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「――妊娠効果という奴か? 妊娠を通して、著しく強くなる者は稀にいるからな……」
会場でエルゼとは別の生徒が戦っているのを眺めながら、オーガストは口を開く。
「……これはそんな次元の話じゃないわ。あくまで妊娠効果は潜在能力を引き出すと言うだけ。只人の限界を超える様な力は手に入らない」
冷静にヴァンダは否定する。彼女が知る限り、只人が妊娠を通して亜人の上澄みに届く魔力密度を得られた事はない、歴史上一度も。
そんな事はオーガストも当然理解している訳で「妊娠効果が違うとなると……」考えを巡らせるが、続く言葉はなかった。
数秒の沈黙で会場の盛り上がりの声だけが寂しく響く。
「――多分、エルゼさんは亜人ですねぇ」
確信を得た声で、ローレが一言呟く。彼女は至って何気なく言っただけだが――。
「「――――ッ⁉」」
オーガストとヴァンダ、そして近くで佇むイレインも驚いた顔をする。アデーレは「…………」ローレと同じ結論の様で、普段通り仏頂面のまま変化はない。
「言いたい事は分からないでもない。だが恐らくエルゼは正真正銘の只人だ。私は幼い頃から彼女を見てきた。エルゼが先祖返りした獣人で、耳や尻尾を斬り落としている訳でもないはずだ」
「最近の闇ギルドは亜人を量産していると聞くけど、エルゼも何かしら実験を受けた可能性があるわね」
オーガストが自信なさげに否定し、ヴァンダは可能性の一つを提示する。
「稀に只人の見た目を維持した亜人が存在するらしいですよ。特にイントラーダっていう闇ギルドが研究に力を入れているとか……。かなり腕利きの情報屋から得たので、間違いないかと」
ジュードを思い出し、ローレは情報を共有する。
「…………⁉ そ、そんな馬鹿な……!」
ありないと否定しつつも、嘘を吐くとは思えない、そんな気持ちが混在しオーガストは困惑の表情浮かべる。
対しヴァンダは――。
「……まぁ考えてみれば、有り得なくはない話よね。見た目が只人と同じなら、只人だと判断するでしょうし、周りからは亜人かどうか確かめる術がないもの」
意外と薄い反応だった。というか腑に落ちたという感じだ。ヴァンダは手を顎に当て少し思案している様子で、会場を見る。その視線の先は、フィル=ニールに向かっていた。
視線に気づいたフィルは気まずそうに目を逸らすと、ヴァンダは少し笑う。
「妊娠効果で無理やり、亜人としての潜在能力を引き出すなんて……。少し体を調べたい所ですね……。何か分かるかも……」
悪そうな笑顔を浮かべて、指をパキパキと鳴らすローレ。それに思わず「エルゼは公爵家だ。体を調べさせてくれと頼んでも無理だ。諦めてくれ」オーガストは焦り気味に突っ込みを入れる。
「冗談ですって。いや、ホントホント」
手をパタパタさせて、「マジにしないでくださいよ、ははは」とローレは笑う。しかし「「…………」」その場の4人は、疑いの目で彼女を見て全く信用して無さそうだった。
周囲から全く信用されず、怪訝な視線を向けられるが、ローレは気にした様子もなく会場に視線を移し、ボソリと呟く。
「只人にしか見えない亜人は――魔人と呼ばれているらしいっス」
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観客席。盛り上がる会場の中――。
『お前は世界で唯一の――魔人だ』
フィルは過去に研究者から言われたことを思い出す。
……エルゼ=ライザーは、俺と同じ様に実験で作られた魔人なのか? それとも先祖返りした、生まれながらの魔人……?
聞いても素直に教えてくれると思えないし、そもそも話し掛ける事が不敬かもな。相手は公爵家で、恐らくこれから最も権力を握る立場となる。
――基本的に貴族には、弱者の声は届かない。
俺も騎士団に入り、近しい権力を得てからでないと密な会話はできそうにない。
とりあえず軽く本戦で優勝するか……。確実にエルゼも本戦で優勝する。男女ともに本戦優勝が新入生なら、話す機会も自然と作れるかも知れないからな……。
もしもエルゼに近づくことができないなら、素直に騎士団に入って俺が騎士団長になればいい。それなりに権力も手に入るだろう。ライザー家に肩入れすれば、悪い様にされないはず……。