい綾小路。次の移動教室……あー、いや、なんでもないわ」
昼休みの教室。
池が清隆に声をかけようとして、不自然に言葉を濁し、そのまま山内たちの方へとそそくさと歩き去っていく。
清隆は特に気にした様子もなく、ただ淡々と次の授業の準備をしていた。
(……見事に、距離が空いたわね)
私は自分の席で文庫本を広げながら、その光景を横目で観察していた。
無理もない。
体育祭の最終種目、1200メートルリレー。あの日、清隆は全校生徒の目の前で、あの堀北生徒会長と互角以上の凄まじいデッドヒートを繰り広げたのだ。
これまで「目立たない、ちょっと影の薄い普通の男子」という仮面を被っていた清隆の、圧倒的な身体能力の一端。
それを見た池や山内たちは、清隆に対して「自分たちとは違う人間なのではないか」という本能的な畏怖と違和感を抱いてしまったのだ。
親しい友人だと思っていた相手が、実は底知れない怪物だったかもしれない。その疑念は、彼らの間に見えない壁を作り出し、清隆はかつてのようにつるむ相手を失い、教室で孤立気味になっていた。
だが。
私にとって、清隆の孤立は好都合以外の何物でもなかった。
(勝手に離れていくなら、その分、私が清隆を独占できるってことじゃない)
文庫本のページをめくる指先が、自然と弾む。
私の胸の内には、十月のあの一夜――清隆から『まいった』という降伏の言葉を引きずり出した、あの究極の勝利の余韻が、甘く泥のように残り続けていた。
清隆がどれだけ表舞台で凄みを見せようと、彼の理性を完全に破壊し、一番弱い部分を握っているのはこの私なのだ。
その絶対的な優越感は、私の心からかつての「清隆に捨てられるかもしれない」という黒い焦燥感を完全に拭い去り、代わりに、彼を所有しているという歪で強固な自信を与えてくれていた。
清隆の周囲から人が離れていったのをいいことに、私は十一月に入ってから、ほぼ毎日のように彼の部屋に入り浸るようになっていた。
「んっ……あぁっ、清隆っ……!」
深夜の、清隆の部屋。
密室のベッドの上で、私たちは今日もひどく淫らで、ただれた行為に没頭していた。
私の上に覆い被さる清隆の強靭な肉体が、容赦なく私を深い場所へと沈め込んでいく。
激しい水音と、肌がぶつかる音。
相変わらず、彼のフィジカルと持久力は人間離れしており、正面から組み合えばあっという間に体力を削り取られてしまう。
だが、私の心境は以前とは全く違っていた。
(あぁ……きもちいい……っ)
ただ翻弄され、恐怖と執着に突き動かされて泣き叫んでいた頃とは違う。
今の私は、清隆から与えられる暴力的な快感を、ただ純粋な「悦び」として素直に受け入れ、心から堪能していた。
なぜなら、私はもう『勝者』なのだから。
清隆がどれだけ激しく私を抱こうと、それは私が彼を惹きつけてやまない魅力的な雌であることの証明であり、彼が私に依存している証拠だと、そう信じて疑わなかった。
「ふぅっ……はぁっ……」
一度目の情事が終わり、ベッドの上で荒い息を吐く私たち。
私は汗ばんだ前髪を払いながら、隣で天井を見上げている清隆の広い胸板に、甘えるようにすり寄った。
「……ねえ、清隆」
「なんだ」
「今日のあなた、少し焦ってたんじゃない? もしかして、また私にアレをされるって警戒してた?」
私は上目遣いで彼を見つめ、十月の夜を匂わせて、意地悪く笑った。
「どう? あなたも実は、アレが気に入ったんじゃないの? ……もしよかったら、今日もやってあげようか。もっと開発してあげてもいいのよ?」
冗談と本気が半分ずつ混じった、勝者の余裕に満ちた挑発。
さらに私は、清隆にすり寄る体を密着させ、彼の耳元で色っぽく囁いた。
「それとも……今度は、お尻に入れてみるのを試してみる? 」
完全に調子に乗っていた。
自分こそがこの関係の主導権を握っているという思い上がりが、私の言葉をどこまでも大胆にさせていた。
私の言葉を聞いた清隆は、相変わらず感情の読めない凪いだ瞳のまま、ゆっくりと私を見下ろした。
顔には一切出さないものの、その瞳の奥に、ほんのわずかな――本当に微細な「苛立ち」あるいは「不快感」のようなものが閃いたのを、私は見逃さなかった。
「……不要だ」
短く、冷たい拒絶。
次の瞬間、清隆は私のしなやかな体を乱暴に反転させ、再び私の上に重く伸しかかった。
「きゃっ……ちょっと、清隆……っ」
「余計なことを喋る口は塞いでおくべきだな」
有無を言わさぬ強引なディープキス。
そして、一切の準備や慈悲もないまま、清隆は再び私の最奥へと、先ほどよりも遥かに熱く硬い質量を容赦なく叩き込んできた。
「あぁぁっ!? んんんっ!!」
清隆の激しいストロークに、私の体はシーツの上で情けなく跳ね回る。
「ふっ、あ……っ、きよたかっ、激し……っ!」
口では抗議しながらも、私の中にある『清隆に愛されている』という歪な余裕は、その乱暴な振る舞いすらも「清隆が私の挑発に乗ってムキになっている」という都合の良い解釈へと変換してしまっていた。
(ふふっ……やっぱり、余裕ないじゃない。可愛いところあるのね)
危機感は、完全に薄れていた。
私は自らの体を清隆に完全に明け渡し、勝者の余裕という甘い麻薬に浸りながら、彼が与えてくれる快感の波にただただ心地よく溺れていったのだった。
そんなただれた夜の生活とは裏腹に、学校生活では新たな試練が容赦なく襲いかかってきた。
「十一月末に、期末テストに代わる特別試験……『ペーパーシャッフル』を実施する」
ホームルームで茶柱先生が告げたその試験の内容は、複雑で厄介なものだった。
クラス内でペアを作り、その二人の合計点で合格ラインを回避すること。
そして何より恐ろしいのが、自分たちが解くテスト問題を『別のクラスが作成する』というルールだ。
(……なるほど。相手クラスを陥れるための難問奇問を作り、同時に自分たちは相手の作った難問をクリアしなければならない。純粋な学力だけでなく、情報戦とクラスの総合力が問われるわけね)
私は心の中で素早くルールを分析し、自分の立ち回りを計算した。
私の学力はクラスでもトップクラス。誰とペアになっても、私が満点近くを取れば、相方がどれほど無能でも退学を回避することは十分に可能だ。
そして、決定された私のペアは。
「おっしゃあああ! 新西さん! 俺たちペアだぜ! マジで運命感じるわー!」
両手を上げて歓喜の声を上げる、クラスでも学力の低い一人――山内春樹だった。
(……よりによって、このクラスのお荷物とペアね。まあいいわ、私がコントロールするだけよ)
私は内心の舌打ちを完璧な笑顔で隠し、「よろしくね、山内くん。一緒に頑張りましょう」と愛想よく応えた。
山内が赤点をとれば、私自身も一緒に退学になってしまうかもしれない。私が彼を引っ張り上げるしかない。
試験に向けて、Dクラス内では学力優秀な生徒を中心とした勉強会が組織されることになった。
リーダーである堀北や、クラスのまとめ役である平田が、成績下位者を集めて指導にあたる。私は山内を監視し、確実に点を取らせるために、堀北と平田が主催する勉強会に参加することを選んだ。
放課後の図書室や、ファミレスでの勉強会。
そこで私が目にしたのは、思いがけない光景だった。
「……あれは」
少し離れた席で、清隆が、長谷部波瑠加、佐倉愛里、幸村輝彦、三宅明人たちと一緒にテーブルを囲み、勉強会を開いていたのだ。
(清隆が、あんな風に特定のグループを作って行動するなんて……)
これまで誰とも深く関わらず、一人で(あるいは私とだけ)行動していた彼が、自らグループに属している。
『綾小路グループ』とでも呼ぶべきその集まりの中で、彼は長谷部や幸村たちと、不器用ながらもごく普通の高校生らしい会話を交わしていた。
長谷部が気さくに彼に話しかけ、佐倉が頬を染めながら彼を見つめている。
一瞬、私の胸の奥に、チクリとした不快な痛みが走った。
私が独占しているはずの彼が、昼間の世界で、他の女たちと笑い合っている。
(……ううん。別に嫉妬なんてしてないわ。あれも彼なりの、このクラスで立ち回るための『偽装』の一つに過ぎないんだから)
私はすぐにその痛みを打ち消し、自分に言い聞かせた。
昼間、清隆が誰と仲良くしようと関係ない。夜になれば、清隆は私のベッドで、私のテクニックに狂わされ、私の腕の中で果てるのだから。
一番深い場所で清隆を支配しているのは私だという『余裕』が、私から嫉妬の炎を遠ざけていた。
「あー、もう無理! マジで意味わかんねー!」
ファミレスの席で、山内がシャープペンシルを放り出し、大げさに頭を抱えてみせた。
勉強会が始まって一時間。山内の集中力はすでに完全に底を突いていた。
「平田ぁ、もうちょっと休憩しようぜー。な?」
「うーん、でも山内くん、まだ今日のノルマの半分も終わってないよ……?」
困り顔の平田をよそに、山内は私の顔をチラチラと見ながら、ニヤニヤとだらしない笑みを浮かべてきた。
「なあ新西さん、勉強ばっかで息詰まるだろ? この後さ、ちょっと二人でカラオケでも行って息抜きしねえ? もちろん俺が奢るからさ!」
明らかな下心。身の程知らずなアプローチ。
以前の私なら、即座に冷たい視線で射殺し、完膚なきまでにそのプライドをへし折っていただろう。
だが、今の私は違った。
清隆を夜のベッドで完全に屈服させているという、強烈な「女としての自信」と「圧倒的な余裕」。
それが、山内の誘いすらも、笑ってあしらえるほどの寛容さを生み出していた。
「……ふふっ。山内くんったら、本当にクラスのムードメーカーよね。いつもみんなを楽しませようとしてくれてる」
私はあえて怒ることはせず、少しだけ体を山内の方へ傾け、尊敬の眼差しを向けるような完璧な演技で微笑んだ。
「えっ……あ、いや、まあな! 俺ってそういうところあるからさ!」
「でもね、山内くん。私、いつもふざけてる男の子が、いざという時に真剣な顔で頑張るギャップ……すごくカッコいいと思うな。今回は私たち、運命のペアなんでしょ?」
上目遣いで、山内の自尊心を甘くくすぐるように言葉を紡ぐ。
「せっかくペアになったんだもの。私に、山内くんの『やればできる、頼りになる男』ってところ、見せてくれないかな?」
私の言葉を聞いた山内は、顔を真っ赤にしてパァァッと表情を輝かせ、シャープペンシルを力強く握り直した。
「マ、マジで!? そ、そういうことなら任せとけって! 俺、本気出したらマジですごいから! 絶対赤点回避して、新西さんにいいとこ見せてやるよ!」
「ええ、期待してるわよ。……さあ、続きをやりましょうか」
私は山内を巧みに煽てながら、再び勉強へと向かわせた。
横で見ていた平田が「すごいね、新西さん。山内くんがあんなにやる気を出すなんて」と感心したように微笑む。
「ペアの責任だもの。これくらい当然よ」と、私は優等生としての完璧な仮面を崩さずに答えた。
(……簡単すぎるわ)
手元のノートに視線を落としながら、私は内心で密かにほくそ笑んでいた。男なんて、結局は自尊心を撫でてやれば勝手に動く単純な生き物だ。
清隆ですら、私のテクニックの前にひれ伏したのだ。山内を手のひらで転がすことなど、呼吸をするよりも容易い。
私はファミレスの窓ガラスに映る自分の顔を見た。
そこには、学力、身体能力、そして女としての魅力、そのすべてを武器にする自信に満ち溢れた私の姿があった。
この勝利の余韻が永遠に続くと思い込んでいる、滑稽なほどに傲慢で、哀れな女の子の姿。
十一月の冷たい風が、そんな私の驕りを嘲笑うかのように、窓の外で枯れ葉を舞い上げていた。
十一月末。
高度育成高等学校の生徒たちを苦しめた特別試験、『ペーパーシャッフル』の全日程が終了し、ついにその結果が教室の黒板に貼り出された。
「……よしっ! いけた! いけたぞおおおおっ!!」
自分の名前と点数を確認した山内が、教室の中心で両手を突き上げて歓喜の雄叫びを上げた。
彼の点数は決して褒められたものではなかったが、私のほぼ満点に近い点数と合算することで、見事に『ペアの合計点』の基準をクリアしていた。
「よかったね、山内くん。おめでとう」
「新西さんっ! ありがとう、マジでありがとう! 新西さんのおかげだよ!」
私は優等生としての完璧な笑みを浮かべ、涙目で擦り寄ってくる山内に労いの言葉をかけた。
内心では(当然よ。誰が教え込んだと思っているの。)と冷ややかに考えながらも、表向きはクラスメイトの健闘を讃える美しい少女の仮面を崩さない。
このペーパーシャッフルにおいて、Dクラスは事前の対策と一部の生徒の暗躍(もちろん清隆の動きも含まれているのだろう)により、見事誰一人欠けることなく試験を乗り切ることに成功した。
Cクラスが仕掛けてきた厄介な問題も、私にとっては多少歯ごたえがある程度のものに過ぎなかった。学力という武器を持つ私にとって、この程度の試験は、自らの有能さを再確認するためのただの作業でしかなかったのだ。
放課後。
ホームルームが終わり、生徒たちが部活や寮へと散っていく中、帰り支度をしていた私の元に、ニヤニヤとだらしない笑みを浮かべた山内が近づいてきた。
「なあ、新西さん。テスト、俺のおかげで余裕だったろ?」
「ええ、山内くんが頑張ってくれたおかげよ。本当に助かったわ」
私が愛想よく答えると、山内はさらに顔を赤らめながら、期待に満ちた目で身を乗り出してきた。
「だろ? 俺、やればできる男ってところ、ちゃんと見せられたよな! ……だからさ、その、今度の日曜日、二人でお祝いにどこか遊びに行かねえ?」
どうやら山内は、ファミレスでの「いいところを見せてほしい」という私のおだてを完全に真に受け、テストをクリアしたことで自分には私をデートに誘う権利ができたと本気で思い込んでいるらしい。
私は内心で深くため息をつきながらも、表情筋をコントロールして、少し困ったような、それでいて相手を傷つけない絶妙な「申し訳なさそうな顔」を作ってみせた。
「あ……ごめんなさい、山内くん。せっかく誘ってくれたのに……実は今度の日曜日、どうしても外せない用事が入っちゃってて」
「えっ? 用事って……?」
「個人的な、どうしてもずらせない予定なの。本当にごめんなさい。山内くんが頑張ったお祝い、私も一緒にしてあげたかったんだけど……」
少しだけ上目遣いで、本当に残念そうに瞳を伏せる。
すると山内は、分かりやすく肩を落としつつも、私が自分を嫌って断ったわけではないのだと都合よく解釈してくれたようだ。
「そ、そっか……用事なら仕方ないよな! うん、全然気にしてないから! じゃあ、また今度誘うわ!」
「ええ。誘ってくれて嬉しかったわ、ありがとう」
私は優雅に手を振り、山内を見送った。
山内の背中が見えなくなった瞬間、私の顔から「申し訳なさそうな顔」は綺麗さっぱりと剥がれ落ちた。
山内には悪いが、私が休日の貴重な時間を割いてまで会いたいと思う男は、この学校にたった一人しか存在しない。
私は軽やかな足取りで教室を後にしたのだった。
その日の夕方。
自室でくつろぎながら、試験勉強の疲れを癒やすためにボディクリームで脚のマッサージをしていると、端末が短く振動した。
画面を見ると、メッセージの送信者は『綾小路清隆』だった。
『試験お疲れ。この後、俺の部屋に来てくれないか』
たったそれだけの、彼らしいそっけない文面。
だが、その文字を見た瞬間、私の胸の奥にドクンと熱いものが跳ねた。
(……清隆から、誘ってきた)
清隆から誘ってくることなど、これまでにほとんどなかったことだ。いつも私の方から強引に押しかけたり、なし崩し的に部屋に入り浸ったりすることが多かった。
それが、今回は清隆の方から明確に「来てほしい」と要求してきている。
「ふふっ……あははっ」
私は端末を握りしめたまま、ベッドの上でこらえきれずに笑い声を漏らした。
(やっぱり、私の奉仕が忘れられないのね)
十月の体育祭の夜、清隆から『まいった』という降伏の言葉を引きずり出したあの究極の勝利。
十一月に入ってからも、私はその勝利の余韻のままに清隆に接し、彼を挑発し、ただれた行為を楽しんできた。
清隆は顔には出さないものの、私の体と、研究し尽くされたテクニックの前に、もはや理性を保てなくなっているに違いない。
あの清隆が私との行為を求めている。彼の方から私に飢え始めているのだ。
『分かったわ。ちゃんと準備して待ってなさいよ』
私は勝者の余裕と、女王のような傲慢さを込めた返信を打ち込んだ。
既読はすぐについたが、返信はなかった。それがまた、清隆がいかに私を待ち望んでいるかの裏返しのように思えて、私の承認欲求と優越感をどこまでも甘く満たしていった。
私はこの高度育成高等学校において、学力でも、美貌でも、そして夜のベッドでも、完全な勝者として君臨している。
その揺るぎない自信が、私の体を火照らせていた。
私はすぐさまシャワーを浴び、入念なスキンケアとボディケアを開始した。
これから清隆の部屋に行き、彼に私という存在をさらに深く刻み込むための、重要な準備だ。
(今日は……これにしようかしら)
クローゼットの中から選び出したのは、黒のレースがあしらわれた、ひどく大人びたデザインのランジェリーだった。
胸元を大きく強調し、最大限に美しく見せるカッティング。私が持つ孤高な美少女としての冷たさと、色気を同時に引き立てる、完璧な勝負下着だ。
その上に、着脱のしやすい、しかしシルエットの美しいボルドー色のワンピースを纏う。
鏡の前に立ち、自分の姿を確認する。
「……完璧ね」
誰もが振り返るような美貌。知性と色気を兼ね備えた、絶対的な強者の姿。
今日、清隆はどんな顔を見せてくれるだろうか。
私がこのランジェリーを見せつけた時、あの凪いだ瞳の奥に、どれほどの欲望と飢餓感が浮かび上がるのか。
「さあ、清隆。今日も私に、たっぷり溺れさせてあげるわ」
男子寮へと向かう私の足取りは、まるで自分の領地を闊歩するかのように軽やかで、自信に満ち溢れていた。この後に待っているのが、私のプライドを根底から粉砕する『わからせ』の始まりだとは、この時の私は微塵も疑っていなかったのだ。
すっかり日の落ちた学生寮の廊下を抜け、私は清隆の部屋の前に立った。
コンコン、と軽くノックをする。
「開いてる」
ドアの向こうから、いつもと変わらない、感情の起伏の全くない声が聞こえた。
私はドアノブを回し、清隆の部屋へと足を踏み入れた。
部屋の中は、いつも通り整理整頓されており、無駄なものが一切ない。
清隆は部屋着姿でベッドの縁に腰掛け、私が来るのを静かに待っていた。
その顔には、私を待ち焦がれていたような焦燥感も、欲情の色も見当たらない。ただ、深く静かな湖面のような瞳が、部屋に入ってきた私を真っ直ぐに捉えていた。
「来たわよ、清隆」
私はドアに鍵をかけ、優雅な足取りで彼に近づき、見下ろすようにしてベッドの前に立つ。
「試験お疲れ様。……それで? わざわざ私を呼び出して、どういうご用件かしら? 私の顔が見たくてたまらなくなった? それとも……」
私はワンピースの裾をわずかに持ち上げ、挑戦的な、そして清隆をからかうような艶やかな笑みを浮かべた。
「私の奉仕が恋しくなっちゃった?」
私がどれだけ煽っても、清隆は表情一つ変えなかった。
ただ、私を頭の先からつま先まで、まるで品定めをするかのように一度だけ視線を走らせた後、ゆっくりと口を開いた。
「試験のペアは、山内だったな。赤点を回避できたようで何よりだ」
「当然でしょ? 私の指導があったんだから。山内が相手でも、私が手綱を握ればどうとでもなるわ」
「そうか。お前には、感心するよ」
淡々とした会話。
しかし、どこか空気が冷たい。十月の時のような、彼が私の手技によってわずかに翻弄されるような隙が、今の彼からは全く感じられない。
「……何よ。せっかく私が来てあげたのに、そんな事務的な話ばっかり?」
私は少し口を尖らせ、清隆の上に跨るようにして座り込もうとした。
だが、その前に。
清隆がスッと立ち上がり、私と対峙するように正面に立った。
清隆に見下ろされる形となり、私は思わず一歩だけ後ろに引いてしまった。彼の体から発せられる、見えないが圧倒的な『圧』。
「十月の体育祭の夜」
清隆の低い声が、静まり返った部屋に落ちた。
「お前は、体育祭で疲れた俺を『労う』と言って、様々な技術を披露してくれたな」
「……ええ、そうよ。そしてあなたから『まいった』を引き出した。忘れたとは言わせないわよ」
強気に言い返す私に対し、清隆は全く動じることなく、ただ冷たく、深淵を覗き込むような瞳で私を見つめ続けた。
「忘れてはいない。……だから、今回は逆だ」
「逆……?」
私が不思議そうに眉をひそめると、清隆は私の腕を掴み、有無を言わさぬ力で私をベッドの上へと押し倒した。
「きゃっ……! ちょっと、清隆っ!」
「十月は、お前が俺を労ってくれた」
私の上に覆い被さった彼が、私の耳元で囁く。
その声には、一切の熱情も、愛欲も含まれていない。
ただ、絶対的な捕食者が、これから解体する獲物に宣告を下すような、冷徹で残酷な響きだけがあった。
「だから、今回は俺が――お前を『労って』やろう」
「……え?」
その言葉の意味を、私が正しく理解するよりも早く。
彼は私のワンピースに手をかけ、巧みな手の動きでワンピースを脱がせていった。
「……労ってやるって、どういうことよ」
ベッドに押し倒されたまま、私は怪訝な顔で清隆を見上げた。
十月、私が見せつけたあの完璧な奉仕。あれ以上の快楽など、この世に存在しないと私は確信している。だからこそ、清隆が今さら何をしようと、私が主導権を握っているという事実は揺るがないはずだった。
「十月、お前は『俺を満足させるか、まいったと言わせたらお前の勝ち』というルールを設定したな」
「ええ。そして私が勝ったわ」
「だから、今回は俺がルールを決める」
私の上に馬乗りになった清隆は、一切の熱を持たない、どこまでも凪いだ瞳で私を見下ろした。
「お前が最後まで意識を保ち、起きていられたら、お前の勝ちだ。だが、途中で気を失うか、眠りに落ちたら俺の勝ちとする」
「は……?」
私は思わず、拍子抜けしたような声を漏らした。
最後まで起きているか。それが勝敗の条件?
あまりにもバカバカしい。この男は、私の体力を舐めているのだろうか。
「ふっ……あははっ! 何よそれ。そんなの、勝負にすらならないじゃない」
私はベッドに背中を預けたまま、余裕たっぷりに笑い飛ばした。
「私を誰だと思ってるの? ちょっとやそっと激しく抱かれたくらいで、私が気を失うわけないじゃない」
「そうか。なら、そのルールで承諾するということでいいな」
「ええ、受けて立つわ。……せいぜい、私が欠伸をしないように頑張って楽しませてちょうだいね」
私は傲慢な笑みを浮かべ、挑発的に清隆を見つめ返した。
ただ起きていればいいだけ。そんな簡単なルールで、今の私が負けるはずがない。清隆がどれだけ激しく私を突こうと、快感を全身で受け止め、余裕の表情をしてみせる。
そうすれば、清隆は己の無力さを悟り、完全に私の足元にひれ伏すことになるのだ。
しかし、私のその底抜けの自信と驕りは、開始からわずか数分で、無惨にも打ち砕かれることとなる。
「……じゃあ、始めるぞ」
清隆はベッドの傍らに置いてあった自分の制服から、一本のネクタイを引き抜いた。
そして、無造作に私の両手首を掴むと、恐るべき腕力で私の両手を頭上へと引っ張り上げ、そのネクタイでベッドのヘッドボードの隙間ごと、私の手首をきつく縛り上げたのだ。
「えっ……ちょ、ちょっと! 何してるのよ!」
「拘束だ。動かれると、的確な『労い』ができないからな」
「こんなの聞いてない……っ!」
私が腕を振り解こうとしても、清隆が結んだネクタイの拘束はビクともしない。彼の指先の技術は、専門家のように完璧で、私が暴れれば暴れるほど関節が締まるような構造になっていた。
「そして、もう一つ」
清隆が次に手に取ったのは、黒のシルクのスカーフだった。
彼はそれを細く折りたたむと、身動きの取れない私の顔に被せ、後ろ手でしっかりと結んだ。
「……っ! ま、前が……!」
完全に視界を奪われた。
暗闇。
自分の手が頭上に固定され、目隠しをされた状態。
この絶対的な無防備さに、私の心の奥底で、かすかな、しかし確かな恐怖のサイレンが鳴り始めた。
「清隆……っ、目隠しなんて外してよ! 私、こういうのは好きじゃない……っ」
強がろうとする声が、自分でも分かるほど微かに震えていた。
視覚という最大の情報源を奪われたことで、次に清隆が何をしてくるのかが全く予測できない。
十月、私が主導権を握っていた時は、常に彼の表情と体の反応を見てコントロールしていた。しかし今は、私が完全に清隆の盤面上に縛り付けられている。
「ルールは『起きていられるかどうか』だ。過程に制限はないはずだぞ」
冷たく、平坦な声が、私の耳元で、いや、少し離れた足元の方から聞こえた気がした。
どこにいるのか。どこから触ってくるのか。
「ひっ……!」
不意に、私の右の太ももの内側を、熱く湿ったものが這い上がってきた。
清隆の舌だ。
普段なら、目で見て心の準備ができる。しかし暗闇の中で突然訪れた粘膜の感触は、私の脳髄に直接電撃を叩き込まれたかのような錯覚を引き起こした。
「あ……っ、んんっ……!」
なぞられる。舐め上げられる。
清隆は決して乱暴にはしない。むしろ、羽毛で撫でるかのように、遅く、執拗に、私の肌の表面の産毛を逆立てるように舌を這わせていく。
足首からふくらはぎ、膝の裏、そして太もも。
視覚が完全に遮断されているため、私の全神経は否応なく触覚へと極限まで集中させられてしまっていた。
「きよ、たかっ……そこ……っ」
「随分と敏感になっているな。まだ本番にも入っていないが」
清隆の手と舌が這うたびに、私の体が自分の意志とは無関係にビクッ、ビクッと情けなく痙攣を引き起こす。
清隆は私の急所である秘部には一切触れない。その周囲、下腹部や足の付け根、そして胸の谷間やアンダーバストのラインを、指先と舌先だけで緻密に、まるで精密機械の構造を解析するかのようにねっとりと愛撫し続けた。
「あっ、あぁっ……! 焦らさ、ないでっ……触って、清隆っ……!」
私は、自ら秘部への愛撫を懇願してしまっていた。
目隠しと拘束による焦燥感、そして極限まで高められた触覚が、私の理性を信じられないスピードで溶かしていく。
「お前がそう望むなら」
チュプッ、と。
唐突に、私の最も敏感な花弁の入り口に、清隆の熱い舌先が侵入した。
「あああああぁぁっ!!!」
防衛本能も、矜持も、すべてが吹き飛んだ。
予測不可能なタイミングでの、急所へのダイレクトな口撃。
「んぐっ……れろっ……ちゅぷっ」
清隆が巧みに舌を絡ませ、クリトリスを吸い上げ、弾くたびに、私の腰はベッドから大きく跳ね上がり、拘束された両腕がネクタイをギリギリと引きちぎらんばかりに暴れた。
「や、やぁっ! だめ、それっ、あああっ!!」
余裕など、一ミリもなかった。
清隆が自分の快感のために私を抱いているのではなく、私を崩壊させるためだけに最適化された、冷酷で完璧な技術。
開始からわずか十数分。私は頭を激しく振り乱し、よだれを垂らしながら、最初の強烈な絶頂を迎えた。
「あああぁぁぁーーーっ!! はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
全身の筋肉が硬直と弛緩を繰り返し、私はシーツの上で魚のように跳ねた。
一度目の絶頂。
普段なら、ここで清隆が私を抱きしめ、キスの雨を降らせてくれる。
しかし。
「……まだ一回目だ。夜は長いぞ、レイ」
耳元で囁かれたその声は、絶望の始まりを告げる死神の宣告だった。
「ひっ……! な、何……冷たっ!」
一度目の絶頂の余韻で全身が痺れている私の胸の先端に、唐突に、無機質で冷たい感触が押し当てられた。
そして、次の瞬間。
ブィィィィィィン……!!
「あ゛あ゛っ!? ひ、あああぁぁっ!!」
強烈な振動。
清隆が押し当てたのは、小型ローターだった。
それが今、私の柔らかな胸の頂の左右に、医療用のテープのようなものでしっかりと固定されてしまったのだ。
「き、清隆っ! 外してっ、これ、嫌ぁっ……!
さらに私の悲鳴を遮るように、最も敏感なクリトリスの上にも、三つ目の小型ローターが容赦なく固定された。
三カ所同時の、人間には絶対に不可能な高速振動。
私の脳の処理能力は、この時点で完全にショート寸前だった。手と舌による愛撫で極限まで敏感にされていた私の体は、機械の無慈悲な刺激に抗う術を一切持っていなかった。
「あ゛っ、あ゛ぁぁぁっ! むり、むりぃっ! い、いくぅっ!!」
二度目。
そして休む間もなく、三度目、四度目。
私はただローターを貼り付けられているだけで、絶頂の波状攻撃に晒され、拘束された腕を引きちぎらんばかりに体をのけぞらせた。
「ひぃっ、あひぃっ……! ゆるし、て……っ!」
「まだ寝るなよ。ルールを忘れたのか」
私の懇願を完全に無視し、清隆はさらに絶望を追加してきた。
取り出されたもう一つのアイテム。太く、うねるような突起がいくつもついた、凶悪なバイブレーター。
それが、ローターの振動で愛液をだらだらと垂れ流している私の最奥へと、ズブズブと根元まで容赦なく沈め込まれたのだ。
「あ゛ーーーーーッッ!!!!」
声にならない絶叫が、私の喉を切り裂いた。
外側からは三つのローター。内側からは、子宮口を直接ドリルで抉られるような、凶悪なバイブの振動。
「あ、がっ、あぁっ……!! きよ、たかぁっ! たすけっ、だずげでぇっ!!」
私は、もはや快感を受け止めることもできず、ただ拷問にかけられた囚人のようにガクガクと痙攣し、白目を剥いて泡を吹く寸前まで追い込まれていた。
五度、六度、七度。
絶頂のカウントなど、とうに分からなくなっていた。
ただ、下腹部から脳天に突き抜ける落雷のような快感が、永遠に途切れることなく私を打ち据え続ける。
「あ……あひ……っ、あ……」
八度、九度。
もはや涙と涎で顔はぐしゃぐしゃになり、シーツは私の愛液で水溜まりのように濡れそぼっていた。
プライドは、塵一つ残さず消え去っていた。ただ、この機械の振動から逃れたい、許してほしいという動物的な逃避本能だけが残されている。
そして、十回目。
内側と外側からの振動のレベルが、一気に「最大」に引き上げられた瞬間。
「あ゛ッ――――!!!!」
私の体は、弓なりに跳ね上がったまま空中で数秒間硬直した。
網膜の裏で真っ白な光が爆発し、私はついに、脳の保護機能が働いて、フッと意識の糸を手放したのだった。
「…………っ」
どれくらいの時間、気を失っていたのだろうか。
ふと、私の意識を引き戻したのは、下半身から這い上がってくる、経験したことのない異物感だった。
(……え?)
目隠しはされたまま。両手も拘束されている。
前には、まだバイブレーターが挿入されたままで、かすかに振動を続けている。
しかし、私を現実の世界へと引きずり戻したのは、前の快感ではなかった。
冷たい、ガラス玉のような硬い何かが。
私の最も無防備で、不浄で、これまでの人生で一度も何かに侵入されたことのない後ろの穴へと、無理やり押し込まれる感触だった。
「ひっ……!?」
ズクリ、と。
ローションで滑りを良くされているとはいえ、未知の場所への異物の侵入。
それは、十月に私が清隆の「前立腺」を指で攻め立てたあの『最終手段』に対する、清隆からの冷酷極まりない意趣返しだった。
「目が覚めたか」
清隆の氷のような声が、上から降ってきた。
「き、清隆……っ!? なに、なにこれっ! 嘘、だめ、後ろはだめぇっ!!」
私は恐怖でパニックになり、頭上で拘束されているネクタイを狂ったように引っ張った。
ガタガタとヘッドボードが揺れる。手首の皮が擦り剥けるほどに腕を揺らしたが、彼の結んだ拘束は全くほどける気配がない。
「っ、ああっ! お願いっ! 解いて、清隆っ!!」
「十月、お前は俺の静止を聞かずに指を入れたな。あれは効果的だった。……だから、お前にも味わせてやろうと思ってな」
ズブッ。
清隆の手によって、二つ目の玉が、私の奥深くへと押し込まれた。
「あ゛あ゛あぁぁっ!!!」
前のバイブの振動と、後ろに沈み込んでいく冷たい数珠状の異物。
私の子宮と腸壁が、内側から完全に蹂躙され、物理的に破壊されていくような錯覚。
「ごめんなさいっ! ごめんなさい清隆っ!!」
私はついに、心の底からの降伏の言葉を叫んでいた。
孤高な美少女の仮面も、優越感も、勝者の余裕も、すべてが打ち砕かれた。私はただの無力で、惨めな、彼に弄ばれるためだけの肉袋だった。
「私、負けた! 負けましたっ! 私が調子に乗ってましたぁっ!」
「……」
「十月のも私の負け! 清隆が一番! だから、だからもう許してぇっ!!」
涙と鼻水で顔をドロドロにしながら、私は必死に清隆に命乞いをした。
『まいった』と言えば、彼が止めてくれると信じて。
しかし。
「……何を勘違いしている」
私の顔のすぐ横で、彼の冷酷な吐息が触れた。
「ゲームのルールは『満足させるか、まいったと言わせる』ことじゃない。『最後まで起きていられたら、お前の勝ち』だけだ」
「え……っ」
「意識の喪失は『敗北』の合図であって、『終了』の合図ではない」
絶望の宣告。
清隆は、私が「負け」を認めたからといって、この拷問を終わらせる気など最初から一ミリもなかったのだ。
「レイ。勝敗を決めるのはお前だが、終わりを決めるのは俺と朝だ」
ズチュッ、ズブッ。
三つ目、四つ目のパールが、私の悲鳴を無視して、次々と深淵へと押し込まれていく。
「いやぁぁっ! 許して、やめてぇぇぇっ!!」
(この男は、悪魔だ。私のプライドも、身体も、すべてを徹底的に破壊し尽くすつもりなんだ……!)
壁の時計の音が、微かに聞こえる。時刻はおそらく、深夜の二時か三時。
外は完全に闇に包まれている。
「さて。十分にお前の体をほぐすことはできた。そろそろ、次のコースへと移ろうか」
清隆の冷たい声が響いた直後。
彼は、私の前に挿入されていたバイブレーターと、後ろに沈み込ませたアナルパールの紐を、両手で同時にしっかりと握りしめた。
「あっ……まさか……っ、待っ」
「歯を食いしばれ」
次の瞬間。
ズボォォォォォッッ!!!!
私の内側の最もデリケートな粘膜を擦り上げながら、凶悪な振動を放つバイブレーターと、連なった複数のアナルパールが、清隆の手によって一気に、暴力的なスピードで引き抜かれた。
「あ゛――――――――――ッッ!!!!!!」
神経が直接引き千切られるような、絶望的な快感と衝撃。
私の体はベッドの上でエビのように大きく跳ね上がり、声帯が引き裂かれんばかりの絶叫が、深夜の密室に虚しく響き渡った。
そして、この想像を絶する恐怖と屈服の地獄は、まだほんの準備体操に過ぎなかったのである。
バイブレーターとアナルパールが同時に引き抜かれた絶望的な痛覚と快感の濁流に、私の意識は一度完全に真っ白に吹き飛んだ。
しかし、安らかな気絶など、この男が許してくれるはずもなかった。
「……目隠しは、外してやろう。俺の顔をしっかり見ていろ」
頭上で拘束されていた私の両腕。そのネクタイがスッと解かれ、顔を覆っていたスカーフが乱暴に剥ぎ取られた。
急に視界に飛び込んできた薄暗い部屋の天井と、そして、私の上に完全に馬乗りになっている清隆の姿。
「あ、がっ……はぁっ、はぁっ……!」
拘束が解かれた両腕は、痺れて全く力が入らない。逃げ出すことなど到底不可能だった。
「ここからは、俺自身の体で『労って』やる」
清隆は私の両手首を片手でまとめて頭上に押し付けると、もう片方の手で私の両脚を大きく開かせた。
最も無防備で、最も逃げ場のない、正常位の体勢。
そして清隆は、極限まで開発され、ドロドロに溶かされた私の最奥へと、己の凶悪な質量を一切の躊躇いなく、根元まで一気に叩き込んだ。
「あ゛ッ――――!!??」
声にならない悲鳴が喉を切り裂く。
おもちゃの振動とは違う。圧倒的な熱量と、鋼鉄のような硬さ。そして、私の内側の粘膜の形状を完全に計算し尽くしたかのような、完璧な角度での侵入。
それが、容赦のない暴力的なストロークで打ち込まれ始めた。
パンッ! パァンッ!! ズチュッ!!
「ひっ、あひぃっ! むり、むりぃっ! きよたかっ、だめぇっ!!」
清隆が打ち込んでくるたびに、私の体はベッドの上で跳ね上がり、脳髄が直接揺さぶられるような強烈な快感が全身を駆け巡る。
「あ゛っ、あ゛ぁぁぁっ! いく、いくぅっ!!」
挿入からわずか数十秒。
私はすでに何十回目か分からない絶頂を迎え、子宮がひっくり返るほどの激しい痙攣を引き起こした。
しかし、清隆はピストンを止めるどころか、さらに速度と重さを増していく。
「あ……がっ、あ……ッ」
私は白目を剥き、口からよだれを垂らし流しながら、完全に意識を飛ばした。
視界が暗転し、脳がショートする。
だが。
ドゴォッ!!
「あ゛あ゛あぁぁぁっっ!!??」
数秒のブラックアウトの直後、子宮の最奥、最も深く敏感な場所を容赦なく打ち据えられる強烈な物理的衝撃によって、私は無理やり現実へと引きずり戻された。
目を開けると、そこには汗一つかかず、息すら乱していない、氷のように無表情な清隆の顔があった。
「起きろ。勝負はまだ終わっていない」
「やめっ、あ……ひっ、ゆるしてぇっ!!」
意識が戻った瞬間に、再び快感が強制的に叩き込まれる。
そしてそのまま、私はまたしても絶頂の波に呑み込まれ、再び意識を失う。
ブラックアウト。
ドゴォッ!!
強制覚醒。悲鳴。絶頂。ブラックアウト。
この地獄のループが、永遠とも思える時間、繰り返された。
「いくぞ」
清隆の低い声が響いた直後、私の最も深い場所に、彼自身の熱く濃密な精液が勢いよく放たれた。
一度目。
私の胎内が彼の熱で満たされる感覚に、私は声を枯らして泣き叫んだ。
しかし、清隆は引き抜くことなく、そのままの硬さで再び腰を振り始める。
「嘘……でしょ……っ、あ……ぁぁっ!」
「まだ一回だ。夜明けまで、時間はたっぷりあるぞ」
二度目。三度目。四度目。
清隆が射精を迎えるたびに、私の体はその何倍もの回数の絶頂を強制され続けた。
私のプライドは、完全に粉砕されていた。
私はただ、清隆の下で快楽を受け止めるだけの肉の器。
「負けました」「清隆様の言う通りにします」「どうか許してください」「こわさないでぇっ」
自分が口走っている言葉の意味すら分からないまま、私はひたすらに命乞いと愛の言葉を叫び続け、気絶と覚醒の拷問を受け続けた。
「…………、……っ」
どれほどの時間が経過したのか。
五度目、あるいは六度目かもしれない彼の熱い放出を胎内に受け止めた後、ようやく、無慈悲なピストンが完全に停止した。
ズチュリ、と。
私の中から彼の質量が引き抜かれる音が、ひどく遠くに聞こえた。
「あ……あ……、ひっ……、あ……」
私の体は、もはや自分の意志で動かすことはおろか、言葉を発することすらできなかった。
仰向けのまま、両腕はだらりと投げ出され、大きく開かれた両脚は閉じられない。
全身の筋肉が重すぎる疲労の沼に沈み、過剰な快感によって神経が焼き切れたかのように、ただピクピク、ビクンッ、と不規則な痙攣を繰り返すことしかできなかった。
重い瞼をわずかに開けると、窓の外から、眩しい朝日が部屋に差し込んでいるのが見えた。
(……あ、さ……?)
学校に行く時間だというのに、外の世界がどうなっているのかすら、私の脳は正しく認識できない。
シーツは私の愛液と清隆の精液、そして汗と涙で完全に水溜まりのようになっており、凄惨な事件現場のような有様だった。
「……終わったぞ、レイ」
ベッドの傍らに立った清隆が、私を見下ろして言った。
私はピクピクと痙攣しながら、焦点の合わない目で彼を見た。
清隆はあれほど激しく私を蹂躙し、五回以上も果てたというのに、足元は微塵もふらついておらず、呼吸すら完全に正常に戻っていた。
清隆は手元のタオルで自らの体を拭きながら、冷たく、しかし絶対的な支配者の響きを帯びた声で、私に告げた。
「先月は不覚を取ったが……力関係は、これで明白だな」
「あ……、ぁ……」
私の喉からは、かすれた空気の漏れる音しか出なかった。
十一月の間、私が調子に乗って清隆をからかい、優越感に浸っていたことが、いかに身の程知らずで愚かな行為だったか。
清隆が本気を出せば、私は文字通り壊される。
圧倒的な実力差。逆らうことなど不可能にも思えた。
「お前は今日は学校に行ける状態じゃないな。休ませておく」
清隆はそう言うと、机の上に置いてあった私の端末を手に取った。清隆は慣れた手つきで私の端末を操作し、学校のシステムにアクセスしているようだった。
「無断欠席はペナルティになる。お前のプライベートポイントを払って、体調不良による公休扱いにしておいた」
「…………」
半分意識が飛びかけたままの覚醒状態で、私は清隆が事務的に欠席連絡を済ませるのを聞いていた。
私の端末を机に戻すと、清隆はさっさとシャワールームへと向かい、手早く身支度を始めた。
水音が止み、制服に身を包んだ清隆が、再び部屋に姿を現す。
完璧に着こなされた制服。一切の乱れがないその姿は、いつも教室で見る「目立たない、普通の男子生徒」の仮面そのものだった。
「冷蔵庫にスポーツドリンクがある。動けるようになったら飲んでおけ。……じゃあ、行ってくる」
清隆はベッドの上でピクピクと痙攣を続ける私に一瞥をくれると、鞄を手に取り、部屋のドアへと向かった。
ガチャリ、バタン。
静かにドアが閉まり、オートロックの施錠音が冷たく響く。
清隆が余裕の足取りで学校へと向かった後も、私はベッドの上で指一本動かすことができず、ただ虚空を見つめたまま、ピクリとも動かない肉の塊と化して放置されていた。
――午後一時。
昼休みが終わる頃になって、私はようやく、自分の体を自分の意志でわずかに動かせる程度にまで意識を回復させた。
「つっ……いたぁ……っ」
体を起こそうとした瞬間、全身の筋肉、特に下半身から腰にかけて、これまでに経験したことのないような激痛と鉛のような重さが襲いかかってきた。
シーツの惨状を見下ろし、昨晩から今朝にかけて行われた地獄の記憶が、鮮明に脳裏に蘇ってくる。
「……清隆、本当にバケモノね……」
枯れ果てた喉から、かすれた声が漏れる。
私は這うようにしてベッドから降り、清隆の言った通り冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出して、一気に喉に流し込んだ。
冷たい液体が胃に落ちていく感覚で、ようやく自分が生きていることを実感できた。
(……一度勝ったかと思えば、倍どころじゃないレベルで、やり返されるとはね)
私は部屋の壁にもたれかかり、自嘲気味に笑った。
十一月中、清隆を屈服させたと信じ込み、すっかり浮かれて女王様気取りでいた自分が、今となっては恥ずかしくてたまらない。
本気になった清隆は、昼の学校という盤面だけでなく、夜のベッドにおいても絶対に底を見せない深淵そのものだった。私が必死に磨き上げたテクニックなど、清隆がその気になれば、強引な暴力と圧倒的なスタミナの前にいとも容易く蹂躙されてしまう。
力関係は明白だ。
「……はぁ。完全に、調子に乗ってたわね、私」
大きく息を吐き出すと、十一月の間ずっと私を包んでいたあの浮かれた傲慢な気持ちが、ようやくスーッと潮が引くように消え去り、冷静な私へと戻っていくのを感じた。
壁にもたれかかりながら、自分の下腹部に手を当てる。
まだ痛みが残る秘部の奥底が、彼の激しい蹂躙の記憶を反芻し、きゅうん、と甘く疼いたのを感じた。
(あれだけ無茶苦茶にされて、プライドもズタズタにされたっていうのに……)
脳が完全に焼き切れるほどの快感。自分の意志など一切介在する余地のない、圧倒的な暴力と支配。あそこまで肉体を粉々にされ、快楽の濁流に溺れ尽くしたことは、これまでの私の人生で一度もなかった。
「……悔しいけど」
私は、誰もいない部屋で一人、ぽつりと呟いた。
顔は赤く火照り、体は間違いなく、清隆に完全に支配されている。彼の与える快楽なしでは満足できない体に作り変えられてしまったことは、認めざるを得ない。
「あんなに頭がおかしくなるくらい快感に溺れ尽くすのも……たまになら、またやって欲しいかも……なんて」
恐怖と屈服、そして甘い依存。
――しかし。
パァンッ!
私は両手で、自分の赤く火照った両頬を力強く叩いた。
「……っ、何、弱気になってるのよ、私!」
ジンジンと痛む頬が、私の強い心を強引に叩き起こす。
確かに、体は清隆に完全に支配された。彼との実力差と、逆らえないという恐怖は骨の髄まで刻み込まれた。
けれど、私の心までは、まだ完全に折れてなどいない。
(ふざけないで。私がこのまま、おとなしく飼い慣らされるだけのペットになるわけないじゃない)
負けず嫌いな本性が、再び胸の奥底でチリチリと燃え上がり始める。
今回、私は完全に敗北した。それは事実だ。
でも、だからといって清隆への挑戦を諦める理由にはならない。清隆がどれほど強大で、今回のように倍返し、たとえ、十倍返しでやり返されようとも。
「いいわ、清隆。私の体はあなたの好きにしていい。でも……主導権を完全にあなたに渡すつもりはないわよ」
私の目は、もはや敗北者のそれではなく、次なる盤面を見据える挑戦者の光を取り戻していた。
清隆に対抗する手段はまだ他にもあるはずだ。今度は私が彼の予想をさらに上回る罠を仕掛け、再びあのポーカーフェイスを歪ませてやる。
たとえその結果、また今日のように徹底的に快楽の地獄に落とされることになったとしても。
私は痛む体を引きずりながら、不敵な笑みを浮かべた。
秋の陽射しが傾き始めた密室で。
私は、次なる戦いに向けて、再び清隆の匂いが染み付いたベッドへと潜り込んだのだった。