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闘技場の地下。数多くの名画が飾られた高級感ある一室。モニターを眺めながら、金髪の男――レイは椅子に座り、片手に書類を眺めている。
深い赤の軍服には黄金に輝くバッジが付けられており、それは彼が団長である事を示している。
「団長。フィル=ニールという子は、明らかに二級の実力はありましたよ。彼は騎士団に志願しているらしいですし、もしかして立場が危ういんじゃないですか?」
モニターを眺めながら、茶髪で軽薄そうな男――バーニー。彼は煙草を吸いながら冗談めかして笑い、隣に目を向けた。
「ははは。そうだな。俺が倒された時は、素直に騎士団長の座を譲るとしよう。ただ、子供に政治は任せられないし、強いだけでは貴族や王族と信頼関係は築けない。当然、私が補佐する形にはなるだろうが」
珈琲を飲みながら、レイは不敵に笑う。その言動は堂々としており、大人の余裕を感じさせる。少し童顔っぽいが端正な顔立ちという事もあり、妙な色気がある。
「お……。意外と気にしてないんですね。昔は出世に固執してギラギラしていたのに、今はもう大人になってしまった感じですか」
昔馴染みのバーニーは揶揄う様にニヤついていた。三つ年下の後輩だが、彼は遠慮なく上官と接する馴れ馴れしい性格。だが、レイも彼を悪く思っていない様子。
「……大人か。いやそうでもないさ。ただ、俺が変わったのではなく、時代が変わったのだよ。君だって最近の闇ギルドが脅威だと知っているだろう? 身内を敵視していられるほど今は平和な時代じゃないからな。強い奴は大歓迎だ。今は一人でも多く、強者を集めなければならない」
かつてレイは前のめりになって自分が上に立ち、国を主導する事を望んでいた。王族を差し置いて国の実権を握り、より良い未来を築きたかった。
今のその野望は消えていない。しかし、そんな遠い未来の話に現を抜かす状況ではないのも事実。
昔なら騎士団に強者が現れたら敵視する面もあったが、今は頼り甲斐のある人材として見てしまう。
「そうですね……。いや、その通りです、団長」
バーニーはいつもの軽薄な態度が消え、真剣な表情になっていた。彼もまた帝国の脅威について知っており、事態の深刻さに苦慮している一人。
「――特に〈イントラーダ〉や〈ガルム〉の輩は、非道な実験を繰り返し、強大な力を得ていますね。既に相当な手駒を揃えているとか」
テーブルを挟んで二人とは反対の席に、黒髪の男性がいた。修道服に身を包む長身のエルフ。
彼は教会の長――教皇。ディック=ロジャーといい、世界的に有名な人物の一人。ヴァンダと近い歳だが不老という訳ではない。
少しずつ着実に歳は取っており、顔にはそれなりに年季を感じる。只人でいえば中年男性くらいの見た目だろうか。
因みに彼は今日、ヴァンダと同じく会談を主たる目的としてここに赴いた……――、という事になっている。
実際には別の目的があるのだが、それをレイやバーニーが知る由もない。
「……えぇ。その情報は我々も掴んだところです」
モンスター化の実験。これにより亜人を量産している事実は、教皇を知っていた。というか知り過ぎているくらいだった。何せ彼は――……。
「私も教皇として協力は惜しみません。必ず悪しき者達から、国民を守り抜きましょう」
「感謝します、教皇。我々も全力でことに当たってはおりますが、奴らは長らく国の目を搔い潜り、研究を進めていた連中です。戦力的に脅威なのは勿論のことですが、情報の隠蔽が最も厄介で……、我々も尻尾を掴むのが精々ですよ」
「奴等は多くの研究を進めているようですし、人材も多く欲している。加えて機材や魔石を大量に調達してきた。それでも足が付かないのは、商会の者に協力者がいるという事。ですがギルドや商会を片っ端から洗う訳にもいきませんし……。困った話ですねぇ」
「えぇ全く……」
ディックは困り果てたというように困った顔で微笑し、肩を竦めるレイ。
『また一撃で撃破だと――――ッ⁉ そりゃそうだ‼ 魔力の密度が違い過ぎる‼ これは流石に実況泣かせすぎる‼ 解説する暇すらねぇんだぜ⁉ というか‼ どう考えてもエルゼが優勝するだろ‼ 誰がどう見てもなぁ⁉』
エタンの声が響く。モニターには綺麗なエルゼの顔が映し出されていた。圧倒的な魔力密度と、可憐な容姿。
それに加えて剣を使わず拳一つで殴り倒す野蛮な振る舞い。生物としての格の違いを見せつける彼女は、数多くの観客の心を鷲掴んでいた。
「…………」
何気なくディックは視線をモニターの方へと向けた。
それにしてもエルゼという少女……、アレは明らかに魔人……。まさかガルムか……? 彼等ならやりかねない……。
平民ならいざ知らず、公爵家の子を実験道具に選ぶなんて、如何にも彼等のやりそうな事だ……。
だとすると、彼等は強大な戦闘能力に加えて、我ら〈イントラーダ〉と同等の知識と技術を持つとうこと……。
いやはや、度し難い……。これほどの屈辱は久方ぶりだ。
まさか魔導の先駆者を目的とする我らに追い付くなど……――。