※この作品はR-18です。

【可哀想】じゃなきゃ抜けない!   作:BIBI

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第15話 王族の兄弟は不仲らしい!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 新入生は千人を超えるものの、〈武闘祭〉出場の権利を持つ一部。実力が上位だと判断された50名のみ。

 

 

 

「エルゼ、出場するらしいね~。いや良かった~。エルゼがいない剣武祭なんて、何も面白くないもん」

 

 

 

「何が良かった(・・・・)よ。エルゼの前でそんな軽い感じで話し掛けたら駄目だからね?」

 

 

「流石に面と向かって言うほど、デリカシーを()いた人間じゃないよ……」

 

 

 伯爵家以上の貴族のみ利用できる控え室。そこでは出場の準備に取り掛かっている女子生徒達が会話をしていた。

 

 

「ホントに強い人ですね……。今後〈穢れ者〉として扱われる事を考えると……、私なら……」

 

 

 見るからに大人しくて真面目そうな子も、女子二人の会話に混ざる。

 

 

「よりにもよって、兄の子供を産むなんて……。いや、勿論モンスターの子供を産むよりはマシなんだけどね……」

 

 

 

「驚いたよね、今どき近親婚だよ、近親婚。しかも公爵家のお嬢様が。こういうのって150年振りらしいね」

 

 

 

「エルゼのお兄さんって、噂だと今日出場するらしいけど……、どんな人だろ」

 

 

「気になるわよね。ウチの兄は剣術が上手くて勝てた試しがないって、愚痴なのか、自慢なのか、よく話していたし」

 

 

 

「私達、エルゼに勝てた事ないし……、ていうか、エルゼに純粋な剣術で勝つって騎士団長でも無理なのに……。想像つかないなぁ。どんな人なんだろ」

 

 

 

「何度か屋敷に招かれた事もあるけど、いつも不在だったからね……。噂だと学院も殆ど出席してないっぽいし、留年ギリギリって噂もあるくらい。謎めいているわ」

 

 

 

「もしかして武闘祭の免除制度が目当てなんじゃない? 上位5名に入れば出席日数やら試験を大幅に免除してもらえるからね」

 

 

 

「もしくは、ライザー家が落ちぶれていない事を証明しようとしているとか……? トーナメントで準決勝くらいまで勝ち残れば、誰もが才能を認めますからね。何より、妹のエルゼちゃんの名誉も取り戻せるでしょうし」

 

 

 

「いやいや……。剣術だけじゃ流石に無理でしょ……。準決勝って三級の実力は必要な訳だし……。エルゼも言ってたじゃん、自分と違って兄は弱いって」

 

 

 

「あの……、これは確かな情報筋から得たものですが、どうやらエルゼさんの兄は黒ゴブリンを単独で撃破しているらしく……」

 

 

 

「黒ゴブリンを単独撃破って……。それ二級の実力があるって事じゃない? 流石に信じられないんだけど……」

 

 

 

「でも実際にお兄さんがエルゼちゃんを助け出したみたいですし、有り得る話ですよ」

 

 

 こうして数十分もの間、控え室では女子生徒達がエルゼの話で持ち切りだった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 闘技場の地下には、控え室を含め様々な設備が作られていた。

 

 

「…………」

 

 

 アランは暗い顔でトボトボと歩く。通路は人通りが多く、クスクスと笑う声や、チラチラとした視線を浴びていた。

 

 

 

 その理由は当然――。

 

 

「エルゼの件は災難だったな……」

 

 

 少し長い赤い髪を真ん中分けしたチャラい男――アラスター。彼は不敵な笑みを浮かべて、ズボンの衣嚢に手を突っ込み立ち止まる。

 

 

 

「…………兄さん、笑うのは少し違うんじゃないか?」

 

 

 アランは少し不満げに視線を少し上に向けた。彼が小柄という事もあるが、一つ年上の兄であるアラスターの背が高いのだ。

 

 

 

「アラン怒ると面倒臭いんだから、笑うなって」

 

 

 取り巻きの男――トミーは、ニヤニヤとアランを小馬鹿にした態度を取りつつ、アラスターの態度を咎める。

 

 

 

 勿論本気で咎めている訳じゃない。片方が喧嘩を売り、もう片方が仲裁する体を取りつつ嘲笑する。

 

 

 そういう(やから)にありがちな、テンプレート的な立ち回りに過ぎない。

 

 

 

「そいや、アラン。今年はお前も武闘祭に出るんだっけか? 別に構いはしないが、今年も優勝するのは俺だ。幾ら努力しようと、真の天才には敵わない。あまり自分に都合の良い夢を見んなよ?」

 

 

 

 戦う意思がある事は一応、アラスターは尊重しているつもりだった。ただ態度が悪くてそれが伝わる事はなさそうではある。

 

 

 

「…………勝敗はやって見なければ分からないよ」

 

 

 アランは静かに闘志を燃やしている。その瞳は諦めは浮かんでおらず、トミーは少し意外そうな顔をしていた。

 

 

 

「今から楽しみだ。お前が才能の差を痛感し、地べたに転がる無様な姿が目に浮かぶ。精々(せいぜい)負け方には気を付けろ。魔導師の女にとって男の価値は――腕っぷしだ。魔力に秀でた女ほど、圧倒的な力を持つ男に惹かれ、弱い男に魅力を感じなくなる。王族とはいえ、会場でみっともない姿を晒すと貰い手が無くなるぞ」

 

 

 

 笑みを浮かべ、弟だろうと容赦なく見下すアラスター。彼は実際、戦えば相手に(いく)ら恥を掻かせても良いと思っている節がある。

 

 

 前回の戦いでも、あえて時間を掛けて、相手の生徒を痛めつけていた。

 

 

 ――簡単に勝てる相手でさえ、容赦なく痛めつける態度は、王家の評判を下げる。

 

 

 

 父親には散々説教をされたはずだが、今回も似たような事はするだろうと、アランは予想している。

 

 

「性格悪いなぁ」

 

 

「好きなんだよ、才能の差に絶望する連中の顔がな。今年も圧倒的な勝利で、天才と凡人の差を会場の連中に知らしめてやる」

 

 

 

 クスクスと笑うトミーに、アラスターは悪びれる事なく本音を言った。

 

 

「今年はあの落ちこぼれも来るらしいからな。一応はアイツも公爵家だし、倒せば箔が付くだろうぜ」

 

 

 

「わざわざ俺の引き立て役になってくれるなんて、ライザー家には頭が上がらないな。ははは」

 

 

 そう言ってトミーとアラスターはアランと反対の方向に歩いて行く。その背中を数秒見つめ、「…………」アランは歩みを再開した。

 

 

 

 あんな人間にならなくてよかった。僕とは血が繋がりを感じない程に、ゲスな人間だ。そう頭では思っているのだけど……。

 

 

 

 まだ僕は家族に固執し過ぎているのかも知れない。クソみたいな連中だと分かりながらも、兄さん達に認められたいと思ってしまう。

 

 

 

 同じ家族なのに……、僕だけが仲間外れな感じが、何か嫌なんだ。

 

 

 関わっても得も何もない連中だと頭で理解していても、仲間外れにされると、何か孤独で虚しくなってしまう。

 

 

 

『エルゼの件は災難だったな……』

 

 

 先程、アラスターの言っていた言葉。それを思い出し、アランは少し目を伏せる。

 

 

 エルゼを心配している気持ちもある。だけどエルゼの所為で僕まで恥を掻いてしまう事に、ある種の理不尽を感じてしまう……。

 

 

 

 何で僕がこんな目に……。ついそう思ってしまう自分が嫌だ。

 

 

 

『お前が出来損ないの所為で、私がどれだけ恥を掻いているか分かっているのか?』

 

 

 昔、父に言われた言葉。

 

 

 あの時の僕は……、父さんに冷たい人だと思った。身内を恥として扱う様な人間になりたくないと思って生きていた。

 

 

 

 でも――。

 

 

 今は、少し気持ちが分かってしまう。こんな気持ちだったんだな……、他人の所為で自分まで恥を掻いてしまうっていうのは。

 

 

 

 エルゼは何も悪くないと分かってる。婚約者の僕を身を(てい)して庇ってくれた事にも感謝している。

 

 

 

 それでも……、エルゼの所為で僕まで馬鹿にされてしまうなんて……。最初から、あの子と婚約なんてするんじゃなかったな……。

 

 

 そう思わずにはいられない。

 

 

「……結果を残さないと」

 

 

 武闘祭はハイリスクハイリターン。恥を沢山掻く人もいる一方で、名誉を勝ち取る人もいる。

 

 

 もう僕に失うものはない……。優勝した名誉で恥を拭いさればいい……。

 

 

 エルゼには同情もあるし、元婚約者として心配や傷心もある。だからこそアランはエルゼに罪悪感を抱いてしまう。

 

 

 

 エルゼは何も悪くない……。悪くないのは分かってるけど……、僕はどうやら恥が気にならない様な馬鹿になれないらしい。

 

 

 

 アランはエルゼに愛情があった。今も多少は愛情を持ち続けている。それでも彼は根本的に野心家であり、己の名誉を気にする性格。

 

 

 他人の目が気にならないと、自分に言い聞かせる事はできなかった。

 

 

「…………」

 

 

 アランは首に掛けたペンダントを持って開くと、そこにはエルゼの写真が入っていた。

 

 

 エルゼ。キスすらした事なかったのに……。こんな事なら、さっさと押し倒して、僕の子を産ませるべきだったか。

 

 

 

 僕が誠実に向か会おうと、先送りにしたばかりに、こんな事に……。

 

 

 兄と結婚してしまったらしいけど……、まだ間に合うかな。きっとまだエルゼは僕に好意を持ってくれてるはず。

 

 

 僕が誘えば一回くらいは、抱かせてくれそうではある。

 

 

 

 強引にはなるかも知れないけど、やっぱり彼女には僕の子を産んで欲しい。きっと僕なら実の兄なんかより、彼女を幸せにできる。

 

 

 

 王族の立場として、妻と公表はできないけど、エルゼも僕と一緒に居たいと言ってくれるはずだ。

 

 

 アランは会場の通路を歩きながら、エルゼと交わり幸せな家庭を作る事を夢見ていた。

 

 

 エルゼは容姿端麗で胸も大きく、男の情欲を(そそ)るのだろう。多少穢れてしまったとしても男なら抱きたいと思ってしまうのが自然。

 

 

 

 誠実にエルゼと向かい合おうとしているアランでさえ例外ではないらしい。彼はまだエルゼという元婚約者に、決して簡単には断ち切れない未練がある様だった。

 

 

 

 まだ若いというのも理由の一つだろう。婚約する気もなく、関りがある事さえ、恥なので公表したくもない。それがどれだけ不誠実な事か、彼はまだ自覚していなかった。

 

 

 

 





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